Noism0+Noism1『めまい ― 死者の中から』活動支援会員向け公開リハーサルを観て来ました♪

大型連休入りの4月26日(土)の新潟市は実際の気温以上に陽射しが強く感じられた一日。そのお昼どき(12:30~13:30)、りゅーとぴあ〈スタジオB〉を会場に実施された「Noism Company Niigata 黒部シアター2025春 『めまい - 死者の中から』活動支援会員向け公開リハーサル」を観て来ました。

スタジオBに入る際、スタッフの上杉晴香さんから「予定を変更して、今日は通し稽古をご覧頂きます」の言葉があり、(衣裳はほぼ帽子とウィッグのみでしたが、)正味1時間、まるまる一作品をじっくり堪能させて頂きました。

ここでは先ず、昨年(「SCOT SUMMER SEASON 2024」)の『めまい』に関するブログ記事へのリンクを貼っておきます。よろしければご覧ください。
 ・活動支援会員向け公開リハーサル(2024/08/11)
 ・新戸賀山房での公演初日(2024/08/24)
 ・新戸賀山房での公演2日目(2024/08/25)

で、この日の公開リハーサルですが、冒頭の瞬きも身じろぎもしない井関佐和子さんの姿から、ラスト、フィルム・ノワールの雰囲気も濃厚に、悄然と佇む糸川祐希さん(その直前、隆起した二の腕内側の筋肉に圧倒されたことも記しておきます)の様子まで、数多くの超絶リフトや絡み合う身体たちに目を釘付けにされ、この「謀(はかりごと)」に引き込まれて、たっぷりたっぷり楽しませて頂きました。

もうとっぷり浸って見終えた私たちは誰ひとり拍手することすらままならずで、金森穣さんから「あれ、拍手はないの?」など言われてしまう始末だったのですが、それこそ、作品が周囲に漲らせた緊張感・緊迫感に縛られて見入っていた証左と言ってもよいかと思います。

通し稽古が終わり、椅子を動かして、私たちと向き合う位置に移動した金森さん。「何かあればどうぞ」と言葉をかけてくれたのをきっかけにうまれたやりとりのなかからご紹介します。

*昨年と今年、大きく変えてはいないが、昨年が日本家屋(新戸賀山房)内での上演だったが、今年は屋外の円形ステージになるので、配置などの変更はある。
*赤いチューリップ: 絵のなかの女性(亡霊)と女優を繋ぐものであり、此岸と彼岸の境界を暗示するものでもある。今回は円形ステージ上の舞台装置としての使用も構想している。
*テーブルと椅子: どちらも金属製。「分裂」や「脱皮」などのイメージをもって、須長檀さん(家具)と話し合って作って貰ったもの。今年は少し補修して使用している。また、須長さんの方から椅子を「商品化してもよいか」と言われ、(全く同一ではないが、)実際に買うこともできる。「(値段は)少し高いけど」と金森さん。(→商品化されたものは恐らく、こちら、「guess I’ll hang my tears out to dry」。うむ、高い(汗)。少しじゃなく…。)
*「昨年はヒッチコックの映画に寄せながら観たが、今日はバーナード・ハーマンの音楽に乗って展開されるバレエの印象が強かった」の声に、「金森作品は複数回観るんですよ」と繰り返し観ることで感じ方が変わってくると金森さん。

前沢ガーデンは、利賀村(利賀芸術公園)に比べると、格段に訪れることも容易ですし、これを機会に富山への遠征デビューなども検討してみるのは如何でしょうか。「ホーム」りゅーとぴあのみならず、他のどのステージとも異なる、圧倒的な威容を以て迫ってくるその「空間」は、一度訪れると癖になること請け合いです。

5/17(土)・18(日)「黒部シアター2025春『めまい - 死者の中から』」のチケット(全席自由席)はチケットぴあ他で只今、絶賛発売中です。皆さま、是非♪

(shin)

「Noism2 定期公演vol.16」活動支援会員/メディア向け公開リハーサル&囲み取材に行ってきました♪

2025年2月28日(金)、りゅーとぴあに向かうのに、考えなしにセーターを着てダウンコートを羽織ろうしたところ、連れ合いからダメ出し一発。この日は新潟県も「4月中旬の気温」となるということで、少し薄めのものに変えて、「Noism2 定期公演vol.16」活動支援会員/メディア向け公開リハーサル&囲み取材に行ってきました。

予定時刻の12:30、〈スタジオB〉にて、中尾洸太さん演出振付の『It walks by night』のクリエイション風景から公開リハーサルは始まりました。ホワイエで待っている間から耳に入ってきていたチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」のあの最も知られた旋律が流れる場面を中心に、クリエイションの様子を見せて貰いました。中央奥にとても象徴的な木製の扉。Noism2メンバー9人のうち、ひとりだけ黒い帽子にベージュのステンカラーコートを纏っています。

「タータァタタタータターター、パッ」旋律を歌い、「1234、56」カウントを数え、自ら汗をしたたらせながら踊って、振りとそのイメージを伝えていく中尾さん。この日、私たちの目の前でじっくり時間をかけていた回転の振り。「足、そして手首、身体の順」(中尾さん)に動きが伝わっていき、2本の腕が纏わり付くかたちで身体を捩らすような複雑な回転にはブラッシュアップが続きました。チャイコフスキーの旋律にのせて、中尾さんのロマンがどのように可視化されていくのか、楽しみでなりません。

13:00、次いで今度は樋浦瞳さん『とぎれとぎれに』からの一場面を見せて貰う番です。こちらの作品、まず最初に大きな白い紙が運び込まれて敷かれていったところから、既に何やら独特な世界観が漂ってきました。音楽も、先刻までの中尾さんがメロディアスだったのに対して、ざらつくノイズ然としていたり、機械的だったり、ビート音だったり、全く別の趣のもの(原摩利彦)です。で、それに合わせた振りはやはりソリッドなもので、ところどころ、『R.O.O.M.』や『NINA』を想起させる動きも見出せるように思いました。

「一回、紙から逃げてみて、でも戻っていく感じ」とか「倒れた直希(=与儀直希さん)に、自分の吐く呼吸を入れていくみたいな」「もっと持ち上げるような感じで」とかと丁寧にイメージを伝えていく樋浦さん。Noism2メンバーの9つの身体と一緒になって、私たちをどこへ連れて行き、どんな世界を見せてくれるのでしょうか。興味が掻き立てられました。

上演3作品の使用楽曲です。

13:30、ホワイエにて囲み取材が始まり、地域活動部門芸術監督・山田勇気さんと今回、演出振付作品を発表するNoism1・中尾洸太さん、樋浦瞳さんがそれぞれ質問に答えるかたちでたっぷり話してくださいました。以下に、かいつまんでご紹介します。

Q・今回の作品のテーマ、伝えたいもの。
 -A・中尾洸太さん(『It walks by night』): 一番のテーマは「選択」「チョイス」。同年代(20代前半)の振付家と舞踊家のクリエイションは珍しい機会。同年代の観客層に届けたい思いもある。人生のなかで、何かを選択することを恐れないこと。そのときには誰かがまわりにいて、ひとりじゃないということ。まわりの人がいるからこそ、様々な感情が生まれること。それらを再認識するなかで、この先の自分の選択を噛み締めていけるような、未来に繋がる作品になればいい。
 -A・樋浦瞳さん(『とぎれとぎれに』): 自分が、人が、生命体が生まれてくる前にはどのような光景が広がっているのだろうという疑問から創作を始めた。「舞踊」という芸術は舞踊家が踊るその時間のなかにしか持続はない。その時間とその身体でしか起こることが出来ないもの。生命にも舞踊にも終わりは来るが、途切れたあとも繋がっていくものがきっとある筈だという思いを主軸に創作した。一人ひとりがその身体を持っていることを喜べるきっかけになったら嬉しい。「紙」については、舞踊作品の一回性を作品のなかでより顕著に表したかった。その「紙」に舞踊家たちが集まってきての始まりは、生命の源、「泉」のようなイメージによるもの。今の舞踊界で、このような時間と場所と舞踊家を得て創作出来るのは奇跡的なこと。この環境だからこそ出来ることを追求していきたい。
 -A・山田勇気さん: 【①金森さんの『火の鳥』について】: 金森さんが初めてNoism2のために作った作品で、2011年に初演、これまで5回ほど再演している。 メッセージ性がシンプルで強く、踊る者にとっても「登竜門」のようでもあり、これを越えることで成長できる、或いは、成長しなければ成立しない「強い」作品。これは生き残る作品であり、後世に伝えていくべき作品。これを通過する色々な舞踊家を見て欲しい。ある種、伝統になればいい、という思いもあって選んだ。
【②中尾さん・樋浦さん作品について】: レパートリーを踊るとなると、自分の選択をために振り付けられたものではないため、「踊ってみた」みたいに踊ってしまうことも起こり得るもの。そうした点から、相互に影響を与え合い、主体的に考えないければならないクリエイティヴな場所を設けることでカンパニーとして成長することを期している。若い振付家にがっぷり四つで組んで格闘して貰って、そのなかで何か新しいものが生まれることを期待して、ふたりにお願いした。作品自体がゼロから始まる、「教える-教わる」関係を一旦離れた場所と考えた。

Q・一公演で同時にふたりが演出振付することについて。
 -A(山田さん):
 ふたりも刺激し合っているが、一番は、プロの振付家の現実問題として、時間の割合が大変なこと、そうした制約があるということがある。与えられたもの、限られたもののなかでベストを尽くすこと。メンバーは3つの作品を踊る、『アルルの女』のリハーサルも行っている、そうした同時進行状況のなかで、如何にフォーカスしてやっていくかは難しいことだが、やらなければならないこと。
現役メンバーに振付家としての依頼をすることには、Noismというカンパニーに属し、ひとつの「言語」のようなものを共有する者が、その中から如何にして「自由」を獲得していくかは大切なことと考える。自分たちが今ここで作っている身体性にどれだけの普遍性があるかは、そのなかで何かを作ることでしか分からないものがある。
また、次世代の振付家を輩出することはレジデンシャルカンパニーにとって大切なことでもある。

Q・【中尾さんに】タイトルは(ジョン・ディクスン・カーの)推理小説と同名。具体的なストーリーをイメージしているのか。
 -A(中尾さん):
 ストーリー・テリングはしない。(使う)曲毎に詩を書いていて、その自分が想像したこと(詩)と音楽、それを社会(観客)とどう繋げていくかを意識している。振付家と舞踊家と観客のトライアングルが綺麗に揃っていないと良い瞬間は生まれない。この時代に簡単に溶け出してしまわない作品を残したい、その時間を提供したい。
観客が観に来ることも選択なら、自分たちが本番中に振りを踊るのもひとつの選択であり、既存のものをただ舞台にのせているのではない。研修生カンパニーであることから、自分たちの葛藤と闘っていて、身近に重い選択を控えている。それは舞台に出て来る。自分たちのベストを尽くした作品で観客に真っ向から立ち向かう時間を作りたい。それら全てが「選択」。タイトルは語り過ぎず、抽象的な感じで、意味を込め過ぎない、ふわっとしたものである。

Q・選曲理由は。
 -A(中尾さん):
 チャイコフスキーがどう亡くなったか知っていたので、「選択」「チョイス」は常に頭にあった。「悲愴」はチャイコフスキー最後の交響曲であり、哲学的思想が詰め込まれている。自分が振付家として彼の音楽と闘うのと同時に、舞踊家と一緒に、彼の音楽を通して、社会になにか普遍的なものを提供出来るのではないかと思った。
 -A(樋浦さん): 自分がそれらを聴いているときに、彼女たちが世界を繰り広げている様子を想像出来たこと。音がなくなる瞬間があったり、メロディー自体が存在しなかったりするが、その空間のなかに舞踊家がいることで、音楽と身体とが相互補完的だったり、相乗効果が生まれたらよいと。それが音楽と舞踊家との関係性として目指していること。

Q・この3作品での公演に関して。
 -A(山田さん):
 ヴァラエティ豊かで、楽しんで貰える。3つの全然違う作品にNoism2の舞踊家がどう取り組んで、そこで生きるのか。若い身体、若い思い、若い精神からしか出て来ないエネルギーを是非感じて欲しい。3作品が合わさったときに、彼女たちの表情とか輪郭とかが見えてくるのかもしれないと期待している。(13:55囲み取材終了)

…というところをもちまして、公開リハーサル&囲み取材の報告とさせて頂きます。

色々な意味合いで、とても興味深い「Noism2 定期公演vol.16」は3月8日(土)と9日(日)の2 days。只今、チケットは好評発売中です。若き舞踊家9人が格闘する3作品、そこに漲るエネルギーを全身で受け止めてください。

更に、8日の終演後には、この日の囲み取材時と同じ、山田さん、中尾さん、樋浦さんが登壇してのアフタートークも予定されています。(9日のチケットをお持ちの方も参加出来ます。)作品が生まれる現場により一層コミットしてみる機会です。楽しくない筈がありません。ご検討ください。

【追記】現在、発行されている「Culture Niigata」最新号(2025.03-05、vol.122)に、今回、振付家として創作している樋浦瞳さんが取り上げられています(表紙およびインタビュー記事)。加えて、昨年11月「新潟県文化祭2024『こども文化芸術体験ステージ』」(@十日町市・段十ろう)に登場し、『火の鳥』と『砕波』を披露したNoism2についても掲載されています。同誌は無料。りゅーとぴあにも置かれていますので、是非、お手にとってご覧ください。

(photos by fullmoon & shin)

(shin)

Noism0 / Noism1「円環」活動支援会員 / 視覚・聴覚障がい者 / メディア向け公開リハーサル(+囲み取材)に参加してきました♪

2024年12月5日(木)。週末には本格的な雪になるだろうことなども取り沙汰されるこの頃ですが、この日の新潟市は明らかに冬っぽい雰囲気が強くなってはいても、まだその白いものの心配までは要らない、そんな一日でした。

そのお昼の時間帯、12:30~13:30にNoism0 / Noism1「円環」活動支援会員 / 視覚・聴覚障がい者 / メディア向け公開リハーサルとそれに続く、囲み取材が開催され、そこに参加してきました。会場はりゅーとぴあ〈劇場〉です。

スタッフから入場が許されて、会場内に入ると、舞台上に、まず3人の姿を認めました。中央奥には帽子を被った黒ずくめの金森さん、その手前に庄島さくらさんと坪田さん。Noismレパートリー『過ぎゆく時の中で』のようです。

井関さんが客席の方に向き直り、「今日は45分で短いんですけど、3つの作品のところどころを、本当、短いんですけど、ご覧いただきます」と告げて、公開リハーサルは始まりました。

『過ぎゆく時の中で』、2021年8月のサラダ音楽祭で上演された演目ですが、新潟の舞台には初登場となりますから、待ちわびた感も大きな作品なうえ、今回の公演では金森さんがNoism1の10人と一緒に踊るという点でも興味を搔き立てられずにはいられません。
ジョン・アダムズによる、疾駆する機関車などを思わせる軽快な音楽『The Chairman Dances』に乗って、淀みない動きを見せるNoism1メンバーは、ほかに、三好さんと糸川さん、中尾さんと庄島すみれさん、樋浦さんと兼述さん、太田さんと松永さん(準メンバー)が、ペアでの踊り、リフト、全員での群舞などを見せてくれました。
駆け足で舞台袖へとはけて行くと、「ハイ、OKです。みんな、最後、遅くなってるよ」井関さんから動きのチェックが入りました。

続いては『Suspended Garden - 宙吊りの庭』です。舞台に「マネキン」(黄?黄土色?)が置かれると、金森さんの言葉「ちょっと袖幕とばしてくれる?あっ、時間がかかるか。じゃ、いいや。このままで」、そんなふうに始まったふたつ目の演目は、一気に別の時空に連れ去られたかのような重厚な雰囲気の作品です。
中川賢さん(白)、山田さん(茶)、宮河愛一郎さん(黒)、井関さん(赤)の順に早足で舞台上に現れてから繰り広げられる、「マネキン」を含めた「5人」でのダンスは恐ろしいまでに息もピッタリ合っていて、目を疑うほどです。宮河さんと中川さんの身体、動き、醸し出される空気感。おかえりなさい。待ちわびていました。
そして美しい照明と息を吞む映像、そこにトン・タッ・アンさんによる情感豊かな響きの音楽が重なるのですから、冬枯れの新潟市にいた筈が…!!至福の体験が約束されていると言い切りましょう。

ここまでで時刻は12:55。「みんなどうぞ。次のかた」、井関さんから声がかかると、大小多くの段ボール箱が登場してきて、近藤良平さん演出振付のNoism1新作『にんげんしかく』に移っていきました。段ボール箱たちだけでも不思議な光景でしたが、Noism1メンバーが着る衣裳も風変わりと言えば、風変わりで、さすがはコンドルズの近藤さん。そう頷かざるを得ないものがあります。
「足が出てて、みんなが綾音(=三好さん)に出会うところからやりましょうか」???
「一回被ってごらん。『無人感』出(で)そう」????
「一回倒れてみて、そこからスタートしよう。倒れてみて。どうぞ」?????
「ついでに太鼓やって」??????
…そんな指示のもと、段ボール箱という大きな制約こそあるものの、作品としては制約を次々無化していかんとするかのような意志に溢れ、まるでおもちゃ箱をひっくり返しでもしたかのように、縦横無尽、かつ賑やかな近藤ワールドが立ち現れていきました。

3作品とも、ほんの部分部分を見せて貰っただけですから、大したご紹介も出来ませんでしたが、(否、たとえ出来たとしても、今はするべきではありませんが、)テイストを全く異にする3作品であることは確かです。本当に贅沢なトリプルビル公演になることだけは間違いありません。そこはしっかり書き留めておきたいと思います。

13:15、ホワイエにて、近藤良平さん、金森さん、井関さんへの囲み取材が始まりました。やりとりをかいつまんでご紹介いたします。

Q1:「公演時の三作品の並び順は?」
 -A:「最初に『過ぎゆく時の中で』、休憩を挟んで、『にんげんしかく』、『Suspended Garden』となります」(井関さん)

Q2:(近藤さんに)「『にんげんしかく』のクリエイションを通して、改めて作品について教えてください」
 -A:「今回は段ボールを使うのが分かり易いポイント。目新しい不自由さ。このNoismのメンバーでなければ出来上がらない方法が生まれた。段ボールとの格闘日記。劇場も、我々の生活のカレンダー的なものも箱。人生のなかのフレームなども箱。日常とちょっと違う、特別な枠組み。(笑いが起きるのは)僕の演出の癖。笑ってはいけないとはどこにも書いていないし」(近藤さん)

Q3:(金森さんに)「今回のふたつの作品(『過ぎゆく時の中で』『Suspended Garden』)にはそれぞれ関係するようなところもありそうに思うが、そのあたりは?」
 -A:「時の流れにどう向き合うかが、結果として共通してきたが、結果論であり、全然考えていなかった。親和性・共通性が生まれた。そして四角く区切った空間の使い方では『にんげんしかく』と図らずもリンクした」(金森さん)

Q4:(金森さんに)「『Suspended Garden』のイメージについて」
 -A:「常に私自身の作品の作り方なのだが、目の前にある素材、目の前にいる他者だけで完結するものを発想できない。それだと自己完結してしまう。もう一個飛躍的な側面・視座が欲しいというのは常に意識すること。今回は『観念の他者』として『マネキン』を出し、架空の女性がいて、4人にとってそれぞれの『観念』があることから、『5人』で織りなされるひとつの小さな物語」(金森さん)

Q5:(井関さんに)「『円環』という公演にあたり、三作品の必然性など感じることは?」
 -A:「『円環』というタイトルがここまで崇高なものになり得るとは思っていなかった。『作りたいものを作ってください』ということだったが、『円環』というタイトルがピッタリなものとなった。Noismがここで20年やってきて、『人がめぐる』というのは本質的なこと。三作品それぞれに見応えがあって、それぞれが語っていくのだが、最終的には『円環』という言葉に戻っていく感じ」(井関さん)

Q6:(近藤さんに)「『円環』という公演タイトルに対して、『にんげんしかく』という作品を構想した意図は?Noism最初期の『SHIKAKU』へのオマージュなども込められていたりするのか?また、『犬的人生』に通じる部分も感じられたが、そのあたりについて」
 -A:「面白い。それ(そういう指摘)は嬉しいですね。ちょっとだけオマージュを入れたいところも、ちっちゃいことでも。今回、作るにあたって、前の(『犬的人生』)を見ちゃうと引き摺られちゃうから見なかったのだが、最近、見直したら重なる部分があった。犬はそこまで好きなんだなと、自分の中でずっと続いていたなと。段ボールは皆にちょっと苦労させたいなと。あと、(段ボールを)実際に見ると、シンプルに『揺りかごから墓場まで』みたいな発想(墓場もひとつの箱)が浮かんだ。そういうところに『円環』との一致感もあって、こういう作品にした気がする」(近藤さん)

Q7:(金森さんに)「トン・タッ・アンさんへの『Suspended Garden』の音楽依頼はどういう依頼だったのか?」
 -A:「曲数を5曲くらいという数はお願いした。『観念の他者』としての『マネキン』を含めて、5人の登場人物がいるので。アンは彼らをよく知っているので、彼らを思って作曲して欲しいと。それ以外は言わなかった。で、書き上げてきた曲は、凄くアンだし、凄く彼らだし、素晴らしい曲が仕上がっている」(金森さん)

Q8:「Noism1の若い舞踊家が趣を異にするふたつの作品を踊ることについて」
 -A:「10分や15分の休憩で切り替えるのは誰でも大変。順番に気を遣うのもわかるが、そこはプロフェッショナルなので違うものを見せる。Noismには力量がある。そういったことも楽しみという言えば、楽しみ」(近藤さん)
 -A:「ある意味、作家が違って、要求されることも違うと切り替えはし易い。逆に言うと、ひとつの作品の中でも、関わる人・状況・音楽によって切り替えなければならない。そのためにも、感性の引き出しを沢山持っていることが必要。異なる作家の作品を踊ることで感性が磨かれ、引き出しが増えるのは良いこと」(金森さん)
 -A:「どの作品をやっても、彼らが今問題としている壁は同じ。本質は変わらない。ふたつ異なる作品だからこそ、その壁を突き抜けられる方法がたくさんある。普段なかなか出せなかったものが、良平さんの作品でふわっと浮き出てきたときに、自分のものとして掴めて、またNoism作品でもそれを失わずにやって欲しいという思いがある。それが良平さんをお呼びした一番の理由。全然違う彼らを届けたい」(井関さん)

囲み取材の最後に、井関さんから、「3つの作品が全然違う、唯一無二のプログラムになっています」との言葉があり、この日、断片を見ただけでもそれは実感できました。物凄く色々な楽しみ方ができることは確かです。これ見逃せませんよ。いよいよ、来週の金曜日(12/13)に新潟から始まる「円環」ツアー、各地のチケットは絶賛発売中です。良い席はお早めにお求めください。くれぐれも必見ですからね♪

(shin)

(photos by aqua & shin)

*以下に、Noism Officialから提供を受けた画像を掲載しますので、ご覧ください。

◇Noismレパートリー『過ぎゆく時の中で』

◇Noism0新作『Suspended Garden - 宙吊りの庭』


◇Noism1新作『にんげんしかく』


◇囲み取材(近藤良平さん・金森さん・井関さん)

*末筆にはなりましたが、ここにNosimスタッフの方々へのお礼を記させていただきます。どうも有難うございました。

「サラダ音楽祭」活動支援会員対象公開リハーサル、その贅沢なこと、贅沢なこと♪

2024年9月7日、ここ数日で気温自体はやや落ち着きを見せてきてはいましたが、それでも湿度が高く、「不快指数」も相当だった土曜日、りゅーとぴあのスタジオBを会場に、「サラダ音楽祭」メインコンサートで生オーケストラをバックに踊られる『ボレロ』の公開リハーサルを観て来ました。

この日のりゅーとぴあでは、「西関東吹奏楽コンクール」中学生の部Aがコンサートホールで開催されており、大型バスが何台も駐められていたりした駐車場は、スタッフが入庫の采配を振るっているなど、普段とは異なる様相を呈していて、早めに到着したことで慌てずに駐車できました。りゅーとぴあ内外には楽器を抱えた中学生や関係者の方々の姿が溢れていて、それは賑やかな風景が広がっていました。

そんな湿度と人熱(ひといき)れのりゅーとぴあでしたが、この日開催された活動支援会員対象の公開リハーサルは、この上なく贅沢なものでした。

正午頃、少し早くスタジオB脇の階段まで行って待っていると、ホワイエには椅子に腰掛けて何かを読んでいる金森さんの後ろ姿がありますが、スタジオ内からはラヴェルの『ボレロ』の音楽が漏れ聞こえてきます。メンバーたちは入念に準備をしているようです。

12:27、スタッフに促されて私たちもスタジオ内に進みます。
12:29、金森さんが「もう全員(来た)?」と確認すると、やがて静かにあの音楽(金森さん曰く「テンポ感的によかった」というアルベール・ヴォルフ指揮、パリ音楽院管弦楽団演奏の古い音源らしい)が聞こえてきて、公開リハーサルが始まりました。中央に井関さん、そして取り囲むように円形を描く8人のNoism1メンバーたち。金森さんの『ボレロ』も、その滑り出しにおいては、ベジャールの『ボレロ』を思わせる配置から踊られていきますし、ベジャール作品において象徴的なテーブルの「赤」も別のかたちで引き継がれています。

今回の金森さんの『ボレロ』ですが、恩師ベジャールへのオマージュとしての引用には強く胸を打たれるものがあります。そしてそれと同時に、これまでのNoism作品で金森さんが振り付けてきた所謂「金森印」に出会うことにも実に楽しいものがあります。とりわけ、あたかも『Fratres』シリーズや『セレネ』2作を幻視させられでもするかのように目を凝らす時間は、紛れもなくNoismの『ボレロ』を観ているという実感を伴うことでしょう。

クレッシェンドの高揚していく展開だけではなしに、実に細かなニュアンスに富んだこの度の『ボレロ』、Noismならではの身体が魅せる群舞の美しさは格別です。
加えて、井関さんと中尾さんに糸川さん。三好さんと庄島すみれさんに坪田さん。樋浦さんと庄島さくらさんに太田菜月さん。その3組を軸にしたフォーメーションの変化も見どころと言えるでしょう。

12:45、音楽と舞踊の切れ味鋭い幕切れの時が来ました。「OK!」の金森さんの声。予定時間のほぼ半分の時間です。「あと15分、金森さんの細かなチェックが入る様子を観ることになるのかな」、そう思った瞬間、「10分休憩してください」と踊り終えた9人に向けて、金森さんがそう言葉を発するではありませんか!「えっ?えっ?どゆこと?」頭には無数のクエスチョンマークが飛び交いました。

で、その「休憩」時間中に金森さんが明かした衝撃の(笑撃の)事実をこちらにも書き記しておきましょう。Noismの『ボレロ』と言えば、昨年(2023年)大晦日のジルベスターコンサートでの実演の記憶が新しいところですが、実はあのときの演奏は正味13分台という「ありえない速さ」(金森さん)だったのだと。リハーサルのときから速かったので、ゆっくり演奏して欲しいと伝えていたにも拘わらずで、「みんなめちゃめちゃ怒っていた」(笑)のだそう。気の毒!それを聞いた私たちは大爆笑でしたが。
確かにあの夜は亀井聖矢さんが弾いたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番もそうでしたが、それもこれも指揮の原田慶太楼さんが「煽って仕掛けてきた」(亀井さん)ってことでしたね。…「お疲れ様でした」以外の言葉は出てきません。

それから今回のアクティングエリアの奥行きは「リノ4枚分」しかなくて、ジルベスターコンサートのときよりもめちゃめちゃ狭いため、横に展開しなければならないのだとも。

で、金森さんからそんな話を聞いていた10分後、(否、5分後くらいからだったでしょうか、)そこから13:30迄、私たちは、実に贅沢なことに、金森さんの「ダメ出し」からの、言うなれば、「ワーク・イン・プログレス」による作品の練り上げ過程をつぶさに目撃することになるのです。

「そこ、ノーアクセント。力入れ過ぎ」…「最初からお願い」…「それ、『3』の終わりじゃないの?」…「じゃあ、『2』の始まりから音ちょうだい」…「蹲踞のところなんだけど…」…「3個目で膝立ち」…「近づいてくるところ、足幅(注意)」…「『11』の始まりね」…「ちょっとやってみて」…「フードを脱ぐタイミングも」…「ああ、なるほどね」…「最後のところ見せて」…「ダウンステージ(=ステージ前方部分)で走るところ、結構急だけど、『さくすみ(庄島すみれさん・すみれさん)』はとりあえず走ればいい。ジャストだから」…等々、その臨場感ハンパなしだった訳で。

はたまた、とある場面では、「マテリアルのAとB」とか「女性はB・B、男性はC・A」や「BとB’(ダッシュ)に」などの言葉が飛び交い、カウントを唱えながら、色々試してみた末に、私たちの方に向き直った金森さんから、「どう、こっちの方が良くない?」とか訊かれたりしても、答えられませんって(笑)。でも、もうそれくらい特別な時間過ぎて、堪えられなかった私たちなのでした。

ここまでの全体の仕上がり具合(通し)を見ておいてから、その後、それがいささかの瑕疵も見逃さぬ鋭敏な手捌きをもって部品(要素の振り)にばらされると、数多の部品が繊細に再検討に付され、ヤスリがかけられ、注油されるように徐々にその精度を高めていく工程。見詰めた約1時間の興奮。その贅沢。

13:30、「OK!以上かな、ハイ。あとは現場でテンポを合わせて。じゃあ、ここまででございます。いつもご支援有難うございます」と金森さん。
ついで、金森さんから「挨拶の空気」を伝えられた井関さんが、「今シーズン、これ(サラダ音楽祭)が最後です。これが終われば夏休み。頑張ります」と語って予定された倍の時間たっぷり見せてもらったこの日の公開リハーサルが終わりました。

きたる9月15日(日)「サラダ音楽祭」メインコンサート(@東京芸術劇場)での一回限りの実演に向けて、更に更にブラッシュアップが続くものとの確信とともに、りゅーとぴあのスタジオBを後にしたような次第です。当日、ご覧になられる方々、どうぞ期待値MAXでお運びください♪

(shin)