昨日4月23日(土)、りゅーとぴあ能楽堂にNoism新作『ラ・バヤデール-幻の国』の脚本を担当された劇作家で演出家の平田オリザさんをお迎えして、第15回柳都会が開催されました。
15回まで回を重ねてきた「柳都会」ですが、冒頭、金森さんより「今回から、ゲストの方のレクチャーを聞き、それに基づいた対談」というスタイルに変更された旨の告知がありました。
午後4時、スクリーンとホワイトボードが用意された能楽堂の舞台で、まず平田オリザさんのレクチャーが始まりました。
LECTURE: 「新しい広場を作る」をテーマに、ユーモアを交えて、社会における劇場の役割について話されました。要旨を少しご紹介いたします。
☆劇場の役割: 限られたお金で、次の3点をバランス良く執り行うことが文化政策として重要。
①芸術そのものの役割・・・感動、世界の見方が変わる。 (100~200年スパン)
被災時の「自粛」の風潮を巡って: 「自粛」は創造活動の停止を意味する。100年後、200年後の被災者は何によって慰められるのか。また、地球の裏側の難民を慰める可能性のある「公共財」を作り続けなければならない。
公的なお金を使う以上、後に残るものを作る。作らなければ、何も残らない。新作を作り続けるなかで、一本レパートリーになればそれで良い。
②コミュニティ形成や維持のための役割・・・「社会包摂」 (30~50年スパン)
郊外型大型店舗の出店により、中心市街地が衰退し、画一化する地方都市。資本原理は地方ほど荒々しく働く。利便性の代わりに失われてしまったのは無意識のセーフティネット。
「ひきこもり・不登校」:人口20~50万人程度の地方都市(そこでは、若者の居場所が固定化・閉塞化しており、「成功」の筋道がひとつしか存在しない)で深刻。
「社会包摂(social inclusion)」:ひきこもり・失業者・ホームレスの人たちにとっての居場所も備える重層化された社会をつくる。(欧州では普通の政策)
欧州の劇場は自由に使えるパソコンを置いたカフェを併設するなど、社会参加を促している。
社会との繋がりを保つことは結局は社会的なコストの低廉化に通ずる。人間を孤立化させない、市場原理とも折り合いをつけた「新しい広場」としての劇場。「(劇場に)来てくれて有難う。」
出会いの場、きっかけを与える場としての劇場。結節点(繋ぎ目)としての演劇・バレエ等々…。
孤立しがちな人間を文化的な活動によって社会にもう一度包摂していく役割を果たす劇場。
③直接、社会の役に立つ役割・・・教育、観光、経済、福祉、医療 (3~5年スパン)
(例)認知症予防に効果があるとされる「社交ダンス」人気、等々。
また、国民の税金を使いながらも、首都圏に暮らす人たちしかその恩恵に浴しにくい、日本の文化的な状況の問題点にも触れて、経済格差より文化格差の方が発見されにくい性質のものであるとし、文化の地域間格差が拡大している現状を危惧しておられました。「身体的文化資本」(個人のセンスや立ち居振舞いといったものの総体:本物がわかる目)を育てることは、理屈でどうこうなるものではなく、常に本物に触れさせる以外に方法はないそうです。
まったくその通りですね。
(追記: この日のレクチャーの内容については、平田さんのご著書最新刊『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書)に詳しく書かれているとのことです。是非ご一読ください。私もこれから読みたいと思います。)
DISCUSSION: 5分間の休憩を挟んだのち、平田さんと金森さんの対談パートでは、劇場の「ミッション(使命)」を中心に話が進んでいきました。「何のために劇場はあるのか?」
☆劇場の「ミッション」:
欧州の劇場には、その時々の課題や問題を作品のかたちで提示し、それについて考える機会を提供する場としての側面も大きいとのこと。
平田さんが制定に大きく関わった「劇場法」では、劇場を、作品を作る場と同時に、蓄積する場(フローとストック)と捉え、アウトリーチをも含め、そこには専門家が必要であるとします。
とりわけ、平田さんは、「館」全体についての責任を負い、ミッションを定める立場の総支配人を支え、そのミッションを遂行する「専門家」として芸術監督(や音楽監督)を養成するシステムを整備していくことが必要であり、リベラルアーツ(一般教養)としての舞踊の教育とは別に、「個」を育てる、舞踊のエリートのための教育を行うことで、そうした芸術監督をキチンと育てていきたい、そして色々なものを見せる劇場、そのレパートリーを信頼して観に来て貰える劇場を作っていきたいと語っておられました。プロとアマの間の線引きが不明瞭な舞踊の現状に歯噛みする思いの金森さんも「我が意を得たり」と得心の様子でしたね。
この日、新作『ラ・バヤデール-幻の国』も、初めての「通し稽古」をやったそうですが、最後、平田さんからの「極めて良いものが出来上がった。バレエの歴史にちょっとは爪痕を残せるものと確信している。その初演に立ち会って欲しい」という言葉で、ちょうど午後6時、ふたりのアーティストの矜持に満ちた、内容の濃い会は締め括られました。
「20年くらいかかるだろうけれど、この国に『劇場文化』を根付かせたい」と語った平田さん。それはスパンこそ違えど、金森さんが常々「劇場文化100年構想」と呼ぶ ヴィジョンとピタリ重なるもので、まさに「問題意識」を共有するおふたりと言えるでしょう。そのおふたりがタッグを組んだ新作です。ますます期待は高まりますね。6月、新潟・りゅーとぴあ・劇場から始まる公演に是非お運びください。そして、平田オリザ×金森穣が提示する劇場の「ミッション」をご感得ください。 (shin)