「全米桜祭り」において、ワシントン・バレエ団に金森さんが新作を演出振付の報せ♪

皆さま
前回の記事中、「冬の『金森穣祭り』」と書いておりましたところ、
1/30になって大きなニュースが飛び込んできました!
Noism公式からの次の報せです。

>アメリカ・ワシントンで開催される全米桜祭りにて、金森穣がワシントン・バレエ団へ新作を演出振付いたします。

こちら、Noism Web Site でご確認ください。

そして金森さんご自身も、X(旧Twitter)アカウントで触れておられます。併せてご覧ください。

「全米桜祭り」にむけた新作(『SAKURA』)の演出振付です。なんともめでたい!なんとも誇らしい!
日時は、「2024年3月23日(土曜日)17時~18時30分(米国東海岸夏時間)」。YouTubeでの生配信もあるとのことですから、嬉しいですね!またひとつ「新潟から世界へ」です!こちらも観なくちゃ!
そうなればもう「金森穣祭り」は春までずっと続いていくという認識が正しいかと。
もうワクワク続きですね。

(shin)

なんと!Noism×鼓童「鬼」がまだ楽しめる!

皆さま、NHKの衛星放送(NHK BSP4K及びNHK BS)「プレミアムシアター」にて金森穣×東京バレエ団『かぐや姫』をご覧になった(または、録画された)ことかと思いますが、本日(2024/01/29)18時より、YouTubeにて、先日、大喝采のうちに幕を下ろしたばかりのNoism×鼓童「鬼」の2作品(『鬼』と『お菊の結婚』)が配信されるとのことです!そうです、まだ楽しめる!嬉しい!サイコー!パチパチパチパチ!

Noism公式による情報です。こちらからお確かめください。

間違いないですよね?夢みたいですけれど、夢じゃないですよね?

公開中の映像舞踊『BOLERO 2020』改訂版、『Near Far Here』(一部無音)と併せて、なんと太っ腹なことか!『お菊の結婚』は著作権の関係から全編無音であるにしろ、嬉しいじゃあ~りませんか、ですよね。

次回の「プレミアムシアター」では山田うんさんとの「境界」もアンコール放送されますし、この冬の「金森穣祭り」、まだまだ盛り上がっていきます♪

【追記】以下にYouTubeへのリンクを貼っておきますので、どうぞご利用ください。
Noism×鼓童『鬼』(38’08″)
Noism0+Noism1『お菊の結婚』(26’17″)

更にこちらのリンクもどうぞ♪
映像舞踊『BOLERO 2020』改訂版(15’45″)
Noism0『Near Far Here』(29’03″)

(shin)

1/25(木)『鬼』再演 大千穐楽、熊本公演に行ってきました!

2024年1月25日、日本中を寒波が覆う中、なぜか雪が少なく晴れ間も見える新潟市から、「鬼」を追いかけて最終の地、「火の国」熊本へ!
前日に新幹線の架線事故があったりして心配しましたが、既に通常運行しており、安心して東京へ、そして羽田空港へと向かいました。
熊本行きの飛行機は修学旅行を終えて熊本に帰る生徒たちで大混雑! そんな中、サポーター仲間のかずぼさんに遭遇♪同じ飛行機でしたが、この便の出発がなんと30分遅れに! ヒヤヒヤしましたが、熊本空港到着後は直行で会場に向かい、18時30分に無事、市民会館シアーズホーム夢ホールに到着しました♪

熊本城
夢ホール
夢ホール
左に熊本城、右は加藤清正公の像です

入場すると、ロビーに作曲家の原田敬子さんがいらしたので、かずぼさんと一緒にご挨拶しました♪ 原田さんは岡山からそのまま熊本にいらしたそうです。 会場の大ホールはかなり古い建物だそうで、音響はイチから手直ししたそうですが、なかなか手強かったとのこと。でも、音響も演奏も舞踊もご満足いただいているご様子でよかったです。
かずぼさんは合唱をされているのですが、大学時代に、なんと原田さんの超絶難度の合唱曲の直接指導を受けたことがあるそうで、そのお話をすると原田さんの方がすごく驚いて、お二人で盛り上がっていました♪

さて、今日の席は最前列のほぼ中央です。かずぼさんは2階席だそうです。
ステージが高く、見上げる感じになるかと思いましたが、実際はそうでもなくてよかったです♪
『お菊の結婚』無しで『鬼』からすぐ始まるって、もしかして初めて!?
何とも不思議な気持ちで幕開けを迎えます。
櫓の上に控える鼓童さんと太鼓群の威容に観客から声なき嘆声が漏れます。
そして清音尼、役行者が登場。清音尼の後ろに女性陣が続きます。
そして、一撃!!

そこからは夢か幻か。
この世のものとは思えぬ舞と音との響演乱舞が繰り広げられ、見事としか言いようがありません。
何度見てもますます素晴らしい✨
しかし、それも今日で見納め・・・

最後、戯れるように踊る鬼二人と、鬼の形相の役行者が入り乱れるように躍り合う中、空からは金か、銀か、雪か、キラキラと美しく降ってきます。
鬼を見送る役行者。彼の胸には何が去来しているのでしょうか。
余韻を残して幕は下りました。

15分の休憩後、金森さんの進行で、鼓童代表の船橋裕一郎さんとの「アフタートーク」ならぬ、「ミドルトーク」です。
お二人は同郷で同年であること。
2004年から親交があり、その頃は鼓童では新人だった船橋さんが今は代表であること。
Noismにとって熊本は初めてだった一方、九州は太鼓が盛んなので鼓童さんは何度か熊本に来ていること。
ここで金森さんが観客に質問しました。
「このような舞踊を見るのは初めての方」という問いかけに結構な挙手がありました。
「鼓童さんを知っている方」という質問にも挙手が多かったです。
「『鬼』では濃密なクリエーション、コラボレーションができてよかった」(お二人)
「初演時のピリピリ感からは考えられないほど溶けあってきた。親交も楽しく、嬉しい。
原田さんのおかげで鼓童が現代音楽に挑戦できて確実に次のステップになった」(船橋さん)
「また一緒にコラボしたい」(お二人)
その時は今度は鼓童さんがNoismを呼んでくれるそうです。
鼓童さんは2月からヨーロッパツアーで2ヶ月間各地を回ります。その時に『鬼』の紹介もしてくれるそうです。
金森さんは、「世界でやるなら近々にしてね。そうじゃないと踊られなくなるから」と言って笑いを誘っていました♪

トークは短くて、10分足らずでした。
このあと、金森さんが「鼓童さんの芸の振り幅がすごい」と言っていたスペシャルパフォーマンスが始まります。

鼓童特別演奏

櫓のセットはそのままで、櫓を使ったり、前の方に各種太鼓をだして演奏したり、笛や歌もあり多様で楽しめました。
「大太鼓」では船橋さんが登場し、力強い演奏で場を圧倒しました。
迫力溢れる演奏に拍手喝采!

華やかな太鼓に送られて賑やかに終了した大千穐楽。
次は世界で。近々に!

終演後、21時前でした

(fullmoon)

1/20(土)岡山市の新劇場・岡山芸術創造劇場ハレノワにて Noism×鼓童「鬼」岡山公演を観てきました。(サポーター 公演感想)

Noismにとっても、私にとっても初となる岡山です。
公演前に少し時間があったので路面電車に乗って、
岡山城や後楽園を散策したり初めての街並みを楽しみました。
また公演後に立ち寄った町中華で食べたよだれ鶏定食が絶品でした。
またいつか必ず訪れたい(できればNoism公演で)と思います。

新しい劇場ハレノワは、コンパクトながらしっかりとした造りで、舞台が非常に観やすい劇場でした。
職員の方もキビキビと対応されていて良い劇場だな、という印象です。
客席もかなり埋まっていました。客層も幅広い年代でちょっと驚きました。
Noismの評判、鼓童の人気、劇場への期待などいろんな要素があるのかな、と思いました。

開演直前、おなじみのメロディーが流れると幕前にスタッフが現れ、篝火が灯されました。
そこからしばらくして会場全体が暗くなり『お菊の結婚』がはじまりました。
ここ岡山で一足早く千秋楽となる『お菊の結婚』、岡山でも素晴らしい実演でした。
まず、いきなりの大音量と突然のお菊さんの動きには毎回驚かされます。
私以外にもびっくりされた方もいらっしゃっただろうと思います。

この『お菊の結婚』はとても好きな作品です。
『ボレロ』や『春の祭典』から続く音符に振付をするシリーズですが、
ストラヴィンスキーの『結婚』は複数パートが同時に歌う場面は意外と少ないため、
上記の作り方でダンスを作るのは大変だったのでは、と思います(かなり動きが限られそう)。
これを「人形振り」にすることで、動かないことに違和感を覚えません。
更に歌っている人だけが動くことで、昔のセル画で作っているアニメ(『サザエさん』とか)をみているような非現実感もありました。

15分の休憩後、『鬼』がはじまりました。
『鬼』もまた素晴らしい作品です。
原田敬子さんの楽曲はいきなりテンポが変化したり休符で断絶したりと、
こちらもまたダンス作品にするには難しいと思います。
Noismと鼓童は初演から素晴らしい実演でしたが、
回を重ねるにつれて完璧に手中に収めていて深みが増していることが分かります。
個人的に感心するのは、鼓童メンバーは登場時から最後まで、演奏している時もしていない時も身体が入っていることです。
これができるのは鼓童だからではないでしょうか。Noismと同じ身体言語を共有しているように思います。

『鬼』終了後は、鳴りやまない拍手と次々と増えるスタンディングオベーションで会場が歓喜に包まれました。
(岡山に見に来てよかった)と心から思いました。

更に終演後、地方公演では珍しくアフタートークが開催されました。
事前に募った質問に答える形でトークが進められました。
金森さんと井関さんのお話を簡単にご紹介します。

■最初に、初岡山の感想は。
井関: お客さんの拍手が温かった。自分は高知出身で岡山は馴染み深いし、Noismは西の方の出身者が多く岡山出身のメンバーもいる。
金森: もっと気温が暖かいと思ったら寒かった。(寒い)新潟から逃げてきたのに。
井関: 晴れの国なのに、連れてきちゃった。

■【質問】ダンスが嫌になったことはありますか。
井関: 1回ある。21歳で帰国した時。ヨーテボリで3日に1回踊る日々で踊りきったと感じ、一旦離れようと思った。離れたのはすごく良かった。
金森: 贅沢病だね。カフェで働くとかお花屋さんで働くとか言っていたが、3ヶ月後には踊っていた。
(嫌になったことは)ない。辛いのはしょっちゅう。

■【質問】振り付けを考えるとき、一番最初に取りかかることは何ですか。
金森: 作品によるので決まっていない。音楽が先にあったり物語が先にあったり、コンセプトが先にあったり、身体性が先にあったり、ケースバイケース。
ただ自分にとって一番大事なのは音楽。音楽が定まった時点で、そこからインスピレーションを得て作る。
『お菊の結婚』は曲を先に聴き、作品化したいと思った。ただ、元の物語(ニジンスカの『結婚』)には興味がなく、オリジナルを探すうちに『お菊さん』に出会った。
井関: 『お菊の結婚』はダンサーも楽譜の解読からはじめた。自分の担当する声部に振り付けており、歌が歌う時しか動かない。
リハーサルを進めるにつれ、金森さんから「もうちょっと動いて」と指示が出るが、そこは声がないから動けない。
金森: 『鬼』は原田さんの楽曲を聞いてから作った。「鬼」をテーマに掲げたのも原田さん。そこから色々リサーチをはじめ、役行者や清音尼を取り込みながら作った。

■【質問】作品を創作する際、新潟の歴史や物語、土地の記憶から着想を得ることがありますか。
金森: あるといえばあるし、ないといえばない。
ヨーロッパ時代など、日々生きていく中で、いろんなことからインスピレーションを受けた。
例えば、スウェーデンの夕日がサイドからバーンと街を照らす光景を見た時、インスピレーションが浮かんだりする。
それは「ストックホルムである」という場所性が関わっているけれど、だからといってストックホルムを表現しようと思わない。
更に言うと、それを説明するために作品を作っても面白くない。
今回も「鬼」についていろいろ調べたが、「鬼」を説明するために作品を作ってもしょうがないので、「鬼」にまつわるあらゆるものからインスピレーションを得て、自分の中でどこにも存在してないパフォーマンスを作る。
それが私の芸術的な野心。インスピレーションはあくまでもインスピレーション。

■【質問】いつも踊ってる時に気をつけてることは何ですか。
井関: 舞台上では瞬間を生きること。
例えば、今日は朝からずっと稽古してリハーサルしていろんなこと考えるが、それを本番では投げ捨てる勇気、その瞬間を生きる。ストイックにすればするほど、集中すればするほど、違うものがなぜか本番には見えてしまう。本当にその本番でしか見えないものを探し求めてる感じ。
金森: 実演芸術に共通だが、鍛錬と呼ばれるものは同じことを繰り返して、それを大事に、この型は崩さないように、と真摯に向き合うことが大切。最初から投げ捨てるつもりだったらそこまでにはできない。それを続けて大切に守ってきて、最後にそれを手放す。
井関: 手離した瞬間、自分じゃない何かが乗り移ったかのようになって、こんなにこの作品が違うように見えるんだとか、音がこんなに違うように聴こえるんだ、ということを発見する。そうしてまた次のステップに行ける。
金森: 意識と感覚について、果たして感覚も意識化できるのかという問題があって、ここをこうしようとか、稽古でこうしたらダメ出しがあったから気をつけようとか。それは意識じゃない?でも実際、生でバンってそこ出たらそれはもう感覚。あわいの中で感覚の方が突き抜けて。
井関: いわゆる「ゾーン」というもの。

■【質問】再演にあたり変化したところはありますか。また、鼓童さんとのコラボによって、普段のNoism作品との変化はありますか。
金森: 篝火を『(お菊の)結婚』『鬼』に入れたぐらい、そんなに変えていない。これまでにあるものをひたすら磨いていく事に時間を費やした。
(普段のNoism作品との変化については)これだけ難しい楽曲、しかも生音で太鼓は初めての共演だったので、みんなにとってもすごい経験だったと思う。
井関: 太鼓の音に皆さんもビックリされたと思うんですけど、実は皆さん以上に私たちもびっくりしている。舞台上で響く音って本当にすごい。舞台上では何もないかのように見せてるんですけど、本当に飛び上がる。それくらいエネルギーがある。それと原田さんの楽曲は難しい音楽だけど本質的。
太鼓が体に響いてくることで重心が落ちてくる。
金森: 上に上がってくるのはシンバルぐらい。それ以外はぜんぶ下に落ちていく。

■【質問】国内トップ舞踊団のダンスと地方在住者で作る地元の人のダンス、それぞれに役割があるとすれば、何が大切ですか。
井関: 劇場にプロの舞踊団があり、地元のダンスからそこを目指すような流れができれば、お互い活性化すると思う。
現状、新潟にしかないっていうのが問題。岡山に新しい舞踊団ができれば素晴らしいのでは?(拍手沸く)
金森: どちらかを否定するものではいけない。共存が大事。

■最後に…
井関: 2 月にNHK BSで 、2 年前に収録されたNoism公演(「境界」)が再放送されるので、今日来ていただいて興味を持っていただけたら、ぜひご覧ください。
金森: 今日の公演に誘ったけど来なかった人たちにも「テレビならタダで見れるよ」とご案内いただければ。

(かずぼ)

「変化し続ける舞と音を追って」(「鬼」再演・2024/01/14 神奈川千穐楽:サポーター 公演感想)

Noism×鼓童『鬼』(同時上演『お菊の結婚』)の2022年初演時は、新潟での三公演及び京都と鶴岡公演を追って鑑賞した。約一年半ぶりの再演を知った時は、「今回は新潟で二回観ればいいかな。再演だし」という舐めた姿勢でいたが、活動支援会員向け公開リハーサルでの『お菊の結婚』の情感を増した仕上がりや、『鬼』再演初日の「深化」と呼びたいほどの完成度に、新作を観るほどに衝撃を受け、結果、新潟では三公演すべて、そして神奈川公演二日目まで目撃することにしたのだった。

冷え込みは厳しいものの、抜けるような青空が何処か現実離れしているように思える横浜市。会場の神奈川芸術劇場では新潟から駆け付けた方や関東圏の知己にご挨拶しつつ、「当面はこれで『鬼』を観れないのだなぁ」と寂しささえ込み上げてくる。

最早ストラヴィンスキーの楽曲と、どこか「ハナモゲラ語」的可笑しみを伴って聴こえるロシア語の歌詞に愛着すら覚える『お菊の結婚』。襖を模した戸板を操作しつつの間断無き舞踊と音の奔流を我が物としたNoismメンバーが、物語や感情の流れを鮮明に見せてくれる。「人形」のように扱われるお菊(井関佐和子)がようやく自分の意思で取った行動、然り気無くお菊の髪や襟元を整える優しさや、次第に異国の人々ににこやかな笑顔さえ見せたピエール(ジョフォア・ポプラヴスキー)の結末、妓楼の人々の浅はかな狂気に「人形振り」を捨てて恐れ戦く青年(糸川祐希)。井本星那さんの当たり役を受け継いだ三好綾音さんの妓楼の妻始め、メンバーが情感込めて物語る守銭奴たちの狂騒曲は、幾度見ても興趣尽きない。

そして『鬼』は人ならぬモノたちと、山田勇気さん扮する役行者との対比を鮮明にすること、鼓童メンバーの奏でる音とNoismメンバーの舞踊とが確かに噛み合ったことで、確かな強度と「古典性」を獲得したと思う。とはいえ複雑な生演奏と舞踊の連続は、何かあれば壊れてしまいそうな「一期一会」のものであり、息することさえ躊躇うようにして舞台に没入してしまう。ラスト、役行者に「あなたもこっちに来ない?」と語りかけるような井関佐和子さんの「鬼」の表情と、それを制する金森穣さんの「鬼」の振舞が目に停まった。理性を越えた「鬼」の世界の豊穣な猥雑さと、禁欲的な人間世界の対比を強く印象付けるエンディングに、新潟をテーマに創作された本作が到達した「普遍性」を再確認する思いだった。

終演後のカーテンコールは4回に及び、舞台上のNoism・鼓童メンバーと客席とがこの公演を共有出来た至福を噛みしめ合うような高揚感が会場を包むようであった。
(尚、シネ・ウインド会報「月刊ウインド」2月号にて編集部スタッフの「鬼」感想や、公式サイトにて久志田の紀行コーナー「ブラウインド」などを掲載する予定です)

久志田渉(新潟・市民映画館鑑賞会副会長、「月刊ウインド」編集部)

再演の「鬼」ツアー、神奈川公演初日(2024/01/13)♪

2024年1月13日(土)、Noism×鼓童「鬼」再演のツアーはこの日、KAAT神奈川芸術劇場でその初日を迎えました。この度の再演のツアーは前年訪れなかった土地を巡るものです。その皮切りに立ち会いたいとの思いで、朝、雪が降りだす前の新潟から横浜を目指しました。途中、三条を過ぎたあたりから案の定、窓外は雪。関東も昼過ぎには雪になるとの予報でしたから、雪の一日を覚悟していましたが、トンネルを抜けたら、あっけらかんと青空が広がっていたので、正直なところ、やや拍子抜けしたりする気持ちもありました。しかし、その後、ぽつりぽつり雨が落ちてきましたから、本格的に崩れる前に、KAATへと急いで移動したような次第です。

KAATに入ると、吹き抜けの下、アトリウムに、前年7月の「柳都会」(Vol.27)にご登場され、刺激的なお話を聴かせてくれた栗川治さんの姿を目に留めましたので、ご挨拶。栗川さん、新潟での公演は都合がつかず、今回、横浜での用向きに合わせてご覧になるのだと。で、大晦日のジルベスターコンサートでもお見かけした旨伝えると、興奮の面持ちで、Noismの『Bolero』はもとより、亀井聖矢さんのピアノが凄かったと話されたので、激しく同意しながら「2週間前」の感動を噛み締めたりさせて貰いました。

そんなこんなで、開場時間を迎えると、公演会場の〈ホール〉へと上がりました。メインロビーへと進み、トイレなどをすませていると、今度は原田敬子さんの姿が目に入ってきました。如何にも偉丈夫の黒コート姿の男性と一緒にこちら、奥の方へと歩んで来られます。前年の初演時にも「最上の音をお届けするために」とほぼ全会場に足を運んでおられた原田さん。この再演にあたっても、新潟でお話できましたし、「今回も」と、またここでもご挨拶をして少しお話出来ました。原田さんが仰るには、会場によって、音の響き方が異なるのは当然としても、こちらは少し大変だったのだとか。そんな話をしてくださった後、原田さんが件の黒コートの男性のことを「御大」と言い表して、そちらに戻って行かれるに及んで初めて、その男性が誰かを認識し、瞬時に凍りつくことに。そうです、その男性は誰あろう鈴木忠志さんだったのでした。金森さんも師と仰ぐまさに「御大」。不調法で失礼なことをやらかしてしまったような訳です。凹みました。(汗)

「うわあ!」とか思いながら、少しテンパった気分で買い求めた席につくと、私たち家族の2列前には鈴木さん!更に横を見ると、私の3つ右の席には原田さん!これもまた「うわあ!」です。いつも以上に緊張しつつ、開演を待つことになりました。

16時を少しまわって、波の音が聞こえてくると、『お菊の結婚』の始まりです。ストラヴィンスキーのバレエ・カンタータ『結婚』、その炸裂する変拍子とともに滑り出すほぼ人形振りによるコスチューム・プレイの見事さに、(しくじった)我を忘れてのめり込むことが出来ました。この日、これまでよりやや後方の席から見詰めた舞台は照明全体を、ある種の落ち着きのうちに観ることを可能にしてくれたと言えます。一例を挙げるならば、今まで気付かなかったのか、それとも、金森さんが今回変えてきたのか、そのあたりは定かではありませんが、中央奥、襖の向こうに印象深い赤を認めたりした場面などを挙げることが出来ます。そんな細部への目線を楽しみながらも、同時に、不謹慎な(と言ってもよいだろう)諧謔味に浸りながら、するすると見せられていくことのえも言われぬ快感はこの日も変わりません。何度観ても唸るばかりです。

呆気にとられながらあのラストシーンを見詰めたとおぼしき客席は、緞帳が完全に下り切るまで水を打ったように静まり返っていましたが、その後、一斉に大きな拍手を送ることになりました。

休憩になると、なんと、横の方から原田さんが「音、どうでしたか」などと訊いてきてくださったのですが、それは高い音が強く聞こえることを気にされてのことで、素人の耳には特段感じるようなこともなかったのですが、、休憩後の『鬼』に関しては、少しわかるようにも思いました。まさに一期一会の舞台な訳ですね。

(また、休憩中の通路には宮前義之さんの姿もありました。書き残しておきます。…以前にはご挨拶したこともあったのですが、この日は流石にもう無理でした。)

で、『鬼』です。客電が消えて、緞帳があがり、鼓童メンバーが控える櫓が顕しになると、そのキリリと引き締まった光景に対して、客席から一斉に息を呑むような気配が感じられました。前年から繰り返して観てきたこの超弩級の作品も、私にとっては、この日が見納め、「鬼」納めです。目に焼き付けるように観ました。鼓童が発する音圧を受け止めながら、舞踊家の献身に見入る時間も最後になるのですから、一挙手一投足も見落とせはしません。そんな覚悟で見詰めた次第です。繋がりも(漸く)クリアにわかってきた感がありましたし、この日も、妖艶さ溢れる姿態から妖気漂う様まで、振り幅の広い、目にご馳走と言うほかない場面がこれでもかと続きました。初めて観たときの驚きとは別種の、その力強い構成力と実演の質への驚きを抱きながら全編を追って、まさに最終盤に差し掛かったとき、目を疑うことになりました。動きが、演出・振付が明らかに違っている!またしても!!ラストのシークエンスを大きく変えてきたのです、金森さん、またしても!!!再演のラストシーンは初演のときとは違っていましたが、この日、そこに至るまでのシークエンスにも大きな変化が生じていたのでした。これからはこれで行くのでしょうか。それとも、まだまだ変更の余地があって、これも「神奈川ヴァージョン」なのでしょうか。いずれにしても、私にとっては「鬼」納めの舞台でしたから、この後のことについては、レポートや報告を待つよりほかにありません。やはり一期一会なのですよね。

「このあと、舞台はどうなっていくのだろうか」若干後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ、客席を後にしました。最後に原田さんと「音の聞こえ方」についてお話出来たらなどとも思いましたが、原田さんは鈴木さんたちと一緒におられます。同じ轍は踏めませんから、サポーターズ仲間たちと一緒に外に出ました。すると、強い横殴りの風に煽られた雨が時折、霙(みぞれ)になったりするなど、待っていたのは寒々しい冬の天気でした。帰りの新幹線のこともあり、東海道線に遅れが生じたりされては困るので、まずは横浜へ、そしてその先、上野へと急ぐことで締め括られた私の2024年Noism始めでした。

そうそう、この日の『鬼』に関しては、最後、緞帳が下り切る少し前から、拍手が鳴り始めたのでしたが、きっと、もうそれ以上我慢し切れなかったものと理解できます。そんな訳で、この日、一緒に客席で見詰めた観客のなかから、今取り組まれているクラウドファンディングへの協力者が多数出ることを信じて、否、確信して、新潟への帰路に就いたような塩梅でした。

(shin)

井関さん&勇気さん出演「鼓童ハートビートラヂオ #118」配信♪

正月元日に発生した「令和6年能登半島地震」におきまして被災された方々に対しまして、心よりお見舞い申し上げます。そして一日も早く生活再建がなされ、平穏な暮らしが戻ってくるようお祈り致します。

皆さま、2024年1月6日(土)午後8時から YouTube にて配信されました「鼓童ハートビートラヂオ#118」お聴きになられましたでしょうか。鼓童の小松崎正吾さんと中谷憧さんをホストに、井関さんと山田勇気さんがゲストで登場し、予定された30分を大幅に延長して、和気藹々なやりとりを楽しみました。

内容は以下の通りです。
▷Noism×鼓童「鬼」特集!
▷Noism設立当初の伝説
▷小松崎正吾、Noismでの修行時代?!
▷Noism・鼓童共に共通する「生命力」
▷「鬼」の中で起こる「無言の会話」
      (YouTubeより転載)

勇気さん、そして井関さんそれぞれのNoism参加のいきさつからの流れで語られた、20年前のNoism設立時、及び、40年ほど前の鼓童最初期、それぞれの「立ち上げ」の頃の話は必聴です。

こちらからお聴きください。52分54秒、楽しくも興味深いやりとりを聴くことが出来ます。(収録されたのは、「再演」クリエイションの初期の頃だそうです。)

原田敬子さんによる新作の書き下ろし音楽をもとに、Noismと鼓童の両者が(共に戸惑うところから始まり、)一緒に一から作り上げてきた作品『鬼』、その再演。来週末には神奈川公演を迎えます。是非、こちらお聴きになられて、劇場へお運びください。誠に簡単なアウトラインのみにとどまりましたが、ご紹介まで。

(shin)

「ムジチーレンの悦び」に浸った祝祭感たっぷりの大晦日:りゅーとぴあジルベスターコンサート2023

2023年最後の一日は、雨降る新潟。雪ではなく。その天気だけでも所謂「普通」ではありませんでしたが、その午後のりゅーとぴあコンサートホールに流れた2時間半の時間は、そこに居合わせた誰もが「普通」ではいられないほどの濃密な時間でした。エモーショナルな熱演に次ぐ熱演。舞台上の渾身が、「ムジチーレン(音楽する)の悦び」が、客席に伝わり、客席と共鳴して、ホール全体が尋常ではないほどの祝祭空間へと変容していった、そうとした言い表せないような圧倒的な時間で、この日の観客は決してこの日の舞台を忘れることはないだろう、容易にそう確信できました。そんなところを以下に少しご紹介していこうと思います。

この日が最後の営業となる6F旬彩・柳葉亭にて2023ジルベスターコンサート限定甘味セットなどを頂いてから、14:30、入場時間。客席に進むと、暫くして、煌めく緋色ドレスに身を包んだ石丸由佳さんによるパイプオルガンのウェルカム演奏が始まりました。最初の2音で、20世紀を代表する「巨大不明生物」ゴジラの音楽だとわかります。『シン・ゴジラ』好きの身としては一気に気分がアゲアゲ状態になっただけでなく、更にニヤリとしました。どういうことかと言えば、伊福部昭作曲によるこの音楽の動機部分は彼が敬愛して止まなかったラヴェルのピアノ協奏曲、その第3楽章にほぼ似たメロディを聴くことができるのですから。というのも、この日の私の一番のお目当ては勿論、プログラムの最後、Noism Company Niigataが踊るラヴェルの『ボレロ』でしたから、「見事に円環が閉じられることになるなぁ。この選曲、やってくれるなぁ」という訳です。

そして始まったこの日のコンサート。「ラフマニノフ生誕150年&20世紀最高の作曲家たち」というテーマに基づく音楽を原田慶太楼さん指揮・東京交響楽団が聴かせてくれました。(司会はフリー・アナウンサーの佐藤智佳子さん。)

最初の曲はバーンスタインの『ウエストサイド物語セレクション』。指揮者の原田さんが当初はダンスと歌に打たれて、音楽を志すきっかけとなったのが、バーンスタインの音楽が流れる同映画を観たことだったそうです。指揮台の上でステップを踏み、踊るかのようにタクトを振る身体の躍動とそれに呼応して奏でられる東響のダイナミックかつ色合い豊かな音。両者の持ち味をたっぷり示して余りある一曲目と言えました。

そしてこの日最大の驚きがやってきます。ソリストに亀井聖矢さん(弱冠22歳!)を迎えて演奏されたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。最前列で聴いていましたから、冒頭の途切れ途切れのピアノの音の間には、その都度、深く呼吸する音まで聞こえてきました。それだけでもう既に相当エモい導入に感じたのですが、それなどまだまだほんの序の口。目をカッと見開いて鍵盤を見詰めたかと思えば、顔を上方に向けて目を瞑ってたっぷり思いを込めたり。身体を揺らしながらの演奏は、幾度も椅子から腰を浮かせ、時折、左足の靴で床をバンッと蹴っては勢いを加速させたり。ラフマニノフの音楽に全身全霊で没入し、その果てにラフマニノフが憑依したかのようなピアニストの身体がそこにありました。完璧なテクニックから放たれるリリカルさ具合は言うに及びません。そこに火が出るような熱さが加わります。その変幻自在な音の奔流に、聴く者の魂はこれでもかと揺さぶられ続け、遂にはラフマニノフの音楽の真髄との邂逅を果たすに至らしめられた、そんな風に思えます。まさに驚異の演奏でした。指揮者の原田さんによれば、前日の練習を終えた亀井さんはもう少し落ち着いて弾こうと言っていたのだそうですが、この日の演奏はその対極。亀井さんによれば、原田さんが「煽って仕掛けてきた」のだとか。いずれにせよ、一期一会の熱演を堪能しました。スタンディングオベーションも頷けようというものです。
*この日の演奏、最後の部分は亀井さんご本人のX(旧twitter)アカウントでご覧頂けますので、こちらから渾身の熱演の一端に触れてみてください。

休憩中にも石丸由佳さんによるパイプオルガン演奏があり、とてもスペシャルな感じがしました。演奏されたのはラインベルガーにのオルガン・ソナタ第11番の第2楽章「カンティナーレ」とのこと。初めて聴く曲でしたが、会場に優雅な雰囲気を添えていました。

休憩後の第2部はりゅーとぴあ委嘱作品という吉松隆の『ファンファーレ2001』から。原田さんによれば、第九のように毎年聴けるものではなく、今回が「4年に1度」の機会だったとか。また、「プログレッシよるロック好き」の吉松さんらしい曲とも。(その方面、私は明るくないため、よくわかりませんが、)冒頭から打楽器の存在感が耳に届く曲で、盛り上がっていく際の色彩感と高揚感は堪りません。
そしてハチャトリアンの『剣の舞』へ。個人的には、これまでこの曲を面白いと感じたことはなかったのですが、この日は原田さんが突っ込んでは引き出したテクスチュアの多彩さが耳に新鮮に響き、初めて惹き込まれて聞き入りました。

次いで、ヴァイオリンの服部百音さんが加わった2曲も聞きものでした。まずは「これまで弾くのを避けてきて、初めて弾いた」(服部さん)というエルガー『愛の挨拶』。繊細かつ迫力ある弦の響きで奏でていていきながら、最後、「別れの挨拶」(服部さん)として、弾きながら舞台袖に消えていってしまうお茶目な服部さん。呆気にとられて見送る原田さん。打ち合わせになかったドッキリをかます服部さんに、ふたりの関係性が窺い知れるようで、微笑ましかったです。
続く、ラヴェルの演奏会用狂詩曲『ツィガーヌ』。病気を克服して筋肉もついてきて再び演奏活動に戻ってこられたとのこと。まさに入魂の演奏で、全身に漲る気魄が弓を介して弦に伝わり、鬼気迫る熱演を聴かせてくれました。そんなふうに、切れそうなほどに張り詰めた空気感を作り出して流れた音楽。その最後の一音を、顎をぶつけて奏でているかに見えるほど、全身の勢いを込めて弾いた服部さんの姿にアッと声が出そうでした。

そしていよいよクライマックスは金森さんの新振付でNoismが踊るラヴェルの『ボレロ』です。この新振付版は金森さんによれば、修道僧たちのなかに、ひとりの女性の踊り手が交じり、性的かつ生的なものが伝播していく筋立てとのこと。女性は井関さん(ベージュの衣裳)。冒頭、井関さんを円状に囲む修道僧8人は、両脇に中尾洸太さんと糸川祐希さん。最奥に三好綾音さんと杉野可林さん。最前に坪田光さんと樋浦瞳さん。その後ろに庄島さくらさんと庄島すみれさん(いずれも黒の衣裳)、といった布陣だったでしょうか。衣裳は恐らく『セレネ、あるいはマレビトの歌』のときのものと思われ、ということは、故・堂本教子さんの手になるものです。
上に触れた筋立てからもわかることですが、今回披露された新振付による『Bolero』は以前の映像舞踊『BOLERO 2020』とは全くの別物・別作品です。中心に女性がいて、その周囲を円状に囲まれて始まる様子は金森さんの師・ベジャール振付版に似ていますし、途中、ベジャールからの引用と思しき振付も登場するなど、オマージュと継承とを見て取ることができます。その意味では映像舞踊のときとは比べ物にならないくらい、ベジャールを想起させられる要素は大きいと言えます。しかし、この作品での影響力の伝播の方向は、中心の井関さんから8人に向かうのであって、その点では真逆と言ってもいいくらいでしょう。これまでの金森さん作品の持ち味に溢れた新『Bolero』(「シン・ボレロ」?)な訳です。
この夕の『ボレロ』、Noismが踊っているため、もう目は演奏するオーケストラにはいきませんでした。オーケストラの様子だって見たいことは見たいのですが、仕方ありません。但し、踊るNoismメンバー一人ひとりの生き生きした表情にも原田さん+東響と同質の「ムジチーレンの悦び」が溢れていたことは間違いありません。(敢えて言う必要もないかと思われますが、それはこの日のソリスト亀井さんと服部さんにも共通して見出せた要素です。)
おっと、金森さんの新『Bolero』に関しては、今ここではこれ以上は書かずにおきます。終演後に偶然お会いした山田勇気さんによれば、今のところ具体的な再演の予定はないとのことでしたが、必ずその日が訪れると信じていますから。私もその時を楽しみに待ちますし、この日はご覧になられなかった方々もそこは変わらない筈でしょうし。

ラストは東響によるアンコール、エルガー『威風堂々』でしたが、これがまた華やかで、その後、会場内の数ヶ所から一斉に放たれた赤とオレンジのテープの吹雪がこの日の祝祭感を大いに増幅してコンサートの最後を締め括ってくれました。

こちらの画像、クラウドファンディングのお知らせメールからの転載です。

この大晦日のジルベスターコンサートについてはそんなところをもって報告とさせて頂きますが、折から同日、クラウドファンディングも目標額に達したとのことで、その点でも嬉しい大晦日となりました。
そして、これを書いているのは、紅白歌合戦を見終えて、年も改まった2024年の元日です。皆さま、明けましておめでとうございます。是非、一緒にNoism Company Niigataの20周年をお祝いしつつ、応援して参りましょう。 今年も宜しくお願い致します。

(shin)