台風の直撃こそありませんでしたが、
フェーン現象というかたちで暑さが牙をむいた新潟市、2018年7月29日(日)。
この日、国内で最も高い気温を記録したらしいその新潟(市)で、
Noism2特別公演『ゾーン』がNoismの14thシーズンの掉尾を飾りました。
前日にも増して強い風が吹いていたことから、客席を覆うテントは立てられず、
舞う者も、観る者もともに「露天」という、ある意味、開放感たっぷりの50分間で、
全員が等しく日射しと風を総身に受けながらの公演となりました。
予定開演時間の17:30を7分程過ぎて、
「白い女性」が下手側客席脇から歩み出てきました。この日は三好綾音さん。
彼女と片山夏波さんは来期、Noism1準メンバーに、
「白い女性」ダブルキャストの西澤真耶さんはNoism1メンバーにそれぞれ昇格しますし、
この公演を最後にNoism2を去るメンバーに牧野彩季さんがいて、
そうした意味合いからも、このメンバーの見納めとなる最後の公演だった訳です。
しかし、なす術もないほどの自然の猛威が容赦なく彼女たちに襲いかかりました。
体温を上回る危険な気温とあって、15:30の回は前日に中止と決定していましたが、
熱を溜めこむだけ溜めこんだアスファルトや、
一向に収まる気配を見せない強い風など、
屋外公演のもつ、「計算できず、手に負えない」要素が
Noism2メンバーを苦しめた2日間でした。
前日に、同様の暑さのなか、2公演を行っていたことが、
この日、ボディブローのように効いてきた部分もあった筈です。
色々なことが起き得るのが舞台、
ましてや、屋外公演となれば尚更です。
決して万全ではない過酷過ぎる条件下、
それでも一人ひとりが観客に対してNoism2を背負おうという気概を発揮して、
敢然と酷暑や強風に向き合っていたと思います。
フォーメーションの変更も行いながら、
ラストの公演を全うしたメンバーに対して大きな拍手が贈られました。
メンバー9人それぞれが個々に貴重な経験をし、その身中に経験値を蓄え、
次のステップに繋がる「何か」を得た2日間だったのではないでしょうか。
彼女たちが櫛田祥光さんの振付のもと、重ねてきた時間、
その確かさは決して損なわれることはなかったと思います。
私たち観客に届けようと腐心し、
炎天下、リハーサルを繰り返す姿に胸を打たれなかった者などいない筈です。
序盤、水を思わせる断片化された音楽のもと、
日傘によって頼りなく守られた「白い女性」の周囲には、
海面下、或いは、海底にゆらぐ、忘れ去られた「藻屑」のような
ゆったり美しい動きを示す黒い衣裳のメンバーたち。
とても印象的な滑り出しです。
ひとり白の「今を生きる女性」に対して、
「忘れられた記憶」を踊る黒のメンバーは、
容易にその失われた顔や表情を回復できません。
回復のきっかけは、禍々しい音のコラージュが耳に届くなか、
思いもよらない災害とともに訪れます。
「今を生きる女性」すら「忘れられた記憶」と等価である他ないという
如何ともしがたい厳しい真理。
誰しも「mortal(死すべき)」な存在に過ぎず、
「immortal(不死)」ではなく、
自身の生のなかに内在する死を自覚したとき、
記憶のなかで失われていた顔や表情の回復は果たされます。
かつて「白い女性」を頼りなく保護していた日傘は、
いまや周囲と同じ黒に身を包んだかつての「白い女性」の手で、
集められた白黒2色の衣裳の上に、
それらを分け隔てなく慈しむように捧げられるでしょう。
『ゾーン』…声高に叫ぶことなく、静謐でいながら、強く胸に迫る作品でした。
終演後、仮設の客席撤収に余念がない
Noism1メンバーを含むスタッフの向こう側、
夕陽を映した壁面のホリゾントが
えも言われぬ美しさに染まり、
あたかも、厳しい2日間3公演に力の限り向き合ったNoism2の若手舞踊家一人ひとりを労おうとでもするかのように、
刻々、その鮮やかな色合いを深めていきました。
彼女たち一人ひとりの前途に光あれとばかりに…。
(shin)