Noismの現到達点たる『セレネ、あるいはマレビトの歌』、その夢幻(サポーター 公演感想)

5月11日、りゅーとぴあでの『セレネ、あるいはマレビトの歌』公開リハーサルの衝撃は忘れ難い。『Nameless Hands-人形の家』や『NINA』『R.O.O.M.』など舞踊家の渾身と演出振付・金森穣の魔術的洗練に圧倒される舞台に幾度も立ち会ってきたが、りゅーとぴあ〈劇場〉の舞台上に設えられた客席で展開された舞踊と音楽の濁流と、作品の精神には、真底打ちのめされた(リハーサル後、金森さんにバッタリ会い、「これは凄いです。大好きな作品です」と興奮気味に声を掛けてしまった)。

その本番が、5月20日・21日、「黒部シアター2023 春」として黒部市の前沢ガーデン野外ステージにて開催された。初日の圧倒的舞台についてはしもしんさんが当ブログにて詳報している。私もまたTwitterで「激賞」と呼べる感想を書き連ねたり、「月刊ウインド」6月号にて魚津滞在を含めた紀行記事を掲載予定の為、2日目(5月21日)の感想を主に記載する。

魚津駅から黒部駅へあいの風とやま鉄道の列車で向かい、前沢ガーデン行きのバスが発車する「ホテルアクア黒部」へ。新潟や東京から駆け付けたNoismサポーターの方々と合流し、16時発のバス車中では(初見の方も同乗しているので配慮しつつも)昨日の公演の素晴らしさをあれこれ語り合う(この様子を、同乗していた富山県市町村新聞の宮﨑編集長が聞いており、会場でお声がけいただく。公演について記事を書かれるとのこと。特に声の大きな私の放言、失礼しました)。
開演の19時迄は前沢ガーデンの圧倒的な空間美と自然に浸りつつ待機。鈴木忠志氏をお見かけしたり、会場入りする金森穣さんや井関佐和子さん、山田勇気さんにご挨拶(金森さんのご両親や鈴木忠志氏率いる「SCOT」の本拠地である南砺市長も足を運んでいた)。

そして、19時定刻に始まった本番。舞台は常に一期一会だが、野外公演は吹く風や、それにはためく衣装、空の色(この日は渦巻くような雲が空を覆いつつも、陽光がうっすらと覗く)が繊細なコントラストを生み、作品の強度は変わらぬとはいえ、観る者が受け取る印象が新鮮に変わっていく(舞台に立つ舞踊家にとっても、きっとそうなのだろう)。

活動継続問題やコロナ禍の苦しみの中で、ひたすら舞う「Noism」の集団としての強さと祈りに幾度も涙した『Fratres』を、アルヴォ・ペルトの楽曲を駆使しつつ、作品の一部とし、全く違った文脈で再構築した『セレネ、あるいはマレビトの歌』。異端・来訪者を排斥し、互いを縛る「集団」と、個を確立した者が手を取り合う「連帯」との対比。女性同士の深い共感が、集団の論理に楔を打つ展開(井関佐和子さんと6人の女性舞踊家が織り成す洗練と爽やかなエロスに充ちたシークエンスには、ペルトの楽曲相まって涙が溢れた)。ベクトルの異なる舞踊の連鎖を休む間もなく躍り続ける井関佐和子さんやNoism1メンバー、野外ステージの高低差を活かした演出の中で「恐怖」さえ覚える登場を見せる山田勇気さん。そして、言葉を越え、この世界に生きる人の胸に確かに届くであろう「ヒューマニズム」を謳い、アンゲロプロスやタルコフスキーといった名匠が映画で描いた夢幻のごとき光景を現出させた金森穣さんの手腕に、陶然としてしまう。Noismを応援してきた者にとっての冥利を覚えつつも、この現到達点は、Noism Company Niigataの更なる未来と拡がりを想像させる。

カーテンコール後、初日(5月20日)に続いて舞台に立った金森さんは「自分にとっても手応えのある作品」、「この作品を持って海外に出掛け、世界に挑みたい。新潟のカンパニーが黒部に滞在して創った作品です。東京(発)じゃないんです。それが文化」と語った。この挑戦を、更にしっかり応援していきたい。

(久志田渉)

「Noismの現到達点たる『セレネ、あるいはマレビトの歌』、その夢幻(サポーター 公演感想)」への4件のフィードバック

  1. 久志田 さま
    ご感想、有難うございました。
    まずは「公開リハーサル」ですが、アレ、胸アツでしたよね。
    舞踊家たちと一緒の舞台上から見せて貰うという極めてレアな機会でしたし、『Fratres (I)』をパックリ含んでしまう構成に度肝を抜かれました。

    で、その『セレネ、あるいはマレビトの歌』、「ベクトルの異なる舞踊の連鎖」が畳み掛けてくる持続はまさに「連打」と呼ぶに相応しいものがありました。
    畢竟、様々な情緒が混在する、極めて多義的な大作ですよね。
    但し、金森さんの作品に共通する問題意識に貫かれている点で、整然とした印象が残ることも不思議ではないのでしょう。
    そして前沢ガーデン野外ステージでのあのラストの美しさ、久志田さんが「恐怖」を覚えると書いたことも頷かれます。私はジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』のポスターを想起した程でしたから。(厳密に言えば、山田さんの場合、「背光」ですから、異なるのですが。)(笑)

    2日目の舞台には、初日からの変更点もあったとも聞きました。やはり金森さんだな、と思いながら、唯一無二の鑑賞機会、その意味を噛み締めています。
    どうも有難うございました。また、宜しくお願いします。
    (shin)

  2. shin様

    有難うございます。
    最終盤、丘の上に向かっていくメンバーの方向や、山田勇気さんを照らす光の加減など、微調整が加えられていました。坐る位置が少し変わってまた印象が変わる、力強くも繊細な野外公演でした。
    新潟や世界での再演が必ず実現するだろうと、期待が膨らみます。
    (久志田渉)

  3. 久志田さま
    早速のご感想ありがとうございました。
    超早くてビックリです!
    本当に魅力的な公演でしたね。
    鈴木忠志さんも大満足なことでしょう♪
    (fullmoon)

    1. fullmoon様

      お疲れさまでした。
      富山の人や鈴木忠志氏関係の方にも、きっと響いたことでしょう。
      再演を期待して待ちます

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