楽日の『Mirroring Memories』が上野の森を祝祭空間に染め上げたバレエホリデイ

2018年4月30日(月・祝)の上野の森バレエホリデイ、
東京文化会館の小ホール界隈には見知った顔が溢れていました。
金森さんの出自を見詰めるが如き、興味深くも贅沢な作品の楽日でしたから、
見逃す訳にはいかぬとばかり、この日を楽しみにしていた方々が
続々集結してきたのにも何の不思議もなかった訳です。

冒頭の新作『Distant Memory』、
恩師ベジャールへの有らん限りの愛と敬意をその身体から発散させて、
心を込めて、ひたすら丁寧に、そして丁寧に踊りあげていく金森さん。
繊細かつ静謐に、微かな心の震えまでが可視化されていきました。
そして見上げる先に2008年からの過去作の画像が次々映されたかと思うと、
その結びにベジャールと若き金森さんのモノクロのツーショットが現れるではありませんか。
この演出にやられない人などいよう筈がありません。
そしてそれが余韻を残しながら静かに消えたかと思うと、
今度はその下、舞台奥にアール状に据えられた
縦長10枚のハーフミラーがその向こう側の10人を透して見せます。
目に飛び込んでくるのは、いずれも金森さんの手により造形された人物たち。
この後、ハーフミラーが不規則に開いては、奥の人物が現れて、
10の断片が次々踊られていくことになります。
情感たっぷりでいながら、なんとスタイリッシュな滑り出しでしょうか。

黒衣と生と死、或いは死すべき運命。そうした共通項を持つオムニバスは、
単なる抜粋に止まらず、例えば、井関さんによるミカエラが
カルメンの仕草をなぞって踊ったのち、
背後からすらりとした長躯の黒衣(!)が現れ、
ミカエラをその両腕に抱き締めるという感動的な新演出が加えられていたりもして、
まさに見所満載。片時も目を逸らすことは出来ませんでした。

この日の公演は、初日がそうであったと聞く通り、随所で拍手喝采が起こり、
その都度、会場の雰囲気は高揚していきました。
演じられた10の断片、その一つひとつに触れていくべきなのでしょうけれど、
ここでは、ラストに置かれた新作『Träume ―それは尊き光のごとく』へと急ぎます。
しかし、そのためには、直前の『マッチ売りの話』に触れない訳にはいきません。
あたかも「原罪」を刻印でもしたかのような禍々しい仮面をつけた8人の手前、
震える指でマッチを擦る浅海さん。
彼女が上着の下に纏うのはオリジナル版と異なる白い衣裳であり、
それは作り手でありながら、作品内部へと越境し、
舞台中央奥から現れてくる金森さんの衣裳と重なるものであると同時に、
続いて姿を見せる井関さんにも通じる衣裳でもあります。

『Träume』、父と母そして子、或いは継承する者。
溢れる慈愛の眼差しのなか、浅海さんは舞踊における母に抱かれ、
舞踊における父に守られながら、
促されて、自らの左手人差し指で遠い彼方を指差すと、
それが指し示す上方へと目をやり、自らの足で立つ力を得ます。
それは紛れもなく若き日の金森さんの似姿。
背後にはハーフミラーが透かして見せる人物たち。
このときは、そのなかに金森さん自身も含まれています。
で、はっと何かに気付いたように浅海さんが振り向き、舞台奥を見やるが早いか、
ハーフミラーはもはや何者をも透かすことをやめてしまい、…。暗転し、終演。

ラストで見事に示されるのは、躍り継ぐ者へ託される希望と躍り継ぐ者の決意。
光輝に包まれながら。
この切れ味鋭い、見事な幕切れに対して贈られる大きな拍手とブラボーの掛け声。
そして舞台の上と客席とを暖かい一体感が包んでいきます。

このときの客席の雰囲気は、舞踊の神が、ベジャールを経て、
金森さんと井関さん演じる父と母の姿をとって降臨するさまを
目の当たりにでもしたかのようだった、と言っても大袈裟ではなかったでしょう。
そして、それはまた、このときの東京文化会館・小ホール全体が、
さながら幸福な祝祭空間と化したかのようでもありました。

ひととき、私たちを取り巻く現実界を傍らに、
重層的な魔法の時間に酔いしれることを可能にしてくれた金森さんとNoism1。
60分間ののち、ホールから出てくる人たちの顔という顔には
一様に覚めやらぬ陶酔、或いはこぼれんばかりの多幸感が見て取れました。
それはまさに金森さんによって作品のラストに置かれた希望の煌きを
反映する(mirror)表情だったと言えます。

幸せな、このうえなく幸せな上野の森バレエホリデイの
三連休だったと言い切りましょう。
(shin)

【『Mirroring Memories ―それは尊い光のごとく』キャスト表】

Noism1『Mirroring Memories ―それは尊き光のごとく』で上野を席巻!

上野の森バレエホリデイ中日の小ホール。
心を鷲掴みにされ、感情を揺さぶられ続ける
濃密な60分。次は何を見せてくれるのか、瞬き厳禁。
キャストは敢えて伏せておきます。
皆さま、最終日、これを目撃しなければ、
終世、大きな後悔をすると断言しましょう。
今はそれしか書かずにおきます。
(shin)

Noismサポーターズ会報33号(臨時増刊号)を会員の皆様にお送りしました!

いよいよ今週末、4月28,29,30日、東京文化会館 小ホールで、〈上野の森バレエホリディ2018〉Noism1特別公演『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』が開催されます!
金森さん、井関さんも出演しますよ♪
どうぞお見逃しなく!

この特別公演に合わせて、サポーターズでは会報33号を発行、
先日、会員の皆様にお送りいたしました。
早い方は今日あたりお手元に届くと思います。

会報内容は、

・金森さんインタビュー
・メンバーインタビュー
・山野博大氏の公演批評
・会員の声

等々です。
金森さんのインタビュー、濃~いですよ~。

会報は会員の方にもれなく送付いたします。
どうぞご入会、ご更新くださいね。

上野公演では折込配布されます。
どうぞお楽しみに!

なお、会報に同封しました、会員の皆様へのお知らせ文中に、『NINA』の中国公演日程が載っています。
会場側アクシデントにより杭州公演が中止になりましたが、その修正が間に合いませんでした。。
ご了承ください。
上海公演は予定通り開催!

さて、金森さんがツイートしていましたね。

●カルチャーラジオ スズケン市民講座 
「人間を考える ~美を語る~ 第1回」
5/1(火)13:30~15:00 NHK文化センター青山教室
講師:舞踊家・演出振付家 金森穣
https://www.nhk-cul.co.jp/sp/programs/program_1146922.html

そして、静岡でも!

●ふじのくに世界演劇祭 シンポジウム 広場トーク
「世界で勝負する舞台芸術とは」
5/3(木・祝)16:30~17:30 フェスティバルgarden(駿府城公園 東御門前広場)(予約不要/無料)
パネリスト:
安藤裕康(独立行政法人国際交流基金理事長)、金森穣、宮城聰(SPAC芸術総監督)
司会:中井美穂
http://festival-shizuoka.jp/event/symposium/

富山では中川賢さん(富山県出身)のトークイベントも!

●対談企画 中川賢×田辺和寛(DJ/ほとり座代表)
「コンテンポラリーダンスの魅力とは。Noismで踊り続けること」
6/3(日)オーバード・ホール(富山市芸術文化ホール)
映画上映13:00~14:40 上映終了後に対談
http://noism.jp/talk_aubade_nakagawa/

いろいろありますね♪
どうぞお運びください。

★『ROMEO & JULIETS』新潟公演、富山公演、静岡公演、
チケット好評発売中です!
どうぞ、お早めにお求めくださいね。

さて、もうすぐ5月となってしまいますが、
月刊ウインド4月号のNoismコラム、担当はチャン・シャンユーさんです。
タイトルは「誰がダロウェイ夫人」。
映画「めぐりあう時間たち」について書かれています。

他に「柳都会 茂木健一郎×金森穣」の感想記事等もあります。
お知らせするのが遅くなりましたが、ぜひお読みください♪

では、上野でお会いしましょう!
(fullmoon)

Noism2出演「にいがた総おどり」in アート・ミックス・ジャパン2018

2018年4月14日(土)、この日はJR新潟駅の高架化に伴う
線路切り替え工事のため、新潟駅を中心に大規模な列車運休がある一日で、
その影響から市内の道路はどこもかなり渋滞していました。
そんななかで、JR東日本も「SPECIAL SUPPORTER」として名を連ねる
「アート・ミックス・ジャパン2018」が開催されるとは…。
なんとも不思議な感じもいたしましたが、ともあれ行きました、行きました。
観ました、観ましたNoism2。
ジャンル「祭り」チケットno.11「にいがた総おどり」@りゅーとぴあ・劇場。

全席自由席の公演だったため、
開場時刻17:05のおよそ50分ほど前に様子を見ようと
劇場入口へ行ってみると、
はやくも壁に沿って入場を待つ人が並び始めていたので、
その列に加わって開場を待ちました。
その甲斐あって、狙っていた最前列中央の座席を押えることができて一安心。

開演までのホワイエでは「三条神楽」が演じられていたり、
枡入りで提供されるラテアートを買い求める人の列ができていたりと、
華やかな雰囲気がそこここに漂っていました。

17:35、開演。
まずは色と音の洪水、下駄総踊りで幕が開け、会場中が熱い手拍子で応えました。
続いて、万代太鼓。笛・鐘・太鼓・踊りが
ボルテージ上がりっ放しのステージを降りて、客席通路へ。
ますます観客と一体となって盛り上がる様子を振り返って眺めていると、
最後は横笛一本による厳かな演奏が会場を鎮めていきました。
…ん、この雰囲気。いよいよかな。果たしてその通り。
17:50、一旦下りていた緞帳が再び上がると、照明が入る前の暗いステージ、
その舞台框(ぶたいがまち)際の最前面に、
横一列に並ぶNoism2メンバー9人の姿が朧げに目に入ってきます。

照明が入ると、そこまでとは打って変わって、いたってシンプルそのもの。
照明もそうなら、音楽もそう。
何より、腕と背中を剥き出しにした黒のレオタード+黒のタイツという衣裳がそう。
空気は張り詰め、一瞬にしてクールでソリッドな舞台に早変わりしました。
定期公演で観た「Noismレパートリー」のアナザー・ヴァージョンです。

踊られたのは、『ZONE -陽炎 稲妻 水の月』「academic」(2009)からの断片と
『PLAY 2 PLAY -干渉する次元』(2007)からの断片でしたが、
目にしていた定期公演のときとは異なる新たな演出・編集が施された、
この日限りのスペシャルな演目でした。
すぐ目の前、センターには、次のシーズンからNoism1へ昇格する西澤真耶さんの姿。
で、更にNoism1準メンバーとなる片山夏波さんと三好綾音さんがいる、
このメンバーでのNoism2もこれで見納めだななどと思うが早いか、
様々な記憶が去来するのに任せて、視線を送ることとなりました。
持ち時間はわずか10分だったようですが、
会場中が息を詰めて食い入るように見詰めている様子でした。
18:00、彼女たちのパートが終わったとき、
他の演目とは明らかに趣の異なる拍手が劇場内に谺しました。

その次に登場したヒップホップのUnityも注目チームだったようで、
Noism2~Unityの流れに認められる「芸術性」は、
「熱狂」や「一体感」を志向する他の踊りとはそのテイストを異にし、
このプログラムにおける、ひとつの目玉と言って差し支えないものでした。

その後も、「お祭り」色の強い、会場一体型のパフォーマンスが続いたのち、
プログラムの締め括りには、新潟人の耳に馴染みの深い樽砧(たるきぬた)が登場。
その樽砧の演奏を中央に、出演者全員が一堂に揃いました。
その際、「オラオラ」な素振りが微塵もない控え目過ぎる9人の女性たちは、
他の昂揚した気分の踊り手たちのなかにあって、
どこか儚げで、所在無さげで、遠慮がちで、
先刻、圧倒的な存在感で、空気を支配して踊っていたときとは全く別人のようであり、
今風に言えば、「ギャップ萌え」で、「キュン死」してしまいそうでした。(笑)

おっと、もうひとつ是非とも記しておきたい事柄が。
それは樽砧の素晴らしさです。
見事なバチ捌きから繰り出される、軽快でノリの良い音、音、音。
浸って聴いていると、3年前(2015年8月)の「水と土の芸術祭」において、
旧二葉中学校グラウンドで踊られた
Noism2×永島流新潟樽砧伝承会による作品
『赤降る校庭 さらにもう一度 火の花 散れ』の記憶が蘇ってきました。
アレをもう一度観たいなぁと。
Noism2のレパートリーとして踊り継いでいって欲しい、
新潟らしい名作でしたから。

私は、にいがた総おどりにも、Unityにも明るくはないため、
逆立ちしても、どうやっても、それらについて詳しく書くことなどできません。
しかし、この公演で「オール新潟」の踊りを概観できたような気がします。
逆に、にいがた総おどりやUnityメインで来られたお客さんも、
Noismに触れ、体感し、「新しいジャンル」を堪能したのではないでしょうか。
その意味では、本県が「踊りにまつわる文化コンテンツ」が豊かなことを
改めて実感できる、好適な45分間のプログラムだったと言えそうです。
(欲を言うなら、Noism2ももっと観たかった部分はありますが…。)
個人的には、いずれも新潟に根差す、様々な「踊り」に目を釘付けにされ、
大いに楽しむことが出来ました。

Noism2の出演はこのプログラム限りですが、
「アート・ミックス・ジャパン2018」はもう一日、15日(日)も開催されます。
詳しくはこちらをどうぞ。

(shin)