「ランチのNoism」#21:杉野可林さんの巻

メール取材日:2024/02/20(Tue.)& 02/24(Sat.)

皆さま、約20ヶ月のご無沙汰です。お待たせいたしました。お待たせし過ぎたかもしれません(笑)。前回で一巡りしていた「ランチのNoism」ですが、ここに再開の運びとなりました。その第21回目にご登場頂くのは杉野可林さん。どのようなランチを拝見できますでしょうか。それでは久し振りにいってみましょう。

♫ふぁいてぃん・ぴーす・あん・ろけんろぉぉぉ…♪

設立20周年を迎えるNoism、りゅーとぴあ〈スタジオB〉に昼が来た!「ランチのNoism」♪

*まずはランチのお写真から。

安田ヨーグルトの牛さんの下、何やらコンポジション的な…

 *「『おにぎり百景』、日本に生まれた幸せを頬張ろう」…とかって始めようかなどよぎったところの、ん?三角ア~ンド四角!で、おにぎりの隣のそのプラ容器もよく見かけてきたものに間違いなく…

1 今日のランチを簡単に説明してください。

 杉野さん「もち麦入りのおにぎりと納豆です🍙」

 *おにぎりマーク(🍙)付きのご説明もチャーミングな杉野さん。マークと画像には海苔の有無という違いこそありますが、やはり「僕らにはおいしいおにぎりがある」のです。で、この場合、「もち麦入り」ってところがミソですよね。いや、味噌おにぎりって訳じゃなくて、はい。
 で、ワタクシ、まるで不勉強なもので、早速、調べてみましたところ、「もち麦」を食べることには、食後血糖上昇の抑制作用とか満腹感の持続とか内臓脂肪減少作用とか、様々なよい効果が期待できることがわかったのです。誰にとっても嬉し過ぎるのではないでしょうか、これ。おーん、はっきり言うて。

 -もち麦入りおにぎりは杉野さんの定番なのでしょうか。おにぎりのヴァリエイションには他にどんなものがありますか。

 杉野さん「白米だけのおにぎりの時もありますが、なるべく雑穀などを混ぜて炊いたものを食べるようにしています」

 -おにぎりの中には梅干しなど具を入れて握ったりしているのですか。

 杉野さん「この日は入れずに作りましたが、入れる場合は塩昆布やゆかりふりかけなどを入れたりしています」

 *おお、そうなんですね。塩昆布のおにぎりと言えば、私は塩昆布のまわりの黒く「汚れた(笑)」ごはんも好きです。

 *もう一枚、写真をご紹介しながら、次の質問です。

「ロミジュリ(複)」Tシャツで手にはアレ、遠くを見詰める杉野さん

 -皆さんそれぞれかき混ぜている図ですが、大阪ご出身の杉野さん、納豆への抵抗はありませんでしたか。または、いつ頃、克服されたのですか。

 杉野さん「私は最初から抵抗無く食べていました。 私の父は苦手なようですが(笑)」

*なんと、なんと!そうなのですね。ご家族のなかで納豆を巡って好き嫌いがあるのは個人的な嗜好によるものに過ぎないのだと。なるほど、なるほど。「大阪の人たちはみんな…」なんて思っちゃうのは、古くさい「ステレオタイプ」の大阪理解だったんだってことで。認識を新たにしました。

 -画像に戻ります。それにしても、杉野さん、あまりにもよい表情です(笑)。加えて、坪田さんの無駄に姿勢がよいところもツボです! そこでひとつ細かいこと訊いちゃいます。納豆はよくかき混ぜる派でしょうか。かき混ぜる目処としては何回くらいですか(笑)。

 杉野さん「回数はあまり考えていないですが、豆同士が引っ付いたままにならないのを意識(無意識に(笑))しています!」

 *食べるときにズズズって音が出る/出ないのあたり(失礼!)でしょうかね、それですと。って、なんとも細か過ぎる質問しちゃいましたが、それにも拘わらず、(というか、それに劣らず、)分析的で丁寧なご説明、有難うございました。

2 誰が作りましたか。普通、作るのにどれくらい時間をかけていますか。(or 主にどこで買ってくるのですか。)

 杉野さん「家を出る直前にサッと握って持ってきています」

 -そのもち麦入りのごはんですが、お昼用のおにぎりにするほか、朝ごはんと夕ごはんにも食べているのですか。

 杉野さん「そうですね。 分けて用意するのは面倒なので(笑)。 ちなみに朝は納豆と一緒に卵も食べています」

 *そうなのですね。ランチに限らず、納豆率、高めってことで。

3 ランチでいつも重視しているのはどんなことですか。

 杉野さん「次のリハーサルに影響が無いような量にしています」

 *私など、次に影響が出てもお構いなしに食べちゃうなんてことも随分ありましただけに、その姿勢、尊敬できますね、ハイ。

4 「これだけは外せない」というこだわりの品はありますか。

 杉野さん「あまり無いです(笑)。でもおにぎりの時は大体納豆もセットで持ってきて食べています!」

 *ふむふむ、そうなのですね。でも、納豆って、身体によいだけじゃなくて、おにぎりと一緒に食べたときには、食感の違いが大きいことから「食べた感」も大きめになるなんて側面もあるのでしょうね、察するに。

5 毎日、ランチで食べるものは大体決まっている方ですか。それとも毎日変えようと考える方ですか。

 杉野さん「最近はおにぎりと納豆のセットが多いですが、前日の夜ご飯の残りを持ってきたりする事もあります」

6 公演がある時とない時ではランチの内容を変えますか。どう変えますか。

 杉野さん「ほとんど変わらないかなと思います。ただツアーの時は大体納豆が無しになります」

 *モノが納豆だけに、ここまで糸を引くように、納豆を中心として色々お聞きすることができましたので、ここからはちょっと別のことを伺いたいと思います。

7 いつもどなたと一緒に食べていますか。

 杉野さん「写真に写っている4人(=三好彩音さん坪田光さん樋浦瞳さん糸川祐希さん)と洸太(=中尾洸太さん)、育見(=兼述育見さん)が大体同じテーブルで食べていることが多いです」

 *それはそれは。ホント楽しくて賑やかなランチタイムなのでしょうね。上にあげた写真からも充分伝わってきますから、それ。

8 主にどんなことを話しながら食べていますか。

 杉野さん「直前までやっていたリハーサルの確認をしたり、全然関係ない事だと誰かが行ったご飯屋さんの話をしたりもします!」

 -なるほど。で、そのランチ中の会話ですが、最近、どこのご飯屋さんの話に興味を持たれましたか。(実際、行ったりしましたか。)

 杉野さん「まだ行ったことのない所だと食堂もりしげさんとMY NAME IS ICE CREAMさんが気になっています!
ずっと行こうと思って行けてないのは欧風カレー食堂jiziさんです!
あと育見との話題によく出てくるのはSunBakeというパン屋さんです!休みの時に行ったりしています!」

 *おお、どこも行ったことありません(汗)。メモメモメモ。ハイ、脳内「お店リスト」更新完了です(笑)。併せて、ネットで検索しましたところ、いい感じのお店ばかりですね。しかも、ほぼ全ジャンル網羅的で。県外からりゅーとぴあに来られる方々にとりましても、よい情報であること間違いなしです。惜しみなく色々お教えいただき、有難うございます。でも、こういう話って、誰でも笑顔になっちゃいますよね、うん。因みに私も笑顔になってます、ハイ。

9 おかずの交換などしたりすることはありますか。誰とどんなものを交換しますか。

 杉野さん「おかずの交換は全然しないですね。 おやつをあげたりとかはたまにあります(笑)」

 -どんなおやつをあげたりするのですか。あのパインアメとか飴ちゃんだったりもしますか。

 杉野さん「チョコとかナッツとかを持っている時はあげています。最近だとバレンタインだったので、生チョコを作って皆にあげました!」

 *飴ちゃんとかとは段違いに、なんとも幸せな香りに満ちた空間が思い浮かんできます♪

 -逆によくおやつをくれたりする人は誰ですか。それはどんなおやつですか。

 杉野さん「くれる人はバラバラですが、皆、大体ナッツやチョコを持ってきていることが多いです。 今年のバレンタインにはすみさく(庄島さくら・庄島すみれ)さんが、チョコテリーヌを作ってきてくれました!あまり食べたことの無い感じでしたが、とっても美味しかったです!」

 *庄島さん姉妹のこと、「すみさく」さんって呼ぶのですね。メモメモメモ。そして、チョコテリーヌ!あの直方体で、食べると濃厚なやつですよね。う~む、なんと上品で高貴な響きなのでしょう!もしかしたらスロバキア仕込みなのでしょうかね。

10 いつもおいしそうなお弁当を作ってくるのは誰ですか。料理上手だと思うメンバーは誰ですか。

 杉野さん「りおちゃん(=三好綾音さん)が、スープなどを持ってきているのが美味しそうだなと思っています! インスタグラムにたまに載せているご飯も美味しそうなんです!」

 *三好さんが作るご飯の美味しそうなことについては、もう皆さん口を揃えて話されますよね。よろしければ、三好さんの「ランチ」も改めてご覧ください。納得がいく筈です。

 -スープと言えば、杉野さんご自身はランチどきの水分って、どんなものを飲まれているのですか。

 杉野さん「大体、水を飲んでいます。 食べ終わった後にはコーヒーを飲むことが多いです。何かおやつがある時はそれも一緒に」

 *なるほど。純粋極まりない水分のかたちでの摂取と。ここまでのお答え全般から、杉野さんにとって、ランチの位置付けはあくまでも、リハーサルの合間に少しだけお腹に入れるもの、って感じなのだと理解しました。杉野さん、どうもご馳走様でした。

杉野さんからもメッセージを頂戴しました。どうぞ。

サポーターズの皆さまへのメッセージ

「いつも応援、そしてご支援いただき本当にありがとうございます。 皆様からのお声があることが私達の励みになります。 最高の瞬間をお届け出来るよう日々精進してまいります」

ワタクシ事ですが、杉野さんと言えば、すぐに浮かんでくるものに、昨年(2023年)1月、『Der Wanderer - さすらい人』の中で『狩人』と(三好さんとの)『トゥーレの王』を踊る姿があります。その渾身の舞踊に涙腺が刺激されてやばかったことが今もありありと思い出されます。杉野さん、この度はどうも有難うございました。

ということで、「ランチのNoism」第21回はここまで。今回もお相手はshinでした。ではまた。

(shin)

Noism2定期公演vol.15 活動支援会員対象公開リハーサルを見てきました♪

2024年2月24日(土)、気温もそこまで低くはなく、季節は確実に動いているなぁと感じさせられるような三連休の中日、りゅーとぴあ〈スタジオB〉に赴き、標記Noism2定期公演vol.15に向けた活動支援会員対象公開リハーサル(12:00~13:00)を見てきました。

3日前のメディア向け公開リハーサルは、中尾洸太さんの新作『水槽の中の仮面』のリハーサル風景だったのですが、この日は、1時間枠を2分割して、前半は山田勇気さんが指導する「金森穣振付Noismレパートリー作品」の様子を、後半は中尾さん作品について見せて貰いました。

正午。その「金森穣振付Noismレパートリー」からです。山田さんの「それじゃあいきましょうか、3曲。3曲続けて」の言葉から始まりました。村上莉湖さんが両腕を拡げて上手(かみて)に伏せると、聞き覚えのあるノイズ然とした音楽が聞こえてきます。まずは『R.O.O.M.』から。(今回は天井から落ちてきたりはしなさそうです。)次いで、『sense-datum』へと進んでいくのを見ることになりました。

山田さんは椅子に腰掛けたまま、Noism2メンバーたちの動きを細大漏らさず、逐一目で追い続けますが、時折、音楽に合わせて腕(そして掌や指)を動かすその後ろ姿には、あたかも、自らがその一本の腕へと収斂し、その腕が追い求められ得る限りの理想の動きでその時々の一音一音を踊っているかのような風情が認められたほどです。

一旦、「3曲」を通し終えたところで、音楽を止めた山田さん。『R.O.O.M.』から動きのブラッシュアップが始まります。
「最初のポジションにきもちエネルギーが欲しい。張りを見せていく」
「それだと動きが消えちゃうんだよね」
「しっかりダウン。(重心が)常に下にあるんだから、大きくは飛べない筈」
伏せている姿に対して、または、足を回す動きについて、或いは、身体を回転させたその後に関して、そのひとつひとつに、山田さんから丁寧に細かなチェックが入り、若き研修生たちがそれに向き合っていきます。それらを通して、その場に居合わせた私たちにも「レパートリー」とは単になぞられるものでは済まず、同じ精神性の共有を求めてくるものなのだという当然過ぎる事実が(わかってはいたつもりでしたが、)ビンビン伝わってきました。

12:30。「じゃあ、ここまでで、次、洸太作品」という山田さんの声がかかり、後半の『水槽の中の仮面』リハに移りました。この日のメンバーは仮面はない代わりに、恐らく、衣裳と思われるものをその上半身に纏っています。

この日の中尾さんは、山田さんとは異なり、共にリノリウムの上にいて、音楽を都度止めながら、動きを練り上げていきました。
「音楽が“のぺーっ”と聞こえちゃう。音楽は壁紙じゃないんだから」
「イメージが自分だけで完結している。自分の呼吸感をまわりに伝播させていくこと。そして、まわりはそれを受け止めないと」
「(動きの)弱いところは弱くして欲しい。そして、強いところも、なんでそれが強く見えるのか、その本質的なところが大事」
中尾さんによって研修生たちにかけられる言葉、そして同時に示される実演、そのどちらにも、先日の囲み取材の折に、中尾さんが強く実感したと語った「僕の当たり前が当たり前じゃない」という意識が見てとれました。動きを磨くことで、作品のヴィジョンの共有も進んでいくのでしょう。

前半の山田さん、後半の中尾さん、その都度、ふたりによるチェックが入った後は、それぞれ、みんな動きが違ってきます。その様子をつぶさに目撃すること、それは活動支援会員にとって本当に大きな「特典」と言えるでしょう。この日、私たちが息を殺して見詰めたものは、向上心に溢れる若い13人の研修生たちによる挑戦と格闘のドキュメントと呼んで間違いないものだったからです。そしてその先に、来週末の公演「本番」を位置付けて待つ日々に格別な楽しさが宿った、そうも言い添えたいと思います。(皆さんも是非、活動支援会員の仲間入りをしてみませんか。)

来る弥生3月初、若竹の如く、ぐんぐん成長を続けるNoism2メンバーによる定期公演です。くれぐれもお見逃しなく!

(shin)

Noism2定期公演vol.15メディア向け公開リハーサル&囲み取材に行ってきました♪

2024年2月21日(水)13時、前日からガクンと気温が下がり、雨の降る悪天候のなか、りゅーとぴあスタジオBを会場にしたNoism2定期公演vol.15 メディア向け公開リハーサル&囲み取材に参加してきました。

この日、公開されたのは、Noism1の中尾洸太さんがNoism2のために振り付けた新作『水槽の中の仮面』のリハーサル風景でした。

13時になり、スタジオBの中に進みますと、演出振付家用の椅子は無人で、その奥、白いリノリウムの上に、Noism2の女性メンバー12人に混じって、決して大柄とは言えないその人の姿はありました。光沢のある青紫のダウンベストと黒いスウェットパンツ。中尾さんが穏やかな調子で、しかし妥協することなく、ひとつひとつ動きをチェックして、ブラッシュアップしていきます。

今作は、12人の女性メンバーが主に、デュオ(ふたり)×6組で踊られていく作品のようです。そして、各組ひとりずつ、タイトルにある「仮面」をつけているのが目に入ってくるでしょう。それも鋭利な刃によって裁断されたかのような、何やら曰くありげな、白い「仮面」です。更に、それに呼応するように、ふたりずつの関係性にも、引き裂かれたかのような、一筋縄ではいかない歪(いびつ)な感じが漂っています…。

この日、私たちが見せて貰ったのは、作品の冒頭部分でしょうか。中央で踊るふたりは春木有紗さんと与儀直希さん。音楽を流し、或いは、止めて、動きに中尾さんの細かいメスが入っていきます。言葉で伝えつつ、実際に踊ってみせながら、たおやかな回転が、頽(くずお)れる際の美しさが、確信に満ちた張りのある動きが目指され、何度もやってみては何度も頷き、そうして彼女たち12人の動きが変わってきます。歪さの果てに、何か美しいものが生まれ落とされつつある、そんな予感を抱いた30分の現場でした。来月初め、通して観る舞台が楽しみでなりません。

公開リハーサルを終えると、その場で、山田勇気さんと中尾洸太さんを囲んでの取材となりました。こちらでは、おふたりが語った内容からいくらかご紹介しようと思います。

*中尾洸太さんへの振付委嘱に関して
山田さん: 中尾さんのこれまでの振付作品を観て、一度、Noism2のために振付をして欲しいと思っていたところ、井関さんから話があり、タイミングなんだなぁと思った。
・内側から芸術家を輩出していくというのもひとつ大きなミッションであり、そのひとつの足掛かりとしての第1回でもある。
中尾さん: 井関さんから電話があったとき、すぐに「やります」と答えた。クリエイションが始まった昨年10月半ばころから、実感はあまりなく、お客さんの反応を見るまでは実感できないのだろうなと。

*新作『水槽の中の仮面』に関して
中尾さん: テーマは心と体、脳と体、頭と体。椎名林檎の楽曲『生きる』冒頭の歌詞「体と心とが離れてしまった/居直れ我が生命よ」が頭に残っていて膨らませていった部分があり、また、日頃生きているなかでの疑問符を作品に昇華しようという部分もある。
・Noismでの振付作品は4作目。作品を作る際、いつも前回の作品に関係のあるものを作っちゃう。今回も3作目を舞台に出したときに、ふと心と体が浮かんできた。三島由紀夫の本などを読んでいると、当時の人たちが自分の意志や表現を明確に出していたのに比べて、現代は心と体の乖離が大きくなっているように思う。時代を超えて今の自分のあり方を問われているように感じ、その影響もある。
・「デュオ」を用いたのは、何か制限が欲しかったから。そして、心と体といった本来、ひとりに宿るものを明瞭化するのに、定められた相手とだけ踊り続けていく「ふたり」から見える関係性の変化を考えた。

*Noism2への振付・指導に関して
中尾さん: (この日の穏やかな指導の様子は)う~ん、まあ、メディア効果(笑)。(全員大爆笑) 自分は細かいので、詰めたくなりがちで、多分、要求は凄く多い。大らかなときもあるし、大らかでないときもある(笑)。
・他人と接する領分や領域が拡がった。リハーサルを経て、僕の当たり前が当たり前じゃないと強く思い返した。(わかっていたつもりだったが。)

*金森穣さんのこと
中尾さん: 最初に所属したプロフェッショナル・カンパニーがNoism。今となっては、血も骨も肉も、無意識の領域までベースはNoismで作られた部分が大きい。パッと出す振りだったり、パッと思いつくものが、僕に「彼」のにおいを凄く感じさせる。「彼」の言語に共感して、そこに実感があるからこそ。クリエイションしているなかで、「彼」の残影はよく感じさせられている。

今回のブログは、見せていただいた中尾さん作品に関する内容ばかりとなりましたが、公演チラシによりますと、同時に上演される金森穣振付Noismレパートリーの方は電子音楽を中心とする「音楽縛りの5作品」(山田さん)で構成される「鋭利でエネルギッシュなダンスコレクション」とのこと。どうやら、対称的な2作品を楽しむ機会となることでしょう。チケットはまだ用意があるそうですから、くれぐれもお見逃しのなきよう!

(shin)
(photos by aqua & shin)





「柳都会」Vol.28 矢部達哉×井関佐和子(2024/2/4)を聴いてきました♪

2024年2月4日(日)、暦の上では「春」となるこの日の午後2時半から、りゅーとぴあ〈能楽堂〉にて、東京都交響楽団のソロ・コンサートマスターを務める矢部達哉さんをお迎えしての「柳都会」を聴いてきました。

―届けているのは本物。音楽と舞踊の関係性、不可分性。

柳都会vol.28 矢部達哉×井関佐和子 | Noism Web Site

今回の「柳都会」は、聞き手の井関さんが話をお聞きしたいお相手として、矢部さんを希望されたところ、快諾をいただき、実現したものとのこと。そして、開催日時が近付いてくるなか、SNSに「ミニ・ワークショップもある」という追加情報も出されるなど、これまでにないスタイルへの期待も膨らみました。

予定時間となり、井関さんからのご紹介で登場した矢部さん。鏡板の「松」の手前、「人生で初めて履いた」という足袋姿+「お見せするだけ」のヴァイオリンを携えたそのお姿はそれだけでもうかなり微笑ましいものがありましたが、その後、トークの間に、何度もヴァイオリンを弾いて説明してくださった矢部さんのお人柄に場内の誰もが惹かれることになりました。終始、穏やかな語り口で、ユーモアを交えて話された矢部さん。ここでは話された内容からかいつまんでご紹介しようと思います。

*矢部さんとNoismとの出会い
2011年、〈サイトウ・キネン・フェスティバル松本2011〉でのバルトーク『中国の不思議な役人』のとき。
矢部さん: 『中国の不思議な役人』は信じられないくらい難しい曲。しかし、指揮者から「舞台の上(Noism)はあまりにも完璧でびっくりする」と言われていて、ピットの中からは見えなかったのだが、舞台の上と繋がっている感覚があった。後からビデオで観て、(Noismに)一気に興味が湧いて、それ以来、自分の人生の中で欠かせないものとなっている。尊敬し過ぎていて、ただのファンという感じ。

*矢部さんとヴァイオリン
・矢部さん5歳: ヴァイオリンは、クリスマスに親が出し抜けに買ってきて、「あなた、コレやるんですよ」と言われて、始めたもの。それがずっと続いて今日に至るのだが、現実は甘くない。「100年にひとり」とかいう存在になるなど、「皮膚感覚で無理」とすぐにわかった。
・矢部さん高1: 病気で学校に行けなかった頃、マーラーのオーケストラ曲と出会い、「これが弾きたい」という気持ちになって、オーケストラでヴァイオリンを弾くことが目標に定まった。
・オーケストラとソリスト: 実力、メンタリティや意識のほか、奏法も違う。オーケストラは調和が大事なのに対して、ソリストは孤独に耐えることができて、一人で2000人の聴衆の一番後ろまで音を届かせなければならない。(一方からもう一方への転向はそれぞれに難しい。)
しかし、ソリストも弾く曲を自分で選べる訳ではない。例えば、メンデルスゾーン、チャイコススキー、シベリウスなどは1年に何度も弾かねばならない。一方、オーケストラでは色々な曲、色々な指揮者に出会えるメリットがある。
・矢部さん22歳: 4つのオケからオファーがあったなか、東京都交響楽団のコンサートマスターになる。その際は、急遽の展開だったため、オケ側の事前協議や準備もままならず、(ご自身は何も事情を知らないながらも、)「不完全なかたちでお迎えして申し訳ない。これからのことはもう少ししてから」と言われての4月のスタートだった。→その後、「大丈夫になりました」と言われたのは、1990年6月6日に「信じられないくらい美しい音楽」マーラーの交響曲第3番・第6楽章を演奏した日のことで、きたる6月に「20周年記念公演」で同曲を踊るNoismとシンクロする。

*コンサートマスターの仕事 
矢部さん: 指揮者とオーケストラは大抵、喧嘩するもの(笑)。そのとき、間に立って、いいかたちに持っていく役割。(穣さんほどじゃないけれど、)生意気だったかもしれないが(笑)、「長い目で見てあげよう」と思われていたのだろう。同時に、最初の4~5年くらいは、「子ども」で大丈夫かとも見られていたようで、「ごめんなさい」という感じで座っていたりもした。
井関さん: 若くしてコンサートマスターになる人はいるのか。
矢部さん: そんな時代もあり、昔は何人かいたが、ここ30年程でオーケストラの技量が格段にアップしてしまって、現在は難しい。

*(舞踊の)カウントと(オーケストラの)指揮者
井関さん: 舞踊の場合、指揮者にあたるのはカウント。カウントを数えて踊るのだが、最終的には、カウントを数えていると「見えなくなる」。 
矢部さん: (例えば、小澤征爾さんとか)本当に凄い指揮者は見なくても伝わってしまう。磁場ができて、自由に弾かせて貰っている感じになる。そのとき、舞台上は有機的に繋がっていて、触発され、相乗効果で演奏している感覚に。それがオーケストラで演奏する醍醐味。

*音楽性をめぐって
矢部さん: 才能もあるが、表現、音の陰翳、色の捉え方が大事。
井関さん: 舞踊家が音楽を身体に落とし込んでいくやり方は、個人によって異なる。矢部さんはどういうふうにキャッチしているのか。
矢部さん: 簡単に言うと、「作曲家の僕(しもべ)」として。例えば、ベートーヴェン。200年も経っているのだが、ビクともせず、生き残っている。普遍的な力で、現在に至るまで、どの時代の人の心も捕らえてきた。生き残らせる役割を仰せつかっている。音楽によって聴衆との間に生まれる空気を共有することが目的。

井関さん: 作曲家の意図を汲みつつ、オケにあって個性は必要なのか。
矢部さん: 生まれ育った環境も心の在り方も異なるのだから、個性は違って当たり前。
ピタリ合っただけの音楽は異様で、生きた音楽にはなり得ない。小澤さんは、個を出した上で有機的に調和することを求めた。

矢部さん: 音楽史上、最も偉大な3人(バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン)の音楽は色々な解釈、色々なアプローチを受け付ける。スパゲティ・ナポリタンにも色々なものがあるのと同じ(笑)。(ナポリタンである必要もないが(笑)。)

*呼吸をめぐって
井関さん: 踊っているときの自分の呼吸に興味がある。昨日、弾いて貰うのを聴いていて、矢部さんの呼吸にも。
矢部さん: あっ、そうか。(呼吸)しているんでしょうね。呼吸を入れると、身体が自然に動くが、止めると、身体も止まる。酸素を取り入れた方が流れがよくなる。
井関さん: 呼吸のコントロールで表現が変わってくる。自分の呼吸に気をつけていると、「離れる」こと、「引く」ことができて、身体に影響が大きい。
矢部さん: ヴァイオリンの場合、ダウンボウでは吐き出して、アップボウでは吸う。音の方向性(上に行くものと下に行くもの)に違いがある。

(5分間の休憩後には、予告されていた「ミニ・ワークショップ」から再開される。)

*金森さんの音楽センスと「ミニ・ワークショップ」
(金森さんも加わって、再開)
金森さん: 「雇われ演出家」の金森穣です(笑)。
矢部さん: 穣さんの音楽センスは、まわりの芸術家のなかでも傑出していて、まさに天才。音の陰翳、色を捉えた演出、ずっと興味があった。ドビュッシーの交響詩『海』、ずっと好きで、繰り返し聴いてきたが、『かぐや姫』で聴いたときが一番よかった。それが「金森マジック」。

「ミニ・ワークショップ」: 矢部さんが、金森さん×東京バレエ団『かぐや姫』で金森さんが使用しているドビュッシーの『亜麻色の乙女』、『海』(のそれぞれ一部)を弾き、その場で金森さんが即興で井関さんに振り付ける様子を観る、実に贅沢な時間…♪

矢部さん: (「ミニ・ワークショップ」では)ただ弾いていただけではなくて、彼ら(金森さんと井関さん)の動きを観ることで、陰翳が変わった。触発されて、別の弾き方をしてみたくなる。相乗効果。とてもクリエイティヴ。
金森さん: 呼吸の「間(ま)」、振付を考えるうえで大きいかもしれない。言葉がないもの、説明のしようがないものを届ける。非言語での想起。
矢部さん: 芸術は受け取る側に委ねられている。(恣意的に歪めることは違うが。)今あるメロディがより綺麗に聞こえる、「金森マジック」。
(この間、約15分。金森さん退場)

*呼吸、カウント、一体感…
井関さん: 最近、「声」が入っているもので踊る機会が多い。歌手の呼吸を聴き込んで踊っている。矢部さんの呼吸をキャッチできたときに一体化できる。
矢部さん: (小澤さんをはじめ、)偉大な指揮者は例外なく呼吸から受け取るものが多い。呼吸によって出て来る音楽が異なる。
井関さん: 一旦、繋がってしまうと、テンポはそれほど重要ではなくなる。信頼関係かもしれない。
矢部さん: 音楽よりカウントを優先させてしまうと、ズレてしまうかもしれない。うねり、抑揚、陰翳…音楽が身体に入ってくると、自ずと身体の使い方が変わってくるのではないか。

矢部さん: まっさらな楽譜に「ボウイング」を書き込むのもコンサートマスターの仕事。でも、違うんじゃないかと言われて、消しゴムで直すなんてことも(笑)。
井関さん: 普通に矢部さんのお仕事見学に行きたい。
矢部さん: そんなに面白くはない…(笑)。

(と、ここで井関さんが終了時刻の午後4時になっていることに気付き、告げる…)

矢部さん: あら、そうね。また遊びに来ます。今度は舞踊について質問したいことがたくさんあるから、それはまた機会を改めて。

…と、そんな感じでした。
矢部さんは「お見せするだけ」の筈だった(?)ヴァイオリンで、上に記した曲のほか、オーケストラとソリストの弾き方の違いを説明する際に、ブラームスの交響曲第1番からのソロ・パートを、更に、アップボウとダウンボウの違いに関しては、マスネの「タイスの瞑想曲」も(一部)弾いてくださいました。お陰で、(金森さん登場の「ミニ・ワークショップ」も含めて、)おふたりの本当に濃密、かつ、わかり易いやりとりを堪能させて貰えました。そんな豊かな時間を過ごせたことに、感謝しかありません。(何しろ終わったばかりで、こんなことを書くのは欲張りも過ぎる気がしますが、)是非、舞踊に関して改めての「機会」が実現しますように♪

(shin)