Noism×鼓童「鬼」再演:新潟公演初日、深化/進化した舞台に魅入られる喜び♪

2023年12月15日(金)、この日は朝から雨が間断なく降り続き、誰にとっても鬱陶しさが募る一日だったかと。そんななか、夕刻には「あの『鬼』」再演の舞台にまみえる予定があることがそんな一日の気分を変えてくれることは明らかでした、私(たち)にとっては。昨年あんなに魅了された「あの『鬼』」が、こんなにも早く再演されることで、また「あの感動」に浸れる、「あの『鬼』」に。

しかし、昨年の感動があるため、自然と「あの」という指示詞を冠してしまうような気持ちに、幾分か油断に似たものがあったことは認めざるを得ません。そうです。Noismと鼓童の舞台で目撃したものは、「再演」という言葉では充分に表象することが適わない深化及び進化だったからです。この日この場所で、まさに一期一会でしかない刹那そのものとしての舞台だったのでした。

最初の1音から淀みなく流れていく物語に身を任せるようにして視線を送る、その快感に満ちた『お菊の結婚』。そして、それとは全く趣を異にし、1音1音が立ち上げる異界に身を晒し続けるような時間の体験とも言える『鬼』。

約1年半を隔てた「再演」の舞台。「えぐみ」を増した25分間の『お菊の結婚』では、そのトップシーン、ゲストダンサーのジョフォア・ポプラヴスキーさん(元Noism1)が登場する場面が変更されていましたし、休憩後の『鬼』に至っては、(それは金森さんにあっては決して珍しいことではありませんが、)ラストシーンが昨年と違うものになっていました。そのほか、両作品には細部の変更も数多く見出されることでしょう。しかし、そうした変更以上に、この日、目に映じたものはと言えば、パフォーマンスの深化及び進化であり、結果、「かつて観たことがある」と言って済ませることなど到底できないレベルの舞台だったということになります。魅入られっ放しでした。

『鬼』が終わると、場内に熱く大きな拍手と「ブラボー!」の掛け声が響き、客電が点いてからでさえカーテンコールは幾度も繰り返されました。そのなかで、金森さんが、先日、急逝された衣裳担当の堂本教子さんに届けんとばかりに両手を天に向けて差し出して拍手を送ったその様子には胸にグッとくるものがあったことを書き記しておかねばならないでしょう。

その後、この日のアフタートークには金森さんと『鬼』の作曲者である原田敬子さんが登場して興味深いお話を聴かせてくれました。少し紹介を試みます。

☆金森さんからストラヴィンスキー『結婚』について問われて
原田さん: 極めて異色で挑戦的。ピアノに歌を混ざらせず、敢えてぶつけている。空虚な感じのする和音を多用。倍音が聞こえてくる。声の出し方も所謂「ベルカント(美しい歌)」ではない。
金森さん: 1923年初演なので、ちょうど100年前の曲。アタックでパッと切ってステイするシャープな人形振りが合いそうと思った。

★「『鬼』舞踊と打楽器アンサンブルのための」(2020-22)等々
原田さん: 金森さんからのオーダーは「太鼓を超越した響き」。こんなに早く再演できたことで、直接の継承がなされ、楽曲も成長する。演奏者に指示する際、共有できる言葉でイメージを伝えることも。(例:お墓を風がふーっと吹くような感じで、とか。)それ故、作曲家が生きている間にコミットしている初演者の存在は大事。それが伝わらなくなってしまった後世の人になると、歴史を学んでイメージして、想像力と実感をもって演奏することになる。
自分は「直感人間」。リサーチしてイメージが浮かんだのち、それを整理して楽譜におとすのに時間がかかる。
「作曲家」は「確信犯」。限りなく不可能に近いところを意図している。慣習的なものではないところを演奏者に要求っすることで、新しい世界が拓かれる。身体が変化するくらいでないと、響きは変化しないもの。
金森さん: 音楽でも舞踊でも、技術的な難しさは一昔前とは比較にならない。不可能に思われていたことも誰かによってできることが立証されると、みんなできるようになる。トップランナーは突き抜けて凄いのだが、後の者もついて行ける。チャレンジの質も変わってこざるを得ない。 

ざっと、そんなところだったでしょうか。
あと、ホワイエには原田さん手書きの「『鬼』舞踊と打楽器アンサンブルのための(2020-22)」楽譜(抜粋:冒頭部分と清音尼が鬼に変わる部分)が飾られています。鼓童メンバーを絶句させたというその超絶な細かさ、ガン見しておきたいものです。(撮影禁止です。)

さて、「鬼」再演、このあと新潟ではもう2公演あります。昨年の初演をご覧になられた方にも、今回初めてご覧になられる方にも、それぞれこの驚異の2演目に瞠目する豊かな時間が待ち受けています。それだけはもう間違いのないことと言い切りましょう。金森さんはクリエイションにおいて決して歩みを止めませんから、今回観るのが最上の舞台となります。つまり、観る側にとっては人生の豊かさの問題になろうかと。
心ゆくまでお楽しみください。

(shin)

Noism×鼓童「鬼」再演:視覚・聴覚障がい者/メディア向け公開リハーサルに参加しました(2023/12/08)

新潟市はこの日、鈍色の曇天。雪は落ちてこないながら、重苦しい冬の空の色そのもの。そんな空の下、「鬼」再演を翌週に控えて開催されたメディア向け公開リハーサルのため、りゅーとぴあを目指しました。視覚・聴覚に障がいを持つ方々と一緒に舞台に向かいます。館内のモニターにはNoism1メンバーによる「鬼」再演のPR動画が流されていて、見入りました。

開始時間の13時少し前に受付を済まると、劇場ホワイエに入りました。新潟のテレビ局からも3局が参加。公開リハーサル後の囲み取材に向けて準備に余念がありません。

そして昂ぶる気持ちのままに劇場内へと誘導され、開始時間を待ちました。この日、私たちが見せて貰ったのは、鼓童さんとの演目である『鬼』。その冒頭からの約20分間でした。
場内が暗転した後、静寂、そしてややあっての強打。昨年同様、そのトップシーンから既になす術なく絡め取られてしまうようでした。また、その後やってくる「総奏(トゥッティ)」の音圧といったら!あたかも場内の空気全体が異様な密度をもつ「塊」と化したりでもしたかのよう。劇場の椅子に身を置きながら、押し潰されそうなほどの圧を感じました。しかし/ですから、思ったのは、更にその音を至近距離にて浴びながら踊る身体たちのこと。それが如何ばかりかと。想像もつきかねますけれど…。目と耳を圧して迫ってくる本作はやはりもの凄い演目であると再認識した次第です。

13時20分頃、前半部分の通しでのリハーサル鑑賞は終了。そこから、金森さんからのフィードバックにより、照明や動きの音楽との同調性、位置の精緻な調整が始まりました。
ある箇所、カウントが定まっていない原田敬子さんの音楽にあって、演奏者と舞踊家とが(原田さん的にはOKなのか案じながらも)最上の実演を求めて、互いにじっくり時間をかけてやりとりを重ねる姿を目にして、そんなふうにして妥協を排して具現化されていく舞台作りに尊さの思いがこみ上げてくるのを禁じ得ませんでした。

囲み取材が始まったのは、予定段階では終了時間とされていた13時45分頃のことでした。ここでは、その取材時に金森さんと井関さんが語った内容を中心に、そのご紹介を試みます。

○『鬼』再演に関して
金森さん: Noism設立から19年の昨年。初めて新潟をテーマに作ったもので、新潟にある舞踊団として大事な作品。鼓童さんとの初めてのコラボレーションということもあり、早く再演したいと思っていたところ、井関さんが早めに決めてくれ、嬉しい限り。 
井関さん: この作品に関して、昨年は早々に完売となり、観られなかったという人も多くいた。再演は常々やりたいと考えている。新作において新しい出会いがあるのは勿論だが、再演にあっても、舞踊家、演奏家、演出振付家にとってたくさんの出会いがある。そうやって作品を練り上げていくことで「名作」となる。それは必然。この作品に限らず再演はやっていきたい。
金森さん: 演出家にとって(所謂)「再演」は一個もない。全て、今この瞬間に生まれている作品。実演芸術はホントに一期一会。今回、再演にあたって、より際立って収斂されてきた。舞踊家の身体の深度も全然違っている。(経済や文明の時間軸が発展や進化で語られるのに対して)「文化」とは蓄積であり、成熟である。それを味わえることも劇場文化の価値と言える。再演はまさにその貴重な機会。この一年半のなかで演出家として磨いてきたエッセンスが、そして舞踊家と演奏家の一年半の経験値が盛り込まれていて、あらゆる方向でパワーアップしていると言える。手応えは充分。新潟市の舞踊団であり、テーマは新潟。ひとりでも多くの新潟市民に観て欲しい。
井関さん: まだまだこれから進化(深化)できる。舞台に立って稽古できる環境があることを幸せに感じている。まだまだいける。今回、鼓童メンバーと話していても深度が違う。「この作品は新潟をテーマに、新潟の舞踊団と太鼓集団による作品。絶対に世界に持っていきたい」と話していた。その始まりとして、この再演がある。多くの人に観て欲しい。

その後、進行にあたったNoismスタッフの方から、①新潟での3公演にはいずれも終演後に30分のアフタートークが予定されていて、チケットがあればそれを聴くことができることと、②現在、Noism20周年記念事業に際して広報活動の強化のためのクラウドファンディングに取り組んでいることとが紹介されました。(「クラファン」、私も少額ですが、寄附させて頂きました。)そんな囲み取材が終了したのは13時55分でした。

待ちに待ったNoism×鼓童「鬼」再演。本当に深化(進化)が感じられる公演、いよいよ来週末の開演。「もう幾つ寝たら」とか数えることすら必要ないほどに迫ってきました。まだまだお席に余裕があります。こぞって、あの音に、あの舞踊に、あの世界観に身悶えしに行こうではありませんか。りゅーとぴあ〈劇場〉で深化(進化)した「鬼」を目撃してください。

(shin)
(photos by aqua & shin)

金森穣×東京バレエ団『かぐや姫』新潟大千穐楽を総身に浴びた至福の2時間40分♪

2023年12月3日(日)、新潟市は本格的な「冬」を連れてくるとおぼしき強烈な風雨に見舞われました。この日はりゅーとぴあも県民会館もイヴェント目白押しで、果たして駐車場に車を入れられるか、若干、不安な気持ちを抱えつつ、りゅーとぴあを目指しました。少し待ちましたが、何とか入れ替わりのタイミングで駐車できて、まずは一安心。

冬の荒天のなかの各公演地『鬼』再演ポスター

13時30分の入場時間を前に、どんどん観客は集まってきます。私自身も久し振りのりゅーとぴあでしたので、友人、知り合いの顔を探しながら待っていました。そんななか、山田勇気さんと浅海侑加さん夫妻、ジョフォア・ポプラヴスキーさんと中村友美さん夫妻、現Noism1メンバーの糸川祐希さんとお母様にお会いして、ご挨拶をしたり、お話できたりとウキウキ気分もずんずん盛り上がっていきました。

そうこうしているうちに入場時間となり、ホワイエに進むと、そこは一段と賑わいが増しているように思えました。この日のミッションは金森さんと井関さんからプログラムにサインを貰うこと。特別なペンを用意して臨みましたが、おふたりの姿は見えません。「今日は立たれないのかな」と半ば諦め始めた矢先、おふたりが出てきてくださいました!この時点で既に興奮はMAXレベルに! 無事、金色のペンでサインをしていただくことが出来ました。

14時になり、(恐らく)最後のお客さんが席についたところで開演。そこからはまた別の興奮に包まれることになります。前の記事でfullmoonさんが書いてくれたように、今公演は「すり鉢」状の一番「底」にあたる部分に地続きでせり出すようにして舞台が設えられていて、そのため、(恐らく)どの席からも想像以上に近くから見下ろす感じで鑑賞することができたからです。近い、近い!

そんなふうに総身で浴びるようにして観た『かぐや姫』全3幕公演の大千穐楽の舞台。第1幕の「緑」、第2幕は「赤」と「黒」、そして第3幕の「白」、休憩を含む至福の2時間40分でした。

まず驚くべきは音楽。ドビュッシーの音楽はこの金森作品のための劇伴音楽ではないかと思ってしまうほど! で、ドビュッシーって本当に様々な曲を書いていたのだと改めて感じたりもしましたが、「超」が付くほどの有名曲が使用された場面であっても、舞台上のパフォーマンスの強度が強くてちっとも音楽に負けていないばかりか、逆に、今後、その曲を聴くと舞台の場面を思い起こさずにはいられない、そんな気がするほどです。ここまで集めに集めて、オール・ドビュッシーで構成した金森さんの執念も感じました。

そのパフォーマンスの強度、東京バレエ団の団員に目は釘付けでした。この世の者とは思えない秋山瑛さんは「白」。跳ねる無邪気さから陰影に富む憂いまで全身で「かぐや姫」をリリカルに具現化していきます。一方、「影姫」沖香菜子さんの「赤」。吸い込まれそうな半端ない目力ともども、衝撃的としか言いようがないほどの圧倒的な存在感で迫ってきます。そして勿論、「道児」柄本弾さん、「翁」木村和夫さん、「帝」大塚卓さんはじめ男性陣も素晴らしかったですし、男性群舞の場面などはまさに圧巻でした。そして金森作品のファンとしては「暗躍(?)」する「黒衣」たちが「金森印」として可愛くて仕方なかったことも言い添えておきましょう。

私たちを超えた大きな力により、この世に「愛」をもたらさんと遣わされた「かぐや姫」。周囲に人を愛する心を芽生えさせますが、それは同時に、「嫉妬」や「欲望」その果てに「憎しみ」や「争い」までもたらすことになってしまい、失意の底、嘆きの(無音の)叫び声をあげるや、…。(←あくまでも個人的な解釈です。)

私たちが目撃したのは、紛れもない金森作品としての普遍的なグランド・バレエの誕生。バレエに疎い私ですが、この作品をもって東京バレエ団の素晴らしさを知り得たことも喜び以外の何物でもありません。他の演目も観てみたいと思ったような次第です。

曰く、桃や栗と同様に、3年間の月の満ち欠けの果てに、ここに結実を見た金森さんと東京バレエ団の『かぐや姫』全3幕。この名作の世界初演に立ち会えたことをしみじみ嬉しく思っております。

そして今月(2023年12月)は、この度の『かぐや姫』を皮切りに、中旬は鼓童との『鬼』再演(12/15~17:『お菊の結婚』含む)が、そして大晦日にはりゅーとぴあジルベスターコンサートにて「新」ボレロが待つ、まさに金森さんとNoism「大渋滞」の月♪ 年末の渋滞する道路は御免ですが、こちらは嬉しい悲鳴そのもの。りゅーとぴあでお会いしましょう。

さてさて、今夜は私も(プログラムに読める三浦雅士さん同様に)アリス=紗良・オットのCDでドビュッシー『夢想』を聴いて寝ることと致します。あの余韻のままに…。

(shin)

これは間違いなく羨望の的にして嫉妬の対象!「さわさわ会」誕生会・懇親会♪

2023年11月4日(土)の新潟市、イタリアン・Bit新潟店(3Fフロア)。霜月というのに寒さなどとは無縁の夕刻。前日にお誕生日を迎えられたタイミングで総会(18時)、及び誕生会・懇親会(18時30分)が開催されたのは「さわさわ会」。そうです、舞踊家井関佐和子さんを応援する会の会員たちが集い、誠に賑々しく、それでいて、とてもアットホームな得難い時間を過ごしたのでした。

常に私たちにとって憧れの視線の対象であり続ける井関さん。そのお誕生日をお祝いする会を、金森さんとともに、そしてNoism設立に大いに力のあった前新潟市長・篠田昭さんや当時の事業課長・田代雅春さん(現・秋葉区文化会館館長)も交えて、美味しいお料理とお酒を囲みながら執り行い、和気藹々の時間を過ごした訳ですから、もうこれは間違いなく羨望の的にして嫉妬の対象であると言い切ってよいかと思われます。

左から田代雅春さん、古俣舞愛(「舞衣子」)さん、篠田昭さん

私たちの憧れ、「新潟の誇り」にして「新潟の宝」をお迎えして、みんな終始笑顔でお誕生日を祝って過ごす時間のその贅沢さ。例えば、ワタクシ(shin)目線で切り取っても、ブログ用に写真を撮ろうと立ち上がった私に金森さんが視線を送ってくれたかと思うと、続けて唐突に「今日、日本シリーズ見なくていいの?」と(気を遣って、敢えて)弄って貰えるような一場面があったりと、(「日本」を一足飛びで超え出る、生「新潟から世界へ」と過ごす時間でしたから『おーん、そらそうよ』気分でしたし、実際、結果的には見なくてよかったのでしたし、)それはそれは幾重にも親しみに覆われた得難い空間がそこにはあったのでした。豊かな心持ちで浸り切りました。

ここから先はそんなふうにして撮った写真を以て、この夜に体感した溢れる贅沢さの一端でもお伝えしようと思います。(『かぐや姫』東京公演楽日に撮れなかった井関さんのピース写真を再びお願いして撮らせて貰ったものも含まれています。リベンジできて安堵です。)

来年度の「さわさわ会」総会・誕生会・懇親会について、会長の齋藤正行さんから実に斬新で、物凄く楽しいだろう計画も披露されましたし、この親密で開かれた会にあなたもご加入されては如何でしょうか。この贅沢さ、誰にとっても、きっと「プライスレス」です。(キッパリ)

齋藤正行「さわさわ会」会長を出待ちするの図

(shin)

東京バレエ団『かぐや姫』東京公演を終えて(ひとまずの)「アフタートーク」的インスタライヴ♪

東京バレエ団×金森穣『かぐや姫』全3幕世界初演の東京公演(10/20~22)を終えて、2023年10月29日(日)の20時から(ひとまずの)「アフタートーク」的なインスタライヴが金森さんと井関さんのインスタアカウントで配信されました。このあと、新潟公演をご覧になられる方にとっては、「アフタートーク」ではなく、「ビフォートーク」となることから、ネタバレ等を気にされる向きもおありだったかもしれませんが、その心配もないやりとりだったかと思いますので、是非、アーカイヴにてご視聴頂きたいと思います。

かく言う私も、この日が日本シリーズ第2戦の日にあたっていたため、その時間帯には、こちらをリアルタイムでは視聴せず、(その前日とはうって変わって、悶々とした気分で)テレビの野球中継で試合の推移を見詰めておりました(汗)。その後、アーカイヴで視聴したのですが、楽しい気分になれたのは有難いことでした(笑)。

このブログでは、一区切りがつき、開放感たっぷりに『かぐや姫』という新作のグランド・バレエの創作を振り返ったおふたりのやりとりがどんなものだったか、以下に少しばかりですが、かいつまんでのご紹介を試みたいと思います。

☆金森さんが東京バレエ団芸術監督・斎藤友佳理さんと初めて会って食事しながらオファーを受けたのは5年位前(2018年)。その後、調整しつつ、題材を決めつつ、振り付けを始めたのは今から2年7ヶ月前。外部への「純クリエーション」はこれが初めて。50人超えの人数やスタジオの大きさに慣れるのに時間がかかった。最初は疲れた。第1幕振り付け時には金森さんは日記をつけていた。(←そうでした、そうでした。思い出しました。)

★東京バレエ団が目黒ということで、金森さんと井関さんの滞在先はずっと白金台(8回)だったのだが、最後の三週間だけは品川だった。品川の人の多さは凄かった。

☆第1幕をガラッと変更した。家具も曲線を増やしてモダンデザインに変えた。
【註】新潟では2021年11月に第1幕が上演されたのみである。

★照明の話。照明作りはまず第3幕から始めて、第1幕へ。しかし「ゲネ」に及んでも、第2幕の追加した場面の照明ができていなかった。それが仕上がったのは、「初日」の午前4:50頃のことだった。(清掃等が入る都合上、劇場が使えるのは最大午前5時まで、とのこと。)

☆照明の話(つづき)。照明はロジックではなく、イメージの世界。しかし、具体的に形にするための指示を出さなければならない。今回は空間が大きくてスタッフの人数も多かった。「全幕物をイチから全部照明を作る人はいない」(井関さん)「振付家で一番大変なことは、自ら納得し決断できるところまで、スタッフに付き合って貰うこと。多くの人を巻き込んで動いて貰い、それを背負うこと」(金森さん)

★「任せられなくて」照明を自分でやることで、間際になればなるほど、舞踊家たちとの時間が減ってしまわざるを得ないことに「申し訳ない」思いもある、と金森さん。それを受けて、「どこかで手放さなければならない。ギリギリまでやったら、その瞬間を本人たちが生きられるかどうか」との考えを示した井関さん。舞踊家も自立する必要がある。初日のパフォーマンスは緊張感とともにみんな確実な道を選んでいきがちとも。

☆新潟の舞台は狭いので、空間構成がどうなるのか。みんな並べるのか、入るのかどうか。取捨選択しないと「危ない」とも思う。

★今回のクリエーションについて、「ホントに勉強になった。イメージし得る身体の使い方、振付の可能性など今まで味わったことのない発見があった」と金森さん。一方、コンテとバレエが「違うもの」と思って『かぐや姫』をやられるとそれは違う。バレエのそこから先を一緒に見出していきたい。それだけにもっと踊り込んでいく再演の機会があって欲しい。

☆舞踊家たちがバレエ的な要素を含めつつ、「一線を越えようとしている」姿が面白かった、と井関さん。金森さんは、これまで、時代的にも、振付のスタイルを確立しようとしたことはない、と。しかし、今回の東京バレエ団との作業を通じて、よりバレエ的なものと向き合い始めて、「バレエ的な身体の型がありつつ、それを保持したまま、如何にただの形ではないところに行けるか。このプロセスで見つかっていったものがスタイルになりそうな漠然とした思いがある」(金森さん)

★「生オケ」での『かぐや姫』は編集の専門家を入れる必要があり、ハードルが高い。

☆「影姫」の配役について、沖香菜子さん・金子仁美さんともに「意外」と言われることも多かったが、金森さんと井関さんにとっては、全く意外でもなく、「それこそそうにしか見えなかった」と井関さん。

…主に、そんなところを以てこちらでのご紹介とさせていただきますが、なお、上の内容に続けて、ラストの7分程度(とりわけ最後の5分間でしょうか)、とても楽しいお話が聞けます。まだの方は大きな損をしていると言えそうな程ですから、是非お聞きください♪

そして、新潟ローカルの話にはなるのですが、折から、今日深夜には(正確には日付が変わって「明日」になりますが)、BSN新潟放送で『劇場にて』の再放送もあります。鼓童との『鬼』再演の舞台裏に密着取材したこの番組、まだご覧になっていない方はお見逃しなく、ですね。

では、今回はここまでということで。

(shin)

『かぐや姫』東京楽日(10/22)、新たな「名作」が「大入」の客席を魅了し尽くす♪

2023年10月22日(日)朝、上野を目指して上越新幹線に乗ったとき、新潟の空は鈍色で、気温も低かったのですが、いくつもトンネルをくぐり、新潟を出てみると、雲ひとつない快晴が待ち構えていて、既に気分もあがっていました。

なるべく、各種SNSに溢れる前々日と前日の評判を遠ざけるようにしていたのですが、やはり、「絶賛」コメントって奴は容易に忍び寄ってくるものです。もう期待感しかありませんでした。

以下、ネタバレはありませんので、この先もお読み頂けたらと思います。

上野に着いてみると、この日は「上野恩賜公園開園150周年総合文化祭」というイヴェントの最終日ということもあり、晴天の下、様々なブースも設けられるなか、大勢の人たちが思い思い、存分にこのエリアでの時間を満喫するその賑やかで華やかな様子に、自然と溶け込む感じで開演までの時間を待ちました。

13時頃、入場待ちの列に並んで、時間通りの13:20に大ホールに入りました。真っ直ぐ進むと金森さんと井関さんがふたりで並んでお出迎えをしてくれていましたから、まずは笑顔でご挨拶。「楽しみにして来ました」と言うと、「大いに楽しんでください」と井関さん。その後、華やぐホワイエのあちこちを写真に収めている最中、おふたりの姿を振り返ってみると、そこで「即席撮影会」が始まっていましたので、「ならば」と引き返して、私も順番を待ちました。

「新潟でもいっぱい撮ってるじゃない」と金森さん。「でも、ブログ用に一枚お願いします」ってことで、おふたりの写真を撮らせていただきました。嬉しかったです♪

赤地に勘亭流の「大入」の文字が示す通り、大ホールの客席は5階席までびっしり観客で埋め尽くされていきました。その中に身を置いて、ワクワクする気持ちで幕があがるのを待ったような次第です。

開演。刷新された第1幕を観ました。「これは!」予想通り、そして評判通り、物凄いことになっていました。
「2年前の第1幕」において、金森さんの方が歩み寄った民話の持つどこか牧歌的な情緒はほぼ削ぎ落とされ、眼前に展開されるのはソリッドこの上ない、紛れもない金森ワールドです。炸裂する抽象性と象徴性や暗示。その美しい切れ味と言ったら、もう怖いくらいの、いつもの「あの」金森ワールド。そう言えば充分でしょう。45分間、ヒリヒリ、ゾクゾクいたしました。

続く第2幕は、第1幕刷新のきっかけとなり、前回驚きながら見詰めた序破急の文字通り「破」のパート。今回は落ち着いてじっくり観ることが出来ました。(でも、そう言うと少し妙ですよね。)そしてこちら第2幕にも第1幕ほどではありませんが、若干の変更があることに気付きました。あやふやで覚束ない記憶を辿っただけですが、「あの場面がなかったな」とか思いました。
鮮烈な色が提示されるなか、交錯するそれぞれの孤独、そして欲望。何か起きない訳がありません。

いよいよ、初めて観る第3幕。多くは語れません。前日のfullmoonさんのレポートにあった「バレエ・ブラン」の要素も濃厚で、(バレエに疎い私が言うのもなんですが、)全3幕中、もっともバレエっぽいパートと言えるかもしれません。更にそこには、金森さんの過去作を想起させられるような趣向もあったりして、密かにそうした楽しみ方も忍ばせておいて悪戯っぽく笑う金森さんを思い浮かべたりもしました。

そこからは圧倒的な群舞で魅せるパワープレイも決まりまくりで、その果てに待つラストシーン、やはりそこも見どころのひとつです。最後まで目が離せない案配になっているのですが、それは皆さんがドキドキしながら、ご自分の目で確かめてください。

終演後、満席の客席から響いた万雷の拍手と「ブラボー!」。それはカーテンコールが繰り返されるにつれて、更に一層の大音声となっていきます。やがて、あちこちで始まったスタンディング・オベーションはどんどん広がりを見せ、結果、5階席のてっぺんまで、場内のみんなが総立ちとなって拍手を送ることになっていました。それはまさに圧巻の光景そのもの。客席にそんな途方もない熱量を生み出してしまうほどの「名作」バレエ誕生の現場に居合わせることが出来た喜び。熱い感動に満たされて、できることはただひとつ力を込めて拍手するのみでした。

公演初日のブログでかずぼさんが書いてくれたように、この『かぐや姫』東京公演3日間は、文化庁助成による「劇場・音楽堂等の子供鑑賞体験支援事業」の対象とされ、「子ども無料招待」公演でもありました。会場から出ようとしていると、前方には、鑑賞を済ませた子どもたちを待つ多くの保護者たちの姿がありました。恐らく、恐らくですよ。恐らく、子どもたちは出迎えた保護者たち、その誰一人の想像も及ばないほどの芸術の深淵に身を浸す時間を経験したことでしょう。繰り返しますが、恐らくですよ。子どもたちの顔はどれも輝いていました。それは勿論、彼ら彼女たちだけではありませんでした。東京文化会館を出て、振り返ったとき、目に飛び込んできたどの顔も一様に笑顔でしたから。大人も子どもも例外なく。

私も容易には立ち去り難く、場内で見かけた知人が出て来るのを待って、ひとことでも言葉を交わさないではいられない心持ちになり、…。

そんな東京バレエ団×金森穣の名作『かぐや姫』は、このあと、12月3日(土)と4日(日)のりゅーとぴあ〈劇場〉に場所を移して降臨します。是非とも新たなバレエの「歴史」を目撃し、大きな感動にうち震えにいらしてください。新潟でお待ちしております。

(shin)

インスタライヴ(2023/07/30)で語られた『Silentium』の「一体感」の真相、或いは深層

美容院に行っているときに思い立って、その午後の実施が決まるという油断出来なさ加減で届けられた7月30日(日)のインスタライヴは、リアルタイムでの対応が難しかった向きもあったかと思われますが、かく言う私もそう。その後もバタバタしていて、漸くアーカイヴをクリック出来たのは月も変わった葉月朔日のこと。

この日はゲンロンカフェも控えているし、ってことで、バタバタしたままに、かいつまんだご紹介をさせて頂こうと思います。詳しくは、おふたりのInstagramのアカウントに残されたアーカイヴをご覧ください。

約54分間、実に刺激的なお話を聴くことが出来ます。その「刺激的」というのは、如何に目の前で展開される踊りの実相に迫るのが難しいかということに尽きます。「領域」ダブルビル公演の『Silentium』において、金森さんと井関さんが「ほぼ初めてふたりだけで約18分間踊る」という前情報に接しただけで、おふたりの「息の合った」踊りを見ることになるのだろうという(ある意味、安直な紋切り型の)憶断が形作られてしまい、そうなるともう、それを離れて自由な視線を送り得なくなってしまうという、そんな作品、そんな実相…。

それでは…

*井関さんは昨年決まっていたこの作品を「軽いと思っていた。中継ぎみたいに凄く軽く考えていた。全く想像がつかなかったから」そう語ります。

*しかし、あちこち色々な場所で行われたクリエイションは「ペルトの『音楽ありき』で、曲だけ決まっていたが、曲が曲だけに音にあてて振りを作る訳にはいかず、振りは振りで無音で作っていった。何が生まれるか、実験的だった。漠然とは考えていたが、こんなに大変とは思わなかった」という展開をたどることになります。また、振りの前に宮前義之さんから衣裳が届いていたという稀有なパターンだったとも。

*本番では普通とは違う集中力で噛み合うものの、稽古では、お互い自分を出してくるので噛み合わないとか、本番では「その瞬間を生き切る」刹那感で、予定調和は全部はずれちゃう、と金森さんが語れば、井関さんは本番では委ねられる、委ねるしかないと言い、更に、一緒に踊ると、舞台にあがったときの金森さんはその差が激しく、「ここまではっきり違う人はいない」、びっくりするとも。

*『Silentium』での「一体感」については、ふたりは性格もアプローチの仕方も全然違っていて、直前のルーティンも別々。「そうじゃないとあそこまでいけない。一個人一個人なんだけど、お互い協力して乗り切るしかない」のだと金森さん。そのうえで、井関さんが、金森さんと踊るときの「面白いことふたつ」を、「①委ねられる。行こうとしている動きのところに必ずいてくれる。②自分の足に立てなくさせるときもある。基本、自分の足で立っていない」そう語り、その具合を「安心感」とともに「怖い」と表現して伝えてくれました。

*また、無音のなかカウントで踊るかたちだったのではなく、要は呼吸だったとし、アクセントからアクセントまでの尺のなかで、「ここらへんにいる」は決まっていても、それも大分揺らいでいて、そうした音に対する遅れがわかるのは井関さんの方で、金森さんはざっくりやっている感じなのだと明かしてくれました。

*宮前さんによるあの衣裳に関しては、「塗り壁」がコンセプト。あそこまで覆われていて踊るのはそうないので難しかったそう。軽くて着心地はいいが、存在感があり、骨や身体の中の構造を意識して踊る必要があったと金森さん。

*また、あの作品、床に敷かれていたのはリノリウムではなくて、パンチカーペット。「米を降らせたかったから」(金森さん)、音がしないのがよかった。キュッという音もなかった。「床大臣」の井関さんは滑らないスプレーを見つけたとのこと。

…と、そんなところを取り出して極々簡単なご紹介を試みてみましたが、勿論、もっともっと豊かな膨らみに満ちたお話を聴くことが出来ますから、実際にお楽しみ頂くのが一番です。

最後、再度、この日のインスタライヴを聴いた個人的な印象で締め括らせて頂きます。お話を聴けば聴くほど、予断を持たずに目に徹することが如何に困難だったかに直面させられた次第です。舞台に向かっていた約18分間、あの緩やかさのなかに、或いはその奥に激しさやらきつさやらを見出すことは出来ました。しかし、今、「息が合っている」という枠組みのなかで見詰めるのみだったことを思い出しています。勿論、「息が合っている」のですが、その真相、或いは深層を聴いて、見ることの困難さに愕然とさせられているような塩梅です。その意味で、とてもスリリングなインスタライヴだったと思います。また、聴こうと思います。

(shin)

「柳都会」Vol.27 栗川治×山田勇気(2023/7/23)を聴いてきました♪

2023年7月23日(日)、暑い日が続く文月下旬、日曜日の夕方、スタジオBを会場にNoism地域活動部門芸術監督・山田勇気さんが初めてホストを務めるかたちで開催された「柳都会」vol.27を聴いてきました。

山田さんの「柳都会」デビューとなる今回のゲストは栗川治さん(立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程ほか)。視覚障がいを持つ栗川さんは、2019年から続く「視覚障がい者のためのからだワークショップ」に初回から参加し、山田さんと共に、同ワークショップの充実・発展に多大な寄与をしながら、普通に、一観客として、本番の公演にも足を運ばれておられます。

栗川さんには、いったいどんな世界が「みえている」のか。打合せ、メール、ワークショップ、公演を通して重ねてきたやり取りを手掛かりに、参加者の皆さんとも一緒に身体や芸術についてイメージを膨らませ、思索を深めます。

Noism Web Site より

申し込みの動きも早く、定員に達して迎えたこの日の会場。参加者は全員、おふたりによる大いに刺激的な対談を堪能しました。

障がいのある人も障がいのない人と同様に、普通の生活を送るべきであり、双方、社会生活を共にするべきとする「ノーマライゼイション(Normalization)」の考え方に基づいた社会参加を行い、サッカー観戦などにも出向く栗川さん。観客4万人のビッグスワンでは、ゴールを外したときや決めたときをはじめ、その場の雰囲気、臨場感に、「見えていないんだけど、その場に身を置いているだけで楽しい」と語り、聞いているし、感じているし、「見ている」だけではない(視覚優位ではない)「五感で開く可能性」に関して、「視覚障がい者のためのからだワークショップ」のこれまでを紹介することを中心に、山田さんと示唆に富む対談を聞かせてくれました。ここでは、かいつまんでそのやりとりのご紹介を試みようと思います。

(1)ワークショップ1回目(2019年12月18日): 手のひら合わせ→相手を感じて動く/踊りになっていく
・この時期は、Noism存続問題で大変だった時期と重なり、一層の地域貢献が求められていた。
・サッカー観戦と異なり、声を出せない劇場の性格から、いきなりの舞踊鑑賞は課題も多い。互いに理解し合う必要があった。
・栗川さん「実際に舞踊家の身体に触ってみてくださいと言われ、全身を触りまくった」
・山田さん「手が求めている。手が目である。触りにきているその勢いに頭が真っ白になった」
・栗川さん「肌と肌の触れ合いのなかで一緒に動いていくことに大きな意味がある。視覚障がい者に対する一般的な鑑賞サポートの在り方が、(1)オーディオガイドによる『ことば』を使った説明、(2)事前事後に組まれる『タッチツアー』と呼ばれる大道具や小道具を触る機会の提供だったりするなか、『ことば』に依らないで、ダンスを感じて、体験することを目指すもので、『とてもよかった』。『ことば』は理解するには優れたツールであるが、ダンスを鑑賞するには、足りないし、場合によっては害になり得る。本来、『ことば』では表現出来ない筈のものを『ことば』に還元してはダメ」

(2)ワークショップ2回目(2020年12月19日): Noismの作品『春の祭典』を踊ってみる
・実際の舞台を経験して貰えないかが出発点。
・『春の祭典』の冒頭部、椅子に座って、踵で床をリズミカルに踏み落とす。(2グループで違うリズムで)
・また、『夏の名残のバラ』の音楽に合わせて、身体で相手を感じて、繋がり、踊った。
・栗川さん「金森さんが『ダンスによる音楽や物語の可視化』と言ったものを、再不可視化したとき、何が残るかを楽しみにして本番の公演を観に来た。音、重量感、拍手、米の音や振動、息遣い等、触れるように感じることが出来た。体験したものが始まる瞬間には『来たー!」という嬉しさがあり、身体が覚えているものは一緒に動いて踊っているように感じた。しかし、映像作品(映像舞踊『BOLERO 2020』)には何も感じなかった」 
・栗川さん「視覚的には『見る』とは網膜に映すことを意味するが、網膜を介さなくても頭にイメージが浮かべば『見た』ことになるのではないか。何らかのかたちで外界をキャッチすることが『見る』ではないか」
・山田さん「踊っているとき、まだ見えないものやこれからの動き等、半分はイメージの中にいる。そういう時間軸のなかで踊っている。
・栗川さん「目で『見る』というのはほんの一部に過ぎない。視覚は強烈な感覚であるだけに人を惑わすこともある」
・山田さん「そのことは舞踊の本質と関係ある。いろんな要素が絡み合って、いい舞踊となる」

(3)ワークショップ3回目(2022年3月12日): Noismの作品『Nameless Hands - 人形の家』を踊ってみる
・栗川さんから「物語、ストーリー、Noismの世界観を感じたい」とのリクエストを受けて実施。
・山田さん「『ことば』だけでなく、身体で直接、伝え導いて振り付けることは出来ないかと考え、人形浄瑠璃にヒントを得た、黒衣による人形振りの作品を選んだ」
・栗川さん「本当に後ろから抱きかかえられて、人形となり、それが踊りになっていくのは面白かった」
・山田さん「最後はアラベスク、足を上げる動きまでいった」

(4)ワークショップ4回目(2022年12月17日): 『Der Wanderer - さすらい人』を踊ってみた
・スタジオBに設えられた本番の舞台で、空間も共有し、本番の曲を踊るに至った。
・更にワークショップの終わりには、車座になってのディスカッションの時間が初めて設けられ、感想や疑問を出し合った。
・栗川さん「本番も観に来たが、スタジオBでは、(劇場ほど大きい空間ではないので、)空気を切って動く動きまでを全身で感じることが出来た。また、歌曲の歌詞も貰っていたので、点訳したものに触りながら鑑賞することが出来た。リハーサルでは倒れて死んでいる筈がハアハアしていたのが、本番ではピタッと息を止めていた」(笑)
・山田さん「栗川さんが来ているときの本番では、踊りが『やかましくなる』。(笑)そこにいる人にどうしたら何かが届けられるか、届けたいと思うから」

(5)『Floating Field』 声の踊り: 新たな試み、その映像の紹介
・山田さん「舞台上のあちこちで展開される、抽象的で踊りそのもののような作品『Floating Field』。それを踊っている映像に、演出振付・二見一幸さんの許可を得て、Noism2のメンバーたちによって、『シュッ』『ダッ』『ドンドン』などの声(一種のオノマトペ)をインプロ(即興)でかぶせて録音してみた」
・栗川さん「割といいかもしれない。可能性があるかもしれない。意味のある『ことば』よりもスピード感やきざみがあって、動きに近い。例えば、リヒャルト・ワーグナーは楽劇を創るにあたって、キャラクターの音形を『ライトモチーフ』として予め設定しておいて、それを用いて構築していくスタイルをとった。また、これはこれで現代音楽としても面白いんじゃないか」

*会場からの質問01: ワークショップといった体験なしに、実際の舞台を見ることは可能か?
 -栗川さん: 「領域」ダブルビル公演は体験なしに観た。金森さんと井関さんの『Silentium』はとても静かな作品だったので、ステージの気配を感じ取るハードルは高かったが、『Floating Field』の方は動きが激しいので感じ易かった。

*会場からの質問02: ダンスという非日常の体験を経て、日常の何かが変わったようなことはあるか?
 -栗川さん: 便秘気味だったが、「ピョンピョン」とか「ブルブル」とか、身体を大きく動かしたり、細かく動かしたりして、便通がよくなった。内臓にもいいのでは。Noismのお陰かなと。(笑)

*会場からの質問03: 視覚障がい者のためのからだワークショップ、ひとつの舞台のように見えた。見学できないか?
 -山田さん: 人数が多くなると大変なところもあるが、今後、目が見える人と一緒にやることなどもあっていいかもしれない。

…と、そんな感じだったでしょうか。一緒によりよいものを目指して、模索し、工夫に工夫を重ねて、「視覚障がい者のためのからだワークショップ」をアップグレードしてきたおふたり。「柳都会」の終わりにあたり、山田さんが「ワークショップで出会えた人たちに感謝します。踊りが広がり、身体感覚が深くなった」と語れば、栗川さんは「一緒に芸術を創っていきたい」と応じました。

手探りで始められたのだろう「ワークショップ」が僅か4回で大きな進歩を遂げてきたことに驚きを隠せません。

そして、何より、山田さんのみならず、金森さんも井関さんも常々、ワークショップに出られる視覚障がい者の方たちの感覚が、「本当に踊れる舞踊家のようだ」と語っている、その一端を垣間見ることができて、多くの学びを得ることが出来ましたし、今回の「柳都会」のおふたりのやりとりの中心にあった『見る』ことや、逆に、やや旗色の悪い趣だった『ことば』の働きについて、更なる思索に誘われる刺激に満ちた時間となりました。そうした空気感だけでも伝えることができたら幸いです。それではこのへんで今回の「柳都会」レポートを終わりとさせて頂きます。

(shin)


「纏うNoism」#09:糸川祐希さん

メール取材日:2023/07/20(Thur.) & 07/22(Sat.)

Noism Company Niigataの19th シーズンのラストを飾るNoism0 / Noism1「領域」ダブルビル公演も大盛況のうちにその幕をおろし、季節は真夏。それも災害級に熱い夏。皆様、どうかご自愛ください。エアコンの効いた屋内でお読み頂くにはもってこいかということで、(勿論、どこでお読み頂いてもいい訳で、場所の制約を加えるつもりはありませんが、)ここに「纏うNoism」の第9回、糸川祐希さんの回をお届けします。どうぞごゆるりとお楽しみください。

「スタイルとは、言葉を使わずに自分が何者かを伝える方法」(レイチェル・ゾー)

それでは「纏うNoism」、糸川さんのご登場です。

纏う1: 稽古着の糸川さん

ザ・シンプル!
「何も足さない、何も引かない」って感じですね♪

 *全く奇を衒ったところのないスタイルと表情ですね、糸川さん。リラックスした立ち姿で。ええっと、この日の稽古着について教えてください。

 糸川さん「最近、トップスは肩から腕のラインが見えるのでユニクロのタンクトップをよく着ています。パンツもユニクロの物で、ストレッチが効いていてお気に入りです。黒が好きなので身の回りの物全般、黒を選びがちです。また靴下もユニクロで、踊りやすくて気に入っているのでまとめ買いしています」

 *おおっと、糸川さんはユニクロのヘヴィーユーザーなのですね。しかも、おっしゃる通りの全身黒ずくめ。海外の映画にでも登場しそうな「NINJA」の風情もあります。ニンニン、と。

 *ではまず、タンクトップについて伺います。「肩から腕のラインが見える」という着用の理由を話されましたが、それは「誰に」見えるということなのでしょうか。

 糸川さん「自分がクラスやリハで筋肉の使い方などを視認出来るように着ています。また、最近筋トレを始めたので日々の変化が見えるとモチベーションに繋がります」

 *なるほど。そうですよね。メンバー内で筋肉美を競い合っている訳ではありませんものね。変な訊き方になってしまいましたが、日々自分の身体に向き合う舞踊家らしいお答えに納得です。

 *次いで、もう靴下についても触れて貰っちゃってますが、敢えて突っ込みますね。ユニクロの靴下のどんな点が踊りやすいと感じられるのでしょうか。

 糸川さん「踊る時は薄めの靴下が踊りやすいと感じるので、程よく薄いユニクロの靴下を愛用しています」

 *そうですか。坪田さん、樋浦さんに続いてのユニクロ・ソックス派。わかりました。

纏う2: 糸川さん思い出の舞台衣裳

 *これまでの舞踊人生で大事にしている衣裳と舞台の思い出について教えてください。

おっ、これってきっとチャイコフスキーの「アレ」ですよね。

 糸川さん「Noismに入団する前、最後の発表会で踊った『白鳥の湖』の王子の衣裳です。
この発表会に出る時にはもう入団が決まっていたので、バレエ衣裳を着るのはもう最後かなと感慨深く思ったのを覚えています」

 *やはり、そうですよね。アレですよね、うん。糸川さん、後方にお立ちですけれど、「稽古着」画像とは全く趣の異なる、凛々しい、リアル「王子」立ちかと。スラッと高身長で。でも、そうしますと、お直しなんかも必要だったのではありませんか、「王子」の衣裳。

 糸川さん「確かウエストが緩くて、詰めてもらった記憶があります」

 *そうでしょうとも、そうでしょうとも。スラッで、シュッですものね。

 *ええっと、これは直接、衣裳とは関係ない質問になるのですが、この発表会のとき既に、周囲にNoismに入団されることを話されていたのでしょうか。それともこの後に話されたのでしょうか。

 糸川さん「本番の時には既に周りに報告していたので、『最後の王子だね』と先生にも言われてました」

 *他にはどんなリアクションがあったりしましたか。

 糸川さん「驚いて、みんな『おめでとう』と言ってくれました」

 *「王子」を送り出すのですから淋しさもあったでしょうが、それ以上にモチベーションにはなったでしょうね、確実に。

纏う3: 糸川さんにとって印象深いNoismの衣裳

 *Noismの公演で最も印象に残っている衣裳とその舞台の思い出を教えてください。

 糸川さん「『Der Wanderer ―さすらい人』の衣裳です。
最初、衣裳を見たときはピンクのシャツと紫のパンツという派手さに苦笑いしてしまいましたが、長い公演期間を経てだんだん愛着が湧いてきて、とても思い出に残っています。
穣さんが自分にソロを振り付けてくださったことや、全14回という公演回数の多さなど初めての経験尽くしで、この舞台に立った経験は深く自分の中に刻み込まれています」

 *ですよね。「ピンクのシャツと紫のパンツ」、見ていてもインパクト大でした。で、その衣裳で踊られた際の金森さんによる振付には若さが溢れていました。しかし、『セレナーデ』からの後半では、衣裳がお好みの「黒」(と白)に変わり、振付も大人っぽいものになりました。そのあたりの変化についてはどのように感じましたか。

 糸川さん「衣裳が変化することで気持ち的にその役柄に入り込みやすくなると感じました。ただ一つの作品の中で様々な役柄を演じ分けることはとても難しく、自分の中に課題として残りました」

 *なるほど、なるほど。そうですよね、うん。あの作品での金森さんの振付は、一人格としての連続性を保ちながらも、同時に、ピンクと紫の『ヤング・アンド・イノセント』から、なんなら『魔王』にでもなってしまうような変化というか、大跳躍みたいなものが仕掛けられていましたものね。でも、どちらも素敵でした。あと、糸川さん、きつくて苦しい踊りになればなるほど、表情に「笑み」みたいなものが浮かぶことにも気付きましたよ。そこも「M」っぽくてツボでした。(笑)

 *Noism Web Siteへのリンクを貼ります。
2023年『Der Wanderer - さすらい人』画像で、「衝撃」のピンクと紫ほかをご覧ください。見ているだけで、シューベルトの歌曲が甦ってきますから。

纏う4: 普段着の糸川さん

こうして見ると「がたい」の良さが際立ちますね♪

 *この日のポイントと普段着のこだわりを教えてください。

 糸川さん「夏は全体的にゆったりしたものを着ることが多いです。
最近購入したリカバリーサンダルが歩きやすくてとても気に入っています」

 *ゆったり何気なさがいい感じですが、まずはそのリカバリーサンダルについてお訊きします。その「疲労回復効果」などは如何ですか。「個人の感想です」レベルで構いませんので、教えてください。

 糸川さん「疲労回復効果はよく分かりませんが、歩く感触がフワフワしててとても気持ちいいです」

 *気持ちいいいんだ、フワフワ。な~るほど。足の心地よさ、大事ですよね。酷使しますものね。

 *次いで、今度はTシャツについて伺います。左胸のワンポイントのデザインが何とも「いい味」を出しています。何の図柄なのでしょうか。また、同じ図柄がバックプリントされていたりするのですか。

 糸川さん「フランク・ロイド・ライトというアメリカの建築家の名前が書いてあります。バックプリントはこんな感じになっています」

このバックプリントは…!!

 *あ、ご親切にどうも有難うございます。これって確かフランク・ロイド・ライトによるステンドグラスのデザインですよね。よくは知らないのですけれど。う~ん、目を惹くのには訳がありますね、うん。ところで、彼が語った有名な言葉にはこんなのもあります。「あなたが本当にそうだと信じることは常に起こります。そして信念がそれを起こさせるのです」舞踊に献身されている糸川さんにピッタリかと。

 *脱線しましたね。戻します。そのTシャツと黒のキャップはどちらかのブランドの品なのでしょうか。そのあたりお訊きします。

 糸川さん「Tシャツは beauty&youth の物で、キャップはポロラルフローレンです。どちらもとても気に入ってます」

 *メモメモメモメモ。皆さん、ここはメモですよ、メモ。もしくはすぐに検索。はい。
糸川さん、どうも有難うございました。

糸川さんからもサポーターズの皆さまにメッセージを頂いています。

■サポーターズの皆さまへのメッセージ

「いつもあたたかい応援をしてくださり本当にありがとうございます。
皆様により良い舞台をお見せできるよう、舞踊家として日々精進していきます。
これからもよろしくお願いいたします」

こちらこそ、よろしくお願いいたします。で、ええっと、これは個人的な事柄になるのですが、『領域』新潟公演の楽日、終演後のりゅーとぴあ1F出口付近で偶然、糸川さんに遭遇したときのことを思い出します。外で待っておられたお母様をわざわざお呼びくださり、ご紹介くださった礼儀正しい好青年の「糸くん」。この度もそうした気遣いが溢れていました。誰からも愛されずにはいない人柄、とても魅力的です。重ねて諸々有難うございました。

ということで、「纏うNoism」第9回、糸川祐希さんの回はここまでとなります。

これまで、当ブログでご紹介した糸川さんの次の記事も併せてご覧ください。

 「私がダンスを始めた頃」#22(糸川祐希さん)

糸川さんにも、前回の杉野さん同様、この先、「ランチのNoism」(現在休載中)にもご登場頂きたいと思っております。その際はどうぞ宜しくお願いします。

今回の「纏うNoism」糸川さんの回、如何でしたでしょう。では、また次回をお楽しみに♪

(shin)

 

2023年7月18日、日本記者クラブで『闘う舞踊団』について語った金森さん♪

【お知らせ】日本記者クラブでの会見「著者と語る」にて、初の著書『闘う舞踊団』その他について語った金森さん。その動画がYouTubeにアップされています。

著者と語る『闘う舞踊団』演出振付家、舞踊家 金森穣さん 2023.7.18

演出振付家で舞踊家の金森穣さんは、今年1月に刊行した著書『闘う舞踊団』で自身の半生と、日本で初となる公共劇場専属舞踊団「Noism」を率いてきた18年間の「闘い」をまとめた。 『闘う舞踊団』の執筆に至った経緯や、この間何を思ってきたのか、劇場文化の活性化に必要なこと、文化政策のあり方などについて語った。
司会 中村正子 日本記者クラブ企画委員(時事通信)

Youtube より(一部修正のうえ転載)

金森さんが綴った感動の著書『闘う舞踊団』、既にお読みになられた向きも、これからお読みになられる向きも、この度の会見動画は間違いなくお楽しみ頂けるものです。どうぞこちらからご視聴ください。1時間21分25秒あります。「志」を胸に「闘う」金森さんの語り、いっぺんにでも、少しずつでも♪

(shin)