2024年4月19日(金)の新潟市は、雨こそ落ちてはこないものの曇天そのもので、薄着では肌寒く感じられるような一日でした。そんなお昼の時間帯(12:00~13:00)に、りゅーとぴあの〈スタジオA〉で開かれたNoism Company Niigata 20周年記念公演「Amomentof」の記者発表に出席してきました。
Noismの出席者は金森さん、井関さん、山田さん、そしてその後ろにNoism1及びNoism2全員の総勢25名。揃って居並ぶ様子は壮観でした。この日の会場には県内マスコミ各社が駆けつけていたほか、オンラインで約20社ほどの参加があったとのことです。
ここではその記者発表での様子についてご報告いたします。
☆井関佐和子さん(Noism 国際活動部門芸術監督): 今回の公演の意図と経緯
・新作2本(『Amomentof』『セレネ、あるいは黄昏の歌』)を上演。
・演出振付家の金森に依頼するにあたって、20年を通過点とみて、「蓄積」(=今までのもの)ではなく、飛躍のためにも、「蓄積」の次の一歩を、と思った。
・演出振付家への信頼、メンバーへの信頼とともに、観客への信頼がある。「次は何を作るんだろう」「それに観客はどう反応するんだろう」→金森には「何もテーマを決めることなく、今、現時点で作りたいものを作って欲しい」と依頼。→作品はほぼ仕上がりつつあるが、「20周年記念」に相応しいものになったと思っている。
★金森穣さん(Noism 芸術総監督): 今回の演出振付作品について
・芸術家は何もテーマがないところから創作は出来ない。必ず、そこには対象がある。
・『Amomentof』の対象は井関佐和子。その身体のなかにNoismの歴史がある。そしてマーラーの交響曲第3番第6楽章から感じる「舞踊とは何か」を井関佐和子という舞踊家を通して顕現させたいと思った。
・『セレネ、あるいは黄昏の歌』に関しては、現代の科学技術の進歩の恩恵は計り知れないが、それによって脅かされているもの、失われていくもの、忘れられているものがある。再び忘れてはならないものに向き合うきっかけを与えるものが芸術のひとつの力と考えている。「人間とは何か」ということを軸に集団として表現したい。また、『Amomentof』とも共通して、Noismとして蓄積してきた身体性が総動員されている。春夏秋冬、異なる身体性で創作している。
☆山田勇気さん(Noism 地域活動部門芸術監督): Noism2メンバー出演に関して
・研修生カンパニーNoism2は2009年に発足。地域の学校公演、地域のイヴェント等で活動している。今回は『Amomentof』に出演する。
・カンパニー全体としての層の厚さ、空間的な広がり、奥行き等を表現出来たら嬉しい。
・次の5年、次の10年、次の20年に向けて鼓舞したり、希望となるような公演にしたい。
★質疑応答:
【Q1】20周年を迎えてどんな思いか?
-金森さん: 「A moment」、一瞬だった。20回、循環する四季の巡りを体験してきたが、ひとつとして同じ季節はなかった。時間の蓄積と多様性が大きな変化。20年ということに「節目」感はない。裏を返せば、毎日が節目。
-井関さん: 現時点では、一瞬といえば一瞬だが、いろんな道のりがあった。この20年の歩みのなかで、この道しか自分を生かす道はないなと思った。この道を歩くというのをこの20年で定めた。
【Q2】公演に向けてここからどう進めていくのか?
-金森さん: 作品としてラフスケッチは出来たが、更に練って練って試行錯誤。舞踊家の身体に入れていく。演出という行為は、そこにある空間・もの・気配などを活かすことではなくて、変容させること。それは振付も同様。舞踊家が変容していくさま。無自覚で潜在的な能力や才能、輝きみたいなものを引き出すために振付はある。そのためには時間もエネルギーも必要。我々のこのような環境でなければ辿り着けないもの。Noismにおける金森穣の舞台芸術は、金森穣のアイディア、コンセプトに基づいて生まれるものではあるが、ひとり残らず、参加するNoismの実演家たちによって生み出されるもの。そうした実演のされ方が重要。
「どれだけの時間をかけてきたんだ、この人たちは」といったものを我々の舞台を通して感じて貰えるようでなければ、Noismとしての存在意義はないと思う。
【Q3】「一瞬の」と読める作品、もう少し説明して貰えないか?
-金森さん: 20年前からずっとNoismを追ってくれている人たちにとっては涙がとまらないような作品になるかもしれない。極めて具体的にNoismの20年を想起させる演出をしている。一方、初めてNoismを観る人にとっても、舞踊芸術への昇華ぶりを目の当たりにして感動して貰える作品にしたい。
【Q4】改めて今、金森さんにとって、「舞踊とは何か」を聞かせて欲しい。
-金森さん: 詩や音楽やあらゆる文化・芸術が生み出される前に、そして、我々が身体をもって生まれる限りにおいて、そこには既に舞踊がある。それだけ根源的な芸術こそが、「人間とは何か」を表現するのに最も相応しい、それが私の舞踊観。「人間とは何か」の問いは、どれだけ時代が変わり、社会が変容し、技術が発展したとしても問われ続けていくこと。そうした舞台芸術を新潟市という一地方自治体が文化政策として掲げていることの価値や意義には大きなものがある。生涯、命が尽きるまで舞踊と向き合っていく。「私を見てください。それが舞踊です」
【Q5】(メンバーへの質問)「20年」の歴史の節目に立ち会っている思いと公演への意気込みを聞かせて欲しい。
-Noism1・三好さん(井関さんからの指名による): これまでの様々な人の顔が思い浮かび、プレッシャーに感じることもあるが、この一瞬にどれだけ同じような愛情を注げるか。今、自分が日本の劇場で働けていることは誇り。海外への憧れよりも、もっと素敵な「夢」を20年かけて作ってきてくれたという思いをのせて公演をよいものにしたい。
【Q6】ファンの人たちへの思いは?
-金森さん: 感謝しかない。感謝という言葉では足りない。見て貰えなければ成立しないものだから。ただ、その人たちのためにやっているのではない。そのあわいを失すると芸術家として死んでしまう。物凄い感謝を感じつつ、背を向ける。その背中で愛を感じて欲しい。
今、私が思っている未来は、このふたつの作品に全て込めている、それが今、演出家として言える全て。
【Q7】舞踊家・井関さんのどこに創作の源泉を感じるのか?
-金森さん: 一舞踊家として様々な要素があるが、何より生き様とか献身する姿。これだけ舞踊芸術を信じ、献身する舞踊家を見て触発されない演出振付家はいないだろう。
【Q8】『セレネ』に関して、前作と今回作との関係性は?
-金森さん: どちらも「セレネ」という役が出て来ること、イメージ的には前回は黒が基調の世界観に対して、今回は白と反転。(井関さんからの囁きがあって、)共通するのは儀式性。
【Q9】『セレネ、あるいは黄昏の歌』、ヴィヴァルディを選んだ理由は?
-金森さん: 四季の巡りのテーマからリサーチをした。最初にヒットしたのがヴィヴァルディだったが、「これは作品化できないなぁ」と思って、更にリサーチして、マックス・リヒターの編曲版と出会い、「これはいける」と感じた。
そのふたつの『四季』に関して、「何故この音楽には舞台空間が見えて、何故この音楽には見えないか」は本質的な問い。「この(創造の)能力は果たして何なのか、どこから来ているのか」、答えられる者はどこにもいないと思う。「見えた」ということ。
【Q10】井関さんの身体に蓄積された年月というアプローチには『夏の名残のバラ』もあったが、今回との違いなどあれば聞きたい
-金森さん: そこは私の魂の同じ箇所から出てきている。過去作のなかで類似するものがあるとすれば、『夏の名残のバラ』だと昨日あたりから考えていたところ。しかし、今回は先にマーラーの音楽を舞踊化するというのがあり、その感動を表現するのに、井関佐和子を軸にしたアプローチをという発想。マーラーのあの崇高な音楽を聴いたときに、愛や献身や喜びや苦悩、「生きるとは何か」が迫ってくる。それを舞台上に顕現させる方法論として、井関佐和子という舞踊家が蓄積してきたものを舞台化することで、マーラーの音楽を自分なりに表現出来ると感じたということ。
…大体、そんな感じでしたでしょうか。その後に写真撮影がありました。
写真撮影をもちまして、この日の記者発表は終わりました。
以下に、Noismの広報スタッフより提供して頂いた「公式」画像をアップさせて頂きます。ご覧ください。(どうも有難うございました。)
最後に、この日の記者発表の席上、スタッフの方から『セレネ、あるいは黄昏の歌』の公開リハーサルが来月あること、そして、金森さんからは、その前作『セレネ、あるいはマレビトの歌』の再演予定もある旨、語られたことも記しておきたいと思います。
そして、テレビ各局の報道に関してですが、私が確認した限りでは、NHK新潟放送局が同日夕刻の「新潟ニュース610」内において、この記者発表を取り上げていました。そちら、一週間、NHKプラスで見ることが出来ますから、是非。おっと、同じものがもっと簡便に、こちらからもご覧いただけます。NHKの「新潟 NEWS WEB」です。どうぞ♪
あと、他局の放送、及び各紙誌の掲載が楽しみです。
それでは以上をもって、この日の記者発表報告とさせて頂きます。
(photos: aqua & shin)
(shin)
shinさま
詳細ありがとうございました!
スタジオAでの記者発表は久しぶりでした。緊張感がありましたね。
最初の井関さんの挨拶、素晴らしかったです。
そのあとに続く、金森さん、山田さんの挨拶、そして質疑応答での三好綾音さんの返答も、それぞれとても感銘深かったですね。
『セレネ、あるいは黄昏の歌』は黒部シアター公演がありますし、野外と劇場ではどうなるのか!?
そして、胸に迫る『Amomentof』はハンカチでは足りなさそうです。タオルを持って臨もうと思います✨
(fullmoon)
fullmoon さま
コメント有難うございます。
fullmoonさんが書いてくださったように、皆さんがそれぞれに紡いだ言葉たちには胸に響くものがありましたよね。
記事本文の質疑応答に関しては、同趣旨の質問については、纏めるかたちで掲載させて貰っているのですが、そのなか、金森さんの(如何にも金森さんらしい)「節目」感はない云々の発言(←実際は、質疑応答の終盤での発言だったのですが、)において、司会を務められていたスタッフの上杉晴香さんによるフォローも絶妙でした。金森さんにとって「節目」でなかったにせよ、お客さんにとっては、或いは、劇場にとっては「節目」だったりとか、それぞれどこに「節目」を見出すのか、そしてそこをきっかけに次に向かっていくのかということ…、笑いもとりつつ、実に見事なフォローになっていましたよね。そのあたりもこうしてご紹介できて嬉しく思います。
私にとっては(恐らく、多くの人たちと同様に、)やはり「節目」ですし、万感公到(ばんかんこもごもいた)る公演になるだろうことは確信しております。ドキドキします。
(shin)
shinさま
「万感公到(ばんかんこもごもいた)る」その通りですね!
そして私も上杉晴香さんのフォローはステキと思いました♪
オンライン質問に返答する金森さんへの、井関さんの囁き(ウィスパー)フォローもよかったですね♪
そして三好さんの返答への金森さんの喝采も嬉しかったです。
ブログ中にその瞬間の写真がありますね。皆さんにこやかです♪
緊張感がありつつも和やかさが感じられる会見でした。
今日の新潟日報10面に記者発表の記事が載りましたね♪
(fullmoon)
fullmoon さま
色々触れていただき、有難うございます。
で、まずは翌朝の新潟日報朝刊の掲載記事からです。
同紙は、「…新作について説明する金森穣芸術総監督…」というキャプション入りの写真を載せながら、この度の公演というよりは、(どちらかというと、一般的な関心が強いだろう)「20周年」の方に寄せた記事になっていましたね。そのあたり、記者発表の場で質問した各メディアの方々のスタンスのままで、当日は新作の「演出振付家」として出席したことに拘った金森さんとの間にあった若干の噛み合わなさもそのままに感じられる点、ちょっと笑えました。もとい、記者発表の様子を押さえつつ、Noismの20年の歩みを伝える記事になっていて、これはこれで喜ばしい記事でした(微笑)。
ついで、もうひとつ書き添えておこうと思います。
当日、記者発表が終わって、りゅーとぴあを出て、駐車場に向かっていた際、屋外のやや冷たい空気のなかに身を置いて寛ぐ金森さんと井関さんおふたりの姿を認めました。同時に、金森さんも私に気付いてくれて、お互いに、「あっ、どうも」という空気になったので、ほんのちょっとの間、その場にご一緒させて頂きました。
折から通りかかったBSN新潟放送の坂井悠紀ディレクターも加わり、更に和やかな雰囲気がプラスされたことに力を得て、記者発表の席上、訊かないでしまったことを尋ねてみました。
それは『Amomentof』の使用楽曲、マーラーの交響曲第3番第6楽章についてです。今年2月に開催された「柳都会」、ゲストだった矢部達哉さん(東京都交響楽団ソロ・コンサートマスター)も「信じられないくらい美しい音楽」と語り、それぞれに「節目」感が否めない折に出てくるという点でも、何やらNoismとの奇縁を感じさせる楽曲。否が応でも興味が募っていたのでした。
同曲に関して、ここでも質疑応答の体でご紹介します。
【+Q1】第6楽章からの「抜粋」というかたちになるのか、それとも第6楽章を通して使うのか?
―金森さん: 約23分、通して使う。
【+Q2】誰の演奏を使うのか?
-金森さん: 色々聴いたが、使用すると決めたのはシノーポリ指揮のもの。例えば、バーンスタインとかだと踊れない。ちょっとあっさりしているところがいい。
【+Q3】あの曲はテンポもゆっくりで大変かと。
―井関さん: そう。もう、大変ですよ(笑)。
【+Q4】以前からあの曲に振付しようと考えていたのか?
―金森さん: 考えてはいなかった。あの曲は聴いているだけで充分だと思っていたからね。
…と、思いがけず、そうしたやりとりができて、個人的は「大収穫」とばかりに、(心のなかで)小躍りしながら帰路についたような次第でした。この日は私、セレンディピティ、持ってたなぁと。
それにしましても、件の「柳都会」の際、矢部達哉さんは、「穣さんの音楽センスは、まわりの芸術家のなかでも傑出していて、まさに天才。音の陰翳、色を捉えた演出、ずっと興味があった」とも語っておられますし、今回のマーラーがどんなふうに可視化されるのか、もう胸は期待でパンパンに膨らんでおります。
以上、長くなってしまって、恐縮ですが、追加のご報告とさせていただきます。
(shin)
shinさま
特別取材、ありがとうございました!
『Amomentof』ますます楽しみですね♪
皆さま、ちなみにshinさんのコメント文中の「セレンディピティ」とは、「素敵な偶然をきっかけに予想外のものを見つけ、価値を見出し、幸運をつかみ取ること」だそうです(知らないのは私だけ?)。
shinさん、もってますね!
そして4/18の市長定例記者会見で、Noism20周年への中原市長の嬉しい言葉がありました♪
https://twitter.com/eijx6085/status/1781495852617674850
(fullmoon)
fullmoon さま
たびたび有難うございます。
そして、かずぼさんが示してくれた中原市長の4月の定例記者会見へのリンクに関しましても、かずぼさんとfullmoonさんおふたりに感謝です。
その新潟日報の記者さんの質問と中原市長の答弁を活字にしてご紹介します。(40:42頃~42:00頃)
【Q】Noismはこの4月に設立20周年を迎えたのだが、市長の受け止めは?+今後、期待することは?
-中原市長: 「Noismが設立から20周年を迎えられたということで、心からお祝いを申し上げたいと思います。新潟市の市民芸術文化会館を拠点として、唯一の公立劇場舞踊集団ですので、新潟を拠点にして、Noismの独特の舞踊を国内のみならず、世界に発信して頂いております。まあ、これは新潟だけの文化ですので、新潟市としては大変誇りに思っております。今後の活躍に更に期待を寄せております」
…というものでした。
上記のような市長の言葉を聞けばこそ、このあと、公表される過日開催された「Noism Company Niigataの活動評価に関する有識者会議」での意見交換を踏まえた「19thシーズンの活動評価」も私たちにとって充分に満足のいく内容である筈と信じるものです。
(shin)