観る者の心に運ばれてきた爽やかな風、いつまでも吹かれていたかった - Noism2定期公演vol.17千穐楽♪

2026年3月8日(日)、外にはこの日もつめたい風が吹き、季節が逆戻りしたかのようで、どんなに身を縮こまらせて歩いても、身体は否応なく冷やされてしまうそんな一日だったのですが、新潟市のりゅーとぴあ〈スタジオB〉に若き振付家と若き舞踊家が運んできた風はそれとはまったくの別物でした。それはとても爽やかで、いつまでも吹かれていたいと願うような、そんな風。その場がNoism2定期公演vol.17千穐楽の公演会場だったと言えば、頷いて頂けるものと思います。

「振付家育成プロジェクト」の一環ということもあり、どこを切っても、溌剌とした若さが眩しい3日間4公演だった訳です。

Noism2メンバーへの贈り物といった感もある山田勇気さん振付演出のオープニングから、踊った4人の身体とその動きは伸びやかで自信や確信に満ちたものとして目に映じてきます。(出演:四位初音さん・平尾玲さん・鈴木彩水さん・大﨑健太郎さん)

真っ向勝負の正統派的味わいが魅力の坪田光さん振付演出『Island』。より大きな動きを獲得したふたつの身体のあいだ、「境界線」が越境を許したり、拒んだりするさまが鮮明になり、終始、心を揺さぶられて見詰めました。(出演:平尾玲さん・大﨑健太郎さん)

実験性に溢れた野心作、樋浦瞳さん演出振付『A Mosaic of Moments』。時折、『R.O.O.M.』や『NINA』など想起させられながら、顕微鏡を覗くような感覚で、振付家が求めた「ふたつの身体がひとつの生き物に」なって見えてくるに至りました。(出演:四位初音さん・鈴木彩水さん)

そして、武満徹に胸を借り、その楽曲の強度に敢然と挑んだ、中尾洸太さん演出振付『地平線のドーリア』。一音が響くだけで一瞬にして立ち上がる空間の強靭さに、「身体10割を貫き通して」拮抗することを求められた舞踊家ふたり。その身体は確かにその空間のなかに位置を占めて、まばゆく映りました。(出演:鈴木彩水さん・平尾玲さん)

それはそれは見どころに満ちた、素敵過ぎる公演でした。

劇場専属舞踊団の研修生カンパニーとして、長い時間を共有して稽古を積んできたNoism2のメンバーの身体と動きは、若く粗削りであるにせよ、揃ってNoism印の刻印を見出せるものばかりであり、受け継がれてきたものは確かにそこにありました。そして、この先、一人ひとりが大輪の花を咲かすのを期待させるに充分なものを見せて貰ったと思っています。爽やかな風を感じた所以です。

千穐楽のパフォーマンスに大きな希望を感じながら、一時間ほど友人と話した後、りゅーとぴあの外に出てみると、観客(或いは目撃者)になったその瞬間から思い出すこともなかった「冬」を思わせるつめたい風に再び見舞われることになりました。雪片も混じっていたほどです。しかし、若人たちによって希望を灯された心はそれなどものともする筈もありません。この先もずっとNoismを見続けていきたい、その希望は捨てない、そんな思いを益々強くして帰路につきました。

(shin)

「舞踊」を信じる者たちの熱が感じられたNoism2定期公演vol.17中日のマチネ♪

2026年3月7日(土)、前日に「弥生つめたい風」などと書いてみたものの、明らかにそれを凌駕する冷たい強風に閉口しながらも、りゅーとぴあ〈スタジオB〉の中は、幕1枚を挟んで、地続きの舞台と客席の間に熱の交感があったと断言出来ます。明らかに。

そこで地続きだったのは、高低差なく連続する床面だけの話ではなしに、「舞踊」を信じて創作した若き振付家と「舞踊」を信じて踊った若き舞踊家、そして「舞踊」を信じて舞台を刮目した観客、その全員が、「舞踊」そのものの懐に抱かれるかたちで、1時間強の時間を共有した様も間違いなく地続きだった訳です。

Noism2定期公演vol.17「Three Duets in the Black Box」、山田勇気さん振付のオープニングに登場する「黒い箱」のなかにあったもの、それは舞踊家をして「舞踊」に駆り立てる悦ばしき動機或いは衝動であると同時に、全き献身を求めずにはいない「舞踊」の厳しさであったのだろうと理解するものです。

山田さんのオープニングを含めて4つの「舞踊」作品と、それらを包含する「舞踊」そのもの、そのどちらをも意識せずにはいられない見逃せない好舞台、とそう言い切りましょう。「舞踊」が好きでよかった、そんな思いに満たされています。

〇オープニング・演出振付:山田勇気さん(Noism地域活動部門芸術監督)、出演:四位初音さん・平尾玲さん・鈴木彩水さん・大﨑健太郎さん
上にも書いた通り、若き舞踊家の「今」への深い理解に基づき、一人ひとりの成長を信じて、限りない愛情を注ぐ作品。Noism2メンバーの伸びやかさが目に焼き付きます。

●『Island』演出振付:坪田光さん、出演:平尾玲さん・大﨑健太郎さん
衣裳も照明も奇を衒ったところのない、スタイリッシュな作品。根底にあまり年齢差のない舞踊家2人へのシンパシーの目線が感じられる。前日のアフタートークで語っていた通り、詰め込まれた振りの数々を高速に処理していく様が見もの。

〇『A Mosaic of Moments』演出振付:樋浦瞳さん、出演:四位初音さん・鈴木彩水さん
(幕があがり、目に飛び込んでくる順番で)照明、中嶋佑一さんによる衣裳、そして動き、今公演の4つの演目のなかでも、ひときわ異彩を放つ作品。蠢き、縺れて絡み合い、重なっては分離し、再び融合する2つの身体は見ていて飽きることはない。

●『地平線のドーリア』演出振付:中尾洸太、出演:鈴木彩水さん・平尾玲さん
この日のマチネ上演前の「前説」で、「ほぼカウントをとっていない。相手がいかなかったら、いかない。カウントで踊るのではなく、2人の空気や間(ま)で踊る作品」と。武満徹の音楽の強度に身体の強度で拮抗しようとする挑戦に息をのむ。

どの作品も刮目必至の好演目です。

更に、やはりと言うべきことながら、どの作品にも、Noismの舞踊ボキャブラリーが顔を出して来る瞬間があり、その度に微笑ましい気持ちになってしまいました。(それは前日も同様でした。)Noismが磨いてきたNoism印の動きは確かに手渡されてきているのですし、それはこの先も変わらないことでしょう。これを豊かさと呼ばずして、何と呼びましょう。

中日のマチネについて、これを書いているうちに、時間は18時をまわりました。ソワレの舞台の幕があがる頃です。一日2公演は大変でしょうが、そのことも若き舞踊家にとってはひとつの「経験値」となるもの。必ず、やり切ってくれるものと信じます。

(shin)


Noism2定期公演vol.17「Three Duets in the Black Box」初日、得も言われぬ瑞々しさを満喫♪

2026年3月6日(金)、芽吹きの前触れたる弥生つめたい風も、まさにこの公演にベストマッチするものに感じられてしまうほど、得も言われぬ瑞々しさがこの上なく目に眩しかった、りゅーとぴあ〈スタジオB〉。Noism2定期公演vol.17「Three Duets in the Black Box」を満喫してきました。

今公演、Noism2の定期公演として、踊るのは若手舞踊家であり、また同時に「振付家育成プロジェクト」の一環として、振り付けたのがNoism1メンバー3人であるという、それぞれに「若き芽」がそれぞれの「今」に向き合い、個々人として、カンパニーとして、しっかりと明日をも見据えた公演スタイルと言えるものです。魅力的でない筈がありません。

冒頭まず、山田勇気さんの振付で、4人の出演者全員で踊られるオープニングが置かれ、その淀みない展開が魅力的なイントロダクションとして機能し、後に控える3つのデュエット作品への期待感を高めてくれるでしょう。

幕がおりると、下手(しもて)側の袖から、その山田さんが登場してご挨拶。そのなかで、続く3つの作品それぞれの直前に、振付をしたNoism1メンバーが作品や経緯について話してから上演するかたちで進行することが告げられました。

この初日レポートの眼目ですが、3作品それぞれの上演前に話された内容と、終演後のアフタートークについて順番にかいつまんでご紹介することとし、三者三様にして、その清新さがとても魅力的だった3つの演目そのものについては書かずにおきます。その点、ご了承願います。

『Island』(演出振付:坪田光、出演:平尾玲・大﨑健太郎)
坪田光さん: 「他者とは何か。自分と自分以外のものの間の境界線をどう捉えるか。ただ止まっているのではなく、生き続け、更新されていく時間。今を生きる身体と、それを動かす舞踊家の意志にフォーカスした。舞踊家の熱量を感じて欲しい」

(10分休憩)

『A Mosaic of Moments』(演出振付:樋浦瞳、出演:四位初音・鈴木彩水)
樋浦瞳さん: 「舞踊作品を作るたび、踊りとは何か、身体とは何かを考える。自己を見つけて、掘り下げて、その探訪の先に変身・変貌すること。今回の衣裳は中嶋佑一さんにお願いし、テーマや2人の関係性など頭の中身をさらけ出して伝えようとしていくと、中嶋さんから帰ってくるデザイン画や言葉によって、世界観を深めていくのに繋がった。身体は自分が生きてきた経験の集積。2人の皮膚・目・呼吸が何を語るのか感じて欲しい」

『地平線のドーリア』(演出振付:中尾洸太、出演:鈴木彩水・平尾玲)
中尾洸太さん: 「武満徹の楽曲からのインスピレーション。メロディアスと歪さが重なり合う瞬間が多々あり、空間性が提示される。今作では振りを減らしていくことを目指したが、それはそのまま強度が増していくことである。古代ギリシャの「ドーリア式」(建築)を意識し、1枚の「長方形」の布をベルトで縛ったアシンメトリーで偏りのある衣裳とした。記憶に残る舞踊家になって欲しい。記憶に残る舞踊を見せられればと思う」

ここからは、アフタートークについてのご紹介に移ります。

山田さん: 「3人の『講師』(金森さん・井関さん・山田さん)がいて、コンセプトからディスカッションを行い、講評(『審査』)も行いながら進めてきた創作だった」

Q: 自分の意図とは別に滲み出してしまったものはあるか。
 -坪田さん: 「緊張し過ぎて、受け取る準備出来ていなかった。イメージとの差、う~む。緊張とけていない…」
 -樋浦さん: 「実は3人の舞踊家と向き合ってきた。負傷があって、キャストが変わって、最初のイメージとは違うものとなったが、それによって客観的に自分の振付を見詰めることが出来た」
 -中尾さん: 「インスピレーション直行で、意図して作っていないから…。2人の性格と若さが出ていたが、そのふたつによって大きく変わってしまう作品」

Q: 踊っている最中の頭の中はどうなっているのか。そのあたり、どう思うか。
 -坪田さん: 「頭の処理の能力を上げて欲しい思いがあり、振りを詰め詰めにした。瞑想とは異なる集中。一つひとつの動きに全てを出し切って、それを連続していくこと」
 -樋浦さん: 「拘っていたものは目や手、背中。『手が目なんだよ』とか『目で空間を触れ』とか言ってきた。頭で考えているというよりは、感じて踊っているなと」
 -中尾さん: 「何も考えていないだろう。言葉にも出来ない速さなので」

山田さん: 「オープニングは、良いとか悪いとかではなく、凄く緊張していた。一期一会の何かが生まれたなと。で、そのオープニングの使用曲はマイケル・ナイマンの2曲。1曲目は今ちょっと思い出せないが、2曲目は『プロフィット・アンド・ロス』というタイトルで、モーツァルトが得たものと失ったものを表すもので、今回の公演に合うと思った」

Q: 樋浦さんはSNSに描いた絵をあげているが、今回の作品と共通するものはあるか。
 -樋浦さん: 「絵を描き始めたのは、踊りや動きを見た後に、それをなぞりたいという思いから。共通するのは必然と思う」

Q: 振付は今回が初めてではないが、変化や成長の感覚は。
 -坪田さん: 「Noism2に振り付けるのは今回が初めてで、自分がNoism2にいたときのことを思い出していた。要求は今まで以上に高かった。自分がもっともっと要求出来たら良いなと思った」
 -樋浦さん: 「作り始めると、思い込みが激しいタイプ。創作過程で見て貰って、『本当にそれで良いのか』などと言われ、作っては壊し、作っては壊しだった。この環境だからこそ、色々言って貰える。自分のなかにそういう視点を持たなければと思う」
 -中尾さん: 「楽曲の選択やプロセスには成長したことを感じる。動きに頼らない舞踊。穣さんにも褒められたりしたが、『もうないかもしれないから、よく聞いておけ』と言われて、怒られているみたいだった」「褒める時もそうなんだ(笑)」と山田さん。

Q: 常に何か作りたいと思っているのか、それとも、この機会があったからなのか。
 -坪田さん: 「Noism2に作るから、これになった」
 -樋浦さん: 「Noism2の5人とインプロしてみて、ハッとなったのが、この作品との出会いだったと思う」
 -中尾さん: 「武満徹のこの曲との出会いは4年前。それ以来、頭のなかで構想していたかもしれないし、勇気さんからこの話があって始まったのかもしれない」

Q: これまでにない「縛り」のある構成、「前説」のある構成にした理由は。
 -山田さん: 「デュオは関係性の原点。たとえ、1人で踊っても、そこに不在の関係性があるし、『2』には無限の可能性がある。あなたと私しかいない状況で作ってみて欲しかった。身体と向き合って何かを作ることを求めた。
構成には紆余曲折があり、幕間の作品やエンディングを作ることや映像を使うことなども考えたが、一つひとつの作品をしっかり見て貰いたいということで、このかたちになった」

山田さん: 「成長を見た。振付家が生まれる瞬間に立ち会った感覚がある。記憶に残るものになっていて欲しい」

…概ね、そんな感じでしたでしょうか。

踊られた3作品には触れずに書かせて貰ったのは、初日のレポートでもあり、これからご覧になる方々が初めて作品に向き合った際に抱く「ファースト・インプレッション」を変に損ねることはしたくなかったからです。今はまだまだ「Black Box」の中、ということで。
劇場専属舞踊団だからこそ、20年以上かけて築いてきた環境の豊かさがあればこそ、初めて可能になるような形式の今公演。継承することの何たるかを目撃する機会になるでしょう、間違いなく。生き生きと芽吹く新鮮な才能を前に、新鮮な気持ちで見詰めて欲しいと思います。

(shin)

「Noism2定期公演vol.17」活動支援会員/メディア向け公開リハーサル&囲み取材に参加してきました♪

2026年2月26日(木)、上着を着る必要もないようなお昼どき、りゅーとぴあ〈スタジオA〉を会場に開催された「Noism2定期公演vol.17」活動支援会員/メディア向け公開リハーサル及びその後の囲み取材に参加してきました。

この度の定期公演(3/6~3/8・4公演)は、「振付家育成プロジェクト」として、Noism1メンバーの中尾洸太さん、坪田光さん、樋浦瞳さんがNoism2メンバーに振り付けた3つの新作デュエット作品をその内容とするもので、題して「Three Duets in the Black Box」です。

この日は12:15からの公開リハーサルで、その3作品を15分ずつ見せて貰いました。

最初は、坪田光さんの『Island』(出演:平尾玲さん大﨑健太郎さん)。

Noism1 坪田光さん

続いて、樋浦瞳さんの『A Mosaic of Moments』(出演:四位初音さん鈴木彩水さん)。

Noism1 樋浦瞳さん

最後に、中尾洸太さんの『地平線のドーリア』(出演:鈴木彩水さん・平尾玲さん)。

Noism1 中尾洸太さん

年末からずっとのしかかっている重苦しい空気感をひととき忘れて、舞踊に見入る時間、その贅沢なことと言ったらありませんでした。少し忘れてしまっていたそんな感覚。振付家1人と舞踊家2人。それぞれの「作品」イメージを間に置いて、若き振付家と若き舞踊家が対峙しながら創作を行う様子は、とても瑞々しく、新鮮味溢れる時間でした。

3つの作品(の断片)の外見的印象からのみではなく、細かな動きのブラッシュアップを行う3人の若き振付家の姿からも、個性の違い、もっと言えば、多様性を感じることが出来ました。

その後、場所をホワイエに移して行われた「囲み取材」に立ったのは、Noism地域活動部門芸術監督の山田勇気さんと、中尾さん、坪田さん、そして樋浦さんの4人。そこでのやりとりからご紹介を試みます。

〇今回の公演の全体像・趣旨
-山田勇気さん 「研修生の定期公演は、これまではダンサーの育成が中心だったが、クリエイターも対(つい)で成長していく必要がある。専属舞踊団として、作る人も育てていかなければならないということで、少し前から始めていた振付家育成プロジェクトをNoism2のメンバーと新作を作ってNoism2の公演のなかでやってみようということになった」
(今回の「デュエット」という制約に関して) 「2人という小さな単位で、身体と身体で何が出来るかにフォーカスして、舞踊家と舞踊を作ることを見詰め直すことで、振付家としての自分の立ち位置・欲望などがより良く見えてきて、次に活かすことが出来ると考えた」
(3人それぞれの作品の仕上がりに関して) 「今年に入ってから、段階を踏んで、国際活動部門芸術監督(井関さん)、芸術総監督(金森さん)も含めた3人で途中経過から見て講評を与え、ディスカッションしてやってきたことは今までにないプロセスであり、完成度が高まってきた」

●今回の作品のテーマ、作品に込めたもの
-坪田光さん 「デュエットということで与えられた課題はすぐに肌で感じた。それをNoism2の作品でやるに際して、『試練』とそれに対してどう闘うかを作品に込めれるようにした」
-樋浦瞳さん 「自分が身体をどう捉えているかを見詰め直した。身体はその人が生きてきた経験や瞬間の集積であり、どんどん変わっていくもの。生まれ変わりながら生き続けていく状況を作品にした」
-中尾洸太 「今回は音楽自体がテーマ。しかし、音楽を表現するものではなく、武満徹という圧倒的な芸術家の音楽に対して、どう向き合うか、そのプロセスの集積・結果のようなものがこの作品になったと実感」

〇山田さん担当のオープニングや構成の見どころについて
-山田さん 「デュエット作品は密な空間が生まれるものだが、集団として、舞踊家全員が集まって踊っているシーンはやりたいし、見せた方が良いと思っている。『これがNoism2だ」という集団性を最初に見せるのがオープニングの意図。そのなかの一人ひとりが作品のなかでどんな姿を見せていくか。構成は色々試しているが、結果はシンプルなものになりそう。一つひとつの作品を楽しんで貰うために、時間をちょっと作るようなシンプルなもの」

●選曲について
-中尾さん 「武満徹は西洋の音楽と日本や東洋の独自性を混ぜ合わせたり、再定義しようとする問題意識があると思う。自分自身、祖母が日本舞踊を教える稽古場の傍ら、クラシックバレエを踊ってきたので、同様な問題意識が根っこにあると思っている。なんとなくこのタイミングかなと思い、自分の挑戦でもあり、この曲(『地平線のドーリア』)を選んだ」
-樋浦さん 「曲が先にあったのではなく、誰に踊って貰うかを決めて、テーマが見えてきて、それを表現するために思い至った曲(『Alva Noto & 坂本龍一『By this River – Phantom』)。もともと、ブライアン・イーノの原曲が好きで聴いていた。今回、テーマ設定した際、繰り返すメロディや脈打っている感じを曲のなかに見出したことでやってみようと決めた」
-坪田さん 「4曲使っている。まず作品のなかにある波から想像して、『旅立ち』とか『出会い』とか『試練』とかを基に曲を探した。で、3曲目のショパン(「12のエチュード Op.10-4嬰ハ短調」)は『試練』にピッタリだと思って選んだ」

〇山田さんの目に映る3人の振付家の印象
-山田さん 「その人が出ていると言えば、出ている。性格というよりは、その人の物の見方・考え方・感じ方。それが物凄い集中力でひとつの事に向かったときにこういうかたちで出力されるのかと。根っこにあるものが自分だけのものにならずに、お客さんと共有可能なものになるのか、舞踊という身体を使った限られた表現のなかでどういうふうにしていくのか、それぞれの『色』が以前より明確になってきた感じがする」

●Noismを巡る現在の「不安定」な状況下での公演に関して
-山田さん 「本来あるべきかたちとして、芸術総監督の金森が言っていたことでもあるが、『今回が最後だと思って作らなければならないし、今回が最後だと思って踊らなければならない。それはいつでもそういうもの。今回もそう」
-坪田さん 「我々は舞台の上での活動なので、舞台でどう闘うかだけだと思う」
-樋浦さん 「本当に一期一会で、毎回、毎舞台。以前にもNoism2メンバーと作品を作ったことがあるが、そこから巣立って、別の環境で踊り続けている人もいる。このNoismという場所が、舞踊家・振付家含めて、大きな野望の旅の途中であることは今も昔も変わりはないと思う。一つひとつの瞬間を大切にしたい」
-中尾さん 「大変です、気持ちが。不安のなかで作品を作ること。不安や恐怖が積み重なっていく実感がある。そのなかで自分と向き合って作品を作ることの恐怖、純粋に。作品に向き合う、舞台に向き合うという気持ちはあるが、まだ25歳でしかないので、不安で一杯。色々なことに凄いビビっている。でも、それを隠して頑張っている」

…大体、そんなところでこの日の囲み取材は終わりとなり、その後、進行役のNoismスタッフ・高橋和花さんより以下の事柄が告げられました。
・3/6(金)公演の後に、アフタートークがあること。
・樋浦さん作品の出演者が、当初、キャスティングされていた沖田風子さんが怪我のために降板し、四位初音さんの出演となったこと。(←囲み取材の際のやりとりでも、fullmoonさんから質問があり、この交替については触れられていました。)
・3/6(金)及び3/7(土)14時の回がチケット完売となり、千穐楽の3/8(日)もチケット残り僅かで、3/7(土)18時の回のみ、まだ余裕がある販売状況とのこと。なお、Noism Web Siteの「News」欄に【チケット販売・最新状況】が随時更新し掲載中とのこと。

諸々混迷を極める状況下ながら、弥生3月、春風のような爽やかな公演が待たれてなりません。大注目ですよ、皆さま。

(photos: aqua & shin)

(shin)

Noismというマレビト、その身体に徹頭徹尾魅了され尽くした客席♪(『マレビトの歌』新潟公演中日)

前日、劇場版としてその全貌を現した『マレビトの歌』ですが、明けて2025年12月6日(土)にも、それが有する力能を遺憾なく解放して、会場を大きな感動で包み込みました。それを可能にしたものは、勿論、Noism0とNoism1の舞踊家全員の圧巻のパフォーマンスであったことは言を俟ちません。踊るほどに発光するかのような身体、そして身体。アルヴォ・ペルトの音楽に乗って、舞台上は一切夾雑物のない『マレビトの歌』の世界観で染め上げられていきました。そして放たれた濃密な空気が客席の全ての隅にまで及ぶことになります。

初夏と冬、年に2度のみ訪れるNoismというマレビトが、この日、その舞踊家の身体で徹頭徹尾客席を魅了し尽くしたと言えます。

深く長い余韻を残すラストシーン、やがて緞帳が下りてきます。そして遂にそれが下り切ってしまっても、まだ拍手は出ません。前日と同様に。しかし、この日が前日と異なったのはその後でした。劇場内を覆い尽くした未だ張り詰めた空気のなか、誰ひとりとして、静寂を破ろうとする「勇者」(なのか?)は現れません。静まり返ったままの場内に、その静けさの故に、緞帳の向こう側、舞台上、カーテンコールに備えて並ぼうとする舞踊家たちの足音や衣擦れの音が聞こえてきます。それをきっかけにして、漸く、まるで金縛りが解けたかのように、大きな拍手が湧き起こったのでした。それは再び緞帳が上がる直前だったように記憶しています。私たちはそんな奇跡のような、濃密この上ない空気と時間とを体験し、共有したのでした。

今日のブログは、主にアフタートークのご紹介かなと思っておりましたので、少し先を急ぎ過ぎた感もありますね。それ以外のことも書き残しておきたいと思います。

「靴下屋さん」とのコラボソックスに関しては、Noism2リハーサル監督の浅海侑加さんが前日とはがらり雰囲気を異にしながらも、物販コーナーにて、素敵な笑顔で販促に努めておられました。

そして、入場時に手渡されるチラシのなか、皆さんに手渡されるもののひとつに、「さわさわ会」の会報誌(vol.10)もあります。表紙を含む全12頁には、井関さん(とNoism)の魅力がたっぷりで、美しい一冊です。

ここからはこの日の終演後に開催されたアフタートークについてのご紹介を試みようと思います。(寄る年波、聞きながらメモするのがちょっとままならなくなってきてしまってます(涙)。かいつまんでのお届けということでご了承ください。)

この日は『マレビトの歌』を踊ったNoism1の舞踊家10人が登壇してのアフタートークです。舞台上、下手(しもて)側から、順に、司会の上杉晴香さん(Noismスタッフ)、坪田光さん、樋浦瞳さん、庄島さくらさん、庄島すみれさん、春木有紗さん、中尾洸太さん、兼述育見さん、糸川祐希さん、松永樹志さん、そして一番上手(かみて)に太田菜月さんが並び、18:14にアフタートークは始まりました。

Q1: 音楽のアルヴォ・ペルトを知ったのはいつ頃か?どのようにして知ったか?
 -坪田光さん
 これがペルトと知ったのは、『Fratres III』で、初めて曲と世界観に触れた。みんなの中央で、ひとりで踊る穣さん(金森さん)の姿に、もう恐ろしいなと思った。
 樋浦瞳さん 穣さんが帰国して、Noismが作られる前、『ノマディック・プロジェクト』のDVDで。
 -司会・上杉さん: 因みに、このなかに『Fratres I』を踊った人はいません。
 中尾洸太さん 『春の祭典』・『Fratres III』・『Adagio Assai』のとき。みんなが踊っているなか、ひとりポンッと入って、「やれっ!」って感じだったので、知った瞬間は特に考える余裕もなく、忙殺されていた。今は毎年、やっていて、聴くところ、聴き方が変わってきている。聞こえ方が変わると、踊りも変わる。

Q2: スロベニア公演で『マレビトの歌』はどのように評されたのか?
 -司会・上杉さん: スロベニア日刊新聞に、東洋と西洋の融合。見たこともない身体表現。「マレビト」は外から来る未知のもので、不安を伴う。強い説得力をもち、考えさせられた。身体の動きが揃っていたことも印象的、と。
 糸川祐希さん 直接、現地の人とのやりとりこそなかったが、集団性のあるカンパニーと受け取られたことに、こういう作品はそうそうないのだなという手応えを感じ、自信に繋がった。
 庄島さくらさん 海外にいた頃の友人のご両親から、なかなか見ることのない作品で、容易には言い表せないものがあるが、(音楽・照明を含めて)舞台の世界観が凄い、と。

Q3: 『マレビトの歌』、黒部、利賀、スロベニアと実演を重ねてきての変化は?
 -庄島さくらさん: 『マレビト』全て踊ってきているが、毎回違っている。今回だと、「火皿」や背景。人が灯した火の皿の意味、儀式、「導く」など、違った意味が増えて、新しい解釈で臨んだ。
 庄島すみれさん スロベニアは縦長で広い舞台だった。舞台も違うし、ストーリー性もちょっとずつ違ってきている。穣さんのなかでも、黒部での初演時とは変化が出て来ているのかなぁと。
 松永樹志さん 今回、初参加。踊るたびに違う気持ち。毎回新鮮な感じ。

Q4: スロベニア公演と新潟公演に関して
 太田菜月さん 5年目になる新潟は慣れ親しんだ場所。地面も空気も空も全てが心に落とし込まれている。対して、スロベニアでは心がザワザワした。慣れるのに少し時間がかかったが、踊るのが好きなので、舞台はどこでも落ち着く場所。
 兼述育見さん 慣れることと踊ることの両立に時間がかかった。あわあわしているうちに本番になり、雑念が多かった。新潟ではルーティーンでやれるが、同時に、緊張するし、気配が怖くなったりもする。
 春木有紗さん 新潟では、幕がしまっていても、直前になると静かになるが、スロベニアは、直前になってもざわざわ集中していないので、ルーティーンが崩されていった。新しい発見があり、体感した。

Q5: 一人ひとり進化が感じられる。身体の変化や身体への思いを聞かせて欲しい。
 -坪田光さん: 作品毎に筋肉も、精神的にも変わってきている。『マレビトの歌』は「外」からの影響。それにどう挑むか、その日によって違って楽しい。
 -樋浦瞳さん: 今日の踊りで気付いたことだが、目が合うときに、その人の身体、自分の身体を感じる。その瞬間、ビビっと感じるのが楽しい。
 -庄島さくらさん: 現在、35歳。若い頃は全力を注いで踊っていたが、今は、「ここは40%、ここは30%」等と、身体と思考を分散させて見えるようになってきた。
 -庄島すみれさん: 『Fratres』のハードルは高かった。中に入って踊るのは衝撃だった。今は、「ここはどう踊ろう」という気持ちに。目が合うと、やはり良いなと思う。
 -春木有紗さん: 『マレビトの歌』は自分にとって特別な作品。黒部でNoism2としても、準メンバーとしても、Noism1としても踊っている。見ていられない踊りしかしていなかったなと。
 -中尾洸太さん: 自分に、そして相手に集中するだけ。ただただ生き切るだけ。眠れない夜もあるが、それも愛して舞台に立つ。
 -兼述育見さん: ストーリーはないが、一つひとつの動きを、誰に対して何を見せたくて、どう動くのか、大切にしなくちゃいけないと感じている。
 -糸川祐希さん: これまでも新しい発見をしてきた。これからも怠らず、進化し続けたい。
 -松永樹志さん: 3年目。本番にどう集中していくか考えて臨んできた。今は、本番直前までなるべくぼうっとしていることにした。そうでないと、アドレナリンが出過ぎてしまって、もたなくなる。今は作品に集中出来ている。
 -太田菜月さん: 『マレビトの歌』のフード、視覚が削られる。ダンサーとして、人間として、感覚が磨かれる。普段から明るいキャラクターだが、自分も本番前はぼうっとしている。今日はそれがちょっと上手くいったかなと。

…と、18:46に終了したこの日のアフタートークですが、まあそんな感じだったでしょうか。

待ちに待った『マレビトの歌』公演ですが、早いもので、新潟公演は12/7が楽日、全5公演の折り返しとなります。Noismにとっても熟成に熟成を重ねてきた、正真正銘エポックメイキングな舞台です。ストーリーがないにも拘わらず、突出した身体がもたらす説得力は目撃してみなければ、想像し得ないものと言い切りましょう。

また同時に、見詰める私たち一人ひとりがどのような見方で臨もうとも、全ての見方を許容してしまう強靭な包容力、或いは強度を有する類い稀なる舞台とも言い切りましょう。

これまでのNoismの歩みがここに収斂し、この先のNoismの歩みはここから始まることになるのだろう、そんな舞台です。『マレビトの歌』、どうぞお見逃しなく!

(shin)

春、若芽が吹くように…「Noism2 定期公演vol.16」(2025/03/09)

皮肉なことに、東京をはじめ関東には凍結の恐れなどを伝える注意喚起がなされていたというのに、新潟では光に少し春らしさが感じられるようになってきた、そんな2025年3月9日(日)。15時からの「Noism2 定期公演vol.16」2回公演の2日目を観るために、りゅーとぴあに向かいました。

前日(3/8)は同時刻に、金森さん演出振付の新作『Tryptique ~1人の青年の成長、その記憶、そして夢』を含む牧阿佐美バレヱ団「ダンス・ヴァンドゥⅢ」を観に行ってましたので、この日はまた異なる舞踊が観られることにワクワクする気持ちがありました。

過日の公開リハーサル後の囲み取材の場で、地域活動部門芸術監督の山田勇気さんから、今回(vol.16)のラインナップに込めた思いを聞いたことも、その期待を膨らませる効果がありました。山田さん曰く、次世代の振付家を輩出することと、「登竜門」を通過する舞踊家を観ること。そのふたつは充分に興味深い事柄でした。

物販コーナーにはNoism1準メンバーの春木有紗さん(左)と佐藤萌子さん(右)

そして15時になります。最初の演目は樋浦瞳さん演出振付の『とぎれとぎれに』。緞帳があがると、初日公演を観た久志田さんの文章にあるように、斜めに配された大きな「紙」が存在感たっぷりに目に飛び込んできました。思ったこと。「やはり樋浦さんは『斜めの人』であって、『正面の人』じゃないんだ。だから、『にんげんしかく』で客席の方を向いて、ポケットから笹団子を取り出したり、身体の前で両手を動かして矩形のイメージを伝えてきたりしたときに、何やら新鮮な感じがしたんだ」とかそういったこと。
蠢いたり、たゆたうようだったりしながら、斜め位置の「紙」で表象される舞台(時間、人生)との関わりのなかで、逃げ出そうとしたり、格闘したりしながらも、とぎれがちながら繋がっていく関係性。その間も「紙」が決して破れることがなかったのは、この日の私には希望に映りました。そして、その歪な「紙」が上方に浮き、その真下で踊られるようになってからは、佐野元春『No Damage』のメインビジュアルが想起されもしましたが、「人生ってそうだよな」とも妙に納得させられる部分がありました。
最後、6人が舞台正面奥に消えていくときにハッとしたのは、『にんげんしかく』のときと同じでした。樋浦さんがこれから先も変わらず「斜めの人」なのか興味があります。

10分の休憩を挟んで、今度は中尾洸太さん演出振付『It walks by night』です。チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」が聞こえてきます。第3楽章です。レインコートと帽子、蝋燭、そして一枚のドア。多分にウェットでシリアスな雰囲気を待ち受けていたところ、開いたドアから折り重なるようにして見える顔たちはいずれもこちらを見据えています。「えっ!」と思うが早いか、「アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ(とても速く活発に)」に乗って展開されるコミカルで楽しい動き。腰には白いチュチュを巻いて。この先、あの音楽を耳にする度、その光景が浮かんでくるようになってはちょっとつらいというか、残念というか、そんな困った組み合わせに、唖然としつつ、気持ちは「脱臼」させられたような塩梅です。(ゴダールの映画もよく「脱臼」を狙ってきます。)
しかし、第4楽章の「アダージョ・ラメントーソ(悲しげにゆっくりと)」では、踊りの調子がガラリと変わっただけでなく、紗幕の向こう、シルエットとして浮かんでくる「活人画」に似た場面には殊更に美しいものがありました。「何も徹底的に『美』を廃した訳ではなくて、硬軟をフットワーク軽く行き来することを狙ってのものなのだな」、そう理解しました。
それからこの作品では、今度は腰に巻いていた筈のチュチュが揃って上方に浮いただけでなく、ラストでは(予想通り)全員が中央のドアの向こうに消えていきます。そのあたりに樋浦さん作品との近縁性も強く感じられ、興味深く見詰めました。また、ふたりとも広い舞台を充分に活かそうとする演出振付をされていたように思います。

その後の休憩は15分。そして、「登竜門」(山田さん)の『火の鳥』、何度観ても、観る度にゾクッとする金森さん演出振付の名作です。若いダンサーがその身体を使って、この作品に一体化したときに放たれる「美」は決して色褪せたり、揺いだりすることのないものです。「これをしっかり踊り切れたら、観る者はちゃんと感動する」、そんな作品がこの『火の鳥』なのです。金森さんから若者に向けられた愛で出来上がっていて、寸分の隙もない作品と言えます。
また、繰り返し観てきた者としては、初めてこれを目にする人たちが「あっ!」と声まで出さんばかりに、心地よい不意打ちをくらう瞬間が訪れるのを待つ、そんな楽しみもあります。そして同行者がある場合には、まず例外なく、終演後、笑顔でその場面の話をする姿が見られるのです。そんなリアクションはこの日もあちこちに認められました。
この日、この「登竜門」或いは「試金石」に挑んだダンサーたちに鳥肌が立ったことは書き記しておかねばなりませんし、それを書き記すだけでもう充分かと思います。そんな心を揺さぶる踊りを見せてくれたダンサーたちにこの日もっとも大きな拍手が贈られました。彼女たちにとっては、「伝統」(山田さん)に繋がった日だった訳です。

春、若芽が吹くように瑞々しい躍動を見せた若きダンサーたちと若き振付家ふたり。大地に力強く根を張り、限りなく広がる高い空に向かって大きく育っていって欲しいものです。きっと襲ってくるのだろう風雪などものともすることなく、逞しく、そして美しく。3つの演目を観終えて、そんなことを思ったような次第です。

(shin)

清新さと野心と(サポーター 公演感想)

毎年3月恒例の研修生カンパニーNoism2定期公演。今回(vol.16)はNoism1・中尾洸太さんに加え、同じく樋浦瞳さん(新潟市出身)が演出振付家デビューすることもあって、各種媒体でも公演が紹介され、初日の客席も盛況だった(BSN新潟放送の取材班もお見かけした)。客席や物販コーナーではNoism1メンバーの姿もあり、皆で若き舞踊家と演出振付家を盛り立てようという思いが、劇場に漂うよう。


開幕は樋浦瞳作品『とぎれとぎれに』から。私たちが「Noism的なるもの」として連想する、虚飾を剥いだ舞踊の連なりに、樋浦さんならではの細やかな感性が染み込んだ一作。舞台正面から斜め方向を意識した空間構成や、ある舞台美術が雄弁に示す舞台の一回性。白から黒、生から死へのあわいで悶える6人の若き舞踊家達と、照明が織りなすものに、私は奪われていくガザ始め世界を生きる人たちの命を思わずにはいられなかった。

続く中尾洸太作品『It walks by night』は、中尾さんの既にして才気溢れる作家性に圧倒される仕上がりとなっていた。Noismの基礎にある「クラシックバレエ」そのものを解体し、再構築していく舞台に息を幾度も呑んだ。あるクラシックの有名曲(最近ではアキ・カウリスマキ『枯れ葉』でも印象的に使用されていた)と9人のダンサーの調和、バレエでの女性表象を超えるNoismらしいエログロまで内包した演出には唸るばかり。

公演ラストを飾るのは金森穣芸術総監督による、最早古典的風格さえ漂う「火の鳥」。ストラヴィンスキーの楽曲と寸分違わず溶け込む振付、8人の舞踊家の「今」を活かし切る瑞々しさと、安易な感傷を排して観客のイマジネーションを膨らませる「仮面」と「黒衣」。幾度見ても新たな発見を得られる名品だ。

公演初日は、地域活動部門芸術監督・山田勇気さん、中尾洸太さん、樋浦瞳さんによるアフタートークが開かれた。「若いダンサーへのメッセージ」を問われ、「自分が今持っている身体に向き合えるのは自分だけ。未来と今、他者と出会うことを意識して踊り、あなたの身体でしか発見出来ないことを見付けてほしい」と語る樋浦さんと、「夢を見ないこと。夢は叶わないかもしれないし、逃げにもなる。身体や心から起こる野心と、現在地を見つめる為の目標を大切にしてほしい」という中尾さん。対照的でいて、各々の誠実さが滲む答えに胸が熱くなった。


若き舞踊家それぞれの献身と躍動に加え、新しい舞踊作家の誕生を目撃する機会。本日の公演の更なる盛況を祈る。

久志田渉(新潟・市民映画館鑑賞会副会長、「安吾の会」事務局長)

「Noism2 定期公演vol.16」活動支援会員/メディア向け公開リハーサル&囲み取材に行ってきました♪

2025年2月28日(金)、りゅーとぴあに向かうのに、考えなしにセーターを着てダウンコートを羽織ろうしたところ、連れ合いからダメ出し一発。この日は新潟県も「4月中旬の気温」となるということで、少し薄めのものに変えて、「Noism2 定期公演vol.16」活動支援会員/メディア向け公開リハーサル&囲み取材に行ってきました。

予定時刻の12:30、〈スタジオB〉にて、中尾洸太さん演出振付の『It walks by night』のクリエイション風景から公開リハーサルは始まりました。ホワイエで待っている間から耳に入ってきていたチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」のあの最も知られた旋律が流れる場面を中心に、クリエイションの様子を見せて貰いました。中央奥にとても象徴的な木製の扉。Noism2メンバー9人のうち、ひとりだけ黒い帽子にベージュのステンカラーコートを纏っています。

「タータァタタタータターター、パッ」旋律を歌い、「1234、56」カウントを数え、自ら汗をしたたらせながら踊って、振りとそのイメージを伝えていく中尾さん。この日、私たちの目の前でじっくり時間をかけていた回転の振り。「足、そして手首、身体の順」(中尾さん)に動きが伝わっていき、2本の腕が纏わり付くかたちで身体を捩らすような複雑な回転にはブラッシュアップが続きました。チャイコフスキーの旋律にのせて、中尾さんのロマンがどのように可視化されていくのか、楽しみでなりません。

13:00、次いで今度は樋浦瞳さん『とぎれとぎれに』からの一場面を見せて貰う番です。こちらの作品、まず最初に大きな白い紙が運び込まれて敷かれていったところから、既に何やら独特な世界観が漂ってきました。音楽も、先刻までの中尾さんがメロディアスだったのに対して、ざらつくノイズ然としていたり、機械的だったり、ビート音だったり、全く別の趣のもの(原摩利彦)です。で、それに合わせた振りはやはりソリッドなもので、ところどころ、『R.O.O.M.』や『NINA』を想起させる動きも見出せるように思いました。

「一回、紙から逃げてみて、でも戻っていく感じ」とか「倒れた直希(=与儀直希さん)に、自分の吐く呼吸を入れていくみたいな」「もっと持ち上げるような感じで」とかと丁寧にイメージを伝えていく樋浦さん。Noism2メンバーの9つの身体と一緒になって、私たちをどこへ連れて行き、どんな世界を見せてくれるのでしょうか。興味が掻き立てられました。

上演3作品の使用楽曲です。

13:30、ホワイエにて囲み取材が始まり、地域活動部門芸術監督・山田勇気さんと今回、演出振付作品を発表するNoism1・中尾洸太さん、樋浦瞳さんがそれぞれ質問に答えるかたちでたっぷり話してくださいました。以下に、かいつまんでご紹介します。

Q・今回の作品のテーマ、伝えたいもの。
 -A・中尾洸太さん(『It walks by night』): 一番のテーマは「選択」「チョイス」。同年代(20代前半)の振付家と舞踊家のクリエイションは珍しい機会。同年代の観客層に届けたい思いもある。人生のなかで、何かを選択することを恐れないこと。そのときには誰かがまわりにいて、ひとりじゃないということ。まわりの人がいるからこそ、様々な感情が生まれること。それらを再認識するなかで、この先の自分の選択を噛み締めていけるような、未来に繋がる作品になればいい。
 -A・樋浦瞳さん(『とぎれとぎれに』): 自分が、人が、生命体が生まれてくる前にはどのような光景が広がっているのだろうという疑問から創作を始めた。「舞踊」という芸術は舞踊家が踊るその時間のなかにしか持続はない。その時間とその身体でしか起こることが出来ないもの。生命にも舞踊にも終わりは来るが、途切れたあとも繋がっていくものがきっとある筈だという思いを主軸に創作した。一人ひとりがその身体を持っていることを喜べるきっかけになったら嬉しい。「紙」については、舞踊作品の一回性を作品のなかでより顕著に表したかった。その「紙」に舞踊家たちが集まってきての始まりは、生命の源、「泉」のようなイメージによるもの。今の舞踊界で、このような時間と場所と舞踊家を得て創作出来るのは奇跡的なこと。この環境だからこそ出来ることを追求していきたい。
 -A・山田勇気さん: 【①金森さんの『火の鳥』について】: 金森さんが初めてNoism2のために作った作品で、2011年に初演、これまで5回ほど再演している。 メッセージ性がシンプルで強く、踊る者にとっても「登竜門」のようでもあり、これを越えることで成長できる、或いは、成長しなければ成立しない「強い」作品。これは生き残る作品であり、後世に伝えていくべき作品。これを通過する色々な舞踊家を見て欲しい。ある種、伝統になればいい、という思いもあって選んだ。
【②中尾さん・樋浦さん作品について】: レパートリーを踊るとなると、自分の選択をために振り付けられたものではないため、「踊ってみた」みたいに踊ってしまうことも起こり得るもの。そうした点から、相互に影響を与え合い、主体的に考えないければならないクリエイティヴな場所を設けることでカンパニーとして成長することを期している。若い振付家にがっぷり四つで組んで格闘して貰って、そのなかで何か新しいものが生まれることを期待して、ふたりにお願いした。作品自体がゼロから始まる、「教える-教わる」関係を一旦離れた場所と考えた。

Q・一公演で同時にふたりが演出振付することについて。
 -A(山田さん):
 ふたりも刺激し合っているが、一番は、プロの振付家の現実問題として、時間の割合が大変なこと、そうした制約があるということがある。与えられたもの、限られたもののなかでベストを尽くすこと。メンバーは3つの作品を踊る、『アルルの女』のリハーサルも行っている、そうした同時進行状況のなかで、如何にフォーカスしてやっていくかは難しいことだが、やらなければならないこと。
現役メンバーに振付家としての依頼をすることには、Noismというカンパニーに属し、ひとつの「言語」のようなものを共有する者が、その中から如何にして「自由」を獲得していくかは大切なことと考える。自分たちが今ここで作っている身体性にどれだけの普遍性があるかは、そのなかで何かを作ることでしか分からないものがある。
また、次世代の振付家を輩出することはレジデンシャルカンパニーにとって大切なことでもある。

Q・【中尾さんに】タイトルは(ジョン・ディクスン・カーの)推理小説と同名。具体的なストーリーをイメージしているのか。
 -A(中尾さん):
 ストーリー・テリングはしない。(使う)曲毎に詩を書いていて、その自分が想像したこと(詩)と音楽、それを社会(観客)とどう繋げていくかを意識している。振付家と舞踊家と観客のトライアングルが綺麗に揃っていないと良い瞬間は生まれない。この時代に簡単に溶け出してしまわない作品を残したい、その時間を提供したい。
観客が観に来ることも選択なら、自分たちが本番中に振りを踊るのもひとつの選択であり、既存のものをただ舞台にのせているのではない。研修生カンパニーであることから、自分たちの葛藤と闘っていて、身近に重い選択を控えている。それは舞台に出て来る。自分たちのベストを尽くした作品で観客に真っ向から立ち向かう時間を作りたい。それら全てが「選択」。タイトルは語り過ぎず、抽象的な感じで、意味を込め過ぎない、ふわっとしたものである。

Q・選曲理由は。
 -A(中尾さん):
 チャイコフスキーがどう亡くなったか知っていたので、「選択」「チョイス」は常に頭にあった。「悲愴」はチャイコフスキー最後の交響曲であり、哲学的思想が詰め込まれている。自分が振付家として彼の音楽と闘うのと同時に、舞踊家と一緒に、彼の音楽を通して、社会になにか普遍的なものを提供出来るのではないかと思った。
 -A(樋浦さん): 自分がそれらを聴いているときに、彼女たちが世界を繰り広げている様子を想像出来たこと。音がなくなる瞬間があったり、メロディー自体が存在しなかったりするが、その空間のなかに舞踊家がいることで、音楽と身体とが相互補完的だったり、相乗効果が生まれたらよいと。それが音楽と舞踊家との関係性として目指していること。

Q・この3作品での公演に関して。
 -A(山田さん):
 ヴァラエティ豊かで、楽しんで貰える。3つの全然違う作品にNoism2の舞踊家がどう取り組んで、そこで生きるのか。若い身体、若い思い、若い精神からしか出て来ないエネルギーを是非感じて欲しい。3作品が合わさったときに、彼女たちの表情とか輪郭とかが見えてくるのかもしれないと期待している。(13:55囲み取材終了)

…というところをもちまして、公開リハーサル&囲み取材の報告とさせて頂きます。

色々な意味合いで、とても興味深い「Noism2 定期公演vol.16」は3月8日(土)と9日(日)の2 days。只今、チケットは好評発売中です。若き舞踊家9人が格闘する3作品、そこに漲るエネルギーを全身で受け止めてください。

更に、8日の終演後には、この日の囲み取材時と同じ、山田さん、中尾さん、樋浦さんが登壇してのアフタートークも予定されています。(9日のチケットをお持ちの方も参加出来ます。)作品が生まれる現場により一層コミットしてみる機会です。楽しくない筈がありません。ご検討ください。

【追記】現在、発行されている「Culture Niigata」最新号(2025.03-05、vol.122)に、今回、振付家として創作している樋浦瞳さんが取り上げられています(表紙およびインタビュー記事)。加えて、昨年11月「新潟県文化祭2024『こども文化芸術体験ステージ』」(@十日町市・段十ろう)に登場し、『火の鳥』と『砕波』を披露したNoism2についても掲載されています。同誌は無料。りゅーとぴあにも置かれていますので、是非、お手にとってご覧ください。

(photos by fullmoon & shin)

(shin)

「纏うNoism」#07:樋浦瞳さん

メール取材日:2023/05/20(Sat.) & 06/01(Thur .)

去る2023年5月20日(土)&21日(日)の僅か2日間のみ屋外舞台にその姿を現したNoism0+Noism1『セレネ、あるいはマレビトの歌』。「黒部シアター2023 春」前沢ガーデン野外ステージのその初日の日付で、わざわざアンケートにお答えくださった樋浦瞳(あきら)さん。そこから「纏うNoism」第7回、樋浦さんの回のやりとりが動き出しました。画像もその前沢ガーデンで撮影して頂きましたし、サポーターズへの気配りをもちながら、黒部で踊っておられたのだと知ることの有難さといったらないでしょう。では、その「纏う」樋浦さんをお楽しみください。

「流行に夢中になってはだめ。ファッションにあなたを支配させてはだめ。その着こなしと生き方によって、あなたが誰で、どう見せたいかは自分で決めればいい」(ジャンニ・ヴェルサーチ)

それでは樋浦さんの「纏うNoism」始まりです。

纏う1: 稽古着の樋浦さん

 *おお、「あの」前沢ガーデン!裸足!野性味のあるご登場ですね。そしてもう一枚の方、木の陰から「ひょっこりはん」しているのはNoism1準メンバーの横山ひかりさん。そして左側に立つのはNoism2の春木有紗さん。ホントにいい雰囲気の写真ですね。

 樋浦さん「この写真は黒部の前沢ガーデンで撮影しました」

 *ですよね。実に素敵な場所でした。溶け込んでいますね、樋浦さんも、横山さんと春木さんも、ハイ。なにやら、「自然児」というか、自然の一部と化したというか、そんな雰囲気ですね。では、ここではまず稽古着一般についてお話しいただけますか。

 樋浦さん「稽古着は、リハーサル中の作品がどんな衣裳かによって半袖か、タンクトップか、短パンか、長ズボンか変わっていきます。
Noismではいつも黒い服の人が多いのですが、自分は黒い服を着ると緊張してしまうので、普段はあまり着ません」

 *そうなんですね。「黒」を避ける感じなのですね。で、この日のトップスはグレー。そのグレーっていうのは樋浦さんの好みの色なのですか。そして他に稽古着として着るのに好きな色とか、好きなブランドとかってありますか。

 樋浦さん「いちばん好きな色は藍色、紺色です。落ち着きます。スポーツ用品のブランドでは、アディダスの服が多い気がします」

 *なるほどです。短パン、紺色ですものね。樋浦さんが稽古着の色に求めるものは「落ち着き」、理解しました。

 *あと、この日は美しい野外の緑の上ということもあってのことでしょう、裸足ですが、お約束の「アレ」についてもお訊きします。普段の稽古で身につける靴下に好みなどはありますか。

 樋浦さん「最近はユニクロの靴下を履いています。たくさん色の展開があるので毎回選ぶのが楽しいです。あとはナイキの靴下も指が開いて踊りやすいです」

 *ユニクロで色を選ぶ楽しさ、よくわかります。それでも、いつも似たような色選んじゃうんですけどね、私の場合。あと、ナイキの靴下はそうなのですね。メモメモメモ。

纏う2: 樋浦さん思い出の舞台衣裳

 *これまでの舞踊人生で大事にしている衣裳と舞台の思い出を教えてください。

ん?この感じ…?

 樋浦さん「黒田育世さんの『ラストパイ』という作品との出会いは自分の人生の転機でした。衣裳は山口小夜子さんのデザインです」

 *おお、そうなのですね。『ラストパイ』は未見な私が、なにか見覚えみたいなものがあるように思ったのですが、それ、山口小夜子さん繋がりなのだと。基本、黒の装いに赤のラインが走る印象的なヴィジュアルから、米国のスティーリー・ダンによる傑作アルバム『彩(エイジャ)/Aja』(1977)、そのジャケットに写る山口小夜子さんの装いに通ずるものを感じたのでした。じっくり見較べるてみると結構違っているのですが、瞬時に浮かんだ印象です。まあ、それ自体、あくまでも寡聞な私の個人的なものに過ぎませんけれど。

 *話が逸れてしまいましたね。スミマセン。元に戻しまして、その転機となった『ラストパイ』についてのお話、もっと聞かせてください。

 樋浦さん「2018年のDance New Airという東京のダンスフェスティバルでのプログラムとして上演された際に出演しました。この作品は、2005年にNoism05が黒田育世さんに振付委嘱して製作されました。初演時は、穣さんや佐和子さんも踊られていました。
自分がこのとき担ったパートは、初演時は平原慎太郎さんが踊られていたところでした。衣裳も当時から同じものがずっと受け継がれているそうです。何回も床に倒れる振付があるので、左肘に緩衝材があてがわれているのが印象的でした」

 *なるほど、興味深いお話ですね。で、「転機」となったという点について、更にお願いします。

 樋浦さん「自分がこの作品と出会ったのは2017年で、その時は穣さんのパートを踊りました。当時は大学4年生で、もう踊ることはそろそろやめようと考えていました。
穣さんのパートは40分間絶えず踊り続けるので、身体が本当にもげそうになるのですが、この時自分の身体がまだまだもっともっと踊りたいと感じていることに気づいたのです。
本番を終えたあとに、いつも優しい笑顔で話す育世さんが、鋭い眼光で『踊りなさい』と言ってくれました。この時かけてもらった言葉は、今でも自分の舞踊人生を力強く支えてくれています。育世さんは自分の踊りの恩人です。
写真は2018年の公演のゲネプロ後に、誕生日を祝っていただいた時のものです」

 *なるほどです。それはまさしく「転機」ですね。樋浦さんの現在に繋がる重要な「鍵」を握る作品を踊る機会だったってことなのですね。更にそれに加えて、Noismとの「縁」をも感じるお話と受け取りましたが、その2017~18年頃、樋浦さんはNoismに関して、どのような思いをお持ちでしたか。

 樋浦さん「2018年は『NINA』の埼玉公演を観に行って、衝撃を受けました。その時は自分がNoismに入ることは全く考えていませんでした…。でも、元Noismのダンサーと海外のオーディションで出逢ったり、東京で出逢ったり、少なからず影響は受けていたと感じています」

 *導かれるべくして導かれて今に至っている。私たちにはそう思えますね、うん。そうそう。やはり「縁」ですよ、「縁」。

纏う3: 樋浦さんにとって印象深いNoismの衣裳

 *Noismの公演で最も印象に残っている衣裳とその舞台の思い出を教えてください。

 樋浦さん「『Fratres』の衣裳です。禊(みそぎ)へ向かう白装束のような、特別な儀式に向かっていく感じがします。Noismでの踊りはいつもものすごく緊張しますが、この衣装を着るときは特にビリビリとします」

 *はい、はい。わかります。「白」と「黒」、対極と言える見た目の色彩的な違いを超えて、内面的にと言うか、精神的にと言うか、通ずるものがありますよね。で、『Fratres』は樋浦さんにとって、基本、緊張するという「黒」ですから。でも、その「黒」を纏った「ビリビリ」の緊張状態を通過して、作品内世界へと越境し、憑依したりトランスしたりしていくのでしょうね。

 *Noism Web Siteへのリンクを貼ります。
 2019年の『Fratres I』、2020年の『Fratres III』の画像をどうぞ。

 *それこそ、前沢ガーデン野外ステージでの『セレネ、あるいはマレビトの歌』も、途中まで『Fratres』でしたけど、張り詰めた厳かさはあっても、特別、緊張の「ビリビリ」は感じませんでしたよ。

纏う4: 普段着の樋浦さん

凝ったローポジションからの撮影は
前回ご登場の…

 *この日のポイントと普段着のこだわりを教えてください。

 樋浦さん「普段着は、ゆったりとした服を着ていることが多い気がします。
新しい服を買うことが滅多にないので、稽古着も普段着も古着が多いのですが、このTシャツはH&Mで一目惚れして買ってしまいました。お気に入りです」

 *おお、盆栽のTシャツ!凡才の私ですが、何やら惹き付けられるものがありますねぇ。(笑)これ、相当エモイんじゃないでしょうか。添えられた「OBSERVATION(観察)」と「KNOWLEDGE(知識)」というふたつのワードも、描かれた盆栽の松が漂わせる佇まいを引き立てて、何だか意味深ですし!
そして、何より前沢ガーデン(と野外ステージ)というロケーションにピッタリではないですか。こちらのTシャツと前沢ガーデン野外ステージでの公演との間に何か関連はありますか。

 樋浦さん「あまり意識はしていなかったです…。半袖を昼間から着れるくらい暖かくなったので、嬉しくて着ていました」

 *そうなんですね。では、これはそもそものお話になるのでしょうが、古着はお好きと考えていいですか。

 樋浦さん「稽古着はすぐ汚れたり傷がついてしまったりするので、古着の方が気兼ねなく使えるのでよく利用します。あまり古着自体にこだわりが強くあるわけではありません」

 *ほお、そうなんですね、ほお。じゃあ、稽古着として着る古着に絞って、もう少し教えてください。

 樋浦さん「ダンサーの仲間や先輩から、着なくなった稽古着を譲り受けたりすることがあります。人の縁を感じたり、あの人の踊りすごかったなあとか、たまに思い出す時間は自分の支えになっているように感じます」

 *なるほど。そうした場合の古着って、単に古着というだけではなくて、繋がりや記憶も込みの稽古着ってことなのですね。いいお話しです♪

 *あと、これは服からは離れてしまうのですが、最後にもうひとつだけ。首から下げておられるお洒落なカメラについて教えてください。

 樋浦さん「FUJIFILMのX-E3というモデルのカメラです!最近中古で購入しました。レンズもとても気に入っています」

 *昔のフィルムカメラにあったようなボタンとかダイヤルが付いたレトロな感じのカメラなんですね。そして、撮影もカメラ任せのオート撮影機能ではなく、自ら設定を行うモデルのため、撮る人の個性が色濃く出るカメラなのだそうですね。その点、樋浦さんにピッタリかと。うん、お洒落です。カメラもそれをさりげなく首から下げた樋浦さんも♪
樋浦さん、どうも有難うございました。

樋浦さんからもサポーターズの皆さまにメッセージを頂いています。

■サポーターズの皆さまへのメッセージ

「いつもあたたかいご支援をありがとうございます。
感染症への警戒も落ち着いてきましたので、みなさんと直接お会いしてお話しできる機会を心待ちにしております。
今後もみなさんへいい舞台をお届けできるよう、精進いたします」

…ということでした。以上、「纏うNoism」第7回、樋浦瞳さんの回はここまでです。樋浦さん、色々と有難うございました。

これまで、当ブログでご紹介してきた樋浦さんの他の記事も併せてご覧ください。

 「私がダンスを始めた頃」⑳(樋浦瞳さん)
 「ランチのNoism」#19(樋浦瞳さん)

今回の「纏うNoism」、いかがでしたでしょうか。では、また次回をどうぞお楽しみに♪

(shin)

「皆さんのお陰でいい舞台になった」(山田さん)の言葉で終演♪『Noism2定期公演vol.14+Noism1メンバー振付公演2023』

2023年4月23日(日)、前日に幕が開いた『Noism2定期公演vol.14+Noism1メンバー振付公演2023』ですが、2日間の日程のため、早くもこの日、終演を迎えることになりました。開演時間は15:00。りゅーとぴあ界隈は同時刻に他のイヴェントも重なっていたため、早くからNoism公式が駐車場の混雑予想を発していたほど。車を駐めるのにやきもきした方も多かったのではないでしょうか。

かく言う私ははじめからりゅーとぴあ駐車場を諦めて、近隣の駐車場狙いで動き、りゅーとぴあへ向かう道すがら、The Coffee Tableさんでカフェラテを求めて、美味しく「暖」を得ながら歩いたような案配でした。そうです。この日もくっきり晴れてはいたのですが、風が冷たい一日だったのです。

カフェラテを飲みきる頃には、既に開場時間となっており、あの作品たちにもう一度向き合う準備を自分のなかで徐々に徐々に進めていきました。チケットを切って貰ってホワイエに進むと、まず目に飛び込んできたのが物販コーナーに立つ庄島姉妹の姿であり、そこで振り返ると今度はプログラムの展示コーナーには三好さんと横山さんの姿を認めることになりました。なんと豪華なスタッフであることでしょう!そのまま放置できる筈もなく、お願いして写真を撮らせていただきました。多幸感、多幸感♪どうも有難うございました。

そんなこんなで開演時間を迎えて、この日も前日同様、『Noism1メンバー振付公演2023』から幕があがりました。それからの4作品について、前回のブログには書けなかった事柄を思い付くままに記録しておこうと思います。

糸川祐希さん振付作品『Ananta』。「円環」を意識させる端正な印象の作品。斜めにかぶいて立つ姿がいつまでも残像として残り、傾いた身体の軸を上方に伸ばしてみると、幻視される直線上の一点で交わることになる身体ポジションの把捉も影響あるかと。ラストの暗転直前、互いに視線を交わらせる様子にもグッとくるものが。

坪田光さん振付作品『あなたへ』。最初は繰り出されるビートに乗って、やがて、祈りにも聞こえる不鮮明な人声のなか、自らの身体を差し出す舞踊家ひとり。天とおぼしき上方から、そして正面方向から受け取った何かをその身に入れてなおも差し出す。そうして見出されるだろう自分にとっての真実を手にせんがため。

樋浦瞳さん振付作品『器』。前回も書いた斜めのアクティング・ラインへの拘りを再確認。コッポラ『地獄の黙示録』のヘリのプロペラ音にも似て、デフォルメされた回転系のノイズのなか、時折、周期的に現れる金属開閉時のようなノイズにおののきつつも「今」に向き合うふたり(或いは「2匹」)、休む間もなく。

中尾洸太さん振付作品『自転・公転』。弦とピアノのゆるやかな楽音のなか、ひとりがいまひとりに見捨てられて踊る。次いで、もうひとりの側でもその同じ状況が反復される。そこを経過したのち、二者の関係性は更新され、自らを超え出たその先で、相手を見出して、新たな関係性と邂逅し、刷新されたひとりとひとり。

…そんな事柄を、私は感じました。ご覧になられたあなたはどう感じましたか。コメント欄にてお書きいただけましたら嬉しく思います。いずれにしましても、四者四様の刺激に満ちた作品たちだったと感じました。

そこから、15分間の休憩を挟んで、ほぼ16:00、後半の『Noism2定期公演vol.14』部へと移行していきました。初日ブログのコメント欄にて、fullmoonさんが正しく指摘してくださった、金森さんの振付の「強靭さ」に改めて打たれることになりました。集められたピース、その一つひとつの魅力的なことといったら!でも、その「進行」或いは「展開」は前回のブログをご覧いただくこととして、今回は詳細には立ち入らないでおきます。

但し、どうしても書かねばならぬことがあります。22時間前の(前日の)パフォーマンス(そしてそれ自体は全然悪いものではなかったのですが、)からみて、圧倒的な訴求力を加えて踊られていったということを特筆しておかなければならないでしょう。わずか22時間を隔てて、ほんの一度、舞台上で踊ったことで手にした自信と確信を身中に、「今のこのときを逃してなるものか!」とばかり、それぞれのその可能性を押し広げんと、それぞれに未踏の領域に踏み込んで踊ってみせたのが、この日のNoism2のメンバー9人だったと言わねばなりますまい。ラストの『クロノスカイロス1』を踊り終え、いまだ息の荒い9人(とNoism1メンバー4人)に対して繰り返されたカーテンコール、その度毎に、スタンディングオベーションの人数が増えていったのです。その場面、客席と舞台の間に生じ、やがて〈劇場〉内を覆い尽くすに至ったもの。9人の献身の果てにもたらされた非日常の感動、それに浸ることの幸福感。恐らく、舞踊家も観客も誰ひとりとしてこの日、このとき、それぞれの心が示した振幅の大きさを忘れることはないでしょう。確信をもってそう言い切りたいと思います。涙腺直撃の、素晴らしい2日目の(最終)公演でした。

その後はやはり前日と同様、アフタートークが持たれました。その際のやりとりについてもかいつまんで簡潔にご紹介しましょう。この日は質問シートが多く、それに基づいてのアフタートークでした。

Q01: Noism2は現在、メンバーは女性だけ。難しいことは?
 -浅海さん:
 「組みもの」など、男性がいて初めてできる表現もあるので、そこは淋しい。常に募集している。

Q02: Noism2からNoism1にあがるときの変化はどんなものか?
 -糸川さん:
 (金森)穣さんとのクリエイションが出来ることが一番大きい。
 -坪田さん: 出来ること自体はNoism2のときから変わらない。Noism2だったときも学ぼうと思えば学べると思っていた。
 -山田さん: やはり環境が異なる。本人が意識していなくても変わっていることもある。

Q03: 【山田さんと浅海さんに対して】それぞれの振付作品をみた感想は?
 -浅海さん:
 それぞれの性格がそのまま作品に出ていると思った。
   糸川さん作品は、動きの組み合わせ、音楽の選び方、4人の配置。
   坪田さん作品は、そのまんま勢いよく踊って表現していた。
   樋浦さん作品は、彼が描く絵と似ていると思った。
    ちょっとジブリのような。水の流れというより水の泡のような。
   中尾さん作品は、動き、流れ、構成、良さが詰まっていた。
    振りをつくるのがしっかり見えていて良いなと思った。
 -山田さん: みんな一緒で、自分の問題意識から出発して、社会や世界へと問題意識を広げていけるといいと思う。よく出来ていた。次、何をするのか気になる。

Q04: 「タイトル」の理由は?
 -糸川さん:
 「アナンタ」とはサンスクリット語で「永遠」、そしてインド神話では原初の蛇にして神。まず、音楽から決めて広げていったとき、途中で「永遠」への疑問が湧いた。
 -坪田さん: 「あなたへ」。年配の人は誰しも迷いがあっただろうし、懐メロみたいだったり、若い人には今はつらいかもしれないが、先に光があるかもとか、応援ソングみたいだったり。未来の「自分」にむけた手紙のような作品をと。
 -樋浦さん: 「器」。入れ物に対して、入るものがあり、出ていくけれど、残るものがある。身体は器だなと。過ぎていくことで悲しいこともあるが、中に入れて変化していく器としての身体を思った。
 -中尾さん: 「自転・公転」。人間関係の比喩が一番大きい。外からみれば、変わらず回っているが、中のことはわからない。一生変わらない世界線、軌道を舞台上に載せてみたらどうなるかなぁと思った。

Q05: 女性メンバーは「振付」はしないのか?
 -山田さん:
 予定段階では女性メンバーもいた。是非、今度はやって欲しい。

Q06: 【山田さんと浅海さんに対して】昨日から今日にかけて、メンバーにどう声を掛けたか?
 -浅海さん:
 何も声は掛けてない気がする。
 -山田さん: 今日の本番前、見詰め合っているのを目撃した。
 -浅海さん: 舞台に出るとき、「いってらっしゃい」って言う。
 -山田さん: 直前に声を掛けるのは難しい。でも何か言っておきたいと思って、昨日は「これが最後だと思ってやって欲しい」と言い、今日は今日で「昨日から今日、自動的に踊れる訳ではない。初演のつもりでやって欲しい」と言った。

…と、まあそんな感じでしたでしょうか。で、アフタートークの最後に山田さん、『領域』の公演チラシを手に、明日明後日からダンスカンパニーカレイドスコープを主宰する二見一幸さんと一緒のクリエイションが始まる予定だと話し、続けて、同公演では浅海さんも久し振りに踊ると言ったところで、場内から大きな拍手が起こりました。見られるのですね、浅海さんの踊り。嬉しいです。

で、山田さん、最後の最後、客席に向かってこう言って締め括ってくださいました。「(公演が終わってしまい、)ちょっと淋しいですが、皆さんのお陰でいい舞台になりました。どうも有難うございました」と。しかし、それはこちらの台詞です。「振付家・舞踊家をはじめ、今公演に関わった皆さん、どうも有難うございました。そしてお疲れ様でした」と心より。

大きな感動(と同時に、小さくはない淋しさ)を胸に帰路につきましたが、それ故、ホントに次回の公演が楽しみでなりません。そうですよね、皆さん。ではまた公演会場でお会いしましょう。今日のところはこのへんで。

(shin)