2025年2月8日(土)、大雪の新潟市を脱出して与野本町、彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉でNoism「円環」中日(なかび)の舞台を観ました。
しかし、その道中は実に大変なものがありました。上越新幹線で大幅な遅延が生じていたせいで、始発の新潟駅を出発する時点で既に満席で、通路にも多くのお客さんが立っている状態。40分ほど並んで、何とか自由席に座ることは出来ましたが、大宮駅にはダイヤから約90分遅れでの到着でした。でも、それはまだマシだった方で、そこから先は新幹線が「渋滞」しているため、終点の東京駅まで40〜50分を要する見込みで、在来線の方が早いとの珍妙過ぎる車内アナウンスが流れていたくらいです。新幹線って「bullet train(弾丸列車)」ですよね。そんなこんながあって、与野本町に辿り着いたとき、見上げた青空がホント「非日常」の光景として目に映じたような次第です。









そんな塩梅で、公演が始まる前に、ある種の「非日常」にとっぷり浸っていたのでしたが、17時からの約2時間、瞬きするのも惜しいほどの真の「非日常」に触れることになりました。私ににとって、新潟・りゅーとぴあ3days以来となるこの日の「円環」トリプルビルの舞台はより深みと強靭さを増した印象で迫ってきました。
先ずはNoism0+Noism1『過ぎゆく時の中で』。若いNoism1メンバーたちの疾走に対する金森さんの歩みは長じた者が示す所謂「泰然」や「達観」とは別種のものに映じ、私たちはこれほど惑い、あたふた慌てた挙句、崩れ落ちたりもする「弱い」、言わば「脇役」の金森さんをこれまで一度たりとも目にしたことなどなかった筈です。これは尋常なことではありません。そして、この日、強く印象に残ったのは、庄島さくらさんとのデュエットを踊る際、さくらさんの身体に添えられた金森さんの妖艶と言っても過言ではない手(指)の表情でした。ゾクっとしました。しかし、それも束の間、坪田光さんとの溌剌としたパートナリングに乗り換えられてしまうのです。そうした全てが「時よ止まれ!君(たち)は美しい…」に収斂していくのです。いや、そこに込められた金森さんの思いは、正確には「君(たち)は美しい筈…」なのではないでしょうか。この一作まるまるが若き舞踊家たちへの愛情に満ちた厳しい「檄」になっていて、この先への大きな期待が込められていると言ってしまったら穿ち過ぎでしょうか。で、Noism1メンバーたちはその期待に充分応えるだけの熱演を見せてくれています。それはこの日も明らかなことでした。
続くふたつ目の演目は、彩の国さいたま芸術劇場芸術監督・近藤良平さん演出振付のNoism1『にんげんしかく』です。この日、まず、私に深く食い込んできたものは、指示対象や意味内容が明示的でない言語(=何を言っているのかわからない言葉)が一方にあり、指示対象や合目的性を持たない身体の動き(=何をしているのか判然としない動き)がまた一方にあって、それらに接して感じ得る美しさという点では、両者に途方も無い開きがあるということでした。勿論、美しいのは身体の動きの方であることは言うまでもありません。そんなことを考えてしまったきっかけは樋浦瞳さんのポケットの場面にあります。了解可能な「あの一瞬」が強いインパクトを残せばこそ、そうした対比が迫って来たという訳です。そのあたり、まだ大千穐楽を残している今、詳しくは書けませんし、元々がうまく説明出来る自信もないのですが、機会を改めて試みてみます…すみません。
そしてこの演目、個人的なツボがカーテンコールのときにもひとつあります。それは拍手に応えて立つ彼ら彼女たちが、やがて段ボールに手を置いて微笑み、お辞儀をするところです。中でも、上手(かみて)手前の太田菜月さんが「相棒」の熱演をそっと称えるかのように手を添える姿にキュンとしてしまいます。それはやはりこの日も同じでした。皆さんはどうですか。
三つ目の演目は、Noism0『Suspended Garden — 宙吊りの庭』です。耳を澄ませました、目を凝らしました、この日も。そして息を呑みました、この日も。美しさの極致にして、様々なことを想像させて余りある余白。それは静まり返っているようでもあり、饒舌なようでもあり、簡単に言葉では掴まえられないような、そう、まさに前言語的な、雄弁な身体のなせる業。4人+トルソー+トン・タッ・アンさんの音楽による夢幻のようなひとときの悦楽。ゲストの宮河愛一郎さん、中川賢さんがいてこそ立ち上がる情緒は、如何に望もうともあと一度しか観ることが叶わないもの。大千穐楽が本当の見納めです。
埼玉公演中日、そんなことを感じました。
そして、もうひとつ書き記しておきます。それは、各種の公演チラシと一緒に皆さまのお手元に渡されている「さわさわ会」(舞踊家 井関佐和子を応援する会)の会報誌についてです。Noism20周年、「さわさわ会」10周年にあたって制作されたこの度の会報誌は、その足跡を井関さんのお誕生日の画像で辿るもので、とても素敵な仕上がりになっています。是非、しげしげガン見してみてください。味わい深いものがありますから。

大好評のうちに、今回の「円環」ツアーも大千穐楽を残すのみとなりました。豊穣な「非日常」を味わえる舞台です。当日券の販売もあるようですし、皆さま、どうぞお見逃しなく!


(shin)