「変化し続ける舞と音を追って」(「鬼」再演・2024/01/14 神奈川千穐楽:サポーター 公演感想)

Noism×鼓童『鬼』(同時上演『お菊の結婚』)の2022年初演時は、新潟での三公演及び京都と鶴岡公演を追って鑑賞した。約一年半ぶりの再演を知った時は、「今回は新潟で二回観ればいいかな。再演だし」という舐めた姿勢でいたが、活動支援会員向け公開リハーサルでの『お菊の結婚』の情感を増した仕上がりや、『鬼』再演初日の「深化」と呼びたいほどの完成度に、新作を観るほどに衝撃を受け、結果、新潟では三公演すべて、そして神奈川公演二日目まで目撃することにしたのだった。

冷え込みは厳しいものの、抜けるような青空が何処か現実離れしているように思える横浜市。会場の神奈川芸術劇場では新潟から駆け付けた方や関東圏の知己にご挨拶しつつ、「当面はこれで『鬼』を観れないのだなぁ」と寂しささえ込み上げてくる。

最早ストラヴィンスキーの楽曲と、どこか「ハナモゲラ語」的可笑しみを伴って聴こえるロシア語の歌詞に愛着すら覚える『お菊の結婚』。襖を模した戸板を操作しつつの間断無き舞踊と音の奔流を我が物としたNoismメンバーが、物語や感情の流れを鮮明に見せてくれる。「人形」のように扱われるお菊(井関佐和子)がようやく自分の意思で取った行動、然り気無くお菊の髪や襟元を整える優しさや、次第に異国の人々ににこやかな笑顔さえ見せたピエール(ジョフォア・ポプラヴスキー)の結末、妓楼の人々の浅はかな狂気に「人形振り」を捨てて恐れ戦く青年(糸川祐希)。井本星那さんの当たり役を受け継いだ三好綾音さんの妓楼の妻始め、メンバーが情感込めて物語る守銭奴たちの狂騒曲は、幾度見ても興趣尽きない。

そして『鬼』は人ならぬモノたちと、山田勇気さん扮する役行者との対比を鮮明にすること、鼓童メンバーの奏でる音とNoismメンバーの舞踊とが確かに噛み合ったことで、確かな強度と「古典性」を獲得したと思う。とはいえ複雑な生演奏と舞踊の連続は、何かあれば壊れてしまいそうな「一期一会」のものであり、息することさえ躊躇うようにして舞台に没入してしまう。ラスト、役行者に「あなたもこっちに来ない?」と語りかけるような井関佐和子さんの「鬼」の表情と、それを制する金森穣さんの「鬼」の振舞が目に停まった。理性を越えた「鬼」の世界の豊穣な猥雑さと、禁欲的な人間世界の対比を強く印象付けるエンディングに、新潟をテーマに創作された本作が到達した「普遍性」を再確認する思いだった。

終演後のカーテンコールは4回に及び、舞台上のNoism・鼓童メンバーと客席とがこの公演を共有出来た至福を噛みしめ合うような高揚感が会場を包むようであった。
(尚、シネ・ウインド会報「月刊ウインド」2月号にて編集部スタッフの「鬼」感想や、公式サイトにて久志田の紀行コーナー「ブラウインド」などを掲載する予定です)

久志田渉(新潟・市民映画館鑑賞会副会長、「月刊ウインド」編集部)

「「変化し続ける舞と音を追って」(「鬼」再演・2024/01/14 神奈川千穐楽:サポーター 公演感想)」への4件のフィードバック

  1. 久志田さま
    素晴らしい感想をお寄せいただき、有難うございました。
    私は前日に「鬼」納めをしたのですが、まだまだ観たいとの思いをお持ちなのはよくわかります。あの密度の濃い時間を体感できる機会などそうそうはありませんからね。観る度に、もっともっと観続けていたいとも思いながら、でも、もっと続いたりしたら、それはそれで身が持たないかも、などとも思わせられるような緊張感に縛られるような時間…。

    そして『鬼』のラストシーンを筆頭に、「変化し続け」てここまできたような塩梅ですから、今後の「深化/進化」も気になる限りです。ああ、もっと観たいです、ホントに。

    久志田さんが書いてくださったように、まさに「普遍性」を獲得した舞台です。このあと、岡山と熊本でご覧になられる予定の方々、最大限の期待感を胸にお待ちください。
    PS. 同時上演の『お菊の結婚』をご覧になりたい向きは、岡山公演が最後の機会となりますから、万難を排して、岡山へ!
    (shin)

  2. 久志田さま
    ご感想ありがとうございました!
    その通りだなあと感嘆、納得しながら拝読しました。
    細かいところですが、お菊へのピエールのさりげない優しさには毎回ハッとします。好感が持てますよね♪
    そして『鬼』の最後、
    「役行者に「あなたもこっちに来ない?」と語りかけるような井関佐和子さんの「鬼」の表情と、それを制する金森穣さんの「鬼」の振舞」
    については、私もそのように見えたので、よくぞ書いてくれたという思いです。
    鬼を調伏できなかった役行者は、最後まで鬼に絡んで(挑んで)いきますが、どんな心境だったのでしょうね。

    まさに「変化し続ける舞と音を追って」、今週末 岡山、来週は熊本に行ってまいります。
    岡山には、東京・京都・兵庫・愛媛の会員さんも行かれます。
    準メンバー兼述育見さんの出身地でもありますし、楽しみです♪
    ご都合のつく方はぜひどうぞ。
    (fullmoon)

  3. shin様・fullmoon様

    本当にまだまだ見続けたい作品となりました。いつか海外公演があるような予感も致します。

    1. 久志田さま
      まさしく、まさしく。
      そしてソレ(海外公演)、実現して欲しいです。
      (でも、そのための鼓童さんとの日程調整は相当大変そうですけれどね。)
      (shin)

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