2/9埼玉にて大千穐楽を迎えたNoism「円環」ツアー、また巡りくる新たな奇跡を信じる気持ちに♪

2024年2月9日(日)、埼玉は彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉にて、昨年末から始まったNoism0+Noism1「円環」トリプルビルのツアーが、多くの観客を前にして、その幕をおろしました。終演時には、大勢の人たちがスタンディングオベーションで大きな拍手を送り、「ブラボー!」の声も多く飛び交いました。

通常、暫し身を苛まれる「Noismロス」、宮河愛一郎さんと中川賢さんを観る機会がなくなったことが重なるため、いつも以上に重症化しそうに思えていたのでしたが、実際には、過日のJCDN「Choreographers 2024」新潟公演プレトークでの呉宮百合香さんが発した言葉「作品との関係性は上演だけでは終わらず、その後の時間も含めてのもの」「作品が更新されていく」に救われるかたちで、一定程度抑え込めているように思いますし、そもそも井関さんが実現に漕ぎ着けてくれたこの度の公演自体が「奇跡」の名で呼ばれていたのだとしたら、(いかに詭弁に聞こえようと、)その奇跡は既に奇跡ではなく、だとしたら、また巡りくる新たな奇跡すら信じていいのかなとか思えているのです、不思議なことに。
今もなお続くある種の陶酔のなかに身を置きながら、同時に、この先への途方もない期待を抱きつつ、これを書いています。

『過ぎゆく時の中で』、前日(埼玉公演中日)のブログに書いたように、これまで観たことのない「脇役」金森さんの虚ろな姿が、この日も、より一層色濃く迫ってきました。
そうしてみると、あの黒い帽子も、「旬」を過ぎた舞踊家、ただひとり、颯爽とした若手からは歯牙にもかけられなくなりつつある存在のみが身に着けるアイテムにしか見えてきません。彼も一度、それを脱ぎつつ、若手たちと同型の理想に向けて同じように手を伸ばしてもみせますが、すぐに思い直したかのように、頭を垂れるとその帽子を大切そうに胸に抱いて、片膝ついた姿勢から、再びかぶることを選びます。「今の自分」を受け入れた瞬間でしょう。純粋に若手たちの姿に、自らの若き日の格闘(勿論、金森さん自身のそれではなく、舞台上にいる「旬」を過ぎた舞踊家の仮構されたそれであることは言うまでもありません。)を重ね合わせて見るように変貌したことを意味するでしょう。
時を止めてでも浸っていたい「美しさ」、その減却に否応なく直面させられる残酷な事態を金森さんがこの上なく美しく可視化していく、その意味で倒錯的な作品という側面も含めて、金森さんからの愛情に裏打ちされた「檄」に見えると思う訳です。(少しやわらかい言い方をとれば、「励まし」、或いは、期待を込めた「贈り物」となるのかもしれませんが。)そうすると、やはり、金森さん、「脇役」ではありませんよね。疾走感が全編に溢れていて、その部分が大いに目を惹くその見かけの内実、何という複雑な構造をしているのでしょうか。(あくまでも個人的な感想です。)

『にんげんしかく』については、まず、始まって間もなく、樋浦瞳さんが発する了解可能な一語についてのまとめから始めたいと思います。三好さん相手に、バナナらしきものを食べるマイムをしてみせてから、ポケットから取り出すアイテムの名称を大きな声量で明瞭に伝える場面ですが、新潟でのそれは「笹団子」、北九州が「明太子」、滋賀は「琵琶湖」ときて、埼玉では「笹団子」に戻ったことにもひとつの「円環」が見てとれるかもしれません。しかし、大事なのはそこではありません。
そこに至るまでを見直しておきます。最初、緞帳があがると、舞台上には段ボールたち。それがゆるやかに、滑らかに動き始めると、それを見詰める私たちに愛着の萌芽が芽生えます。しかし、ややあってその新鮮さが薄れてくる頃、舞台上では、客席にいる私たちには理解不能な言語でのやりとりが始まり、私たちは取り残されたような、作品に繋がる通路を断たれてしまったような、身の置き所がない感覚を味わう時間がやってきます。そんな理解不能な言語が作品への私たちの没入を怪しくしていたその時です、その一語が耳に入ってくるのは。それは、虚を突きながら、一瞬にして身構えていた部分をやんわり取り払い、謂わば武装解除してしまうだけでなく、逆に、大きな親しみを感じさせてしまう絶大な効果を示すでしょう。瞬時に舞台と客席とを結ぶ確固とした回路が生まれてしまうのです。この35分の作品において、とても印象的なものですらあります。
しかし、やがてそれこそがかなり危うい落とし穴なのだと気付くことになりました。私たちは耳に届く言語が理解可能なのか理解不能なのかに大いに縛られて、居心地がよくなったり、悪くなったりする部分があることに気付かされたのです。その気付きに至る比較対象が、身体の動きだったことは言うまでもないでしょう。私たちは、動きが理解可能か、理解不能かにそれほど頓着したりはしないのではないでしょうか。動きが一義的な意味や合目的性を有していないとしても、なんとなくやり過ごせてしまう、とでも言いましょうか。ところが、言語となると事情は全く別になってしまうのです。あの言語的に理解し得る意味を奪われて見詰める状況下で、耳にする「笹団子」や「明太子」、「琵琶湖」が心地よかった裏には、近藤良平さんが仕掛けた罠があった訳です。言葉など放ったまま捨ておいて、観るべきは動きなのだと。
そうした罠の最たるものが、終盤にやってきます。舞台上の10人が声を揃えて発する「とっても素敵な人生です。(×2)あっちもこっちも楽園です。うーん、迷ったときには、知らないところへ、1、2、どっきゅん」という「何か」を明瞭に指し示し過ぎる言葉です。この言葉は、一見(一聴)すると、作品のテイストを言語化したものに思えますが、私は、新潟公演の初日から、「どこか空疎で、上滑りしている」感が否めないように感じてきたのですけれど、ずっと、それが何故かには気付かずにいたのでした。観るべきは動きでしかないということに。そういう身体の動き重視のスタンスでこの作品に向き合うとき、舞台上の10人が、自分の段ボールが世界の全てだったところから勇気をもって、その外部へと踏み出して、他者からも受け入れられ、他者と多様に繋がっていくさまを余すところなく可視化していく身体の動きは、素敵そのものであり、あんな関係性が構築できたなら、そこはすべからく「楽園」と呼んで差し支えなかろう、といったことくらいは目が既にして納得させられていたことに過ぎなかった訳です。それが上記の「空疎で、上滑り」に感じられた理由だったのです。
近藤良平さんが仕掛けた罠、そう書きましたけれど、もし正面切って訊ねたりしてみれば、一言のもとに、「そんなことは考えていない。ただの僕の『演出の癖』だから」などとやんわり返されてしまいそうなこともわかったうえで、敢えて書いています。しかし、舞踊の根幹を確かめさせられた、そんな作品だったことに間違いはありません。

そしてトン・タッ・アンさんのピアノの音が聞こえてくると、今度は再び金森さんによる美し過ぎる『Suspended Garden - 宙吊りの庭』です。ここで否応なく、向き合うことになるのは、金森さんと近藤さんのテイストの違いでしょう。
並べて鑑賞してきた今、乱暴なことを承知で、私が感じていることを記すならば、金森さんは常に自らを超え出て、「舞踊」というより大きなものに迫ろうとし、至ろうとする、その献身の姿勢に貫かれていて、その透徹した美意識をもって、(どこでもない時空に)豊穣この上ない「非日常」を立ち上げ、私たちを極上の刹那に浸らせてくれる演出振付家と言えるかと思います。永遠への指向性が強く感じられる舞踊が作品の多くを占めています。
かたや、近藤さんは自らの「演出の癖」へのこだわりを土台に、「舞踊」という大きなものの懐に抱かれるかたちで、私たちをアナーキーで混沌とした、唯一無二の「近藤良平ワールド」に引き込んでいくタイプの演出振付家となるでしょうか。与えられた(多くは突飛な)状況を生きる舞踊家の姿そのものを届ける舞踊に映じます。


そんなベクトルの違い、そしてその先、舞踊の多様性に感情を大きく揺さぶられたことで、一応のものとはいえ、上に書いてきたような無茶苦茶なまとめまでしてみたくなるほど、見終えた後もその魅力が尾を引く「円環」トリプルビル公演でした。またこの演者たち、この作品たちに見(まみ)える途方もない新たな奇跡を信じつつ…。

(shin)

晴天の与野本町、Noism「円環」埼玉公演中日♪

2025年2月8日(土)、大雪の新潟市を脱出して与野本町、彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉でNoism「円環」中日(なかび)の舞台を観ました。

しかし、その道中は実に大変なものがありました。上越新幹線で大幅な遅延が生じていたせいで、始発の新潟駅を出発する時点で既に満席で、通路にも多くのお客さんが立っている状態。40分ほど並んで、何とか自由席に座ることは出来ましたが、大宮駅にはダイヤから約90分遅れでの到着でした。でも、それはまだマシだった方で、そこから先は新幹線が「渋滞」しているため、終点の東京駅まで40〜50分を要する見込みで、在来線の方が早いとの珍妙過ぎる車内アナウンスが流れていたくらいです。新幹線って「bullet train(弾丸列車)」ですよね。そんなこんながあって、与野本町に辿り着いたとき、見上げた青空がホント「非日常」の光景として目に映じたような次第です。

そんな塩梅で、公演が始まる前に、ある種の「非日常」にとっぷり浸っていたのでしたが、17時からの約2時間、瞬きするのも惜しいほどの真の「非日常」に触れることになりました。私ににとって、新潟・りゅーとぴあ3days以来となるこの日の「円環」トリプルビルの舞台はより深みと強靭さを増した印象で迫ってきました。

先ずはNoism0+Noism1『過ぎゆく時の中で』。若いNoism1メンバーたちの疾走に対する金森さんの歩みは長じた者が示す所謂「泰然」や「達観」とは別種のものに映じ、私たちはこれほど惑い、あたふた慌てた挙句、崩れ落ちたりもする「弱い」、言わば「脇役」の金森さんをこれまで一度たりとも目にしたことなどなかった筈です。これは尋常なことではありません。そして、この日、強く印象に残ったのは、庄島さくらさんとのデュエットを踊る際、さくらさんの身体に添えられた金森さんの妖艶と言っても過言ではない手(指)の表情でした。ゾクっとしました。しかし、それも束の間、坪田光さんとの溌剌としたパートナリングに乗り換えられてしまうのです。そうした全てが「時よ止まれ!君(たち)は美しい…」に収斂していくのです。いや、そこに込められた金森さんの思いは、正確には「君(たち)は美しい筈…」なのではないでしょうか。この一作まるまるが若き舞踊家たちへの愛情に満ちた厳しい「檄」になっていて、この先への大きな期待が込められていると言ってしまったら穿ち過ぎでしょうか。で、Noism1メンバーたちはその期待に充分応えるだけの熱演を見せてくれています。それはこの日も明らかなことでした。

続くふたつ目の演目は、彩の国さいたま芸術劇場芸術監督・近藤良平さん演出振付のNoism1『にんげんしかく』です。この日、まず、私に深く食い込んできたものは、指示対象や意味内容が明示的でない言語(=何を言っているのかわからない言葉)が一方にあり、指示対象や合目的性を持たない身体の動き(=何をしているのか判然としない動き)がまた一方にあって、それらに接して感じ得る美しさという点では、両者に途方も無い開きがあるということでした。勿論、美しいのは身体の動きの方であることは言うまでもありません。そんなことを考えてしまったきっかけは樋浦瞳さんのポケットの場面にあります。了解可能な「あの一瞬」が強いインパクトを残せばこそ、そうした対比が迫って来たという訳です。そのあたり、まだ大千穐楽を残している今、詳しくは書けませんし、元々がうまく説明出来る自信もないのですが、機会を改めて試みてみます…すみません。
そしてこの演目、個人的なツボがカーテンコールのときにもひとつあります。それは拍手に応えて立つ彼ら彼女たちが、やがて段ボールに手を置いて微笑み、お辞儀をするところです。中でも、上手(かみて)手前の太田菜月さんが「相棒」の熱演をそっと称えるかのように手を添える姿にキュンとしてしまいます。それはやはりこの日も同じでした。皆さんはどうですか。

三つ目の演目は、Noism0『Suspended Garden — 宙吊りの庭』です。耳を澄ませました、目を凝らしました、この日も。そして息を呑みました、この日も。美しさの極致にして、様々なことを想像させて余りある余白。それは静まり返っているようでもあり、饒舌なようでもあり、簡単に言葉では掴まえられないような、そう、まさに前言語的な、雄弁な身体のなせる業。4人+トルソー+トン・タッ・アンさんの音楽による夢幻のようなひとときの悦楽。ゲストの宮河愛一郎さん、中川賢さんがいてこそ立ち上がる情緒は、如何に望もうともあと一度しか観ることが叶わないもの。大千穐楽が本当の見納めです。

埼玉公演中日、そんなことを感じました。

そして、もうひとつ書き記しておきます。それは、各種の公演チラシと一緒に皆さまのお手元に渡されている「さわさわ会」(舞踊家 井関佐和子を応援する会)の会報誌についてです。Noism20周年、「さわさわ会」10周年にあたって制作されたこの度の会報誌は、その足跡を井関さんのお誕生日の画像で辿るもので、とても素敵な仕上がりになっています。是非、しげしげガン見してみてください。味わい深いものがありますから。

大好評のうちに、今回の「円環」ツアーも大千穐楽を残すのみとなりました。豊穣な「非日常」を味わえる舞台です。当日券の販売もあるようですし、皆さま、どうぞお見逃しなく!

(shin)

「凄絶」極まる雪に見舞われた新潟市、「Choreographers 2024」新潟公演(2/7)を観てきました♪

この数日間、各地に大雪を降らせ、人々の生活に難儀をもたらしている「JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)」。耳慣れのなかったそんな略称が盛んにひとの口の端にのぼるようになり、新潟にも、気象庁から「顕著な大雪に関する情報」なるものが出されるなど、「凄絶」で危険なまでのドカ雪が襲った如月の週末2月7日(金)、りゅーとぴあ〈スタジオB〉で、「JCDN(ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)」のコンテンポラリーダンス新進振付家育成事業2024「Choreographers 2024」新潟公演を観てきました。

こちらにその特設サイトへのリンクを貼ります。

振付家に光をあて、社会に対して発信すること。振付家、そしてダンス作品の価値や社会的意義を積極的に打ち出し、新しいダンスの観客を開拓すること。同時に各地の劇場とのネットワーク作り、各地域のダンスの刺激剤となる場を目指す、公演&トークのプログラムです。 (特設サイトより)

お恥ずかしながら、寡聞にして、これまでよく知らずにきたシリーズでしたが、元Noism1の池ヶ谷奏さんが新潟の「しもまち」をテーマにした作品が観られるというSNSに触れて興味を覚え、是非とも!と足を運んだ次第です。

過日の池ヶ谷奏さんのインスタへのリンクも貼っておきます。

公演前には、「メディアとしてみる、コンテンポラリーダンス!?」のタイトルのもと、吉田純子さん(朝日新聞社 編集委員)と呉宮百合香さん(アートコーディネーター・舞踊評論)のおふたりによるプレトークがあり、とても興味深く刺激的なお話をお聞きすることが出来ました。(聞き手はJCDN理事長の左東範一さん。)

吉田さん(今回が「初新潟」): 記憶にある初コンテンポラリーダンスは、上野水香さん・草刈民代さんが踊ったローラン・プティ『デューク・エリントン・バレエ』。自分が観ているものが何かわからない楽しさがあるのがコンテンポラリーダンス。自分のなかの常識で理解するのではなく、自分の現在地における頭の中を見たり、そのときどきの自分の感情・感覚を確かめることが出来るとし、事実の底流にある、未だ言語化されていずに、うごめいているものを見る体験がコンテンポラリーダンスを観ること。例えば、コンクールの結果などには、観る「基準」の外注化という側面もあり、思考がからっぽになってしまうようなことも起こりかねない。しかし、からっぽにさせないのがコンテンポラリーダンス。

呉宮さん(今回が「初新潟市」): 初コンテンポラリーダンスはNoism『NINA』!コンテンポラリーダンスを踊る身体は超ハイコンテクストで、物凄い情報量の世界。そのときの自分に受け止め切れないものに出会い、自分が揺るがされて、世界が書き換えられていく体験。言語的に考えている(縛られている)ものではたどり着けないものを観ること。それだけに居心地がよいものばかりではない。作品になった時点で、違う時間軸に入るものであり、それは属人的に観ることを意味する。日本では、作者の意図を重視し過ぎ。
しかし、例えば、コンクールにおける審査時など、自分の価値観を捨てることは意外と難しいため、「本当に新しいもの」は見出し難かったりもする。審査員同士の対話のなかで見方が変わっていき、自分のなかで、作品が更新されていったりするため、作品との関係性は上演だけでは終わらず、その後の時間も含めてのものとなる。
また、所謂「再演」というものはない。毎回、新しくて、全く違った作品に見えてくるもの。

左東さん(「高校だけ新潟」): 22年前にここで『男時女時』を観ている。KYOTO AWARDの審査は「闘い」。各自こだわりがあり、「ここまで評価が違うか」と思うことも多い。真に新しいものを見出すため、「自分はこれがいい」ということを常に疑っている。
ダンスにとって時間は関係ない。踊る人によって違ったものに見えてくるもの。
このシリーズでは、振付家に焦点を当てているが、振付家とは、動きのムーブメントを振り付けるだけではなく、照明、演出をはじめ、作品全てをつくる存在。思想家・哲学者とも呼べる所以。

以下、この日の3作品について簡単に記します。

○「KYOTO CHOREOGRAPHY AWARD (KCA) 2022」受賞振付家作品
☆大森瑶子さんの『Tuonelan』: 大内涼歌さん、大森瑶子さん、尾上実梨さん、水谷マヤさん、八木橋華月さん

クラシック曲、ノイズ音、YUIの懐かしのJポップ、ラヴェルのあの超有名曲等々、どんな音楽にもしなやかにビートを刻み、フレキシブルに踊り切ってしまう、そんなダンスへのパッションが横溢する小気味よい作品。衣裳の白、ピンク、緑も若々しい生命力を感じさせ、現代風のカチューシャも印象的。

○2000年代のコンテンポラリーダンスの名作をリバイバル
☆砂連尾理さん+寺田みさこさん(じゃれみさ)の『男時女時』リバイバルver.: 長野里音さん、関口晴さん(2/7)、(カナール ミラン 波志海さん(元Noism2)(2/8))  

冒頭、聞こえる声「惚れる、好き、愛、恋、恋人」に寄りかかっていては、肩透かしをくらってしまう。格好良さやエロスを徹底的に排除して、いかにもゆるく、オフビートを装いながらも、いつの間にか、そうした溢れる「だるい動き」が反転して居心地の良さに変わってくる演目。「高揚感」など簡単に生み出すことが出来ることを示す中間部も含めて。

○地域の若手ダンサーと作る新作
☆池ヶ谷奏さんの『湊に眠る者たち』: 天野絵美さん、髙橋陽香理さん、波多野早希さん、樋山桃子さん、堀川美樹さん(元Noism2)、横山ひかりさん(元Noism準メンバー)、池ヶ谷奏さん(元Noism1)

新潟市の「しもまち」歩きをベースに、そこで拾った土地に眠る、或いは、土地に連綿と生き続けるものたち、そして土地に流れる時間を、7人の感性・身体というメディアを通して、私たちに豊かに伝えてくれる一作。土地の「糸」で紡がれてリズミカルに進んでいく心地よさは、観る者を、未だ見たことのない「しもまち」へと誘っていく。

奇しくも、この日(2/7)はNoism「円環」埼玉公演の初日にもあたっています。コンテンポラリーダンスの多様性を意識する機会となりました。

終演後、21時をまわったりゅーとぴあ周辺には、やって来た17時頃から少なくとも30cmはかさ増しされた積雪があり、人は未踏の雪原を歩かねばならないといった光景が広がっていて、さすがに呆然としてしまい、画像を撮ったりする余裕もなく、帰路を急ぎました。
その後、新潟市の大動脈である新新バイパスも通行止めになってしまったとの報に接し、何とか帰宅できたことを心から喜んだような次第です。しかし、家に着いてからも、自宅の駐車スペースは膝までの高さの雪に覆われているのを目にし、まずは30分くらい雪かきをしなければ、車を入れることすら出来なかったことも併せて記しておきます(大汗)。

以上、雪の「Choreographers 2024」新潟公演の報告とさせて頂きます。

(shin)

速報!2/7のNoism「円環」埼玉公演初日について(サポーター 公演感想)

彩の国さいたま芸術劇場でのNoism「円環」初日公演に行ってきました。

劇場に向かう埼京線が少し遅れていて、駅から劇場までは周りの方たちと同様に早足で向かいました。

心配していたお客さんの入りも上々で(Noismの皆さんは満席を目指しているのでしょうが)、トリプルビルそれぞれの実演も素晴らしく、お客さんの反応もとても良かったです。

私もそれぞれの演目に新しい発見や感動があり、全く飽きることがありません。特に『宙吊りの庭』については、これまでクール系と感じていたのですが、激アツな作品であることに(今さらですが)気づきました。金森さんもこのメンバーとのクリエーションが嬉しかったのでしょうね!

明日、あさっての公演も楽しみです!

『Singing Daxophone』のCD、購入しました!

(かずぼ)

「膳所から世界へ!」「新潟から世界へ!」Noism「円環」びわ湖ホール公演(サポーター 公演感想)

2月1日、滋賀県のびわ湖ホールで開催されたNoism「円環」びわ湖公演へ行ってきました。

びわ湖ホールはもとより、滋賀県自体訪れるのは初めてでしたが、事前に大津が舞台の 『成瀬は天下を取りに行く』『成瀬は信じた道を行く』(宮島未奈 著)を読んでいたのもあり、聖地巡礼の気分で街中を散策しました。

「膳所から世界へ!」と「新潟から世界へ!」、志は一緒です!

ホールまでは琵琶湖沿いを散策しながら向かいました。あいにくの曇天でしたが、人もゆったり鳥もゆったりで、心地よい時間が流れていました。

びわ湖ホールでのNoism「円環」公演でも同様で、これまで訪れた関西の劇場とはやや印象が異なり、客席はみんな落ち着いた雰囲気ながらも温かく、思い思いに公演を楽しんでいる印象がありました。

Noism「円環」のトリプル・ビルのそれぞれの印象を簡単に述べますと、
『過ぎゆく時の中で』はNoism1メンバーの疾走感が気持ち良いのと、金森さんの歩き方が非常に印象に残ります。
『にんげんしかく』は決められた振付以外の部分を各メンバーがより工夫したのか、更に魅力的になっていました。
『宙吊りの庭』はダンスでもあり無言劇のようでもあり、個性を獲得したベテランダンサーの表現力に圧倒されました。

各演目とも終演後の拍手のタイミングが絶妙で(実はツアーで各地を訪れる際に少し緊張するシーンでもあります)、びわ湖ホールの観客は素晴らしいな、と改めて思いました。

蛇足ですが、『にんげんしかく』で恒例の、樋浦さんがポケットから取り出すシーンですが、びわ湖ホールでは意外なものが出てきました。さて、埼玉公演では何が出てくるのでしょうか?こちらも楽しみに待ちたいと思います。

『過ぎゆく時の中で』ではダンサーが「飛び出し坊や」の如く飛び出してきます!

(かずぼ)

「ランチのNoism」#24:兼述育見さんの巻

メール取材日:2025/01/18(Sat.)&01/25(Sat.)

皆さま、この時期(1月も下旬)になっちゃって、もうそんな空気感も失せてしまってはいますが、それでも、今年初めてのブログ更新でありますので、そこはご容赦願うこととして、やはり、このご挨拶から。「明けましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願い致します」ってことで、新年一発目は「ランチのNoism」。その第24回にご登場頂くのは、兼述育見さん。どんなランチをお召し上がりでしょうか。それではいきましょう。

♫ふぁいてぃん・ぴーす・あん・ろけんろぉぉぉ…♪

「円環」後半のツアーを控えたNoismの面々に昼がきた!「ランチのNoism」!

*先ずはランチのお写真からです。

ん?えっ?
一応、手前の「台形」にピント合ってますけれど、
背後のふたりも目を惹きますねぇ。

 *これはあれですよね、あれ。ってか、後ろのふたり、不自然過ぎません?絶対、仕込んでますよね。
 -でもまあ、「ランチのNoism」だけに、手前の物について訊かなきゃなんで…

1 今日のランチを簡単に説明してください。

 兼述さん「塩昆布入りおにぎりです

 -おにぎりの具は塩昆布のほかにどんなものがありますか。

 兼述さん「久世福商店のしゃけしゃけめんたいが好きです!」

 *あのお店、全国の美味しそうなものばかり並んでますよね。
 -あと、おにぎり、海苔を巻いたりはしませんか。

 兼述さん「パリパリの味付けのりが好きなので、お昼のおにぎりには巻きません」

 *なるほどです。
 -それから、おにぎりに併せて、お味噌汁とかお茶とか水分も摂られていると思うのですが、その点についても教えてください。

 兼述さん「ケータリングの麦茶を飲んでいます。 お味噌汁いいなと思うのですが、洗い物が出るのが面倒なので… 。 おかずでいうと、納豆に憧れています。においが苦手で食べられず、克服したいと言い続けて一年以上経ちました…笑」

 *なるほど。あのにおい、私など全く気になりませんけれど、西日本の出身の方々(兼述さんは岡山のご出身)には高い壁になっているところがあるのでしょうね。何とかその納豆の壁を突き崩して憧れが叶う日がくることをお祈りいたします、ハイ。

今度はラグビーニュージーランド代表「オールブラックス」で名高い
「ハカ(ウォークライ)」の文字と笑顔とに目がいきがちですが、
ここでもまたメインはその手前です。

 *のっけから色々と教えて頂き、有難うございます。で、ええっとですね、でも、こ、これだけ?…そんな感じなのですが。ほ、ほかは?…って言いたい気持ちもあったりして…。
 -そして、ここもいつもと同じ質問しなきゃですよね。では…

2 誰が作りましたか。普通、作るのにどれくらい時間をかけていますか。

 兼述さん「休みの日に1週間分作り置きしています」

 *???
 -その「1週間分作り置き」ですが、1週間分のおにぎりを一度に作って、冷凍でもするのでしょうか。
  -で、その際、中の具をいくつか変えて握ったりなどはしないのでしょうか。食べる時に、何が出るか、「ロシアンルーレット」みたいで楽しいのではないかと。(でも、まあ、基本的には、ランチにそうした楽しさなど無用かもしれませんけれど…。)

 兼述さん「 1週間分ラップで握って、冷凍しています 。 中身を変えるのは、考えたことがなかったです! たぶん私は毎日同じでも楽しめちゃうのと、中身を変えるのをめんどうくさがっている気がします」

 *そうなんですね。それ、最強の「タイパ」って感じがしますね、うん。

 3 ランチでいつも重視しているのはどんなことですか。

 兼述さん「手早く炭水化物が取れることです。 あと、作るのが簡単で洗い物も出ないことも重要です」

 *はい、もう「タイパ」、ここに極まれり、って感じですね。

4 「これだけは外せない」というこだわりの品はありますか。

 兼述さん「お米です!!」

 *そうでしょうとも、そうでしょうとも(笑)。お米、ザ・シンプル。ええ、そうでしょうね。その筈です。
 -で、そのお米へのこだわりというのは具体的にどんなことでしょうか。銘柄や産地でしょうか。そのあたりを教えてください。 

 兼述さん「以前は銘柄や産地にこだわりなく値段を見て色々食べていたのですが、やっぱり新潟県産の新米を食べると粒感が全然違って感動します!」

 -やっぱり美味しいですよね、新潟のお米。

 兼述さん「美味しいです!!! 毎日もりもり食べています!!!」

 *ここで、ひとつ、お米についての最近の私のこだわりも聞いてください。それは料理研究家・土井善晴さんの炊き方なのですが、(1)お米を手早く数回研いで、水が透き通ってきたら、(2)ザルにとり、真ん中をくぼませるかたちにして、30、40分くらいお米に吸水させてから、(3)炊飯器の「早炊き」モードで炊くというものです。「もうみずみずしくて、まるで風呂上がりのような、ピカピカつやつやしたごはんができる」と土井さん。やってみると、意外と手軽に美味しいごはんが炊き上がりますから、試してみて欲しいです。脱線、すみませんでした。是非これご紹介したかったもので。

5 毎日、ランチで食べるものは大体決まっている方ですか。それとも毎日変えようと考える方ですか。

 兼述さん「基本的に毎日同じです。 こうた(=中尾洸太さん)に、「よく毎日同じもの食べられるね」と言われましたが、白米好きなので全然飽きません!Noism2の頃から毎日おにぎり食べています!」

 *Noismに入ってから、毎日おにぎり、と。わかりました。

6 公演がある時とない時ではランチの内容を変えますか。どう変えますか。

 兼述さん「公演の時も同じですが、スケジュールによって、おにぎりの大きさを調整します」

 -県外公演などの際も、おにぎりだとすると、コンビニなどを利用されるのではないかと思われますが、好んで買われるおにぎりはどんなものですか。

 兼述さん「ツナマヨ、明太マヨおにぎりをよく買います。昔はマヨネーズが嫌いだったのに、気がついたら大好きになっていました!」

 -スケジュールによって変わるおにぎりの大きさについても、具体的にどんな変わり方をするのか教えてください。

 兼述さん「本番前は、差し入れのお菓子もたくさん食べるので少し小さめにしたり、夜が遅い本番の時は、一日が長いので大きめにしたりします」

 *それらを見越して、1週間分を作ってるのですね。なるほどお見事です。

7 いつもどなたと一緒に食べていますか。

 兼述さん「光くん(=坪田光さん)、りおさん(=三好綾音さん)、なっちゃん(=太田菜月さん)、糸(=糸川祐希さん)、あきらくん(=樋浦瞳さん)、こうたとテーブルを囲んで食べています」

皆さん笑顔で和やかなランチの光景ですけれど、
兼述さん、すぐ食べ終えちゃいますよね、これだと。

 8 主にどんなことを話しながら食べていますか。

 兼述さん「みんな食べ物の話が好きなので、美味しいご飯屋さんや、前の日の夜ご飯などの話が多いです。最近は美容室や映画の話も出たりします」

 -(1)兼述さんの、(2)他のメンバーの、それぞれお勧めのご飯屋さんについて、差し障りのない範囲で教えてください。

 兼述さん「(1)ここ2年ほどお蕎麦が好きで週末はよくお蕎麦屋さん巡りをしています。その中でも西区にある蕎都(きょうと)というお店の鴨汁そばが好きです!お蕎麦の香りが良く、蕎麦湯もとろとろで何杯も飲んでしまいます。  
(2)衣裳の山田志麻さんに教えていただいた、タイファイタイフードというタイ料理のお店が、行ってみたら大ヒットして何度も通っています!タイのスパイス漬け鶏肉ガイヤーンと、タイチャーハンのカオパットクンが私のお気に入りです」

先ず、こちら蕎都さんの鴨汁そば画像です。
Noismメンバー、タイファイタイフードさんにて。
こちらがガイヤーンだそうです。

 *「ガイヤーン」、「ガイ」は「鶏」、「ヤーン」は「焼く」って意味だそうで、タイ東北部の鶏肉を炙り焼く伝統料理なんだとか。で、「カオパットクン」の方は海老炒飯、どちらも初知りです、ワタクシ。
 -あと、映画についても、(1)兼述さんのお勧めの作品、(2)お話に出てきたもので観てみたい(或いは、実際に観て面白かった)作品、それぞれいくつか教えてください。 

 兼述さん「(1)実写版の『美女と野獣』、『アラジン』は歌と世界観が好きでどちらも映画館に2回観に行きました!
(2)なっちゃんが、『ライオン・キング:ムファサ』を2回観ていて、歌が良くて、何度でも観たいと言っていたので気になっています。あと、3月に公開される『ウィキッド』が気になっています」

 *有難うございます。ミュージカルやディズニー系がお好みと理解いたしました。

9 おかずの交換などしたりすることはありますか。誰とどんなものを交換しますか。

 兼述さん「おかずの交換などは、特にしません」

 *ですよね、ですよね。そうとしか考えられません(笑)。お約束の質問とはいえ、失礼しました。

10 いつもおいしそうなお弁当を作ってくるのは誰ですか。料理上手だと思うメンバーは誰ですか。

 兼述さん「基本的にランチはみんな質素なご飯ですが、光くんがよく休みの日に凝った料理を作っていて、すごいなと思います!」

 -坪田さんが休みの日に作る「凝った料理」とはどのようなものですか。印象に残っているものを教えてください。また、実際に振る舞って貰ったりもするのでしょうか。

 兼述さん「筋子をほぐして、いくらの醤油漬けを作ったそうです!とんでもなく手間のかかる料理を平気でやってしまうのが本当に尊敬します。 いつも写真見せてくれて話をしてくれますが、まだ一度も食べさせてもらったことはないです。ひかるくん曰く、人に振る舞うのには勇気がいるらしいです笑」

粒々キラッキラっすね。

 *これは手が込んでる!坪田さん、ホント凄いですね。坪田さんが勇気を出すのに一役買いたいものです(笑)。
それにしても、色々と画像でご紹介頂き、とてもよくわかりました。有難うございました。

 最後は兼述さんから頂いたメッセージです。

■サポーターズの皆さまへのメッセージ

「いつも温かい応援、ありがとうございます。これからもより良い舞台をお届けできるよう、日々精進していきますので、どうぞよろしくお願いいたします!」

ごはんを前にして実にいい表情です、兼述さん♪

もう1週間ほどして、「如月」の声を聞きますと、昨年末の新潟でその幕を開けた「円環」のツアーも再開して、滋賀(2/1)と埼玉(2/7,8,9)の舞台で踊るNoism。兼述さんも、88(八十八)の手間をかけて育てられたお米由来のパワーを全開に、駆け抜けたり、段ボールを被ったり踊ってくれることでしょう。楽しみです。

で、そんな稽古に余念がない慌ただしい時期に、まさに余念のもとでしかない取材にご対応頂き、感謝しかありません。兼述さん、ご馳走様でした。

と、こんなところで、「ランチのNoism」第24回はここまでです。今回もお相手はshinでした。

(shin)

豊前に響いた「円環」の妙なる音(サポーター 公演感想)

12月22日(日)のJ:COM 北九州芸術劇場に於けるNoism「円環」公演の為、北九州市小倉北区へ足を運んだ。

先日10月20日に開催され、金森穣さん・井関佐和子さんにも観ていただいた「坂口安吾生誕祭118 玉川奈々福 新作浪曲『桜の森の満開の下』口演」でお世話になった玉川奈々福さんと曲師・広沢美舟さん出演の「小沢昭一十三回忌追善公演 日本の翻弄芸」が20日(金)に浅草・木馬亭であったこともあり、羽田空港から北九州空港迄往復する旅程を選んだ。

21日(土)夕刻、クリスマスイルミネーションイベントで凄まじく賑わう小倉の街を歩き、北九州芸術劇場を下見がてら訪問。屋外のデジタルサイネージや、商業施設と一体となった館内そこかしこに掲示された「円環」のディスプレイに、芸術劇場の皆様の気合が見て取れた。

22日(日)は門司港駅から関門トンネル人道を目指し、山口県下関市に立ち寄った後、小倉へ戻る。「北九州市立松本清張記念館」や小倉城の展示など、国内外から街に訪れる人を「楽しませよう」とする姿勢が徹底している印象。新潟市も見倣ってほしいなぁ。

Noismサポーターズ事務局・fullmoonさんや、Noism制作・上杉さん、深作さん、関東から来場されたサポーターズの方にご挨拶しつつ、最前列の客席で16時の開演を待った。

幕開けとなる金森穣さんとNoism1メンバーによる『過ぎゆく時の中で』から、北九州芸術劇場の音響の見事さに気付く。John Adams『The Chairman Dances』の音ひと粒ひと粒が輝いて聴こえるようで、時の流れを押し留めようとしつつ、やがて時間の不可逆性を豊かに肯定するかのような金森さんと、若きNoismメンバーの疾走する舞踊と音楽の一体感に、いつしか涙が溢れていた。客席全体も見巧者と思しき方が多く、ピシリとした静寂に充ちた場内の空気が徐々に熱を帯び、舞踊を観る歓喜に包まれてゆく様が、確かに感じられた(お隣の方の静かにノッていく様子が実に心地よかった)。

近藤良平演出振付によるNoism1『にんげんしかく』では、樋浦瞳さんについて「北九州公演」ならではの改変があり、客席にも温かな笑いが起こった。緻密に舞台を構成しつつ、ダンサーの情感が溢れだす金森穣作品と対称的な近藤作品。一見自由奔放に見えて、細部や感情まで構成が徹底していることに、改めて気付く。

そしてNoism0井関佐和子さん・山田勇気さん、久々にNoismに帰ってきてくれた宮河愛一郎さん・中川賢さんという円熟の舞踊家による傑作『Suspended Garden - 宙吊りの庭』は、その研ぎ澄まされた美を、更に深化させていた。既にして古典のようなトン・タッ・アンさんの楽曲も、北九州芸術劇場の音響で改めて聴くと、重低音と舞踊家の身体のシンクロなど新たな発見に充ちている(音源の発売を強く希望します)。舞台で展開される映像にも、金森さんによる微細な変更が加わり、「求めようとして得られなかったもの」を巡る主題が、より切実に観る者の心を震わせた。そしてまさしく舞台一回ごとが一期一会であることを叩きつけてくるような4人の舞踊家の素晴らしさたるや。裂帛の気合、お互いの身体と反応し合うような動作の美しさ。ため息さえ憚られる舞台に、誇張無く「いのちがけ」で観客も向き合える至福を、しみじみと再確認し、カーテンコールでは「中川! 宮河! 山田! 井関!」とまたも大向うを掛けてしまった。客席には井関佐和子さんのご両親もおられ、金森さんにもご挨拶した後、会場を後にした。

翌23日(月)、小倉の街を軽く散歩した後、北九州空港行きのリムジンバスに乗っていたところ、途中のバス停から金森さん・井関さん・中川さんが乗り込んで来られたので、吃驚仰天(サンクトペテルブルク公演の帰りも同じ飛行機だったなぁ)。このブログ用に記念写真をお願いした(「おっかけですねぇ」と中川さん。飛行機では座席も前後だった)。羽田経由の旅程を組んだ故の偶然含め、また忘れられない旅となった北九州公演。ぜひまたNoismを招いていただきたいと、切に願う。

左から井関さん、中川さん、金森さん


久志田 渉(新潟・市民映画館鑑賞会副会長、安吾の会事務局長、舞踊家・井関佐和子を応援する会役員)

心が震え、涙も…「円環」新潟公演楽日の幕おりる

2024年12月15日(日)、天気予報では早くから強い冬型で降雪予想の一日とされていたこの日でしたが、私たちにとっては、それ以上にNoism0 / Noism1「円環」トリプルビルの新潟公演楽日であり、そもそも落ち着きをもって迎えるのが困難な日だった訳です。

始まれば、終わるのが舞台の常であるために、新潟公演初日の金曜日にりゅーとぴあに足を踏み入れた際に、まだ何も観ていないというのに、「もう足のつま先から、手の指先からじわじわ『Noismロス』が体をのぼってきている感じがする」などと言っては、「気が早い」と笑われていたのでしたが、それほど3日間というのは短いものだと、この日に至っては完膚なきまでに思い知らされるほかなかった訳です。相応の覚悟が必要でした。

この日、その相応の覚悟を必要としたのは、今回の三つの演目がどれも素晴らしかったからという謂わば「通常の理由」に加えて、ずっとサポーターとしての念願だった「Reunion(再会)」を果たして踊ってくれたゲスト舞踊家の宮河愛一郎さんと中川賢さんが、そして、彼らが舞った記念碑的な傑作を生み出す最大の要素と言ってよい、あの美し過ぎる音楽を書いてくれたトン・タッ・アンさんも、月曜日にはみんな新潟を離れていってしまうからなのでした…。

井関さんが現実のものとしてくれた今回の奇跡のような公演、そこに冠されたタイトルが「円環」であるのなら、またその時が巡り来るのを今から信じて待つ以外ないのです。今日が一旦とはいえ、別れの日であるならば…。でも辛い…。

全身を目にして、見逃すことなく、全身を耳にして、聞き漏らすことなく、すべてを玩味せんと臨むことを要する舞台、その裏にあったもの、やはりそれは人と人との繋がり以外の何物でもある筈がないのです。

14時30分の開場の以前には、予報に反して、空から落ちてくるものはそぼ降る雨でしかなかったり、陽が差す時間さえあったりしましたが、ホワイエに入って暫くすると、窓外を横殴りの突風が雨とも雪ともつかないものを物凄い勢いで運んだりもするようになりました。リアルに「遣らずの雨」、そういうことだなと納得したものです。

そして迎えた開演時間、15時。先ずは金森さん+Noism1『過ぎゆく時の中で』。走る金森さんを含めて、舞台上の全員の動きがもうキレッキレで、その半端ない疾走感は私たちをも巻き込み、内心の寂寥気分は目と耳とから入ってきたワクワクによって上書きされていきました。

一度目の休憩ののち、近藤良平さん演出振付のNoism1『にんげんしかく』です。いつ見ても楽しい作品。「奔放に見えて、ストイック」、そう近藤さんを捉えたNoism1メンバー。笑いを自らの「演出の癖」と捉える近藤さん。段ボールとも格闘しながら、振付家が目指すものを身体と段ボールとで追い求めようと躍動する様に惹き付けられました。

二度目の休憩後は、Noism0の『Suspended Garden - 宙吊りの庭』です。井関さん、山田さん、宮河さんと中川さん、そしてトルソー。そこに映像が加わり、アンさんの音楽が流れることで織り成されるのは、怖いほどの美の世界。これに比肩するものなど容易には名をあげるべくもないほどの35分間の悦楽。みんなの人生が交わったここ、新潟の地で。
見逃さず、聞き漏らさず、そう言いながらも、否応なしに『夏の名残のバラ』、『カルメン』などを幻視し、『NINA』、『PLAY2PLAY』の楽音などを思い浮かべつつ。心が震え、涙も…。

どの演目のあとにも、大きな拍手と掛け声が飛び交いましたが、やはり、『Suspended Garden』は別格でした。鳴りやまない拍手と飛び交う「ブラボー!」「アイチ!」そして「さとし!」。カーテンコールの度にスタンディングオベーションは広がっていきました。果たされた「再会」の果ての散会、それを惜しむ人がどれほど多かったかが分かろうというものです。

客電が点き、もう緞帳があがることがなくなってからも、いつまでも拍手をしていたかったのですが…。
そんな気分を抱えたまま、ホワイエに出て、同様な思いの友人たちと言葉を交わしつつ、立ち去り難くいたそのとき、背後から大きな音が聞こえてきます。「拍手みたい」そんな声があちこちから上がりました。私もそう思いました。その音、りゅーとぴあの建物に叩きつける大粒の霰(あられ)がもたらすものでした。でも、実際、「拍手みたい」だったのです。(以前にも一度、そんなことがあったのも思い出しました。)先程の「遣らずの雨」転じて、天からの大きな拍手。そう思えただけで、慰めになりました。
その後、アンさんと、次いで宮河さんとそれぞれ会う場面に恵まれましたが、その際も涙なしの笑顔で話すことが出来ましたから。
また、色々な条件が揃っての「再会」があって欲しい、今は再びの念願モードにいます。通常の「Noismロス」も当たり前に抱えながら。

新潟公演の幕はおりましたが、このあと、福岡へ、年明け2月には滋賀、そして近藤さんのホーム埼玉へと巡演する「円環」。それぞれの地で鑑賞予定の方々、期待をぱんぱんに膨らませて、今暫くお待ちください。その期待、決して裏切られることはありませんから。

(shin)

「円環」トリプルビル、新潟公演中日も客席を魅了♪

12月14日(土)、新潟市界隈は冬っぽくはあっても、「円環」公演の時間帯には雪はおろか、雨も落ちてきてはいずに、その意味では大助かりだった訳ですが、「大動脈」新新バイパス上で2件の事故があったお陰で、開演時間(17時)までにりゅーとぴあに辿り着くことが出来るか、ホント冷や汗ものの移動となったのは私だけではなかったのではないでしょうか。何とか滑り込みセーフで事なきを得ましたけれど、もう気が気ではありませんでした。

ホワイエでは、前日撮影しないでしまった「物販」コーナーの写真を撮らせていただきたいと思っていましたから、まずはそこを押さえることが出来て、自分に課したミッションクリア、でめでたし、めでたしでした。(休憩時間には、本日お越しになられていた花角知事が20周年記念冊子をお買い求めになる場面に遭遇しました。やっぱり、アレいいですよ、お洒落そのもので。2,000円はマストバイのアイテムかと。)

入場時に手渡される公演パンフレットと各種チラシの束のなかには、私たち NoismサポーターズUnofficial 製作の「サポーターズ・インフォメーション」の第11号も含まれております。力を込めてつくっておりますので、是非ご覧いただき、仲間に加わっていただけたなら嬉しく思います。

移動のドキドキから解放され、落ち着きを取り戻して客席から見詰めた「円環」トリプルビルの新潟公演中日の舞台は、この日もまさに会心の出来栄え。すっかり心を鷲掴みにされてしまうことになります。

まだまだ先の長い公演日程に鑑み、3つの演目について詳述することは致しませんが、最初の演目、金森さん演出振付で、金森さん+Noism1の『過ぎゆく時の中で』と二つ目の近藤良平さん演出振付のNoism1『にんげんしかく』が肌合いを異にするように感じられるのは、ある意味、容易に頷けるにしても、最後の『Suspended Garden - 宙吊りの庭』がまた同じ金森作品でも、『過ぎゆく…』とは別種の風情を湛えた作品であることも一見して明らかでしょう。
そして、それと同時に、昨日も今日も見終えたときに感じたのは、そうした相異なる3作品が、不思議に繋がり合っているようだということでした。それこそ、まさに「円環」。舞踊の多様性と奥深さに同時に触れ得た気がした次第です。そのあたりのこと、皆さんはどうお感じになられたでしょうか。コメント欄に書き込みいただけたりしたら嬉しいです。

ここからはこの日の終演後に行われたアウタートークについて、かいつまんでご紹介していこうと思います。この日の登壇者は、三つ目の演目を踊られた井関佐和子さん、山田勇気さん、宮河愛一郎さんと中川賢さんでした。
踊り終えたばかりの4人が着替えてクールダウンするまでの間の「場つなぎ」として金森さんが登場して、そのまま進行を務めたのですが、今公演は、井関さんが方向性を定め、構成を決めるプロデューサー兼出演者であったことを再度、念押しされたことも併せて記しておきます。

Q:(井関さんに)今回、近藤良平さんを招聘した理由について
 -A(井関さん):「Noism1メンバーのことを常々考えている。何が足りていないか。彼らの現在の問題も良さも個性も、どの振付家が来ても出てしまうし、自分が見る限り、新しい発見はない。近藤さんをお呼びしたことで自ら気付いて貰う機会にして、成長して欲しいという思いがある」

Q:(宮河さん・中川さんに)久し振りにNoismの舞台に出て感じたこと
 -A(宮河さん):「リハーサルに時間をかけられる環境。とことん深めていく作業、久し振り」
 -A(中川さん):「流れていたところに、また違う流れという感じ」

Q:新潟での12月の公演は厳しい。11月にならないか?
 -A(井関さん):「確かに12月は自分たちも寒くて厳しい(笑)。今回もクリエイションが始まった頃は晴れた秋空だったのが曇り空になり、段々、『新潟』の空になってきた。検討してみます」

Q:新潟で美味しいと思う食べ物は?
 -A(山田さん):「刺身。自分は北海道生まれなのだが、新潟が一番美味しいと思う」
 -A(中川さん):「タレカツ」
 -A(宮河さん):「居酒屋しののめさんのとりカツ」
 -A(井関さん):「お米」

Q:ダンスを始めたきっかけは?
 -A(山田さん):「大学に入ってから。ダンス甲子園とか深夜番組でヒップホップが流行っていて、ストリートダンスをやっていたが、大学のダンス部では違うモダンダンスをやっていた」
 -A(中川さん):「姉が現代舞踊(モダンダンス)をやっていたことから」
 -A(宮河さん):「応援団に入っていたり、バレエやジャズダンスなどから。マイケル・ジャクソンとかダンス甲子園とかの頃」
 -A(井関さん)「3歳で踊り始めたので、記憶がない」

Q:舞台芸術を裏で支える人になりたい。求めていることは?
 -A(井関さん):「是非、ウチに。状況であったり、何が求められているかであったりを把握できること。機転が利いて、その瞬間を生きること」

Q:どうやって動きを合わせていたのか。呼吸?カウント?
 -A(宮河さん):「場所によって違う。カウントのところもあれば、デュエットは呼吸」
 -A(井関さん):「結構、カウントは決まっていたが、重要なところはカウントではなくなってきた。アン(=トン・タッ・アンさん)の音楽に呼吸を感じる」

Q:リノリウムに画像が映されるのは踊り難かったりしないか?
 -A(宮河さん):「テンションがあがるが、画像が動くと目印が動いて惑わされることも」
 -A(中川さん):「自分は踊り難くはない。テンションあがる」
 -A(山田さん):「デジタルの画像なので、細かいグリッドが見える。客席からは綺麗に見えるようになっている」
 -進行役・金森さん「そうなんだよね。客席からの見え方で作っている」

Q:海外公演、どの国で行いたいか?
 -A(井関さん):「スイス。自分がいたところであり、欧州でも違う国なので。そしてフランス。舞踊に厳しい国で、今、金森作品を持っていったら、どう感じて貰えるか興味がある。是非、連れて行ってください」

Q:お気に入りのポーズは?
 -A(山田さん):「手を繋いで斜め一列になるところ。深いプリエをする。頑張っているなぁと思って好き」
 -A(宮河さん):「佐和子(=井関さん)をリフトして止まるところ。うまく入ると気持ちいい。やってやるぞと」
 -A(中川さん):「ポーズではないが、4人が揃っているとき」
 -A(井関さん):「奥で全員集まって、顔を見るところが好きな瞬間。いい瞬間だなと」

Q:これまでの衣裳で、一番の好みは?
 -A(中川さん)「ISSEY MIYAKEとか白の全身タイツとか印象に残っている」
 -A(宮河さん)「『中国の不思議な役人』の布団。布団風ではなくて、めちゃめちゃ重かった」
 -A(山田さん):「今回のは凄く好き。違和感がない」
 -A(井関さん):「『夏の名残のバラ』の堂本教子さんによる赤いドレス」

Q:(宮河さん・中川さんに):久し振りに金森作品を踊っての感想
 -A(宮河さん):「今でもまだ信じられない。戻ってくることがあるとは思っていなかった。クリエイションが始まったときから笑いがとまらない。今でも本当なのか疑っているほど信じられない経験。心が追い付かないくらい嬉しい」
 -A(中川さん):「昔、自分は穣さんの作品に出たくてNoismに来た。その頃、メンバーにならなければ穣さんの作品は踊れなかったから。今、ひとりの中川賢として踊っている。メンバーだった自分がいてよかった」

Q:アンさんの素晴らしい音楽を踊っての感想
 -A(井関さん):「アンの音楽は導いてくれる。幾つものレイヤーがあって、その都度、耳に入ってくる音が違う。日本(新潟)に来てくれて、調整してくれた音はまた全く違って聞こえてきた」
 -A(宮河さん):「母の作るシチューが安心感あるのに似ている」
 -A(中川さん):「純粋にいい音楽だなと。最初のピアノの4つの音、もはや聴きたくなっちゃっている」
 -A(山田さん):「アンの音楽は変わっていない。聴いた瞬間、『ああ、アンだな』と思った」

Q:年齢による踊りの変化、どう感じているか?
 -A(山田さん):「色々経験を重ねて、見える部分増えたが、今回、同じ釜の飯を食ってきたこのメンバーで踊って、話さなくても、身体的にわかる。このメンバーでやることに安心感があり、広い心で舞台に立つことが出来た」
 -A(中川さん):「環境によって、果たすべき役割は違う。一緒に長くやってきたことは貴重」
 -A(宮河さん):「年をとることは嫌なことだと思ってきたが、ここ1、2年は違う。父が亡くなったり、怪我をしたりしたことがダブって見えてきた。経験を重ねることで見えるものも増えていて、年をとるのも悪いことではないなと」
 -A(井関さん):「(金森さんも含めて)5人の年齢を合わせると200歳を超える(笑)。舞台に立つ心持ちが変化した。ただ単純に『自分を見て欲しい』ではなくて、どう人と繋がっていくか。これから年をとっていくことが楽しみ。このふたり(宮河さんと中川さん)はずっと身体と向き合っているから呼んで欲しいと思った。年齢を重ねても進化出来る。自分自身に期待している」

最後に、金森さんから、新潟楽日は当日券の余裕もあり、もう一度観たいという方は是非に、とのお誘いなどがなされ、大きな拍手のなか、この日のアフタートークが締め括られました。

…大体、そんな感じでしたかね。以上、報告とさせて頂きます。

そしてこれを書いているのは、その新潟楽日の未明。半日後にはその舞台もほぼ最終盤に差し掛かっている筈、というそんな時間。本日が新潟で今公演を観る最後の機会。
皆さんも「円環」よろしく、素晴らし過ぎる「非日常」が待つりゅーとぴあ〈劇場〉への「円環」を企ててみませんか。Noismロスになる前にもう一度。
私?もちのろんです♪って、年を重ねた観客がここにもひとり。皆さんも是非♪

(shin)

なんという豊かさ!なんて素敵な宵!Noism0 / Noism1「円環」新潟公演初日♪

奇しくも、一般的には不吉とされる日にちと曜日の組み合わせであった12月13日(金)、新潟市のりゅーとぴあ〈劇場〉には、逆にこの日を待ちに待った者たちが18時をまわった頃から冷たい雨すら厭うことなく、続々集まってきました。

Noism0 / Noism1「円環」新潟公演初日、近藤良平さんを招聘してのこのトリプルビルは、国際活動部門芸術監督の井関さんが「自信をもってお届けする」と語ってきた豊かさで早くから評判を呼んでいましたが、なるほど、舞踊の多様性や奥深さを示す、まさに「目にご馳走」のラインナップと言えるものでした。

開演時間の19時を迎えます。まずはNosim0+Noism1『過ぎゆく時の中で』(約15分)。こちらは2021年のサラダ音楽祭で初演された作品の劇場版であり、新潟市初登場となる演目です。疾駆するかのようなジョン・アダムズの音楽(『The Chairman Dances』)に乗って、駆け足で、或いは、ゆっくりスローモーションのように、舞台を下手(しもて)から上手(かみて)へ、或いは、その逆に動いていく身体たちが未来への思いや、過去への追想を描き出し、「時」の流れが可視化されていきます。永遠の相のもとに…。
この作品でNoism1のメンバーと一緒に踊る金森さんの姿はこれまでに目にしてきたどの金森さんとも違う空気感を出していて、そこも見どころと言えるかと思います。

一回目の休憩は10分。それを挟んで、二つ目の演目は、かつての『箱入り娘』(2015)のメインビジュアルと相通じる感もある、近藤良平さん演出振付のNoism1『にんげんしかく』(約35分)です。さすがは近藤さん、奇抜!まさにその一語なのですが、そこは磨かれた身体性のNoism1メンバーたちのことですから、「ちょっと苦労させてみたかった」思いの近藤さんを相手に、「段ボールとの格闘日記」の末、もう充分「段ボール専門家(!)」といった風情を漲らせて舞台狭しと踊ります。ですから、無地の矩形で代替可能でしかない段ボールの一つひとつが、中や脇で踊る各メンバーの個性を帯びて見えてくる不思議な感覚にも出会いました。
観る者を武装解除させずにはいない内橋和久さんによるダクソフォンの音楽も相俟り、10人のそのとても楽しそうな様子が客席にも伝播していく、笑いに満ちた「生命賛歌」と言ってよい会心作です。

20分間の二回目の休憩ののち、三つ目の演目がNoism0『Suspended Garden - 宙吊りの庭』(約35分)、金森さん演出の新作で、元Noismの宮河愛一郎さんと中川賢さんが、井関さんと山田さんと一緒にトン・タッ・アンさんによるこの上なく繊細な響きの音楽を踊る、これもまた注目作品です。こちら、同じ金森作品でも、最初の『過ぎゆく時の中で』とは全く趣を異にし、息を呑むほど美しい作品で、その点では、『夏の名残のバラ』(2019)を彷彿とさせるものがありますし、登場するトルソーも、同『夏の名残のバラ』のカメラコード、『Near Far Here』(2021)のアクリル板がそうであったように、舞踊家と一緒に踊っているのを見ることになるでしょう。更に、そのトルソーと人形振りという点からも多くの過去作と呼び交わすものがあることは言うまでもありません。
そこに黒い衣裳の宮河さんには『ZAZA』(2013)の、中川さんの背中には『ラ・バヤデール - 幻の国』(2016)のそれぞれ記憶が回帰しました。(個人的な印象ですが。)瞬きするのさえ惜しいほど、それだけで「尊い」のですが、初めてふたりを観る方も心配ご無用、熟練の舞踊家が醸し出す色気は誰の目にも明らかでしょうから。

このトリプルビル、なんという豊かさであることでしょうか!3作品、それぞれ持ち味を異にするラインナップで、どの演目にも大きな拍手と「ブラボー!」の声が送られたことは言うまでもありません。

終演後、金森さんと近藤さんが登壇して、Noismスタッフ・上杉晴香さんによる手際のよい進行のもと、アフタートークが行われました。で、冒頭、その上杉さんから、動画ではなく、写真であるならば撮影して構わないと告げられたことも嬉しい事柄でした。
以下にこの日のやりとりから、おふたりの回答中心にまとめて少しご紹介します。

Q:『にんげんしかく』の段ボールについて
 -A(近藤さん):「燕三条で買ったもの。『何でこんなに買うんですか?』と訊かれたが、細かいサイズ指定をして買った」「自分の目の高さちょうどのところに小さな穴がふたつ開けてあって、そこから見ている」「箱の中に持ち手などはない。付けるのは邪道」「横に倒れるのは怖い。訓練が必要」「勿論、自分も入ってみた」
 -金森さん:「俺は(入ったことは)ないよ」
 -近藤さん:「でも、誰もいないところで、こっそり入ってたりして(笑)」「みなさんもMy段ボール用意して入ってみてください。いいですよ(笑)」

Q:コンドルズに振り付けるときとの違いは?
 -A(近藤さん):「基本的にはない。生き生きするその人なりの方法を探すのは同じ。調子に乗ってくるとダメだし、あんまり上手くなられるのも困る」

Q:コンドルズの次の新潟公演の予定は?
 -A(近藤さん):「コンドルズは今、28周年。来年が29周年。で、30年、やっぱりめでたいじゃないですか。そのときが一番かなあ」

Q:『にんげんしかく』のお題にある「88%星」にはどこかの国のイメージあるのか?
 -A(近藤さん):「架空の星。星新一に出てくるような。衣裳は、お題にある『一張羅』という投げ掛けにより、段ボールを被ることもまだ知らされていなかった頃、まさか舞台で着ることになるとは思わずにメンバーが描いたデザイン画によるもの。絵はあまり上手くなかったものの、それが結構な精度で出来上がってきた」
*このあたりを巡っては、公演プログラムにこの度のプロダクションについての情報も沢山掲載されていますので、鑑賞前に目を通されておくのもいいですね。(私はしませんでしたけれど…(汗)

Q:『にんげんしかく』にはNoism旗揚げ時の『SHIKAKU』への意識あったか?
 -A(近藤さん):「自分のなかで途中で浮かんできてびっくりした。同じようなこと考えてるんだなと」

Q:(近藤さんに)Noismを振り付けたことについて
 -A(近藤さん):「金森さんのしっかり線を引く作り方、ちょっとだけ憧れる。イメージはあるが、そんなふうに作れない。でも、似ている部分はある。男の子だし(笑)」
 -金森さん:「えっ、そこ?」
 -進行・上杉さん:「聞こえてきたメンバーの話として、近藤さんは奔放なようでいて、凄くストイック。自由が如何に難しいか感じたと」

Q:舞踊家を目指す者として、若いうちに経験すべきことは?
 -A(近藤さん):「無謀なこと。む・ぼ・う」
 -A(金森さん):「出来るだけ色々なことを自分の肌で体験すること」

Q:一緒に創作をしたい団体あるか?
 -A(近藤さん):「団体ではなくて、動物に振り付けたい。概念変えなきゃいけないけど」
 -A(金森さん):「特に団体はない。Noismがもっと豊かになって、色々なことが出来るようになればということしか考えていない」

Q:『Suspended Garden - 宙吊りの庭』の振り付けについて
 -A(金森さん):「(『NINA』は振付が先行だったが、)今回は曲が先行。アンさんは4人のことをよく知っているから、聴きながらインスピレーションを得て、振り付けた。観念の他者がいることで、あり得たかもしれない未来やあり得たかもしれない過去を生きるものに」

Q:金森さんが取材協力した恩田陸さんの小説『spring(スプリング)』と創作について
 -A(金森さん):「難しい質問。でも、恩田さんのフィクションだから、『ああ、そうそう』ってところもあるし、『率直に言うと、そうじゃないんだけど』ってところもある。舞台芸術には、舞踊の当事者だからこそ不思議だなという感覚がある。また、本を読んでいろんなイメージをしながら観ていることについても、舞台芸術って良いものだなと思う」
 -進行・上杉さん:「恩田さんは今日は来られていないが、よく観に来てくれては、新潟に泊まってお酒や美味しいものを楽しんでいかれる」
 -金森さん:「チョコを差し入れしてくれる」


…と、そんな感じでしたでしょうか。

で、ここで、個人的な内容で恐縮なのですが、ちょっとだけ書かせて貰いたいことがありまして。それは、今回の「円環」トリプルビル中、金森さんの新作『Suspended Garden - 宙吊りの庭』の音楽を担当されたトン・タッ・アンさんについてです。
ワタクシ、随分前にアンさんとは、(台湾在住ということで、直接お会いしたことも、お話ししたこともないのですが、)某SNSで「友だち」になり、時折、コメントをやりとりさせて頂いておりました。
で、今回のプロダクションに関して、アンさんが、Noismの20周年記念冊子に関するポストをされた際に、恐れ多くも、コメント欄に「できればサインを頂きたい」旨の気持ちを綴ったところ、「喜んで!」と返信があり、ワクワクが倍増どころではないことになってしまい、この日を迎えていたのでした。
開演前のホワイエに姿を現したアンさんに初めてお会いして、「二回目の休憩の際に」ということになり、(初めて)お話しも出来て、勿論、サインもいただき、一緒に写真を撮っていただいたうえ、更には「終わったら飲んだりしながら話そう」まで言っていただき、(そこに関しましては、あまりにも身に余るお誘いであり、丁重にご辞退申し上げましたが、)もう気さくで腰が低く、魅力的なお人柄にすっかりノックアウトされてしまったような次第でした。リアル「天使」じゃないですか、こんなのって。そんな具合です。


長くなってましたね、すみません。いい加減、少し「公」の方向に戻します。
で、話をするなか、休憩後の演目での自作曲について、「You can swim in the music.(音楽を聴きながら泳げるよ)」との言葉。泳ぎました、泳ぎましたとも、はい。実に気持ちよく。
終演後に、その旨も伝えつつ、「まだ夢見心地だ」など、また少しやりとりするなかで、「think I will need some time to come down again.(落ち着くには少し時間が必要だね)」、そして更に「and I was so overwhelmed by people’s reaction. It was wonderful!(私は観客のリアクションに圧倒された。素晴らしかった)」の言葉が届くに至り、その「観客」のひとりとしてとても嬉しい気持ちになりました。なんて素敵な宵だったことでしょうか!

アンさんしかり、近藤さんしかり、勿論、金森さんと井関さんも、そして宮河さん、中川さんに山田さん、更にNoismメンバーみんなが、舞台芸術のために、この新潟の地に降臨した「天使」、そんなふうに映った魅惑的過ぎる新潟公演初日でした。

新潟ではそんな「天使」たちを目撃する機会はもう2公演。その境地、是非ともご体感ください。

(shin)