激しく胸射つ若き舞踊家たちの創意(サポーター 公演感想)

Noism1メンバー振付公演2022〈2022/2/5(Sat.)17:00〉

厳しい寒さに見舞われつつも、予報ほどの降雪とはならなかった2月5日の新潟市。 Noism1メンバー振付公演2022初日に駆けつけた友人知己始め観客は、皆凍えた様子で劇場に集まったが、公演後には、その身体の奥から沸き上がる高揚が滲むようだった。明日の楽日を前に、詳細や演者の配置は記載を避けるが、劇場の広々とした空間を如何に活用し、音楽・照明・演出とダンサーの身体で、観客の胸に刻まれる「何か」を生み出そうとするメンバー五人の創意が充ち溢れるような公演だった。 まるで通奏低音のように、「東洋の美」や「祈り」が各作品から香ったことも印象深い。

ダイナミックかつ軽やかな動きの連鎖と、女性ダンサー4名の健康的なエロスが炸裂する樋浦瞳作品。静謐さと愛らしさとが調和を見せる三好綾音作品。暗闇から鮮やかに展開する切れ味が見事な坪田光作品。彫像のように美しいダンサーたちの動きと、演出のケレンに唸る中尾洸太作品。そして、失礼を承知で書けば、そのイメージを裏切り、ストイックな迄の悲愴感と演出の妙で、息を呑む舞台空間を創り上げたジョフォア・ポブラヴスキー作品。 どの演目かは避けるが、中村友美さんの活躍、中村さんと樋浦さんのデュオの美、 Noism2メンバーの堂々たる存在感は特筆したい。各作品の妙味が連なり、終演後2度目のカーテンコールでは、思わずスタンディングオベーションしてしまった。

客席移動も可能との案内もあり、感染対策も万全なりゅーとぴあ。 Noism1の若き舞踊家たち渾身の舞台をどうか見逃さないでいただきたい。明日15時からの千秋楽の盛況を祈りたい。

(久志田渉)

「ランチのNoism」#14:中尾洸太さんの巻

メール取材日:2021/8/7(Sat.)

シーズン終盤の怒濤の日程が八面六臂のフル稼働で踊り通され、その大ラスは月末の利賀(富山県)、Noism0の3人による『残影の庭』で締め括られる筈でしたが、公式発表はまだですけれど、感染症拡大防止の観点から、同演目の鑑賞予約者に対して、SCOTの担当者より個別に「上演延期」の電話連絡が行われましたから、Noism Company Niigataは現在、全メンバー揃って、18thシーズンを前にした夏休み中と解せられます。
再始動までしばしの充電期間という訳ですが、ここで、夏休みに入るギリギリ直前のタイミングでメール取材できた「ランチのNoism」(14回目)をお送り致します。今回登場するのは中尾洸太さん。果たして彼のランチとは…!?

皆さん、準備はいいですか。では覗きに行っちゃいましょう。

♫ふぁいてぃん・ぴーす・あん・ろけんろぉぉぉ…♪

夏休み前でも大忙しの舞踊家たちに昼がきた♪「ランチのNoism」!

*まずはランチのお写真から

えっ?えええっ?どゆこと?

ちょっとちょっと中尾さん、写真、間違えてません?こちら、食後のコーヒー画像ではありませんか。
それとも、まさか、昔の浪人生みたいに覚えた先から、頁を破って胃に収めていくってことじゃありませんよね、コレ。って、そんな訳ないか。破られた跡、ないですもんね。
それじゃあ、それじゃあ、取材の日にランチ忘れてきちゃった図だったり?あり得ない、あり得ない。失礼なこと言っちゃってスミマセン。

もうコレ、中尾さんにまんま伺うしかないですね。

1 今日のランチを簡単に説明してください。

 中尾さん「お昼はいつもコーヒーを飲みながら本を読んでいるか、そのまま練習していることが多いですね」

 *えっ?えええっ?(再び)
ランチブレイクがコーヒーブレイクってことですか?アドレナリン出しまくりの最中の読書っていうのもシュールな感じですし、お昼の時間も練習を続けているとしたら、それはそれでちょっと心配になっちゃうんですけど。
う~む、だとすると、今回、「ランチのNoism」として進めて大丈夫なんですかねぇ?次に用意した質問、既に行きにくい展開になってるんですけれど、これ…。ええい、敢えて、ってことで訊いちゃいますけど…。(汗)

2 誰が作りましたか。or 主にどこで買ってくるのですか。

 中尾さん「ランチに限らず割と自炊が好きなので、これが食べたいとなるとあまり手間は厭わずに作ります」

 *コーヒーについては触れられませんでしたけれど、聞けば、中尾さん、缶コーヒーはあまり飲まず、その時の気分によって変えることはあっても、基本的にはブラックで飲んでいるのだとか。この日のもこだわりのコーヒーだったりするんですかねぇ。
で、作って食べるのが好きってことで、好物を訊ねてみましたところ、「やっぱり白米が好きですね。あと豚肉と鶏肉も」と中尾さん。これはもうバッチリ新潟向きのお答え!豚肉で疲労回復を図り、鶏肉でたんぱく質を摂りながら、新潟のお米、どんどん召し上がってくださいね。

3 ランチ(タイム)でいつも重視しているのはどんなことですか。

 中尾さん「ランチをとると眠くなったり、一度踊るモードに入るとなかなか食べる気が起きなかったりするので、できるだけ軽くコーヒーだけで済ませてしまいます」

 *「できるだけ軽く」って、コレ、軽過ぎません、中尾さん?これまでお届けしてきたランチもホントに軽めな人多かったんですけど、ここまで来ちゃいますか?
まあ、舞踊家に「踊るモード」って言われちゃうと、私たちとは違うんだなって思うほかありませんけどね。いえ、そう思うことに致します、うん。「踊るモード」ですね。

4 「これだけは外せない」というこだわりの品はありますか。

 中尾さん「料理の品ではないのですが(笑)、本は割とお昼のお供にしています」

 *あっ、そっちですか。コーヒーの方が来ると思ったら、そちらでしたか。(汗)
そして私たちからの質問もムリムリ感強めなものが続きますが、ご容赦を。

5 毎日、食べるものは大体決まっている方ですか。それとも毎日変えようと考える方ですか。

 中尾さん「ランチはともかく、夜は毎日変えたい派です。なので、作り置きなどをしていた時期もありましたがやめました」(笑)

 *自炊されるとすると、疲れているのに大変ですね。それでも、夜、好きなもの食べたいですよね。そうでしょうとも、そうでしょうとも。で、よく作られるものにタコスがあるんだそうですが、「もう少し研究したのちに、得意料理を訊かれたときにはタコスと答えたいですね」と中尾さん。タコス道も極めていくことになりそうです。

6 公演がある時とない時ではランチの内容を変えますか。どう変えますか。

 中尾さん「なるべくいつも通りがいいので、公演だからといって何か特別に変えることはしません」

 *なるほど。例えば、以前にも触れたことですが、歌舞伎の市川海老蔵さんも「変えない派」で知られてますけど、ほぼコーヒーだけの中尾さんとは少し違うか。でも、やはり「踊るモード」優先ってことは言えて、そこは同じかと。

 *それからこちら、遠征中の写真を一枚、送ってくださいました。

サラダ音楽祭劇場入り期間中、自然な笑顔の中尾さん

 *遠征中の食事はさすがに少し勝手が違うのかもしれませんが、やはり食卓に本がありますね、分厚い本が。この日は恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』とお見受けしました。
んっ?えっ?おっと、これ、「週刊ブックレビュー」(古いか?)ではなくて、「ランチのNoism」でしたね。いけない、いけない。食べていたもの、食べていたもの。お訊きしたところ、ねぎみそと葉とうがらしのおにぎり、そしてお味噌汁と(恐らく、ひじきの)煮物とのことでした。(汗)和風ですね、中尾さん。

7 いつもどなたと一緒にランチタイムを過ごしていますか。

 中尾さん「本読むので割と一人でいます。みんなとしゃべりたいときはテーブルに行って歓談しています」

 *そうですよね。通常、本がお供なんでしたよね。これは失礼しました。では、「みんなとしゃべりたいとき」について教えてください。

8 主にどんなことを話していますか。

 中尾さん「昨日何食べた? とかあまり踊りに関係ないことを話しています」

 *おっと、西島秀俊さんと内野聖陽さんの人気ドラマ(『きのう何食べた?』)の話かと思っちゃいました。アレ、面白いですよね。観てます?って、話、逸れ過ぎですね。スミマセン。(汗)

9 おかずの交換など…(むにゃむにゃ…)←さすがに、これはそぐわないですね。

 中尾さん「おかず交換はしないのでとりあえず今読んでいる本の紹介でも…。
今、カズオ・イシグロさんにハマっているので、今は『忘れられた巨人』、一つ前に読んだのは『クララとお日さま』です」

 *おお、お気遣いに感謝です。いい人!ずっと読んでいる本について訊きたかったんですけど、タイミングを失したかなと残念な思いでいましただけに、もう感謝、感謝です。で、カズオ・イシグロさんですか。私も『日の名残り』とか『わたしを離さないで』とかいくつか読みましたけれど、少し堅めの純文学ではありながらも、大きく展開する物語が印象に残っています。また他のも読んでみようかと思いました。

10 いつもおいしそうなお弁当を作ってくるのは誰ですか。 料理上手だと思うメンバーは誰ですか。

 中尾さんカイスティーヴンはいつも美味しそうなものを食べているなーと思って見ていました」

 *おふたりともホントに料理上手でしたからね。前シーズン限りで退団されてしまったおふたりの名前にちょっとしんみりです。(涙)でも、淋しがってばかりもいられませんから、気を取り直して前を向いてこう、ってことで。
中尾さん、驚きの「ランチ」、ご馳走様でした。

で、中尾さんからもメッセージを預かっています。そちらをどうぞ。

■サポーターズの皆さまへのメッセージ

「いつもNoismの活動を応援してくださりありがとうございます。まだまだ新参者の私ではありますが、中尾洸太にしかできない踊り、表現を模索しつつ、それを皆様にお届けして感動していただけるよう精進してまいります。これからも応援よろしくお願いします」

メンバー振付公演でも意欲的な作品を発表していた中尾さん、これからも目が離せないですね。と、こんな具合で、今回の「ランチのNoism」もおしまいです。大幅に入れ替わるメンバー皆さんへの期待を募らせて、18thシーズンのNoism Company Niigataを待つことに致しましょう。今回もお相手はshinでした。それではまた。

(shin)

Noism 1メンバー振付公演を観て(サポーター 公演感想)

☆Noism1メンバー振付公演(2021/3/28@りゅーとぴあ・スタジオB)

6年ぶりというメンバー振付公演、前回は Noism を観始める前だったようなので初めての体験でした。

様々なバックグラウンドを持った現役ダンサーによる、いま一番表現したいことを自分のキャスティングで創り上げる作品。音楽も衣装も。期待が高まります。いつものNoism とはひと味ちがう若々しい作品が観られるな、と思っていたらその通りでした。

2公演観たかったのですが1回だけだったので、今では細かいことは思い出せません。それはそれで良いのだと思います。公演を目指して創られた作品をその時の自分が観たのですから。当然その時から創り手も自分も変わって行きます。

観ている時はとても楽しく、エネルギーを感じました。来て良かったと思いました。全作品それぞれ違って興味深かったです。今の時代を反映して「多様性」が至る所にちりばめられていました。

自分の中でインパクトが強かったのは、スティーヴン•クィルダン作『3.2.1』で月光ソナタ(馬が疾走しているような)で踊られる粗暴とも言える2人のダンス。対照的なポアントかピンヒールを履いてるようなカナールさんの動きの美しさ。まさに適役。

短編ドラマを観ているようだった、中尾洸太作『”うしろの正面”』
「カプグラ症候群」こういう精神疾患があるというのは小説、マンガなどで知っていたが名前を聞くのは初めてだ。疾患と言うが、本当のところは正常なのかもしれないし、そこがコワいところ。
林田海里さん、ダンサー&アクターどちらも兼ね備えていて素晴らしかったです。大好きなヴァリシニコフの次に林田さんです!
突然流れる『The end of the world 』の感傷的で甘いメロディ。思い出したのは『Painted Desert 』で使用された『Mr. lonely 』
なんて事のない美しいロッカバラードの曲たちなのだが、使われ方によっては私は狂気を感じてしまう。多分、D.リンチのアブない映画『Blue Velvet 』で同題の曲が繰り返し流れていたせいだと思う。

創り手の背景が様々なら、受け手のバックグラウンドも多様です。客席の全員がそれぞれ違うことを考え、自分の中に落とし込んでいると思うと世界は限りなく広いと思う。みんな脳内に別々の世界を作り上げて観ているのだ。

林田さんの『Flight from the city 』
彼の表現したい「青さ、未熟さの残る情景」は女性2人によって踊られているが、想像するにこれはたまたまというか、メンバーの中でのキャスティングで鳥羽、西澤さんがイメージに合っていたからだと思う。もしかしたら青年2人のデュオだったかもしれない。
照明スタンドの使い方、特にラストの消えるタイミング、絶妙でした。余韻が漂い、しばらく動けませんでした。

最後に、ジョフォア•ポプラヴスキーさんの存在感。チャーリー•リャン作『The Eclipse 』の中のチャーリーさんとのデュオが印象的でした。そして彼の『On the Surface, there you lie 』はトリにふさわしい重厚感がありました。暴力を振るい続けてエスカレートして止められなくなる者、抵抗もせずされるがままになる者…
いろいろなものが心に入ってきた。

金森さんがプログラム序文に
「劇場専属舞踊団として、新潟から日本を代表する作品、舞踊家のみならず振付家も輩出する事が次のミッションであり新潟の文化的価値観の創出になる…」
というような事を書かれていました。

メンバーの更なる飛躍を期待します。
次の振付公演が楽しみです!

(たーしゃ)

何とも贅沢な7演目♪ Noism1メンバー振付公演、その最終公演を観る+α

2021年3月28日、小雨。Noism1メンバー振付公演は当初から予定されていた15時の回に加えて、12時の回が追加された日曜日。休憩を含めた公演時間が約100分であることから、演者は約1時間を挟んで、2公演を踊るというタフな日程でした。私は昨日に続いて、最終公演も観ることが出来ました。そして今思うのは、なんと贅沢な2日間だったのだろうということです。

昨日のブログに書いた知りたかった事柄につきましても、幸運にも訊くことができましたので、今日はそこから書き出すことに致します。まず、開演前のホワイエで、Noism1リハーサル監督/Noism0の山田勇気さんにお訊きしたのは、出演者はどう決めたのかということ。すると、演出振付を担当する者が使いたいメンバーを選んだのだという答えを得ました。続いて、創作はいつ頃から始まったのかという点については、幕間に、客席で一列後ろに座られていたNoism2リハーサル監督の浅海侑加さんに訊ねましたところ、「Noism0とNoism1の公演(「Duplex」)の前からちょこちょこと作っていた」と教えていただきました。ご参考まで。

それではここからは、7つの演目について、私の目にどう映じたか、どう感じたかなど記してみたいと思います。それらはどこまでも個人的なものですので、今回、ご覧になられた方からどう感じられたか、コメント欄に頂戴できましたら幸いです。

先ずは前半の4作品。

1『The Eclipse』(演出振付:チャーリー・リャン)
身に纏った白い衣裳から、古代ギリシアや古代ローマ、或いは神話的な世界観が横溢する作品。演者は女性2(鳥羽さんと西澤さん)、男性2(ジョフォアさんとチャーリーさん)。タイトルは日本語で「蝕」、古来、不吉とされてきた日蝕。演じるジョフォアさん繋がりで、フランス語的に解すると、太陽が男性名詞で、月は女性名詞。(因みに、ドイツ語では真逆になるのだが、今、それは措いておいてよかろう。)冒頭、月(鳥羽さん)を力強い両腕で吊り上げる太陽(ジョフォアさん)と、力なく四つん這いの太陽(チャーリーさん)に挑まんと進み出る月(西澤さん)、その対称から発し、様々にパワーバランスを遷移させながらも、最終的に、月が太陽を圧する様子「蝕」へと至る。最後、もがき苦しむことになるのは他でもなく、…。随所に登場する頭を押さえつける振りが印象的。また、『R.O.O.M.』を彷彿とさせる音楽も耳に残る。

2『life, time for a life time』(演出振付:カイ・トミオカ)
ゆったりしたピアノの調べからハードなジャズのドラムへ、更に、ボードビリアンとして立つ舞台を思わせる効果音や、極端に機械的にデフォルメされた雨だれの音(?)、そして艶やかな弦の響きへと音が移い、表情を変えるのに併せて、カイさんと渡部さんも脱ぎ着しながら、人生の異なる時間、あの時やらこの時やらを、ときに緩やかに、ときに激しく、あるときは神妙に、またあるときは諧謔味を帯びて通過していく。ラスト、床面で身体をくねらせて踊る渡部さんの片手に載せられた黄金色の丸皿、その安定振りへと収斂し、締め括られていくふたつの人生からの逸話。

3『3,2,1』(演出振付:スティーヴン・クィルダン)
向こう向きの池田さんと客席に向いたおかっぱ頭の樋浦さん。足を開き、やや腰を落とした姿勢で、ベートーヴェンの『月光』ソナタ第三楽章の激しいビートを刻む冒頭。その小気味良さ。ふたりの姿勢には『NINA』の趣も重なる。音楽が緩やかになると、長躯のカナール・ミラン・ハジメさんが、常に両手で両目を開きつつ、垂直軸を強調させながら登場。目に映じる3人の性別は終始、混沌としている。やがて、おかっぱのかつらは樋浦さんから池田さんに移り、衣裳も、何気ない生成りから、怪しく光を反射する縞模様を含むものに変わるだろう。それは性の多様性をグラデーションで象徴する「虹」を模したものか。

4『“うしろの正面”』(演出振付:中尾洸太)
椅子、仮面。明滅した挙げ句に消える明かり、暗転、プレイバックと両立不能なパラレルワールド。上着、仮面、ナイフ、血塗られた赤の照明。スキータ・デイヴィス『The End of the World』は、悲劇的にすれ違う男女(林田さんと杉野さん)の惨劇を予告する。冒頭の椅子は、事切れた女のむごたらしい亡骸を載せ、ついで、そこに何事もなかったかのように男が腰掛けると、明滅する明かりの下、何やらメモをとる、その姿の不気味さ…。禍々しい題材ながら、森優貴さんの『Das Zimmer』で性別違和を踊った林田さん、その「越境」する色気零れるターンには今回も見とれた。

15分の休憩を挟んで、後半。

5『Flight From The City』(演出振付:林田海里)
スタンド照明がひとつだけで、周囲は闇。鳥羽さん(黒に見える濃紺)と西澤さん(白)によって展開される禁断の「百合」世界。なんと蠱惑的なのだろう。2016年冬にNoism2で『ÉTUDE』を踊った中にいたふたりが更にその先を踊る。別離の予感に満ち、哀調を帯びた調べが繰り返されるうちに、徐々にノイズが入り込んでくると、もう心も身体も抑制が利かない。お互いを求め、身体が縺れ合う、その官能性。一度目に明かりを消した闇のなかで、声にならない叫びを発した鳥羽さんは、ラスト、唇を重ね合わせたのち、今度も再び自ら明かりを消す…。そこに至るまで、夢幻のように、行き場を持たない蒼い時が切なくも美しい。

6『Kol Nidrei』(演出振付:三好綾音)
伸ばした手はかわされ、支えた足は払われる。求めても得られない思い、預ける身体は受け止められることなく、地に伏すしかない。そして拒絶は反復される、幾度も。それでもなお、慈しみ、与える。与えつつ、求める。より大きな何かを。舞台中央奥に一筋束ねられた布はより大きな何かの象徴か。バラバラな衣裳の5人がその末端を手に取る。すると、布は広がり、白と黒、斑のグラデーションを示す。善悪、或いは清濁を併せ持つかのように。手を離すと、布はしぼみ、スポット照明があたるなか、ひとり舞台に残った三好さんの姿と一体化する。あたかも「希望」ででもあるかのように光る布だけが残る…。

7『On the surface, there you lie.』(演出振付:ジョフォア・ポプラヴスキー)
カイさんと中村さんのペアも、中尾さんも、細かい位置こそ違え、顔の左側に黒い痣をつけている。それは何かのトラウマの表象。青い光の下、表現される怖れと慄き、或いは意を決して向き合おうとする姿と逆にそれを押しとどめようとする振る舞い、葛藤。それら結果としての3人の「表層」がアクティング・エリアに交錯するうち、その外部に恐れと慄きの源泉である不可視の「対象」或いは「深層」が現出してくるさまは圧巻だった。ラスト、中村さんによるカイさんへの過剰な制止はもはや「制止」の身振りを遙かに逸脱し、自らのトラウマの投影として、見詰める目に痛々しく突き刺さるよりなかった。

以上、雑感でした。あくまで個人的な…。

7つの演目、全て見応えがありましたから、何と贅沢な公演だったことでしょう。追加公演を入れても、たった3回の上演とは勿体ない、勿体ない。まだまだ何回も観たい、そう思いました。ご覧になられた方は幸せでしたね。まさに至福の週末♪一方で、観る機会に恵まれなかった方も多くいらっしゃった訳ですから、機会を設けて、また見せて欲しい、心底そう思いました。

さて、こちらも昨日からの続きとなりますが、6F展望ラウンジの「RYUTOPIA INFO BOX」について、(またしても思わせぶりな)若干の補足です。

「舞踊」分野、Noism的には、この6つが展示されています。(因みに途中の「28番」は「演劇」分野の展示となります。)実際の展示品につきましてはご自分の目で直に見られるのがよいかと思います。悪しからず。

それでは今日はこのへんで失礼します。

(shin)

また違った魅力に浸る、Noism1メンバー振付公演(初日)♪+α

2021年3月27日の新潟市は、曇天で、兆す春もやや控えめ、暖かさもいまひとつといった土曜日。その17時、りゅーとぴあのスタジオBでNoism1メンバー振付公演の初日を観てきました。

久し振りのメンバー振付公演です。しかも早々に完売となってしまった今回の公演。Noism1メンバーのうち7名が振り付けた作品が観られるということ以外は何もわからず、どんな感じかと胸を躍らせてりゅーとぴあを目指しました。

公演の詳細は下の画像をご覧下さい。

7つの演目はそれぞれ10分内外の作品で、演出振付と出演は以下の通りです。

1『The Eclipse』演出振付:チャーリー・リャン、出演:ジョフォア・ポプラヴスキー、チャーリー・リャン、鳥羽絢美西澤真耶

2『life, time for a life time』演出振付:カイ・トミオカ、出演:カイ・トミオカ、渡部梨乃

3『3,2,1』演出振付:スティーヴン・クィルダン、出演:樋浦瞳、池田穂乃香、カナール・ミラン・ハジメ (*タイトルについてですが、冒頭、「さん、に、いち」という音声が聞こえました。)

4『“うしろの正面”』演出振付:中尾洸太、出演:林田海里、杉田可林

5『Flight From The City』演出振付:林田海里、出演:鳥羽絢美、西澤真耶

6『Kol Nidrei』演出振付:三好綾音、出演:スティーヴン・クィルダン、三好綾音、杉野可林、坪田光、土屋景衣子

7『On the surface, there you lie.』演出振付:ジョフォア・ポプラヴスキー、出演:カイ・トミオカ、中尾洸太、中村友美

全て観終えてまず感じたことは、最近、多方面で露出が増し、とみに注目を集めている感のあるNoismにあって、その本体の活動とは別に、これらを創作することはなかなか大変だったのではないかということでした。いったいいつ、どのくらいの時間をかけて創作されたものなのでしょうか。そして、出演者はどうやって決めたのかってこともちょっと訊いてみたいですね。

それぞれの作品が、演出振付にあたったメンバーの普段とはまた違った一面を見せてくれて、とても興味深かったですし、様々なテイストを具現化するダンサーたちの熱演はまったく見飽きることがなく、あっという間に観終えてしまった、そんな感じでした。

また、手にしたプログラムには、それぞれ作品毎に演出振付を担当したメンバーの言葉が掲載されていましたので、幕間に少し明るくなると、「次はどんな作品だろう」「誰が踊るのだろう」と、客席のどこからもプログラムを手に取る際に生じる、紙が擦れる音が聞こえてくるのも印象的でした。

7人のメンバーによる7つの作品。バラエティ豊かな力作・力演揃いで、必ずそのなかにあなたの好きな作品が見つかるでしょう。因みに、私の好みはと言えば、…おっと、今は内緒です。

明日は追加発売された公演とあわせて2公演の日。メンバーたちはさぞかし大変でしょうが、観客としては、期待値をあげにあげても、決して裏切られることなどないと保証しましょう。どうぞお楽しみに♪

*各作品について私が抱いた印象は翌3/28付けの記事をご覧下さい。

ところで、時間前にりゅーとぴあに着いたので、珈琲でも飲もうと、6F展望ラウンジ(旬彩・柳葉亭)にあがったら、嬉しい驚きがありました。りゅーとぴあを訪れたなら是非見て欲しいものがひとつ増えたと言いましょう。それは6F壁面に設置された「RYUTOPIA INFO BOX」というコーナーです。皆さん、ご存知でしたか。

「りゅーとぴあに眠る宝物を集めました」の言葉通り、「音楽」「古典」「演劇」「舞踊」、併せて30を超す、様々興味深い品々が展示されています。『Fratres』のあの場面がフィーチャーされた「舞踊」コーナーには、勿論、Noism関連の「お宝」が6つ並び、目を惹きます。

あれとかこれとか、ハンディな解説入りで展示されていますから、先ずは必見ですね。で、何が並んでいるかと言いますと、…おっと、ご自分の目でご覧になるのが一番ですね。お楽しみに♪

という訳で、今回のブログはまだまだ書かない方が良いものが多く、なんとも思わせぶりなものとなってしまいました。スミマセンです。(汗)+(笑)

(shin)

「私がダンスを始めた頃」⑮ 中尾洸太

 クラシックバレエを始める前、私は両親がテニスをしていた影響もあり、とても小さいころから週末や休日などを二つ上の兄とともにテニスの練習に励む、そんな幼少期を送っていました。ある日、テニスをするのに体が柔らかいことは怪我の予防にもなるからという理由で、柔軟性の向上を目的に、母の知り合いが教師をしているバレエスタジオに通い始めることになりました。当初は趣味程度、あるいはテニスのためのバレエと考えていましたが、次第に兄がバレエに魅了されていく姿に惹かれ、私も徐々にバレエに魅力を感じるようになっていきました。

 プロになるまでに、私には大きな二つのターニングポイントがありました。最初のターニングポイントは兄の海外留学でした。それまでプロになることはたやすいものではないと思っていましたが、兄の海外留学により“プロのバレエダンサーになる”ということが私の中で現実味を帯びてきました。そして“私もプロになりたい”という意思がより強く芽ばえ、2016年よりドイツに留学することになりました。私のもう一つのターニングポイントはコンテンポラリー・モダンダンスとの出会いでした。留学先の学校で、幸運にも素晴らしい恩師に出会うことができ、その方から共有させていただいたたくさんのインスピレーションやアイデアは、いつも私にとってとても魅力的で、次第に私もコンテンポラリーダンサーになりたいと思うようになりました。

 私がプロになりたいと思ったのは自分の感じ方や考え方など自分にしかないものを舞台の上でアーティストとして表現していきたいと思ったからです。私は振付家になりたいと思っているので、そのためにもさまざまな表現をNoismでも学ぼうと思います。

(なかおこうた・2001年愛媛県生まれ)