胸熱の感動に涙腺は崩壊!『Der Wanderer-さすらい人』大千穐楽@世田谷パブリックシアター(サポーター 公演感想)

2023年2月26日(日)午後、前日に続いて三軒茶屋の世田谷パブリックシアターまで『Der Wanderer-さすらい人』の大千穐楽を観に行きました。

控え目に言っても「傑作」や「名作」と呼ばれるべき公演でしたから、この公演中心の2日間を過ごしたような次第です。何しろ70分間のこのクオリティ、いつでも観られると思ったら大間違いなレベルなので、至極当然ななりゆきに過ぎなかった訳ですが。

その舞台。この世田谷パブリックシアターで迎えた大千穐楽の舞台。シューベルトの歌曲、金森さんの演出振付、舞踊家の「顕身」、それらが渾然一体となった稀有な時間に浸り、もう胸熱の感動に涙腺は崩壊しまくりで、マスクの下はぐしょぐしょ状態に。そこだけは若干不快ながらも、類い稀なる爽やかな優しさを全身で受け止めて気持ちはいつになく昂揚するのみでした。

前半。他に関心が赴くことなく、求めて与えず、そればかりか徒に他を弄んだり、世界の中心に自分だけを見ようとするかのようにして、余りにも利己的に愛を求めようとする振る舞いの帰結として、孤独に直面します。その若さが横溢するさまは現メンバーの年格好とも重なるもので、幾分、戯画的な味付けもなされていて、微笑ましく映じたりするほどです。同時に、自らの思いを伝えんがために薔薇を手折ることも厭わない残酷な側面も同居させていますが、いかにもその点には無関心な様子から始まり、6曲目「ミューズの子」の中尾さんに至っては薔薇は投げ捨てられさえするほどです。

その残酷さですが、まず、7曲目「至福」の後半に至り、自己嫌悪とともに樋浦さんによって見出されると、続く8曲目「狩人」で愛憎入り乱れる荒々しさの頂点を経過したのちの杉野さんによってはっきりと自覚されることになります。

そうして導入されたある種の「転調」は、9曲目「月の夕暮れ」の三好さんへと引き継がれ、「シューベルト」山田勇気さんの傍ら、彼女は4本の薔薇を植えることになります。

10曲目「ナイチンゲールに寄せて」でひとり自らの愛情を大事に抱く井本さんを経て、山田さんが傍らの4本の薔薇を見詰めていると、山田さんの「分身」のような4人の「シューベルツ」が導き入れられます。11曲目「セレナーデ」は薔薇の赤と衣裳の黒のコントラストがこのうえなく美しいパートであり、4本と4人、それぞれの「生命」が咲き誇るかのようです。

後半。12曲目「彼女の肖像」を踊る井関さんが運び入れるのは何やら不穏な空気であり、13曲目「鴉」の山田さんを含めて、「死」の気配が兆し始めます。そこからはもう怒濤の展開で、その孤独の究極の形態が美しく踊られて、可視化或いは形象化されていきます。踊られるのはもう若さとは真逆に位置するものであり、まったく別物の空気感を醸し出してくる身体、その「顕身」振りには驚きを禁じ得ません。彼ら(の多く)は若かったのではないのか。

14曲目「糸を紡ぐグレートヒェン」の庄島さくらさん・すみれさんの鏡とドッペルゲンガーぶりにしろ、15曲目「魔王」の糸川さん・坪田さん・樋浦さんを巡る運命が行き着く先にしろ、はたまた、16曲目「死と乙女」の井本さん・糸川さんの切ない情緒であれ、17曲目「月に寄せて」の中尾さん・樋浦さんから18曲目「トゥーレの王」の三好さん・杉野さんに続く胸ふたがれるような満たされなさであれ、金森さんが繰り出す見せ場の連打であり、舞踊家がそれに全身で応えていきます。その際立つ悲劇的な美しさには恍惚となるほかありません。

それを締めるのがやはりNoism0のふたり。山田さんの19曲目「さすらい人の夜の歌」から井関さん(と山田さん)の20曲目「影法師」に至る風格は絶品です。息絶えんとする山田さん、そのとき、目を覆う井関さん。死は直視し難いものであることに間違いはありません。しかし…。

終曲「夜と夢」、11名の舞踊家がそれぞれ5本の薔薇を胸に舞台上に回帰してきます。それぞれ中空に視線をやり、何かに目を止めたのち、横一列をつくると、頭を垂れて、無言の「有難う」とでも言うかのように。そして揃って後退りしながら、1本ずつ1本ずつ、胸に抱いていた赤い赤い薔薇を舞台に立てていきます。それはそれぞれが生きてきた舞台としての11の人生を、最後の最後に肯定しようとする振る舞いであり、そのことに観る者も慰撫され、感極まるのだと断言したいと思います。

暗転を経て、再び照らされた舞台は無人となっていて、赤い薔薇で形作られた格子状の矩形のみが残されています。11人×5本で、都合55本の薔薇。その色彩は、死の象徴たる黒い矩形を遥かに凌駕するインパクトをもって私たちの目に飛び込んでくるでしょう。

暗転のところから始まった、客席からの鳴りやまぬ拍手は、一見、舞台上にそれを捧げる対象を欠いてしまっているように見えるかもしれませんが、それこそラストに金森さんが舞踊家たちの「顕身」を通して示したかったどこまでも人生を肯定しようとする姿勢が金森さんをして、そこに身を置いた全員に共有される「場」そのものに対して拍手が注がれることを選択させたものと見ても強ち間違いとは言えないのだろう。赤い薔薇が描く生命力を感じさせる矩形からはそんなふうに感じられてならないのです、私には。

圧倒的な余韻を残した『Der Wanderer-さすらい人』。絶対に再演して欲しい作品のリストに挙げられる「傑作」、「名作」であることに異を唱える者はいない筈です。皆さんはどうご覧になられましたか。コメント欄などにお寄せ頂けましたら幸いです。

そして、この出演を最後に退団される井本さんに対して、これまでたくさんの感動を頂いたお礼をここに書き記したいと思います。どうも有難うございました。今作においても本当に素敵でした。また踊る井本さんを観ることが出来ますことを願っています。

この日のブログ、最後を締め括る写真はかつてのNoismメンバーが多数集結した大千穐楽終演後に撮らせて貰った画像です。ちょっとピントが甘いのですが、慌てて撮ったためです。ご容赦ください。(汗)

(shin)

世田谷『Der Wanderer-さすらい人』、穿たれた開口が深淵となり、直截に生と隣り合う舞台(東京公演中日)

2023年2月25日(土)、前日のfullmoonさんによる『Der Wanderer-さすらい人』東京公演初日レポを読み、どこがどう変わっているのだろうかと尽きせぬ興味を抱いて、新潟から新幹線に乗り、世田谷パブリックシアターを目指しました。

三軒茶屋駅すぐの劇場には迷うことなく着き、チケットを切って貰って、趣のあるロビーに進むと、正面に新潟からの遠征組がいて、手を振ってくれていました。そこにはfullmoonさんの姿もあり、笑みを浮かべています。前日の舞台については口にしませんし、こちらも訊きません。しかし、その笑みは「楽しみにしていてね」と雄弁でした。

その後、更に新潟や東京の友人も着き、さして広さはないロビーが大勢の人で埋まってきます。その雰囲気は、入場整理番号順に並んだ新潟公演とは明らかに異なるものでした。客席への入場案内を待ちながら、公演についての話題は敢えて避けつつNoismサポーターズ仲間で四方山話をしていたところ、柱の背後から、「こんにちは」とひとりの若い女性が私たちに声をかけてきてくれました。女性はすぐ続けて「西澤です」と名乗ってくださいましたが、声に振り向いた私たちにはそれは不要でした。元Noism1の西澤真耶さんの笑顔!嬉しいサプライズです。少しお話しができましたし、私など、一緒に写真も撮って貰いましたから、嬉し過ぎました。

そうこうしていると、遂に入場案内があり、ロビーのみんなも階段を上がり、客席へと移動していきます。その踊り場には金森さんが(お父様と話しながら)立っていましたから、近づいて行って挨拶する人もいます。その後、入口付近に場所を移した金森さんに、今度は私たちも近付いて行き、揃って手を振ると、金森さんも笑顔で手を振り返してくれましたので、満たされた思いで各々客席に向かうことができました。

客席に足を踏み入れるとすぐ、舞台上に新潟公演のときとの違いをまずひとつ認めました。「ということは…」、それは導入部分の演出が異なるということを意味します。ここでも開演を告げるベルはなく、客電もそのままに世田谷『Der Wanderer-さすらい人』が滑り出します、いかにもゆっくりと。あの効果音が聞こえてくるのはそれからのことです。で、ややあって、漸く舞台上のもうひとつの違いをはっきり認識しました。黒い矩形。「やはりそうだったのか!」この日の私は2階席の最前列を選んでいましたから、舞台との距離から、しかと視認するには若干時間を要したような按配でした。

そこからは、少し見下ろす具合にして、舞台全体の「画」の推移を楽しみました。照明はよりエモーショナルに、豊かさを増して、一段と劇的になって、作品を推し進めていきます。

「メメント・モリ」(死を忘れるな)。穿たれた開口は象徴(シンボル)であることを超えて、より直截に生と隣り合う深淵として可視化され、迫り出してきています。愛をめぐる孤独。満たされぬ思い。それ故のさすらいと、紛れもなくその舞台であるところの人生。そして…。シューベルトのクリエイティヴィティと金森さんのそれとが拮抗することで立ち現れてくる70分間の深みに心は揺さぶられ続けるほかありません。

ラストシーン。その情感。「そのままお客さんを帰す訳にはいかない」(金森さん)とは語られているものの、それは、近いところでは『Near Far Here』のラストなどとも呼び交わし、金森さんのクリエイティヴィティの根幹にあるものが表出されているもので間違いありません。今回もまさに極上の余韻…。

終演。ロビーに『闘う舞踊団』の夕書房・高松さんの姿を見つけたので、fullmoonさんの傍らで一言だけご挨拶をさせて頂くと、「ああ、新潟の…」と思い出して頂けて、これも良かったなと思いながら、時間のこともあり、急ぎ、ホテルに向かいました。(fullmoonさん、すみませんでした。)

少し個人的な事柄も含む書き方になるのですが、ご容赦ください。つい先日、還暦を迎えて、「ここまで色々あったなぁ」とか思ったりする気持ちと今回の『Der Wanderer-さすらい人』とが交錯するようなところがあったりして、私の人生のこの時期に豊かな色合いを添えて貰えたことに、とても嬉しい気持ちに浸れています。そしてそんなふうな事って、様々大勢の人たちの身の上にも起こっているのだろうなと思うとそれもまた悪くないなとも。遠くにオレンジ色の東京タワー、美しい夜景を望むホテルのラウンジに家族3人。心地良く酔っていたのはジントニックなどアルコールの作用によるものだけではなかった筈です…。

そんな奇跡のような舞台『Der Wanderer-さすらい人』も遂に大千穐楽を迎えます。もう目にする機会はただ一度のみ。必見です。お見逃しなく!

(shin)

身体から零れてくる「沈黙の言語」に心揺さぶられ通しの約70分、『Der Wanderer-さすらい人』新潟千穐楽♪

遂にこの日が来た/来てしまった…。
2023年2月4日(土)は『Der Wanderer-さすらい人』新潟全11回公演の千穐楽の日。公演の初日から連日、深化と進化を重ねてきた舞台、その一区切りとなるのがこの日です。観たい、是非にでも!そういう思いと同時に、まだ先送りしておきたい、そんな思いも同居する胸のうちはなかなかに複雑なものがありました。この日の開演前には見知ったサポーターズ仲間の面々とも多数お会いしたのですが、その誰からも例外なく似たような思いを感じたものです。それもまた、語らず秘しておこうとするにも拘わらず、零れ落ちてしまう観客の側の「沈黙の言語」だったのでしょう。

そんなふうな思いを胸に、この日はまた最前列に腰掛けて、開演を待ちました。楽日のざわつく場内も、あの効果音とともに静寂に入り込みます。構成の美は私たちが愛して止まない「金森」印ですから、何も構えることなしに、すっかり身を委ねて、誘われるまま、それだけでもう充分な訳です。贅沢なこと、この上ありません。

21曲のシューベルト、それを踊る11人の舞踊家。表情や目と目線、指先や足先、静止の「間」も含めた一挙手一投足…。もう瞬きするさえ惜しいような、濃密で美しい、渾身にして圧巻のパフォーマンスが展開されていきました。

新潟楽日のこの日、11人が示した70分弱の「顕身」。観る者としては耳に届く歌曲を背景にもうひとつ、舞台上、踊る身体から豊かに零れてくる「沈黙の言語」を前に、見詰める両の目さえ、あたかももうふたつの耳と化したかのようにして、それを「聞き逃すまい」と見詰めて、受け止めることで、心を強く大きく揺さぶられるといった類い稀なる時間に浸り切りました。

その至福。うまく語れる者などいよう筈もありませんから、終演後のホワイエでは、感動で頬を紅潮させたサポーターズ仲間が集まってさえ、誰も多くを語ろうとしなかったことなどごくごく当然のことであったに過ぎません。

そのホワイエ。金森さんの書籍販売の列に(またしても)並んで、これまでの○冊に加えてもう一冊求めたのは、観た者が受け取る大きな感動、それをまだ知らぬ職場の同僚(一緒に同じ仕事に携わってきていて、幸い本好きでもある)への「遣い物」にしようという思いから。そして、もうひとつ実行に移したのは2Fへ降りたところでの所謂「出待ち」。まず、庄島姉妹、そして井本さんと少しお話ができ、「ホントに素敵でした♪」と感動の大きさを直接伝えつつ、少しお話しもできたのは嬉しいことでした。

そんなふうに待つこと、約40分。見上げたエレベーターのなかにいよいよ黒と白のダウンを着たおふたりの姿を認めます。降りて来られたのは金森さんと井関さん。ご挨拶をしてから、この日求めた『闘う舞踊団』にもサインをいただくことができました。金森さんには「えっ、まだあるの?」と笑われながら、井関さんがしっかりと本を支えてくれるなか、「日付も入れようか。今日は何日?」といただいたサイン。そんなやりとりもあるので、「遣い物」には以前の○冊のなかの一冊をあてて、これは自分の分とします。金森さん、井関さん、お疲れのところ、どうも有難うございました。

約3週間後の世田谷パブリックシアターでの公演にむけて、金森さんたちは2週間後に東京に入るのだそうです。また異なる舞台での上演に際して、その「場」に応じた深化を極めんとすることはもはや必定の金森さんとNoism。世田谷での公演をご覧になられる予定の皆さま、期待してあともう少しお待ちください。「新生」Noism Company Niigataの第一章『Der Wanderer-さすらい人』は紛れもない名作ですゆえ。

(shin)

豊かな情感に身を委ね、清らな感動に至る『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演9日目♪

2023年2月2日(木)、『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演9日目。この日は平日ということもあり、すぽっとエアポケットに嵌まりでもしたかのように、残席を残したままで公演当日を迎えておりました。雪や寒気の予報もあったりで、私自身も見送るつもりでいたのでしたが、観たい気持ちが強くなってきて、随分迷った挙げ句、やはり「観られるのに観ないのはもったいない」と、「Noism>雪+凍結」の揺るぎない不等式気分になり、半日休みをとって、13時半頃に当日券を求めました。(入場整理番号は59、60。)

そこから19時の開演までまだ時間があるので、一旦帰宅して出直したのですが、この日がU25リピート鑑賞の日だったことから、市内の高校ダンス部の生徒たちも多数足を運び、無事この日も「満席が予定されています」のアナウンスがなされるに至りました。めでたしめでたし♪

この日は上手(かみて)側の最後列で、fullmoonさんの隣に腰掛けて、5回目の鑑賞に臨みました。鑑賞を重ねてきたことで、細かなところに目を配る余裕も生まれ、作品全体の情緒を楽しみました。

金森さんが、霊感(インスピレーション)を掻き立てられたシューベルトの21の歌曲を選んで、各舞踊家にソロを振り付けた訳ですが、そのそれぞれのパートが見ものであるだけでなく、その構成の妙が光る作品となっていることに驚きます。集められた素材(楽曲)はもともとのコンテクスト(文脈)を離れてバラバラなものである筈ですし、振付もそれぞれ歌詞を逐一なぞるものではありません。しかし、金森さんの創作は、各曲に聴き取ったシューベルトの「魂」を拠り所にして、歌詞と舞踊、その2者が寄り添い、拮抗し、そして止揚(アウフヘーベン)されて、馥郁たる「第3の表現」を立ち上げるに至っているのだと思われます。それはまさにシューベルト歌曲が有する可能性、その中心で行われた極めて創造的な営為と言えるものでしょう。

豊かな情感が各場面を越えて、引き継がれ、木霊し合い、増幅されていきます。その果てに訪れるラストのシークエンスに、なにゆえあれほど感動するのでしょうか。その問いへの私自身の考えはありますが、この後も公演は続きますし、まだここでは記さずにおきます。皆さんも個々に考えるところがある筈ですし、後日、感想など色々話し合ったりしたいものです。(コメントも寄せていただけたら幸いです。)

さて今回、ここでは、作品『Der Wanderer―さすらい人』に使用された歌曲とソロ(或いはメイン)で踊る舞踊家を記して、これからご覧になられる方の鑑賞に供したいと思います。

1.さすらい人: 全員
2.蝶々: 糸川祐希さん
3.野ばら: 庄島すみれさん
4.憩いのない恋: 坪田光さん
5.愛の歌: 庄島さくらさん
6.ミューズの子: 中尾洸太さん
7.至福: 樋浦瞳さん
8.狩人: 杉野可林さん(太田菜月さん)
9.月の夕暮れ: 三好綾音さん
10.ナイチンゲールに寄せて: 井本星那さん
11.セレナーデ: 中尾洸太さん・坪田光さん・樋浦瞳さん・糸川祐希さん
12.彼女の肖像: 井関佐和子さん
13.鴉: 山田勇気さん
14.糸を紡ぐグレートヒェン: 庄島さくらさん・庄島すみれさん
15.魔王: 坪田光さん・樋浦瞳さん・糸川祐希さん
16.死と乙女: 井本星那さん・糸川祐希さん
17.月に寄せて: 中尾洸太さん・樋浦瞳さん
18.トゥーレの王: 三好綾音さん・杉野可林さん(太田菜月さん)
19.さすらい人の夜の歌: 山田勇気さん
20.影法師: 井関佐和子さん
21.夜と夢: 全員
*9曲目と10曲目はパンフレット記載の曲順から変更になっています。

終演後の新潟市ですが、幸い降雪はなく、凍結もさして酷くなかったため、清らな感動のままに、ホッと胸を撫で下ろしながら家路につきました。

いよいよ、新潟公演も残すところ2公演(両日とも完売)のみ。その後、2月24日(金)から26日(日)は東京・世田谷パブリックシアターでの3公演が待っています。初見の方もリピートされる方もどうぞお楽しみに♪

【追記】コメント欄には、fullmoonさんによる翌2/3(金)新潟10日目公演及び同日終演後に開催されたアフタートーク(4回目)についての報告もあります。よろしければご覧ください。

(shin)

「今日よかったよね。毎日いいんだけど」(金森さん)、月曜午後3時開演の『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演8日目(アフタートークあり)

2023年1月30日は月曜日。この日、8日目を迎えた『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演の開演時間は午後3時。冷え込みや降雪量はさほどではありませんでしたが、風があるため、体感温度はかなり低く感じられる、そんな一日でした。

アフタートークの冒頭で井関さんが出待ちに青空を見て、「ホントにキレイ。青空を見ながら聴くシューベルトはホントに哀しくなっちゃって…」と仰られましたが、時折、そうした青空がインサートされ、千変万化、移ろいながらも、最終的にはデフォルトの灰色に戻っていく、そんな天候だったように思います。

さて、「完売」で迎えたこの日の舞台です。私は最前列に腰掛けて、上方から陰影に富む音楽が降ってくるなか、11人の舞踊家を見上げていたのですが、これも金森さんがアフタートークで「今日よかったよね。毎日いいんだけど」と語った芳醇な非日常に身を浸して、心は揺さぶられ、目頭が熱くなるような圧倒的な1時間あまりを過ごしました。

今回は特に各舞踊家それぞれに用意されたソロ・パートが注目される作品なのですが、それ以外にも「目のご馳走」はふんだんに用意されています。「てんこ盛り」と言ってもいいくらいに。で、個人的には、庄島姉妹のデュオ・パート、そしてメンズ4人(中尾さん・坪田さん・樋浦さん・糸川さん)で踊るパートに毎回クラクラきちゃってます。でも、いざ、こうやって幾つか取り上げてみると、あれとかこれとか、他の場面も外せない気持ちになり、やっぱり最終的には「終始、ガン見しなくてはならない」という結論に舞い戻る他なくなるのですけれど。それでも、好きだなぁ、あのふたつ。まあ、そんなふうに、気持ちは行ったり来たりなんですが、観た方ならわかってくれますよね、この感じ。困ったことです、まったく。(笑)

大きな拍手が送られて、終演。その後、3回目となるアフタートークに移っていきましたが、ホントに大勢の方がその場に残って、金森さんと井関さんのお話を楽しみました。質問も多数出たこの日のやりとりをかいつまんでご紹介します。

Q:お薦めの席はあるか。
-A(金森さん):かぶりつきの前の席、舞台を見下ろす後方の席、左右もパースペクティヴが異なるし、どの席も全然違う。全部お薦め。

Q:一部、ダブルキャストなのか。
(*この日は太田菜月さん(Noism2)の出演回でした。)
-A(井関さん):みんな若いため、浮き沈みもある。キャストになるのが当たり前の世界ではない。欧州では、ある日突然変えられたりすることもあるが、それで終わりじゃない。そういうことを経て舞踊家は変わっていく。
-A(金森さん):みんな頑張っているので、決断も容易なことじゃない。欧州なら公演回数も多いが、Noismの場合、キャスティングが外れると次は半年後になってしまう。踊る機会があればあるほど成長するものではあるし。しかし、今回は、みんなよくなった。これが彼らですから。

Q:最後のシーンでは観ていて涙が流れる。
-A(金森さん):『夜と夢』、最初からエンディングに決めていた。凄く残酷な話になったので、お客さんをこれで帰す訳にはいかない、それでも何か届けたいなと。

Q:昨今の学校教育では感情を封じ込められがち。
-A(金森さん):そうなの?今の学校、わからないんだよね。
-A(井関さん):今の時代、以前より頭で考える方が多いように思うが、先に分析してしまうのはもったいない。
-A(金森さん):感じないということはない。劇場に来て、全身全霊を傾ける姿を見て欲しい。不幸や災いや人間の業など疑似体験できる場所が劇場。そこでは虚構を通じて受容することが許されている。
-A(井関さん):虚構を虚構としてではなく、信じていないと「嘘」として捉えられてしまう。
-A(金森さん):「リアリティ」とは受け止め方であり、我々一人ひとりのなかに「リアル」がある。その場としての劇場があり、それを許容するものが作品である。 

Q:選曲と振付はどのように行ったのか。
-A(金森さん):先ずは楽曲を選んで、「合う」ものにしていったのだが、「似合う」というだけの問題ではなく、肉迫していくことを要したり、作品全体のリズムということもあった。

Q:愛と死がテーマとされているが、歌詞の内容から選曲したのか。
-A(金森さん):(700曲あまり)全部聴くんですよ。(1)先ず、全集を録音したディースカウから聴いていって、(2)楽曲からインスピレーションが湧くかどうか、(3)歌手と録音が合うかどうか、そうやって選んでいった。

Q:メンバーの解釈を深めるために面談など行うのか。
-A(金森さん):面談はない。昨日の終演後、ここ(スタジオB)に集まって、感じたことを伝えた。どうしても守りに入りたくなるもの。でも、より深く、より遠くへと「挑んだ」ことが大切。リスクはあるんだけど。
-A(井関さん):外からの目は重要。

Q:喜怒哀楽の表現について。
-A(金森さん):新しい舞踊を創る際の身体表現として、最高のイメージは手話。但し、それは一挙手一投足、全てが何かを物語るものという意味合いでの。

そしてこの日のアフタートーク、最後の質問は、何と舞台の井関さんから(!)客席に向かって発せられたものでした。
Q(井関さん):月曜日の午後3時からの公演ってどうですか。夜7時ではなく。
-A①:冬の遅い時間だと雪が気になってキツイ。夏なら夜7時開演でも構わないが。
-A②:今日は名古屋から来た。日帰りが可能。一日休みをとれば済む。
…など、月曜日は休み、或いはこの日は休みをとった、はたまた、年金生活者なので、と、この日に足を運ぶことが出来た人たちが座る客席からは好意的な反応が返されていました。

以上、アフタートークの報告でした。

その後、りゅーとぴあの外に出てみると、待ち受けていたのは物凄いと言えるほどの風雪。「ながれ旅」ではなしに、「冬の旅」気分で車を走らせて帰宅しました。

新潟公演も残すところ、あと3公演。(そのうち、木曜日の公演はまだ席に余裕があるとのことです。)日を追うにつれ、芳醇さを増してきています。これからご覧になる方は期待値MAXでスタジオBまでお運びください。おっと、重ねてご覧になる向きも同様に、期待値増し増しでどうぞ。

(shin)

まさに陶酔境♪シューベルト×Noism『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演、折り返しの6日目

2023年1月28日(土)15時からの『Der Wanderer-さすらい人』公演は、新潟での全11公演のちょうど折り返し点。評判が評判を呼んで、この日もチケットはソールドアウト。「10年に一度」クラスの寒波が残した置き土産の雪があってさえ、開演前のりゅーとぴあ・スタジオB界隈には期待感が熱気となって感じられるようでした。

この日は催し物も重なっていて、駐車場の混雑も予想されていましたが、そこに拍車をかけたのが、その「置き土産」。道幅だけでなく、駐車スペースさえ狭められていたようで、かなり早い時間帯から駐車場に入ろうとする車列は伸びることはあっても、一向に前に進んでいかない状態になっていました。かく言う私も13時半には駐車場の入り口付近まで来ていたのですが、そこから入庫が見通せず、早々に諦めてUターンし、他の駐車場に向かって、ことなきを得たくらいです。(汗)
(*明日1/29(日)も駐車場は混雑が予想されています。お車の方はお早めに!)

全席「ソールドアウト」のため、入場前には「満席の予定です」とアナウンスされたこの日の客席でしたが、見たところ、ざっと10数席の空席を残したまま、開演時間の15時を迎えてしまいました。その後、途中入場される方もおられましたが、恐らく駐車場が原因ではなかったかと。だとしたら、その無念さは如何ばかりか、察するに余りあるものがありました。

それくらい、この日の舞踊家たちのパフォーマンスには観る者を揺さぶるものがありました。シューベルトの歌曲の深い味わいにNoism Company Niigataの舞踊家たちの身体が掛け合わされることで現出したのはまさに陶酔境。若き日の愛と孤独は前半。避けられない孤独、死の訪れの後半。そしてラスト、…。そう、どこをとっても、見どころ満載の豊穣さ。数日前にも観ていたのですが、この日の舞踊家たちはあたかも熟成されて旨みを増した酒のよう。さらりとしていてコクがある吟醸酒のような口当たり。もうホントに酔いしれました。

当初、この日のチケットは買っていなかったのですが、後に金森さんのサイン会が組まれたことを知り、「どうせサインを貰いに来るのだろうし」と買い足したのでした。ですから、入場整理番号もホントに終わりの方で、「ならば」と最後列を狙って腰掛けて観たのですが、さすがはスタジオ公演、それでも近い、近い。更に照明の美しさを目一杯堪能できました。どこの席も全て「良席」です。

そして個人的には、この日は3回目の鑑賞だったのですが、初めて太田菜月さん(Noism2)の出演回にあたりました。『狩人』のソロも、『トゥーレの王』での三好さんとのデュオも、杉野可林さんとはまったく異なるテイストで、両方を観る機会に恵まれた贅沢を噛み締めて観ました。

終演後のホワイエでは金森さんの書籍販売とサイン会(2回目)が待っていました。嬉しくない筈がありません。

ワタクシ、色々な事情があり、公演初日からこの日まで、併せて○冊も購入させて貰い、その全てにサインを頂くことができました。更にお願いしたら、次のような写真まで撮らせて貰いました。もう完全に舞い上がっちゃってましたよね。(金森さん、どうも有難うございました。m(_ _)m)

更に、その後、2Fクローク前のスペースまで移動して、fullmoonさんとお話ししていると、えっ!金森さんと井関さんが通りかかるじゃないですかっ!さすがはNoismの「ホーム」りゅーとぴあ!ご挨拶はしたものの、そこからは、またしても舞い上がってしまって何を喋ったんだか思い出せない始末。ただ、ひとつ覚えているのは、おふたりから「気をつけて帰ってくださいね」など言われちゃったこと。もう諸々贅沢な至福の土曜日だった訳です。

新潟公演はこの先、平日の2/2(木)と2/3(金)のみ若干チケットが買えるようですから、まだ観ていない方も、もっと観たい方も、ご予定をやりくりのうえ、是非この陶酔に心ゆくまで浸って頂きたいと思います。

【追記】この記事へのコメント欄に、fullmoonさんによる翌 1/29(日)新潟7日目公演についての報告もありますので、よろしければご覧ください。

(shin)

「纏うNoism」#03:中尾洸太さん

メール取材日:2023/1/20(Fri.)

『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演が人気沸騰中の現在ですが、その忙しい日程を縫って、Noism1中尾洸太さんが「纏うNoism」の第3回の取材に応じてくださいました。纏う中尾さん、気になりますよね。

「服を着る喜びは芸術です」(ジョン・ガリアーノ)

それでは中尾さんの回、お楽しみください。

纏う1: 稽古着の中尾さん

狭いんですけど…どこ??
ん、消失点に向けて基本的に左右対称画像?
でも、狭いんですって…

 「ロミジュリ(複)」Tシャツ着用で、狭小な舞台裏みたいな場所でも輝きを放つ中尾さん、いっぺんで周囲の雰囲気を変えてしまうこの登場画像。凄っ!
 そこで、本題なのですけれど、今日の稽古着のポイントを教えてください。

 中尾さん「このパンツはカイ(・トミオカさん)から貰ったもので、動きやすくてよく着ています。裸足で踊る時には大抵半ズボンを、靴下で踊る時は長ズボンを履きます。靴下のおすすめはファミマの靴下です。厚みがしっかりあり、暖かいのとしっかり足にフィットする感じがとても好きです」

 *そのパンツはどんないきさつでカイさんから「貰った」のですか。

 中尾さん「カイが、日本を離れる前に荷物整理をしていて、『これ、こうたの方が似合いそうだからあげる』と言われて貰いました」

 *NoismのDNAと共に引き継がれたパンツなんですね、大袈裟に言うと。(笑)
で、もうひとつ。稽古着ではないんですけれど、ポーズをきめてくれたその狭い場所ってどこなんですか。

 中尾さん「スタジオBの裏通路です」

 *なんとぉ!「裏」感がハンパなくビシバシ伝わってきますぅ。で、で、で、右側に立て掛けられているのって、アレですよね。今やってるアレのアレ。

 中尾さん「『Der Wanderer―さすらい人』の舞台美術です」

 *ですよね、ですよね。一目でわかっちゃいましたよ。でも、ちょっとお話が着る物から逸れまくっちゃいましたので、戻しますね。

纏う2: 中尾さん思い出の舞台衣裳

 *これまでの舞踊人生で大事にしている衣裳と舞台の思い出を教えてください。

小さい画像ですが…

 中尾さん「思い出に残っているのは『ドン・キホーテ』のバジルをコンクールで踊った時の衣裳です。
 この時は確か14歳くらいでコンクールとかは全く出ていなかったのですが、東京で留学のスカラシップがあるコンクールがあると聞いて、一人で東京に行き、そこでドイツの留学を決めました。予選、決戦とあったのですが、予選でスタッフさんがキッカケを間違えてしまって、もう一度やり直しになったのをよく覚えています」(笑)

 クラシックバレエでよく見かける格好いい跳躍の画像♪小さいものですが、オーラがあって、存在感は大きいってやつですね。格好よすぎて、大きい画像だったりしたら、もう悶絶ものかもしれませんね、コレ。14歳にして、それくらい格好いいなと。

 *で、それはそうと、これは訊かなきゃと思ったのは、「やり直し」ってなっちゃったときの心境なのですが、どんなでしたか。そのあたり。

 中尾さん「特に動揺はした覚えはなく、『あー、間違えている』と思って、袖幕のスタッフさんを見ながら、もう一回やるのかな、どうするのかなと思っていました」

 *何と冷静な!コンクールですよ。「動揺もなし」とはやはり大物だぁ!と。

纏う3: 中尾さんにとって印象深いNoismの衣裳

 *Noismの公演で最も印象に残っている衣裳とその舞台の思い出を教えてください。

 中尾さん「Noismに入ってから印象に残っているのは『Fratres』の衣裳です。なぜかという明確な理由は特にありませんが、とても魅力的な不思議なパワーがある衣裳に感じます」

 *Noism Web Site へのリンクを貼ります。
 2021年のストラヴィンスキー没後50年 Noism0+Noism1+Noism2『春の祭典』公演における『Fratres III』画像です。ご覧ください。

 *この衣裳、ストイックな集団の、その集合的な祈りの力が漲っているように感じますよね、観ている側としても。ああ、また観たくなってしまいました、『Fratres』のシリーズ♪
 

纏う4: 普段着の中尾さん

おっ、寒冷地仕様の普段着に素敵な笑顔、いただきました♪

 *この日のポイントと普段着のこだわりを教えてください。

 中尾さん「私服ですが、今は冬なのでとにかく暖かく、下着の上には腹巻きをして、ズボンは2枚、靴下も2枚履くこともあるくらい、なるべく寒くないように心がけてます。ただ勘違いしてほしくないのが、僕は四季のなかで冬が1番好きだということです」

 *ホントに気を使っているのですね。そこまでとは想像してませんでした。舞踊家たるもの寒冷地仕様の完全防備なんですね。でも、とてもいい感じ。全体が黒のところ、袖口と裾の白と赤も良い味出してますしね。膨らんだ両のポケットには手袋でも入ってるんですかね。あとはこれに帽子が加われば、もう「私は最強」!ってやつですね。
 で、「冬が1番好き」ということに関してですが、もう少しお訊きします。
 まず、冬のどんなところが好きなのですか。

 中尾さん「冬の朝のキリッとした空気がすごく好きです。あと、雪の上を歩いているときの音とか踏み心地が好きです」

 *おっと、なんと詩的なお答え!
 もうひとつ訊いちゃいますね。(あ)故郷・愛媛の冬、(い)留学されたドイツの冬、(う)現在の新潟の冬、それぞれ、中尾さんにはどんなふうに映っていますか。教えてください。

 中尾さん「(あ)愛媛の冬ですが、僕が住んでいたところでは、雪が降ることはなく、気温もマイナスにいくことはなかったので、今思うと暖かかったのだなと思います。愛媛にいた頃、冬はあまり好きではありませんでした。
(い)ドイツの冬は新潟と似ていて、キリッとした朝の空気があって、朝の通学途中にパン屋に寄って、クロワッサンとコーヒーを買って、ゆっくり歩いて行くのが日課でした。
(う)新潟の冬でドイツと違うところは、朝はとても似ているのですが、夜風の強さは新潟でしか体験してないですね。橋を渡るのも一苦労な感じは、自然の強さをより感じます」

 *留学されていたドイツの頃の冬の描写がとてもお洒落で、画が浮かんできますね。勿論、その中心には格好いい中尾さんがいて。
 新潟の冬の夜風に逆らって萬代橋とか昭和大橋とか渡るのはもう大変なんてもんじゃないですよね、ハイ。わかります、わかります。(汗)私は到底、好きにはなれませんけど。でも、さすらい人の冬の旅ならば、画像の中尾さんのようないでたちはマストですよね、うん。 

中尾さんからもサポーターズの皆さまにメッセージを頂いております。

■サポーターズの皆さまへのメッセージ

「いつも温かいご声援ありがとうございます。
Noismに入って3年目、年を増すごとにサポーターズの皆さんの存在の有り難さを感じます。月並みな言葉ではございますが、これからも温かいサポートをよろしくお願いします」

…「纏うNoism」第3回、中尾さんの回はここまでとなります。キレキレな身のこなしの中尾さん、着こなしのほか、笑顔も素敵で、そちらも一緒にお届けできたものと思います。中尾さん、『Der Wanderer―さすらい人』公演真っ只中のお忙しいところ、色々とどうも有難うございました。

 なお、当ブログでご紹介してきた中尾さんの他の記事も併せてご覧ください。

 「私がダンスを始めた頃」⑮(中尾洸太さん)
 「ランチのNoism」#14(中尾洸太さん)

それでは今回はこのへんで。また次回をどうぞお楽しみに♪

(shin)

今回、金森さんが目指す「詩と音楽に三つ巴で拮抗するもの」を目撃する観客の喜び♪(『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演3日目・アフタートークあり)

2023年1月22日(日)、一時、鈍色の空から雪片が舞い落ちる時間帯もありましたが、案じられたほどの降雪にはならず、『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演3日目は、この日もチケット完売で、無事、その開演時間(15:00)を迎えることができました。

一時の荒れ模様も…
数分後には…

この日は初日と同じキャストで、シューベルトの歌曲21曲によって構成された「70分(正味60分強でしょうか)」の演目が紡ぎ上げられていきました。この日も私は演者の呼吸音すらダイレクトに届く最前列に腰を下ろし、11人による「さすらい」をおのが全身で受け止めるように見詰めました。

演者がバトンを受け渡すようにして入れ替わりながら、今回の見どころとされるそれぞれのソロが踊られていくのですが、勿論、複数人で踊る場面も拘りの演出振付が施されており、刮目を要することは言うまでもありません。つまり、70分間、様々に注視して臨むべき演目と言えるでしょう。

新潟全11回公演のうち、「第1クール」最終日のこの日は、11人の舞踊家たちの伸びやかさが増していたように見ました。世界初演の舞台は順調な滑り出しを示したと感じます。

終演後、客席はほぼ全員が残ったままに、「丸3年振り」(金森さん)となるアフタートークが開催されました。そのことをまず喜びたいと思います。私たちに向き合って腰掛けた金森さんと井関さんが柔和な表情を浮かべ、ユーモアを交えながら、質問に答えてくださいましたし、客席も「この日を待ってました」とばかり、例外なく、20分間の「アディショナルタイム」を満喫していました。
では、井関さんの「Noism国際活動部門芸術監督の井関佐和子です。こちらはいつもの金森穣さんです」で始まった、その折のやりとりからかいつまんでご紹介いたします。

Q:全体のテーマは?
-A(金森さん):愛です。何故、人はさすらうのか。他者に対する愛、そしてそれを超えて、自分が輝ける場所を求めてさすらう。そして愛に付随するものとしての孤独と死。シューベルトの700曲を超える歌曲を聴いて、音楽家の魂のなかに聞き取った。

Q:パンフレットの表紙のメンバーの表情はどういう表情なのか?
-A(井関さん):まずはメンバー一人ひとりの表情がわかるもの。「色々な顔であって欲しい」と穣さん。そこからデザイナーさんが選んだ。
-A(金森さん):証明写真や遺影みたいにはなりたくなかった。(笑)多様性があったらいいね、と。
-A(井関さん):何考えているのかわからないのがいいね、と。(笑)

Q:歌曲のソリスト(歌手)についてはどう選んだのか?
-A(金森さん):メンバー一人ひとりを思い浮かべながら、色々な録音から選んだ。そして、実際に踊るのを見て、合わないとなったら、また探した。
-A(井関さん):同じ曲なのに、あんなに違う作品に聞こえるのが面白かった。自分も一度、男性の声でやってみたら、全然違うな、となった。(笑)

Q:赤いバラが頻繁に使われているが、思い入れがあってのことか?
-A(金森さん):他の色は考えなかった。意外と色々考えてそうに見えますよね。(笑)イメージしてみたら、そこにあったバラが赤かった。

Q:手応え、印象、課題について。
-A(金森さん):作品は出来上がると見守るしかない。彼らが一期一会で色々なものを見出して欲しい。生き切って欲しい。それを届けて欲しい。
-A(井関さん):「ひとりで立つ」のは足が一歩も出ないくらい今でも怖い。普通ではない危機感を感じて、「怖いと思って欲しい」と言った。慣れにならないように、怖い思いをしていって欲しい。

Q:21曲を選曲した理由は?
-A(金森さん):振付家としてインスピレーションが湧くもの、そして、彼らが踊っている姿が見えたものを選んだ。加えて、「イブニング公演」全体を通してのリズムも考慮しながら、パズルのようにして嵌めていった。そして、今のNoism0とNoism1にしか出来ないものを、と考えた。

Q:「ソロ」の構成に込めた思いは?
-A(金森さん):これからのNoismに何が大切か考えたとき、一人ひとりがお客様を呼べるようになること、一人で立てるような個々人がここ新潟で活動しているのが夢。

Q:歌曲の内容との関連は?
-A(金森さん):関係性はあるが、一義的なものではない。詩と音楽と三つ巴、四つ巴になり、拮抗するものを目指している。
-A(井関さん):今回、メンバーに歌詞の日本語訳を渡したのは珍しいことだった。
-A(金森さん・井関さん):「大人の事情」から、その日本語訳を示すことは出来ない。色々探してみて欲しい。

Q:演出振付されたものを踊るとき、個々のダンサーが担う責任範囲として、「表現」はどう生まれてくるのか?
-A(井関さん):演出の世界観・時間の流れ・振付の意図を理解して、作家を超えたものを返すのが至上命題。与えられた言葉や示された動きではなく、作家の大脳に働きかけること。頭の奥に何が潜んでいるのか、それを探り、奥へと入り込んでいく作業が楽しい。
-A(金森さん):方程式は何もない。作家と実演家がそうした相手を見つけること、それをベジャールさんは「愛」と呼んだ。

Q:木工美術の近藤正樹さんとの出会いは?
-A(金森さん):8年前、『カルメン』のとき、友人夫妻を介して知り合った。美術をお願いすると、いつも面白がってくれる。
-A(井関さん):いつも想像を超えてきてくれる。

…と、そんなところでしたでしょうか。


最後に、この度、夕書房さんから刊行された金森さんの著作『闘う舞踊団』について触れられると、「何を目指しているか」が分かって貰える筈、と金森さん。私は(一度目)読了しましたが、まったくその通りと思いました。必読の好著ですので、是非お買い求めください。
(これは個人的な事柄ではありますが、私、光栄にも、終演後のホワイエにて、本日の公演に足を運ばれていた「ひとり出版」夕書房・高松夕佳さんその人にご挨拶したうえ、この本の素晴らしさと受け取った自身の感激について直接お伝えすることが出来ました。とても嬉しいひとときでした。)

更にもうひとつ。今週の水曜日と木曜日にはまだまだ席に余裕があるため、是非お越しください、と金森さん&井関さん。新生Noism Company Niigataの船出、或いは意欲的な「さすらい」を是非お見逃しなく♪

【追記】この記事へのコメント欄に、fullmoonさんによる 1/25(水)公演および 1/26(木)公演+2回目のアフタートークについての報告もありますので、よろしければご覧ください。

(shin)




目を釘付けにされ、心は掻きむしられ…『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演初日

2023年1月20日(金)、この日から強い寒気が流れ込むとされ、大荒れ予報が出ていた新潟。雪は落ちてこなかったものの、夕方からは風雨が強まり、シューベルト『魔王』よろしく、嵐のなか疾走する「ト短調」気分が濃厚に漂うなか、車でりゅーとぴあを目指しました。

新生Noism Company Niigataによる『Der Wanderer-さすらい人』。世界初演となる新潟公演初日のチケットは早くから「完売」。新しい年の「Noism初め」を待ち焦がれていた人が如何に多かったか分かろうというものです。

入場整理番号順にスタジオBに進むと、この日、私は最前列の席を選び、腰を下ろしたのですが、緞帳がなく、現しのままの四角く区切られたアクティングエリア内には既にむこう向きに立つ井関さんの不動の姿がありました。全ての客席が埋まったのは19時を数分まわった頃。やがて場内が暗くなり、同時に効果音が高まると、それは始まりました。

そこからはもう、深遠なシューベルトの歌曲に浸り、これまでのNoismには見当たらなかった類いのソロの舞踊の連打に目を釘付けにされるだけでした。愛が踊られる前半も、その甘美さというより、心を、胸を掻きむしられるような満たされざる気持ちの切なさが横溢しています。そして後半は死が最前面に押し出され、不穏な禍々しさが際立ちます。そして待ち受けるラストのあの味わい。70分の新作をあっという間に見終えました。詳しくは書けませんが、もう必見です。

終演後のホワイエでは金森さんの『闘う舞踊団』(夕書房)をはじめとする書籍販売のコーナーが設けられていて、多くの方が列を作って買い求めていました。私も2冊買いました。明日は一日、読書三昧を決め込むつもりで、そんな土曜日も楽しみでなりません。勿論、サイン会にはまた並びます。

帰宅してからは、金森さん+東京バレエ団の『かぐや姫』第2幕ほか(上野の森バレエホリデイ2023)のチケットもゲットして、もう色々に嬉しいことづくめの金曜日でした。

新体制に移行したNoism Company Niigataによる第一作目『Der Wanderer-さすらい人』70分、それを見詰める者も、一人ひとり「人生」をさすらうことでしょう。そしてそのさすらいの果てにどこに連れて行かれることになるのか、是非その目で受け止めてください。チケットは絶賛発売中。「完売」の回もありますので、お早めに。

【追記】この記事へのコメント欄に、fullmoonさんによる 1/21(土)新潟2日目公演についての報告もありますので、よろしければご覧ください。

(shin)

『Der Wanderer-さすらい人』視覚/聴覚障がい者及び活動支援会員対象公開リハーサルに参加してきました♪

この季節らしさからほど遠く、小雨に煙る新潟市、2023年1月15日(日)の昼下がり、りゅーとぴあスタジオBを会場に開催された『Der Wanderer-さすらい人』視覚/聴覚障がい者及び活動支援会員対象の公開リハーサルに参加してきました。

いつもの活動支援会員仲間や久し振りに会う方に挨拶し、言葉を交わしたりしながら、入場前の時間も楽しく過ごせただけでなく、視覚や聴覚に障がいをお持ちの方たちも期待感から一様に興奮気味の面持ちでおられる様子を目にし、Noism Company Niigataを渇望する者のひとりとして大きな喜びを感じながら、ホワイエにて入場の声かけを待ちました。

スタジオBでは、最前列から視覚障がいのある方、そして聴覚障がいのある方が腰掛けられ、一緒に約70分の全編を最初から最後まで通しで見せて貰いました。舞台装置もあり、照明もありということで、あとは客席が設えられるだけという、もう本番直前そのものの公開リハでした。

愛を扱う前半部分はほのかに甘美な味わいを滲ませながら、対して、後半は不可避の死を前面に押し出しつつ、「孤独」が踊られていきます。

この日、私はシューベルトの歌曲に載せて、終始、淀みなく進行していく舞踊に身を任せて視線を送りましたが、金森さんがメンバー一人ひとりに振り付けたソロにフォーカスして、11人の舞踊家の個性の違いを楽しんだり、推しメンを探して凝視したり、はたまた、自らの人生を重ね合わる見方をしてみたりなど、多様な向き合い方が出来る作品というふうに言えるかと思います。

新体制での船出となるNoism Company Niigata、待望の新作公演。今週末の金曜日(1月20日)初日に向けて、「細部をガン見しなきゃ」と期待が高まったこの日の公開リハーサルでした。

新潟は全11回公演。完売の回もありますが、チケットは絶賛発売中です。是非お見逃しなく!

(shin)