2023年1月30日は月曜日。この日、8日目を迎えた『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演の開演時間は午後3時。冷え込みや降雪量はさほどではありませんでしたが、風があるため、体感温度はかなり低く感じられる、そんな一日でした。
アフタートークの冒頭で井関さんが出待ちに青空を見て、「ホントにキレイ。青空を見ながら聴くシューベルトはホントに哀しくなっちゃって…」と仰られましたが、時折、そうした青空がインサートされ、千変万化、移ろいながらも、最終的にはデフォルトの灰色に戻っていく、そんな天候だったように思います。
さて、「完売」で迎えたこの日の舞台です。私は最前列に腰掛けて、上方から陰影に富む音楽が降ってくるなか、11人の舞踊家を見上げていたのですが、これも金森さんがアフタートークで「今日よかったよね。毎日いいんだけど」と語った芳醇な非日常に身を浸して、心は揺さぶられ、目頭が熱くなるような圧倒的な1時間あまりを過ごしました。
今回は特に各舞踊家それぞれに用意されたソロ・パートが注目される作品なのですが、それ以外にも「目のご馳走」はふんだんに用意されています。「てんこ盛り」と言ってもいいくらいに。で、個人的には、庄島姉妹のデュオ・パート、そしてメンズ4人(中尾さん・坪田さん・樋浦さん・糸川さん)で踊るパートに毎回クラクラきちゃってます。でも、いざ、こうやって幾つか取り上げてみると、あれとかこれとか、他の場面も外せない気持ちになり、やっぱり最終的には「終始、ガン見しなくてはならない」という結論に舞い戻る他なくなるのですけれど。それでも、好きだなぁ、あのふたつ。まあ、そんなふうに、気持ちは行ったり来たりなんですが、観た方ならわかってくれますよね、この感じ。困ったことです、まったく。(笑)
大きな拍手が送られて、終演。その後、3回目となるアフタートークに移っていきましたが、ホントに大勢の方がその場に残って、金森さんと井関さんのお話を楽しみました。質問も多数出たこの日のやりとりをかいつまんでご紹介します。
Q:お薦めの席はあるか。
-A(金森さん):かぶりつきの前の席、舞台を見下ろす後方の席、左右もパースペクティヴが異なるし、どの席も全然違う。全部お薦め。
Q:一部、ダブルキャストなのか。
(*この日は太田菜月さん(Noism2)の出演回でした。)
-A(井関さん):みんな若いため、浮き沈みもある。キャストになるのが当たり前の世界ではない。欧州では、ある日突然変えられたりすることもあるが、それで終わりじゃない。そういうことを経て舞踊家は変わっていく。
-A(金森さん):みんな頑張っているので、決断も容易なことじゃない。欧州なら公演回数も多いが、Noismの場合、キャスティングが外れると次は半年後になってしまう。踊る機会があればあるほど成長するものではあるし。しかし、今回は、みんなよくなった。これが彼らですから。
Q:最後のシーンでは観ていて涙が流れる。
-A(金森さん):『夜と夢』、最初からエンディングに決めていた。凄く残酷な話になったので、お客さんをこれで帰す訳にはいかない、それでも何か届けたいなと。
Q:昨今の学校教育では感情を封じ込められがち。
-A(金森さん):そうなの?今の学校、わからないんだよね。
-A(井関さん):今の時代、以前より頭で考える方が多いように思うが、先に分析してしまうのはもったいない。
-A(金森さん):感じないということはない。劇場に来て、全身全霊を傾ける姿を見て欲しい。不幸や災いや人間の業など疑似体験できる場所が劇場。そこでは虚構を通じて受容することが許されている。
-A(井関さん):虚構を虚構としてではなく、信じていないと「嘘」として捉えられてしまう。
-A(金森さん):「リアリティ」とは受け止め方であり、我々一人ひとりのなかに「リアル」がある。その場としての劇場があり、それを許容するものが作品である。
Q:選曲と振付はどのように行ったのか。
-A(金森さん):先ずは楽曲を選んで、「合う」ものにしていったのだが、「似合う」というだけの問題ではなく、肉迫していくことを要したり、作品全体のリズムということもあった。
Q:愛と死がテーマとされているが、歌詞の内容から選曲したのか。
-A(金森さん):(700曲あまり)全部聴くんですよ。(1)先ず、全集を録音したディースカウから聴いていって、(2)楽曲からインスピレーションが湧くかどうか、(3)歌手と録音が合うかどうか、そうやって選んでいった。
Q:メンバーの解釈を深めるために面談など行うのか。
-A(金森さん):面談はない。昨日の終演後、ここ(スタジオB)に集まって、感じたことを伝えた。どうしても守りに入りたくなるもの。でも、より深く、より遠くへと「挑んだ」ことが大切。リスクはあるんだけど。
-A(井関さん):外からの目は重要。
Q:喜怒哀楽の表現について。
-A(金森さん):新しい舞踊を創る際の身体表現として、最高のイメージは手話。但し、それは一挙手一投足、全てが何かを物語るものという意味合いでの。
そしてこの日のアフタートーク、最後の質問は、何と舞台の井関さんから(!)客席に向かって発せられたものでした。
Q(井関さん):月曜日の午後3時からの公演ってどうですか。夜7時ではなく。
-A①:冬の遅い時間だと雪が気になってキツイ。夏なら夜7時開演でも構わないが。
-A②:今日は名古屋から来た。日帰りが可能。一日休みをとれば済む。
…など、月曜日は休み、或いはこの日は休みをとった、はたまた、年金生活者なので、と、この日に足を運ぶことが出来た人たちが座る客席からは好意的な反応が返されていました。
以上、アフタートークの報告でした。
その後、りゅーとぴあの外に出てみると、待ち受けていたのは物凄いと言えるほどの風雪。「ながれ旅」ではなしに、「冬の旅」気分で車を走らせて帰宅しました。
新潟公演も残すところ、あと3公演。(そのうち、木曜日の公演はまだ席に余裕があるとのことです。)日を追うにつれ、芳醇さを増してきています。これからご覧になる方は期待値MAXでスタジオBまでお運びください。おっと、重ねてご覧になる向きも同様に、期待値増し増しでどうぞ。
(shin)
shinさま
今日もとてもよかったですね✨
shinさんが書かれていたメンズ4人、いいですよね~♪
庄島姉妹の鏡の踊りも引き付けられます!
「糸を紡ぐグレートヒェン」と「トゥーレの王」の女性デュオ、
ゲーテのファウスト繋がりで通底しているのかな~などと邪推するのも楽しいです。
メンバーは皆、表情も表現も豊かで瞠目の素晴らしさ!
よくぞここまで、と感嘆しています。
そして圧巻の井関さん、山田さん。
山田さんは前半では菩提樹の木陰に座り、皆の溌溂とした踊りを優しく見守っていますよね。
時々なにか書き物をしたりする仕草もいい感じです♪
そして、井関さんはさすがですよね。
井関精霊は山田シューベルトの憧れであり理想。
あらかじめ失われている永遠の思い人ではないでしょうか。
などと妄想が膨らみます。
井関さんが踊る曲は主に同じ人(アルト:ナタリー・シュトゥッツマン)が歌っていて、本当に合っていますね!
アフタートークの詳細、ありがとうございます!
今日は質問が多く、いろいろなお話が聞けてよかったです♪
新潟公演はあと3回。
多くの方に見ていただきたいです。
(fullmoon)