そこから20分の休憩を挟んで、金森さん演出振付、Noism0の『Near Far Here』です。これまでにない程、広くとったアクティング・エリアにぽつんぽつんと3人。茫漠とした「ここ」とはいったいどこなのか。この世なのか。それとも…。そのあたり、印象的な照明も相俟って、まったく判然としない程に作り込まれています。冒頭からラストまで、極めて実験的でありながら、同時に、言葉で言い表せないほどの圧倒的なヴィジュアルで展開されていく美し過ぎる作品には、身震いしながら没入する他ない、驚愕の視覚体験が約束されていると言っても過言ではないでしょう。この美しさはヤバイ。こんな表現があるのか、どうやったらこんなものが生み出せるのか、口あんぐりで陶酔するより他にありませんでした。そして余韻がまた相当ヤバイ。観終えてからもう数時間が経っているというのに、相も変わらずに夢見心地なのです。繰り返しになりますが、書けないのがツラいレベルとすることに一切誇張はありません。この到達点にはまったく身震いを禁じ得ません。是非、多くの方に身を以て味わって欲しいと思う次第です。
◇活動支援会員対象『境界』公開リハーサル 15時30分、りゅーとぴあ・劇場に進むことを許され、2F客席に身を沈めようとする以前から、白と黒の引き締まった舞台上には、金森さん(黒)と井関さん(白)、そして山田勇気さん(黒)の姿があり、主に井関さんをリフトする動きの試行錯誤が続いていました。Noism0による『Near Far Here』のクリエイションが真っ最中でした。 その後、バロックの音楽と舞台装置も入れて、通して見せてくれる場面もありましたが、そこでも、時折、金森さんがストップをかけては、より流れるような身体の捌き方を求めて、動きが再検証・再検討され、妥協することなく調整を続ける3人の姿を目にすることになりました。そうやって、動きが今まさに作り出されようとしている様子は、「産みの苦しみ」などという紋切り型の表現からはほど遠いもので、(汗をかき、呼吸はあがって、水分補給をする際も苦しそうではありましたが、)気心知れた同士が、じっくり話し合って、色々試しながら動きを獲得していく作業は、どうしてどうして、「いい時間」が過ごされているようで、ホントに楽しそうに見えました。もう期待感しかない道理です。
とりあえず、来年9月からの5年間、新潟市での活動継続が決まったNoism Company Niigata、その決定後の最初の公演です。「ちょっとだけでも今までやったことがないことにチャレンジしたい」と語る金森さんは、(奇妙な言い方になりますが、)私たちを常に裏切りつつ、その「裏切り続ける」という点においてはまったく裏切ることのない稀有な芸術監督と言えます。公演の度に私たちの日常を活性化してくれる訳ですから。
そんな金森さんが「自信作」と力を込めて語るNoism0『Near Far Here』、そして、Noism1が山田うんさんとの間で化学変化を見せること必至の『Endless Opening』、大いに圧倒される心づもりで、いざりゅーとぴあ・劇場へ。クリスマス期に放たれる刺激的な贈り物2作、『境界』新潟公演は来週金曜日にその幕が上がります。よいお席はお早めにお求めください。
短編ドラマを観ているようだった、中尾洸太作『”うしろの正面”』 「カプグラ症候群」こういう精神疾患があるというのは小説、マンガなどで知っていたが名前を聞くのは初めてだ。疾患と言うが、本当のところは正常なのかもしれないし、そこがコワいところ。 林田海里さん、ダンサー&アクターどちらも兼ね備えていて素晴らしかったです。大好きなヴァリシニコフの次に林田さんです! 突然流れる『The end of the world 』の感傷的で甘いメロディ。思い出したのは『Painted Desert 』で使用された『Mr. lonely 』 なんて事のない美しいロッカバラードの曲たちなのだが、使われ方によっては私は狂気を感じてしまう。多分、D.リンチのアブない映画『Blue Velvet 』で同題の曲が繰り返し流れていたせいだと思う。
林田さんの『Flight from the city 』 彼の表現したい「青さ、未熟さの残る情景」は女性2人によって踊られているが、想像するにこれはたまたまというか、メンバーの中でのキャスティングで鳥羽、西澤さんがイメージに合っていたからだと思う。もしかしたら青年2人のデュオだったかもしれない。 照明スタンドの使い方、特にラストの消えるタイミング、絶妙でした。余韻が漂い、しばらく動けませんでした。
最後に、ジョフォア•ポプラヴスキーさんの存在感。チャーリー•リャン作『The Eclipse 』の中のチャーリーさんとのデュオが印象的でした。そして彼の『On the Surface, there you lie 』はトリにふさわしい重厚感がありました。暴力を振るい続けてエスカレートして止められなくなる者、抵抗もせずされるがままになる者… いろいろなものが心に入ってきた。
2『life, time for a life time』(演出振付:カイ・トミオカ) ゆったりしたピアノの調べからハードなジャズのドラムへ、更に、ボードビリアンとして立つ舞台を思わせる効果音や、極端に機械的にデフォルメされた雨だれの音(?)、そして艶やかな弦の響きへと音が移い、表情を変えるのに併せて、カイさんと渡部さんも脱ぎ着しながら、人生の異なる時間、あの時やらこの時やらを、ときに緩やかに、ときに激しく、あるときは神妙に、またあるときは諧謔味を帯びて通過していく。ラスト、床面で身体をくねらせて踊る渡部さんの片手に載せられた黄金色の丸皿、その安定振りへと収斂し、締め括られていくふたつの人生からの逸話。
4『“うしろの正面”』(演出振付:中尾洸太) 椅子、仮面。明滅した挙げ句に消える明かり、暗転、プレイバックと両立不能なパラレルワールド。上着、仮面、ナイフ、血塗られた赤の照明。スキータ・デイヴィス『The End of the World』は、悲劇的にすれ違う男女(林田さんと杉野さん)の惨劇を予告する。冒頭の椅子は、事切れた女のむごたらしい亡骸を載せ、ついで、そこに何事もなかったかのように男が腰掛けると、明滅する明かりの下、何やらメモをとる、その姿の不気味さ…。禍々しい題材ながら、森優貴さんの『Das Zimmer』で性別違和を踊った林田さん、その「越境」する色気零れるターンには今回も見とれた。
15分の休憩を挟んで、後半。
5『Flight From The City』(演出振付:林田海里) スタンド照明がひとつだけで、周囲は闇。鳥羽さん(黒に見える濃紺)と西澤さん(白)によって展開される禁断の「百合」世界。なんと蠱惑的なのだろう。2016年冬にNoism2で『ÉTUDE』を踊った中にいたふたりが更にその先を踊る。別離の予感に満ち、哀調を帯びた調べが繰り返されるうちに、徐々にノイズが入り込んでくると、もう心も身体も抑制が利かない。お互いを求め、身体が縺れ合う、その官能性。一度目に明かりを消した闇のなかで、声にならない叫びを発した鳥羽さんは、ラスト、唇を重ね合わせたのち、今度も再び自ら明かりを消す…。そこに至るまで、夢幻のように、行き場を持たない蒼い時が切なくも美しい。
7『On the surface, there you lie.』(演出振付:ジョフォア・ポプラヴスキー) カイさんと中村さんのペアも、中尾さんも、細かい位置こそ違え、顔の左側に黒い痣をつけている。それは何かのトラウマの表象。青い光の下、表現される怖れと慄き、或いは意を決して向き合おうとする姿と逆にそれを押しとどめようとする振る舞い、葛藤。それら結果としての3人の「表層」がアクティング・エリアに交錯するうち、その外部に恐れと慄きの源泉である不可視の「対象」或いは「深層」が現出してくるさまは圧巻だった。ラスト、中村さんによるカイさんへの過剰な制止はもはや「制止」の身振りを遙かに逸脱し、自らのトラウマの投影として、見詰める目に痛々しく突き刺さるよりなかった。
ところで、時間前にりゅーとぴあに着いたので、珈琲でも飲もうと、6F展望ラウンジ(旬彩・柳葉亭)にあがったら、嬉しい驚きがありました。りゅーとぴあを訪れたなら是非見て欲しいものがひとつ増えたと言いましょう。それは6F壁面に設置された「RYUTOPIA INFO BOX」というコーナーです。皆さん、ご存知でしたか。
ホテルオークラ新潟主催による、新潟の文化・芸術を応援しつつ、ホテルならではの食事を楽しもうという企画。新潟古町芸妓、合奏団「新潟ARS NOVA」に続く第3弾が、Noism Company Niigataを迎えて開催された。チケット販売開始から時間を経ずに満席となったが、幸運にもイベントの告知開始日に予約出来た為、最前列中央で鑑賞する機会を得た。