新潟日報「assh」vol.521(2024/10)表紙に浅海侑加さん登場♪

2024年10月6日(日)、地元紙・新潟日報のコンセプトペーパー「assh」vol.521(2024/10)の表紙に、Noism2 リハーサル監督・浅海侑加さんの凛々しい姿が♪

加えて、「assh 表紙の人」に付された2次元コードから、更に、「Web magazine assh (Web magazine assh (niigata-nippo.co.jp))」からも、浅海さんへのインタビュー「『Noism2』リハーサル監督 浅海侑加さん/後進へのまなざし温か イメージの共有に試行錯誤」もお読み頂けます。とても興味深い内容ですので、是非ともお読みください。

そしてインタビューに続けて、この秋(2024/11/23)の「新潟県文化祭2024」こども文化芸術体験ステージについての告知もあります。Noism2が出演し、『火の鳥』と『砕波』を踊ります。(@越後妻有文化ホール「段十ろう」・十日町市本町一丁目上508番地2)
浅海さんが指導する若さ溢れるNoism2メンバー、その躍動する姿は必見です。観覧申込みは11/7(木)まで。是非、ご応募ください。

で、こちらには、この機会にこれまで当ブログでお届けしてきました浅海侑加さんについての記事へのリンクを以下にまとめて掲載しておきますので、そちらも併せて(改めて)お読み頂けましたら幸いです。

「私がダンスを始めた頃」②浅海侑加
「ランチのNoism」#20:浅海侑加さんの巻

【追記】…私はラクトアイスやポテトチップスを食べながら、ネット見てたりしますけれど、…弛緩し切ってます…(汗)。皆さんはどうですか。

そして、話題は変わりますが、今夜(深夜25:25)1:25からのNHK BS「プレミアムシアター」はベジャール『ボレロ』他に加えて、金森さん+東京バレエ団『かぐや姫』(再放送)です。こちらもリアルタイム視聴または録画にてお見逃しなく♪

(shin)

凄いものを聴いた!観た!-「サラダ音楽祭」メインコンサートの『ボレロ』、圧倒的な熱を伝播♪

2024年9月15日(日)、長月も半ばというのに、この日も気温は上昇し、下手をすれば、生命すら脅かされかねない暑熱に晒された私たちは、陽射しから逃げるようにして、這々の体(ほうほうのてい)でエアコンの効いた場所に逃げ込んだような有様だったのですが、まさにそのエアコンが効いた快適な場で、全く別種の「熱」にやられることになろうとは予期できよう筈もないことでした。

「サラダ音楽祭2024」のメインコンサートは早々に完売となり、当日券の販売もなく、期待の高さが窺えます。池袋・東京芸術劇場のコンサートホール場内では文芸評論家で舞踊研究者の三浦雅士さんの姿もお見かけしました。この日ただ一度きりの実演な訳ですから、期待も募ろうというものです。

私自身、先日の公開リハーサルを観ていましたから、この日の『ボレロ』が見ものだくらいのことは容易に確信できていましたけれど、大野和士さん指揮の東京都交響楽団とNoism Company Niigataによるこの日の実演は、そんな期待やら確信やらを遥か凌駕して余りあるもので、凄いものを聴いた、凄いものを観た、と時間が経ってさえ、なお興奮を抑えることが難しいほどの圧倒的名演だったと言わねばなりません。

そのメインコンサートですが、まず15時を少しまわったところで、ラターの《マニフィカト》で幕が開きました。私にとっては初めて聴く曲で、「マリア讃歌」と呼ばれる一種の宗教曲なのですが、そうした曲のイメージからかけ離れて、親しみ易いメロディーが耳に残る、実に色彩豊かで現代的な印象の楽曲でした。更に、前川依子さん(ソプラノ)と男女総勢50人を超える新国立劇場合唱団による名唱も相俟って、場内は一気に祝祭感に包まれていきます。「ラター」という人名と聖歌《マニフィカト》とは私の中にもしかと刻まれました。

20分の休憩を挟んで、後半のプログラムは、ドビュッシーの交響詩『海』で再開しました。こちら、どうしても、金森さん演出振付による東京バレエ団のグランドバレエ『かぐや姫』、その冒頭ほかを想起しない訳にはいきませんよね。粒立ちの鮮明な音たちによって、次第にうねるように響きだす音楽によって、そこここであの3幕もののバレエ作品を思い出さずにはいられませんでした。その意味では、都響によるダイナミックレンジが広く、階調も情緒も豊かな熱演が、同時に、次の『ボレロ』へのプレリュードとしても聞こえてくるというこの上なく贅沢な選曲の妙、憎い仕掛けにも唸らされたような次第です。

そしていよいよラヴェルの『ボレロ』です。金森さんと井関さん共通の友人でもあるコンサートマスターの矢部達哉さんが楽団員たちとのチューニングを始めると、客電が落ち、井関さんをはじめNoismメンバーが上手(かみて)袖からオーケストラ前方に設えられた横長のアクティングエリア中央まで駆け足で進み出て、特権的な赤い衣裳の井関さんを中心に、フードまで被った黒い8人が円を描くように囲んで待機します。金森さんの師モーリス・ベジャールの名作と重なる配置と言えるでしょう。やがてスネアドラムがあの魔的な3拍子のリズムを静かに刻み始め、フルートがそこに重なって聞こえてきます…。昨年末のジルベスターコンサートでの原田慶太楼さん指揮・東京交響楽団の時とは異なり、今回は中庸なテンポです。

金森さんによるこの度の『ボレロ』ですが、先ずは赤い井関さんと周囲の黒ずくめ8人の関係性の違いが、ベジャールの名作と最も大きく異なる点と言えるかと思います。音楽のリズムやビートを最初に刻むのが井関さん。そしてその中心からそのリズムやビートに乗った動きがじわじわ周囲に伝播していくことになります。

両腕を交差させて上方に掲げたかと思えば、両手で上半身を撫でつけたり、或いは、両手を喉元までもって来ることで顔が虚空を見上げるかたちになったり、苦悶と言えようほど表情は固く、如何にも苦しげな様子を経過して、決然たる克己の直立へ戻るということを繰り返すうち、次第に、井関さんから発したその身振りが断片的に、先ず周囲の幾人かに伝播していくのです。この「抑圧」が可視化されている感のあるパートで用いられる舞踊の語彙にはベジャール的なものはまだ含まれておらず、これまでのNoismの過去作で目にしてきたものが多く目に留まります。

やがて井関さんとその周囲、赤と黒、合わせて9人のポジションは、(徐々に黒い衣裳を脱がせながら、脱ぎながら、)3人×3という構成にシフトしていきます。それは即ち、最初の円形が横方向へ伸びるフォーメーションへの移行を意味します。そうなるともう多彩な群舞の登場までは時間を要しません。Noism的な身体によるNoism的な舞踊の語彙が頻出する限りなく美しい群舞が待っていることでしょう。見詰める目の至福。そしてそこに重ねられていくのは師へのオマージュと解されるベジャールの動きの引用。ここに至って、感動しない人などいよう筈がありません。飛び散る汗と同時に、9人の表情もやらわぎを見せ始め、笑みさえ認められるようになってきます。それは演出でもあるのでしょうが、自然な成り行きに過ぎないとの受け止めも可能でしょう。可視化されるのは「解放」です。その「解放」があの3拍子のリズムに乗って圧倒的な熱と化して、見詰める目を通して、私たちの身体に飛び込んでくるのですから、一緒に踊りたくなってうずうずしてしまう(或いは、少なくとも一緒にリズムを刻みたくなってしまう)のも仕様のないことでしかありません。(私など全く踊れないのにも拘わらず、です。)そして同時に、心は強く揺さぶられ、狙い撃ちにされた涙腺は崩壊をみるよりほかありません。

金森さん演出振付のダンス付きの、この都響の『ボレロ』は、最初のスネアドラムが刻んだかそけき音に耳を澄まし、それと同時に生じた井関さんの動きに目を凝らしたその瞬間から、最後の唐突に迎える終焉に至るまで、刻まれる時間と場内の空気は全てオーケストラによる楽音とNoismメンバーの身体の動き、ただそのふたつのみで充填し尽くされてしまい、夾雑物などは一切見つかりようもありません。両者、入魂の実演はまさに一期一会です。そんな途方もない時間と空間の体験は、それが既に過去のものとなっているというのに、未だに心を鷲掴みにされ続けていて、落ち着きを取り戻すことが難しく感じられるのですから、厄介なことこの上ありません。

繰り返されたカーテンコールで、満面の笑みを浮かべて拍手と歓声に応えた金森さんの姿も(腕まくりと駆け足も含めて)忘れられません。そんなふうに凄いものを聴き、凄いものを観た9月折り返しの日曜日、Noism20周年のラストを飾るに相応しかったステージのことを記させて貰いました。

(shin)

8/31、渋谷のNHKホールで東京バレエ団「ダイヤモンド・セレブレーション」を観てきました。(サポーター レポート)

こちらは創立60周年を迎える東京バレエ団による記念の祝祭ガラ公演です。前年に全幕上演された金森穣さんの『かぐや姫』よりパ・ド・ドゥが上演されると知り、早々にチケットを手配し、当日をとても楽しみにしていました。

当日は台風10号の影響で東海道新幹線が運休するなど交通障害もあり、来場できなかった方も多くいらっしゃったようでした。しかし公演の時間帯は幸いにも天気は小康状態で、私はありがたいことに無事NHKホールに辿り着き、鑑賞することができました。

曇天でしたが、雨は降っていませんでした。
ホワイエにはお花が飾られていました。

ホワイエは綺麗なお花で装飾されていたり、これまでの海外公演のポスターが展示されていたりと華やかです。
ホワイエを一通り散策し、席に座ろうとホール内に入場すると、なんと前の席に金森さんと井関さんが座っておられます。びっくりして、お声掛けするか迷っているうちタイミングを逸してしまいました。「『めまい』おもしろかったです!」とお伝えすればよかったな、と思いました。

第1部『エチュード』はピアノ学習者にとっては『ツェルニー◯◯番』で有名なツェルニーの楽曲に振付られた作品です。初めて観ました。50分にも及ぶボリューム感の中に、バレエの華やかさや超絶技巧が散りばめられて圧巻でした!

そして金森さんの師、キリアン『ドリーム・タイム』から始まる第2部。
『ドリーム・タイム』の渋さに唸り、『ロミオとジュリエット』のパ・ド・ドゥに涙する素晴らしい上演でしたが、金森さんの『かぐや姫』について詳しく書きたいと思います。

金森さんの「『かぐや姫』よりパ・ド・ドゥ」は、今回のガラ公演では舞台装置は置かず、舞台上にはスポットで描かれた月のみありました。
ドビュッシーの『月の光』の音楽に合わせて、月をみて寂しがるかぐや姫を道児が慰め、徐々に2人が惹かれていく様子が感動的に描かれています。
初演のときはどうしても技巧的な面を注視して観ていたように記憶していますが、今日の2人からは心の動きがそのまま伝わってくるようでとても感動しました。そして結末を知っているからでしょうか、少し切なさも伝わってきました。
上演後の2人に会場は拍手喝采、1度目のカーテンコールでも拍手は鳴り止まず、もう一度カーテンに応えていました。

ちなみに前の席の金森さん井関さん、演目が終わるたび2人ともニコニコ言葉を交わしたりして、とても楽しんでおられる様子でした。
『かぐや姫』のクリエーションを通じて得た絆や仲間意識が続いているようで、みているこちらも楽しくなります。

第3部の『ボレロ』は鉄板演目で、何度観ても盛り上がります。
鳴り止まないカーテンコールに応え、1部2部に出演していたダンサー達、スタッフも登場し、客席も総立ちで祝福しました。

『ボレロ』は今月(9月)、サラダ音楽祭で金森さん振付の『ボレロ』、またベジャールバレエ団の『ボレロ』も観られますので、こちらも楽しみにしています。

パ・ド・ドゥだけでも『かぐや姫』を再び観ることができ嬉しかったと共に、近いうちにまた全幕で観たいなあ、と強く思った公演でした。

(かずぼ)

Noism 20周年記念公演「Amomentof」公開リハーサルに行ってきました♪

2024年6月21日(金)@りゅーとぴあ〈劇場〉


今日は夏至。薄曇りで凌ぎやすいお天気♪
Noism20周年記念公演「Amomentof」活動支援会員/視覚・聴覚障がい者/メディア 向け 公開リハーサルに行ってきました!

今回は『Amomentof』の前半部分を見せていただきました。
Noism0,1,2、総出演!
マーラーの交響曲第3番 第6楽章「愛が私に語りかけるもの」が静かに始まり、バーに集っていた舞踊家たちは・・・
(DIRECTOR’S NOTEより:『Amomentof』に副題をつけるとしたらそれは「舞踊が私に語りかけるもの」となる)
https://noism.jp/amomentof-20th/

Noismバレエを主体とした美しい舞踊が次々と展開され、音楽と相俟って、ため息のでる美しさです✨
見惚れました。
20数分ほど見せていただきました。
後半はどうなるのか!? いやが上にも期待が高まります。

金森さんは『かぐや姫』でブノワ賞(優秀なバレエ関係者に与えられる世界的に権威のある賞)に振付家としてノミネートされており、この6/25にモスクワのボリショイ劇場で授賞発表が行われます。
https://thetokyoballet.com/news/2024-4.html
そんなことも頭をかすめる、感嘆の美しさでした。

前半公開のあとは、ステージ上で15分ほど見直しがあり、その後 囲み取材へ。


金森さんのお話:
・『Amomentof』のテーマは「舞踊とは何か」(舞踊イコール愛=生であり、死である)。
・物語は無い。音楽の情感をいかに舞踊化するか。
・他のメンバーは出入りがあるが、佐和子(=井関さん)は出ずっぱり。
・佐和子のこれまでがあって今がある。
・バー(と鏡)はメタファ―であり、舞踊家にとって身体とセットのものだが、いずれはバーから離れなければならない。そのとき何につかまるのか。他者や愛を知る。

井関さんのお話:
・自分は常に客観性をもって踊っているが、この作品には引っぱられるものがあり主観的になってしまう。踊りながら「ありがとう」と思うのは初めてで、感謝の気持ちになる。
・音楽による情感の移り変わりが激しい。映像ではなく、生で、劇場で、潮の満ち引きのような音楽と舞踊の波にのまれてほしい。

衣裳は本番仕様で、ステキな袖なしユニタードでした♪
金森さんの黒い服も衣裳で、自前ではないそうです(笑)

『Amomentof』を生で見に来ない人には自分たちについて語らないでほしい、
とまで言う金森さん。
『セレネ、あるいは黄昏の歌』も大作です。
なんと上演順はまだ決まっていないそうです!

見逃し厳禁、必見の豪華記念公演!
いよいよ来週末開幕!チケットあります!
▼チケット:https://piagettii.s2.e-get.jp/ryutopia/pt/
https://www.ryutopia.or.jp/performance/ticket/

特に6/28(金)19:00、6/29(土)17:00おススメ。土曜はアフタートークもあります♪
公演時間110分。観ないともったいないですよ。
「Noism20周年祭り」(金森さん談)、ぜひお運びください。 楽しみですね!

(fullmoon)

「柳都会」Vol.28 矢部達哉×井関佐和子(2024/2/4)を聴いてきました♪

2024年2月4日(日)、暦の上では「春」となるこの日の午後2時半から、りゅーとぴあ〈能楽堂〉にて、東京都交響楽団のソロ・コンサートマスターを務める矢部達哉さんをお迎えしての「柳都会」を聴いてきました。

―届けているのは本物。音楽と舞踊の関係性、不可分性。

柳都会vol.28 矢部達哉×井関佐和子 | Noism Web Site

今回の「柳都会」は、聞き手の井関さんが話をお聞きしたいお相手として、矢部さんを希望されたところ、快諾をいただき、実現したものとのこと。そして、開催日時が近付いてくるなか、SNSに「ミニ・ワークショップもある」という追加情報も出されるなど、これまでにないスタイルへの期待も膨らみました。

予定時間となり、井関さんからのご紹介で登場した矢部さん。鏡板の「松」の手前、「人生で初めて履いた」という足袋姿+「お見せするだけ」のヴァイオリンを携えたそのお姿はそれだけでもうかなり微笑ましいものがありましたが、その後、トークの間に、何度もヴァイオリンを弾いて説明してくださった矢部さんのお人柄に場内の誰もが惹かれることになりました。終始、穏やかな語り口で、ユーモアを交えて話された矢部さん。ここでは話された内容からかいつまんでご紹介しようと思います。

*矢部さんとNoismとの出会い
2011年、〈サイトウ・キネン・フェスティバル松本2011〉でのバルトーク『中国の不思議な役人』のとき。
矢部さん: 『中国の不思議な役人』は信じられないくらい難しい曲。しかし、指揮者から「舞台の上(Noism)はあまりにも完璧でびっくりする」と言われていて、ピットの中からは見えなかったのだが、舞台の上と繋がっている感覚があった。後からビデオで観て、(Noismに)一気に興味が湧いて、それ以来、自分の人生の中で欠かせないものとなっている。尊敬し過ぎていて、ただのファンという感じ。

*矢部さんとヴァイオリン
・矢部さん5歳: ヴァイオリンは、クリスマスに親が出し抜けに買ってきて、「あなた、コレやるんですよ」と言われて、始めたもの。それがずっと続いて今日に至るのだが、現実は甘くない。「100年にひとり」とかいう存在になるなど、「皮膚感覚で無理」とすぐにわかった。
・矢部さん高1: 病気で学校に行けなかった頃、マーラーのオーケストラ曲と出会い、「これが弾きたい」という気持ちになって、オーケストラでヴァイオリンを弾くことが目標に定まった。
・オーケストラとソリスト: 実力、メンタリティや意識のほか、奏法も違う。オーケストラは調和が大事なのに対して、ソリストは孤独に耐えることができて、一人で2000人の聴衆の一番後ろまで音を届かせなければならない。(一方からもう一方への転向はそれぞれに難しい。)
しかし、ソリストも弾く曲を自分で選べる訳ではない。例えば、メンデルスゾーン、チャイコススキー、シベリウスなどは1年に何度も弾かねばならない。一方、オーケストラでは色々な曲、色々な指揮者に出会えるメリットがある。
・矢部さん22歳: 4つのオケからオファーがあったなか、東京都交響楽団のコンサートマスターになる。その際は、急遽の展開だったため、オケ側の事前協議や準備もままならず、(ご自身は何も事情を知らないながらも、)「不完全なかたちでお迎えして申し訳ない。これからのことはもう少ししてから」と言われての4月のスタートだった。→その後、「大丈夫になりました」と言われたのは、1990年6月6日に「信じられないくらい美しい音楽」マーラーの交響曲第3番・第6楽章を演奏した日のことで、きたる6月に「20周年記念公演」で同曲を踊るNoismとシンクロする。

*コンサートマスターの仕事 
矢部さん: 指揮者とオーケストラは大抵、喧嘩するもの(笑)。そのとき、間に立って、いいかたちに持っていく役割。(穣さんほどじゃないけれど、)生意気だったかもしれないが(笑)、「長い目で見てあげよう」と思われていたのだろう。同時に、最初の4~5年くらいは、「子ども」で大丈夫かとも見られていたようで、「ごめんなさい」という感じで座っていたりもした。
井関さん: 若くしてコンサートマスターになる人はいるのか。
矢部さん: そんな時代もあり、昔は何人かいたが、ここ30年程でオーケストラの技量が格段にアップしてしまって、現在は難しい。

*(舞踊の)カウントと(オーケストラの)指揮者
井関さん: 舞踊の場合、指揮者にあたるのはカウント。カウントを数えて踊るのだが、最終的には、カウントを数えていると「見えなくなる」。 
矢部さん: (例えば、小澤征爾さんとか)本当に凄い指揮者は見なくても伝わってしまう。磁場ができて、自由に弾かせて貰っている感じになる。そのとき、舞台上は有機的に繋がっていて、触発され、相乗効果で演奏している感覚に。それがオーケストラで演奏する醍醐味。

*音楽性をめぐって
矢部さん: 才能もあるが、表現、音の陰翳、色の捉え方が大事。
井関さん: 舞踊家が音楽を身体に落とし込んでいくやり方は、個人によって異なる。矢部さんはどういうふうにキャッチしているのか。
矢部さん: 簡単に言うと、「作曲家の僕(しもべ)」として。例えば、ベートーヴェン。200年も経っているのだが、ビクともせず、生き残っている。普遍的な力で、現在に至るまで、どの時代の人の心も捕らえてきた。生き残らせる役割を仰せつかっている。音楽によって聴衆との間に生まれる空気を共有することが目的。

井関さん: 作曲家の意図を汲みつつ、オケにあって個性は必要なのか。
矢部さん: 生まれ育った環境も心の在り方も異なるのだから、個性は違って当たり前。
ピタリ合っただけの音楽は異様で、生きた音楽にはなり得ない。小澤さんは、個を出した上で有機的に調和することを求めた。

矢部さん: 音楽史上、最も偉大な3人(バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン)の音楽は色々な解釈、色々なアプローチを受け付ける。スパゲティ・ナポリタンにも色々なものがあるのと同じ(笑)。(ナポリタンである必要もないが(笑)。)

*呼吸をめぐって
井関さん: 踊っているときの自分の呼吸に興味がある。昨日、弾いて貰うのを聴いていて、矢部さんの呼吸にも。
矢部さん: あっ、そうか。(呼吸)しているんでしょうね。呼吸を入れると、身体が自然に動くが、止めると、身体も止まる。酸素を取り入れた方が流れがよくなる。
井関さん: 呼吸のコントロールで表現が変わってくる。自分の呼吸に気をつけていると、「離れる」こと、「引く」ことができて、身体に影響が大きい。
矢部さん: ヴァイオリンの場合、ダウンボウでは吐き出して、アップボウでは吸う。音の方向性(上に行くものと下に行くもの)に違いがある。

(5分間の休憩後には、予告されていた「ミニ・ワークショップ」から再開される。)

*金森さんの音楽センスと「ミニ・ワークショップ」
(金森さんも加わって、再開)
金森さん: 「雇われ演出家」の金森穣です(笑)。
矢部さん: 穣さんの音楽センスは、まわりの芸術家のなかでも傑出していて、まさに天才。音の陰翳、色を捉えた演出、ずっと興味があった。ドビュッシーの交響詩『海』、ずっと好きで、繰り返し聴いてきたが、『かぐや姫』で聴いたときが一番よかった。それが「金森マジック」。

「ミニ・ワークショップ」: 矢部さんが、金森さん×東京バレエ団『かぐや姫』で金森さんが使用しているドビュッシーの『亜麻色の乙女』、『海』(のそれぞれ一部)を弾き、その場で金森さんが即興で井関さんに振り付ける様子を観る、実に贅沢な時間…♪

矢部さん: (「ミニ・ワークショップ」では)ただ弾いていただけではなくて、彼ら(金森さんと井関さん)の動きを観ることで、陰翳が変わった。触発されて、別の弾き方をしてみたくなる。相乗効果。とてもクリエイティヴ。
金森さん: 呼吸の「間(ま)」、振付を考えるうえで大きいかもしれない。言葉がないもの、説明のしようがないものを届ける。非言語での想起。
矢部さん: 芸術は受け取る側に委ねられている。(恣意的に歪めることは違うが。)今あるメロディがより綺麗に聞こえる、「金森マジック」。
(この間、約15分。金森さん退場)

*呼吸、カウント、一体感…
井関さん: 最近、「声」が入っているもので踊る機会が多い。歌手の呼吸を聴き込んで踊っている。矢部さんの呼吸をキャッチできたときに一体化できる。
矢部さん: (小澤さんをはじめ、)偉大な指揮者は例外なく呼吸から受け取るものが多い。呼吸によって出て来る音楽が異なる。
井関さん: 一旦、繋がってしまうと、テンポはそれほど重要ではなくなる。信頼関係かもしれない。
矢部さん: 音楽よりカウントを優先させてしまうと、ズレてしまうかもしれない。うねり、抑揚、陰翳…音楽が身体に入ってくると、自ずと身体の使い方が変わってくるのではないか。

矢部さん: まっさらな楽譜に「ボウイング」を書き込むのもコンサートマスターの仕事。でも、違うんじゃないかと言われて、消しゴムで直すなんてことも(笑)。
井関さん: 普通に矢部さんのお仕事見学に行きたい。
矢部さん: そんなに面白くはない…(笑)。

(と、ここで井関さんが終了時刻の午後4時になっていることに気付き、告げる…)

矢部さん: あら、そうね。また遊びに来ます。今度は舞踊について質問したいことがたくさんあるから、それはまた機会を改めて。

…と、そんな感じでした。
矢部さんは「お見せするだけ」の筈だった(?)ヴァイオリンで、上に記した曲のほか、オーケストラとソリストの弾き方の違いを説明する際に、ブラームスの交響曲第1番からのソロ・パートを、更に、アップボウとダウンボウの違いに関しては、マスネの「タイスの瞑想曲」も(一部)弾いてくださいました。お陰で、(金森さん登場の「ミニ・ワークショップ」も含めて、)おふたりの本当に濃密、かつ、わかり易いやりとりを堪能させて貰えました。そんな豊かな時間を過ごせたことに、感謝しかありません。(何しろ終わったばかりで、こんなことを書くのは欲張りも過ぎる気がしますが、)是非、舞踊に関して改めての「機会」が実現しますように♪

(shin)




なんと!Noism×鼓童「鬼」がまだ楽しめる!

皆さま、NHKの衛星放送(NHK BSP4K及びNHK BS)「プレミアムシアター」にて金森穣×東京バレエ団『かぐや姫』をご覧になった(または、録画された)ことかと思いますが、本日(2024/01/29)18時より、YouTubeにて、先日、大喝采のうちに幕を下ろしたばかりのNoism×鼓童「鬼」の2作品(『鬼』と『お菊の結婚』)が配信されるとのことです!そうです、まだ楽しめる!嬉しい!サイコー!パチパチパチパチ!

Noism公式による情報です。こちらからお確かめください。

間違いないですよね?夢みたいですけれど、夢じゃないですよね?

公開中の映像舞踊『BOLERO 2020』改訂版、『Near Far Here』(一部無音)と併せて、なんと太っ腹なことか!『お菊の結婚』は著作権の関係から全編無音であるにしろ、嬉しいじゃあ~りませんか、ですよね。

次回の「プレミアムシアター」では山田うんさんとの「境界」もアンコール放送されますし、この冬の「金森穣祭り」、まだまだ盛り上がっていきます♪

【追記】以下にYouTubeへのリンクを貼っておきますので、どうぞご利用ください。
Noism×鼓童『鬼』(38’08″)
Noism0+Noism1『お菊の結婚』(26’17″)

更にこちらのリンクもどうぞ♪
映像舞踊『BOLERO 2020』改訂版(15’45″)
Noism0『Near Far Here』(29’03″)

(shin)

金森穣×東京バレエ団『かぐや姫』新潟大千穐楽を総身に浴びた至福の2時間40分♪

2023年12月3日(日)、新潟市は本格的な「冬」を連れてくるとおぼしき強烈な風雨に見舞われました。この日はりゅーとぴあも県民会館もイヴェント目白押しで、果たして駐車場に車を入れられるか、若干、不安な気持ちを抱えつつ、りゅーとぴあを目指しました。少し待ちましたが、何とか入れ替わりのタイミングで駐車できて、まずは一安心。

冬の荒天のなかの各公演地『鬼』再演ポスター

13時30分の入場時間を前に、どんどん観客は集まってきます。私自身も久し振りのりゅーとぴあでしたので、友人、知り合いの顔を探しながら待っていました。そんななか、山田勇気さんと浅海侑加さん夫妻、ジョフォア・ポプラヴスキーさんと中村友美さん夫妻、現Noism1メンバーの糸川祐希さんとお母様にお会いして、ご挨拶をしたり、お話できたりとウキウキ気分もずんずん盛り上がっていきました。

そうこうしているうちに入場時間となり、ホワイエに進むと、そこは一段と賑わいが増しているように思えました。この日のミッションは金森さんと井関さんからプログラムにサインを貰うこと。特別なペンを用意して臨みましたが、おふたりの姿は見えません。「今日は立たれないのかな」と半ば諦め始めた矢先、おふたりが出てきてくださいました!この時点で既に興奮はMAXレベルに! 無事、金色のペンでサインをしていただくことが出来ました。

14時になり、(恐らく)最後のお客さんが席についたところで開演。そこからはまた別の興奮に包まれることになります。前の記事でfullmoonさんが書いてくれたように、今公演は「すり鉢」状の一番「底」にあたる部分に地続きでせり出すようにして舞台が設えられていて、そのため、(恐らく)どの席からも想像以上に近くから見下ろす感じで鑑賞することができたからです。近い、近い!

そんなふうに総身で浴びるようにして観た『かぐや姫』全3幕公演の大千穐楽の舞台。第1幕の「緑」、第2幕は「赤」と「黒」、そして第3幕の「白」、休憩を含む至福の2時間40分でした。

まず驚くべきは音楽。ドビュッシーの音楽はこの金森作品のための劇伴音楽ではないかと思ってしまうほど! で、ドビュッシーって本当に様々な曲を書いていたのだと改めて感じたりもしましたが、「超」が付くほどの有名曲が使用された場面であっても、舞台上のパフォーマンスの強度が強くてちっとも音楽に負けていないばかりか、逆に、今後、その曲を聴くと舞台の場面を思い起こさずにはいられない、そんな気がするほどです。ここまで集めに集めて、オール・ドビュッシーで構成した金森さんの執念も感じました。

そのパフォーマンスの強度、東京バレエ団の団員に目は釘付けでした。この世の者とは思えない秋山瑛さんは「白」。跳ねる無邪気さから陰影に富む憂いまで全身で「かぐや姫」をリリカルに具現化していきます。一方、「影姫」沖香菜子さんの「赤」。吸い込まれそうな半端ない目力ともども、衝撃的としか言いようがないほどの圧倒的な存在感で迫ってきます。そして勿論、「道児」柄本弾さん、「翁」木村和夫さん、「帝」大塚卓さんはじめ男性陣も素晴らしかったですし、男性群舞の場面などはまさに圧巻でした。そして金森作品のファンとしては「暗躍(?)」する「黒衣」たちが「金森印」として可愛くて仕方なかったことも言い添えておきましょう。

私たちを超えた大きな力により、この世に「愛」をもたらさんと遣わされた「かぐや姫」。周囲に人を愛する心を芽生えさせますが、それは同時に、「嫉妬」や「欲望」その果てに「憎しみ」や「争い」までもたらすことになってしまい、失意の底、嘆きの(無音の)叫び声をあげるや、…。(←あくまでも個人的な解釈です。)

私たちが目撃したのは、紛れもない金森作品としての普遍的なグランド・バレエの誕生。バレエに疎い私ですが、この作品をもって東京バレエ団の素晴らしさを知り得たことも喜び以外の何物でもありません。他の演目も観てみたいと思ったような次第です。

曰く、桃や栗と同様に、3年間の月の満ち欠けの果てに、ここに結実を見た金森さんと東京バレエ団の『かぐや姫』全3幕。この名作の世界初演に立ち会えたことをしみじみ嬉しく思っております。

そして今月(2023年12月)は、この度の『かぐや姫』を皮切りに、中旬は鼓童との『鬼』再演(12/15~17:『お菊の結婚』含む)が、そして大晦日にはりゅーとぴあジルベスターコンサートにて「新」ボレロが待つ、まさに金森さんとNoism「大渋滞」の月♪ 年末の渋滞する道路は御免ですが、こちらは嬉しい悲鳴そのもの。りゅーとぴあでお会いしましょう。

さてさて、今夜は私も(プログラムに読める三浦雅士さん同様に)アリス=紗良・オットのCDでドビュッシー『夢想』を聴いて寝ることと致します。あの余韻のままに…。

(shin)

東京バレエ団『かぐや姫』新潟公演初日に行ってきました!

2023年12月2日(土)16時開演

朝からの雨が15時頃にはあがり、少し青空も見える、新潟としては「晴れ」のお天気。
りゅーとぴあロビーにクリスマスツリーが飾られていました♪
館内ビデオは『かぐや姫』のリハーサルシーンを放映中♪

『かぐや姫』新潟公演は今日明日とも、チケット完売満員御礼です!
劇場前のロビーは開場を待つたくさんの人が並んでいました。
入場すると、劇場ホワイエに金森さん、井関さんの姿が! お出迎え嬉しいです♪
またまたたくさんの人がお二人に写真撮影やサインを求めて並び始めました。

友人たちに挨拶したり話をしたり、京都から来てくれた会員さんからお土産をもらったりしている間に開演時間に・・・
今日は10列目でしたが、最前列が6列目なのでとても近いです! 東京文化会館と比べるとコンパクトな会場ですが(普段は広く感じる)、客席に勾配があるので見やすいですね♪

東京で全幕観たとはいえ、10月から間があいていますし、会場が違えばまた別モノ。
じっくり観られて幸せです♪ 感動、感激で打ち震えました。
美しく、妖しく、激しく、驚嘆の『かぐや姫』✨ 素晴らし過ぎて言葉もありません。
カーテンコールには金森さん、井関さんも登壇し、スタンディングオベーションと歓声に包まれました。何度もカーテンコールをしてくれて嬉しい。

終演後は金森さんのアフタートークです♪
司会は〈バレエチャンネル〉編集長/バレエジャーナリストの阿部さや子さん。
まずは、東京文化会館と会場の大きさが違うので、美術を舞台サイズに嵌め込むのが大変だったというお話から始まりました。

◎阿部さんの質問に応えて、金森さんのお話
・どの会場でも、会場によって違うので、短期間で作り込まなければならない。一回作ったら終わりではなく、そういう作業はエンドレスに続く。照明は今朝やっと終わった。
・りゅーとぴあの劇場は「スリバチ」なので、舞台は底で、客席の上の方は「月の視座」。前列は舞台と地続き。

【振付について】
・東京公演の時と振付はほんの少しは変えた箇所がある。やっていれば、変えたいと思う所が出てくるが、時間の制限があり、大変なのでなかなか変えられない。次の機会まで胸の裡にしまっておく。

【第3幕の光の精たちについて】
・セイレーンのような、あのような場面がなかったら『かぐや姫』はただ男たちに翻弄されるだけの話になってしまう。女性がその魅力によって男を翻弄するシーンを創りたかった。女性の持つ危険な魅力、女性であることの危うさを夢で気づくのが3幕の最初の場面。

【月について】
・月の映像は東京では高解像度のリアルな実物写真だったが、舞台が遠いからそれでよかった。
・新潟は舞台が近いので、そのままだとリアル過ぎて気持ちが悪いので解像度を落とした。

【ダンサーの演技、舞踊表現について】
・ダンサー自身の中から生まれてくるものを期待したが、表現と踊りを分けてほしくない。ただ歩くだけにしても表現をしてほしい。ダンサーたちは容易ではなかったと思う。もっともっと求めていってほしい。自分も舞踊家なのだから自分自身求め続けていきたい。
・舞台は本番ごとに変わる。舞台は集団。集団で奇跡の舞台を目指す。それが生の醍醐味。観客はそれを観に来る。

そのほか、第2幕の「月の光」パドドゥ(リフレイン)について、第3幕の「結婚」を意味する指輪のバレエ・マイムについて、地球と月と四季について、最後の締めくくり(「夢想」、記憶、尊さ、美しさ、危うさ、危険性)について、等々 お話は尽きません。

金森: 少しでも記憶に、心に、身体に、刻み込まれるものを創っていきたい。
阿部: 夢を見ていたような、不思議な感覚の残る作品でした。
   さて、『姫』の次は『鬼』!
金森: 『かぐや姫』をご覧になった方は『鬼』を必ず見てくださいね。金森穣がいかに多様な人間かわかると思います。ぜひ見てほしいです。『かぐや姫』は一応明日が最後ですが、末永く上演されることが可能な奥深い作品です。再演を願っています。

阿部: 『かぐや姫』は来年1月、NHK BSで放送されます。ぜひご覧ください♪
   *NHK BSプレミアム4K 2024年1月28日(日)23:20
   *NHK BS 2024年1月29日(月)0:10 ※日曜日の深夜

予定の30分をオーバーしての楽しいアフタートークでした♪
明日はいよいよ大千穐楽!

(fullmoon)

東京バレエ団『かぐや姫』東京公演を終えて(ひとまずの)「アフタートーク」的インスタライヴ♪

東京バレエ団×金森穣『かぐや姫』全3幕世界初演の東京公演(10/20~22)を終えて、2023年10月29日(日)の20時から(ひとまずの)「アフタートーク」的なインスタライヴが金森さんと井関さんのインスタアカウントで配信されました。このあと、新潟公演をご覧になられる方にとっては、「アフタートーク」ではなく、「ビフォートーク」となることから、ネタバレ等を気にされる向きもおありだったかもしれませんが、その心配もないやりとりだったかと思いますので、是非、アーカイヴにてご視聴頂きたいと思います。

かく言う私も、この日が日本シリーズ第2戦の日にあたっていたため、その時間帯には、こちらをリアルタイムでは視聴せず、(その前日とはうって変わって、悶々とした気分で)テレビの野球中継で試合の推移を見詰めておりました(汗)。その後、アーカイヴで視聴したのですが、楽しい気分になれたのは有難いことでした(笑)。

このブログでは、一区切りがつき、開放感たっぷりに『かぐや姫』という新作のグランド・バレエの創作を振り返ったおふたりのやりとりがどんなものだったか、以下に少しばかりですが、かいつまんでのご紹介を試みたいと思います。

☆金森さんが東京バレエ団芸術監督・斎藤友佳理さんと初めて会って食事しながらオファーを受けたのは5年位前(2018年)。その後、調整しつつ、題材を決めつつ、振り付けを始めたのは今から2年7ヶ月前。外部への「純クリエーション」はこれが初めて。50人超えの人数やスタジオの大きさに慣れるのに時間がかかった。最初は疲れた。第1幕振り付け時には金森さんは日記をつけていた。(←そうでした、そうでした。思い出しました。)

★東京バレエ団が目黒ということで、金森さんと井関さんの滞在先はずっと白金台(8回)だったのだが、最後の三週間だけは品川だった。品川の人の多さは凄かった。

☆第1幕をガラッと変更した。家具も曲線を増やしてモダンデザインに変えた。
【註】新潟では2021年11月に第1幕が上演されたのみである。

★照明の話。照明作りはまず第3幕から始めて、第1幕へ。しかし「ゲネ」に及んでも、第2幕の追加した場面の照明ができていなかった。それが仕上がったのは、「初日」の午前4:50頃のことだった。(清掃等が入る都合上、劇場が使えるのは最大午前5時まで、とのこと。)

☆照明の話(つづき)。照明はロジックではなく、イメージの世界。しかし、具体的に形にするための指示を出さなければならない。今回は空間が大きくてスタッフの人数も多かった。「全幕物をイチから全部照明を作る人はいない」(井関さん)「振付家で一番大変なことは、自ら納得し決断できるところまで、スタッフに付き合って貰うこと。多くの人を巻き込んで動いて貰い、それを背負うこと」(金森さん)

★「任せられなくて」照明を自分でやることで、間際になればなるほど、舞踊家たちとの時間が減ってしまわざるを得ないことに「申し訳ない」思いもある、と金森さん。それを受けて、「どこかで手放さなければならない。ギリギリまでやったら、その瞬間を本人たちが生きられるかどうか」との考えを示した井関さん。舞踊家も自立する必要がある。初日のパフォーマンスは緊張感とともにみんな確実な道を選んでいきがちとも。

☆新潟の舞台は狭いので、空間構成がどうなるのか。みんな並べるのか、入るのかどうか。取捨選択しないと「危ない」とも思う。

★今回のクリエーションについて、「ホントに勉強になった。イメージし得る身体の使い方、振付の可能性など今まで味わったことのない発見があった」と金森さん。一方、コンテとバレエが「違うもの」と思って『かぐや姫』をやられるとそれは違う。バレエのそこから先を一緒に見出していきたい。それだけにもっと踊り込んでいく再演の機会があって欲しい。

☆舞踊家たちがバレエ的な要素を含めつつ、「一線を越えようとしている」姿が面白かった、と井関さん。金森さんは、これまで、時代的にも、振付のスタイルを確立しようとしたことはない、と。しかし、今回の東京バレエ団との作業を通じて、よりバレエ的なものと向き合い始めて、「バレエ的な身体の型がありつつ、それを保持したまま、如何にただの形ではないところに行けるか。このプロセスで見つかっていったものがスタイルになりそうな漠然とした思いがある」(金森さん)

★「生オケ」での『かぐや姫』は編集の専門家を入れる必要があり、ハードルが高い。

☆「影姫」の配役について、沖香菜子さん・金子仁美さんともに「意外」と言われることも多かったが、金森さんと井関さんにとっては、全く意外でもなく、「それこそそうにしか見えなかった」と井関さん。

…主に、そんなところを以てこちらでのご紹介とさせていただきますが、なお、上の内容に続けて、ラストの7分程度(とりわけ最後の5分間でしょうか)、とても楽しいお話が聞けます。まだの方は大きな損をしていると言えそうな程ですから、是非お聞きください♪

そして、新潟ローカルの話にはなるのですが、折から、今日深夜には(正確には日付が変わって「明日」になりますが)、BSN新潟放送で『劇場にて』の再放送もあります。鼓童との『鬼』再演の舞台裏に密着取材したこの番組、まだご覧になっていない方はお見逃しなく、ですね。

では、今回はここまでということで。

(shin)

『かぐや姫』東京楽日(10/22)、新たな「名作」が「大入」の客席を魅了し尽くす♪

2023年10月22日(日)朝、上野を目指して上越新幹線に乗ったとき、新潟の空は鈍色で、気温も低かったのですが、いくつもトンネルをくぐり、新潟を出てみると、雲ひとつない快晴が待ち構えていて、既に気分もあがっていました。

なるべく、各種SNSに溢れる前々日と前日の評判を遠ざけるようにしていたのですが、やはり、「絶賛」コメントって奴は容易に忍び寄ってくるものです。もう期待感しかありませんでした。

以下、ネタバレはありませんので、この先もお読み頂けたらと思います。

上野に着いてみると、この日は「上野恩賜公園開園150周年総合文化祭」というイヴェントの最終日ということもあり、晴天の下、様々なブースも設けられるなか、大勢の人たちが思い思い、存分にこのエリアでの時間を満喫するその賑やかで華やかな様子に、自然と溶け込む感じで開演までの時間を待ちました。

13時頃、入場待ちの列に並んで、時間通りの13:20に大ホールに入りました。真っ直ぐ進むと金森さんと井関さんがふたりで並んでお出迎えをしてくれていましたから、まずは笑顔でご挨拶。「楽しみにして来ました」と言うと、「大いに楽しんでください」と井関さん。その後、華やぐホワイエのあちこちを写真に収めている最中、おふたりの姿を振り返ってみると、そこで「即席撮影会」が始まっていましたので、「ならば」と引き返して、私も順番を待ちました。

「新潟でもいっぱい撮ってるじゃない」と金森さん。「でも、ブログ用に一枚お願いします」ってことで、おふたりの写真を撮らせていただきました。嬉しかったです♪

赤地に勘亭流の「大入」の文字が示す通り、大ホールの客席は5階席までびっしり観客で埋め尽くされていきました。その中に身を置いて、ワクワクする気持ちで幕があがるのを待ったような次第です。

開演。刷新された第1幕を観ました。「これは!」予想通り、そして評判通り、物凄いことになっていました。
「2年前の第1幕」において、金森さんの方が歩み寄った民話の持つどこか牧歌的な情緒はほぼ削ぎ落とされ、眼前に展開されるのはソリッドこの上ない、紛れもない金森ワールドです。炸裂する抽象性と象徴性や暗示。その美しい切れ味と言ったら、もう怖いくらいの、いつもの「あの」金森ワールド。そう言えば充分でしょう。45分間、ヒリヒリ、ゾクゾクいたしました。

続く第2幕は、第1幕刷新のきっかけとなり、前回驚きながら見詰めた序破急の文字通り「破」のパート。今回は落ち着いてじっくり観ることが出来ました。(でも、そう言うと少し妙ですよね。)そしてこちら第2幕にも第1幕ほどではありませんが、若干の変更があることに気付きました。あやふやで覚束ない記憶を辿っただけですが、「あの場面がなかったな」とか思いました。
鮮烈な色が提示されるなか、交錯するそれぞれの孤独、そして欲望。何か起きない訳がありません。

いよいよ、初めて観る第3幕。多くは語れません。前日のfullmoonさんのレポートにあった「バレエ・ブラン」の要素も濃厚で、(バレエに疎い私が言うのもなんですが、)全3幕中、もっともバレエっぽいパートと言えるかもしれません。更にそこには、金森さんの過去作を想起させられるような趣向もあったりして、密かにそうした楽しみ方も忍ばせておいて悪戯っぽく笑う金森さんを思い浮かべたりもしました。

そこからは圧倒的な群舞で魅せるパワープレイも決まりまくりで、その果てに待つラストシーン、やはりそこも見どころのひとつです。最後まで目が離せない案配になっているのですが、それは皆さんがドキドキしながら、ご自分の目で確かめてください。

終演後、満席の客席から響いた万雷の拍手と「ブラボー!」。それはカーテンコールが繰り返されるにつれて、更に一層の大音声となっていきます。やがて、あちこちで始まったスタンディング・オベーションはどんどん広がりを見せ、結果、5階席のてっぺんまで、場内のみんなが総立ちとなって拍手を送ることになっていました。それはまさに圧巻の光景そのもの。客席にそんな途方もない熱量を生み出してしまうほどの「名作」バレエ誕生の現場に居合わせることが出来た喜び。熱い感動に満たされて、できることはただひとつ力を込めて拍手するのみでした。

公演初日のブログでかずぼさんが書いてくれたように、この『かぐや姫』東京公演3日間は、文化庁助成による「劇場・音楽堂等の子供鑑賞体験支援事業」の対象とされ、「子ども無料招待」公演でもありました。会場から出ようとしていると、前方には、鑑賞を済ませた子どもたちを待つ多くの保護者たちの姿がありました。恐らく、恐らくですよ。恐らく、子どもたちは出迎えた保護者たち、その誰一人の想像も及ばないほどの芸術の深淵に身を浸す時間を経験したことでしょう。繰り返しますが、恐らくですよ。子どもたちの顔はどれも輝いていました。それは勿論、彼ら彼女たちだけではありませんでした。東京文化会館を出て、振り返ったとき、目に飛び込んできたどの顔も一様に笑顔でしたから。大人も子どもも例外なく。

私も容易には立ち去り難く、場内で見かけた知人が出て来るのを待って、ひとことでも言葉を交わさないではいられない心持ちになり、…。

そんな東京バレエ団×金森穣の名作『かぐや姫』は、このあと、12月3日(土)と4日(日)のりゅーとぴあ〈劇場〉に場所を移して降臨します。是非とも新たなバレエの「歴史」を目撃し、大きな感動にうち震えにいらしてください。新潟でお待ちしております。

(shin)