感性の領域を押し広げられずにはいない2演目-Noism0 / Noism1「領域」新潟公演初日♪

雲が垂れ込めた鈍色の低い空からはひっきりなしに雨が降り続け、湿度が高かったばかりか、時折、激しい風雨となる時間帯もあり、まさに憂鬱そのものといった体の新潟市、2023年6月30日(金)。しかし、私たちはその憂鬱に勝る期待に胸を膨らませて、19時を待ち、劇場の椅子に身を沈めたのでした。Noism0 / noism1「領域」新潟公演初日。

ホワイエにはこれまでの外部招聘振付家による公演の(篠山紀信さん撮影の)写真たちやポスター等が飾られていたほか、見事なお祝いのスタンド花もあり、それらによって、内心のワクワクは更に掻き立てられ、舞台に臨んだのでした。

開演時間を迎えると、顕わしになったままだった舞台装置の手前に緞帳が降りてきて、客電が落ちます。それが再びあがると、Noism0『Silentium』は始まりました。沈黙と測りあうような音楽はアルヴォ・ペルト。先日の黒部・前沢ガーデン野外ステージでの『セレネ、あるいはマレビトの歌』に続いてのペルトです。そして、数日前にビジュアルが公開された金色の衣裳は宮前義之さんの手になるもの。眩い金一色に身を包んだ金森さんと井関さん。久し振りに髪が黒くなった井関さん、たっぷりした衣裳の金色も手伝って金森さんと見分けがつかなくなる瞬間も。そのふたりが絡み合い、動きに沈潜していくと、2体だった筈の身体領域は溶け合い、ほぼ一体化してしまい、もはやふたりには見えてきません。それは「じょうさわさん」と呼ばれるのが相応しいほどで…。おっと、まだまだ書きたいのですが、ネタバレみたいになってもいけませんし、これがギリギリ今書ける限度でしょうか。ただ一言。観ている側も己の感性の未踏の領域を逍遥せしめられるとだけ。

15分の休憩を挟んで、ノイズが轟くと、二見一幸さん演出振付のNoism1『Floating Field』です。こちらは以前の公開リハーサルで全編通しで見せて貰っていたのですが、照明と衣裳があると、(ほぼ身体だけを用いることは変わらないのに、)やはり格段にスタイリッシュで、実に格好いい仕上がりになっていました。そして小気味よく心地よい動きの連鎖や布置の更新の果てに何やら物語めいたものが立ち上がってくるかのようにも感じられます。随所で、脳内の「快」に関する領域(扁桃体)をくすぐり、ドーパミンの放出を迫ってくる憎い作品と言えるでしょう。

そしてこの日はアフタートークが設けられていて、地域活動部門芸術監督・山田勇気さんと二見一幸さんが登壇し、『Floating Field』に関して、主に客席からの質問に答えるかたちで進行していきました。なかから、いくつか、かいつまんでご紹介します。

Q: 誰がどこを踊るかはどう決めたのか?
 -A: 直接、触れ合ったなかで、ワークショップの様子などを観察して決めた。

Q: 二見さんの「振り」・動きはどうやって出てくるのか?
 -A: まず適当に音楽をかけて、即興で動きを作っていく。そのなかで、伝えら
れないものは排除して、相手の舞踊家に「振り」を渡して、キャッチボールするなかで、刺激されながら作っていく。
音に合わせている訳ではなく、音と関係ないところで作っていくが、そのうち、音が身体に入ってきて、自然と合っていく。 

Q: 作品を作るときに信条としているものは?
 -A: 自分のやりたいと思ったものが心に訴えかけるものでないこともある。客観的に判断して、独りよがりにならぬよう修正・変更したり、変えていく勇気を持つこと。

Q: 井関さん曰く、「金森さんと共通性がある」とのこと。どこだと思うか?
 -A: グループを組織して牽引していることから、メンバーを活かすことやタイミング的にどういったものを踊ったらよいか考えているところかと思う。

Q: Noism1メンバーの印象は?
 -A: 踊りに対して向き合う姿勢がプロフェッショナル。と同時に、ふとした瞬間に、可愛らしい人間性が垣間見られた。一回飲みに行きたかった。(笑)

Q: テーマ「領域」について
 -A: まず、二見さんが送ってくれた「演出ノート」があり、金森さんも同様に、お互いに作りたいものがあり、そこで共通するものとして「領域」と掲げた。
舞台の空間(領域)において発表することを前提に、Noism1メンバーのコミュニケーションの在り方、繋がり、意識、身体を用いて、最後は天昇していくイメージでクリエイションを行った。

…とそんな感じだったのでしょうか。最後に、山田さん、「二見さんはご自分でも格好いい踊りを踊る」とし、更に「(二見作品は)その日によって見え方も変わってくると思う。まだチケットはありますから、また見に来てください」との言葉でこの日のアフタートークを結ばれました。

あたかも「万華鏡」のように、舞台上の様々な場所で動きが生まれ、踊りが紡がれて、様々に領域が浮遊するさまを楽しむのが二見作品『Floating Field』だとするならば、金森さんと井関さんがそれぞれ領域を越境し、侵犯し合い、「じょうさわさん」と化して展開する一部始終に随伴することになる金森作品『Silentium』。畢竟、いずれも観る側の感性の領域は押し広げられて、見終えたあとには変貌を被った自らを見出すことになる筈です。

「ホーム」新潟での残り2公演、お見逃しなく!

(shin)

「感性の領域を押し広げられずにはいない2演目-Noism0 / Noism1「領域」新潟公演初日♪」への3件のフィードバック

  1. shinさま
    公演内容諸々、どうもありがとうございました!
    素敵な、素晴らしいダブルビルでしたね。
    ホント、shinさんが書かれた通り、感性の領域が広がる思いです。

    『Silentium』は「眼福」としか言いようがありません。
    なんと素晴らしい境地なことでしょう✨
    時空を超えていく、清浄な静謐な愛の世界。
    舞台に現れた「じょうさわさん」の衣裳を見た時、デザイナーの宮前さんは宇宙をイメージしたのだろうと思いました。
    プログラムを読んだら宮前さんのメッセージにそのようなことも書いてありました。
    この宮前さんのメッセージがまた素晴らしい!
    来場時に配布されますので、ぜひお読みくださいね♪
    (サポーターズ・インフォメーションも折込されていますよ!)

    そして『Floating Field』は「カッコイイ」としか言いようがありません。
    グイグイ来る、舞踊家たちの真っすぐなパワーに圧倒されます。
    ウワォ! エネルギー浴びてます、みたいな。

    この2作品上演にアフタートークまであるなんて、なんと贅沢なことでしょう!
    今日、明日の公演がますます楽しみです。
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      コメント有難うございました。
      見終えて暫く言葉を失い、誰ともほとんど何も話すことなく、この日のブログに向き合い、それでも纏めあげるのにはかなり時間を要しました。
      恐らく、それは普段、自ら頼む感性の領域では処理し切れない20分と35分だったことによるのです。ですから、勇気を振り絞って、その失語症的な当惑に向き合い、自分の奥底の領域から拾い集めてきた言葉たちを書き綴ってみたような塩梅です。
      まだ他に少し書きたいあれとかこれとかも見つけたのですが、まだ初日ブログに書く訳にもいかず、ならば、もう少し熟成させることにして、どんなかたちになるかなと楽しみにしている部分もあります。

      fullmoonさんが紹介してくれたプログラム中に読める宮前さんのメッセージ、あの金色の衣裳あっての『Silentium』であり、それぞれの才能がスパークすることで、それぞれの領域が拡張されていくダイナミズムを読むことが出来ますね。音楽と衣裳と舞踊、その拮抗振りが立ち上げた形象には息を呑んで随伴するほかありませんでした。

      『Floating Field』に関しては、アフタートークからもう少し拾います。初めて合流したとき、「人生で一番緊張した」と語った二見さんに対して、「見ていてわかりました。ガチガチだった」と続けた山田さん。更に二見さん、「舞踊人生のなかで貴重な経験でした。感謝します」とも。
      してみると、この度の委嘱からクリエイションを経て本公演までの期間は、恐らく『Floating Field』に関わった誰もが安全な場所から余裕の手捌きを繰り出せたのではなしに、誰もにとって未踏の領域との格闘だったのだと得心がいった次第です。

      そのことは、「今回のようなダブルビルの場合、先と後、どちらがよいか」と訊ねられた二見さんが、「先!早く楽になりたいから」と答えて会場を笑わせた場面にも表れていました。

      そして、このダブルビル公演が必見である理由を二見さんが語った次のふたつの言葉に見出したいと思います。
      まず、『Floating Field』に関しては、メソッドが確立されたNoism1メンバーが示す集中力・空気感・調和・協調性の故に、すぐにその集団性がかたちとなって見えてくるとして、自分のカンパニーで踊っても「こういうふうにはならないだろうな」と思うとのことでしたし、要するにこの機会を逃すべきではないということになりますよね。
      そして、もうひとつ、先に踊られた『Silentium』に関しては、「あんなふうには踊れないです」とこちらも必見ということで。

      「ホーム」新潟での公演は今日と明日もあります。
      山田さんは、上で触れたように、その日によって見え方も変わってくる格好よさが二見一幸さんの作品の持ち味としました。その言に関わって、少しだけ戯れるのをお許し願うならば、見られる機会があるのであれば、「度はるのが番のせ」かと。お後がよろしいようで。
      (shin)

  2. shinさま
    コメント返信ありがとうございます♪
    この度のブログ、おつかれさまでございました。
    shinさんをして、そこまで手こずらせるとは、それだけでも必見の証ということでしょう!

    本番前のshinさん名ツイート「沈黙は金」✨から、
    本番後、二見さんのお名前をもじった「二度は見るのが一番の幸せ」に至り、shinさんの感性の領域ますます拡大中、絶好調!
    今日明日のブログも楽しみです♪
    (fullmoon)

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