2017年12月17日(日)、師走のりゅーとぴあ界隈は、この日午後、
「新潟第九コンサート2017」等も重なり、駐車場が混雑し、
アクセスも容易ではなかったと思います。
そうした道路状況、それ自体が師走の風物詩でもあるのでしょうが、
15時の開演時間までに、りゅーとぴあ・劇場まで辿り着くだけで
疲れてしまったという方もおいでだったかもしれませんね。
でも、「マジック」を見せてくれた舞踊家の熱演が
それを吹き飛ばしてくれたことだろうと思います。
3日連続で、『The Dream of The Swan』と『NINA』を観てきました。
この日は5列目の中央席で、
3日間異なる距離から舞台に視線を送ったことになります。
新潟公演の楽日ということから、
幕が上がる前から、早くも軽い「Noismロス」的気分も込み上げてきて、
感傷的な心持ちだったかもしれません。
「瀕死の白鳥」も、『NINA』も、両目は前2日とは違った細部に反応していました。
井関さんのソロの後には、感動と緊張が綯い交ぜになった拍手が、
『NINA』の後は、安堵の笑みを浮かべ、息を吹き返した「生け贄」たちに
報いるべく大喝采が送られていました。
私は連れ合いと共に、埼玉公演にも足を運ぶつもりでおりますので、
埼玉でも、また井関さんの超豪華な「前座」付きの『NINA』が観られたら、
と願ってやみません。
公演終了後、同じ劇場で、NIDF2017を締め括る国際シンポジウムが開催されました。
公演の余韻を引きずり、席から動けぬままに、シンポジウムの開始を待ったことが
後程、つらい事態を招こうとはこの時、予想もしていませんでしたが、
それはまた後の話。
ここからは、シンポジウムでの発言要旨をご紹介しようと思います。
☆国際シンポジウム「アジアにおける劇場文化の未来」(16:30~)
パネリスト:
ホン・スンヨプ氏(韓国・大邱市立舞踊団 前芸術監督)
クイック・スィ・ブン氏(シンガポール・T.H.Eダンスカンパニー 芸術監督)
ウィリー・ツァオ氏(中国・香港・城市当代舞踊団 芸術監督)
金森穣氏(日本・新潟・Noism 芸術監督)
進行:
杉浦幹男氏(アーツカウンシル新潟 プログラム・ディレクター)
(1)『NINA -物質化する生け贄』の感想
ホン氏: 独創的で素晴らしい。現代舞踊とは何かを考えさせる作品。
スィ・ブン氏: ダンサーの真心、真摯な姿勢、強い意志を示すものと言える。
極限を追い求める、金森監督の性格を反映。
また、現代社会の様々な現象を表現していた。
ツァオ氏: 1ヶ月ほど前に香港で観た際、スタンディングオベーションが捧げられた。
それと比較して、日本の観客は控え目だと感じた。
内容的には、特に西洋から来た観客の目にはジェンダーの区別を持ち込むことは
この時代、不適切ではないかという指摘もあり、議論になったが、
自身は、今、アジアで起こっていることだと発言。
加えて、闘う女性の力強さに感銘を受けた。
金森さん: ジェンダーに関して、女性陣が「被害者」に見えるとしたなら、
それは観る側の意識によるものと言わざるを得ない。
全く別に、女性の抗いようのない魅力に男性が囚われているとも見えるはず。
この作品に芸術としての有用性があるというなら、
まだまだ社会がそこまで来ていないことの証。
(2)芸術の在り方、行政との関係
ツァオ氏: 1979年、香港コンテンポラリーダンスカンパニー設立。
香港が経済的に潤っていた時期、友人に声をかけ、
プロの集団として集まって貰った。
1985年、政府の目に留まり、支援を受けられることになり、
現在は50%の支援得ている。
ほかに、ワークショップ、トレーニングクラス、学校の入会金等の収入があり、
すべてコントロールされることがなく済んでいる。
スィ・ブン氏: 9年前にスペイン国立ダンスカンパニーを離れて帰国し、
ヒューマン・エクスプレッション・ダンスカンパニーを設立する。
スペインでの5年間、トップクラスのダンサーたちと過ごすなかで、
自身の芸術生命をどう活かすか考えてのこと。
シンガポールのダンスシーンはアジアでも立ち遅れていて、
設立当初は大変だった。
経済的にも、毎月の給料は日本円にして50,000円程という厳しさだった。
数年して、国家芸術局からの支援が始まり、現在、8名のフルタイムのダンサー
がいて、40~50%の資金を得ている。
支援は多いほど望ましいが、無条件にダンサーを信頼してほしい。
それによって、社会へのより良い貢献が可能になると考える。
ホン氏: 現在の大邱市立舞踊団は自身が関わった4つ目の舞踊団。
創立から36年間、ほとんど変化らしき変化は認められない。
芸術監督がよく変わる。最善を尽くしても、サポートされていない状態。
現代舞踊は新しい作品を作るだけでなく、
組織の構造も新しくしなければならない。
芸術的にいかなる干渉もなされないことが大切。
金森さん: 欧州から帰国した際、この国の劇場文化の在り方に大きな疑問を抱いた。
2004年、Noismを立ち上げたが、後世、そこが転換点として見なされるように
なることが野望。
以来、13年間、戦い続けてきているし、それはこの先も変わらない。
社会的な効果という話になると、経済的な効果が重視されがち。
市民の理解を得るためには、舞踊芸術に携わる者の専門性が大切。
ご覧いただいた『NINA』など、全身全霊を傾けた作品は、
今の新潟の環境なしには考えられない。
Noismでこの国の扉を開けたが、まだまだ立証を続けていく必要がある。
(3)芸術、現代芸術、コンテンポラリーダンス
ホン氏: 人は伝統芸術の価値は知っている。現代芸術の価値を考えてみる必要がある。
現代舞踊、その場に居合わせなかったら、「風」のようになくなってしまう存在。
人によって見せられて初めて伝達される性質のものであって、
記録して残せるジャンルではない。
しかし、社会を反映する鏡のようなものであり、
同時代で最も大事なものであると考えている。
韓国では、芸術と娯楽の区別が曖昧なものになりつつある。
娯楽とは商業的なもので、支援などなくとも成功すると決まっている。
対して、芸術には市場が形成されていないため、社会がその真価を認めないと、
作品は生み出され得ない。現在は、「割れた鏡」とでも言うべき状況である。
スィ・ブン氏: 芸術の本質・機能を信じることから良い作品は生み出され得る。
そのためには、無条件の支援が必要。
シンガポールが直面する問題に、支援に関して、決定権を持つ人は
概して決定力がないことがある。
政府には長期的なプランがないため、決定することを恐れていると言える。
ツァオ氏: 理念と戦略が欠如しているため、常に政府相手に説得に努めてきた。
例えば、国際交流。商業的なコンテンツではなく、如何に革新的であるかが大切。
また、国際交流に関しては、社会における問題をその場その場で提起し得るダンス
こそ最もよい素材と言える。
支援に関しては、担当者に知己も増えたことで、「私たちには観客が少ない。
だからこそ私たちに支援すべきだ」という訴え方をしたりもした。
関わる人数の大小をピラミッド構造で捉えてみると、
商業的なものが最も大人数で一番土台を成していて、その上に伝統芸術が来て、
で、コンテンポラリーダンスは一番上に来る状態にある。
土台は既にある訳だから、政府がやるべきことは一番上の部分を支援し、
そこを作っていくことである。
ピラミッドの頂点がその社会を象徴している。
行政は承知すれば支援してくれる。 → 説得の必要性。
ホン氏: 社会における芸術の役割を思うとき、芸術や芸術家は存在するだけで
社会的な役割を果たしていると考える。芸術を社会で活用する方策は無限にある。
国家・政府からの支援を受ける以上、そうした役割を果たす必要がある。
しかし、芸術家の関心の的はクオリティのみになりがち。
小学校での公演→娯楽とは異なる芸術の門を叩く瞬間を用意する意義は大きい。
同じ公演でも、芸術家の立場を排除して作られたものなら、
商業的なものに堕してしまいかねない。
(4)芸術、闘い
金森さん: 既存のものに闘いを挑まなければ芸術ではない。
それぞれの国で、如何に彼らが闘っているかについて聞きたい。
スィ・ブン氏: 一番の闘いは自分自身との闘い。
自分がどれほど意志が強く、芸術に向き合い、挑戦していくか。
どれくらい人に影響を与え、考えを変えることができるか。
今、シンガポールで嬉しいのは、若い人(概ね35才以下の人)が
熱い心を持ってコンテンポラリーダンスに向き合っているのを目にすること。
とても心強く感じている。あとはこれからどう勉強していってくれるか。
ホン氏: 現代舞踊が良いものになるためには、良い芸術家がいなくてはならない。
そして、それを支援する観客の存在があって初めて、公的な支援という話になる。
金森Noismを観て、良い劇場があり、観客が多く、羨ましい。
ずっとうまくいくのだろう。
(金森さんは、すかさず、観客多くはない。(席が)空いている、と応答。)
ツァオ氏: 現在、24都市が連携して活動しており、小都市を公演しながら旅している。
地方毎に抱えている問題は異なる。→資金を獲得する方法もひとつではないが、
色々な小都市を旅して公演し、「ホーム」へ戻ると誇らしく思って貰える。
それもまた芸術教育が持つ一側面。
金森さん: 各国の価値観、闘い方、活動の仕方、夢などを聞けた。
「Ryuto(りゅうと)」という(ペットボトルの)水を飲みながら、
こういうことがここ新潟で起こっていることが個人的には凄く嬉しい。
*篠田昭・新潟市長の挨拶
篠田市長: 「文化芸術振興基本法」(2001)が今年「文化芸術基本法」に改正。
生活の文化の重視等、これまで新潟が辿ってきた道筋は間違っていない。
『NINA』も、自らの身体を鍛え抜く環境に置かれたダンサーにのみ可能な作品。
それらが相俟って、2015年に新潟市は東アジア文化都市に選んで頂けた。
これからも、金森さんに怒られながら、持続可能な活動を作り上げていきたい。
---以上、シンポジウム終了の18:20までの約2時間、私も闘いました。(汗)
(1)途中から襲ってきた尿意を懸命に意識の外へ追い払いながら、
(2)ボールペンを握ってメモをとり続けた右手もだるくなり、更には痺れてくるし、
指先は痛み始めるしで、…
それらが、件の「つらい事態」の中身で、その闘いはそれはそれで大変だったのですが、
複数の方から「内容を知りたい」とレポを頼まれてしまっては仕方ありませんね。
逐次通訳が行われたことで時間的なゆとりが生じたことと、
『NINA』で身体を酷使する舞踊家の姿を観た後だったことがあり、
それで乗り越えられたのかな、と思っております。(笑)
書き漏らしもあるでしょうが、そこはご勘弁を願います。
今は、「重責」を果たし、肩の荷を下ろしているところです。(汗)
参考にしていただけましたら、頑張った甲斐があるというものです。
さて、NIDF2017が滞りなく終了し、
9年振りの『NINA』は、このあと、
明けて2月17日(土)、18日(日)の両日、
会場を彩の国さいたま芸術劇場(大ホール)に移して、
全2公演が行われます。
関東圏に降臨する「生け贄」たちを
ひとりでも多くの方から目撃して欲しいものです。
ご期待ください。
(shin)
shinさま
新潟公演楽日、すばらしかったですね!!!
まさに感動の舞台。
家ではずっとNINAごっこが続いています。
そしてシンポジウムでのshinさんの闘い、大変おつかれさまでした。
その結実である詳細レポートを享受できる私たちは幸福です。
shinさんの厳しい闘いぶりと、シンポジウムで闘い続けると発言した金森さんの言葉に、私自身が励まされています。
どうもありがとうございました。
(fullmoon)
fullmoon さま
大変に恐縮です。
逐次通訳が入るので、やれるかなと思い、挑んでみました。
聞いていて面白かったので、何とか共有したいという思いも
湧いてきたのでした。
途中からは、「膀胱の容量」との闘いが一番つらかったのですが、
ここで頑張ってすぐアップしなければ、
「マジックがないんだよ!」って言われそうなので、
なにくそと。(笑)
『NINA』、新潟3公演を、様々違った距離から観られて
とても面白かったです。
「NINAごっこ」ですか?
私は、「新しい操り手」役のシャンユー君の「指揮者」振りと
連続跳躍が出来た気になっていて、主にそれを楽しんでいます。
勿論、全然出来てはないんですけどね。(笑)
(shin)
リポートありがとうございます。とんでもないご苦労をなさったようで、大変お疲れ様でした。
「良い芸術」が生まれるためには芸術家がその専門分野のみに打ち込める経済環境がなければならないのは世界中どこでも同じことで、ダンス分野ではその上で優れたリーダーのもとに「良い舞踊家」が集まって日々の鍛錬に励む必要があります。日本国内のコンテンポラリーダンス分野では唯一新潟にその環境があり、NINAのような素晴らしい成果を生み出しています。ほとんど奇跡的な話で、よそ者としてはうらやましい限りですし、それを許容している新潟の皆様に敬意を表します。
現在Noismは3年を1期とする活動の第5期2年目に入ったところで、第5期の期限は2019年8月までです。来年11月には新潟市長選挙がありますから、ぜひNoismを初めとする芸術活動に公金をつぎ込み続ける方が次の市長に選ばれることを念願してやみません。そうでないとNoismの活動第6期がなくなるどころか、5期の途中で契約打ち切りなんてことにもなりかねない、と個人的には危惧しています。もちろん新潟の皆様がお決めになることなので、よそ者が口を出す話じゃないんですが。
ただ、現在は新潟でしか見られない芸術的成果が確かに存在していて、それは当たり前に得られるものではなく、ほとんど奇跡的に存在しているきわめて価値の高いものです。従ってそれを決して失うべきではなく、積極的に守り続けるべきであることは声を大にして言いたいです。
あおやぎ さま
コメント有難うございました。
お気遣いにも感謝です。
更に、コメントのなかの次の部分、
>現在は新潟でしか見られない芸術的成果が確かに存在していて、それ
>は当たり前に得られるものではなく、ほとんど奇跡的に存在している
>きわめて価値の高いものです。従ってそれを決して失うべきではな
>く、積極的に守り続けるべきであることは声を大にして言いたい
>です。
全く同感です。
Noism歴が浅く、
既にある種「安定軌道」に入ってから観始めた私にとって、
Noismはあるのが当然、といった意識が強かったのですが、
市の財政的な側面が鍵を握っている事実に、
恥ずかしながら、漸く目が向かうようになったような次第です。
金森さんは常に闘って来られた訳ですし、
市民も覚悟を決めて闘う場面が来るかもしれませんね。
先日のサポーターズ交流会に顔を出してくれた際にも、
金森さんは、「以前、サポーターズの方たちが中心となって
嘆願書を持って市役所に行ってくれたお陰で、活動が続けられた。
もし、ヤバくなったら、またそれでお願いします」という
冗句を口にされていましたが、
先ずはそんな日を招来しないよう、劇場に足を運び、
周囲に魅力を伝える地道な努力からやっていきたいと思いました。
「なんでそんなに一生懸命なんだかわからないけど、
なんか一生懸命だよね」みたいな感じで伝わることを願って。
そんな思いを込めたシンポジウムのレポートでもあった訳です。
どうも有難うございました。
(shin)
あおやぎさま shinさま
うれしい限りのコメントどうもありがとうございます。
あおやぎさん、新潟市民ではない方のご意見も大変重みがありますから、「よそ者」などと言わず、これからも応援どうぞよろしくお願いいたします。
shinさん、シャンユーくんは、うちでは「教祖」と呼んでいます。
この役は青木尚哉さんのイメージが強いですが、パリ公演では中川さんがやりましたよ♪
昨日の真下恵さんのバレエヨガではクラス全員が公演を観ていて、みんなでリクエストしたら、NINA歩きや振りのほんの一部を特別にレッスンしてくれました。
やってみたら(できないけど)、やはりNoismメンバーは超人なのだなあとますます思い知らされたのでありました。
(fullmoon)
fullmoon さま
諸々教えていただき、有難うございます。
「教祖」ですか。
ホントだ。「教祖」だ、「教祖」だ。
今回のシャンユー君の「教祖」も衣裳も相俟って、
エキセントリックな感じで良かったですよね。
あと、真下さんのバレエヨガでの『NINA』伝授、羨ましい。
真下さんも、「腹だよ。腹!」的でしたか。(笑)
是非とも、今度、伝授願います。(笑)
(shin)
shinさま
伝授なんてとんでもないですが、真下先生は優しいですよ~♪
「おなかはへこませて」くらいです。(笑)
(fullmoon)
fullmoon さま
ですよね、あはははは。(笑)
(shin)