名作『R.O.O.M.』/『鏡~』を反芻する「桃の節句」、特別アフタートーク特集

2019年3月3日(日)16:30のスタジオB。先週その幕を下ろした「名作」実験舞踊vol.1『R.O.O.M.』/『鏡の中の鏡』に纏わるディープな話に耳を傾けんと、大勢の方が詰めかけ、スタッフは大急ぎで椅子を増やして対応していました。関心の高さが窺えるというものです。そして私たちの向かい側、私たちが見詰める先には「桃の節句」らしい雛壇こそありませんでしたが、並べられた人数分の椅子に、つい先日までとは打って変わってリラックスした表情の13人の舞踊家が腰掛け、この日の特別アフタートークは始まりました。
ここではその一部始終をお伝えすることなど到底できませんが、なんとか頑張って、少しでも多くご報告したいと思います。

勢揃いした13名。左から順に、西澤真耶さん、西岡ひなのさん、カイ・トミオカさん、チャン・シャンユーさん、チャーリー・リャンさん、池ヶ谷奏さん、金森さん(中央)、井関さん、浅海侑加さん、ジョフォア・ポプラヴスキーさん、林田海里さん、井本星那さん、そして一番右に鳥羽絢美さん。お内裏さまが居並ぶような華やかさがありました。

併せまして、noiさんがtwitterにおける今回公演に関するツイートのまとめを二度に渡って行ってくれていますので、そちら(togetter)も参考にされてください。
 ☆新潟公演時点でのまとめ 
 ★東京公演のまとめ

先ずは『R.O.O.M.』、天井のアイディアのきっかけ
NHKのドキュメンタリー番組でシャーレを観察する様子を見て、感銘を受けて、「上からかぁ。スタジオBならできるかなぁ」と金森さん。
そこからは、柱もないこともあり、荷重を巡って、「一度にあがるのは3人くらいがせいぜい」と言う舞台監督と、「12人」と言う金森さんのやりとりが始まっていったのだと。
天井高については、井関さんの逆さ天井歩きから自ずと導き出された高さであるとのこと。

「プロジェクションマッピング」に関して
チャーリーさんの腹部と背中のそれに関しては最初から用意していたものを途中から使った。
一方、井関さんの方は、ソロのバックに何かが足りない、映像であることの必然性が足りないと感じて、撮影して追加したもの。お陰で、「過ぎた時間と対話して踊る」印象になった。(別の機会に、井関さんから、井関さんが増えて見えるそのシーンが『おそ松くん』と呼ばれている旨伺っていたこともここに書き添えておきます。)
また、投影方法に関しては、新潟は上から、東京は下からと異なった。(東京では井関さんから「眩しい」と文句を言われたとか…。)

ポワントについて
金森さん「ポワントなしだと何かが足りない。数センチ足したら、これでいい、と。今後も使うつもりはある」
池ヶ谷さん「目線が高くなり、床面との距離感が変わって最初は怖かったし、筋肉痛もあったが、履くことで出る新しい動きを楽しみながら履くようにしていた」
浅海さんも同様で、「ポワントでしか出来ない動きがあり、新しい発見があって面白かった」
井本さん鳥羽さんは「ポワント履いて普段やる動きではないので、思わぬところが破けたり、消耗が早かったりした」
西岡さんの「大胆な動きが多かったので、『ポワント、可笑しいだろ』と思った」には会場中が大爆笑。
西澤さん「なかなか昔の感覚が戻ってこなくて、穣さんに『お前、ホントに履いてたのか?』と言われた」
井関さんは「20年振りだった」と。

Noismに入ろうと思ったきっかけ
カイさん「日本人とイギリスのハーフ。ストリート系が主流のイギリスのコンテとは異なるスタイルの日本のダンスがどんなものか、日本でしか学べないものを学びたかった」
シャンユーさん(今回、新加入ではありませんが、)「10年前、台湾で『NINA』を観て、金森さんと井関さんからサインを貰って、写真を撮って貰った。先輩のリン(・シーピン)さんが所属していたので、自分もできるかなとオーディションを受けた」
チャーリーさん「2017年、香港の大学を卒業後、フリーランスで踊っていたが、つまらないと感じ始めていた頃、『NINA』公演の際、オーディションを受けた。その後に『NINA』を観たのだが、今まで観たことのないダンスだった」 (帰国後、「オーディションの結果はどうだった?」とチャーリーさんから定期的にメールが来ていたことを金森さんが明かすと、会場は笑いに包まれました。)
ジョフォアさん「Noismのことは知らなかった。日本人の彼女がいることから、日本には来たいと思っていたのだが、所属するカンパニーを離れる決断はつかなかった。そんな折、芸術監督の交代とNoismの募集が重なった」
林田さん「6年間、欧州にいた。Noism出身の人もいたので噂は聞いていて、興味があった。当時、チェコにいて、生活のリズムや働き方のスタンスの違いに直面し、自分のやりたいことが出来るのか疑問に感じていた。何かを変えないとやりたいことに到達できないと思って、オーディションを受けた」

あのチャーミングな靴下について
元々はグレーでいくつもりだった(確かに公開リハのときはそうでした。)が、衣裳を着けてみると「色味が足りない」となった。それが本番の週の頭のこと。で、井関さんの靴下ボックスから色々並べてみて、オレンジ(女性)、ピンク(男性)とすることになり、買いに走ったもの。女性用はチュチュアンナ、男性用はユニクロでお買い上げ。但し、男性用は途中を切って縫い直してあるのだそう。

次にあの「銀色」の正体について
床は(業務用)アルミホイル+その上に透明なシート。天井と横も同様にアルミホイル。「何度も買い足しを行っただけでなく、その店の在庫全部を買ったこともあった」(制作の上杉さん)

『R.O.O.M.』の「壁」
横3ケ、奥6ケに分解でき、床は平台の上に載っている。移動は、10トントラック1台+4トントラック1台で行った。このあと、りゅーとぴあからシビウに向けて発送するとのこと。

『鏡の中の鏡』の音楽について
最初は振付を全く違うアルヴォ・ペルトの曲(『Spiegel Im Spiegel』)に合わせて行ったのだが、楽曲の使用料が高すぎることで断念、変更したもの。

キャストのアンダーに関して
この長丁場の公演、13人の舞踊家に不測の事態があったときのアンダーとして、準メンバーの片山夏波さんと三好綾音さんを同行させていて、ふたりで、女性キャスト6名のパートを半分の3名ずつに分けていたとのこと。それでも男性メンバーのアンダーは不在のため、もし何か起きたら、構成を変えるか、「俺がやるか」(金森さん)ということだったらしいです。

今回、全18回の公演を通した後の心身の変化について
西澤さん「最初、下りるとき、腕がプルプルしていたのが、2回公演でも平気、最後は全然余裕になっていた」
鳥羽さん「一日2回も『あっ、いけた!』と自分でも嬉しかった。リフレッシュしながら、違うお客さんに新たなものを見せることの大切さに改めて気付いた」
西岡さん「自分はルーティンを変えたくない人。リラックスの仕方が重要と思った」
井本さん「下りることが毎回同じにはならないことで、踊りに影響が出ていたりした。しかし、今は、『違っていいのだ』と違うことを楽しめるようになった」
カイさん「セクション毎に動きの質が違う作品。その都度違うことが起きるのは仕様がない。その都度学ぶことがあった。最後の公演で気付いたことを最初に気付いていたかった」
林田さん「公演期間中、生活にも緊張感があった。これほど体調に気を遣ったことは今までなかったこと」
シャンユーさん「Noism3年目で悩みもある。最初に肩を痛めてしまい、自分は踊らない方がいいんじゃないかとすら思ったりしたが、ストレスのある実人生も、ステージ上では幸せを感じた」
ジョフォアさん「全部のエネルギーでぶつかっていくタイプなのだが、『R.O.O.M.』は違った。頑張れば頑張るほど、金森さんの美学と違う方向へ行ってしまった。受け入れて、金森さんの求めるように動こうとしたら、味わったことのない痛みが味わったことのない箇所に生じたりしたが、しっくりいき始めた」
チャーリーさん「パフォーマンスは毎回、精神状態も身体のコンディションも異なる。日々違う自分と向き合う経験をした」
浅海さん「実験舞踊ということで、自分でもルーティンを止める実験をした。その日その日で違う18回、違う圧、違う空間を感じることが出来た」
池ヶ谷さん「公演回数が多いことは経験もあり、どこでどのようになるのか予想はついていたが、年齢から回復に時間を要するようになった。踊っている以外にも色々考えていなければならないことが多くて、集中するのが大変だった。濃い一ヶ月を過ごせた」
井関さん「過去にも20回公演などの経験がある。細かなことは覚えていないが、全て自分の血肉となっていると思う。今回も、全て踊り終わった直後、『踊りたい』と思った」
金森さん「その都度、その日やることをやるだけ。怪我とかせずに踊り通せたことは自分を褒めてあげたい。舞踊家として過ごしてきて、今、頭の中にフィジカルなものが浮かんでいる。今はフィジカルなものを作りたい気持ちでいる」

『R.O.O.M.』の振付について、或いは、振付(創作)一般について(金森さん)
「『R.O.O.M.』では、何かを計算してということではなく、意味とか情感から入るのではなくして、理路整然としたズレではないものを『面白いな』と選んでいった。どうなるのかわからないなか、やってみて、立ち上がったものから拾っていった感じ。」
「最初に動機はあるが、形や動きにしたときにどうなるのか客観的に判断しなければならない。生み出したものの責任を負う。それがより生きるためには何をするべきなのか。クリエーションにあっては、自分の作品なのだけれど、自分の所有物ではないという感覚、それを大切にしている」
「(自分の)感情を起点にして振付を行うと、限定的なものになり、作品が閉ざしてしまうことに繋がりかねない。敢えて、自分とは違うものを求めるなど、作り出す営為にはそれがどのように見えるかの視点が大切」

市長とのその後
Noismの今後の命運の鍵を握る中原(新)市長とは、市長の鑑賞後、まだこれといった交わりはなく、「近々、観に来ていただいたお礼を言いに行くつもり」(金森さん)とのことでした。

その他、国際性を増した新メンバーに関して、Noismメソッドの印象、自国と日本の違いなど、興味深いお話が続きましたけれど、さすがに全てをご紹介することはできません。そこで、ここでは林田海里さんとカイ・トミオカさんの言葉を引いて一旦の締め括りとさせていただきます。
まず、林田さん、「このジャンルは多様性ありき。色々な国籍の舞踊家がひとつのカンパニーにいて当たり前。見易い国籍の違いではなく、パーソナリティやアイデンティティの違いを楽しんで貰いたい」
そして、カイさん、「それぞれの舞踊家に対して、ここまで欲しいもの、欲しい身体がクリア(明確)な芸術監督は金森さんが初めて。これまでは至って自由だったと言える。その求めるものの結実を見たものがNoismメソッドだと理解している」また、「他国で踊っている舞踊家の方が舞踊家でいることが容易だ。こうしてNoismで踊れていることがどれだけラッキーなことかと思う」とのことでした。

記事の最後に重要なお知らせがあります。只今、6月のモスクワに招聘されている劇的舞踊『カルメン』の公開リハーサルの日程を調整中とのことですが、それをご覧になるには、支援会員であることが必要だそうです。
そして、その公開リハ、キャパの都合から2回行う方針だとのことでした。国内ではその2回が『カルメン』を観る機会の全てとなります。まだ、支援会員になっておられない方にとりましては、最重要検討事項であること間違いありませんね。

この日の特別アフタートーク、18:00の終了予定時刻を15分過ぎた18:15にお開きとなりました。105分間に渡って、それこそあの「名作」のように、どんな話が飛び出すか予測不可能な成り行きに身を任せて、あの「名作」を反芻することが出来ました。ここで取り上げられなかった事柄もまだまだ沢山あります。コメント欄にて、皆さまから書き加えたりして頂けましたら幸いです。宜しくお願い致します。

それでは、次は鮮烈な赤のチラシ&ポスターが既に私たちを挑発しているNoism2定期公演の会場でお会いしましょう。
(shin)

「名作『R.O.O.M.』/『鏡~』を反芻する「桃の節句」、特別アフタートーク特集」への4件のフィードバック

  1. shinさま
    詳細なご紹介、どうもありがとうございました!
    100人もの観客が参加し、感想・質問も多く、濃い105分でしたね!
    メンバーの皆さんのお話をお聴きし、皆さんの個性を垣間見ることができたようで楽しかったです♪

    さて、前の記事コメントのあおやぎさんの質問についてです。
    トークでのアンダーかポワントの話のときと思いますが、本番前に井本さんが足を少し痛めたので、初演~途中日程 のパドブレシーンの一部は井本さんが参加しない変更バージョンになっていたのだそうです。その後、井本さんが復帰して元のバージョンになったそうです。ということは、変更バージョンが変更されたことになるので、初演を見て、その後しばらくしてから見ると、あおやぎさんの仰る通り、その部分は無くなっていたのかもしれませんね。

    男性チームのダンスや、池ヶ谷さんがシャンユーさんのリフトでジャンプするところ、全員シーンでの浅海さんの踊り追加、等々々、マイナーチェンジがたくさんあったみたいですよね。
    変更に次ぐ変更って、踊る人たちは大変だと思うのですが、それが金森さんだし、舞台に緊張感を生み出す要素のひとつなのかもしれませんね。
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      コメント、有難うございました。
      「パドブレ大会」の謎、
      もしかするとそういう事情なのかもしれませんね。

      「マイナーチェンジ」ならぬ
      「モデルチェンジ」或いは「バージョンアップ」みたいなことも時々ありますし、
      (例をあげるなら、『ラ・バヤデール』のエンディングの変更や、
      『ロミジュリ(複)』における映像の差し替え、
      舞台構造上の要請に基づく別演出バージョンの存在、等々)
      今回の井関さんの投影「おそ松くん」場面も
      印象をガラッと変えてしまいかねないほどのインパクトがありました。
      安穏として観ていられないのが、
      金森さんとNoismなのですよね、と改めて。
      ですから、何度も観たくなっちゃう訳で。

      それにしても、繰り広げられる「刹那」を
      受け止めるだけの目を持つことの難しさはなんとかなりませんか。
      なんともなりませんね、ハイ。
      何度も足を運びたいと思います。(汗)
      (shin)

  2. shin様

    レポートありがとうございます。
    若干の補足を述べますが、
    『鏡〜』の音楽は、調性からしてベートーヴェンの「月光」のように思えたが?という質問に対して、ベートーヴェンの曲を深層学習させたAIが作曲したものであり、ベートーヴェン的に聴こえる。David Copeが作曲したものをAIに学習させて作曲させればafer David Copeとなるように、と。
    また、『鏡〜』を、振付けた時の音楽は(ペルト後)、井関さんポルドガル民謡、金森さんマイケル・ジャクソンのSmooth Criminalを使った。

    アルミホイルに関しては、業務用アルミホイルを30cm×30cmに切って使った。

    個人的には、『R.O.O.M.』の横一列に並ぶ振付のくだりで、金森さんから「アルゴリズム」という単語が聞けたこともあって、振付・演出等において今日的テクノロジーを援用しつつ論理的アプローチをされている印象を受けました。

    1. noi さま
      重要な補足、有難うございました。
      寝落ちする寸前にあげたレポといったような事情もあるにはあったのですが、
      やはり書かれなければならない事柄ばかりでしたので、
      大いに救われました。

      まず、AIに関する部分。
      書かなきゃと思っていたのに、すっぽり落ちていまして、慌てました。(汗)
      金森さんが『鏡~』の音楽に関して示した
      あの問題意識、或いは視座は、
      先ごろの須長檀さんを招いての「柳都会」の折に
      顔を覗かせていたものにピタリ重なっていることがわかります。
      今回、デュエットでの使用曲としてクレジットされた「Sonata after Beethoven II」が持つ
      情緒的な面での「破壊力」たるや凄まじいものがありますよね。
      その「柳都会」でも「音楽を聴いて感動したあとに、
      『実はAIが作った音楽だ』と聞かされると怒り出す人もいる」
      と金森さんが紹介してくれた「対AI」(AIとの向き合い方)の
      今日的な状況を思い出させられました。
      で、その際、金森さんは、AIを巡る状況がやがて「対AI」から「対人間」に
      なっていくのだろうとも言っていましたけれど、
      『鏡~』でも、身体という古くて新しいメディアを使って、
      あのAIの音楽を凌駕する舞踊を見せつけてくれたお陰で、
      涙腺崩壊に至ったような次第なのでした。
      また、ソロパートで使われた「Horizons」はまさに
      After Copeとクレジットされる曲ですしね。
      After に次ぐ After は私たちをどこへ連れて行くのでしょうか。

      アルミホイルです。
      30cm四方でただ貼っていけばいいというものでもない、と金森さん。
      縦方向と横方向を絡ませていかないとあの質感は出ないとも。

      アルゴリズム。
      最後に発言した男子高校生が再三にわたって「かっこいい」と
      表現していたのは、それ、アルゴリズムが生み出すクールな持ち味によるものが
      大きいのかと思いました。

      あんなに息をも付かせない仕掛けに満ちた公演でしたから、
      観終わっても、思い出しては考え、
      そしてあんなに刺激的なアフタートークでしたから、
      聴き終わっても、思い出しては考え、と、
      とてもコスパの高い公演でしたよね。
      まだまだ反芻は続きそうです。
      (shin)

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