ツアー最終地、静岡公演初日を観てきました

2016年7月23日(土)、思ったほどの気温上昇もなく、曇天。
朝、新潟を出て、新幹線を乗り継ぎ、東静岡駅を目指したのですが、途中、分厚い雲がたちこめていて、残念なことに富士山の姿を拝むことはできませんでした。

静岡入りしてからはまず、Noismメンバーたちが食べていたハンバーグに舌鼓を打ち、夕方17時半過ぎに、目的地・静岡芸術劇場に到着しました。東静岡駅に向けて示すグランシップの威容に圧倒されながら、反対側にある入り口へ。受け付けや案内などをSPACの俳優の方々が担当しているなかに、新潟のNoismスタッフの姿を見つけ、やがて新潟から駆けつけたサポーターの方々と合流して話しをしながら、客席開場を待ちました。

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静岡芸術劇場はこじんまりとしていながら、アールが印象的な円柱に似た作り。開場時間になると、客席への入り口に立った小柄な芸術総監督の宮城聰さんに挨拶しながら入場するお客様が多くいらっしゃることに、「ここはあなたの劇場」を肌で感じることができました。「奥野さん、貴島さん、たきいさん、おかえりなさい」という思いの方々も多かったことでしょう。

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予定の開演時間18時半を少し過ぎていたでしょうか。静かに緞帳が上がると、鈍い銀色の慰霊碑、そして老いたムラカミの姿。ツアー最終地・静岡公演初日の舞台が始まりました。舞台を「額縁」のように区切る構造物を「プロセニアムアーチ」と呼ぶのだそうですが、こちらの舞台にはそれがないため、臨場感も格別です。いきなりムラカミの回想のなかに投げ込まれでもしたかのようでした。

恐らく、日頃からこちらでSPACの演劇をご覧になられているお客様の目には「劇的舞踊」の「舞踊」部分が、逆に、この舞台、この客席でNoismを観ようと臨まれたお客様の目には「劇的」部分が際立つ、そんな劇場と観客の構図だったのではないでしょうか。どちらにとっても新鮮な視覚体験だった筈です。

1ヶ月にも及ぶツアーも最終盤ということで、錬磨に錬磨を重ねた表現は身体化の度を深めていて、そんな俳優と舞踊家が拮抗する舞台は、「劇的舞踊」ならではの濃密な刹那の連鎖として観る者を揺さぶっていきます。

ここを「自分の劇場」とする豊かさを知る客席から、1幕では「壺の踊り」の終わりに、2幕では「影の王国」の終わりに、それぞれ大きな拍手が湧き上がりました。その拍手の極めて自然な様子に、SPAC18年の活動が達成した「結実」の一端を見る思いがしました。こうした劇場があり、こうした観客がいることは、両者にとって幸福な状況であるのは間違いないことでしょう。それこそ金森さんが常々口にされる「劇場文化」なのであり、他方、奇しくも、この日配布された公演プログラムが、他会場で渡される通常プログラムとは異なる、SPAC独自制作のもので、そのタイトルとして刷られた「4文字」もまさしく『劇場文化』なのでした。そんな同じ射程で営まれる劇場を有するふたつの祝福された土地、ここ静岡と新潟。贅沢なことです。
(なお、SPAC独自プログラムには、文芸評論家で舞踊研究家・三浦雅士さんによる劇評も掲載されていて、とても参考になります。こちらで読むことができます。http://spac.or.jp/culture/)  

話しをこの日の舞台に戻します。この日、「壺の踊り」や「影の王国」を超えて、私の目に強烈なインパクトを残したのは、ラストの結婚式の場面、上からの白い照明を浴びつつ、両眼を覆って立つ亡霊・井関さんのその立ち姿の強靭さでした。まるで見るのを拒絶することで、続くカタストロフィを引き起こしでもしたかのようです。そしてひとり、混乱に背を向けて舞台奥に去っていく・・・。そんな印象で振り返ってみると、舞台全体がまた別の遠近法で描かれたものに変貌していきます。

終演後、SPAC劇場総監督の宮城聰さんと金森さんが登壇したアフタートークでも、同じものを見つめて活動してきたおふたりであればこそ理解し合える先駆者の胸の内から話が始まりました。
クリエーションの過程で抽象化作業を通過することは観客の想像力を刺激することに繋がり、とても重要だとする点で認識の一致を見るおふたり。
「劇的舞踊」に関して、俳優と舞踊家、異なる身体表現者をその専門領域で対峙させることへの金森さんの飽くことなき意欲。
「物語」は普遍性を持ち得るが、ともすると、演者が「物語」のための絵の具や道具に成り下がってしまう危険性を孕むため、演じるカンパニーの力が問われるという宮城さんの指摘、等々。
本当に興味深い話ばかりだったのですが、なんと言っても、圧巻だったのは、宮城さんが携えて登壇していた平田オリザさん執筆の脚本から、その一部を紹介してくれたことではなかったかと思います。例として皇女フイシェンとミランふたりの場面を取り上げながら、平田さんによって書き込まれたミランの台詞を読み上げ、クリエーションの様子について訊ねると、金森さんからは、舞踊においては音楽が台詞なのであり、書かれた台詞を説明する必要性は感じなかったこと、ただ平田さんが何を思っているのか知りたかったので書いて貰った旨の答えがあり、創作過程の背景を少しだけ垣間見ることができました。

帰りの新幹線の時間を気にしつつ、ギリギリ粘って、なんとかおふたりのお話を聞き届けて、慌ただしく小走りで劇場出口に向かうと、既にそこには着替えを済ませた奥野さん、貴島さん、そしてアフタートークを終えたばかりの宮城さんまでもが挨拶に立たれていて、観客と時間を共有しながら「劇場文化」を育もうとする静岡芸術劇場の立ち位置が窺え、温かい思いを胸に会場を後にしました。

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さまざまな見方ができるこの豊かな舞台『ラ・バヤデール −幻の国』も、鳥取公演を別にすれば、静岡での千秋楽を残すのみとなりました。俳優と舞踊家、それぞれの身体が際立つ熱い舞台は生涯に渡る感動をもたらしてくれることでしょう。まだご覧になられていない方はこの機会をお見逃しなく。   (shin)

愛知公演に行ってきました!

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愛知公演バヤデール、これまでよりも更に磨き上げられ、演出も照明も変わり、出演者の気迫がみなぎる渾身の舞台でした!どこまで行くのか金森穣Noism!!

愛知会場が今回のツアーでは一番大きく、ステージもかなり広いので、それに合わせて当地でのリハーサルは相当厳しいものになったのではないでしょうか。見事な舞台に大拍手です!!!

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全体的に動きがより大きくなり驚きましたが、一番顕著に感じたのが前半の井関佐和子さんのミランです。今までとは何かが違う。バートルへの愛の喜び、そして悲しみ、苦悩がより鮮明になり、たおやかな中にも、運命に翻弄されるだけの弱い存在ではない、芯の強さ、激しさ、一人の女性としてのプライド、等がはっきりと感じられました。

このことはアフタートークで佐和子さん自身も話されていたので、私の目も案外節穴じゃないなと自画自賛、ではなく、佐和子さんの表現力がすばらしい!

後半の亡霊の踊りもとてもよかったです。今回ラッキーなことに、1階11列目のちょうど「あのライン」がまさによく見える席でした♪ 幻のように幽かな精霊たちの踊りが徐々に徐々に広がり、躍動感と力強さを増していく様子は圧巻! そして触れ合うことのないミランとバートル、残された衣裳のなんと儚いこと。。

最後の場面、幻の民の行進は神奈川バージョンでしたが照明は白系でした。あと、私は気づかなかったのですが、アフタートークによると、その前のシーンで柱が倒れる時、ステージに奥行きがあるので、なんと柱を奥の方に6本追加したのだそうです! ほかにも馬賊の仮面や亡霊の衣裳がグレードアップしたように感じたのは私の気のせい??振りも微妙に変わったところがあり、ますます素敵です♪

さて、アフタートークの司会はシニアプロデューサー唐津絵里さんの挨拶とご感想から始まり、最初に金森監督が登壇。愛知の大ホールでやると決まった時から金森さんはいろいろ構成を考えていたそうです。ここが一番ベストになると思っていたそうで、実際そうなったとのこと♪

金森さんは唐津さんの質問に応え、140年前の夢物語であったバヤデールを題材にして、今日的に蘇らせ社会化し、何かを感じさせ考えさせる作品を創りたかったこと、言葉を持ち込むことによって舞踊と演劇を対峙させ、それぞれの専門性を際立たせたかったこと、身体表現の専門性を信じ、これからも向き合っていきたいこと、等を話していると、着替えた井関さんと俳優の貴島さんが登場。

井関さんは、言葉にはすごく影響されるが、舞踊家として原点に立ち返り、発話しない身体の何をもってこれから挑戦していくかを考えていきたいということ、台本にはもともとミランのセリフは少ないこと、愛知公演ではミランは翻弄される弱い女性ではなく、自分で自分のことを決め、死さえも選択していく、ある意味でカルメン的な女性として捉えたこと、しかしそれは前もって決めるとかではなく、その瞬間に生まれる感情であること、等を話されました。

貴島さんは、俳優は言葉を武器にしていることを強く感じたこと、しかしこういう大きな舞台では言葉だけでは無理で、劇場で見せる、見られる身体の存在感がなければならないこと、金森さんには発話前の身体の状態、それから呼吸、そして声の音階という順で指導されたこと、今回のセリフは様式化されたものであり、非日常の舞台では非日常の言葉が必要なこと、ニュアンスを込め感情を露わにすると舞台が日常化してしまい、観客の想像を奪ってしまう、この舞台はそういうものではないこと、ムラカミの役はこの物語を引き受ける立場であり、最初のセリフで草原の国が観客に見えないと困ると思ったこと、等を話されました。

う~ん、NoismもSPACも公共劇場が擁するプロフェッショナル集団だけあって奥が深いです。ちなみに俳優さんたちは日々のNoismメソッドはもちろん、バーレッスンにもちょっと参加されていたそうですよ。

他にもいろいろお話はありましたが、唐津さんの最後の質問は、舞台芸術が劇場においてどうあるべきか、ということ。この問いに対し、「文化は豊かなものであることを浸透させたい。ヨーロッパでも難しくなってきているが、寄せ集めではない専門家集団が劇場でひとつの舞台を創り上げ続けることが日本には必要。そういう人たち(集団)がいることによって持続可能な舞台芸術、ひいては伝統が育まれていく。その伝統を担保するのが劇場ではないか。」というのが登壇者たちの一致した返答でした。

Noism13年、SPAC18年の実績と自信に裏打ちされたこの言葉は重みがあります。おばあちゃんと孫が世代は違っても同じ集団の同じ演目を観ているということ。能や歌舞伎と同じように、Noismひいては劇場文化を孫子の代へ伝え続けていけるかどうかは、金森さんたちではなく、私たち観客一人一人にかかっていると言っても過言ではないでしょう。

ますます進化、深化するNoismバヤデール、今週末の静岡公演がますます楽しみです!     (fullmoon)

追記:愛知での感動の舞台を胸に、翌日は名古屋から静岡へ。スノドカフェでの金森さん&奥野さん&柚木さんトークに行ってきました♪ 詳細また後日。一番感じたのは金森さんのメンバーたちへの信頼と愛です。あんなに厳しくて怖くて何が!?と思うあなたや私。それが愛なんです、信じているんですメンバーたちを。もっと輝く日が来るのを、きっとわかってくれる日が来るのを。

 

兵庫公演無事終了、次は愛知公演!

兵庫公演には残念ながら行かれませんでしたが、盛況のようでよかったです♪

今週末16日(土)は名古屋、その翌週は静岡、私も行って参りまーす!皆様もぜひ!!

閑話休題:

金森さんも講師として参加する、9/10-12開催「ゲンロン 利賀セミナー 2016」申込受付中です。http://school.genron.co.jp/seminars/

講師陣は金森さんのほか、鈴木忠志、大沢真幸、平田オリザ、佐々木敦、梅沢和木、そして東浩紀という錚々たる顔ぶれ。

1日目だけ参加したいなあ。。

さて、前のブログでもご紹介しました、元Noism所属、中野綾子さん、加藤千明さん砂丘館公演、堀田千晶さん「メシュラシュ」燕喜館公演、再掲します。

加藤・中野さんの公演は静岡公演と重なっているので残念ですが私は行かれませんが、メシュラシュ公演は行きます。皆様どちらもぜひどうぞ!

加藤千明・中野綾子ダンスパフォーマンス「カンパネラ」

7月23日(土)16:00、24日(日)14:00・17:00 料金各回1,500円(学生1,000円)予約受付中、申込は砂丘館へ。http://www.sakyukan.jp/2016/06/4243

「メシュラシュ」公演 振付・出演:堀田千晶、イタイ エクセルロード、ダニエル デヴェリースhttp://www.you-can-dance.jp/archives/7315

新潟公演 :7月25日(月) 17:00 19:00 全2回 会場: 燕喜館 チケット: 1,500円 お問い合わせ: sankakusan.jp@gmail.com

東京、広島、京都公演、ワークショップも開催  Facebook[メシュラシュ] https://www.facebook.com/Meshulash-%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%8B%E3%81%8F-1138045622894537/

そして、8月20,21日は言わずと知れたNoism0さいたま公演!!今年もダンスが熱い夏です。(fullmoon)

堂々の終幕 『ラ・バヤデール -幻の国』KAAT公演楽日

7月3日(日)、うだるような真夏日の横浜、
Noism『ラ・バヤデール -幻の国』KAAT公演は楽日を迎えました。

チケット前売り分はこの日も売り切れ。
嬉しいことに、神奈川公演は三日間通して完売だったのだそうです。

私は神奈川公演は2日目だけのつもりでいたのですが、
この日(楽日)の早朝、
「神奈川に来てからも結構変わって
昨日(2日目)御大鈴木忠志さんが見たので
その意見もあって今日またさらに変更ある事を覚悟しております」
などというお話しが伝わってきたものですから、もういけません。
「折角、まだ近くにいるのだし、ならば・・・」という気分に傾くと、
急遽、新幹線の切符を変更し、当日券を求めることにしてしまいました。
当日券は1枚4,500円。前売りより1,000円安い価格はお得でした。

当日券で売り出された3階席は、ホールのかなり上方で、
まるで「天井桟敷」のような席。
そこでは身を乗り出し、両の掌で頬杖をつくといった寛いだ姿勢で見ることすらOK。
そんな急勾配の下に舞台を見下ろす席は、
照明の様子もつぶさに受け止められる「良席」でした。

そして私が買った席ですが、
「二幕」で中川賢さんと亡霊が形作る「縦列」の延長線上に位置する席でしたし、
とりわけ、その流れから、為す術なく立ちすくむバートル(中川さん)の手前、
舞台を埋め尽くすように、一斉に仰臥位に横たわった亡霊たちが
今度は次々に時間差で上半身を起こし、
顔を隠しながら客席側へと捻る場面を、
(個人的に最も好きな場面のひとつなのですが、)
舞台上の一部始終を余すところなく視野に収めて見つめたとき、
その儚さは一層際立ち、
戦慄にも似た、身震いするほどスリリングな視覚体験に、鳥肌が立ちました。

「劇的舞踊」の全体を俯瞰することで、この日初めて気付いたことも数多くありました。
『ラ・バヤデール -幻の国』、後方席もお勧めですよ。

神奈川公演楽日の様子に話を戻しますと、
回を重ねることで、舞台はこなれて、メリハリのある情感豊かなものとなり、
全てがスムーズに繋がって展開していくさまに、目は釘付けにされていました。

上に書いた「影の王国」のほか、
特に、この日はエッジの効いた「一幕」に目を奪われました。
前半終わりの幕が下りたとき、隣の連れ合いと顔を見合わせると、思わず口をついて出たのは
「面白い!」「よかったね!」というものだったのですが、
それも不思議はありません。
何しろ、この日遅く、日付が変わろうとする頃に伝わってきた金森さんの舞台評は、
「今日(神奈川楽日)の前半は今までで一番良かった」というものだったらしいので。

それはそうと、目を皿のようにして待ち受けたはずの「変更」ですが、
・・・気付きませんでした。(汗)
ラストも前日と同じ「神奈川エンディング」で、変わりありませんでしたし。

充実の2時間も終演を迎え、
幕が下りると、劇場内には前日よりも更に大きな拍手が谺しました。
なかでも、当日券の3階席、私の付近の
「天井桟敷の人々」が最も熱心に拍手されていた印象があります。
「ブラボー!」の掛け声も、スタンディングオベーションも、
「1,000円安い」ホール最後列がその中心だったように感じました。
勿論、私も、自然な流れでそのどちらにも加わりました。

ややあって午後5時半前、KAATの自動ドアを出ると、
外にはまだむせかえるような暑さが残っていましたが、
私たち幸福な観客の心はそれ以上の熱を帯びていたと思います。
みんな、暑さなどものともせず、満ち足りたような笑顔を浮かべていましたし、
何人かでご覧になられた人たちは例外なく饒舌に話していました。

そんなふうに、堂々と終幕を迎えた神奈川3DAYSの楽日。
一日遅れでこれを書いていますが、
この間にNoism+SPACご一行様は、既に関西入りしておられるご様子。

次は今週末、7月8日(金)、9日(土)の兵庫公演。
両日とも熱い舞台になること請け合い。
乞うご期待! ですね。  (shin)

 

 

 

『ラ・バヤデール』KAAT公演2日目に驚く

本格的な「日本の夏」と言う他ないような
蒸し蒸ししたこの日7月2日(土)、
神奈川芸術劇場KAATに
『ラ・バヤデール −幻の国』の神奈川公演2日目を観に来ました。

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2幕見終えたとき、舞踊家も俳優陣も明らかに滑らかさを増した印象を持ちました。
加えて、表現は刈り込まれ、削ぎ落とされ、
よりシンプルなものになっていたように感じました。

前日の神奈川初日を観ていない私にとって
最大の驚きは変更がラストにまで及んでいたことです。

新潟・りゅーとぴあでは基本的に3日間同じエンディングだったものが、
この日、目にしたのは明らかに別のスタイルへの変更だったからです。
SNSで様々な方面から教えて頂いたところによれば、
ラストの変更は前日からのものだったとのこと。
言ってみれば、それは新潟とは異なる「神奈川エンディング」、
この先はこれでいくのでしょうか。
それとも、兵庫、愛知、静岡でも変わっていく余地があるのでしょうか。
目が離せないとはこのことですね。

終演後のホワイエで衣裳を担当された宮前義之さんを見かけ、
畏れ多くも言葉を交わす機会を得てみると、
お互いの口をついて出たのは、
まず「ラスト、変わってましたねぇ」ということ。

宮前さんは続けて「あれは相当キツイですよね。
Noismだからできるんですよね」と、
より強度を増したスタイルへの変更に言及されておられましたが、
まさに「我が意を得たり」の感を得ました。
他にも割と大きなものから細かなものまで、
様々な変更が目にとまった、と書き記しておきたいと思います。

実際、連日推敲が繰り返される舞台を前にして
「明日はまたどうなっているのだろうか」などと考えてしまうと、
胸中、嫉妬心が膨らんでくるのを如何ともしがたくて困ってしまいます。

かように人の心を揺さぶり続けるNoism『ラ・バヤデール −幻の国』。
神奈川公演も残すところ、あと1日。
複数回観ても飽きないばかりか、
まだまだ観たくなる、そんな舞台です。

神奈川楽日は15:00からの2幕・2時間。
あなたが目にするのはどんな『ラ・バヤデール』なのか、
興味は尽きないところです。
開演1時間前から当日券販売もあるとのこと。
楽日のKAAT公演にご期待ください。 (shin)

 

 

 

明日から、『ラ・バヤデール-幻の国』KAAT公演!

今日で6月が終わり、いよいよ明日7月1日、バヤデールKAAT公演開幕です!2日チケット完売、3日残席わずかのようですが、当日券が出るようですので、皆様ぜひお運びください!

KAATはじめ兵庫、愛知、静岡各公演会場ではNoismサポーターズUnofficial会報、さわさわ会 会報誌とも無料配布いたします。

サポーターズ会報へご寄稿及び金森さんと対談してくださった山野博大さん、ツイッターでさわさわ会会報誌の写真を掲載してくださった乗越たかおさん(https://mobile.twitter.com/NorikoshiTakao/status/746948991108079617/photo/1)どうもありがとうございました。おふたりとも2日にKAAT公演をご覧になられるようです。

『ラ・バヤデール-幻の国』情報詳細:http://labayadere.noism.jp/

◆そして、Noism0『愛と精霊の家』

さいたま公演チケット好評発売中!

8月20日(土)18:00、21日(日)15:00彩の国さいたま芸術劇場大ホールhttp://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/3603

新潟公演は10月7日(金)19:00 りゅーとぴあ劇場、チケット発売日は8月11日(木・祝)です。http://noism.jp/npe/noism0_2016_niigata/

その後のNoism公演予定(当メニュー欄「Noism公演情報」から詳細ご覧いただけます)

Noism2定期公演

12月16日(金)19:00、17日(土)17:00、18日(日)13:30・17:00(全4回)りゅーとぴあスタジオB チケット発売日 一般10/15、会員10/13

Noism1新作【新潟公演】

2017年1月20日(金)~29日(日)、2月18日(土)~26日(日)予定 りゅーとぴあスタジオB チケット発売日 一般11/26、会員11/24

【埼玉公演】2017年2月10日(金)~12日(日)予定 彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

ワークショップ

◆Noismサマースクール2016開催!

7月27日(水)~31日(日)りゅーとぴあスタジオB

◆からだワークショップも!

7月31日(日) りゅーとぴあ練習室5

15:00~16:30 こどものためのからだワークショップ 16:45~18:00 おとなのためのからだワークショップ

兵庫、愛知、静岡でもワークショップ開催します!http://noism.jp/npelist/?category=%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96

 

閑話休題:

おなじみの中野さん加藤さんの公演が砂丘館であります。静岡公演とかぶっていますが、ぜひどうぞ。

★加藤千明・中野綾子ダンスパフォーマンス「カンパネラ」

7月23日(土)16:00、24日(日)14:00・17:00 料金各回1,500円(学生1,000円)7/2より受付開始、申込は砂丘館へ。http://www.sakyukan.jp/2016/06/4243

★「メシュラシュ」公演

振付・出演:堀田千晶・イタイ エクセルロード・ダニエル デヴェリース

http://www.you-can-dance.jp/archives/7315

1989年生まれで17歳から2年間、Noism研修生だった堀田千晶(ほりたちあき)さん振付出演の公演です。堀田さんはNoism研修生の後、ネザーランドダンスシアター2(オランダ)に入団。2011年スウェーデンのヨーテボリダンスカンパニーに入団。2015年からバットシェバアンサンブルに入団して今に至ります。こちらもぜひどうぞ!

新潟公演 日時: 2016年7月25日(月) 17:00 19:00 全2回公演 会場: 燕喜館 チケット: 1,500円 お問い合わせ: sankakusan.jp@gmail.com

東京公演 日時: 2016年7月28日(木) 20:00 会場: 三鷹市芸術文化センター・星のホール チケット: 3,000円(20歳以下は1,500円) WEB予約:  こりっち舞台芸術! ←クリック! ※ ワークショップも開催

広島公演 日時: 2016年8月4日(木) 17:30 19:30 全2回公演 会場: JMSアステールプラザ・リハーサル室 チケット: 1,500円 お問い合わせ: sankakusan.jp@gmail.com ※ ワークショップも開催

京都公演 日時: 2016年8月11日(木) 15:00 17:00 全2回公演 会場: 京都芸術センター講堂 チケット: 1,500円 お問い合わせ: sankakusan.jp@gmail.com ※ ワークショップも開催

●Facebook[メシュラシュ] https://www.facebook.com/Meshulash-%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%8B%E3%81%8F-1138045622894537/

遠藤龍 写真展「LIMITS OF CONTROL/RYU ENDO」開催中!

Noismの写真や映像、mikyozとしての活動で知られる遠藤龍氏。Blue Café(新潟市中央区上大川前通7 サンシャイン新飯田ビル2F)で初個展7月10日まで開催中です。月曜休み、要1オーダー。

写真はすべて原子力発電所と関わりがある(あった)土地で撮影。自然が人間のコントロールからすり抜けるように本来の姿に回帰していく光景の写真が展示されています。LIMITS(限界)をネガティブな問題としてだけではなく、重要な転換点へと考えていくことを提起している写真展です。どうぞご覧ください。http://pbs.twimg.com/media/Ck41jvxUYAAu0l0.jpg

(fullmoon)

 

柳都会 第16回 田根剛×金森穣を聞いてきました

Noism『ラ・バヤデール -幻の国』ツアー直前の2016年6月26日(日)午後4時半、
新潟・りゅーとぴあのスタジオBを会場に、
『ラ・バヤデール』の空間を担当された建築家・田根剛さんをお迎えして、
「世界を舞台に飛び回る建築家が考える、21世紀の建築とは?」というサブタイトルのもと、
第16回の柳都会が開かれました。

お二人は旧知の間柄と言うことで、
お互い、なに気兼ねするところなく、テンポよいお話しが展開されました。
全てをお伝えすることは到底無理ですが、エッセンスをご紹介しようと思います。

①エストニアのナショナル・ミュージアム(国立博物館)のコンペ:
2006年、友人を介して知り合い、ご飯を食べてすぐに意気投合したレバノン人女性「リナ」・ゴットメさん(←Noism『SHIKAKU』の映像を見せると、「食いついてきた」。)と田根さん、
そこにもうひとり、イタリア人男性・ドレルさんを加えた3人で、
パリに事務所DGT.(DORELL.GHOTMEH.TANE/ARCHITECTS)設立。

基本的に建築は個人の力、裁量、思いを反映するものなので、
グループでやることは難しいのだが、
一緒にコンペに参加することにし、見事に勝ってしまったのも、
「信じるもの(「滑走路」というコンセプト)」を共有できたことが大きい。

②ARCHAEOLOGY OF THE FUTURE(未来の考古学):
米ニューヨーク流の20世紀の都市の構造が世界を席巻。
投下された資本に比例して縦に伸びていくモデル。(垂直構造の「中心」)
同時に、人の流入により、郊外は拡散。(水平構造の「周辺」)
→できあがったのは、どこともわからない風景、どこにもある街の風景。
仏パリ、1970年代に作られたコンクリート+ガラスの近代建築の方が先に壊されてしまう皮肉。
→近代建築は果たして正しい方向だったのかという疑問が生じる。

*目指したのは、そこにしかない「場所」の意味を掘り下げていくこと。
即座には見えて来ない土地の文化や価値を志向して、
断片的な記憶を積み重ねていくこと。
起源を系統立てて掘り下げるリサーチから、グループ化、関連性を探り、
ひとつのコンセプトを形作っていく作業。

③MEMORY FIELD(記憶):
エストニア、ソ連崩壊に伴って独立。
大国に占領され続けてきた歴史から、民族のアイデンティティが失われそうだった。
ナショナル・ミュージアムのプロジェクトは「国約」。国際コンペをやろうという形で進む。

荒涼とした森のなかに残されたソ連支配時からの「負の遺産」軍用滑走路に着目。
それを抹消するのではなく、ナショナル・ミュージアムに直結させるかたちを提案。
長さ42mの大屋根をもつエントランスから直線的に、
幅72m、長さ355mのスケールが走り、そのまま1.2kmの「滑走路」に連続する博物館。
天上高が段々低くなっていき、出ると「滑走路」に至る建物は、
高さ14mのところに一枚の板が浮いている感じで、重力を感じさせない。
冬はマイナス20℃の白いランドスケープに、光の塊のボリュームが浮かび上がる。
リビングコレクションを収めるほか、シアターや音楽堂も備え、アクティビティも重視する博物館と
国民のイベントとして使用可能な公共の広場になり得る「滑走路」。
→記憶が更新されていく建築。空間的に色々編集可能な建築。

④KOFUN STADIUM(古墳スタジアム):
東京五輪の主会場・新国立競技場コンペでファイナリスト(11案)に残る。
「旧国立競技場は近代建築としては名作。残しておいた方がよかった。
(国立競技場は)ふたつあってもよかったんじゃないか。」(田根さん)

競技場の起源は古代ギリシャ、大地を掘り込んで作られていた。
防災、交通の問題から競技場の郊外化は進み、場所の意味も失われていった。
元来、神宮内苑は明治天皇の鎮魂の場。
神宮外苑に古代の古墳を蘇らせようという発想として結実。日本にしかないもの。
「古墳」: 2011年の震災→都市のなかで「死」をどう考えていくかを問われた。
イベントのとき以外は、展望台施設として活用可能で、
環境装置、防災拠点としての機能をも負う「強い森」「100年の森」の提案だった。

物質的に失われたとしても残るものは記憶。個人の記憶を超えた集合記憶。
建築が残ることによって文化は継承され得る。記憶装置としての建築。
建築の価値: 建て直し、建て増しをしても損なわれることはない。
過去の記憶を掘り下げようとすればするほど、近代建築とは異なる意味が見えてきた、等々。

参加者からの質問: いくつかご紹介しましょう。
--Q.田根さんから見たりゅーとぴあの印象は?
--A.いい劇場であり、好感が持てる。明るく、気持ちよい空間。
「強そうな劇場」と言うより、よくデザインされた、散歩の途中に寄れる「公園」のよう。
但し、劇場のアイデンティティを支える存在である、13年目のNoismにとっての
使い勝手や動線についてはもっとコンパクトにならないかという思いはある。

--Q.今後、作りたいものはあるか?
--A.意外とあまりない。キャリアが博物館から始まってしまったこともあるだろう。
場所・人・時代・コンペとの出会いの方が重要だと考えている。

--Q.既存の建築でこれは面白いものというものを教えて欲しい。
--A.少し遠いが、南仏ル・トロネ修道院を挙げたい。
南仏特有の光線のなか、そこにある全てのものが美しく見える建築。
精神を受け継ぎ、整えるのみで、建てられたときのままの姿で今に至っている。

結び「建築は公共の福祉」:
「しっかり残されていく建物を建てることは21世紀にあって可能なのか。
もう建てなくていいんじゃないか」(金森さん)に対して、
「そこは欲望。『建てたい』」と田根さん。
日々活動するなかで、文化的なものが何のために役立つのかという疑問も生じるが、
単に美しいとかではなく、人々にとって幸福に変わるもの、喜びになるものを作りたい。

*建築は公共の福祉: 建築は不特定多数が体験できるもので、体験した人の人生に関わるもの。
一昨年、東京・南青山スパイラルでのCITIZENのインスタレーション制作中、
疲労困憊のなかで、作品を前に幸せそうな様子の来場者を目にして生まれた意識。

終始穏やかな口調で語る田根さん、鋭いツッコミを入れる金森さん。
「LECTURE + DISCUSSION」というスタイルに捕らわれることなく、
およそ自由に、そしてとても嬉しそうにやりとりするお二人の姿が印象的でした。

この場では、田根さんのご発言を中心に纏めようと試みましたが、
それすら門外漢の私にとっては困難を極めることであり、
字数だけは使いましたが、
どれだけのことを伝えられたか自信はありません。
田根さんと金森さん、お二人からは共通に時間を経てもなお残るものを志向する
「構築への意志」が感じられる2時間でした、
と書いて切り上げるほかなさそうです。

終了後も、スタジオBからホワイエに出る扉の外に田根さんを認めると
すぐに長い人の列ができたのですが、その最後の一人に至るまで、
丁寧に質問に答え、写真撮影に応じ、
あるいはサインをする田根さんの「神対応」振り、
そこに表れたお人柄について触れながら、
この拙いレポートを終わりにしたいと思います。
長々お読みいただき、有難うございました。  (shin)

連日進化する舞台『ラ・バヤデール -幻の国』新潟楽日

2016年6月19日、早くから気温が上昇し、梅雨を通り越して、「真夏日」を記録した日曜日、
Noism『ラ・バヤデール -幻の国』は早くも新潟楽日を迎えました。

公演後、ミストレスの真下さんやSPACの俳優・奥野さんも話されていたことですが、
この日、出演者は一人残らず、3日間でもベストのパフォーマンスを示していたように思います。
それはまるで「幻の民族」(金森さん)が、個々の舞踊家や俳優を越え、時空を越えて、
りゅーとぴあ・劇場の舞台上に出現し、呼吸していたかのようでした。

いきなり話はアフタートークに飛びますが、この日、久方ぶりに金森さんと舞踊家(井関さん、中川さん、石原さん)が登壇し、公演に負けず劣らず、興味深い話を聞かせてくださいました。

誰しも関心を寄せる事柄であり、この場で紹介しても差し支えなさそうな、
「振付: Noism 1」というクレジットについて書きます。
質問シートでそのプロセスを質されると、
①まず、今回、金森さんは1個も振りを作っておらず、②Noism 1メンバーにキーワードが示され、
③メンバーが各自、それから喚起される言葉や音を20ほど挙げ、④そのなかから3~4程度の動きを作る。
⑤そうして集まった40~50の断片を金森さんが編集して、舞踊家に割り当てるというプロセスだったことが明かされました。
その時の様子を、「『悠子の振りは激しいから、お願い、私のところに来ないで』と思っていた」と井関さんが笑って打ち明ければ、石原さんは「(金森)穣さんが自分を消そうとして、抑制する姿が印象的だった」と振り返りました。
続けて、割り当てられた振りを覚えるために、メンバーは一つひとつの振りに考案者の名前を付け、
例えば、「悠子」「賢」・・・などと声に出しながら動いて練習していたという裏話が披露されると、
会場はその様子を想像して頷きながら聞き入っていました。
他も興味深い話ばかりでしたが、ネタバレになりそうな部分もあるため、
ここでは差し控えさせていただきます。

また、アフタートーク後、6F展望ラウンジに場所を移して開かれた初の試み
「公演感想を語り合いましょう!」も30名ほどの参加者を得ました。
公演を終えたばかりでお疲れのところ、
上に名前を挙げた真下さんと奥野さんからもご参加いただきました。どうも有難うございました。
和気藹々とした、とても自由な集まりになり、楽しい時間を過ごしたことを記しておきます。
また集まりましょう。

話を公演に戻します。
私たち観客の心に生涯に渡って煌めき続けるだろう今回の劇的舞踊は、
150年前に作られたバレエ『ラ・バヤデール』を云々する際、
堂々と参照すべきもうひとつの基準たる舞台作品の誕生を告げるものであり、
そのあたり、どう控えめに見積もっても、
「バレエの歴史に爪痕を残す」(平田オリザさん)ことは
成し遂げられたと言って間違いないでしょう。
21世紀に創作されるべき意義と、同時に、歴史に名を残す普遍性を備えた品格ある舞台。
ご覧になられた方々は幸福です。

他方、世界初演の一昨日から連日の変更を重ね、常に進化を続ける舞台はまさに生き物。
あまり気が回らない私は変化にも気付かないことが多いのですが、
それでも、何度も足を運びたくなる所以です。

そして、この後、神奈川、兵庫、愛知、静岡、少しおいて鳥取を巡るツアーにあっても、
連日進化するだろう舞台。
「情熱とお時間とゆとりがある方は追っかけて欲しい」と金森さん。
ただ、そのどれもが揃わない限り追いかけるのは難しい規模のツアーです。
それ故、この先成熟していく舞台に心底嫉妬せずにはいられない人が大多数でしょう。
オリジナルのバレエを凌駕したと言っても過言ではないくらい、幻想的で、
筆舌に尽くしがたい「影の王国」の美しさをはじめ、
様々な種類の「美」が途切れることなく繰り出される、『ラ・バヤデール -幻の国』。
これからご覧になられる方々は幸福です。

公演会場がお近くなら、是非お誘い合わせの上、ご来場いただき、
大人数で「約束された幸福」に浸って欲しいものです。  (shin)

会場を魅了! 『ラ・バヤデール ー幻の国』新潟公演2日目

2016年6月18日(土)、新潟市内某所で開催される大がかりなイヴェントと重なり、
その影響が心配された日だったのですが、さほどの混乱もなく、
前夜、平田オリザさんから「こちらの方が大事」と言って頂いた『ラ・バヤデール -幻の国』の新潟公演2日目は午後5時、無事にスタートしました。

二日続けての鑑賞でしたが、舞踊家も俳優も、動きが台詞が滑らかになった印象を持ちました。
細かな変更や小さなアクシデントもあったようですが、
舞台狭しと繰り広げられる群舞やパ・ド・ドゥに魅了されるうちに、
一幕50分、二幕45分、休憩を入れると110分という時間が嘘のように過ぎていきました。

中川さんのバートル(=ソロル)が、井関さんのミラン(=ニキヤ)が、
オリジナルのバレエ版『ラ・バヤデール』に欠けている「深み」を備えて、
あの環境下で「言葉」を持たない者、
為す術なく翻弄されるだけの者の悲哀を可視化して踊る点は
オリジナルを凌駕していると断言しましょう。

終盤、たきいみきさん演じるマランシュ帝国皇女フイシェンは言います。
「この国では誰も本当のことは言えない。」
中川さんの身体が、井関さんの身体が、あるいは全ての舞踊家の身体が示す深度や強度が、
更には俳優の示す存在感が、そして衣裳、音楽、照明、空間、美術、その他諸々が、
見事に渾然一体となって、この劇的舞踊における「本当のこと」を立ち上げていきます。

圧巻の分厚さで終演を迎えると、カーテンコールでは、
「ブラボー!」という掛け声があちらからもこちらからも飛び交いました。
なかには、金森さん曰く「Noism公演では珍しく」、
「(中川)さとしさ~ん!」という黄色い声援も含まれていました。
しかし、その気持ちは充分わかります。

アフタートークでは、前日の平田オリザさんの言葉とシンクロするかのように、
オリジナルの『ラ・バヤデール』を何度もご覧になられているお客様から
是非ともヨーロッパに持って行って欲しいとの声があがりました。

また、二幕冒頭の亡霊の群舞について、
「個人的には好きなシーン。悪くないんじゃないかな。」
「バレエの歴史のなかでも重要なシーンであり、
150年前のミンクスを21世紀にどう蘇らせるかが課題だった。
正直、ホッとした。」と金森さん。

更に、「マランシュ帝国の13年」と「13年目のNoism」という符合に関する質問には、
平田さんが下敷きにした史実からくる年数であると答えながらも、
「すぐ気付きましたよ。平田さんの脚本を見て、これ、Noismじゃん。ヤバイじゃん。」と
おどけて笑いながら話す金森さん。和やかさのうちにこの日のアフタートークは閉じられました。

新潟・りゅーとぴあ公演も残り一日。
前売り席は完売とのことですが、お得な見切れ席の当日販売はございます。
金森さんをはじめ、結集した全てのクリエイターたちの自信作『ラ・バヤデール -幻の国』。
お見逃しなく。

追記    19日(日)は、アフタートーク後 18:00頃~19:00 りゅーとぴあ展望ラウンジにて、
「公演感想を語り合いましょう!」の予定もあります。そちらも是非。   (shin)

バレエの歴史に新たな一頁! 劇的舞踊『ラ・バヤデール ー幻の国』初日、遂に世界初演の幕上がる

朝、激しい雨に見舞われた記憶もあるのですが、
同じ一日のうちにこうも変わるものかというくらい
連続性を欠いた天気の変わりようは何かの暗示だったのかもしれません。

2016年6月17日(金)、新潟、りゅーとぴあ・劇場、
少し早く会場に着いてみると、はやくも見知った顔がちらほら。
時間を追う毎に、明らかに期待で上気した面持ちの輪があちらこちらで形作られ、
ロビー開場されたのちのホワイエでは、待ち遠しさは既に幸福の予感へと姿を変えて膨らみ、
それさえ、あと数分で現実のものとなることを知る全ての顔には
「劇場」が果たす役割が見事に投影されていたと言えます。
そして午後7時、遂にNoism劇的舞踊『ラ・バヤデール -幻の国』世界初演の幕が上がりました。

斜陽。自らの来し方を証し立てようとでもするかのように語り始める車椅子のムラカミ。
舞台を占める鈍い銀色は生命の躍動から最も隔たったかのような配色です。

一転、回想のなかにあっては、衣裳の色彩は鮮烈にして、
その民族のアイデンティティの別を視覚的に浮かび上がらせます。
馬賊の赤、カリオン族の青、高貴なガルシンの紫等々、
勢揃いする場面では、あたかも色の洪水のよう。
なかでも踊り子たちの背中や肩が青い衣裳から零れて露出するさまの、
優美にして官能的な、えもいわれぬ美しさに思わず息を呑みました。

ムラカミが回顧する総天然色の物語部分にあっては、まずはミンクスの音楽ありきで、
いつになくバレエらしさを示して踊るNoismダンサーたちが却って新鮮に映じました。

フイシェンとバートルの婚約式の席上、ミランが仕掛けられた奸計に陥り、一幕が閉じると、
休憩をはさみ、二幕は「影の王国」から始まります。
冒頭は、過日、公開リハーサルで見たパートの筈が、
大胆に手が加えられていて、よりスッキリとした印象で滑り出します。

芥子の白い花びらを思わせる装置の下、繰り広げられる亡霊たちによる耽美的な群舞には
バートルならずとも目を奪われるほかありません。
瞬きも忘れて見開かれたままの両の眼は潤いを失い、ドライアイになるとも、
幻覚の亡霊たちによる誘惑と、それに翻弄されるバートルの寄る辺ない背中とに
釘付けになる以外なかったのです。
まさにこの世のものならぬ美しさに酔いしれる時間。贅沢このうえありません。

はなから宮前義之さんによって描き分けられた異なる色と質感の衣裳たちは
それぞれに異なる神をいただき、相和することなど幻想でしかなかった筈です。
未だ若い国にとって必要とされたはずの憎しみが、
ほんの13年間という時間ののちに全てを跡形もなく葬り去ってしまうまでを描くのに、
奇を衒いすぎることなく、敢えてバレエのフィールドに留まったまま、
バレエの古典『ラ・バヤデール』に挑んでいく金森さんとNoismダンサーたち、
そして素晴らしい存在感を示す3人の俳優。
それは古典的な佇まいを残しながら、現代的なバレエを模索する営みと言えるでしょう。
今回のNoismの「実験」(金森さん)には、またまた虚を衝かれたと打ち明けざるを得ません。

終演後、観客と共に初日の舞台を見届けた篠田新潟市長が登壇、挨拶し、「今までで一番解りやすかった」等と感想を述べたあとのアフタートークで、「ヨーロッパでも勝負できる舞台ができた。
100年後演じられるのは、この演出の『ラ・バヤデール』だろう」と平田オリザさん。
俳優が話す台詞との対比から、「改めて舞踊の本質に向き合う機会を得た」と語る金森さん。
この日、確かにバレエはその懐を広げたと言っても過言ではないでしょう。

様々な才能が結集して、
バレエの歴史に新たな一頁を刻む、
新しい古典・Noism劇的舞踊『ラ・バヤデール -幻の国』がここに誕生しました。
新潟・りゅーとぴあから世界を目指す、その船出をみんなで祝おうではありませんか。
土曜、日曜も是非りゅーとぴあ・劇場へ。 (shin)