日本時間の2019年1月26日(土)の夕方は、多くの耳目が熱い南半球・豪州のメルボルン界隈にも注がれていたと思われますが、ほぼそれと同じ時刻、雪の降る新潟市のりゅーとぴあ・スタジオBでも、私たちの誇りである舞踊家たちが世界と対峙して、同様に相当熱かった訳です。
前日、初日を迎えた公演で圧倒され、「またすぐ観なきゃ」となり、当日券売り場に一番乗りで並んでいると、私を駆り立ててそういう心境にした張本人の金森さんが飲み物のカップ片手に向かい側のエレベーターに乗り込もうと通りかかりました。で、目が合い、私を認めると、笑顔で、空いたもう片方の手を振ってくれる金森さん。私も会釈を返しましたが、心の中では「あなたが呼び寄せたんでしょ。」と言いながら、その「特典」を嬉しく頂きました。
そして午後4時、無事、当日券も買えました。…安堵。
この日の雪については、少し遡ります。
前日まではまったくなかった雪ですが、日付が変わってから降り出し、
それから後はもう断続的に降り続いたため、
公演が始まる頃にはりゅーとぴあ付近は10センチ弱の積雪となっていたでしょうか。
そんななか、入場を待つホワイエでは、
快晴の東京・関東圏から、恐らくは「川端康成気分」でお越しの方々ともお会いし、
Noismが繋ぐ縁を楽しむひとときも持ちました。
開演。まずは『R.O.O.M.』から。
前日、初見では驚きっ放しのうちに過ぎた時間になんとか食らいつこうとしてみます。
金森さんが「舞踊家に法則性を与え、同じ法則に従って次の舞踊家が反復する」(1/23新潟日報朝刊)と語り、
Noism1メンバーの西岡ひなのさんが「物語がなく、身体とこの空間でのロジック、とても複雑ですが一つの規則性があります」(Noismサポーターズ(unofficial)会報・35号)と紹介してくれた、
「法則性」或いは「規則性」に少しでも迫りたかったからです。
前日は最前列から観たので、この日は全体を引いて観ることを考えて、
後ろから2列目の席を選んで鑑賞しました。
結果、やはり舞踊言語に不案内な身にとっては荷が重く、まったく歯が立たずに、
「脳内で疑似体験する」(金森さん・上掲紙)だけに留まってしまったのですが、
それでもその「疑似体験」を今回も堪能しました。
中断し、「脱臼」させられる連続。
その不連続の連なりは、微細に動きながら、(部分の総和ではない全体として)新たなゲシュタルト相を生成していくようですし、
そのことはとりもなおさず、一見、「箱」のなかの純粋なミクロを標榜するように見せながらも、常に不可視の「箱」外部を想起させずには措かない訳で、
とてもスリリングな視覚体験と言えるでしょう。
それにしても、観ているだけで充分楽しいのですけれど、
同時に、「目に徹して見る」、
ただそれだけのことが途方もなく難しいことなのだと改めて気付かせられもする、
そんな作品です。
15分の休憩を挟んで、井関さんと金森さんが踊る『鏡の中の鏡』です。『R.O.O.M.』でも踊った井関さんがこちらも踊ること、ただそれだけでも驚きな訳ですけれど。
この作品は『R.O.O.M.』と「合わせ鏡」的な性格を有するものと言えるでしょう。苦悩する二人の人間の姿からのアプローチで紡がれていきます。(個人的に殊更新鮮に映るのは、いつも確信に満ちている金森さんが苦悩する様子です。あまり目にしませんよね。)
苦悩、絶望の果ての…、そこから先は書けません。ただ、片時も目を離さぬようにとだけ。
どちらの作品にも、長く続く盛大な拍手と「ブラボー!」の声が飛んだことも書き記しておきます。
個人的な事柄ですが、「昨日の今日」で観に来てよかったと思いました。
新潟は残り11公演、まだまだ観るチャンスはありますし、
たとえ、前売り完売だったとしても、
この日の私のように、当日券が発売されることもあります。
とても深い境地を見せてくれる2作品、まだの方は是非一度。既に楽しまれた方はまたもう一度。その時々の楽しみ方がきっとある公演です。是非、お越しください。
この日、公演の間、雪はそれほど降っていなかったとみえましたが、
時間的には気温が下がり、公演後には路面凍結もありました。
ただ濡れているようにしか見えない、怖い怖い「ブラックアイスバーン」状態の路面を
注意のうえにも注意しながら車を運転して帰路につきました。
…この日の小屋がはねてから、ちょうど2時間後。
放たれた力強いサーヴィスが、
相手ラケットによって正確にヒットされることなく、
リターンされるべき黄色の球体がコート外に弾んだとき、
世界と対峙していた日本人女性・大坂なおみ選手が全米OPに続いて、全豪OPも制し、
同時に女子テニス世界ランキング1位に登り詰めることで、
日本テニス界の歴史に新たな輝かしい1頁が刻まれる瞬間を目にしたのでした。
そんな日本人として感じる誇らしさの「二重奏」のうちに、
2019年1月26日という1日は過ぎていきました。
(shin)