10/17『A JOURNEY』横浜千穐楽直後、感動の余韻のままに金森さん×長塚圭史さんのインスタライヴ

10/17(日)、「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021」のフィナーレを飾るNoism Company Niigata × 小林十市『A JOURNEY ~ 記憶の中の記憶へ』が多くの人たちの脳裏に、胸に、記憶として刻まれてまもなく、17:45からKAATのインスタ・アカウントにて、金森さんとKAAT 神奈川芸術劇場芸術監督・長塚圭史さんのインスタライヴが配信されました。劇場界隈で、或いは劇場からの帰路で、その様子をご覧になった方も多かったと思われます。かく言う私は、「旅」先でもあり、まずは本ブログに公演レポをあげなければならぬという事情から、当初から、後刻、アーカイヴを観ることに決めていました。そして、日付が変わって、翌朝、(NHKの朝ドラ『おかえりモネ』に続けて)楽しませて貰った口です。ですから、皆さん、もうお楽しみ済みと考えますが、こちらでも内容をかいつまんでご紹介させていただきます。

*その実際のアーカイヴはこちらからもどうぞ。

金森さんと長塚さんはほぼ初対面。その長塚さん、劇的舞踊『カルメン』が印象に残っていて、特に「老婆」のインパクトが凄かったと語るところからやりとりは始まりました。

今回、思いがけない作品でびっくりした。どのようにして作られたのか。(長塚さん)
 -金森さん: 第一部冒頭「追憶のギリシャ」、十市さんと一緒に踊る場面の音楽はマノス・ハジダキス(1925-1994)。ベジャールがよく使っていたギリシャ音楽の作曲家で、ルードラ時代から思い出深い人。その人の楽曲を使って作れないかなと考えた。今回の楽曲は『I’m an eagle without wings.(私は翼のない鷲)』、今回のメインテーマである十市さんにもう一度、羽を獲得して欲しいとの思いを込めて選曲した。
『BOLERO 2020』の舞台版は、コロナ禍で創作した映像版で不在だった中心に十市さんを迎えて、他者と熱量を共有したいという鬱積した思いや願いなどを十市さんにぶつけるかたちをとり、そこから第二部へ行けたらと、この構成にした。
 -長塚さん: まず最初、十市さんの記憶から始まった。ダンス遍歴として受け取った。
 -金森さん: コロナ禍の苦悩が発端だったが、人間は人生の折々に、色々な境遇でそうした感情を抱く。時代を超えて、普遍性を持ったものであって欲しい。自由に受け止めて貰えれば良い。
 -長塚さん: 同時多発的で、凄い情報量。ドラマティックな「ボレロ」として刺激的だった。
あと、始まり方に驚いた。十市さんの劇のように始まった。こんなにひとりのダンサーに向けて作品を製作したことはあったか。
 -金森さん: 初めて。最初から最後まで「兄ちゃん」のために考えた作品。

第二部(The 80’s Ghosts)について
 -金森さん: 音楽はユーグ・ル・バール(1950-2014)、80年代にベジャールさんと一緒に作品を作っていたフランスの映画音楽の作曲家。十市さんがベジャールバレエ団に所属した1989年に、ベジャールさんが初演していたのが『1789…そして私たち』。フランス革命から200年後、革命にまつわる作品で、ユーグ・ル・バールがたくさん使われていた。十市さんとベジャールさんの出会いの頃。
その『1789…そして私たち』、200年前の革命で民主化された筈の世の中も、貧富の差は拡大し、争い事は尽きず、何も変わっていないという問題意識をベジャールさんは持っていた。80年代を振り返り、ベジャールさんを思い起こすとき、それは過ぎたことではなくて、今もなおアクチュアル。今現在、我々が生きている世の中の問題とも繋がっている。そのなかにあって、小林十市という舞踊家が52歳になって再び舞台に立とうとしている。その時間スパンをユーグ・ル・バールの曲を用いて表現できないかと思った。
ベジャールもユーグ・ル・バールも度々来日していた。80年代の日本は「バブル」。今から振り返ったら、じゃあ何だったんだろう、と。今もまだ続いている問題は何で、その上で、我々はここからどう「旅」していくかということを、逆に、舞踊家・小林十市に託した。

十市さんの「道化師」、52歳の十市さん
 -金森さん: 孤独で塞ぎ込んでいた17歳の頃、十市さんはいつも笑顔で優しかった。ベジャールさんの作品のなかでも、十市さんが担っていたポジションは「猫」の役など、人間を傍から、社会を斜めから見る目。あらゆる困難、苦悩、悲しみを見たうえで、それを笑いに転化しようというエネルギーを小林十市という舞踊家に感じていた。「道化師」は必然。その明るさ、道化的な要素をNoismメンバーに共有して欲しかった。通常のNoismではなかなかないようなことを十市さんと交わることで生みたかった。十市さんは落語家の孫。落語は人間の業を肯定する話芸、その遺伝子を継いでいる。
 -長塚さん: 道化師、俯瞰して、傍から見ている。今回の舞台でも、座って見ている時間が長かった。そこから踊り始めるのは結構負荷がかかるのではないか。52歳の十市さんの肉体と向き合ってどういう発見があったか。
 -金森さん: 2日目、カーテンコールが終わって、十市さんがちょっと悔しそうにしてたのが何よりかな。稽古して、求めれば求めるほど満足はいかないものだし、舞台に立ち続けるとはそういうこと。苦痛や不安を乗り越えていく、それが舞台芸術の美しさだと思う。十市さんの年齢を考えて振付したけれど、十市さん的には結構 too much だったかも。
でも、やっぱり十市さんは大きな舞台の人だと思う。世界中ツアーして、3,000人とかに向けて大空間で踊ってきた舞踊家。それは絶対、身体のなかにある筈だし、実際ある。
 -長塚さん・金森さん: 『BOLERO 2020』の最後、円のなかに入っていく、あれ、出来ないですよ。あのエネルギーのなかに行って、立つっていう。
 -長塚さん: 一緒に踊ったことはなくても、知り尽くしてるんですね。
 -金森さん: いやあ、だって、たった2年ですからね。妄想、妄想。知り尽くしてないです。(ふたり爆笑)
 -長塚さん: カンパニーとしての「出会い」はあったか。
 -金森さん: いい刺激になったと思う。凄い経歴、数々の舞台に立ってきた52歳でも、本番前に緊張したり、本番後、あそこがもっとなぁとか思ったり。若いメンバーが踊り続けていくなら、その姿が、彼らが共有したことがハッと気付くときが来る。今、もう既に目の輝きに表われてきたりしている。「舞踊道」、長く続く豊かなものである。たとえ、若い頃のように踊れなくなったにしても、そこにまた何か表現の可能性があることを感じて欲しかったし、感じてくれていると思う。
 -長塚さん: この作品がフェスティバルのフィナーレになったこと、凄い良かったなと改めて思う。
 -金森さん: 「クロージングで」ってことで話を貰ったので、なかなかの責任だったが、十市さんへの思いと持てるもの全てを十市さんのために注いだら、多分相応しい何かが生まれるとは思っていた。最終的に「兄ちゃん」が踊り切ってくれて良かった。
 -長塚さん: この構想を聞いてから、事前にプロットを考えて、そこに十市さんに入って貰ったのか、それとも十市さんと一緒に作っていったのか。
 -金森さん: line で、十市さんが踊った楽曲、思い出、写真など送って貰い、情報は共有したが、作品に関しては、自分のなかでどんどん先に作っておいた。あと、十市さんが入ってから、十市さんとの振付は、実際に十市さんに振付ながら生んできた。


作品に関して
 -長塚さん: 深い愛情が詰まった舞台であり、なおかつ、そこにとどまらず、今現在、これから先に向かっていくという作品は本当に素晴らしかった。
 -金森さん: 十市さんを思っている沢山の方々(お母さんやファン)の気持ちを裏切らないように作ったものが、昨日、無事に届いた感覚があって、それが何よりだった。
 -長塚さん: 十市さんのストーリーとして始まっていくのに、その間口がとにかく開かれていることが素晴らしいと思った。個人史みたいなところに行かず、歴史と記憶と現在とことを詰めたことが、閉じないことに繋がっている。作品としては、異質なのかもしれないが、十市さんというダンサーを通してできるひとつのレパートリーになっていくような、「幅」をとても強く感じた。
 -金森さん: 十市さんのために作ったが、十市さんにフォーカスしたいうよりも、「金森穣」の作品を作るうえでの妄想空間があり、そこに十市さんを入れ、そこで十市さんに自由に暴れて貰って、それで作った。十市さんが入ったことで、新たなインスピレーションのチャンネルも多数開いたので、十市さんには感謝している。
 -長塚さん: 全然閉じていなかった。特に開けていて、凄く面白くて素敵な公演だった。

…と、まあこんな感じでしたかね。ここでは拾い上げなかった部分も面白さで溢れていますから、是非、全編通してご覧になることをお薦めします。

そして、更に「もっともっと」という方には『エリア50代』初日(9/23)の公演後に配信された小林十市さん×長塚圭史さんのインスタライヴ(アーカイヴ)もお薦めします。こちらからどうぞ。

それではこのへんで。

(shin)

「10/17『A JOURNEY』横浜千穐楽直後、感動の余韻のままに金森さん×長塚圭史さんのインスタライヴ」への5件のフィードバック

  1. shinさま
    インスタライヴにつきまして、アップありがとうございました!
    耳で聞くのと目で読むのとではやはり違いますね。
    素晴らしい舞台を思い起こしております。
    そして、終演後に車中でインスタライヴをもどかしく聴いた時の気持ちや、帰宅してからじっくり視聴した満足感も♪
    また視聴しなくちゃ、ですね!
    金森さんが作品や音楽について等々、いろいろなお話をしてくれて嬉しかったです。
    そしてやはり「舞踊道」の言葉に、私も「おっ!!」と思いました♪
    まさに、「感動の余韻」に浸っております。
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      コメント有難うございました。
      本来ならアフタートークがあったりしたところですが、コロナ禍でそれがなくなり、淋しい気持ちもありました。
      ですから、こうしたリモートでの配信が行われる意義にも大きなものがありますし、アーカイヴが残されていることも嬉しいですよね。
      で、それをかいつまんで紹介しようとするとき、いつも、金森さんの明晰な語り口と精度の高い言葉選びには本当に驚かされます。今回もまさにそうでした。
      その場で放たれた言葉であるというのに、ほぼ乱れなど生じることなく、理路整然と語られていく凄さは驚異でしかありません。ですから、どこを取り上げて紹介しようか迷ってしまうことになるのが常なのです。そしてそれは今回も。
      ほぼ30分程度のやりとりなのに、紹介を試みようとすると、どこも簡単に切り捨てられないのですから、真剣な集中を要求される訳です。その点で本当に疲れるのですが、興味深い話とあっては、何とか採録しときたい、採録しなきゃなって気持ちになってしまい…。(汗)
      その採録、絶対に私のファクターがかかったものとなっている筈ですが、その点はご容赦をお願いし、本篇をお聞き願う際の資料とでも捉えて頂けたらと思う次第です。
      (shin)

    2. fullmoon さま
      書き足したいことを少しだけ。
      fullmoonさんが書いてくださったように、金森さんが今回の使用楽曲について色々話してくれたことがとても嬉しかったのは私も一緒です。
      普段のNoismとは趣を異にする音楽でしたが、とても魅力的なものばかりで、情報が欲しいなぁと思っていただけに聴いていてにんまりしたような次第です。『日曜はダメよ』しか知らなかったマノス・ハジダキス、そして更に新鮮だったユーグ・ル・バール体験。ふたりの名前は私の中にしっかり刻まれましたから。
      あと、長塚さんは、芸術監督という立場柄、カンパニーを巡る話も訊きたそうにしていたことが随所に窺えて、そうだろうなぁと思ったことも書き記しておきたいと思います。
      補足でした。蛇足かもですが…。(笑)
      (shin)

  2. shinさま
    コメント返信・補足ありがとうございました!
    蛇足なんてとんでもない(笑)
    いつもご苦労していただき感謝しています♪

    ほんと、金森さんはお話が上手でビックリですよね。
    その上 今回はインスタでも、輝く笑顔の表情がとても素敵でした♪

    長塚さんは、『BOLERO』をコロナ禍状況での踊りとは知らず、小林十市さんの遍歴を表していると受け取ったようですね。
    そう言われてみると、確かに人生の苦悩全般を表しているように思えます。 
    そして最後は苦悩からの脱却!
    より普遍的な解釈になって面白いなあと思いました。
    それこそ蛇足でスミマセン(笑)
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      追加のコメント有難うございます。
      『BOLERO 2020』、初見だった長塚さん、「肉体がどんどん解放されていく流れ、とてもドラマティックに観ることができた」としながらも、十市さんのダンス遍歴と捉えた見方はとても楽しいものでしたよね。そのクライマックスは9分48秒くらいからのやりとり。あまりにも楽しいので、ここに文字起こししてみます。
      長塚さん「それから面白かったのが、僕はそういうふうに見てるから、ちょっとセクシャルな女性が下手(しもて)側からクルッと現われて…、これが十市さんの人生だとしたら、どこの場面なんだろうっていうふうに思って…、あの、とんでもない…、あの、何か…、誰かに引っかかっちゃったりしたことがあって、その思い出が出てるのかなぁとか、いろんなことを…」(笑)
      で、金森さん、二度も手を叩いての大爆笑。
      「見事に困惑しながら」観たと語る長塚さん、ナイスです♪
      何度見ても実に楽しいやりとりですよね。
      (shin)

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