埼玉公演3日目、『Double Bill』大千穐楽に滂沱(ぼうだ)の涙

前日とは打って変わって晴天の埼玉、2020年1月19日(日)。気温は低めながら、そこは冬のことでもありますし、晴れているだけで儲けものと思いながら、彩の国さいたま芸術劇場へと向かいました。

午後2時くらいに与野本町駅に降り立ちますと、私たちの目の前、改札を出たところには待ち合わせをしている制服を着た女子高生の集団の姿があり、恐らくダンス部員と思しき彼女たちも、そこから同じ場所を目指してずっと私たちの前を歩いていく成り行きに自然と頬が緩みました。そう言えば、前日の会場内にも似た雰囲気の女子高生の姿がありましたし、「いいねぇ。りゅーとぴあだけじゃないんだね。彼女たちの未来は明るい」そう感じたような具合でした。(笑)

故・蜷川幸雄さん展示品の向かいにNoismチラシ
新潟市の観光パンフ
「一度来てみるってのはなじらね」

入場後、この日もホワイエに立つ森さんにご挨拶した際、お願いして公演パンフにサインをしていただき、またひとつ宝物が増えました。そして昂る気持ちのまま、まるで「クロノスカイロス1」の時間表示が刻々変化していくのを実感するかのように「大楽」の開演を待ちました。

この日も予定時刻を少し回った15:05頃、音楽が鳴り始め、緞帳があがると、無人の舞台の最奥にピンク色の時間表示が現れます。それは最初の一音が響くと同時に刻まれ始めた経過時間を示すものなのでしょう。そして「1:25.00」を合図とするのだと思われますが、鳥羽さんが舞台を横切って走ってそのまま消えていくことで、「クロノスカイロス1」が始まります。いつしか時間表示が映像を映すスクリーンに変わっていることもいつも通りです。

映像が映す身体と生身の身体とのシンクロ振りを楽しみながらも、鏡面ではないスクリーンに向き合う舞踊家の姿は左右が反対の筈で、例えば、右手の映像の手前には生身の左手が重なっている訳で、そうしてみると、信じられないレベルで左右対称の動きを作り上げていなければ成立し得ない演目であることに気付きます。それをこの日は今まで以上の笑顔で踊った舞踊家たち。観ているこちらも鼓動が高まり、ワクワク楽しいのなんのったらありませんでした。

「夏の名残のバラ」、息を凝らして主演女優と助演男優を見詰める、そう、まるで映画のように。それも、fullmoonさんが言うように、極上の一篇。緞帳に大写しにされた井関さんの映像が、実の舞台で生身の井関さんの姿に引き継がれる際のゾクッとする感じは何度観ても変わりありません。

この日、目に留まったもの。まず、鏡に向かい、メイクを施す井関さん映像の上方、逆さに吊るされた、乾燥具合(枯れ具合)を異にする(要するに、違った時期の思い出の品であっただろう筈の)赤いバラの古い花束が3つ。そして実演部分に至り、井関さんをとらえる山田さんのビデオカメラが最奥のスクリーンをもそのフレームに収めてしまうことで、実像の後方、斜め上方向に2つの井関さんの映像が映り、都合3つの赤いドレス姿を同時に目にすることになる、その符合振りの巧みさ。そんな心憎いがまでの細部にも魅了され、終始、心臓はバクバク言って、仕舞いには涙腺が見事に決壊、滂沱の涙となる始末でした。

「FratresII」の鬼気迫る気迫、熱、渾身、或いは憑依。見詰めているだけで違う世界に連れ去られてしまうような舞踊。落下する数多の米の粒さえ金森さんの身体に当たって弾けるときに、シンメトリーを描いてしまうに至っては一体どうしたらそんなことが可能なのだろうか、とも。ですから、凄いものを見てしまったと言うほかにないと感じた、「楽日」の「FratresII」でした。

休憩を挟んで、森さん演出振付の『Farben』、いよいよ見納めの時が近付きます。照明、装置、そこに音楽。感情を滾らせるような弦の響き。繰り出されるそのビートをそれぞれの身体を使って可視化するかのような出だし。冒頭から、触れると火傷しそうなくらいの熱を発して躍動する身体が音楽との見事な一体化を遂げています。抑圧、不安、渇望、追憶、喪失、傷心、夢…、ひとつところに安住することをさせない要素たちと、それらに突き動かされる姿とが息苦しいがまでに観る者の胸に迫ってきます。

金森さんとはテイストを異にする森さん作品。それを見事なまでに現前させたのはNoismならでは、そんなことも書きましたが、この日は更にそれに留まらず、それを踊り切った舞踊家はまた新たな舞踊言語を手にした筈との思いを抱くに至りました。まったく「Noism第二章」に相応しいこと、この上ありません。

第一部、金森さんの『シネマトダンス-3つの小品』の後も、第二部、森さんの『Farben』の後も、緞帳が下りてのち、暫く沈黙が客席を覆っていました。カーテンコールになって初めて拍手が解禁されるかのような空気を作り出したのは、他でもないこの日の舞踊家たちが見せた「爆発的な」舞台、それ以外の何物でもありません。一旦、拍手が送られ始めると、今度はそれが熱を帯びたものに変わり、「ブラボー!」と声をかける者、スタンディングオベーションを送る者等々、会場中が、少し前の沈黙とは打って変わって、熱狂的な様子に変貌を遂げることになりました。

夕刻特有の色合い(farben)が、熱狂の舞台を静寂に戻していくのを振り返りながら、与野本町駅に向かって歩み始めたのですが、不思議なことに、いつも楽日の公演後には感じてきた「Noismロス」には襲われずにいました。それもこれも、圧倒的な舞台の余韻が収まる兆しを見せず、まだまだ夢の中にいるような心持ちだったからに違いありません。

帰りの新幹線まで2時間半はあったため、同じく新潟から遠征のサポーターズ仲間と一緒に大宮まで出て、この日も居酒屋さんに行くことになりました。それもNoismが与えてくれる幸福の一部であることは前日のブログに書いた通りです。Noismを観て楽しみ、Noismを語って楽しんだ2日間。Noismを好きな自分でいて良かった、この日も心からそう感じたような次第です。

(shin)

雪舞う首都圏、『Double Bill』埼玉公演2日目

前日から始まった埼玉3days、初日は仕事で都合がつかず、泣く泣く我慢。で、仕事帰り、公演時刻とちょうど重なる頃、やはり公開初日を迎えたイーストウッドの新作映画『リチャード・ジュエル』を観て過ごし、その後、帰宅してfullmoonさんのレポを読んで、というのが、2020年1月17日。明けて18日(土)の朝、新幹線で新潟市を出て、勇躍、埼玉に向かいました。まだ時間も早かったため、東京まで足を伸ばして過ごしていたのですが、気温はどんどん下がり、お昼頃の新宿界隈は遂に雨が雪に変わる始末。雪のない新潟市から雪舞う新宿へ、という予想もしない展開にまず目が点になったような次第です。

その後、幸いにして寒気は緩み、それでも、雨がそぼ降るなか、埼玉へ移動して、開演1時間前の16時頃、与野本町に入りました。駅を出たところで、同じく新潟から来たサポーターズ仲間にばったり遭遇。傘をさして雪やら雨やらに苦笑いをしながら、公演会場である彩の国さいたま芸術劇場へと向かいました。

幻想的なガラスの光庭

Noismが私の人生に運んでくれた豊かさや幸福にはそういうものも含まれています。Noismを通じて知り合った人たちです。入場前にも東京や千葉のサポーターズ仲間と笑顔で挨拶を交わし、或いは、仲良くして貰っている、あるNoismメンバーのお母様ともお会いしたり、チケットを切って貰ってホワイエに進んだら進んだで、今回招聘された森優貴さんにご挨拶できたり、はたまた、金森作品のあとの休憩時間には、この日、ご覧に来られていた小㞍健太さんともお話しできたり、…と。それらはどれひとつとっても、Noism抜きにはあり得ないことで、もう手放したくない幸福な状況な訳です。有難いです。でも、そんなふうに感じている方って多いのではないでしょうか。

前置きが長くなり過ぎですね。ここからは埼玉2日目の公演について書きます。新潟での3日間から日を空けて、今回、D列の席から見上げた大小4つの演目からは、どれも、瑞々しさや生々しさ、要するに鮮度を保ったまま、練磨の度合いが上がり、滑らかさが増した、そんな印象を受けました。舞踊家しかり、照明しかり。

腕を振り回すごとく、勢いのままに若い刻を謳歌する舞踊家たちと、ひらりひらり忍び寄る終焉の予兆。それを暗示して舞い落ちた薄片は、新潟での黄色から埼玉ではさくら色に。虚実入り乱れるかのような生の身体と映像、それを照らす照明も少し変わって、インパクトを増した箇所もある「クロノスカイロス1」。

齢を重ね、それでも舞台に立つ舞踊家とそれを間近から撮ることで観つつも見せる男。赤と黒と夕陽のような金色が美しい舞台は「夏の名残のバラ」。設定さながらに、踊り込まれることでしか達しようのない域、「至芸」の味わいを濃厚にしていて、固唾を飲んで見詰めるのみです。

金森さんがその身ひとつに場内すべての視線を受け止めて踊る「FratresII」。舞踊を生業とした者、或いは舞踊にすべてを捧げる決心をした者の覚悟のほどを発し続けて、一瞬ごとに場内を圧していきます。緞帳がおりてのちも客席は雑な身動ぎが憚られたと見えて、送られた拍手は、両の掌も緊張が解けないままでどこかぎこちなさを引き摺るような拍手に聞こえました。それだけ圧倒的なソロだったということです。

上に書いた通り、小㞍健太さんともお話しができて感動した休憩を挟んで、森さんの『Farben』です。中央で踊る井関さん、ジョフォアさん、鳥羽さん、そしてラストで視線を釘付けにする林田さんだけでなく、すべての舞踊家が、より確信に満ち、より伸びやかに、そしてより激しく、持ち前の「Farben(色彩)」を発散して踊る印象を強め、もう見どころ満載、個性や魅力の「てんこ盛り」状態になっています。

「one of them」を踊っているのに、当然ながら、決して「one of them」に留まっていずに、誰よりも「若さ」を発散して踊る井関さんを観る稀な機会でもあります。それひとつだけとっても、楽しくない筈がないじゃありませんか。

森さんが仕掛けた欧州のテイスト。それをあのレベルで現前できるのはNoismなればこそ。彼らの身体が、彼らの日々の鍛練があってこそと断言するほかない舞台が展開されます。この日もとっぷり浸かって、心から堪能いたしました。

この日は劇場を後にしても、直接、ホテルに向かうのではなく、fullmoonさんと彼女の友人にご一緒させて貰い、居酒屋さんでNoismを肴にグラスを傾けて楽しい時間を過ごしました。笑って食べて飲んで過ごした時間は優に2時間を越えていましたから、公演時間を上回っていた訳で、つまりは公演に「倍する」時間、Noismに浸っていたことになり、埼玉の地で、冒頭に書いた豊かさや幸福、ここに極まれり、って日を過ごしたことを書いて締め括りとさせていただきます。

森優貴/金森穣 Double Billも余すところ「大楽」の一公演のみとなってしまいました。である以上、満喫するのみ。本日、また足を運びます。

(shin)

埼玉公演開幕!!

2020年1月17日(金)。待ちに待った埼玉公演、その初日!ああ、本当に行ってよかった!!新潟公演もとてもよかったけど、ますます素晴らしい。”極上”という言葉が浮かび上がります。堪能させていただきました。贅沢〜♪ 

この舞台をあと2回も観られて幸せでもあり、2回しか観られなくて残念でもあり・・・でもうれしい。生きていることを実感する。 

【余談】 今日の席はB列、つまり2列目なのですが、なんと、A列は撤去されていて、思いがけず最前列で観せていただきました♪

(fullmoon)

2月「Noism Company Niigataを応援する会」開催♪

皆さま、新年明けましておめでとうございます。

昨秋、懸案だった活動延長も無事決まり、良い年越しができました。そして来る2月、その喜びのまま、標記の会が開催される運びとなりました。

新潟各界の方々にお声掛けしています。Noism活動支援会員、Noismサポーターズ会員、さわさわ会会員の方はどうぞご参加ください♪

詳細は以下の通りです。

「Noism Company Niigataを応援する会」

 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

 さて、このたび りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館が運営する、国内唯一の公共劇場専属舞踊団『Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)』の2022年8月までの活動継続が決まりました。

 つきましては、これをお祝いするとともに、Noismの活動の更なる発展を願い、下記のとおり「Noism Company Niigataを応援する会」を開催したいと存じます。

 当日は、金森穣Noism芸術監督をはじめ、ダンサー、専属スタッフの皆さんからご参加いただくとともに、Noismの活動継続を決断された中原市長からもご出席いただく予定となっておりますので、本会の趣旨にご賛同いただき、多くの皆さまからご参加いただきますよう心よりお願い申し上げます。

発起人:  さわさわ会 会長/新潟・市民映画館 シネ・ウインド 代表 齋藤 正行

新潟商工会議所 会頭 福田 勝之

新潟経済同友会 代表幹事 山本 善政

新潟総踊り祭実行委員会 副実行委員長 能登 剛史

NoismサポーターズUnofficial 事務局長(代表) 越野 泉

  • 日時  令和2年2月2日(日)午後5時30分
  • 場所  新潟 ジョイア・ミーア -Gioia Mia Niigata-  (新潟市中央区東堀通7番町1016-1)
  • 会費  5,000円(立食パーティー形式)

お申込み・お問い合わせ: お手数ながら、当ホームページお問い合わせフォームからご連絡ください。Contact:  https://noism-supporters-unofficial.info/contact/

・・・以上です。

「Noism第2章」の幕開けを盛大にお祝いしたいと存じます。どうぞご検討ください。

(fullmoon)