身体から零れてくる「沈黙の言語」に心揺さぶられ通しの約70分、『Der Wanderer-さすらい人』新潟千穐楽♪

遂にこの日が来た/来てしまった…。
2023年2月4日(土)は『Der Wanderer-さすらい人』新潟全11回公演の千穐楽の日。公演の初日から連日、深化と進化を重ねてきた舞台、その一区切りとなるのがこの日です。観たい、是非にでも!そういう思いと同時に、まだ先送りしておきたい、そんな思いも同居する胸のうちはなかなかに複雑なものがありました。この日の開演前には見知ったサポーターズ仲間の面々とも多数お会いしたのですが、その誰からも例外なく似たような思いを感じたものです。それもまた、語らず秘しておこうとするにも拘わらず、零れ落ちてしまう観客の側の「沈黙の言語」だったのでしょう。

そんなふうな思いを胸に、この日はまた最前列に腰掛けて、開演を待ちました。楽日のざわつく場内も、あの効果音とともに静寂に入り込みます。構成の美は私たちが愛して止まない「金森」印ですから、何も構えることなしに、すっかり身を委ねて、誘われるまま、それだけでもう充分な訳です。贅沢なこと、この上ありません。

21曲のシューベルト、それを踊る11人の舞踊家。表情や目と目線、指先や足先、静止の「間」も含めた一挙手一投足…。もう瞬きするさえ惜しいような、濃密で美しい、渾身にして圧巻のパフォーマンスが展開されていきました。

新潟楽日のこの日、11人が示した70分弱の「顕身」。観る者としては耳に届く歌曲を背景にもうひとつ、舞台上、踊る身体から豊かに零れてくる「沈黙の言語」を前に、見詰める両の目さえ、あたかももうふたつの耳と化したかのようにして、それを「聞き逃すまい」と見詰めて、受け止めることで、心を強く大きく揺さぶられるといった類い稀なる時間に浸り切りました。

その至福。うまく語れる者などいよう筈もありませんから、終演後のホワイエでは、感動で頬を紅潮させたサポーターズ仲間が集まってさえ、誰も多くを語ろうとしなかったことなどごくごく当然のことであったに過ぎません。

そのホワイエ。金森さんの書籍販売の列に(またしても)並んで、これまでの○冊に加えてもう一冊求めたのは、観た者が受け取る大きな感動、それをまだ知らぬ職場の同僚(一緒に同じ仕事に携わってきていて、幸い本好きでもある)への「遣い物」にしようという思いから。そして、もうひとつ実行に移したのは2Fへ降りたところでの所謂「出待ち」。まず、庄島姉妹、そして井本さんと少しお話ができ、「ホントに素敵でした♪」と感動の大きさを直接伝えつつ、少しお話しもできたのは嬉しいことでした。

そんなふうに待つこと、約40分。見上げたエレベーターのなかにいよいよ黒と白のダウンを着たおふたりの姿を認めます。降りて来られたのは金森さんと井関さん。ご挨拶をしてから、この日求めた『闘う舞踊団』にもサインをいただくことができました。金森さんには「えっ、まだあるの?」と笑われながら、井関さんがしっかりと本を支えてくれるなか、「日付も入れようか。今日は何日?」といただいたサイン。そんなやりとりもあるので、「遣い物」には以前の○冊のなかの一冊をあてて、これは自分の分とします。金森さん、井関さん、お疲れのところ、どうも有難うございました。

約3週間後の世田谷パブリックシアターでの公演にむけて、金森さんたちは2週間後に東京に入るのだそうです。また異なる舞台での上演に際して、その「場」に応じた深化を極めんとすることはもはや必定の金森さんとNoism。世田谷での公演をご覧になられる予定の皆さま、期待してあともう少しお待ちください。「新生」Noism Company Niigataの第一章『Der Wanderer-さすらい人』は紛れもない名作ですゆえ。

(shin)

まさに陶酔境♪シューベルト×Noism『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演、折り返しの6日目

2023年1月28日(土)15時からの『Der Wanderer-さすらい人』公演は、新潟での全11公演のちょうど折り返し点。評判が評判を呼んで、この日もチケットはソールドアウト。「10年に一度」クラスの寒波が残した置き土産の雪があってさえ、開演前のりゅーとぴあ・スタジオB界隈には期待感が熱気となって感じられるようでした。

この日は催し物も重なっていて、駐車場の混雑も予想されていましたが、そこに拍車をかけたのが、その「置き土産」。道幅だけでなく、駐車スペースさえ狭められていたようで、かなり早い時間帯から駐車場に入ろうとする車列は伸びることはあっても、一向に前に進んでいかない状態になっていました。かく言う私も13時半には駐車場の入り口付近まで来ていたのですが、そこから入庫が見通せず、早々に諦めてUターンし、他の駐車場に向かって、ことなきを得たくらいです。(汗)
(*明日1/29(日)も駐車場は混雑が予想されています。お車の方はお早めに!)

全席「ソールドアウト」のため、入場前には「満席の予定です」とアナウンスされたこの日の客席でしたが、見たところ、ざっと10数席の空席を残したまま、開演時間の15時を迎えてしまいました。その後、途中入場される方もおられましたが、恐らく駐車場が原因ではなかったかと。だとしたら、その無念さは如何ばかりか、察するに余りあるものがありました。

それくらい、この日の舞踊家たちのパフォーマンスには観る者を揺さぶるものがありました。シューベルトの歌曲の深い味わいにNoism Company Niigataの舞踊家たちの身体が掛け合わされることで現出したのはまさに陶酔境。若き日の愛と孤独は前半。避けられない孤独、死の訪れの後半。そしてラスト、…。そう、どこをとっても、見どころ満載の豊穣さ。数日前にも観ていたのですが、この日の舞踊家たちはあたかも熟成されて旨みを増した酒のよう。さらりとしていてコクがある吟醸酒のような口当たり。もうホントに酔いしれました。

当初、この日のチケットは買っていなかったのですが、後に金森さんのサイン会が組まれたことを知り、「どうせサインを貰いに来るのだろうし」と買い足したのでした。ですから、入場整理番号もホントに終わりの方で、「ならば」と最後列を狙って腰掛けて観たのですが、さすがはスタジオ公演、それでも近い、近い。更に照明の美しさを目一杯堪能できました。どこの席も全て「良席」です。

そして個人的には、この日は3回目の鑑賞だったのですが、初めて太田菜月さん(Noism2)の出演回にあたりました。『狩人』のソロも、『トゥーレの王』での三好さんとのデュオも、杉野可林さんとはまったく異なるテイストで、両方を観る機会に恵まれた贅沢を噛み締めて観ました。

終演後のホワイエでは金森さんの書籍販売とサイン会(2回目)が待っていました。嬉しくない筈がありません。

ワタクシ、色々な事情があり、公演初日からこの日まで、併せて○冊も購入させて貰い、その全てにサインを頂くことができました。更にお願いしたら、次のような写真まで撮らせて貰いました。もう完全に舞い上がっちゃってましたよね。(金森さん、どうも有難うございました。m(_ _)m)

更に、その後、2Fクローク前のスペースまで移動して、fullmoonさんとお話ししていると、えっ!金森さんと井関さんが通りかかるじゃないですかっ!さすがはNoismの「ホーム」りゅーとぴあ!ご挨拶はしたものの、そこからは、またしても舞い上がってしまって何を喋ったんだか思い出せない始末。ただ、ひとつ覚えているのは、おふたりから「気をつけて帰ってくださいね」など言われちゃったこと。もう諸々贅沢な至福の土曜日だった訳です。

新潟公演はこの先、平日の2/2(木)と2/3(金)のみ若干チケットが買えるようですから、まだ観ていない方も、もっと観たい方も、ご予定をやりくりのうえ、是非この陶酔に心ゆくまで浸って頂きたいと思います。

【追記】この記事へのコメント欄に、fullmoonさんによる翌 1/29(日)新潟7日目公演についての報告もありますので、よろしければご覧ください。

(shin)

今回、金森さんが目指す「詩と音楽に三つ巴で拮抗するもの」を目撃する観客の喜び♪(『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演3日目・アフタートークあり)

2023年1月22日(日)、一時、鈍色の空から雪片が舞い落ちる時間帯もありましたが、案じられたほどの降雪にはならず、『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演3日目は、この日もチケット完売で、無事、その開演時間(15:00)を迎えることができました。

一時の荒れ模様も…
数分後には…

この日は初日と同じキャストで、シューベルトの歌曲21曲によって構成された「70分(正味60分強でしょうか)」の演目が紡ぎ上げられていきました。この日も私は演者の呼吸音すらダイレクトに届く最前列に腰を下ろし、11人による「さすらい」をおのが全身で受け止めるように見詰めました。

演者がバトンを受け渡すようにして入れ替わりながら、今回の見どころとされるそれぞれのソロが踊られていくのですが、勿論、複数人で踊る場面も拘りの演出振付が施されており、刮目を要することは言うまでもありません。つまり、70分間、様々に注視して臨むべき演目と言えるでしょう。

新潟全11回公演のうち、「第1クール」最終日のこの日は、11人の舞踊家たちの伸びやかさが増していたように見ました。世界初演の舞台は順調な滑り出しを示したと感じます。

終演後、客席はほぼ全員が残ったままに、「丸3年振り」(金森さん)となるアフタートークが開催されました。そのことをまず喜びたいと思います。私たちに向き合って腰掛けた金森さんと井関さんが柔和な表情を浮かべ、ユーモアを交えながら、質問に答えてくださいましたし、客席も「この日を待ってました」とばかり、例外なく、20分間の「アディショナルタイム」を満喫していました。
では、井関さんの「Noism国際活動部門芸術監督の井関佐和子です。こちらはいつもの金森穣さんです」で始まった、その折のやりとりからかいつまんでご紹介いたします。

Q:全体のテーマは?
-A(金森さん):愛です。何故、人はさすらうのか。他者に対する愛、そしてそれを超えて、自分が輝ける場所を求めてさすらう。そして愛に付随するものとしての孤独と死。シューベルトの700曲を超える歌曲を聴いて、音楽家の魂のなかに聞き取った。

Q:パンフレットの表紙のメンバーの表情はどういう表情なのか?
-A(井関さん):まずはメンバー一人ひとりの表情がわかるもの。「色々な顔であって欲しい」と穣さん。そこからデザイナーさんが選んだ。
-A(金森さん):証明写真や遺影みたいにはなりたくなかった。(笑)多様性があったらいいね、と。
-A(井関さん):何考えているのかわからないのがいいね、と。(笑)

Q:歌曲のソリスト(歌手)についてはどう選んだのか?
-A(金森さん):メンバー一人ひとりを思い浮かべながら、色々な録音から選んだ。そして、実際に踊るのを見て、合わないとなったら、また探した。
-A(井関さん):同じ曲なのに、あんなに違う作品に聞こえるのが面白かった。自分も一度、男性の声でやってみたら、全然違うな、となった。(笑)

Q:赤いバラが頻繁に使われているが、思い入れがあってのことか?
-A(金森さん):他の色は考えなかった。意外と色々考えてそうに見えますよね。(笑)イメージしてみたら、そこにあったバラが赤かった。

Q:手応え、印象、課題について。
-A(金森さん):作品は出来上がると見守るしかない。彼らが一期一会で色々なものを見出して欲しい。生き切って欲しい。それを届けて欲しい。
-A(井関さん):「ひとりで立つ」のは足が一歩も出ないくらい今でも怖い。普通ではない危機感を感じて、「怖いと思って欲しい」と言った。慣れにならないように、怖い思いをしていって欲しい。

Q:21曲を選曲した理由は?
-A(金森さん):振付家としてインスピレーションが湧くもの、そして、彼らが踊っている姿が見えたものを選んだ。加えて、「イブニング公演」全体を通してのリズムも考慮しながら、パズルのようにして嵌めていった。そして、今のNoism0とNoism1にしか出来ないものを、と考えた。

Q:「ソロ」の構成に込めた思いは?
-A(金森さん):これからのNoismに何が大切か考えたとき、一人ひとりがお客様を呼べるようになること、一人で立てるような個々人がここ新潟で活動しているのが夢。

Q:歌曲の内容との関連は?
-A(金森さん):関係性はあるが、一義的なものではない。詩と音楽と三つ巴、四つ巴になり、拮抗するものを目指している。
-A(井関さん):今回、メンバーに歌詞の日本語訳を渡したのは珍しいことだった。
-A(金森さん・井関さん):「大人の事情」から、その日本語訳を示すことは出来ない。色々探してみて欲しい。

Q:演出振付されたものを踊るとき、個々のダンサーが担う責任範囲として、「表現」はどう生まれてくるのか?
-A(井関さん):演出の世界観・時間の流れ・振付の意図を理解して、作家を超えたものを返すのが至上命題。与えられた言葉や示された動きではなく、作家の大脳に働きかけること。頭の奥に何が潜んでいるのか、それを探り、奥へと入り込んでいく作業が楽しい。
-A(金森さん):方程式は何もない。作家と実演家がそうした相手を見つけること、それをベジャールさんは「愛」と呼んだ。

Q:木工美術の近藤正樹さんとの出会いは?
-A(金森さん):8年前、『カルメン』のとき、友人夫妻を介して知り合った。美術をお願いすると、いつも面白がってくれる。
-A(井関さん):いつも想像を超えてきてくれる。

…と、そんなところでしたでしょうか。


最後に、この度、夕書房さんから刊行された金森さんの著作『闘う舞踊団』について触れられると、「何を目指しているか」が分かって貰える筈、と金森さん。私は(一度目)読了しましたが、まったくその通りと思いました。必読の好著ですので、是非お買い求めください。
(これは個人的な事柄ではありますが、私、光栄にも、終演後のホワイエにて、本日の公演に足を運ばれていた「ひとり出版」夕書房・高松夕佳さんその人にご挨拶したうえ、この本の素晴らしさと受け取った自身の感激について直接お伝えすることが出来ました。とても嬉しいひとときでした。)

更にもうひとつ。今週の水曜日と木曜日にはまだまだ席に余裕があるため、是非お越しください、と金森さん&井関さん。新生Noism Company Niigataの船出、或いは意欲的な「さすらい」を是非お見逃しなく♪

【追記】この記事へのコメント欄に、fullmoonさんによる 1/25(水)公演および 1/26(木)公演+2回目のアフタートークについての報告もありますので、よろしければご覧ください。

(shin)




目を釘付けにされ、心は掻きむしられ…『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演初日

2023年1月20日(金)、この日から強い寒気が流れ込むとされ、大荒れ予報が出ていた新潟。雪は落ちてこなかったものの、夕方からは風雨が強まり、シューベルト『魔王』よろしく、嵐のなか疾走する「ト短調」気分が濃厚に漂うなか、車でりゅーとぴあを目指しました。

新生Noism Company Niigataによる『Der Wanderer-さすらい人』。世界初演となる新潟公演初日のチケットは早くから「完売」。新しい年の「Noism初め」を待ち焦がれていた人が如何に多かったか分かろうというものです。

入場整理番号順にスタジオBに進むと、この日、私は最前列の席を選び、腰を下ろしたのですが、緞帳がなく、現しのままの四角く区切られたアクティングエリア内には既にむこう向きに立つ井関さんの不動の姿がありました。全ての客席が埋まったのは19時を数分まわった頃。やがて場内が暗くなり、同時に効果音が高まると、それは始まりました。

そこからはもう、深遠なシューベルトの歌曲に浸り、これまでのNoismには見当たらなかった類いのソロの舞踊の連打に目を釘付けにされるだけでした。愛が踊られる前半も、その甘美さというより、心を、胸を掻きむしられるような満たされざる気持ちの切なさが横溢しています。そして後半は死が最前面に押し出され、不穏な禍々しさが際立ちます。そして待ち受けるラストのあの味わい。70分の新作をあっという間に見終えました。詳しくは書けませんが、もう必見です。

終演後のホワイエでは金森さんの『闘う舞踊団』(夕書房)をはじめとする書籍販売のコーナーが設けられていて、多くの方が列を作って買い求めていました。私も2冊買いました。明日は一日、読書三昧を決め込むつもりで、そんな土曜日も楽しみでなりません。勿論、サイン会にはまた並びます。

帰宅してからは、金森さん+東京バレエ団の『かぐや姫』第2幕ほか(上野の森バレエホリデイ2023)のチケットもゲットして、もう色々に嬉しいことづくめの金曜日でした。

新体制に移行したNoism Company Niigataによる第一作目『Der Wanderer-さすらい人』70分、それを見詰める者も、一人ひとり「人生」をさすらうことでしょう。そしてそのさすらいの果てにどこに連れて行かれることになるのか、是非その目で受け止めてください。チケットは絶賛発売中。「完売」の回もありますので、お早めに。

【追記】この記事へのコメント欄に、fullmoonさんによる 1/21(土)新潟2日目公演についての報告もありますので、よろしければご覧ください。

(shin)