強烈な寒波が実に1週間に渡って日本列島上空に居座ると報じられるさなかの2025年2月19日(水)、やはり寒いその夕方17:00から約1時間配信された牧阿佐美バレヱ団のインスタLIVEに金森さんと井関さんが登場し、同バレヱ団の清瀧千晴さん・ 織山万梨子さんと話されました。
今回のインスタLIVEは翌3月8日・9日の「ダンス・ヴァンドゥⅢ」(@文京シビックホール 大ホール)に向けたもので、その両日、金森さんが生誕100周年となる芥川也寸志『弦楽のための三楽章-トリプティーク』に振り付けた新作『Tryptique~1人の青年の成長、その記憶、そして夢』が上演されます。師である牧阿佐美さんもかつて振り付けた同曲に金森さんも挑みます。楽しみ以外の何物でもありませんね。



この日のインスタLIVEは、金森さんのその新作『Tryptique』にまつわるお話しをお聴きする機会として設定されたものでした。ほんの少しですが、かいつまんでご紹介を試みたいと思います。
*オファー: 2022年に三谷恭三さん(芸術監督)から、牧阿佐美先生の追悼公演のオファーがあった。
*振付: 戦後の日本人作曲家に振付してこなかったのだが、依頼があった頃によく聴いていたこと、そして、この芥川也寸志作品が阿佐美先生のデビュー作にして代表作であることを知り、「追悼」の意味合いから、師匠のデビュー作を弟子が半世紀後に作るのも悪くないんじゃないかということで決めた。また、バレヱ団が、情熱を継承しつつ、次に進むことを考えたとき、馴染みのないものではなくて、ダンサーたちの身体に入っている『Tryptique』を刷新して、新しい『Tryptique』をダンサーたちの身体に入れていくことに意味があるんじゃないかとも思った。阿佐美先生の振付は見ていない。影響受けそうだったので。
*オーディションとキャスティング: 清瀧千晴さんは「青年」役(主役)で、織山万梨子さんが「恋人3(運命の人)」役。清瀧さんはNHK「バレエの饗宴」で観ていて「青年」役に決めていたが、他のキャストはオーディションで決め、リハーサルで最終決断。直感でしかない。「賭けた」ということ。経歴・来歴には興味なく、「この舞踊家、面白いな、音楽性いいな」とか、それしか純粋にインスピレーションにはならない。他の役については主役・清瀧さんとの相性という要素はあった。
*「あらかじめ説明するのは得意じゃない。面白くない」(金森さん): 設定やストーリーの説明は通し稽古が終わってからだった。タイトルも後から知らせたほど。
*「夢」: 3楽章のラストはシンボリック。ラストのユニゾンが「夢」。みんなで一緒に踊る、舞踊団であること。阿佐美先生へのオマージュや思いも込めつつ、そこにバレヱ団があることの強さ・かけがえのなさは当たり前のことじゃない。「夢」のようなもの。
*エンディング: 全然違う3,4パターンがあって、まだ悩んでいる。「舞踊家がやっと掴んできたものも急に覆されたりするのが、振付家・金森穣の大変なところだが、面白いところ。より良いものにするために、よりよく伝えるために変えたりする」(井関さん)
*衣裳: レオタードやタイツには金森さんからのバレエへのリスペクトが込められている。幼少期から積み重ねて、辿り着いた肉体が全てで、出来るだけそのまま出したい。
*その色・青と緑: 「青」、青臭さ、青春の色味、メタファー。(井関さんの好きな色。)「緑」、安らぐピースフルな印象。(金森さんが好む色。)
青と緑は金森さんにとって、自分の純粋性のなかで大事な色なのだそう。今回の物語・構成は「青い」。恥ずかしげもなくピュアな、阿佐美先生に向き合っていた当時の(15ないしは17歳の)金森さんの心そのものを奇を衒うことなく出したかった。それが阿佐美先生への感謝の印。また、それがダンサーたちに振付をするときに大事なんじゃないかと。
*照明: 沢田祐二先生にお任せしようかとイメージを伝え、(ダンサーには見せていない)台本も渡してある。「綺麗に見えないことは絶対にしないが、もしキツ過ぎたら私に言ってください。フォローします」(井関さん)
*オーケストラの生演奏(指揮:湯川紘惠さん・管弦楽:東京オーケストラMIRAI): 生演奏オケは難しい。音楽家もプロ、要求に全部応えて貰うのも違う。互いに求めているクオリティを尊重しながらも、主張しながらやることになる。
「文京シビックホールはオーケストラピットが広くて、客席が遠い感じ」(織山さん)、「それをイメージしながらリハーサルしている」(清瀧さん)→「会場を知らないから、言ってくれたら、出てくるタイミングをちょっと早めるとか稽古場でもやっておけることがあるかもしれない」(金森さん)
*金森さんからのメッセージ: 30年振り以上で、牧阿佐美バレヱ団に戻ってきて、後輩やこれからのバレヱ団のために振付家として注げる愛情は全て注いで作っている作品。この作品を通して、個々人の、そしてバレヱ団の力を存分に表現して欲しい。
*井関さんからのメッセージ: やる気・意欲に感銘を受けている。そのポジティヴなエネルギーは観客に伝わると思う。バレヱ団として全力でそこに向かって欲しい。

*3月7日(金)の公開ゲネプロはチケット購入者でHPから申し込み先着50名が見学可能。『ホフマン物語』第2幕より幻想の場と『Tryptique』がご覧頂けます。残り僅かなので、申し込みはお急ぎくださいとのことでした。
☆「ダンス・ヴァンドゥⅢ」(3/7、8)同時上演作品:
*『ホフマン物語』第2幕より幻想の場: 振付:ピーター・ダレル、音楽:ジャック・オッフェンバック。牧阿佐美バレヱ団としては、2002年の全幕上演以来となる。
*『グラン・パ・ド・フィアンセ』: 振付:ジャック・カーター、音楽:P.I.チャイコフスキー。プティパ/イワノフ版『白鳥の湖』からカットされた場面を、6人の花嫁候補たちが美を競う「パ・ド・シス」として再構成した作品。
*『ガーシュインズ・ドリーム』: 振付:三谷恭三、音楽:ジョージ・ガーシュイン、斉藤恒芳編曲。1997年初演。前回の上演が2007年、織山さんの初舞台でもあるそう。
「ダンス・ヴァンドゥⅢ」ですが、「バレエを知らない人にも、バレエマニアにもお楽しみ頂ける」(織山さん)ということにホッとしました。バレエはほぼ何も知らない私には、ずっと敷居が高い気持ちもなくはなかったのですが、このインスタLIVEを視聴したことで勇気(!)が持てたのでした。楽しんで観て来ようと思います。
ほぼこんなところをもちまして、この日のインスタLIVE報告とさせて頂きます。きちんとしたご報告など到底無理な話でしたけれど、金森さんと井関さんが話されたことを中心に少しだけでも伝わっていたなら幸いです。
より詳しくは、牧阿佐美バレヱ団のインスタグラムに残されたアーカイヴをご自身でご視聴願います。
(shin)