見る度に圧倒されるのが、金森さんによるNoism0『Near Far Here』であり、最初の数秒にして既に抗おうにも抗えない空気感に包まれてしまうのは、この日も変わりありませんでした。どこかにそこはかとなく喪失感や哀しみ、或いは死の影のようなものを宿すのが金森作品の変わらぬ魅力。そうやって惹きつけるだけ惹きつけておいてからの「聖性」の降臨…。まだまだ詳細は書かないでおきますが、日常と非日常の「境界」を越境するだけでなく、更に、そうした私たちの非日常レベルを一瞬にして置き去りにして、その極北とも言うべきイメージで塗り替えてしまう想像力/創造力のもの凄さ。それがこのクリスマス時期、巷に溢れる厳かな神聖さに似たものとして捉えられたとしても無理もないことでしょう。季節の大いなる贈り物として。そしてそれに浸され、降伏する他ない観客の無上の幸福。
そしてこれまで通り、20分のインターミッションを挟むと、がらり質を異にする時間、金森さん演出振付のNoism0『Near Far Here』です。冒頭から終演まで、透徹した美意識に貫かれたこの作品は、その美しさにおいて、心胆を寒からしめるものがあるとでも言わずにはいられないものがある、そう書きたいと思います。実はこの表現、初日のブログに一旦使ってはみたのですが、やはり「相手を心から恐れさせる」意はどうかと思い、削ってしまった表現なのです。(書き改める迄の、ほんの短い間に目にされた方もおられるかと思います。)「畏怖」の念というよりは「恐ろしさ」、そう、3日続けて、容赦なく捻じ伏せられた感覚はやはり純粋に「恐ろしさ」こそが似つかわしいと、敢えて新潟楽日に書くことを選んだ表現。そこには私自身の語彙の限界(「境界」)が画されていることを思い知らされつつも、しかし、今、体感としては心胆を寒からしめられたと言うほかなしと。美しさと恐ろしさとは隣り合わせで認識され得る感覚なのですね。
20分の休憩を挟み、金森さん演出振付のNoism0『Near Far Here』。或る効果音が耳に届き、緞帳があがっても、暗い舞台。そこに浮かび上がる井関さん。私は『夜叉ヶ池』(篠田正浩監督作品・1979)坂東玉三郎のビジュアルを想起しますが、瞬時にして、休憩前とは別の時空に引っ張り出されたことを知らされるオープニングです。
そこから20分の休憩を挟んで、金森さん演出振付、Noism0の『Near Far Here』です。これまでにない程、広くとったアクティング・エリアにぽつんぽつんと3人。茫漠とした「ここ」とはいったいどこなのか。この世なのか。それとも…。そのあたり、印象的な照明も相俟って、まったく判然としない程に作り込まれています。冒頭からラストまで、極めて実験的でありながら、同時に、言葉で言い表せないほどの圧倒的なヴィジュアルで展開されていく美し過ぎる作品には、身震いしながら没入する他ない、驚愕の視覚体験が約束されていると言っても過言ではないでしょう。この美しさはヤバイ。こんな表現があるのか、どうやったらこんなものが生み出せるのか、口あんぐりで陶酔するより他にありませんでした。そして余韻がまた相当ヤバイ。観終えてからもう数時間が経っているというのに、相も変わらずに夢見心地なのです。繰り返しになりますが、書けないのがツラいレベルとすることに一切誇張はありません。この到達点にはまったく身震いを禁じ得ません。是非、多くの方に身を以て味わって欲しいと思う次第です。
◇活動支援会員対象『境界』公開リハーサル 15時30分、りゅーとぴあ・劇場に進むことを許され、2F客席に身を沈めようとする以前から、白と黒の引き締まった舞台上には、金森さん(黒)と井関さん(白)、そして山田勇気さん(黒)の姿があり、主に井関さんをリフトする動きの試行錯誤が続いていました。Noism0による『Near Far Here』のクリエイションが真っ最中でした。 その後、バロックの音楽と舞台装置も入れて、通して見せてくれる場面もありましたが、そこでも、時折、金森さんがストップをかけては、より流れるような身体の捌き方を求めて、動きが再検証・再検討され、妥協することなく調整を続ける3人の姿を目にすることになりました。そうやって、動きが今まさに作り出されようとしている様子は、「産みの苦しみ」などという紋切り型の表現からはほど遠いもので、(汗をかき、呼吸はあがって、水分補給をする際も苦しそうではありましたが、)気心知れた同士が、じっくり話し合って、色々試しながら動きを獲得していく作業は、どうしてどうして、「いい時間」が過ごされているようで、ホントに楽しそうに見えました。もう期待感しかない道理です。
とりあえず、来年9月からの5年間、新潟市での活動継続が決まったNoism Company Niigata、その決定後の最初の公演です。「ちょっとだけでも今までやったことがないことにチャレンジしたい」と語る金森さんは、(奇妙な言い方になりますが、)私たちを常に裏切りつつ、その「裏切り続ける」という点においてはまったく裏切ることのない稀有な芸術監督と言えます。公演の度に私たちの日常を活性化してくれる訳ですから。
そんな金森さんが「自信作」と力を込めて語るNoism0『Near Far Here』、そして、Noism1が山田うんさんとの間で化学変化を見せること必至の『Endless Opening』、大いに圧倒される心づもりで、いざりゅーとぴあ・劇場へ。クリスマス期に放たれる刺激的な贈り物2作、『境界』新潟公演は来週金曜日にその幕が上がります。よいお席はお早めにお求めください。