「柳都会」vol.26 渋谷修太×金森穣(2023/03/18)を聴いてきました♪

ここ数日の暖かさはどこへやら、冷たい雨がそぼ降る2023年3月18日(土)の寒い新潟市。雨もあがった夕刻16:30からの「柳都会」vol.26 渋谷修太×金森穣を聴いてきました。(@りゅーとぴあ〈能楽堂〉)

この日のゲストはアプリとデータをテーマに事業展開するIT企業・フラー株式会社の代表取締役会長 渋谷修太さんとあって、ビジネススーツ姿の来場者もおられるなど、いつもの「柳都会」とは少し雰囲気も異なるように感じました。そしてこれを書く私はと言えば、デジタルにはとんと疎いもので、「ついていけるかなぁ?」という不安が拭えずに会場入りしたような次第でした。しかし、渋谷さんの人間味溢れる人柄と語りの上手さに惹き付けられてあっという間に終了予定時刻になっていた、そんな対談でした。ここでは話された内容からかいつまんでご紹介しようと思います。

冒頭、この日の占いで「口は災いの元」と出たので気を付けるという金森さん。つかみはOK。そこからは主に渋谷さんがご自身とフラー株式会社についての話をされるかたちで進んでいきました。

*起業家の力で、故郷を元気に。
渋谷修太さんは1988年、新潟県生まれ。佐渡に実家も、親の仕事の都合により、→妙高→南魚沼→新潟と転校→長岡高専へ進学(プログラミング・テクノロジーを学ぶ)→筑波大学に編入学(経済・経営を学ぶ)→IT企業・グリー株式会社に勤務(2年強働く)→1911年、愛着のある新潟で、長岡高専時代の仲間と一緒にフラー株式会社を設立した。「友達と一緒にいたい。どうしたら『卒業』しないで済むんだろうか。会社があれば」の思い。創業時、5人→現在、150人が働く会社へ。
高専: 高等専門学校。中学卒業で入学することができ、5年間の一貫教育で優れた専門技術者を養成するための高等教育機関。全国に57校ある。「かつてアメリカのオバマ元大統領は『日本で一番優れた教育機関』と評した」と渋谷さん。

2016年、アメリカの経済誌「Forbes」から、年に一度選出する「アジアを代表する30歳未満の30人」に選出されたことを報せるメールが届いた。同年の選出者には、他に田中将大、錦織圭、内村航平もいて、そこに「起業家」が並ぶことはアメリカでは驚きなく受け止められることであり、日本で「『おおっ!』ってなるのをやめさせたい」(渋谷さん)思いがある。評価されたのはアントレプレナー(起業家)としての「数値」:会社を成長させるスピードや資金調達力(当時、10億円くらい集めていた!)

2021年、EY「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン」10人のうちのひとり(Exceptional Growth(=並外れた成長)部門)に選出される。「地方創生DX(デジタル・トランスフォーメーション:デジタルでの変革)のリーダー」

*フラー株式会社 
「自動車だったらトヨタ、家電だったらソニーといった、日本発で世界一といえるような会社をITの世界でも創りたい。」
デジタルパートナー事業: パートナーに寄り添い、共に創り、本当に必要なものを届け、企業がデジタル化していくのを支える。
一番大事にしているのは人。IT企業には在庫はない。コストの大半は人件費。
社員の平均年齢:32歳。高専出身者:27%。
地方拠点を活かした開発体制:都心から離れた拠点率:100%。(←Uターン就職の受け皿に。)

*社会全体がHAPPYになることを目指す、地方のデジタル化
【例】長岡花火のアプリ開発: 大勢の人が集まることで電波が繋がり難くなるウェブサイトに対して、使えるのがアプリ。
金森さん: どうして? その瞬間、最新の情報にアクセスできるの?
渋谷さん: 事前にアプリをダウンロードしておけば、最新の情報も情報量は少ないので、キャッチできるときにキャッチすることが可能。

「デジタル化」はあくまでも手段。「長岡花火が良くなるんだったら、デジタルでなくても何でもやろうよ」→ゴミ拾いなども行った。→そこを見てくれて評価してくれる会社(任天堂)もあった。

*2本社体制(新潟&柏の葉)、それぞれの地域を活かした活動
統計によれば、東京で働く人の4割が地元に戻りたい思いを持つが、仕事が理由で叶わない。→ささるキャッチコピーを投下。
・交通広告: 改札を出ると、またはエスカレーターに乗ると、「フラー」の広告。
・年末・年始のTV 15秒CM: 年末・年始、普段はTVを見ない若者が、お茶の間で家族と一緒に点いちゃっているTVを見ている時間帯にCM。
「ふるさとに帰ったら挑戦は終わりだと思っていた。この会社と出会うまでは。」
「諦めなくていいんだ。新潟に戻るのも、ITの仕事も。」 

*「地域に優しいデジタル化を通じて、世界一、ヒトを惹きつける会社を創る。」
ソフトウェアの地産地消。持続可能であること。地域の課題を地域で解決することは働くモチベーションになる。地域に雇用を生み出す正しいサイクルを目指す。

金森さん: 経営者の面のほか、デジタルのプロダクトやコンテンツはどうしているの?
渋谷さん: デザイナーとエンジニアに任せている。「自分よりできるヤツいる。みんなで一緒につくればいいんだ」自分は説明やお金集め、人集めに特化。
金森さん: 日本のプログラマーは現在、最先端ではない。「外国へ行きたい」とかならないの?
渋谷さん: シリコンバレーで感じたのは、「こいつらもめちゃめちゃ凄くはないな」ということ。但し、挑戦はするし、プレゼンは上手い。日本にも優秀なエンジニアはいる。
金森さん: テクノロジーの進化に対応する必要はある。
渋谷さん: 英語のメディア等に情報を取りにいくことは必要。更に実際に自分で使ってみることが重要。

3年前、故郷・新潟に移住して感じたリアルな現場: ファミリー経営が多い地方の企業は社長交代期に、60代から30代へとか、「世代がとぶ」環境があり、一気にデジタル化が進む傾向もある。

新潟には、100年続く老舗企業も多く、そうした既存企業の更なる飛躍と新潟初の新規事業の促進をDXで支えていくことを目差す。
全国的にも起業家が少なかった新潟において、新潟ベンチャー協会として若手起業家合宿などの活動を行うことで、現在、若手起業家は増加している。「ローカル発。世界に新潟から。」
金森さん: 同業他社が増えていいの?
渋谷さん: 人に関しては、ある程度、「集積地」を作らなければならない。フラーなのか東京なのかではなく。給与のレンジや競争の適正化が図れる。自分としては、「競争」ではなく「共創」のイメージがある。

*AIで仕事は変わる
金森さん: テクノロジーやAIの進化で人はどんどん要らなくなっていくとみられている。この先もアプリを作るのは人間?
渋谷さん: ゆくゆくはAIが作るようになるだろう。AIで仕事は急速に変わる。AIを使いこなし、味方につける術を身につけていくことが求められる。スティーヴ・ジョブズも「既存の仕事はなくなるが、クリエイティヴなことに使う時間は増える」と言っている。時間が節約され、膨大な時間が生まれる。それを人間にしかできないことに使うこと。

*活躍できる土壌、文化、場所
シリコンバレーの風土・環境: イノベーション施設「wework」には遊ぶ環境も用意されていて、昼からビールも飲める。精神的に何がよしとされているか。ハード面でもクリエイティヴな環境があることが大事。→プラーカに「新潟版」を作って貰った。「NINNO(ニーノ)」:新潟とイノベーションを掛け合わせた造語。
金森さん: 環境に惹かれる人間の感性を育てることも重要。劇場はクリエイティヴィティが発動する場という思いでやっている。ローカルに消費されるだけでなく、世界と繋がっていることが感性にとって大事。
渋谷さん: アメリカのポートランドの例をみるまでもなく、芸術とクリエイティヴな人材の相関性は高い。「Noism、希望だな」と思う。個と集団を扱ったこの間の作品(『Der Wanderer-さすらい人』)、(会社)集団が大きくなってきていて凄くささった。
金森さん: 世界の主要な劇場には多数の日本人がいる。帰って来ようにも(金銭的にも、精神的にも)来られる環境がない。
渋谷さん: 活躍できる土壌、文化、場所が必要なのはアートもITも同じ。仕事をつくれば戻って来られる。

会場からの質問
01a: 社名「フラー(FULLER)」の意味・由来は?
-渋谷さん: サッカーボール状の構造をもつC60フラーレンに由来する。強固な構造をもつと同時に他とも吸着する側面を併せ持つ。また、「ソニー」や「ヤフー」のようなカタカナ2文字+伸ばし記号にもしたかった。
01b: 「起業家」の意味は?
-渋谷さん: 社会に今、存在していない解決策をつくる存在。何かインパクトを起こし続けたい。
01c: 友達と一緒に会社を作った。その組織論は?
-渋谷さん: 最初はよくても、10年続くのは6%に過ぎない。自分はビジネスアイディアよりも友達が大事。みんなでやることが大事。友達と一緒だったので、苦難・困難も乗り越えることができた。

02: 2011年の創業。物凄い勢いで勝ち上がってきた。その秘訣は?
-渋谷さん: シンプルに言うと、助けて貰った。愛された。アプリ製作から「新潟においでよ」と言って貰えた。先輩経営者の方々が協力してくれて今に至っている。自分としては誰よりも新潟を愛している。住みたい人が住めるようになって欲しい。そのために、何かしらできることがあればやりたい。

03a: 人とのコミュニケーションの取り方、人との関わりのなかで身につけていくこと希薄になっていないか?
-渋谷さん: 自分はコンピュータよりも人が好き。デジタルも使うことによって人と一緒にやっていけるものと信じている。アイディアはひとりのときよりも人と出会うことによって生み出される。
03b: 介護分野でのデジタル化進んでいないが、どう考えるか?
-渋谷さん: デジタル化は時間を生み出す。介護もデジタル化が必要となる分野。大事である。

04: 企業やアプリにおけるアイディアや著作権はどうなっているか?
-渋谷さん: IT分野では、アイディアだけでは意味がない。誰もが同じようなことを思いつくが、実行が大事な分野。Facebookのマーク・ザッカーバーグも”Demo is better than words.”と言っている。また、意匠面でもユーザーにとってインターフェイスは似通っていた方が使い易い。インターネットという環境をみんなで作り上げているように思う。
-金森さん: インターネットとはそもそもオープンソースであり、地球規模の民主化。一方、舞踊における固有性、脳や身体などは真似できないものだが、舞台のイメージやビジョンについては訴えられることもある。
人と違うことが大事だったのが20世紀とすれば、過去から学び、影響を受けることを恥じずに次の一歩を踏み出すのが21世紀。

*結びに
渋谷さん: 新潟はシリコンバレー同様、自然が豊かな良い場所。エンジニアのなかには登山やサーフィン等、外に出て行くことを好む者も多く、ITと自然豊かな場所や芸術的に盛り上がっている場所とは相性がよい。
1888年の新潟は全国で一番人口が多い町だった。一度できた町にはポテンシャルがある。若い人が増えて欲しい。戻りたい人が戻れて、住んで楽しい町になって欲しい。
金森さん: (渋谷さんは)「もう有能な政治家にしか見えないね」(笑)

…金森さんにそんなオチまでつけて貰って終了したこの日の「柳都会」でした。
ざっと、そんな感じでしょうか。何かしら伝わっていたら幸いです。途中に(トイレ)休憩も挟まず、聴く者をぐいぐい引き込んでいく、圧倒的に、或いはめちゃめちゃ面白い90分間でしたから。

聴き終えたら終えたで、渋谷さんについてもっともっと知りたい気分になり、物販コーナーにて著書の『友達経営』(徳間書店)を求めたところ、その後いろいろありで、渋谷さんのサインもいただけました。

そんなこんなで、とても刺激的で有意義な時間を楽しみました。以上、報告とさせていただきます。

(shin)