先月のうちに、稀に見る早さで梅雨が明け、迎えた文月、2022年7月1日(金)は、ですから「暑い」などと口にするのも既に無粋な振る舞いと化してしまったかのようでありながら、しかし、他に気の利いた言葉も思い浮かばず、つい口の端に乗せてしまうといった難儀な一日でした。
そんな難儀な日、Noism×鼓童『鬼』新潟公演の初日の幕があがりました。新潟公演のチケットは3日間とも発売開始時から売れ行きがよく、追加席まで含めて早々に完売。Noismと鼓童の初共演を待ちわびたお客さんたちがプラチナチケットを手にりゅーとぴあに集まってくる様子はいつもとは趣きを異にする印象でした。


今公演は物販コーナーも充実していますから、そちらを覗く時間もあるといいかと思います。Tシャツから、手ぬぐい、浮き星というお菓子(ダブルネームの缶入り!)に、佐渡番茶。そして原田敬子さんのCDと色々ありますが、初日だけでも、大勢の方がお買い求めになられていました。お目当ての品はお早めに。

そんな開演前のホワイエで、私もいつもの「ホーム」新潟の面々に加えて、東京・富山からの知人(友人)にも会い、それぞれと言葉を交わし、これから観ることになる演目への期待感を共有することで気持ちはあがる一方でした。
そうこうしているうちに開演予定時刻間近となり、慌ててトイレに行ってから客席に腰を下ろしました。
19:03、あるSE(効果音)が耳に届いてきて、最初の演目『お菊の結婚』が始まります。目に飛び込んできた舞台装置には、「そう来たか!」の思いが湧きました。この日に先立つ2度の公開リハーサルで、鼓童の奏者を配する『鬼』の基本セッティングを観ていたため、「どう繋ぐのだろう?」と思っていたのですが、何の違和感もないばかりか、「見事!」と唸るほかありませんでした。
限りなく奇天烈なストラヴィンスキーのバレエ・カンタータ『結婚』にのって、東洋に足を踏み入れた西洋人、その彼が身を以て体験する異文化の衝撃がコスチューム・プレイ的に展開していきます。蔑みの眼差しに対する共同体側からの排除。毒のあるカリカチュアは極めてアクの強い諧謔味を生み、これまでのNoismの舞台では目にしてこなかった新味に溢れています。人形振りの果てに目にすることになるのは…。先の読めない展開に目は釘付けにされました。外連味たっぷりの照明も印象的な演目です。
15分の休憩を挟んで、Noism×鼓童『鬼』です。前回の公開リハのレポートでも書いた通り、この日も「夏」であることを忘れてしまうような演目でした。鼓童の奏者たちの屹然たる姿からは彼らが繰り出す音が人為的なものにはつゆ思えず、その研ぎ澄まされた精神と肉体が太鼓(と他の楽器)をメディア(媒体)として宙からもたらす音と捉えた方が理に適っているようですし、それに即応するNoismメンバーの身体も人間業とは思えない点で一歩も引けを取りません。隅々まで行き届いた一体感が恐ろしい次元で達成されていることに身震いするほかないのでしょう。
そして配役表で見られる、山田勇気さんを除く、全てのキャストに振られた「鬼」の一文字ですが、それによって、一面的な「鬼」理解は蹴散らされてしまうほかないのですが、舞台上、鼓童によって響かせられた鋭い音とNoismの舞踊家によって可視化された多義的な身体とを受け止めていると、その「配役」に込められた意図に深く納得することになるでしょう。まさに、その都度、体感するべき演目と言えるかと思います。
終演後のカーテンコールにはNoismと鼓童に加え、世界初演とあって、衣裳の堂本教子さん、音楽の原田敬子さんも加わり、一段と大きな拍手とスタンディングオベーションが起こりました。何度目かのカーテンコールで、金森さんが満員の客席に向けて右手を差し出し、次いで拍手を返してくれるに至り、立ち上がって拍手する観客の数もどっと増えました。みんなそろって喜色満面、ツアーはまさに最高のスタートを切ったと言えます。
そんな振れ幅極大の2演目を、僅か1時間半足らずのうちに並べて観ることの贅沢さはどう言い表したらよいのでしょうか。「いやあ、凄かった」とか「良かったぁ」みたいな陳腐な言葉しか出て来ず、気の利いた感想など口に出来ない難儀な思いに直面することでしょう。ならば、かように圧倒され尽くした果てに、言葉を失い、無粋に同語反復的たらざるを得ない感覚を楽しむこと、それに尽きるかと。何しろ相手は「鬼」、勝ち目はなさそうです。これからご覧になられる方々、そんな難儀な思いを存分にお楽しみください。
(shin)