『あわ雪』、「真なる美」に触れる3分間(@「国民文化祭」開会式)

2019年9月16日(月)の新潟市は、単に「敬老の日」であるだけでなく、「第34回国民文化祭・にいがた2019」及び「第19回全国障害者芸術・文化祭にいがた大会」の開会式が行われる日でもあり、天皇・皇后両陛下が来県され、同開会式にご出席されるとあって、新潟駅から会場の朱鷺メッセまでの通りは物々しい規制と混雑が予想されていました。

「自動車での接近は難しそう」と、新潟駅まで電車を利用したところ、遂に見ました車内モニターのNoism映像。先ず、「新潟から世界へ」の文字が映し出されたのち、『FratresI』のアノ場面、『R.O.O.M.』の稽古風景やら『ラ・バヤデール』、『NINA』をはじめ、様々な作品が短いながら次々に流れて、いい感じの回顧モードに、「こう来なくちゃ」って具合で、新作『あわ雪』への期待はいやが上にも高まります。電車を降りると、人出も多く、予想通りに物々しい新潟駅構内、そして東大通。徒歩で朱鷺メッセへと移動しました。

14時30分。臨んだ開会式は、天皇・皇后両陛下ご臨席のもと、NHK新潟放送局の山崎智彦アナウンサーと女優の星野知子さんが司会を担当され、執り行われました。

15時。式典に続いて、お待ちかねの「文化の丁字路 ~西と東が出会う新潟~」と題されたオープニングフェスティバルの幕開けです。こちらは、総合プロデューサーも務める作家の藤沢周さんが、子どもたちに向けて、火焔型土器の昔から、世阿弥、上杉謙信、良寛と辿りながら、新潟県の歴史語りをする体裁をとり、県内各地に伝わる郷土芸能の継承という側面と、「真なる美」(世阿弥)或いは「義」(上杉謙信)、はたまた人間存在の意味(良寛)を追い求める方向性とをふたつの大きな柱にして展開されていく、文字通り「ふっとつ」(新潟弁で「たくさん」「盛りだくさん」)な構成内容でした。

冒頭、鼓童による大太鼓で始まったのち、「真なる美」に触れる3分間はラスト近くの16時20分過ぎに訪れました。県内各地の伝統芸能がひとまず「佐渡おけさ」をもって締め括られると、張り出したステージの両端を奥から進み出てくるのは紛れもなく金森さんと井関さん。全く勾配がなくフラットなウェーブマーケットにあって、階段一段分にも満たない高さしかないステージでは、おふたりの肩より下は、大勢の人の頭の陰に隠れて見づらくなかったと言えば嘘になります。アベル・ガンス(仏)のサイレント映画『ナポレオン』(1927)を思い出させるかのような「トリプル・エクラン(3面マルチスクリーン)」の中央に、その両脇を静かに降る雪をイメージした映像に挟まれるかたちで投影される金森さんと井関さんの姿を、主に見上げているような場内でした。

『あわ雪』、金森さんも井関さんも白い衣裳を纏っています。タイトルからも容易に想像されるように、踊られるモチーフは「克雪」方向のそれではなく、春までの数か月、共に過ごすものの、やがては消えていく定めの雪。そして古来、この地に住む者の精神性に深く根をおろす類の、そんな雪。ピアノによる音楽のなか、音もなく舞う雪の如く、金森さんのリフトに優美に揺れる井関さん。ふたつの身体が絡まり合う様子など、まるで雪の結晶ででもあるかのように静謐な美しさを放っていました。やがて向こう向きに座ったかのような姿勢の金森さんが、更にその身の奥に井関さんを横たえて、動きが静止し、この上なく美しい3分は過ぎ去りました。静寂ののち、拍手をしながら後方を振り向くと、ロイヤルボックスの両陛下も柔らかな表情でしっかりと前をご覧になりながら拍手を送っておられました。その後、再び鼓童の太鼓の音が聞こえ出すと、両脇へと、それぞれ別方向にはけていく井関さんと金森さん。また別の機会に、再び『あわ雪』を楽しむ日が来ることを願って、否、信じて拍手しました。

途中に休憩もなく、トイレに立つことさえ許されない約3時間、そのなかのほんの3分間ではありましたが、その3分間が湛えるテンションは他とはかけ離れたもので、まったく異彩を放っていたと言うほかありませんでした。エピローグ、黒い洋服に着替えて登場した金森さんと井関さん。「りゅーとぴあでの本公演も観に来てください」という金森さんの言葉に、このなかから、その誘いに応える人たちが多く出てきて欲しいものだ、そう強く思いました。

話は変わりますが、入場時に手渡された紙の手提げはズシリと重く、「何が入っているのだろう?」

で、見てみると、重さの正体は新潟県の新しいブランド米「新之助」1kg。嬉しいサプライズでした。明日はそれを使っておにぎりを作ろうと家路についたのですが、帰りの電車でもまたNoism映像を目にすることができ、いい感じの締め括りになったことは言うまでもありません。そんな秋の祝日でした。

(shin)