☆『Adagio Assai』(ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調より第2楽章)/『FratresIII』(ペルト:フラトレス~ヴァイオリン、弦楽と打楽器のための)
池袋の東京芸術劇場でサラダ音楽祭メインコンサートを観てきました。 とても素敵なコンサートで、そのすべてについて感想を書きたいところですが、私の文章力ではだらだら長く散漫な文章になってしまいそうなので、今回はこのブログの趣旨でもあるNoism Company Niigataが出演した2演目についてレポートしたいと思い ます。
最初の演目モーツァルトのモテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」ではモダンオルガンも音を奏でましたが、その後の舞台転換ではこのパイプオルガンが隠れるほど大きなスクリーンが吊り上げられます。 いよいよラヴェルの「ピアノ協奏曲ト長調 第2楽章」のはじまりです(先日の新潟公演では「Adagio Assai(仮)」として上演)。指揮の大野和士さんと共にピアニストの江口玲さんが登場、演奏が始まるかと思えば、Noism0の井関佐和子さん、山田勇気さんがおもむろに現れ大きく踊りだします。冒頭の部分は「Adagio Assai(仮)」から、より大空間に対応すべく変更されたようです。
江口さんの素敵なピアノの旋律と共に井関さん山田さんの舞踊がドラマチックに語られます。金森さんが以前「退団するメンバーとの別れの寂しさから小さな作品がつくれそう」とつぶやいていたのは、恐らくこの作品のことでしょう。2人のダンスは別れを語っているように感じました。井関さん山田さんの軌跡がストップモーション風に切り取られスクリーンに映し出されます。それはまるで流れつづける時間(現実)と、もはや永遠となった回想がオーバーラップして現れるように感じました。井関さんはオーケストラの間を抜け舞台後方に、山田さんは前方に留まり離れ離れでラストを迎えます。しばしの沈黙のあと万雷の拍手で賞賛されるお二人。
続いて転換の後、暗転したままの舞台上にオーケストラメンバーと共に入ってきたのは金森穣さん。ヴァイオリンソロの矢部さんも自席で座ったまま演奏するようです。 舞台前方のリノリウム上で気合がみなぎっている様子の金森さんはこれまでにないほど大きく、異様な雰囲気を漂わせています。その直後に大野さんも入場すると場内から拍手が起こりますが拍手には応えず指揮台にのぼり演奏のスタンバイに入りました。 矢部さんのヴァイオリンが鳴ると同時に金森さんの身体が即座に反応し二人の激しい演奏が始まります。ペルトの「Fratres」です。次第に舞台の上手下手からフードで表情のみえないNoism1ダンサーがゆっくりと入場、芸術劇場の舞台上横いっぱいに広がり完璧なユニゾンを踊ります。金森さんは矢部さんのヴァイオリンソロと呼応、群舞はアンサンブルと呼応し演奏が繰り広げられます。金森さんの演舞は鬼気迫るものがあり圧倒されますし、対する矢部さんのヴァイオリンは冷静沈着な中に鋭さがあり、まるでサムライのような凄みがあります。また矢部さんは冒頭の超絶技巧後も、ソリストとオーケストラのコンサートマスターとしての役割を同時に担い、アンサンブルを率いつつソロを奏でます。
Noismの踊りはコンテンポラリーでありながら原始的であり、純粋な祈りの儀式のように感じられました。「Fratres」シリーズ最終章となる「FratresⅢ」では「これからも踊り続けること」「新型ウイルスの終息」「舞台芸術の存続」の祈りのように感じられました(もちろん観る人によって感じ方は様々でしょう)。 ちなみに、これまでの「Fratres」シリーズでは天井より白いモノが落下してくる演出があり、それが非常に感動的なのですが、こちらについて興味がある方もいらっしゃると思いますので、単独公演との演出の違いについても簡単に書き記します。まず落下物の演出は照明を操作することで同様の効果が得られていました。またラストの円舞もスペースの都合上変更されていて、上手下手に分かれて非常にゆっくりと退場していき最後は金森さんだけが舞台上にいる、といった演出がされていました。
打楽器の余韻が鳴り止むと同時にこれまた大きな拍手が起き、舞台袖に捌けていたNoism1ダンサーも舞台上に戻りカーテンコールに応えます。ここで金森さん、勢いのあまり矢部さんに握手を求めました。矢部さんは一瞬困惑したように見えましたが握手に応じていました(ちなみに指揮者大野さんと矢部さんは握手の代わりに肘タッチをしていました)。
また演奏会の終演後は、再びのカーテンコールとなり今度は金森さんが臼木さん、江口さんと共に登場しました。ここでも大きな拍手が観客から送られカーテンコールが何度も続きました。 ちなみに、東京都交響楽団は7月に主催公演を再開しましたが都響会員・サポーターに限られていたため、今回のサラダ音楽祭が一般に開かれたコンサートの久しぶりの再開となったようです。 都響、Noismの公演を待ち望んでいたファンにはとても感慨深いコンサートとなりました。と同時に、いつもNoismの公演には必ず現れる熱いファンの姿が今回は見えなかったこともあり、新型ウイルスの影響により泣く泣く来場を諦めた、自粛した方もいらっしゃることも知っています。 本日のNoismの祈りが天に届き、早く舞台人が正常の舞台活動が出来る日が訪れることを私も願っています。
(かずぼ)