「やはりか!」驚きの『Double Bill』新潟中日+サポーターズ交流会のことなど

2019年12月14日(土)の新潟市は、朝の好天がお昼前に一転、風雨吹きすさぶ荒れた天気となり、そのまま公演時間の17時を迎えることとなりました。それでもこの時期の新潟ですから、雪が降っていないだけましと思えば儲けものなのでしょうが、寒いものは寒い。特に風が冷たい夕方でした。

前日のレポで触れないでしまったホワイエの光景から書き始めます。今回の新潟公演では、主に県外からお越しの方々向けに新潟を楽しむための紹介資料と、サポーターズおよび「さわさわ会」が発行してきた紙媒体のバックナンバーとが並べられたコーナーが設けられ、多くの方々が興味深く足を止めて、気になったものをお持ち帰りになられていました。

新潟の資料コーナー
サポーターズ会報バックナンバーたち
こちらは「さわさわ会」のコーナー

他にも、今公演のNoism物販コーナーでは、新潟市・上古町のhickory03travelers(ヒッコリースリートラベラーズ)さんによる新潟土産や、新潟・市民映画館シネウインドさん発行で、森優貴さんへの取材記事を掲載した月刊ウインド12月号が販売されていますし、その傍らには、「新潟」繋がり&「ジョー」繋がり、阿賀町にて長期ロケを行って撮られたオダギリジョー監督の映画『ある船頭の話』(同シネウインドで年末・年始に上映予定。個人的にお薦めの作品です!)のポスターが、その鮮やかな「赤」でホワイエにもうひとつの「Farben(色)」を加えています。

Noismをきっかけに、新潟を多角的に楽しむことができたら嬉しく思います。そんな仕掛けの数々に、思わず頬が緩みました。

前置きが長くなってしまいました。ここからは新潟公演中日の公演レポです。先ず真っ先に書いておかなくてはならないのは、「えっ、マジ?」(驚き)が速攻「やはりか!」(納得)に転ずる金森作品『シネマトダンス』のことでしょう。公演期間中にあっても細かな変更・修正はつきものなのでしょうが、金森さんの場合、ラストを変更してくることがままあります。今回もそうでした。もう慣れっこになっている部分もあるのですが、やはり最初の受け止めは「えっ、マジ?」、そしてこれまでの経験から、間髪を置かず「やはりか!」となったような次第です。ラストが変更されたのは、「3つの小品」のうち、最初の『クロノスカイロス1』と金森さんのソロ『FratresII』のふたつ。初日ヴァージョンと中日ヴァージョン、その趣は異なります。果たして新潟楽日はどうなるのか?そうした意味からも目が離せなくなってしまう訳です。

休憩後の森作品『Farben』、情緒を揺さぶり続ける音楽、そのビートひとつひとつを動きとして可視化していく12の身体。動けば動くほどに、個々の身体がもつ「Farben(色)」が零れてきます。それを大らかに許容する作品にあって、舞踊家も伸びやかに映ります。この日は、ラスト、林田さんが舞台中央で繰り広げる圧巻の動きに見とれました。カーテンコール時に、先ず全員一列に並び、拍手・歓声・「ブラボー!」に応えたあと、列の両脇から、交互に一人ずつ、順に一歩前に進み出て一礼をするスタイルも、舞踊家一人ひとりの「Farben」を持ち味とする作品らしさであると感じます。「推しメン」に大きな拍手を贈ることが可能ですので、是非♪

この日のアフタートーク、金森さん、山田さん、そして直前に踊っていた井関さんが少し遅れて登壇しました。Noism0メンバー3人による気心知れたトークでありながら、それぞれの経験が語らせる「核心」をついた内容には深い世界を覗き見させるものがありました。

登壇してスカーフを直す井関さん

3人が話された内容から少しご紹介いたします。(ネタバレにならないギリギリのところで書きたいと思います。)

『クロノスカイロス1』のピンクの衣裳について、「テーマは時間。身体的に知覚可能な最速のものは光。照明は可視光線の色のレンジを使っている。そのなかで視認し易い色、追い易い色としてピンクを使った」(金森さん)

『夏の名残のバラ』に関しては、金森さんが「Noismの歴史は井関さんの身体に刻まれている。『いまも身体に残っている振付は?』と訊いて創っていった」と語れば、井関さんは「まず、舞台が広い。この作品のクリエーションが始まったのが一番最後だった。早く稽古したい気持ちだったが、振付家が『クリエーションを楽しみたい』と言って時間をかけた。(笑)お客さんが入って初めて完成する作品だと思う」と話してくれました。

『Fratres』IとII、そしてまだ見ぬIIIについて、3部作同時に上演することはあるかと問われた金森さん、「ありません」とキッパリ。その理由を、「I+IIが、IIIになるので、連続上演は不可能。観てもらえばわかります」と語りました。

その金森さん、今の身体の様子とそれに対する向き合い方を訊ねられて、「若い頃に比べて可動域は狭くなっているし、進化してはいない。しかし、経験と技術と精神コントロールを手にしている。日々の稽古を重ねて、若かりし頃に持っていたものを取り戻して、ここまで来た感じ。稽古しかない」との答えでした。

また、金森作品と森作品を踊った井関さん、最も大きな違いについては、「今回、身体性が違う」としながらも、「覚悟をもって舞台に立つのは同じ」と続けました。更に、森さんに関しては、「『森くん』とは同い年で、19歳のときにオランダのオーディション会場で出会っている。お互い群れるのを好まず、日本人がひとりずつぽつんといた印象がある。今回のクリエーションは、彼のエネルギーが凄くて、最初、体がボロボロになっちゃうくらいのところから始まったが、『負けるか!』みたいな気持ちで向かっていった。同時に、この年になると、振付家の意図を汲み取ることもできるので、言われたことをやるのではなく、一緒に作品を作っていることを感じられた」と語りました。

山田さんは一度Noismを離れて、東京に行った時期のことについて訊ねられると、Noismを外から見て相対化できたこと、また、その時期に武道家・日野晃氏に出会えたことが大きいと語り、Noismメソッドに戻って、身体のことがよくわかったと答えました。

あと、ニッチな答えにはなりますが、井関さんが今ハマっている人は美空ひばりさんで、「(存命中に)見てみたかったな」と。そして今回ある箇所の映像に映り込んだジョー マローン ロンドンの香水は「ピオニー&ブラッシュスエードです」とのことでした。

アフタートークのあと、会場をりゅーとぴあ内のレストラン・リバージュに移して、サポーターズ交流会が開催されました。

この日の参加者は、総勢20名。遠くは京都、そして東京や神奈川からお越しの方々、そして、前日、サポーターズに入会されたばかりの方を含めて、Noismを通じて知り合いになった者たちが、Noismを肴に、和気藹々、和やかにテーブルを囲み、おいしいお酒とお料理に舌鼓を打ちました。それに伴い、私たちの顔も徐々に視認し易い「ピンク」に染まっていきましたとさ。

仁多見・りゅーとぴあ支配人のご挨拶に手を挙げて応える参加者
何故かは…忘れました(笑)
こちら、この日のオードブルです♪

Noismの縁で素敵な繋がりが持てたこと、愉しい時間が過ごせたことに感謝です。

私たちサポーターズは一般市民に過ぎませんが、Noismを愛し、支える気概については、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなどを支えたメディチ家にも負けるものではないことを確認いたしました。(←大袈裟すぎないか?←大丈夫です!(笑))そんな具合で、Noismの魅力に触れたことのない方々への発信にも力を入れたいと思う宵でもありました。次回、また多くの方のご参加をお待ち申し上げます。

(shin)

「Noism Company Niigata」としての新たな船出♪『Double Bill』新潟初日

米国のスプラッター映画を思い浮かべたりするかもしれない、13日の金曜日ながら、2019年12月13日はNoism Company Niigata(新名称)にとっては、一切の禍々しさから遠く、晴れやかな船出の日。

Noism1+Noism0『森優貴/金森穣 Double Bill』初日のこの日、活動継続決定後初めての公演を観ようと、新潟市・りゅーとぴあの劇場に駆け付けた観客は、大小合わせて4つものバラエティに富む作品をそれぞれ心ゆくまで堪能しました。

公演は、金森さん振り付けの新作『シネマトダンス-3つの小品』(40分)から始まりました。

先ずは『クロノスカイロス1』、J.S.バッハのチェンバロ協奏曲ニ短調BWV1052第1楽章に乗って様々なピンクの上下がスポーティに躍動する「活きのいい」作品です。『R.O.O.M.』の発展形のような映像の仕掛けも効果的で、どこへ目をやろうか、誰を追いかけて観ようか、迷ってしまうほどで、とても一度では見尽くせはしないだろうと思われます。横溢する若さ。甘酸っぱいような時間。幕切れに至り、バッハの傍ら、個人的には松田聖子『蒼いフォトグラフ』や映画『ハチミツとクローバー』なども想起しました。みなさんはどうでしょうか。同時に、使用楽曲が3つの楽章からなる協奏曲の第1楽章であることから、器官としては、目というよりも耳が、この作品を正確に「発端」として捉えて、私たちはその後の「展開」(それがどのようなものであれ、)を待ち受けることになるでしょう。この作品が3つの小品で構成されることはもしかしたら必然なのかもしれません。

続く、井関さんと山田さんの『夏の名残のバラ』は一転して、枯葉に赤のドレスがひときわ美しい、ぐっと大人テイスト。井関さんが踊り、山田さんが絡む、変容するのみで、戻ることのない時間。立ち込める憂愁。哀切。加えて、大写しの映像ももうひとつの主役。『箱入り娘』、『ROMEO & JULIETS』に通じる映像は技巧を凝らしながらも、洗練の極みで、情緒を掻き立てずにはいません。

3つめは金森さんの渾身のソロに瞬きを忘れる『Fratres II』。前作『Fratres I』とは若干異なりながらも同様に黒い衣裳に身を包み、総身を捧げんとするかのようなソロを前にして、息をのむほかありません。厳かにして、観る者の魂を揺さぶる重量級の作品と言えます。

その後、20分の休憩を挟んで、森さん振付『Farben』(40分)。幕が上がると同時に目に飛び込んでくる舞台空間が一瞬にして観る者を捕らえて離さないでしょう。そこから始まって、私たちが目にしたのは、森さんという際立つ個性、そして作家性。Noismデビューとなるタイロンさん以外は、すべて見覚えのある舞踊家の面々だった訳ですが、先般の活動継続にあたり、「Noism以外の舞踊に触れる機会」の提供を求められるなか、Noismでありながら、従来のNoismらしさとは一線を画するような新たなNoismを見せる手に打って出るとは!振り付けた森さん、招請した金森さんともに見事な手捌きと言えるのではないでしょうか。

髪にチャーミングな赤色を入れて激しい動きを連発した池ヶ谷さん、井関さんとのデュエットで目を見張るほどのしっくり感を見せたジョフォアさん、そして井関さんと対になる(準)主役どころを笑顔で踊った鳥羽さん、ほかの全ての舞踊家に見せ場があり、ここに簡単に書き尽くせるものではありませんが、最も印象に残ったものをひとつ書き記しておきたいと思います。それもやはりこれまでのNoismでは目にしてこなかった類のもの、他のメンバーと混じり、中心を外れたところで群舞を踊る井関さんの姿でした。それはゲスト振付家ゆえに示し得た「one of them」の井関さん。異彩を放って止まない「one of them」ですが、「One Team」Noismの新たな在り様にも映るほどに、目に新鮮な光景でした。

『Farben』、情感たっぷりの音楽とそれに呼応する身体。ゲスト振付家としての「Farben(色)」が十二分に示された40分間、恍惚として見とれる客席。その愉悦。観終わったとき、「ブラボー!」の声がかかっていたのも至極当然でしかありません。

公演後、金森さんと森さんが登壇して行われたアフタートークからも少しだけご紹介いたします。「振り」のインスピレーションはどこから来るのか訊ねられた森さん、「ケース・バイ・ケースだけれど、音楽が引き金・きっかけとなることが多い。音が持っている『質』に直感的に体が反応するのだと思う。先ず2、3回聴いて、ひとつのイメージが見えるかどうか」とし、今回使用した楽曲は6曲、「いつか使おうとあっためていた」ものですべて初使用曲。作曲者はエツィオ・ボッソ(伊・3曲)、マックス・リヒター(独)、ブライス・デスナー(米)、そしてジュリア・ケント(加)と教えてくださいました。

また、Noismの印象について訊ねられると、森さんは「ほぼほぼ想定内だった。思想・信念・身体言語の訓練の点で一本筋が見える。それはゲスト振付家には有難いこと。欧州にいたときと同じように仕事ができるカンパニー。それが新潟にあることは日本の財産」と語りました。

活動継続なったNoismを観客はどう受け止めるのか、ホワイエに取材クルーの姿も目立った世界初演でしたが、ネタバレを避けるため、あまり細かくは書けませんでしたし、同時多発的に展開される動きも多く、まだまだ見落としていたりもしますしで、キチンと書けていないことだらけのレポートとなってしまっています。

今日、明日のチケットも好評発売中とのことですから、この傑出した舞台、是非、ご自分の目でご覧いただき、皆様からNoismの「第二章」を祝していただきたいと思います。

(shin)

公開リハB日程は金森さん『クロノスカイロス1』、疾走再び!

2019年12月5日(木)12:45のりゅーとぴあ・劇場、メディア各社も多数駆け付けるなか、B日程の公開リハーサルが行われました。劇場内へ進むより以前に、ホワイエから既に、各社ともリハ後の囲み取材を念頭に、予め機材を構える位置を想定して準備を進めているなど、これまでにないほどの念の入れように映りました。

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スタッフから場内へ促されるに際して、この日見せて貰えるのが、金森さんによる『シネマトダンス-3つの小品』のうち、Noism1出演の『クロノスカイロス1』と聞かされ、内心小躍りしたのは私だけではなかった筈です。先日の森さんの疾走する新作リハと併せて観ることが出来るのですから。

で、場内に入ると目に飛び込んで来たのは、濃淡はあるもののピンクで統一されたタイツ姿の舞踊家10人。

その10人、デジャヴかと見紛えるほどにこの日も疾走しているではありませんか。

バッハのチェンバロ協奏曲第1番ニ短調BWV1052。まずは林田さんとカイさん、そこに西澤さん、三好さん、鳥羽さん、チャーリーさん、スティーヴンさん、そして井本さん、池ヶ谷さん、ジョフォアさん。走って入ってきては踊って走り去る10人。挟まれた時間に示すソロ、デュオ、デュエットそして群舞のヴァリエイションが目を楽しませます。

この日は「映像、照明もなく、身体だけで、およそ3割~4割」(金森さん)とのこと。ラスト、音楽が止まったタイミングで、金森さんから「Are you alive?(どうだい、生きてるかい?)」と声がかかるほどの激しい「Run & Halt(駆け足と停止)」の連続。先週創作過程を見せていただいた森さんの『Farben』と併せて「ホントに大変そう!」とは思いましたが、彼らなら魅せてくれる筈、その確信に揺らぎはありません。そして、この2作、同じ「疾走」でも、その趣きやニュアンスなどを全く異にしていますから、楽しみで仕方ない訳です。

最後、金森さんからは走る姿勢やら、リフトの具合やら、ストップした際の頭の位置(向き)やら、主に英語で次々細かいチェックが入っていきました。動きの質がブラッシュアップされ、まだ見ぬ6割~7割が加わった「作品」は物凄いことになりそうです。

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リハーサルの後、金森さんと森さんの囲み取材が行われました。畢竟、質問は活動継続に絡むものが多くなりがちでしたが、金森さんは「作品を発表する際には、先を見据えようとするのではなしに、常にこれが最後の作品になってしまうかもしれないと思っている」など、特段それを誇大視することなく、作り手普遍の思いを語ることで応じているのが印象的でした。

そして自身の新作3つそれぞれについて、『クロノスカイロス1』は消えゆく時間、『夏の名残のバラ』は齢を重ねて、老いと向き合う舞踊家、『FratresII』は自己と向き合い、どれだけ闘い続けるかがテーマであると紹介してくれたうえで、『クロノスカイロス1』は個々の舞踊家による振付を基にNoismらしい集団性の表現を目指したものであると語り、また、『夏の名残のバラ』に関しては、井関さんが「新潟の舞踊家」として15年間積み重ねてきた踊りを観る醍醐味を味わって欲しいとの思いに力を込めました。

また、今回招聘した森さんに関しては、同世代のライバルとしながら、「凄くエモーショナル。音楽が持つエモーションが森さんのなかで増幅されていく。彼の良さとして。端的に言えば金森穣とは違う。その違いを感じて欲しい」と語りました。

8年振りにゲスト振付家を招き、今までにない映像の使い方をしている等々、これまで観たことのないNoismが見られる、「Noism第二章」にふさわしい新作公演として、クリエイションも最終盤に差し掛かっている様子が和やかなうちに語られました。

新潟公演、埼玉公演ともにチケット好評発売中。また、新潟公演中日12月14日(土)の終演後にはサポーターズの交流会も開催致します。そちらもふるってご参加ください。

(shin)
(撮影:aqua)