白鳥は何を夢見る

Noism1 『NINA』 『The Dream of the Swan』

山野博大(舞踊評論家)

初出:サポーターズ会報第33号(2018年4月)

 Noism1の埼玉公演で『NINA』を見た。この作品は、2005年の初演から金森穣の代表作と云われ、国内外で数多く上演されてきた。私は、これを見るのが初めてだったので、期待して客席についた。

 ところが幕があいて最初の作品は、井関佐和子の踊る金森の最新作『The Dream of the Swan』だった。舞台にはベッドが置かれ、そこに井関がひとり寝ているという意外なシチュエーションに、心が揺れた。病院でよく見るようなベッドの上には、室内灯がさがり、やや狭い空間の印象。どう見てもバレリーナが寝ている優雅な部屋とは思えない。そこでの井関の動きは、寝ていることの苦しさから、なんとか脱出しようといった「もがき」から始まった。細かな動きを積み重ね、ついにベッドの外へ。彼女の動きはますます加速され、ついには狂おしいまでに高調し、ベッドの周辺にまで広がったが、それはすべて 夢の中のことなのだ。すべては、バレリーナを夢見る少女の生態の精密な描写だった(もしかすると怪我で動けないダンサーの・・・)。井関の迫真の演技が、見る者の心を鋭くえぐった。しかしそこに描かれていたのは、どこかにはなやかささえ感じさせる、よくある普通の情景だった。

 バレリーナが踊るソロ作品は、意外なことにほとんど無い。アンナ・パヴロワが踊ったフォーキンの名作『瀕死の白鳥』ぐらいしか思い出せない。バレエの世界で女性がソロを踊る時には、グラン・パ・ド・ドゥのバリエーションが選ばれることが多い。そんなバレエ界に出現した『The Dream of the Swan』は今後たびたび見たい作品のひとつになる可能性を秘めている。

 『NINA-物質化する生け贄』は今から10年以上前に発表された人工の知能を備えたロボットの反乱を描いたようにも見える問題作だ。冒頭の大音響で観客を別の世界へ隔離して、以後の衝撃的な展開を語りつぐ。その前に『The Dream of the Swan』を置いて、異界への転異の衝撃を和らげた金森の配慮には意味があった。今後、このふたつの作品は同時に上演されるようになるのかもしれない。

 初めて見た『NINA』は、期待通りのインパクトのある作品だった。Noism1のダンサーたちの、感情を交えない動きの不気味な展開は、我々の生きる未来の風景だった。彼らの好演を恐々見終わった後、『The Dream of the Swan』の人間感情の横溢するどこか危うい世界をもう一度懐かしく思い出すことになった。

サポーターズ会報第33号より

(2018年2月18日/彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)

「白鳥は何を夢見る」への2件のフィードバック

  1. 皆さま
    紙媒体である「サポーターズ会報」に掲載されていた
    山野博大さんの筆になるご批評を
    ここにもうひとつアップさせていただきました。
    デジタル環境下でのアーカイブを意図してのものですが、
    読み返してみますと、公演の様子がビビッドに蘇って参ります。
    山野さんによる他の玉稿ともども繰り返しお楽しみください。

    折しも、金森さんがtwitterで「身体像」に関するツイートを行い、
    質問に答えるかたちで、『NINA』に触れておられます。
    併せてご覧いただきますと、
    更に鮮明なイメージを描くことができそうです。
    どうぞ、そちらもご覧ください。

    https://twitter.com/jokanamori/status/1180285321780482049?s=19

    (shin)

  2. shinさま
    山野さんのご批評アップ ありがとうございました!
    井関さんがリツイートしてくれてうれしいです♪
    そして、金森さんへの質問もありがとうございました!

    別件ですが、Noism1の15thシーズン ダイジェスト映像の音楽は、福島諭さん作曲のオリジナル楽曲だそうですね。こちらもうれしいです♪
    (fullmoon)

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