『春の祭典』完成形に新たに照明が追加され、見違えた新潟公演中日に思う

2021年7月3日、前日の衝撃の余韻を完全には鎮めきれないままの土曜日。気を許すと、口をついて出てくるのは、「いやぁ、凄かった」みたいな断片的な語彙のみで、それというのも、昨年のプレビュー公演で観ていたものとは迫力、訴求力に格段の違いがある『春の祭典』完成形を目にし、打ちのめされていたことによるものでした。で、連れ合いやNoism仲間には、戯れに、或いは、少しは気の利いたジョークのつもりで、「金森さん、また何か変えてきたりしてね」など軽口を叩きながら、新潟公演中日の公演を待っていたのでした。

開演前のホワイエでは、久し振りに見掛ける知人、友人のところに寄って行って挨拶を済ますと、その後、「凄かったですよ、昨日」など、いったい何人に言ったことでしょう。そう口にすることで、自らの期待値のハードルを上げていることも自覚しています。初めてでも、そうでなくても、金森さんとNoismの舞台に向き合うとき、油断などゆめゆめ許されることではないのです。常に「超えてくる」希有な存在なのですから。

そして、果たしてこの日も金森さんは『春の祭典』で仕掛けてきていました。前日とは明らかに違っていたのは照明でした。ある箇所に追加された照明は禍々しさたっぷりの色味で、一目見ただけで不安感を掻き立てられ、すっかり目に焼き付いてしまって、うなされそうなほどのインパクトを有していました。改めて、「追い求める人」金森さんに「これでよし」はないのだと念押しされたような塩梅でした。

そうした、終わりのない「改変」の可能性も含めて、複数回の鑑賞に耐える、否、一回では把握しきれない深み、或いは豊穣さ、それがNoism公演の魅力のひとつであることに異を唱える人はいないでしょう。要は、Noismに対して自分の人生からどれだけの時間を割り当てるか、ということに収斂する、生き方の選択(という表現が大袈裟に過ぎると言うのなら、時間の使い方)の問題なのです。深く、豊穣な芸術を相手にするのなら、たとえ一度の機会でも心に大きな何かが残ることは間違いありません。でも、そこからまた、何回でも浸りたくなって、自らの有限な時間を費やすことで、その都度、生々しい体験が約束されるのが芸術、それも優れた芸術なのではなかったでしょうか。(自らの人生からいくばくかの時間を削り出して、それを芸術に委ね、そのリターン大なるを期待して、裏切られず、豊かな時間を過ごし得ること。)Noismはその点で、間違いなく、そうした美質を備えた舞踊団なのだと言い切りたいと思います。新潟中日の公演でもまざまざ実感させられた事柄でした。

前日は3列目(最前列)中央の席から、この日は11列目中央から観たのですが、見え方の違いを堪能できました。複数回観るのでしたら、席を変えて観るのが良いですよね。楽しみ方が変わります。

で、この日も、最後のカーテンコール時、前日同様、金森さんと井本さんが加わった舞踊家たちに、割れんばかりの拍手とスタンディングオベーションが贈られ、舞台上からも客席に向けて拍手で応じる場面に出会えました。

有難いことに、明日、新潟公演楽日も観ることができそうです。ですから、今から、明日は何を発見できるだろうかと胸は大いに高鳴るのですが、同時に、もう既に、(一足も二足も早く、)明日を観終えて後の「Noismロス」も予感しちゃったりして、何やら複雑な心持ちに傾き始めたりもしています。まだ明日の公演があるというのに…。げにNoism、まったく困った存在なのです。

さあ、新潟公演も残すはあと1日のみ。まだご覧になってない方も、既にご覧になった方も、こぞって劇場へ!明日の皆さんの時間を費やす価値MAXの舞台がご覧になれますから。

(shin)

「『春の祭典』完成形に新たに照明が追加され、見違えた新潟公演中日に思う」への2件のフィードバック

  1. shinさま
    ブログアップありがとうございます!
    2日目も素晴らしかったですね!!

    私は初日の15列目から今日は6列目の上手側へ。
    一気に舞台が近くなって迫力満点!
    新潟楽日は最前列です。ドキドキ!

    shinさんが書かれていた「照明」、私も驚きました。
    あれ!? 服に色がついてる!? 昨日は白かったのに!
    と思いましたよ。
    凄い色でしたね~~
    どういう照明なんでしょうね~??

    そのほかにもshinさんのお話で、衣裳の白シャツは最初はスタンドカラーで、いつボタンを外して開襟になるかとか、最初から外してたら×とか、マニアックで驚いております。
    襟にも注目して観たいと存じます。
    それにしても皆さん汗びっしょりで、ゾンビのようなメークが落ちていきます・・・

    そしてそして、ブログのハイライト、
    人生の大切な時間を、いかに心豊かに使うか、ということにつきまして、shinさんと全く同意見です♪
    金森穣Noismは裏切りません!
    いやいや、裏切り続けることによって裏切らないというべきか。
    「こう来たか~! ヤラレター!!」の繰り返しです。
    たまりませんね~
    心の栄養、金森穣Noism、全く有り難い存在です。

    最終日は残席わずか。
    満員御礼の楽日となりそうです。
    3階席オープンかも!
    皆さま、ご一緒に最高の舞台を堪能いたしましょう。
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      心優しきフォロー、有難うございました。
      ここまでずっと頭にあった「初演/再演」問題、複数回の鑑賞といった事柄に、金森さんによる見事な「改変」が重なった新潟公演中日について書き出したら、どんどんグダグダになっていきましたから、大いに助けられました。
      「ハイライト」と言って貰った部分はいつかは書いてみたいと考えていたものでしたので、「今かな」となったのですが、いざ、書いてみますと、どうしようもなくダサく、実に凡庸なことに終始してしまい、正直、情けなく思ったりもしてました。まだまだですね。

      あと、fullmoonさんが触れられていた「ゾンビ」メイクに関してですが、思うところがあり、書きたい件もあるのですが、若干、ネタバレに繋がりそうで、今はまず頃合いを見計らいつつ、我慢してたいと思います。(この間、それが書くに値する事柄かどうかも見定めながら…。)

      そしてそしてこの公演も、遂に本日が新潟楽日。残席も僅かということで、嬉しく思います。金森さんとNoismの会心の公演ですから、今、迷われている方、お見逃しなく!ですよ。ほとばしる大感動の舞台を全身で浴びて下さい。
      (shin)

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