堂々の終幕 『ラ・バヤデール -幻の国』KAAT公演楽日

7月3日(日)、うだるような真夏日の横浜、
Noism『ラ・バヤデール -幻の国』KAAT公演は楽日を迎えました。

チケット前売り分はこの日も売り切れ。
嬉しいことに、神奈川公演は三日間通して完売だったのだそうです。

私は神奈川公演は2日目だけのつもりでいたのですが、
この日(楽日)の早朝、
「神奈川に来てからも結構変わって
昨日(2日目)御大鈴木忠志さんが見たので
その意見もあって今日またさらに変更ある事を覚悟しております」
などというお話しが伝わってきたものですから、もういけません。
「折角、まだ近くにいるのだし、ならば・・・」という気分に傾くと、
急遽、新幹線の切符を変更し、当日券を求めることにしてしまいました。
当日券は1枚4,500円。前売りより1,000円安い価格はお得でした。

当日券で売り出された3階席は、ホールのかなり上方で、
まるで「天井桟敷」のような席。
そこでは身を乗り出し、両の掌で頬杖をつくといった寛いだ姿勢で見ることすらOK。
そんな急勾配の下に舞台を見下ろす席は、
照明の様子もつぶさに受け止められる「良席」でした。

そして私が買った席ですが、
「二幕」で中川賢さんと亡霊が形作る「縦列」の延長線上に位置する席でしたし、
とりわけ、その流れから、為す術なく立ちすくむバートル(中川さん)の手前、
舞台を埋め尽くすように、一斉に仰臥位に横たわった亡霊たちが
今度は次々に時間差で上半身を起こし、
顔を隠しながら客席側へと捻る場面を、
(個人的に最も好きな場面のひとつなのですが、)
舞台上の一部始終を余すところなく視野に収めて見つめたとき、
その儚さは一層際立ち、
戦慄にも似た、身震いするほどスリリングな視覚体験に、鳥肌が立ちました。

「劇的舞踊」の全体を俯瞰することで、この日初めて気付いたことも数多くありました。
『ラ・バヤデール -幻の国』、後方席もお勧めですよ。

神奈川公演楽日の様子に話を戻しますと、
回を重ねることで、舞台はこなれて、メリハリのある情感豊かなものとなり、
全てがスムーズに繋がって展開していくさまに、目は釘付けにされていました。

上に書いた「影の王国」のほか、
特に、この日はエッジの効いた「一幕」に目を奪われました。
前半終わりの幕が下りたとき、隣の連れ合いと顔を見合わせると、思わず口をついて出たのは
「面白い!」「よかったね!」というものだったのですが、
それも不思議はありません。
何しろ、この日遅く、日付が変わろうとする頃に伝わってきた金森さんの舞台評は、
「今日(神奈川楽日)の前半は今までで一番良かった」というものだったらしいので。

それはそうと、目を皿のようにして待ち受けたはずの「変更」ですが、
・・・気付きませんでした。(汗)
ラストも前日と同じ「神奈川エンディング」で、変わりありませんでしたし。

充実の2時間も終演を迎え、
幕が下りると、劇場内には前日よりも更に大きな拍手が谺しました。
なかでも、当日券の3階席、私の付近の
「天井桟敷の人々」が最も熱心に拍手されていた印象があります。
「ブラボー!」の掛け声も、スタンディングオベーションも、
「1,000円安い」ホール最後列がその中心だったように感じました。
勿論、私も、自然な流れでそのどちらにも加わりました。

ややあって午後5時半前、KAATの自動ドアを出ると、
外にはまだむせかえるような暑さが残っていましたが、
私たち幸福な観客の心はそれ以上の熱を帯びていたと思います。
みんな、暑さなどものともせず、満ち足りたような笑顔を浮かべていましたし、
何人かでご覧になられた人たちは例外なく饒舌に話していました。

そんなふうに、堂々と終幕を迎えた神奈川3DAYSの楽日。
一日遅れでこれを書いていますが、
この間にNoism+SPACご一行様は、既に関西入りしておられるご様子。

次は今週末、7月8日(金)、9日(土)の兵庫公演。
両日とも熱い舞台になること請け合い。
乞うご期待! ですね。  (shin)

 

 

 

「堂々の終幕 『ラ・バヤデール -幻の国』KAAT公演楽日」への8件のフィードバック

  1. shinさん、レポートありがとうございます。日々進化する舞台、この続きがますます観たくなってしまいます…残念ながら叶いませんが…。これからもレポート楽しみにしております。

    1. モンちゃさん、いつも有難うございます。
      「日々進化する舞台」の追っかけも、
      この日までの「6分の5」で一旦休止。
      このあとは静岡の土曜日が最後です。

      もう書けることは粗方書き尽くしてしまったので、
      私の役目も終わりみたいなものです。

      このあと、兵庫、愛知、静岡、鳥取とご覧になられた方から
      コメント欄に書き込んで頂けたらと思っています。
      宜しくお願いします。  (shin)

  2. 素敵なレポートでバヤデールへの想いがつのります。
    まさに舞台、その日に観ないと体感できないものがありますね。さすがNoism!
    なかなか叶わないのでこちらで一端でも知らせていただけとても嬉しいです、ありがとうございます!

    1. HACOさん、いつも有難うございます。
      Noismについて書いている間は幸福な気持ちに包まれるのですが、
      もう私に書けることは書き尽くしてしまった感があり、
      本ブログに書くには内容がスカスカになっていることも充分承知しております。
      それでもお読み頂いておりますことには感謝しかありません。
      暫くして、また書くときが巡ってきましたら、
      また宜しくお願いします。   (shin)

  3. shinさん、どうもありがとうございました!
    スカスカなんてとんでもないです。
    何度観ても湧き上がってくる、この充実感をどう言葉に表せばよいのでしょう!?
    無私の気持ちで客席に座る時、天の恵みのように目の前に現れる、この感動的な舞台。
    ただただ感謝あるのみです。

    1. fullmoonさん、コメント有難うございます。
      神奈川楽日は観ない予定でしたし、
      急遽、観ることにしたものの、当日券で最後列だったしで、
      ブログは当初の予定通りfullmoonさんと信じて、
      微塵も疑わなかったのですが、・・・。
      個人的に過ぎる内容となり、なにか伝わるものがあったか
      甚だ疑問ではありますが、とりあえず書きました。
      まあ、書くために思い出そうと努めることは
      個人的には有意義でした。個人的には・・・。
      しかし、素晴らしい楽日の公演でしたね。
      思い出すだけで、ため息が零れます。
      そして、今は少し肩の荷が下りた気分でいます。  (shin)

  4. そうだったのですね!
    横浜公演では変更があったのですね。
    気づけませんでした・・・(お恥ずかしい)
    ただ、横浜の初日を観た後、テーマが新潟で鑑賞した時よりさらに明確に、先鋭化されてこちらに突き付けられたように感じました。
    私はそれを2度目の鑑賞で自分の理解が深まったせいだと思っていたのですが、もしかしたらそれは変更によるものだったのかもしれません(汗)。
    今回はshinさんも記していらっしゃいましたが、席の位置によって印象が変わることを実感した公演でもありました(どの作品もそうなのだと思いますが)。
    新潟では前列下手だったのですが、横浜初日はセンター付近の列の、中央で鑑賞しました。
    舞台全体が見渡せて、装置も「バヤデール」の世界を表現していることを改めて実感。
    踊り子が身に着けることでそれ自身も踊る衣装といい、すべてが揃って「バヤデール」の世界が形作られているのだなぁ、と感じ入りました。
    中毒患者としてはもっともっと観たい作品です。

    1. ぐりぐらさん、どうも有難うございました。
      この作品、全体が見える席だと印象も随分異なるように感じます。

      兵庫公演初日を終えた時間帯に書いていますが、
      こちらでも大きな変更があったのでしょうか。
      ラストは「神奈川エンディング」のままだったのでしょうか。
      とても気になりますね。

      お互い、まだまだ観足りないという気持ちは、
      まさに「やまいだれ」に「隠(かくれる)」と書く「いん」そのもの。
      正直、まだまだ観たい舞台ですよね。 (shin)

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