森優貴さんを招いた「柳都会」vol.21を聴いてきました♪

2019年9月29日(日)の新潟市は雨模様で、じめじめした一日。Noism活動継続の記者会見からわずか2日というタイミングで、「日本の劇場で、専属舞踊団は必要とされるのか?」をテーマに、「柳都会」vol.21が開かれました。今回のゲストは、2012年から今夏まで7年間にわたって、ドイツはレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーで日本人初の芸術監督を務め、この度帰国した森優貴さん。欧州の状況に照らして、日本の現状を考える、またとない好機ということで、興味津々、会場のスタジオBへと赴きました。

定刻の15:00ちょうど、ふたりが登壇し、着席。金森さんから紹介され、「もう始める?」と切り出した森さん。2012年にダンサーを公式に引退して、レーゲンスブルク歌劇場の舞踊部門の芸術監督に就任。10代で欧州に渡って23年という年月は、在日本より長く、「日本語が出てこない」とおどけながらも、ところどころ関西弁を交えて、軽妙に語る森さんはとても気さくな方でした。森さんのお話しは独・レーゲンスブルク歌劇場の説明から始まりました。以下、手許のメモをもとに、要約でお届けします。

レーゲンスブルク歌劇場: 人口12~13万人、世界遺産の街・レーゲンスブルク(独・バイエルン州)。レーゲンスブルク歌劇場は3階だて、築100年くらいの建物にはオペラハウス(キャパ580名程)ともうひとつホール(キャパ620名程)があり、約360名が雇用されている。年間会員制度があり、それぞれの嗜好(コンサート、オペラ、舞踊等)と曜日の組み合わせから、30数種類のモデルが用意されており、年間会員は決まった座席で鑑賞する。毎週火曜日に会議があり、売り上げをチェック。そこでは年間会員以外の一般の売り上げの多寡が重視される。

歌劇場のサイクル: 年間スケジュールは年毎に変化はなく、夏休みは閉鎖、9月から始まる。舞踊関係では、11月に秋の新作公演、加えて、「社会貢献」としてHIVチャリティガラコンサートが秋に行われている。次いで冬の新作公演は2月。3月にはミュージカル公演があり、ダンサーも出演必須で、振付も行う。5月にはオペレッタで、舞踊ナンバーが2~3曲入る。6月はヤング・コレオグラファーの公演、とほぼ固定で回っていく。あくる年の方向性が決まるのは12月、1月頃。 

劇場支配人(インテンダント)と芸術監督: 劇場トップには劇場支配人(インテンダント)1名がいて、そのインテンダントに選任された4名の芸術監督(芝居・舞踊・楽団・青少年の芝居ユンゲス・シアター)がいるスタイルはほぼドイツで一般的なもの。インテンダントは市の評議会が選任する。その際には、その人が持つ人脈が重視されるケースが多い。インテンダントまで上り詰める者は、オペラのディレクター、芝居の演出家などであるのが通例。舞踊からの者はほとんどいない。森さんが務めた芸術監督は各プロダクション毎に予算を示されるのみであり、売り上げの責任を負う立場にはない。

舞踊部門の芸術監督: 劇場が年間38~40の新作を送り出しているなか、舞踊部門は最もプロダクションが少なく、予算もカットされ易いのが現状。「舞踊部門は立ち位置が弱いよね」(金森さん)。どういうところで勝てる喧嘩をしていくか、それなしには舞踊の位置づけを守れない。長期の準備期間を要するのが舞踊。台本がなく、曲探しから始め、秋に新作公演を打つためには、1年半くらい前に始めないと間に合わない。確固たるイメージが共有されなければ、美術・衣裳などは作れない。その舞台・衣裳などは劇場内に工房があり、ほぼ外注することはなく、正確な情報を渡さないと動いてくれない。また、レーゲンスブルク歌劇場にはストレージ(倉庫)がないことから、公演は連続公演のかたちで組まれ、公演後、美術は破棄される。よって、再演は行わない(行えない)。

芸術監督の交代期: 一旦、全員解雇のかたちをとり、オーディションを行い、残留者が決まるのが普通。どの劇場も一斉に動くため、流れには乗れる。一方、カイロプラクティック等への転身等の他の選択肢や補助金等のサポートもあるため、見切りをつける子も多い。失業手当(1年間)なども受給可能。レーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーのダンサーは男女5名ずつの10名。そこに世界中から700~800の応募がある。(イタリア、スペイン、キューバ、ブラジル、日本、韓国などからの応募が多い。)また、オーディションにおいて、不採用とする際には、訴訟を避けるためにも芸術面での理由を述べる必要がある。

欧州の劇場: 日本と違い、「貸館」主体の劇場はない。貸日を設けているくらい。公演チケットの価格は、良席でもオペラで10,000円未満、ダンスは4,800円くらい。他に、学生チケットや「ラストミニッツチケット」(格安で売り出される当日券)などバラエティに富むものが用意されている。 

劇場の今: 教育機関に対する責任の大きさから、アウトリーチ活動を行い、新作初日までのクリエイションの過程を見せるなど、どうやって作品が出来上がっていくのかを見せて、劇場に足を運んで貰えるよう努力している。それを担うのは広報部長(1名)であるなど、雇用人数に対してオーバーワークという現実がある。また、近年、ドイツでは芝居に客が入らなくなってきている。理由は時間がかかるから。その点、舞踊は、生きる総合芸術という側面を手軽に楽しんで貰える利点があり、芝居の売り上げが思わしくなかったり、歌手が体調を崩したりしたときなどには、「優貴!(やってくれ!)」と(舞踊に)声がかかることも多かった。他面、観客に目を向けると、ファンを除いて、市外の劇場へ足を伸ばす者は少なく、市内で完結してしまうことが多い点や高齢化に伴い、次世代の観客が減少している点なども問題として浮上してきている。

日本の劇場、日本に戻ってきて: 公民館と区別がつかないような劇場の日本。「実際、公民館の跡地に劇場が建っている例も多い」(金森さん)。まず、集客の保証があってという順序ではなく、その地域、その劇場で作ったものを発信していくことの意義は大きい。生の人間が作って、生の人間が関わるところに本質的な対話や共感が生まれる。土壌もない状況でNoismができたことは、歴史的な事件であり、希望であったし、それが15年続いたことも含めて、奇跡のような事件。それだけに、今日まで「2番手」が出てこなかったことが腹立たしくて仕様がない。語弊はあるが、もし「2番手」ということになるなら、自分以外にいないんじゃないかと思った。(会場から拍手)

ラストの会話を再現してみます。
-「なんで日本に戻ってきたの?」(金森さん)
-「まあ、いろいろ」(森さん)
-「とりあえず、倒れてもいいのがわかったからね。頑張ってみるよ」(金森さん)
-「金森さんはいつだって追いかけるべき先輩だった」(森さん)
-「避ける者も多いよ。その道は絶対に行かないというか…」(金森さん)(笑)
-「芸術監督の立場について色々相談したし、『同志』と言って貰えたことは嬉しかった。『2番手』、責任だと思ってた」(森さん)
-「俺、もうちょっとやりたいんだけど、いい?」(金森さん)
-「金森穣だけで終わってしまってはいけない。ひとりではできないけど」(森さん)
-「まだ帰ってきたばかりじゃない?」(金森さん)
-「今、勢いあるからさぁ、やるなら今かなぁと」(森さん)(笑)

すべて網羅することは到底できよう筈もありませんが、上のやりとりのような感じで、終始、和やかに進められたこの日の「柳都会」。途中には、森さんがレーゲンスブルクで振り付けた作品の公式トレイラーも5本流され、その色彩感豊かな映像に、来る12月・1月の『Noism1+Noism0 森優貴/金森穣 Double Bill』への期待も募りました。3歳違いのふたり(金森さんが3つ年上)、今、その振付の個性を並べて観ることが待ち遠しくて仕方ない心境です。とても楽しい2時間でした。

(shin)

 

「森優貴さんを招いた「柳都会」vol.21を聴いてきました♪」への4件のフィードバック

  1. shinさま
    詳述どうもありがとうございました!
    森さんがレーゲンスブルク歌劇場について詳しく話してくださり、とても興味深かったです。
    同じドイツでも地域や州によってシステムが違うようでしたし、欧州でも国が違えばいろいろ違うようですが、レーゲンスブルク歌劇場は大層忙しく、森さんは職人技のように次々と作品を繰り出していかなければならなかったようで驚きました。相当ハードだったと思います。
    また、権謀術数 渦巻くような秘密の出世争い(?)のお話もドラマチックでした。

    森さんは日本のSNSやAIの異常な発達について、人間の直接的会話の代わりに、機器が話すようになってしまう未来が来るのではないかと危惧していましたね。
    病気には病院や医者や薬が必要なように、人間には生の舞台が必要であり、日本を救えるのは舞台芸術 と明言されました。
    森さんにはぜひ公立劇場の芸術監督に就任していただき、培ってきた経験を生かしてほしいと思いました。

    12月・1月の公演が楽しみです♪
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      補足とコメント、有難うございました。
      歌劇場の年間のサイクルのなか、秋と冬に新作を2本発表する以外にも
      様々なことを担わなければならなかったという森さん、
      大変そうでしたよね。

      森さんが「一から」作っていかねばならない舞踊のプロダクションの過程を
      「『森語』や『金森語』を見つけ出そうとする作業」と言い表したことに呼応するように、
      金森さんも、「職業としての振付家」みたいに見られ、
      他部門に見られる「伝統的に確立されたマニュアル」があるかのような捉え方をされがちな状況に言及。
      それらを相手に不断の闘いを続けてきて、
      お互いを深く理解し合えるふたりの対談企画でしたから、聴きごたえ満点でしたね。
      (他部門からの無理解ぶりを伝えるエピソードとして、
      森さんは「(舞踊は)腕を振ったら(簡単に)何か出るんじゃないの?」みたいに言われることをあげ、
      金森さんも、そうした見られ方を「『振ったら出る』問題」と括りました。(笑))

      あと、「オーバーワーク」問題は洋の東西を問わず共通なのだと知り、
      どうにか工夫を凝らして、改善への途を拓く「新生Noism」であって欲しいとも思いました。

      2時間を通して、金森さんには森さんという「同志」が存在することがはっきりとわかり、
      それはそれでとても心強いものを感じた今回の「柳都会」でした。
      (shin)

  2. shinさま

    まとめありがとうございました。
    紹介された公式トレイラー貼っておきます。
    https://www.youtube.com/watch?v=-Mnn4CJqgMQ
    https://www.youtube.com/watch?v=UafqKH0EtOg
    https://www.youtube.com/watch?v=_VDlOhfBON0&t=8s
    https://www.youtube.com/watch?v=TyTm8D2O6Sw
    https://www.youtube.com/watch?v=moZjxO4wfBc&t=68s
    ストレージがないばかりにこの美術が廃棄される、というのは衝撃でしたね…。
    このトレイラーに森さんの姿が出るたび、金森さんが「誰?」と(ルックスが変わってる様を)反復的に聞いていたのが可笑しさを醸しながらも、親密な関係性がうかがえました。

    1. noi さま
      同日紹介されたトレイラーのリンク、有難うございました。
      上のリンクでご覧いただけます5本は次の通りです。
      ①『ドン・キホーテ』: 1950~60年代のオフィスの舞台に展開されるコメディ。
      ②『クリムトとフランシス・ベーコン』: ゲスト振付家フェリックス・ランダラーとのプロダクション。お互いに、普段、手をつけないことをやろうということで、森さんも「興味のあったベーコン」を取り上げた。
      ③『THE HOUSE』: 「やってみたかった」ダンス・サスペンスをオリジナル台本で。
      ④ラクロ『危険な関係』: 突然、「大っ嫌いなバロック音楽」でやりたいと思った。
      ⑤『春の祭典』: 芸術監督就任2年目の作品。降ってくる「土」の正体はコルク。
      いずれも「イブニング」作品で、尺は1時間半~1時間40分とのこと。

      森さんは「ストーリーの入るものが好き」ということで、
      Noismに振り付ける新作『Farben(ファルベン)』も、
      「A君がBさんに恋をしました」みたいなものではないが、
      オムニバスからイメージをピックアップすることで、
      観る者が関係性をピックアップできるような作品になるだろう
      と語りました。

      そして森さんのルックス、
      映るたびにお約束の「誰?」の合いの手が入り、
      金森さんは「今の方が若いね」とも言ってましたよね。
      皆さん、いかが思われますか。

      ストレージ、場所がなく、外注するとコストが生じるしで、
      「破棄するしかない」はホント衝撃でしたね。
      (shin)

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