きっと記憶に残るNoism2特別公演『ゾーン』、その初日2公演

大雨、続く酷暑、更に台風。
「とても異常な状態」にあるとも言える日本列島の2018年7月28日(土)、
新潟市「水と土の芸術祭2018」の関連企画として、
本拠地・りゅーとぴあを飛び出し、万代島多目的広場〈屋外広場〉を会場に、
Noism2の特別公演が行われ、
元Noismメンバーで、
現在、東京でDance Company Lastaを主宰する櫛田祥光さん振付演出の
『ゾーン』が上演されました。

濃い夏の青空と白い雲、更には光を照り返す対岸の漁業会社や造船会社の壁面をホリゾントに、
注ぎ続ける太陽光にいたぶられて熱した、黒のリノリウムならぬアスファルトの上で、
白1:黒8の構成で、9人のNoism2メンバーが、
記憶を巡る「切なさ」を踊りました。
折からの暑さゆえ、当初の構想より10分短くしたとはいえ、全篇50分の力作です。

「100年後の事を想像してみた。
私はもちろん、目の前を歩く人、車を運転している人も、
誰1人として存在していない。
時間とともに記憶はおぼろげになり、
言葉は風化し、
そして人々から忘れ去られ消えていく。」

この日は、15:30からの回と、17:30からの回の2公演をどちらも観ました。
白い日傘を差した白い衣裳の女性はダブルキャストで、
最初は三好綾音さんが、続いては西澤真耶さんがそれぞれ演じました。
ふたりの持つテイストの違いを楽しみましたが、
日傘のレースが顔にあやなす光と影の美しく儚げな様子は共通でした。

黒8人は「忘れられた記憶」、白ひとりは「今を生きる女性」。
相互に嵌入し合い、絡み、引き込み、縺れ、抗い、飲み込み、飲み込まれるのは、
一人ひとり重みのある筈の身体、そして異なる筈の顔たち。
…甦るは、東日本大震災の記憶。
この日、若手舞踊家たちが踊る「ゾーン」の奥、海から続く水面の青は、
波こそ立てつつも、「あの日」の凶暴さを感じさせることはありませんでした。
それでも、水辺で観る風化への抗いと鎮魂には強く胸に迫ってくるものがありました。

時に、8人の黒い女性に同調するかのように、上手側から数羽の烏が飛び立ち、
或いは、正面奥にまっすぐ立つ河岸のライトの上に一羽の白い鴎がとまり、
彼女たちが踊る「ゾーン」中央に立つ白いひとりを見下ろし、
はたまた、正面奥から客席側に歩みだす白の女性(15:30の回:三好さん)の姿を、
突然、あたかも強いピンスポットライト然とした光線が浮かび上がらせるなど、
見事なシンクロ振りで自然を味方につけた、「持っている」感満載の屋外公演でした。

そして何より、若手女性舞踊家全員、暑さに顔を真っ赤にしながらも、
「体温」以下の、或いは、より正確には、「体温」が失われた世界を描出して、
観る者の心を締め付けました。
それはそれは、(矛盾するようではありますが、)この日、2公演を通した彼女たちの
消耗振りが案じられるほどの「熱演」でした。
「ゾーン」に入っていたからこそ演じ切れたのだとも思いますが、
明日(7/29)の公演に関しては、15:30からの早い回が中止となりました。
観ているだけでも厳しい暑さでしたし、明日は一層気温が上昇する予報もあります。
残念ですが、若手舞踊家の身体を思えば、やむを得ない措置かと考えます。
もっとも、一番残念に感じているのは彼女たち自身の筈。
全身全霊を傾けた、渾身の舞踊で締め括ってくれることでしょう。
15:30の回のチケットをお持ちの方は、17:30の回に振替が可能ですし、
ご都合のつかない方には後日払い戻されるとのことです。

明日も暑くなります。
入場時に(恐らく)ペットボトル入りの麦茶も配付されますが、
各自、充分な脱水対策と暑さ対策をしてお越しください。
開演10分前より整理番号順にて客席へのご入場となります。
たゆたうような大人テイストのNoism2をご堪能ください。
きっと記憶に残ることでしょう。
(shin)

「きっと記憶に残るNoism2特別公演『ゾーン』、その初日2公演」への3件のフィードバック

  1. shinさま
    ブログアップありがとうございました!
    私は15:30の回しか観られなかったのですが、気候条件が悪い中、Noism2メンバーは、あの難しい踊りをよくがんばりましたね!!

    屋内会場であれば、観る方の環境も整いますし、櫛田さんの作品独特の雰囲気や情感が伝わりやすいかとも思いましたが、shinさんが書かれているように、屋外であるからこその意外性や魅力があり、暑さに負けない、とてもいい公演でした♪

    今日はフェーン現象で朝から気温急上昇中ですが、
    17:30の公演、とても楽しみです!
    (fullmoon)

  2. fullmoon さま
    コメント、有難うございます。
    ホントですよね。かなりの難易度の振り付けとも見受けましたけれど、それに「災害」レベルの暑さが加わるなか、誰ひとり、大きなミスもなく、踊り切りましたものね。
    健康面への配慮から、本日は1公演のみとなりましたが、それもなかなかキツイ熱波のなかです。本日も無事に踊り切って貰えるよう、祈りながら、気を送って観ていることとします。
    (shin)

  3. 皆さま
    演出・振付の櫛田さんが、今回、作品に込めた思い
    「忘却への抵抗」に関しまして、
    記事中にも転載した「100年後の事を想像してみた。…」から始まる
    印象的なナレーションが、
    作品の冒頭と一番最後の2回流されます。
    「これは大事なやつ」とばかり、頑張って聞き取ったのですが、
    後刻、公演パンフにキチンと掲載されているのを知り、
    予め、パンフに目を通しておくのがいいのだよなぁ、
    ってなったのですけれど…。(汗)

    で、そんなことより、「忘却への抵抗」と「100年」という
    ふたつの項目のセットに目を転じてみますと、
    同様のインスピレーションが、人を捉えることは
    強ちないことではないのだなと改めて思いまして。
    といいますのは、テイストは少し異なりますが、
    その同じ項目セットを使って、
    歌手の中島みゆき(1952~)は、アルバム『歌でしか言えない』(2001)の
    なかで、『永久欠番』という歌を発表しています。
    こちらも、個人的に愛する者の喪失を取り上げ、
    記憶が風化していくことへのやりきれなさに抗い、
    人ひとりのかけがえのなさを前面に出して歌う楽曲で、
    彼女の圧倒的な名唱が胸を打ちます。

    『ゾーン』が、海のイメージとともに、断片的でリリカル、
    儚げに進行していくのに対して、
    中島みゆきは、空のイメージに抑えきれない感情を託して、
    壮大に締め括っているとでも言えばいいでしょうか。

    中島みゆきのアルバム『歌でしか言えない』は、そのタイトルが表す通り、
    彼女の歌手としての立ち位置を明確に打ち出した大名盤なので、
    是非一度お聴きになって頂けたら、とも思います。

    いずれにしましても、アーティストにとってのクリエイションは、
    その存在の根本に根差す、「作らずにはいられない」思い
    によるものなのだと改めて感じたような次第です。

    蛇足でした。失礼します。
    (shin)

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