豊かな情感に身を委ね、清らな感動に至る『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演9日目♪

2023年2月2日(木)、『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演9日目。この日は平日ということもあり、すぽっとエアポケットに嵌まりでもしたかのように、残席を残したままで公演当日を迎えておりました。雪や寒気の予報もあったりで、私自身も見送るつもりでいたのでしたが、観たい気持ちが強くなってきて、随分迷った挙げ句、やはり「観られるのに観ないのはもったいない」と、「Noism>雪+凍結」の揺るぎない不等式気分になり、半日休みをとって、13時半頃に当日券を求めました。(入場整理番号は59、60。)

そこから19時の開演までまだ時間があるので、一旦帰宅して出直したのですが、この日がU25リピート鑑賞の日だったことから、市内の高校ダンス部の生徒たちも多数足を運び、無事この日も「満席が予定されています」のアナウンスがなされるに至りました。めでたしめでたし♪

この日は上手(かみて)側の最後列で、fullmoonさんの隣に腰掛けて、5回目の鑑賞に臨みました。鑑賞を重ねてきたことで、細かなところに目を配る余裕も生まれ、作品全体の情緒を楽しみました。

金森さんが、霊感(インスピレーション)を掻き立てられたシューベルトの21の歌曲を選んで、各舞踊家にソロを振り付けた訳ですが、そのそれぞれのパートが見ものであるだけでなく、その構成の妙が光る作品となっていることに驚きます。集められた素材(楽曲)はもともとのコンテクスト(文脈)を離れてバラバラなものである筈ですし、振付もそれぞれ歌詞を逐一なぞるものではありません。しかし、金森さんの創作は、各曲に聴き取ったシューベルトの「魂」を拠り所にして、歌詞と舞踊、その2者が寄り添い、拮抗し、そして止揚(アウフヘーベン)されて、馥郁たる「第3の表現」を立ち上げるに至っているのだと思われます。それはまさにシューベルト歌曲が有する可能性、その中心で行われた極めて創造的な営為と言えるものでしょう。

豊かな情感が各場面を越えて、引き継がれ、木霊し合い、増幅されていきます。その果てに訪れるラストのシークエンスに、なにゆえあれほど感動するのでしょうか。その問いへの私自身の考えはありますが、この後も公演は続きますし、まだここでは記さずにおきます。皆さんも個々に考えるところがある筈ですし、後日、感想など色々話し合ったりしたいものです。(コメントも寄せていただけたら幸いです。)

さて今回、ここでは、作品『Der Wanderer―さすらい人』に使用された歌曲とソロ(或いはメイン)で踊る舞踊家を記して、これからご覧になられる方の鑑賞に供したいと思います。

1.さすらい人: 全員
2.蝶々: 糸川祐希さん
3.野ばら: 庄島すみれさん
4.憩いのない恋: 坪田光さん
5.愛の歌: 庄島さくらさん
6.ミューズの子: 中尾洸太さん
7.至福: 樋浦瞳さん
8.狩人: 杉野可林さん(太田菜月さん)
9.月の夕暮れ: 三好綾音さん
10.ナイチンゲールに寄せて: 井本星那さん
11.セレナーデ: 中尾洸太さん・坪田光さん・樋浦瞳さん・糸川祐希さん
12.彼女の肖像: 井関佐和子さん
13.鴉: 山田勇気さん
14.糸を紡ぐグレートヒェン: 庄島さくらさん・庄島すみれさん
15.魔王: 坪田光さん・樋浦瞳さん・糸川祐希さん
16.死と乙女: 井本星那さん・糸川祐希さん
17.月に寄せて: 中尾洸太さん・樋浦瞳さん
18.トゥーレの王: 三好綾音さん・杉野可林さん(太田菜月さん)
19.さすらい人の夜の歌: 山田勇気さん
20.影法師: 井関佐和子さん
21.夜と夢: 全員
*9曲目と10曲目はパンフレット記載の曲順から変更になっています。

終演後の新潟市ですが、幸い降雪はなく、凍結もさして酷くなかったため、清らな感動のままに、ホッと胸を撫で下ろしながら家路につきました。

いよいよ、新潟公演も残すところ2公演(両日とも完売)のみ。その後、2月24日(金)から26日(日)は東京・世田谷パブリックシアターでの3公演が待っています。初見の方もリピートされる方もどうぞお楽しみに♪

【追記】コメント欄には、fullmoonさんによる翌2/3(金)新潟10日目公演及び同日終演後に開催されたアフタートーク(4回目)についての報告もあります。よろしければご覧ください。

(shin)

「豊かな情感に身を委ね、清らな感動に至る『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演9日目♪」への6件のフィードバック

  1. shinさま
    入魂のご感想、そして各曲出演者のご紹介、ありがとうございました!
    2/2も満席となりよかったです♪
    一段と感動的な公演でしたね。
    前の方で見ると舞踊家たちの迫力に圧倒され舞台に没入しますし、
    後方は情緒や情感、清らかな感動がより胸に響くように思います。
    そんなに何列もあるわけではないのに不思議ですね。

    回を重ねてますます情感豊かに深まっていく『さすらい人-Der Wanderer』。
    舞踊家たちの深化と、金森さんの天才をしみじみと感じています。
    (fullmoon)

  2. shinさま 皆さま
    こんばんは!
    2/3(金)17:00 満席!
    今日の公演も、ホントにもう~~
    よかった~!!
    東京からの方々や、京都からもお越しいただき大感謝!
    リピートの若い人たちや高校ダンス部も来ていて嬉しいです♪

    かく言う私、本日は手持ちのチケットを、見たいという知人に譲ったのでどうなることかと思いましたが、幸いなことに入場できました♪
    今日はアフタートークもあり質問がたくさん!
    かいつまんでご紹介します。

    Q. 照明は前の時と変えていますか?
    金森:ちょっと変えるかな。
    井関:微妙なので、見る位置にもよると思いますが、踊る方は変わるとすぐわかります。
    —-どうも照明はちょこちょこ変わっているようですよ!
    井関さんは敏感なのですぐわかるそうで、金森さんによると佐和子さんは「植物のように明るい方に行く」とのことです♪
    照明については「いつから照明を考えますか?」という質問もありました。
    金森:「前から考えてはいるが具体的には2週間前くらい」
    —-すでに頭の中に光が見えているそうで、ここに当たっているから当てなきゃな、という感じなのだそうです。

    Q. 壁の中の黒いZoneは何ですか?
    金森:深淵であり闇です。
    (この質問は前にもあり「死の扉」という答えでした)
    本当は壁をくりぬきたいのですが、怒られるので・・・

    Q. 本公演の手応えはいかがですか?
    金森:一人一人が皆とても深まっていると思う。私の思いを超えて多彩な表情や表現をしている。

    Q.  衣裳はどのようなイメージか?
    金森:東欧の昔のセカンドハンド(古着)の感じで(堂本さんに)お願いしました。

    Q. 前半、山田勇気さんは何を書いているのか?
    という質問があり、菩提樹の所に置いてあった山田さんの手帳を金森さんがこっそり見ました。
    絵は無くて、いろいろな言葉が書いてあったそうです。

    Q.  最初の静止しているときはどのような意識か?
    井関:3回目以降は全くまばたきをしていない。空間に身を委ね、集中している。止まるのではなくそこに「在る」という意識。

    Q. 赤いバラと死の淵について
    金森:バラは生死の境界であり、境界にあるのが愛。
    バラの花の命は短いが、それより生命のスパンが長いのが樹。
    菩提樹が人の世を見つめている。

    Q. 最後の場面では何を考えているのか?
    井関:穣さんからは「ありがとう さようなら」の気持ちでという指示があった。本当のところは人それぞれ、いろいろあると思う。

    Q. 『闘う舞踊団』に感動した。出版しての心境は。
    金森:もう出してしまったので、特に言うことは無い。
    この本では今までのことを総括したので、これからのことを考えたい。

    Q. 踊っているときは何を考えているのか? 憑依している?
    井関:憑依や変身ではなく、顕身と思う。
    金森:変身は主体であり、顕身は客体。そこに自然に顕れるもの。
    井関:美空ひばりの「柔」を聴いている。「勝つと思うな思えば負けよ」。「勝つ」というのは驕りであり、無心でなければ自分に負けてしまう。

    Q. バレエチャンネルの取材で、再演をしたいとあったが。
    井関:12月に『鬼』を再演する。あまり間を置かずに再演できて嬉しい。その先のスケジュールもあるが、まだ言えない。海外公演はこれまでにオファーはいくつかあったが、この時世なのでしばらく予定は無い。
    皆さんが再演してほしい作品の希望があったらアンケート等に書いてほしい。
    金森:ウチは公演が年に2回と決まっているので、再演をすると、何かといろいろ難しい。
    皆さんが一人10人観客を連れてきてくれればすぐに満員になるので、そうなれば年3回できるかもしれない。

    (質問をした方によると、5月の前沢ガーデンでは何をやるのかなと思ったそうです)

    質問も終わり、ここで井関さんから。
    「昨日(2/2)の公演は、Noism始まって以来初めて、穣さんが不在だった。でも全然大丈夫だった」
    金森:それならこれからは初日と最終日だけ見ようかな。
    井関:いや、やはり見てもらっていた方が作品が深まる。いないと自分で判断するしかない。
    —-実は初日から照明は変わったようで、そういう細部のこだわりやメンバーへの指導がどんどん作品をよくしていくのでしょうね。

    金森・井関:新潟公演は明日2/4が最終日(満席)。6月末~7月の公演もどうぞよろしく。
    井関:お一人様10人ずつ連れてきて満席にしてくださいね!

    とのことでした。
    楽しいアフタートークでした♪
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      詳細なご報告、有難うございました。
      チケットも「さすらい」の末、巡ってきてよかったですね。
      (「コンプ」も途切れることなく、繋がりましたし。かつての「ハンカチ王子」的な表現をすれば、「もってますね」って言うべきところかと。)

      で、アフタートークについてです。
      やはりそうでしたか、そう思ったのは照明に関してです。作品の深度がまるで別物になっていますよね、公演を重ねてきて。そしてそれもちょこちょこ変わっているとすると、私たち観客もその都度、金森さんのクリエイションに伴走していることになり、「生きもの」としての舞台作品の生成を目撃し続けることになります。それって、贅沢なことではないでしょうか。その意味では、今日は新潟公演楽日、この「場」スタジオBでの集大成を見詰めることになりますね。
      そして、それはそのまま、約3週間後の世田谷パブリックシアターでの公演も見逃せない所以です。思い出すのは『バヤデール』や『ロミジュリ(複)』のこと。深化への拘りや舞台形状的な側面から、ラストシーンが変わったり、トップシーンが変わったり、演出も大きく変化させてきたのが金森さんとNoism。ですから、「リピート」というのではなく、足を運べるのであれば、足を運んで目撃し続ける意味は大きい、そう考える次第です。

      そしてアフタートークのご報告から、もうひとつ。井関さんが使った「顕身」という言葉が響きました。動的なイメージを伴う「変身」や「憑依」ではなく、「顕身」。「顕れる」…、内側から顕れ出でる姿…、何やら植物的な語感として受け止めてみると、赤いバラや見守る菩提樹とも呼び交わし、作品全体の大きな円環が見出せるようで、すんなり入ってきました。勿論、「音」繋がりでは、舞台人としての「不可視」への「献身」(『ASU』ではないですけれど、)の果てに「顕れる」ものであることは間違いないとも。時間を要するのもむべなるかな。よって、(その意味合いからも、)観客としては見詰め続けるしかないのも道理な訳です。

      等々、色々と考える材料を頂きました。どうも有難うございました。
      (shin)

  3. shinさま
    さすがshinさん!
    思考が深いですね!!
    こちらこそありがとうございます。

    照明の変更を一番感じたのは昨日の『死と乙女』でした。
    あの難しいリフト(リフトと言うのか??)凄いですよね。
    井本さん糸川さん、渾身の踊り。
    井本さんのしなやかで美しい、伸びやかな肢体と、支える糸川さんお二人に照明が当たり、本体&その影にゾゾッときました。

    後半は全体的に照明暗めに感じました。
    しかし、頻繁に変わる照明ですから、本日どうなるかはわかりません。ご承知おきください♪

    「顕身」についてもありがとうございます。
    私も最初「献身」と思ったのですが、わざわざ「あらわれるの顕」と言われたので納得しました。

    本日はどうなることでしょう?
    毎回見ているのに「今日どうなるか!?」とはスゴイことです。
    のちほど、会場でお会いしましょう。
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      井本さんと糸川さんの場面、
      糸川さんの身体を静かにせり上がっていく井本さん、
      本当に目を釘付けにされますよね。
      う~む、またすぐにでも観たい場面のひとつです♪
      (shin)

      1. 皆さま
        その井本さんですが、体調面の理由からこの3月末をもって退団されるとの報せが…。(涙)
        併せて、今度の東京での公演が最後の舞台になるとも…。(大涙)
        それを報じるNoism Web Siteへはこちらからどうぞ。
        『Der Wanderer-さすらい人』世田谷公演、目に焼き付けておかなきゃですね。
        そして、遠くない将来、また井本さんのたおやかな踊りを観る機会に恵まれますよう願ってます。
        でもまずは世田谷公演です。皆さま、観なきゃです!
        (shin)

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