今回、金森さんが目指す「詩と音楽に三つ巴で拮抗するもの」を目撃する観客の喜び♪(『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演3日目・アフタートークあり)

2023年1月22日(日)、一時、鈍色の空から雪片が舞い落ちる時間帯もありましたが、案じられたほどの降雪にはならず、『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演3日目は、この日もチケット完売で、無事、その開演時間(15:00)を迎えることができました。

一時の荒れ模様も…
数分後には…

この日は初日と同じキャストで、シューベルトの歌曲21曲によって構成された「70分(正味60分強でしょうか)」の演目が紡ぎ上げられていきました。この日も私は演者の呼吸音すらダイレクトに届く最前列に腰を下ろし、11人による「さすらい」をおのが全身で受け止めるように見詰めました。

演者がバトンを受け渡すようにして入れ替わりながら、今回の見どころとされるそれぞれのソロが踊られていくのですが、勿論、複数人で踊る場面も拘りの演出振付が施されており、刮目を要することは言うまでもありません。つまり、70分間、様々に注視して臨むべき演目と言えるでしょう。

新潟全11回公演のうち、「第1クール」最終日のこの日は、11人の舞踊家たちの伸びやかさが増していたように見ました。世界初演の舞台は順調な滑り出しを示したと感じます。

終演後、客席はほぼ全員が残ったままに、「丸3年振り」(金森さん)となるアフタートークが開催されました。そのことをまず喜びたいと思います。私たちに向き合って腰掛けた金森さんと井関さんが柔和な表情を浮かべ、ユーモアを交えながら、質問に答えてくださいましたし、客席も「この日を待ってました」とばかり、例外なく、20分間の「アディショナルタイム」を満喫していました。
では、井関さんの「Noism国際活動部門芸術監督の井関佐和子です。こちらはいつもの金森穣さんです」で始まった、その折のやりとりからかいつまんでご紹介いたします。

Q:全体のテーマは?
-A(金森さん):愛です。何故、人はさすらうのか。他者に対する愛、そしてそれを超えて、自分が輝ける場所を求めてさすらう。そして愛に付随するものとしての孤独と死。シューベルトの700曲を超える歌曲を聴いて、音楽家の魂のなかに聞き取った。

Q:パンフレットの表紙のメンバーの表情はどういう表情なのか?
-A(井関さん):まずはメンバー一人ひとりの表情がわかるもの。「色々な顔であって欲しい」と穣さん。そこからデザイナーさんが選んだ。
-A(金森さん):証明写真や遺影みたいにはなりたくなかった。(笑)多様性があったらいいね、と。
-A(井関さん):何考えているのかわからないのがいいね、と。(笑)

Q:歌曲のソリスト(歌手)についてはどう選んだのか?
-A(金森さん):メンバー一人ひとりを思い浮かべながら、色々な録音から選んだ。そして、実際に踊るのを見て、合わないとなったら、また探した。
-A(井関さん):同じ曲なのに、あんなに違う作品に聞こえるのが面白かった。自分も一度、男性の声でやってみたら、全然違うな、となった。(笑)

Q:赤いバラが頻繁に使われているが、思い入れがあってのことか?
-A(金森さん):他の色は考えなかった。意外と色々考えてそうに見えますよね。(笑)イメージしてみたら、そこにあったバラが赤かった。

Q:手応え、印象、課題について。
-A(金森さん):作品は出来上がると見守るしかない。彼らが一期一会で色々なものを見出して欲しい。生き切って欲しい。それを届けて欲しい。
-A(井関さん):「ひとりで立つ」のは足が一歩も出ないくらい今でも怖い。普通ではない危機感を感じて、「怖いと思って欲しい」と言った。慣れにならないように、怖い思いをしていって欲しい。

Q:21曲を選曲した理由は?
-A(金森さん):振付家としてインスピレーションが湧くもの、そして、彼らが踊っている姿が見えたものを選んだ。加えて、「イブニング公演」全体を通してのリズムも考慮しながら、パズルのようにして嵌めていった。そして、今のNoism0とNoism1にしか出来ないものを、と考えた。

Q:「ソロ」の構成に込めた思いは?
-A(金森さん):これからのNoismに何が大切か考えたとき、一人ひとりがお客様を呼べるようになること、一人で立てるような個々人がここ新潟で活動しているのが夢。

Q:歌曲の内容との関連は?
-A(金森さん):関係性はあるが、一義的なものではない。詩と音楽と三つ巴、四つ巴になり、拮抗するものを目指している。
-A(井関さん):今回、メンバーに歌詞の日本語訳を渡したのは珍しいことだった。
-A(金森さん・井関さん):「大人の事情」から、その日本語訳を示すことは出来ない。色々探してみて欲しい。

Q:演出振付されたものを踊るとき、個々のダンサーが担う責任範囲として、「表現」はどう生まれてくるのか?
-A(井関さん):演出の世界観・時間の流れ・振付の意図を理解して、作家を超えたものを返すのが至上命題。与えられた言葉や示された動きではなく、作家の大脳に働きかけること。頭の奥に何が潜んでいるのか、それを探り、奥へと入り込んでいく作業が楽しい。
-A(金森さん):方程式は何もない。作家と実演家がそうした相手を見つけること、それをベジャールさんは「愛」と呼んだ。

Q:木工美術の近藤正樹さんとの出会いは?
-A(金森さん):8年前、『カルメン』のとき、友人夫妻を介して知り合った。美術をお願いすると、いつも面白がってくれる。
-A(井関さん):いつも想像を超えてきてくれる。

…と、そんなところでしたでしょうか。


最後に、この度、夕書房さんから刊行された金森さんの著作『闘う舞踊団』について触れられると、「何を目指しているか」が分かって貰える筈、と金森さん。私は(一度目)読了しましたが、まったくその通りと思いました。必読の好著ですので、是非お買い求めください。
(これは個人的な事柄ではありますが、私、光栄にも、終演後のホワイエにて、本日の公演に足を運ばれていた「ひとり出版」夕書房・高松夕佳さんその人にご挨拶したうえ、この本の素晴らしさと受け取った自身の感激について直接お伝えすることが出来ました。とても嬉しいひとときでした。)

更にもうひとつ。今週の水曜日と木曜日にはまだまだ席に余裕があるため、是非お越しください、と金森さん&井関さん。新生Noism Company Niigataの船出、或いは意欲的な「さすらい」を是非お見逃しなく♪

【追記】この記事へのコメント欄に、fullmoonさんによる 1/25(水)公演および 1/26(木)公演+2回目のアフタートークについての報告もありますので、よろしければご覧ください。

(shin)




「今回、金森さんが目指す「詩と音楽に三つ巴で拮抗するもの」を目撃する観客の喜び♪(『Der Wanderer-さすらい人』新潟公演3日目・アフタートークあり)」への4件のフィードバック

  1. shinさま
    今日の公演もとてもよかったですね!!
    3日続けて見ましたが(いつものことですが)、ますます「さすらい沼」にハマっていくようで、次のクールが楽しみです。
    アフタートークもよかったですね♪
    詳細ありがとうございます!

    そして、夕書房の高松夕佳さんにご挨拶されたとのこと!!
    さすがshinさん!
    夕書房さんのツイッターを見たら、いろいろ発信してくださっていてうれしいですね♪
    shinさんのこともツイートされていますし、サポーターズ・インフォメーションの写真も載せてくださっていてうれしいです(さわさわ会チラシもチラッと♪)!
    そのほかいろいろ諸々・・・
    チェックせねば~♡
    https://twitter.com/yuuka_tkmts

    そして第一回サイン会、楽しみです!
    寒波襲来の1/25(水)、この日はまだまだお席がありますよ~
    悪天候が予想されますが、それは まあいつものことですし、
    皆さま、足元に注意して、公演鑑賞&サイン会に臨みましょう♪
    (fullmoon)

  2. 1/25(水)19:00
    大寒波の中、4回目の公演に行ってきました!
    本来ならば高校生チームのリピートが予定されていたそうですが、
    この悪天候では足を運べなかったようで残念です。
    とは言え、思ったよりも多くの観客+Noism2メンバーも鑑賞に
    加わり、そこそこの入場者数だったのではないでしょうか。

    そしてもちろん、今日も素晴らしい公演でした!
    どの曲が誰のソロなのか、だんだん覚えて、歌詞の意味も調べて
    わかってきて、別の楽しみ方ができるようになってきましたが、
    でも、ただ見ているだけでも十分魅力的で引き付けられます✨

    金森さん井関さんに続き、「バレエチャンネル」で山田勇気さんと
    メンバーが紹介されましたね!
    しかもソロの順で!
    https://balletchannel.jp/28153
    事前準備派の方は必読ですよ。
    でも紹介は前半部分だけですので、後半もどうぞお楽しみに♪

    そして終演後は、金森さんサイン会♪
    にこやかな笑顔の金森さんにサインしていただきうれしいです♡
    次のサイン会は1/28(土)。
    すでに満席でチケットはありませんが、他の日のチケットや半券があればOKですのでぜひどうぞ!

    明日 1/26(木)はアフタートークがありますよ。
    どうぞお運びください♪
    (fullmoon)

  3. 1/26(木)19:00
    大寒波も少し落ち着いた本日、雪を踏みしめ、5回目の公演に行ってきました!
    ますます冴えわたる舞踊家たちに感嘆!
    はぁ~! 本番を重ねるってすごいことなのですね!

    アフタートークは、1/22(日)の時とは逆に質問少なめで、お二人がたくさん話してくださいました♪
    ネタバレ的なこともありますので、気になる方は読まないでくださいネ。

    Q :最初から井関さんが舞台に立っていることについて。
    金森:緞帳なしでやると決めた時、さてどう始めるかということで
    ああなった。いかに非日常にいざなうかということをいつも考えて
    いる。
    井関:数回やって、やっと慣れてきた感じ。
    最初は雑念でいっぱいだったり、ふらつきそうになったり、数を数えるなどしたこともある。今日は宇宙と交信していた。
    皆さんが話している声は全部聞こえる。
    それに舞台美術の壁の黒い部分に姿が少し映るので、後ろ向きでも全く何も見えないわけではない。
    金森:あの黒い部分は我々は「死の扉」と呼んでいる。
       舞台は霊性のある空間。虚構の世界。
    井関:私の役のあの女性は空間の住人ではないかと思う。
    金森:最後の場面も、あれはお辞儀なのか何なのか。

    井関:毎回見ていてどうですか?
    金森:舞台ってすごい。その人そのものが出る。
       その人の人生観や死生観。
    井関:倒れ方が個性的。倒れ方にもその人が出る。

    そしてお話は、リアルとリアリティー、虚構の世界の中のリアル、
    リアルを超えるリアリティーへと進みます。
    本当のリアリティーとはその瞬間に湧き上がるものとのこと。
    金森さんはメンバーたちが、いつも見ている彼らではなく、それを超えた彼らなので嬉しいというか、感無量なのでしょう。
    それこそが舞台を生き切るということなのでしょう。

    そのほかの質問です。
    Q :井関さんは芸術監督になってから踊り手としての関わり方や意識の変化はあったか?
    井関:舞台に立つ時はまっさらで、集中している。芸術監督のことも他のことも考えられない。
    とは言え、平時の事務的なこと等は全く別物。

    Q :バラは吸盤で付いているのか?(1/22にも同じ質問あり)
    井関:前の方のバラは磁石で、下に薄い鉄板が敷かれている(燕三条製)。床に立てる方は吸盤ではなく両面テープ。
    金森:前の方のバラは生と死の境界線。境界を越えた時はバラが倒れてほしい。磁石だと簡単に倒れる。
    立てていく時は倒れてほしくないので、粘着力のある両面テープにした。
    しかし、たまに倒れるときもある。自分は細かい性格なので、その不確定要素に感動する。

    ・・・等々のお話でした♪

    1/27は休演で、28,29,30日と続きます。
    公演も中盤に差し掛かりました。
    チケットがあるのは2/2、2/3 のみです。
    どうぞお運びください。

    そして、1/22のアフタートークでの質問を受けて、
    使用楽曲に歌手名とピアニストが追加記載されました!
    これで訳詞の検索がグッと容易になりましたよ!
    どうぞご活用くださいね♪
    http://noism.jp/derwanderer/

    そういえば、公演配布プログラムの9と10は順序が入れ替わっています。
    ホームページの記載が正しいです。
    それと、8.狩人、18.トゥーレの王 の杉野さんと太田さんは、今のところ交互に出演しています。

    では皆さま、また会場でお会いしましょう♪
    (fullmoon)

  4. fullmoon さま
    詳細なご報告、どうも有難うございました。
    「10年に一度」とも「警報級」とも言われた寒波・大雪のなかでの2公演、お疲れ様でした。
    非日常(寒波・大雪)が牙をむいて日常に襲いかかった感のあるなか、また別の好ましい非日常(公演)で重ね書きした2日間ですから、この先も長く、印象深いものとなりますね。

    アフタートークの内容もわかり、感謝です。
    そして、やはりあの矩形、「死の扉」なのですね。まさにそのまったく同じ「3文字」を想起しながら見ていたので、ばっちり当たっていて嬉しかったです。

    昨夜はfullmoonさんに倣って、シューベルトの歌曲の日本語訳を検索し、斜め読みして過ごしました。展開される舞踊がまたひとつポリフォニー化されるようで、楽しみ方も刷新されるように思いました。

    今日は金森さんのサイン会もありますし、個人的には、先回からちょっと間をおいての鑑賞でどう見えてくるか、そこが楽しみです。
    (shin)

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