『鬼』新潟公演、一分の隙もない印象のうちに楽日の幕をおろす

2022年7月3日(日)が遂に来てしまう。連日、多くの観客を虜にしてきたNoism×鼓童『鬼』新潟公演の楽日が早くも訪れてしまう。

空を見上げると、この日は雲が多く、暑いとはいえ、幾分かはましな暑さに感じたのですが、それがそのまま、新潟市界隈でのNoism的熱狂が一段落する日のことであってみれば、幾分か以上の寂しさを感じてしまう部分もありました。楽日、開演前の劇場付近、大いに賑わう、その華やかさにはある種の寂寥感が忍び込まざるを得ません。とりあえず新潟では見納めなのです。

場内に足を運んで席に腰掛けてもよい時間にはなっていましたが、出来るだけそれを先送りして、過ぎていってしまう時間を惜しみながら、ホワイエに友人・知人の顔を探しては、言葉を交わしていたときのこと、連れ合いが私に教えてくれたのは、この日も音楽の原田敬子さんがいらしているということ。入口付近で座席表にて自席を確認されている原田さんの姿を見つけ、勇気を振り絞って声掛けをさせていただきました。一昨日も昨日も出来なかったことですが、これが最後の機会ということで、ありったけの勇気を振り絞って…。
Noismサポーターズのブログを書いていることをお伝えしましたら、ご覧になられたことがあるとのご返事に、一層しっかりしたものを書いていかなければならないとの思いが込み上げてきました。
まずは2日間の感動を拙い言葉でお伝えしたのち、失礼なことを口走らないようにしたつもりが、「今回の曲を作曲されているとき、全ての音が聞えているのでしょうか」などと、愚にもつかない不調法なことを訊ねてしまいます。しかし、原田さんは気分を害されたふうもなく、「はい。とりあえずは」のお答えを返してくださいました。当然ですよね、そんなこと。(汗)(でも、私みたいな者の感覚としては、くしゃくしゃにしたクッキングシートで太鼓をこする音とか想像もつかなかったのでして…。)
うなだれかける私に、「音、大きすぎませんか。抑えるようにしているのですが、鼓童の皆さんが叩くと、1.8倍(*)くらいの音になるので」と原田さん。で、「大きすぎたりはしません。逆に途中の静寂が印象的なくらいです」そんなことを言った後に、「全宇宙の音、そんなふうにも感じます」と付け足すと、原田さんは「よく、今鳴っている音に混じって昔の音が聞えてくるようだと言われます」と教えてくださいました。
緊張も手伝ってのくだらない質問の一つひとつに丁寧に応対してくださった原田さんは決して「鬼」などではありませんでした。(笑)
原田さん、どうも有難うございました。この場を借りて御礼申し上げます。物販コーナーで求めたCDでもっと原田さんの音楽を聴かせて頂こうと思います。

私事が長くなってしまいました。スミマセン。ここからはこの日の公演についてですが、ネタバレもできませんし、今書けることの大半は初日中日のブログで書きましたので、ここでは少し違った角度から、初めて書く事柄を極々簡潔にご紹介します。(このブログ、画像にあげた原田さんのCDを聴きながら書いています。)

まずは『お菊の結婚』。Noismを介して知り合った東京の友人、彼女はこの日初めて今公演に足を運んだのですが、バレエに詳しい彼女は、この演目中に、同じくストラヴィンスキー『結婚』の、ニジンスカによるバレエ・リュスへの振付(1923)からの引用が見られたことにもとても感動したそうです。ほぼ100年前のことです。連綿と続く豊かなバレエの歴史が現在に至ることを思うとき、舞踊を観ることの奥の深さを痛感させられます。
この演目、まずは音に操られるようにちょこまか動く圧倒的な人形振りとその結末を、どうぞお楽しみください。

続いて、『鬼』。上に紹介した原田さんとのやりとりがあったことで、私なりに耳にも魂を込めたつもりです。目は勿論です。40分間、そうやって耳と目を凝らして向き合ったのですが、金森さんによって一分の隙もなく構築された作品世界は、一切の夾雑物を含まない、極めて純度の高い演目との印象を受けました、この日も。


鼓童による(カウントの一定性によらない)生演奏と、そうやって繰り出される音と都度、即座に多様な関係性を結ぶことで初めて成立する舞踊。元来が「fragile(脆い)」に過ぎないその属性すら忘れて没頭出来ること自体、人間業とは思えない驚くべき達成と呼ぶべきものでしょう。その演者の「気」を客席で一緒に体感すること。尋常ならざる40分にその身を浸してください。

圧倒的な舞台が終わった、楽日のカーテンコール、舞台上に一列となった演者に対して、いつにも増して数多くの方々がスタンディングオベーションを送っておられました。声を発することが出来ない以上、そうやってしか伝えられない思いがある、ただそういうことに過ぎません。そしてみんなもっと何回も観たかったのです、間違いなく。

りゅーとぴあを後にし、駐車場まで戻ってみますと、いつの間に降ったのか、ボディには雨粒が。公演中の雨がこの日の暑さを幾分か和らげてくれていたようです。
まだまだ暑い夏は始まったばかりですが、新潟市界隈でのNoism的熱狂の季節は終わりました。大きな感動の思い出と共に、寂寥感に耐える日々の始まりです。また来シーズンまで。

新潟を代表する2団体、Noismと鼓童の初共演はやはり物凄いものでした。否、予想以上に物凄いものでした。埼玉、京都、愛知、そして山形でご覧になる皆さま、鼓童も加わったかたちでのNoism的熱狂がリレーされていきます。全身で受け止めて、その身を焦がしてください。火傷を恐れることなしに。

(shin)

*註: 信じ難いことに、原田さんご本人より私信を頂戴し、そのなかで「1.8倍」をめぐるやりとりに関しましても触れて頂いてますので、その部分をこちらにてご紹介致します。
「ちょっと間違えてしまって、鼓童さんは本番になるとやはりエネルギーが更に高まるので、『練習の時の1.5倍』くらいとお伝えするつもりが、1.8倍とお伝えしてしまったのですね、、すみませんでした。流石に1.8倍で打つと皮が破れてしまうかも知れません(笑、、実は本日は上演中にお箏の柱が飛び、とあるダンサーさんの踵に落ちてきたそうです!汗、、)。」(原田さん)
…聞いたときは、「1.8倍!原田さん、刻むなぁ」そう思ったものでしたが、もしかしたら私の聞き間違いの可能性もあります。だとしたらスミマセン。
しかし、それに続く部分に見られるユーモアも魅力たっぷりで、いっぺんでファンになってしまいました。
更に、この日、演目の後半に至り、落下した「物体」がお琴の柱だったとわかり、そちらもなるほどです。
原田さん、諸々有難うございました。m(_ _)m

「『鬼』新潟公演、一分の隙もない印象のうちに楽日の幕をおろす」への4件のフィードバック

  1. shinさま
    楽日ブログ、ありがとうございました!
    原田さんへのお声かけと、その内容についてもありがとうございます。うれしいです♪
    私も原田さんにお話を伺いたいとは思いつつも、なかなか気後れして・・・
    いろいろお話ができたようでよかったですね♪

    さて、『結婚』は解説にもあるように、
    「~ニジンスカ、キリアン、プレルジョカージュ等の20世紀を代表する振付家がこの曲で創作し、さまざまな舞踊団で上演されてきた名作~」とのことですが、shinさんも書かれていたように、
    Noism版『お菊の結婚』は、音楽と動きがピッタリで、まさにこの作品のための楽曲のようです。
    金森さんの天才を感じます。

    そして原田さんの『鬼』!
    楽曲も、演奏も、振付も、舞踊も、全てが全く仰天の仕業です。
    まさに「一分の隙も無い印象」!
    こんなことをしてのけるとは、金森さんはスゴイ!
    そして超人集団もいいところ。
    その恩恵にたっぷりと浸った3日間でした。

    新潟公演は大盛況で無事終了し、ツアーの始まりは埼玉から。
    公演地域の方々はもちろんですが、新潟から追いかけて各地へ行かれる方もいらっしゃると思います(私もです)。
    この物凄い2作品を追いかけて、ますます存分に堪能したいと存じます。
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      コメント有難うございました。
      原田さんへのお声掛け、「鬼」緊張しました。(汗)
      だって、『still / speed / silence』の原田さんですから。
      でも、実際、しょうもないことを訊ねてしまったというのに、逆に気遣いまで見せてくれるそのお人柄に触れて、大いに感動しました。
      あの路線でもっと訊きたいこともあったのですが、「やらかした!」という思いと緊張感とから、頭は真っ白になってしまって、訊きたかったこともすっかり思い浮かばなくなり…。
      そんな訊きたかったこと、例えば、クッキングシートは毎回同じものを使うのか、新しくくしゃくしゃにしているのか、とか。
      そもそも太鼓にクッキングシートのアイディアはどのようにして浮かんだのか、とか。
      クッキングシートまみれですけれど。(笑)
      あと、「ツッツッ」とか「サッ」とかについてなども。
      冷静さは大切だなと、そう実感致しました次第です。

      それにしましても新潟で活動する物凄い2団体がそのもの凄いクオリティの高さを見せつける本公演は、ツアーでまわる先の方々を深く嫉妬せしめること間違いなしです!「新潟」がSNSでトレンド入りしたりもするかもしれませんね。(笑)
      私ももう数回、鑑賞しに、否、体感しに参ります。これからご覧になられる方々、圧倒される準備をして公演日をお待ちください。
      (shin)

  2. shinさま
    原田さんから私信をいただいたとのこと!
    凄いですね!!
    がんばってお声掛けをした甲斐がありましたね♪
    おめでとうございます。
    註釈ありがとうございました!

    「物体」が落下した音は私も聞こえましたが、見えなかったので、何かと思いました。ごく小さなものだろうとは思いましたが何が落ちたのか不思議でした。
    お琴の柱とは納得です!
    そんなことがあるのですね~

    他会場で原田さんとまたお会いできるかもしれませんね。
    その時はクッキングシートや「サッ、スッ」の件をたっぷりおたずねしてくださいね♪
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      どうも有難うございます。
      こんな展開は想定外だったのですが、もしかすると、原田さんには、正確を期して、「1.8倍」を「1.5倍」に訂正しようという趣旨が強かったのかもしれませんけれど、頂いたお便りのなかには身に余る言葉も記されていて、大変に恐縮したような次第です。
      で、すっかり原田さんのファンになってしまい、家では、あの日、会場で買ったCD「F.フラグメンツ」(KKC-5404)をずっとリピートで聴いていて、交互に耳に届く音の強さと静謐の深さとが見慣れた室内の空気を一変してしまうのを楽しんでいます。
      別の会場で、またご挨拶したいですね。
      そのときには少しでもましな内容が話せたらいいのですが、自信はまったくありません。(笑)
      (shin)

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