「聖性」降臨に息を呑む東京芸術劇場『境界』2日目

2021年12月25日(土)、イエス降誕の日とされるこの日の朝、まだ雪が降り出す前の新潟市から新幹線を利用して池袋へ。穏やかな青空を見せる首都圏にいることに安堵しながらも、新潟駅前を撮るライヴカメラの中継で、遠くて近いそこに降雪が始まってはいないか、随時チェックして過ごしていました。

かつて「IWGP(池袋ウエストゲートパーク)」として知られた「GLOBAL RING」に隣接する東京芸術劇場界隈は、ひとつ前の記事にfullmoonさんが聖夜の美しいイルミネーション画像をアップしてくださいましたが、この日も多くの人たちが足を止めて楽しむ光景が見られました。

東京芸術劇場は中に一歩足を踏み入れて、どの方向に目をやってみても、その目を楽しませてくれるお洒落で素敵な施設です。

エスカレーターで上がると、プレイハウスのエントランスがあり、山田うんさんと金森さんが仕掛ける「非日常」との「境界」を画す円柱の間を進んで、期待を胸に入場しました。

17時を少しまわって、緞帳が上がると、山田うんさん×Noism1『Endless Opening』から。怪我も癒えて、前日から復帰していた中尾洸太さんが見られたことにホッとしましたし、その東京公演初日はやや硬かったというメンバーの表情もこの日は柔らかく、全員で生きることを肯定するダンスを、これ以上は想像できないくらいの清らか(浄らか)さを立ち上げつつ踊っていきました。荒くなっていく一方の呼吸もものともせず、笑顔を浮かべ、「俗」を脱ぎ捨て、天上界を思わせる「聖」の高みへふわり飛翔していく9人の姿には見る目に眩しいものがあります。大きな拍手がずっとずっと続くのも不思議はありません。心地よいのです。

休憩時間中のホワイエでは、元Noism1メンバーの鳥羽絢美さん、林田海里さんの姿もお見かけしました。新旧メンバーから常に、そして当たり前のようにして、感動を貰えていることはまさに驚きであり、感謝しかない訳です。そんなことを思いました。

見る度に圧倒されるのが、金森さんによるNoism0『Near Far Here』であり、最初の数秒にして既に抗おうにも抗えない空気感に包まれてしまうのは、この日も変わりありませんでした。どこかにそこはかとなく喪失感や哀しみ、或いは死の影のようなものを宿すのが金森作品の変わらぬ魅力。そうやって惹きつけるだけ惹きつけておいてからの「聖性」の降臨…。まだまだ詳細は書かないでおきますが、日常と非日常の「境界」を越境するだけでなく、更に、そうした私たちの非日常レベルを一瞬にして置き去りにして、その極北とも言うべきイメージで塗り替えてしまう想像力/創造力のもの凄さ。それがこのクリスマス時期、巷に溢れる厳かな神聖さに似たものとして捉えられたとしても無理もないことでしょう。季節の大いなる贈り物として。そしてそれに浸され、降伏する他ない観客の無上の幸福。

この豪華なダブルビルの東京公演も残すところ、あと一日。ふたりの演出振付家の作家性と舞踊家たちの身体性、そしてそれらが相俟って降臨する聖性に蹂躙される幸福はそうそう味わえる類のものではありません。明日の東京芸術劇場•プレイハウス『境界』は東京公演の千穐楽、まさに必見です。

(shin)

「「聖性」降臨に息を呑む東京芸術劇場『境界』2日目」への2件のフィードバック

  1. shinさま
    早速のアップありがとうございました!
    降誕日にふさわしい素晴らしい舞台でしたね✨
    天使のように軽やかで清らかなNoism1と、
    神のような威厳と夢幻の美に満ちたNoism0。
    今日も素晴らしい贈り物をいただきました。

    そして冴えわたるshinさんの文章こそ、「聖性」降臨!

    26日は早くも東京公演楽日。
    一人でも多くの方に観ていただきたいです。
    (fullmoon)

    1. fullmoon さま
      コメント有難うございます。そして、誠に恐縮です。
      Noism1『Endless Opening』、天使!そう、天使ですよね、9人。その簡潔なワードが浮かばずにいました。(汗)
      今作品、穢れのないジョフォアさんの軽やかな天使ぶりに常に心洗われる思いがしていますし、個人的には、何と言っても、最後のシークエンスを先頭で引っ張る中村友美さんのキリリ生命力溢れる目の表情がツボです。
      そして、Noism0『Near Far Here』、「神のような威厳と夢幻の美」、まさにまさに。
      動きを封印するに近いラストはあたかも3人の使徒。目を奪う舞台装置と相俟って、全てを昇華し、浄化する「聖性」の極み。私たちみんなの裡に共通してあるのだろう光景が現出し、そのヴィジョンに私たちも連れ出されていく構成には毎度、息を呑まずにはいられません。融解する「境界」、その恐ろしいまでの美に心は震えるばかりです。
      いよいよ、本日、東京公演3Daysの楽日。是非、お運びください。
      (shin)

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