「舞踊に媒介された人の営為」(サポーター 公演感想)

☆『森優貴/金森穣 Double Bill』

 秒を刻む『クロノスカイロス1』、フーシャピンクの身体が軽やかに横切る。疾走は交錯し、その姿は後方のスクリーンに投影された。映像と鏡合わせのごとく対峙した身体は、躍動感を以て、映像は静止の瞬間の連続体であると思い出させた。高彩度の照明は幾度か全てを塗り替える。と、ふわと羽毛が落ちゆく。俊敏な身体を容した広い平面に高さが忍び込んでいた。降下時間とデジタルで刻まれゆく時間は対照的だ。だが、人が感受する時間の流れも一様ではない。

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『クロノスカイロス1』
Photo : Kishin Shinoyama

 哀切を帯びた歌声が響く『夏の名残のバラ』。スクリーン中の楽屋に女が居り、幕開け、女を追うレンズは男の手にあると知れる。一面の落ち葉は二人の足取りに翻り、ケーブルに曳かれた。女の身体は過去を追想する。街の残照のようなスリット状の光を受け、紅いドレスにドレープが連なる。寂しさを湛えながらも手の平はぱたぱた無邪気に鳴った。つと、地平が立ち上り、我々は傍観者として遠くにデュオを見、やがて客席を向いたレンズは人影を捉えない。女の目に映る光景はただ一つのものだ。

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『夏の名残のバラ』
Photo : Kishin Shinoyama

 黒衣の男は独り円形の明かりの下に在った。『FratresⅡ』、背後に相似形の巨大な影を伴い、男は両手を天に掲げる。深く腰を落とし地に迫る。ときに先んじ、また追随した影は男の生きられなかった側面だろうか。男は沈潜し、葛藤し、今を営む。ひとときの静止には彫像のごとき美しさが宿る。粒立つ光が注がれた。手首を返しては流れを受け続けた男は、静安をまとい歩み去った。

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『Fratres II』
Photo : Kishin Shinoyama

 白い眩惑に人影を見ながら『Farben』の幕が上がる。強い弦の音、天地を違えた机が出来事の緊張感を高めた。群舞に衣擦れを聞き、踊られる情動はそこここで離合集散する。額を外しゆき、桟橋を渡り、翻弄され、差し出した手に花を得た。紫色の花は、個の内奥と呼応していたのかもしれない。『森優貴/金森穣 Double Bill』に、恐るべき凝縮度の人間の営為を見た。

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『Farben』
Photo : Kishin Shinoyama

(のい)

「「舞踊に媒介された人の営為」(サポーター 公演感想)」への2件のフィードバック

  1. のいさま
    詩のようなご感想、素敵です♪
    どうもありがとうございました。
    写真もいいですね!
    (fullmoon)

  2. のい さま
    いつもながらの流麗でいながら、
    「目」に徹した感のある文章に触れ、
    あの日、あの時の舞台で見えたものが
    まざまざ蘇ってくるかのように感じられました。

    毎度のことながら、言葉を選んで書き記したくなる舞台でしたよね。
    そんな気持ちを駆り立てられること、
    それこそ、偉大な芸術のみが成し遂げ得るものでしょう。

    でも、こんな感想を読んでしまっては、またすぐにでも観たいという欲望が沸き起こってくるのを抑えられません。
    困ったものです。
    あっ、違った。どうも有難うございました、でした。(笑)
    (shin)

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