Noism『境界』大千穐楽、土佐の地層に井関佐和子の光源を見た(サポーター 公演感想)

☆『境界』高知公演+同時上演『夏の名残のバラ』(井関佐和子芸術選奨文部科学大臣賞受賞記念)(@高知市文化プラザかるぽーと)

 2022年1月10日(月・祝)高知市文化プラザかるぽーとでのNoism0/Noism1『境界』大千穐楽、そして井関佐和子さんが故郷に錦を飾る『夏の名残のバラ』同時上演に駆け付けた。高知公演を知った時から「駆けつけねば」と思っていたが、「井関佐和子を応援する会 さわさわ会」代表・齋藤正行(新潟・市民映画館シネ・ウインド代表 安吾の会世話人代表)、詩人・鈴木良一さん(安吾の会 世話人副代表、さわさわ会)、Noismサポーターズ・越野泉さんという、過去もNoismを追ってロシア、ルーマニアや日本各地を訪ねた仲間との久方ぶりの旅となった。
 1月8日(土)に高知入りし、様々に珍道中を繰り広げたが、9日(日)の道程は特筆したい。井関佐和子さんのお母様の故郷であり、お兄様が代表を務める漬物店「越知物産」に向かい、おふたりに挨拶。絶品のしば漬などを購入(お土産に芋けんぴをいただき恐縮)。そして、龍河洞へと向かう。坂口安吾が『安吾新日本風土記』三回目の取材で高知を訪れ、「次は綱男(ご子息)を連れてきたい」と語ったという龍河洞(安吾は桐生に帰宅した翌朝に急逝)。そのこの世とは思えぬ絶景の中に、まるで『Near Far Here』の舞台上での井関さんの姿を留めたような鍾乳石を見つけ、絶句する。暗闇の中で「光」を求めるようなあの作品との、奇跡的なシンクロに、息を呑んだ。

越知物産さんにて

龍河洞でシンクロニシティ

 1月10日(月・祝)。完売となった高知公演へ。15時前にかるぽーとへ到着したが、既に長蛇の列(コロナ対策の為、定員の半分の座席とはいえ)。15時半の開場後、二階前列右寄の座席を確保し、開演を待つ(バレエを学んでいると思しき若い方含め、場内は公演への期待が匂い立つようだった)
 16時、『夏の名残のバラ』から開演。井関佐和子という舞踊家の「矜持」を昇華する舞台の一瞬一瞬に吐息を漏らし、山田勇気さん・カメラ・配線・落ち葉との「共演」に唸り。幾度観ても新鮮に涙する作品だが、井関さんの身体の動き、手を打つ音、解放感が炸裂する終盤、いずれも瑞々しく、軽やか。カーテンコールに立った井関さんに、惜しみ無く拍手を送った。

 続くNoism1『Endless Opening』(山田うん演出振付)は、新潟・東京公演を経て、9人のメンバーの動き・音楽・演出が噛み合い、思わず身体がノるほどに仕上がっていた。全メンバーの名前を挙げたいほど、各々の個性・色彩が滲み、9台の台車と共に舞うシークエンスもパシリと決まる。調和された動きではなく、そこから溢れるものを謳う山田演出に応えつつ、やはりその「地力」が、跳躍や腕や爪先の動きに滲み出るNoismメンバー。客席の空気も、舞台とシンクロするように高まってゆく。

 そしてNoism0『Near Far Here』。バロックの名曲に乗って、舞踊・照明・映像・更に演出のケレン味とが、一瞬の隙なく連続する本作。暗闇の中、照明のマジックも相まって、非現実のように舞台に現れる井関さんの一挙手一投足に涙が溢れる。やがて訪れる現世の色彩(客席にも降り注ぐある色彩)、鳴り止まない拍手を経ても訪れないカーテンコール。冴え渡る金森穣演出の揺るぎなさを再確認。

 鈴木良一さんは少年が「すっごく面白かった!」と興奮気味に語る様子を見たという。筆者も、「さわさわ会」会報配付ブースに立ち、バレエを習っていると思しき少女たちに会報を配りつつ「おじさんは新潟から観に来たんだよ」と冗談めかしたが、Noismの自由さ・基礎や先人たちへの敬意に裏打ちされた「型破り」が、若い魂に響く瞬間を見るようで、胸が熱くなった。

 公演後、齋藤代表・鈴木さんと、かるぽーと傍の居酒屋で一献しつつ、Noism高知公演パンフを眺めていたら、金森さん・井関さんの文章が胸に染みて、二人に朗読して聞かせてしまった(内容は下の画像でご覧ください)。走り書きになってしまったが、井関さんを育んだ土佐の地、彼女とNoismを支える新潟。ふたつの土地への万感が込み上げてくる、忘れ難い鑑賞体験となった。

高知公演パンフレットより


久志田渉(さわさわ会役員 安吾の会事務局長 月刊ウインド編集部)

「Noism『境界』大千穐楽、土佐の地層に井関佐和子の光源を見た(サポーター 公演感想)」への3件のフィードバック

  1. 久志田さま
    公演ご感想+高知旅行記、ありがとうございました!
    楽しい高知の旅の最後は、万感胸に迫る大千穐楽公演!!
    新潟、東京、高知と堪能させていただきましたが、これで終わりとは信じられない素晴らしさと勿体なさです。踊りも衣裳も台車も赤い花びらも・・・
    『夏の名残のバラ』のように再演を願っています。

    なお、肩書きが多いですが、久志田さん及び同行の鈴木さんはサポーターズ会員でもありますので念のため♪
    (fullmoon)

  2. 久志田 さま
    羨望を誘うルポ、およびご感想、どうも有難うございました。
    オミクロン株による感染拡大のほんの少し前、まったく「ギリ」のタイミングでの高知行、Noismも皆さんも「持って」ますね。
    井関さんの故郷での「完売」公演、会場の興奮ぶりも想像がつこうというものです。
    それにしましても、『Endless Opening』の9台の台車といい、『夏の名残のバラ』と『Near Far Here』と2回に渡ってステージを埋める夥しい量の「小道具」といい、なかなか大変な公演だった筈で、先ずは、現地のスタッフが、そして勿論、観客も相当ビックリしたことでしょう。
    fullmoonさんが書いておられるように「万感胸に迫る大千穐楽公演」、観たかったところですが、文章からもその場の空気感が感じられて、(羨望の気持ちは否めないものの)嬉しく読ませて頂きました。どうも有難うございました。
    あと、龍河洞画像に『Near Far Here』冒頭の井関さんを幻視するかの体験、もうあの場面にしか見えなくなってしまってます。ナイス画像でした♪
    (shin)

  3. fullmoonさま

    長旅、お疲れさまでした。じんわりと旅の余韻に浸っております。心置きなくNoismを応援に出掛けられる日を待ちつつ

    shihさま

    本当にギリギリのタイミングでの遠征でした。両御大とも高齢となり、万一のことが無いよう神経を尖らせつつ。とはいえ、井関さんを育んだ土佐の風土にどっぷりと浸りました。
    龍河洞、安吾縁で訪ねたのに、まさかあの光景に出逢えるとは。「Near Far Here」は細部まで脳裏にリフレインされる作品ですが、いよいよ忘れ難い一作となりました。

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