【インスタライヴ-14】前回、佐和子さん受賞の裏で…穣さん、謎のブルゾン…諸々もろもろ

2021年5月2日(日)21時から行われたインスタライヴは前回から約2ヶ月振り。前回は佐和子さんの芸術選奨文部科学大臣賞受賞が発表された翌日のライヴでしたが、その裏で、今度は穣さんに纏わる、喜ばしい「大人の事情」を抱えていたとは!

 *穣さん、紫綬褒章受章に関して

  • 「びっくりした。紫綬褒章?あれ、どういうやつだっけ?」みたいな感じ。(穣さん)
  • 前回のインスタライヴ前日17時に佐和子さんの受賞が公表解禁。携帯を手に喜びの穣さん、twitterにあげた直後、課長から一報が入り、佐和子さん後転。そこから約2ヶ月。
  • 今もまだ実感ない。何も状況は変わらないから。嬉しいことは嬉しいんだけど。そのうち、あそこから新しい章が始まったんだなという認識はくるのかなと漠然と思っている。(穣さん)
  • 周りの人が喜んでいる姿がいいなぁと思った。(佐和子さん)
  • 知ってもらうきっかけになることは有難い。(穣さん)
  • 「他言して漏れたら、内定取り消しの可能性もあります」の通達もあり、周りはヒヤヒヤしていた。(穣さん)

 *忙しかったこの2ヶ月

  • 3月、東京バレエへの振付の第1回クリエイション。(10日間):Noism以外への新作振付。緊張感もあったが、斎藤友佳理さんをはじめ、物凄くウエルカムな体制にして貰って嬉しかった。
  • 戻ってきて、Noism1メンバー振付公演(3/27、28):芸術監督の仕事(オーダー決め・時間配分等)を山田勇気さんに任せて、穣さんと佐和子さんは本番だけを見た。「初日、楽しかった。みんながやりたいことを追求したなという感じ」(佐和子さん)(←佐和子さんは基本、褒めないのに。一方、穣さんはけなすこともあるが、褒める。)
  • 春休み:高知への凱旋帰省。高知市長を表敬訪問。温かい歓迎。
  • Noism2定期公演vol.12:10年振りの振付。「大変だった」(ふたり)「みんな頑張った。舞台上で良くなってくれたから、それは嬉しかったけど、まあ、大変だったね。何が大変って、若いから、自分がどれだけ出来るかまだわかってないじゃん。『まだいける!』と声を掛けなければならない、マラソンで併走するしんどさ」(穣さん)「エネルギーが吸い取られる」「でも、食らいついていこうとする気持ちはあったし、3日間でどんどん変わっていくのが観られたし良かった」「俯瞰でカンパニーを見ていたら、Noism1のメンバーたちが教え始めていたし、Noism2のメンバーたちも有難く受け取っていたし、そういう先輩・後輩みたいなのが出来てきた方が良い」(佐和子さん)15分休憩の間、約3分位でリノリウムを白から黒に張り替えたり、照明を手伝ったり、色々な仕事を経験できたのは、Noism1メンバーにとっても良いことだった。「みんなで一緒に何かやるのは楽しい。みんなで『ああだ、こうだ』言いながら、野球とかやりたい。監督じゃなくて」(穣さん)

 *穣さんの「謎の」ブルゾンのこと

  • 宮前義之さんとISSEY MIYAKEのエイポック・エイブルのチームの方々からのお祝いの品、TADANORI YOKOO・ISSEY MIYAKEの “KEY BEAUT.Y.”。 横尾忠則さん好きの穣さんが欲しがっていたもの。めっちゃ派手で、「新潟市で着ている人は多分、俺しかいない」「新潟の原信でこの服を見かけても声を掛けないでください」(笑)(穣さん)
  • 佐和子さんからのプレゼントはエイポック・エイブルのジャケットとパンツ(ユニセックス)。着心地良いし、水洗い可能。(この日、パンツを着用。)

 *再び「紫綬褒章受章」に関して

  • 17年間のNoismの活動が評価された。この国の芸術・文化への寄与。
  • 集団性・集団活動の良さ。
  • 「人は入れ替わるが、17年間、ここ(Noism)を通っていった人が作った。Noismの集団性が残っている」(佐和子さん)「たとえ3ヶ月とかであっても、この子がいたっていうこと、痕跡、残影っていうものが記憶のなかに残っているし、Noismのスタジオ、集団のなかに、無自覚・無意識のレベルで残っていて、新しく来る子はそれ、その気配を感じて、一員になっていく」(穣さん)「それがある意味、歴史なのかもしれない」(佐和子さん)「そうね。だから、時間がかかるんだよね、それは」(穣さん)
  • 「目指してきたものが現実のものになり始めているのが、嬉しい」(穣さん)
  • 「今回頂いたものが何かの始まりになるんだとすれば、それはもうちょっと後なんだろうね」「いつも応援してくださっていて、『もっと認められていいのに』と思っている方たちが自分事のように喜んでくださっているとわかるのが、何より嬉しい」(穣さん)
  • コロナ禍で天皇への拝謁はなし。月末に伝達式はある予定ながら、同伴者不可、平服。

 *身体は筋肉痛、頭のなかも大変なことに…

  • 穣さん、絶賛振付中:①サラダ音楽祭(お披露目できるかどうか未定)、②小林十市さんとのDDD、③春の祭典、④夏の名残のバラ、⑤冬の公演、と頭の中に5つの違う公演のプログラムがある状況は今までにない。
  • 佐和子さんはふたつの作品ながら、似ている身体性のため、ほぼ同化し始めている。
  • 「でも、舞踊に打ち込める環境にあるから、ヒイヒイ言いながらもそれを楽しむしかない」(穣さん)「全然全然、それは。朝、起きれないだけで、楽しいです」(佐和子さん)

 *これから…

  • 「変わらないです、何も。まだまだ戦い続けるし、多分、まだまだいっぱい失敗して、いろんな反省もして、これからもそれは変わらないんじゃないかと思う。何を失敗しても、何か大切なことがあって、自分が信じていることがあって、そこだけは目指し続けていきたいので、引き続き、宜しくおねがいします。頑張りま~す。有難うございま~す」(穣さん)

…と、そんな感じでしたでしょうか。盛り沢山で充実のトーク、是非ともアーカイヴにて全編をご覧下さい。それでは、この場はこのへんで。

(shin)

映像舞踊『BOLERO 2020』改訂版を楽しむ♪

来る6月5日に、新潟・市民映画館シネ・ウインドのスクリーンにて、井関さんのトークイベント付きでかかる予定を知り、そういえば、暫く観てなかったなぁなど思っていると、Noism official から「改訂版」公開などという告知が出されて、「えっ!?」ってなったのも事実。何の話かと言えば、勿論、映像舞踊『BOLERO 2020』のこと。

でも、同時に、「またやられちゃったな」とも思う。金森さんらしさ、或いは「金森イズム」は「紫綬褒章」受章前後でも変わる筈などなく、時間があれば、とことん作品に手を入れ続け、より「届く」ものを模索しようとするので、その都度、虚を突かれて、「またやられちゃったな」になる訳で。それは今回も。そんな「改訂版」。

で、久し振りに観てみました。

池ヶ谷奏さんとタイロン・ロビンソンさんの姿を観て、「ああ、やはり『2020』なのだ、これは。『2020』のメンバーが残してくれた作品なのだ」と懐かしさも込み上げてきたりして見詰めていると、…。

変わっている、12分割画面になる後半が随分。皆さん、ご自分の目(と記憶)でお確かめ頂ければと思いますが、少しだけ。

視線誘導がうまく働き、見やすくなったように思いますし、(私の記憶が確かなら)「えっ、こんなカットあった!?」というものが挿入されていたりしたうえに、その姿勢はラストにも及び、…。

金森さんのこれまでを思い出してみますと、『ロミジュリ(複)』では、度々、映像が差し替えられましたし、『バヤデール』においては何種類かのラストを目にしてきました。

で、この度の「改訂版」、私の場合、昨日からのレンタルですので、視聴期間は5月5日まで。「大型連休」の巣籠もりにはもってこい状態で、「不要不急」を慎みながら、繰り返し観て楽しむことになりますね、コレ。「200円は安過ぎです」ともう一度。皆さまも是非♪

過去の記事も併せてご覧頂けましたら幸いです。

2020/10/9 映像舞踊『BOLERO 2020』公開されました♪
2020/10/26 インスタライブvol.9は映像舞踊ボレロ裏話♪

(shin)

祝!金森さん、紫綬褒章受章♪(速報)

新潟日報紙2021/4/28付け朝刊より

大型連休直前の2021年4月28日(水)、いつものように朝の支度をしていると、acoさんからメールがあり、今年の「春の褒章」における、このビッグニュースを知りました。嬉しいですね、これは。まさに新潟市の誇りにして宝。金森さん、おめでとうございます♪

今回も、内示から発表までの間の、口外できない「大人の事情」期間は相当長いものだったと察せられます。その分、この朝、私たちにとっては嬉しい嬉しい「サプライズ」だった訳ですけれど。

それにしても、井関さんと合わせて、このところの受賞&受章ラッシュ、めでたい、本当にめでたい♪

まずは簡単ですが、速報ということで。

【追記】県内各メディアも報じていますので、ご覧下さい。

*当初、「受賞」と表記していましたが、褒章関連では、「受章」が正しいことから表記を改めました。

(shin)

Noism2『Complex』楽日は「これ、研修生のカンパニーですか?」のクオリティ♪

2021年4月24日(土)、昨日に続いて、ほんの3日しか観ることのできないNoism2定期公演vol.12『Complex~旧作と新作の複合による』の楽日を観てきました。

この日は前日同様の最前列ではありながら、舞台を余すところなく視野に収める事が出来る、少し角度を付けた席から観たかったので、開場の約1時間前から並んで、思った通りの席を確保する事に成功しました。それというのも、若さの迸り、その熱量をダイレクトに受け止めたい思いと、メンバー一人ひとりをキチンと把握したいという気持ちからでした。

前日の公演を心から満喫していたので、この日も、その充実した時間の再現を期待して客席に身を沈めたのでしたが、それはNoism2の9人のメンバーに対して失礼極まりない態度だったと思い知らされることになります。この日、楽日の公演にはもっともっとハードルを上げて臨んだとしても、決して裏切られることのないクオリティを見せつけられたのでした。

公演プログラムより

3年目を迎えた池田穂乃香さん、カナール・ミラン・ハジメさん。2年目は坪田光さんと中村友美さん。そして昨年9月入団の青木愛実さん、兼述育見さん、小林亜優さん、土屋景衣子さん、渡部梨乃さん。みんな素敵で、凄くて、眼福、眼福。

彼(女)らの楽日。前半の30分も、後半の25分も、もうスルスル過ぎ去っていった感が強く、それというのも、9人が一人残らず、自信と確信に満ちた動きを示し、舞台狭しと躍動していたからです。研修生を見守る「保護者」に似た目線のハラハラ感など湧いてくる暇もありませんでした。この日、本当にスルスルと淀みなく過ぎていった舞台上の時間は、前日に体験していた時間とはそのレベルを異にするものだったと言えます。前日からの目を見張るほどの飛躍。若さ、本当に恐るべし。そう実感させられた次第です。

殊に、ラストに置かれた『R.O.O.M.』の「鬼」パートを踊る9人の顔に、揃いも揃って、紛れもない笑顔を観ることのあり得なさと言ったら、それはもう信じられないような光景であり、若い舞踊家がその9つの身体から発散させる「踊る喜び」が、客席に及び、観客と一体化して、感動的な時間が横溢する空間を現出させていたと思います。沸き起こる万雷の拍手とスタンディングオベーションはその証。それにはにかむような笑顔で応じる9人の瑞々しさ。りゅーとぴあ〈劇場〉はえも言われぬ多幸感に包まれていました。

冊子「りゅーとぴあ時間の楽しみ方BOOK」より

上に紹介した画像、りゅーとぴあ発行の冊子「りゅーとぴあ時間の楽しみ方BOOK」の12ページ、Q.16の記載に見られる通り、まさに「研修生だからと侮るなかれ」。圧巻の舞台に完全ノックアウトされてしまったのです。

終演後、ホワイエで友人・知人と言葉を交わそうにも、「凄かったですね」以外に何も浮かんでこず、興奮は一向に冷めやらず、火照った心と体のままに帰路に就くことになった土曜日の夕まぐれでした。

少し時間が経って、これを書いている今、何としても言いたいこと。「たった3回なんて勿体ない。また観たい。もっと観たい。堪らない、これ。大好き」と。正直な気持ちです。9人のこれからが楽しみでなりません、はい。

(shin)

Noism2『Complex』中日、観ているあいだ止まらないワクワク♪

fullmoon さんによるメディア向け公開リハーサルのレポートに掻き立てられた期待感が、更に公演初日の報告によって煽られるかたちで、「早く観たい」との渇望の熱を身中に宿したような塩梅で足を運んだNoism2定期公演vol.12『Complex~旧作と新作の複合による』2日目、2021年4月23日。もう観ているあいだじゅうワクワクが止まらなくって、最高の金曜日の夜を堪能させて貰いました。

今回、金森さんの振付による公演と知ったときから、思っていたことがあり、それを核にレポートしようという構想を持っていたのですが、それがプログラムに織り込まれた金森さんの「演出ノート」と題された紙片にそのまま書かれてしまっているじゃあ~りませんか。(←故チャーリー浜さんにオマージュを捧げつつ、)ガックシ。(涙)

以前、平原慎太郎さんや島地保武さんが招かれて振り付けた際に視認されたメンバー個々の個性の取り込みとも、かつて山田勇気さんが行った「あの年齢」特有の「揺らぎ」の可視化とも異質の創作になるのだろうという予想。まず「作品ありき」で、そこへの献身が求められる厳しさの予感。例えるなら、丈の大きな「大人の服」、それを着こなすことが求められる公演とでも言えるだろうとの思い。そのあたりが金森さんによって「演出ノート」にはっきり書き込まれていたのを目にしたのですから、呆然、悄然としながらも、的外れの捉え方ではなかったことに安堵の気持ちを覚えたり、個人的には、ちょっと複雑だった訳です。

で、目に映じた彼(女)らの「大人の服」への挑戦の程はどうだったかと言えば、その懸命さに「頑張れ、頑張れ」みたいな気持ちで見詰めていると、終始、ミラー・ニューロンが刺激されまくりで、こちらの身体もビートを刻み出す感じになり、もう楽しくて楽しくて、冒頭に書いたようにワクワクが止まらなかったというまとめになります。多くの方が同様だったと見え、終演後には拍手が鳴り止まず、カーテンコールが繰り返されました。

途中、苦しくない訳がない箇所にあってさえ、何人もの目の表情に笑みが認められたことに驚きも覚えましたし、若き舞踊家たちは全員、苦しさを踊る恍惚にその身を浸しているように観ました。当初、応援する気持ちで視線を送っていた筈が、観終える頃には、内面に嗜虐的な快感を覚えるに至っていた訳ですから、立派な舞台だったと言えるかと思います。そして、それはとりもなおさず、彼(女)らの今、この3日間でしか観ることのできない類いの何ものかであり、貴重なライヴとして、若さの眩しい光を発するものだったと言えるでしょう。

で、もともと、ラストにアレが控える妥協も容赦もない「大人の服」の着こなしにはきりなどあろう筈がないことに関してなら、そこは本田圭佑のように「伸びしろですね」と捉えて、精進していけばよいだけのことではないでしょうか。見応えたっぷりの素晴らしい舞台を見せてくれた彼(女)たちに、再び、心からの拍手を送りたいと思います。

この日、最前列で観たNoism2のメンバーたち。3年目となる池田穂乃香さんの気迫溢れる力強い両目が印象的だったのをはじめ、それぞれの顔や身体の特徴も見えてきて、応援したい気持ちも増そうというもの。最終日、更に各人をこの目に焼き付けようと思います。期待しています。皆さん、頑張って下さい。

(shin)

Noism2定期公演『Complex』初日、行ってきました!

春うららの4月22日(木)、Noism2定期公演vol.12『Complex~旧作と新作の複合による』初日に行ってまいりました。会場はりゅーとぴあ〈劇場〉。

大きな舞台に臆することなく、渾身の気迫で のびのびと舞うNoism2メンバーたち。とてもよかったです! あっという間に前後半70分が過ぎていきました。ブラボー!!! 終演後はスタンディングオベーション♪ Noism2メンバーをガッツリ導いた金森さん、浅海さんも登壇し、大拍手! 金森さんの覚悟のほどを見させていただきました。素晴らしい舞台に感謝感激です!

アレコレ書きたいのですが、今日は初日。お楽しみはこれからです。皆さま、若き舞踊家たちの輝きを ぜひ観に来てください。明日、あさっての公演に、どうぞご期待ください! 

★Noismスケジュールに新情報! 公演配布チラシによると、Noismサマースクール(7/7-11)開催、そして、「Noism0+Noism1 山田うん / 金森穣 」 あの山田うんさんがNoism1に新作振付! 金森さんの新作と2本立てで上演とのこと! 新潟公演12/17(金)- 19(日)りゅーとぴあ〈劇場〉、東京公演12/24(金)- 26(日)東京芸術劇場〈プレイハウス〉 これはすごい! ますます楽しみなNoism! 目が離せません!

(fullmoon)

Noism2定期公演vol.12 メディア向け公開リハーサルに行ってきました。

このところ暖かい日が続いていた新潟市ですが、今日は肌寒い小雨模様の一日となりました。そんな4月14日水曜日、Noism2定期公演『Complex』メディア向け公開リハーサルに行ってきました。本公演の会場はNoism2定期としては初の劇場ですが、リハーサル会場はスタジオBです。

スタジオBの指導者席には金森さんと井関さん。金森さんの細かいチェックを井関さんがノートに書き留めます。音出しはNoism2リハーサル監督の浅海さん。『Complex~旧作と新作の複合による』というタイトルなので、レパートリーと新作を別々に踊るのかと思っていたら、そうではなく、まさに複合! レパートリーと新作が交互に、あるいは続けて踊られ、一連の流れの作品となっていました。前後半約30分、休憩を入れて全体で75分とのことです。

今回は前半部分を見せていただいたと思われますが、それは本番のお楽しみ♪ まずは、白い衣裳の『Training Piece』、Noism2メンバーが現れますが、始まりの音楽が違います。それに床に横たわるのではなく立っています。そうか、この導入部分が新作なのかな。その後、本来の『Training Piece』の動きとなりますが、このNoismメソッドを表した基本の動きは簡単そうに見えて実は意外に難しくて苦しい。途中や終わりの方はアレンジされています。10分?ほどで金森監督からまさかのストップがかかります!

「ぬるい!」「このあと苦しくなるから計算して踊っているのか!」「やり直し!」という叱咤で、また最初からです。久しぶりの金森節を聞きましたが、二度目は緊張が解けたのか、メンバーは顔が上気し汗が滲み、動きもスムーズになりエネルギーが感じられます。その後は流れるように新作となる男性ソロに続き『ZONE』の「academic」へ、そして『R.O.O.M.』へと続きますが、作品の合間合間にソロ、デュオ、トリオ、ユニゾンの新作や旧作アレンジが怒涛のように続き繋がり繰り広げられます。あれよあれよという間に予定時間の30分+やり直し分=40分ほどが過ぎていきました。

見応えがありましたが、金森さんの最後の言葉は「ぬるい、弱い、汚い!」。さすが鬼の金森! Noism2の皆さん、これでも以前よりは優しい方ですよ。金森さんの罵声罵倒(=期待激励)を聞けてよかったですね。つらさ苦しさ悔しさをエネルギーに変えてがんばってください!

そして囲み取材は金森さんとNoism2リハーサル監督の浅海侑加さん。金森さんは、「技術的なことは急には上達しない。問題は気持ち。いかにエネルギーを出し続けることができるか。たとえば普段の練習で8、9割の力を出していたとしても、今日のように人前で踊ると緊張もあって5、6割になってしまう。見ている人たちのエネルギーに圧されてしまう。そして疲れてくるとまた難しい。これが本番だとますますどうなってしまうことか。だからいつも10割以上の力で稽古に臨んでほしい。それができるように最後まで引っ張っていきたい」と話されました。

囲み取材
金森さんと浅海さん

レパートリーの演目を選んだのは浅海さんだそうです。浅海さんは「作品の特徴や表現、表情がそれぞれ違うものを選んだ。違う作品だけれども、それが一つの作品となった時に見えてくる流れがあると思う。メンバー個々人のエネルギーを信じている。稽古の時でも本番でも、自分自身を超えていくことを期待している」と話されました。

公演は一週間後。4月22日(木)19:00、23日(金)19:00、24日(土)17:00の3公演で、全自由席。土曜は残席わずか。どうぞ木曜、金曜にお運びください。若き舞踊家たちのエネルギーの炸裂にご期待ください! https://noism.jp/npe/noism2_12/

(fullmoon)
(撮影:aqua)

Noism 1メンバー振付公演を観て(サポーター 公演感想)

☆Noism1メンバー振付公演(2021/3/28@りゅーとぴあ・スタジオB)

6年ぶりというメンバー振付公演、前回は Noism を観始める前だったようなので初めての体験でした。

様々なバックグラウンドを持った現役ダンサーによる、いま一番表現したいことを自分のキャスティングで創り上げる作品。音楽も衣装も。期待が高まります。いつものNoism とはひと味ちがう若々しい作品が観られるな、と思っていたらその通りでした。

2公演観たかったのですが1回だけだったので、今では細かいことは思い出せません。それはそれで良いのだと思います。公演を目指して創られた作品をその時の自分が観たのですから。当然その時から創り手も自分も変わって行きます。

観ている時はとても楽しく、エネルギーを感じました。来て良かったと思いました。全作品それぞれ違って興味深かったです。今の時代を反映して「多様性」が至る所にちりばめられていました。

自分の中でインパクトが強かったのは、スティーヴン•クィルダン作『3.2.1』で月光ソナタ(馬が疾走しているような)で踊られる粗暴とも言える2人のダンス。対照的なポアントかピンヒールを履いてるようなカナールさんの動きの美しさ。まさに適役。

短編ドラマを観ているようだった、中尾洸太作『”うしろの正面”』
「カプグラ症候群」こういう精神疾患があるというのは小説、マンガなどで知っていたが名前を聞くのは初めてだ。疾患と言うが、本当のところは正常なのかもしれないし、そこがコワいところ。
林田海里さん、ダンサー&アクターどちらも兼ね備えていて素晴らしかったです。大好きなヴァリシニコフの次に林田さんです!
突然流れる『The end of the world 』の感傷的で甘いメロディ。思い出したのは『Painted Desert 』で使用された『Mr. lonely 』
なんて事のない美しいロッカバラードの曲たちなのだが、使われ方によっては私は狂気を感じてしまう。多分、D.リンチのアブない映画『Blue Velvet 』で同題の曲が繰り返し流れていたせいだと思う。

創り手の背景が様々なら、受け手のバックグラウンドも多様です。客席の全員がそれぞれ違うことを考え、自分の中に落とし込んでいると思うと世界は限りなく広いと思う。みんな脳内に別々の世界を作り上げて観ているのだ。

林田さんの『Flight from the city 』
彼の表現したい「青さ、未熟さの残る情景」は女性2人によって踊られているが、想像するにこれはたまたまというか、メンバーの中でのキャスティングで鳥羽、西澤さんがイメージに合っていたからだと思う。もしかしたら青年2人のデュオだったかもしれない。
照明スタンドの使い方、特にラストの消えるタイミング、絶妙でした。余韻が漂い、しばらく動けませんでした。

最後に、ジョフォア•ポプラヴスキーさんの存在感。チャーリー•リャン作『The Eclipse 』の中のチャーリーさんとのデュオが印象的でした。そして彼の『On the Surface, there you lie 』はトリにふさわしい重厚感がありました。暴力を振るい続けてエスカレートして止められなくなる者、抵抗もせずされるがままになる者…
いろいろなものが心に入ってきた。

金森さんがプログラム序文に
「劇場専属舞踊団として、新潟から日本を代表する作品、舞踊家のみならず振付家も輩出する事が次のミッションであり新潟の文化的価値観の創出になる…」
というような事を書かれていました。

メンバーの更なる飛躍を期待します。
次の振付公演が楽しみです!

(たーしゃ)

「ランチのNoism」#9:鳥羽絢美さんの巻

メール取材日:2021/3/19(Fri.)

最近、各方面からの注目度が(本来の価値に見合ったものに)アップして、公演やイヴェントのチケットもソールドアウトが続き、益々勢いを増している感のあるNoism Company Niigata。嬉しい限りですね。で、今回お届けする「ランチのNoism」レギュラーヴァージョン、ご登場いただくのは鳥羽絢美さん。先日のNoism1メンバー振付公演では西澤真耶さんとペアを組んだ2作で鮮烈な印象を残しました。そんな、彼女のランチ、目が点になる方も続出したりして…?おっと、先を急ぎ過ぎですね。それではここからごゆっくりどうぞ。

♫ふぁいてぃん・ぴーす・あん・ろけんろぉぉぉ…♪

今日もりゅーとぴあ・スタジオBに舞踊家たちの昼がきた♪「ランチのNoism」!

*まずはランチのお写真から

画像①
ジョフォアさんとチャーリーさん、「ん?」の図

じゃ~ん。…おっと、なんともシュールで、何かの間違いかと思われちゃいそうですね、これ。

では、もう一度、ランチのお写真です。どうぞぉ。ど~ん♪

画像②
ひとり余裕の笑みで鳥羽さん登場の図

はい、こうなるともう、何が何だか、皆さん、え!?って感じなのでは。ランチの紹介の筈なのにって…。

では、早速、鳥羽さんご本人に伺ってみることに致します。

1 今日のランチを簡単に説明してください。

 鳥羽さん「ゆでたまごです! 寒くなるとコーンスープも飲みます! カカオ72%の『チョコレート効果』とコーヒーもかかせません。」

2 誰が作りましたか。or 主にどこで買ってくるのですか。

 鳥羽さん「私がゆでました!(笑) 100均で買った、ゆでたまごの殻がツルンとむけるグッズで、卵に小さい穴をあけてから、12分くらいゆでます」

 *「ん?」…見るからに「ゆでたまご」(←鳥羽さんはひらがな表記です。)ですよね。恐らく、ジョフォアさんとチャーリーさんはその「コロンブス」的状況に「ん?」ってなってるんでしょうけれど、私たちの「ん?」ポイントは他にあって、それは「これだけ?」ってことなんですけれど…。(汗)加えて、以前にご登場いただいた井本さんとは違って、「ハードボイルド」派なのかとか、色々知りたくなりますよね。そこで、鳥羽さんの「ゆでたまご」事情を訊ねてみますと…。

 鳥羽さん「ゆでたまごは毎回一つです。好きなのは半熟なのですが、剥きやすさ重視で硬めに茹でています。因みに村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は読みました」(笑)

 *おっと、虚を突く村上春樹!ワタシも読みましたけれど、その笑顔同様、なんともチャーミングな返答の鳥羽さん!

画像③
鳥羽さんだけますます笑顔♪

 *「食材」がシンプルなだけに、もう訊けること訊いちゃった感じもしますけれど、更に深掘りしてみますね。あの、えっと、塩へのこだわりとかあるんですか。

 鳥羽さん「特にはないです」

 *えっ、そうなんだ。割とあっさりでしたね。(汗)じゃあ、質問の方向を変えて、「チョコレート効果」について詳しく教えて下さい。

 鳥羽さん「箱の『チョコレート効果』を買って、そこから1日3枚ずつ持って来ています。食べるのはランチの時だったり小腹が空いた時だったり様々です。本来は甘いチョコレートが好きなのでカカオが86%や95%のチョコレートは食べません」

 *な~るほど。高カカオのチョコレートは健康にいいのでしょうが、口に入れる度毎に、その見た目から脳が待ち構える「味」がしてこなくて、個人的には、何か裏切られた感じがするんですけど…。「慣れ」の問題ですかね。ハイ、ゆでたまごとチョコレートについてはわかりました。でも、まだ一番知りたい事柄が残ってます。ズバリ訊いちゃいますね、うん。ランチ、あれだけで、お腹は空きませんか。ってか、足りますか。

 鳥羽さん「動いている日は、そんなにお腹空かないのですが、あまり動いていない日は空いてしまうので、チョコやスープ、チーズなど、ちょこちょこ持ってきたものを分散してつまんでいます!コーヒーを飲んだりもします。それでも空いたら自販機へ!」(笑)

 *「チョコをちょこちょこ」ですね♪やることが次々あるときはあまり空腹を感じないで済みますけれど、そうでないときはなかなか我慢しきれないですよね。わかります、わかります。でもでも、オジサンは勝手にちょっと心配だったりもするんですね。だって、毎日、相当激しく動く訳じゃないですか…。(汗)

3 ランチでいつも重視しているのはどんなことですか。

 鳥羽さん「サッと食べられること。それと、お腹いっぱいで眠くなるのと、体が重く感じるのが嫌なので食べ過ぎないことです」

 *ランチタイムもサッと切り上げて、休息に充てているんでしょうね。食べることより休息時間として捉えているって感じですかね。

4 「これだけは外せない」というこだわりの品はありますか。

 鳥羽さん「ゆでたまごとお塩ですね~」

 *やはりそうきましたか!そうでしょうとも、そうでしょうとも。(笑)

5 毎日、ランチで食べるものは大体決まっている方ですか。 それとも毎日変えようと考える方ですか。

 鳥羽さん「決まっています。(食に限らず)一度ハマると同じもの、タイプです」

 *ずっと続いてきた、そしてこの先も続いていく「ゆでたまご生活」、そう理解しました。

6 公演がある時とない時ではランチの内容を変えますか。どう変えますか。

 鳥羽さん「公演中は、ゆでたまごがセブンイレブンで買ったものになります!(笑) それと、サラダチキンや干しいもなど、つまめるものも少し多めに持参します。(私、お腹が空くと機嫌が悪くなるので…(笑))」

 *公演中は、何かと「不自由さ」ってあるでしょうから、不機嫌に陥らないためにも、「保険」をかけて準備しておく必要あるんですよね、きっと。理解できます、それ。

7 いつもどなたと一緒に食べていますか。

 鳥羽さん「林田海里くんが隣にいますね。マヤ(西澤真耶さん)も!」

 *そうすると、上で見た画像は、いつもとは違うメンバーが驚いている場面ってことなんですね、きっと。あと、ランチで食べる量に関してなら、以前にご紹介した林田さんも決して沢山食べているって感じではありませんでしたけれど、それでも、今回の鳥羽さんと比べたら…、ねぇ。

8 主にどんなことを話しながら食べていますか。

 鳥羽さん「昨日Netflixで〇〇みたよ、とか、たあいもない話ですね。一緒にいるのが日常になりすぎて、意識的に何か話す、というよりもいつも隣にいる感覚です」

 *はい、はい。いるだけでホッとする安心感のある関係ってことですね。ところで、「おうち時間」の楽しみ方として最近とみに注目されているNetflix。お薦めとか訊ねてみましたら、「Netflixオリジナルの作品を挙げるとすると『クイーンズ・ギャンビット』、『梨泰院クラス』、『ブリジャートン家』などです!今はAmazon primeの『MR.ROBOT』 も観ています」とのお答えで、訊ねてはみたものの、NetflixもAmazon primeもやってないワタシには、どれもわかりませんでした、はい。(汗)動画配信サービス、利用されている方はどうぞ参考にされてみてください。

9 おかずの交換などしたりすることはありますか。誰とどんなものを交換しますか。

 鳥羽さん「交換というより、みんなが恵んでくれます(笑) 海里くんがミカンくれたり、チャーリーが自分のお弁当のおかずくれたり、ジョフがナッツくれたり…」

 *そういえば、チャーリーさん、チキンスープとか餃子とか分けてあげるって言ってましたものね。愛されキャラですね、鳥羽さん。

10 いつもおいしそうなお弁当を作ってくるのは誰ですか。 料理上手だと思うメンバーすか。

 鳥羽さん「最近、マヤが手作りのおいしそうなおかずを持ってきていて、えらいな~って思っています!」

 コロナ禍で料理始めたって人も多いそうなんですってね。で、西澤さんに関してなら、最近、料理への関心を増しているらしい様子を、県内で販売されている某雑誌で見ました。興味湧いてきますね、西澤さんのランチ。

 …ってな具合で、これはこれで、かなり独特な鳥羽さんのランチ、どうもご馳走様でした。

で、今回も鳥羽さんから「メッセージ」がございます。どうぞお読みください。

■サポーターズの皆様へのメッセージ

「いつもNoismを応援してくださり、劇場に足を運んでくださり、本当にありがとうございます。
公演をすること、踊ることが難しい、今このような状況下で、舞台で踊るということ、皆様に観ていただけることは、本当に幸せで尊いことだと、改めて実感しながら、日々、リハーサルしています。
早く皆様と、近い距離で顔をしっかり見ながら、お会いし、お話したいです!
これからも、応援よろしくお願い致します」

もうじき、『春の祭典』のチケットも発売開始。彼女のダンスも要注目ですね、ってところで、今回の「ランチのNoism」はここまで。次回はどなたが登場するでしょうか。どうぞご期待下さい。今回もお相手はshinでした。

(shin)

Noism0 / Noism1 『Duplex』

稲田奈緒美(舞踊研究・評論)

 コロナ禍により多くの劇場公演が制約を受ける中、感染対策に万全を期して、Noism0 / Noism1公演『Duplex』が開催された。客席は一人置きのため観客数は減ったが、観客が舞台を欲する思いは変らない。会場となった彩の国さいたま芸術劇場の小ホールは客席がすり鉢状に並んでおり、通常は舞台と客席の間を仕切らないオープンな使い方をする。ところが今回は、舞台と客席の間に幕を吊るし、その両側に袖を作って、額縁舞台(プロセニアム舞台)に仕様を変えた。小空間に敢えて作られた額縁舞台を、まるで西洋近代劇の第四の壁から部屋を覗き込むように観客が見つめる中、客席が暗くなり、Noism 1による『Das Zimmer』(振付:森優貴)が始まった。

 うっすらと照らし出される空間に、スーツ姿の男たち。鍵盤楽器のくぐもった音が、朧げな記憶のかなたから聞こえて来るかのように流れている。立ちすくむ男たちの身体から、声にならない感情がにじみ出る。物語が始まることを期待しながら観客が凝視すると、暗転により中断される。薄暗い照明がついて再び男たちが現れるが、再び暗転。途切れ途切れの薄暗がりから徐々に明るくなると、数脚の椅子と男女が姿を現す。男女はまるでチェーホフやイプセンの芝居の登場人物のような、かっちりとした上流階級風のグレーのスーツやスカートを纏っている。やがて舞台奥に横一列に並べられた椅子に、凍るような男と女10人が座り、一人あぶれていた黒いスーツ姿の男が去ると、残された10名によるドラマが動き出す。

 とはいえ、ダンスは演劇のように一貫した物語や登場人物に従う必要はない。むしろセリフ劇とは異なり、誰のものともわからない、言葉にならない感情の切れ端が動きとなり、踊りとなり、次々と変化していく。シーンが変わるたびに椅子の配置が変わり、異なる空間が現れる。その中で、女たちは複数で、あるいは一人でスカートを翻しながら突き進み、佇み、躊躇い、男たちはスーツ姿で走り、怒り、のたうち、踊り続ける。そこにいる男女は親子なのか、兄弟なのか、夫婦なのか、役割が固定しているわけではなく、シーンごとに親密さ、思慕、反目、疑心など様々な関係性が、視線や身振りによって象徴的に、あるいはダイナミックなダンスによって現わされていく。観客はそこに起きては中断される、様々な思い、感情、関係性、ドラマを見つめ、いかようにも解釈しながら、それが積み重なっていく重みを感じていく。

 やがて、くぐもった鍵盤音が徐々に輪郭を現わしてピアノの音に変わると、ショパンのピアノ曲であることが分かってくる。ピアノが次第に音を増してオーケストラが加わると、黒服の男が再び現れる。男女10人が暗転で繋いだドラマの断片に、黒服の男が介入し、歪められた身体で狂言回しのように紛れ込んでいくのだ。

 ラフマニノフの前奏曲「鐘」が重々しく鳴り響き、舞台の空気が一変する。荘厳なる悲劇性が波となって男女を押し集め、密集し、かたまりとなって個別性を失い、舞台から消えていく。残ったのは、黒服の男と女が一人。だが男の身体は、時間の中へ溶けていくかのようにねじ曲がり、薄れていく。それは彼の肉体的な死を意味するのか、記憶の中で彼が消えていくことを意味するのか、解釈は自由だろう。男の姿を見届けて、女は屹然として舞台奥の眩い光の中へと歩んでいく。女は現実の世界に戻るのか、未来へ進むのか、彼女の行く先を決めるのは観客である。

 振り付けた森優貴によれば、作品名の『Das Zimmer』はドイツ語で「部屋」という意味だそうだ。覗き込んだ部屋で、次々と起こっては中断され、完結することなく形を変えていく物語に、観客は感情を揺さぶられ、自らの思いを投影し、あるいは忘れていた記憶が呼び起こされ、吸い寄せられていった。誰かの一つの物語ではなく、誰でもあり誰でもない、無数の物語。多国籍で多様なダンサーたちなればこそ、次々とこの部屋で起こる無数の物語に、色とりどりの意味を加え、さまざまな角度から光を当てることができる。森優貴とNoism1のメンバーが共に作りあげたその部屋は、小空間に閉ざされながら、観客に対して無限大に開かれていた。

『Das Zimmer』
photo by 篠山紀信

 休憩をはさんで第二部は、金森穣の演出・振付、Noism0の出演による『残影の庭~Traces Garden』。これは2021年1月にロームシアター京都開館5周年記念として、上演されたばかりの新作だ。雅楽の演奏団体として伝統を守り、かつ現代の革新に挑んできた伶楽舎と共に創作された。演奏されるのは、武満徹の《秋庭歌一具》。金森にとって雅楽でダンスを振り付けることは初めてであり、持ち前の探求心でその背景に流れる歴史、文化、社会までを掘り下げ、武満徹をそのコンテクストに置き、考えを深めながら創作に挑んだようだ。観客としても、この刺激的な組み合わせに期待しないはずがない。

 舞台の幕が上がると、三方の壁には九つの燈明のような灯がともされ、チラチラと風に揺らいでいる。舞台中央には、雅楽の敷舞台のような正方形が敷かれ、日常の喧騒から離れた静謐な空間が設えられている。そこに三人のダンサー、金森穣、井関佐和子、山田勇気が現れる。三人が身につけているのは、合わせ衿の直垂のような衣装。しかし袖がないため腕は剥き出しになっている。身体のラインを消す衣装から突き出た腕が、肉体の温もりと塊としての密度を保ちながら、滑らかに動くかと思えば、抽象的な舞楽の舞の型も取り入れ、厳かに、優美に動いていく。三人がそれぞれの場を踏み固めるようにユニゾンで踊り、また、前後に重なって千手観音のような形象も見せる。まるで人から、何ものかへ変わるために場と身体を清める儀式のようだ。

 天井から赤い衣装が降りてきて、吊るされた形のまま、井関が頭からスルリと衣装に入り込む。狩衣のような形をしたそれは、しかし柔らかな素材のため、井関の動きに合わせて軽やかに揺れ、裾が翻り、袖が腕に巻き付く。金森、山田とのコンビネーションでは、井関はまるで重力に支配されていないがごとく、軽やかに宙に舞い、空を泳ぐ。雅楽の音に同化するかのような軽やかさを、柔らかな衣装の動きがさらに増幅して見せている。このような無重力のイリュージョンは、ロマンティックバレエのバレリーナたちがトゥシューズを履き、チュチュを着て、青白いガスライトに照らされて暗い森の中に浮かび上がることで現出させたものである。しかし、井関たちは西洋の妖精たちのように天上を目指すのではない。空気や風となって、音と共に空間に溶け込んでいくのだ。これまでのNoism作品では、生きる身体の熱量を空間に刻み、痕跡を残していくような作品が印象に残っている。一方、この作品では雅楽の音が空間に溶け込みながら響きわたるように、身体の物質性は希薄になり、現れては消え、見る人の中に残像のみを残していく。空気の流れ、風を身体によって視覚化し、空間に溶け込むことで身体の存在を止揚しているかのようだ。

 すると、山田が大きな枯れ木を背中に担いで舞台に現れる。先ほどまでとは正反対の、重力にまみれた巨木とそれを運ぶ人。唐突な具体性に驚きながら、物語の始まりを予感する。山田がその木を床に据えると、舞台は昔話や説話の世界に見えてくる。山田は茶色、金森は黒の狩衣を身につけ、3人のダンサーは再び人に戻り、女や男という意味や関係性を纏って物語のワンシーンのように身振り、手ぶりを挟み込みながら踊っていく。しかしそれは、特定の物語ではなく、物語が形作られる前の原型のような、言葉になる前の音と風が渦巻く状態だ。

 そして三人は狩衣を脱ぎ、鎮めの儀式をするかのように意味をそいだ身体で踊る。彼らの呼吸が音に溶け、風に溶け、身体が風そのものになって秋の庭に残っていくように。

『残影の庭~Traces Garden』
photo by 篠山紀信

 振付、構成も音楽も対照的な二作品を見終えて、何か通底するものを感じた。ひとつの形として統合され、塊として完成されていくことへの躊躇い、疑い。私たちが確かさとして感じていたものが、分断され、中断され、希薄になり、記憶という時間へ、呼吸という風へと変わっていく。それは破壊や分断、消滅ではなく、むしろダンスによって描き出す身体が時間と風になることで、連続性を取り戻すかのようだ。この二つの作品には、今という時代が投影されている。

(2021.2.26(金)19:30~/彩の国さいたま劇術劇場・小ホール)

PROFILE  |  いなた なおみ
幼少よりバレエを習い始め、様々なジャンルのダンスを経験する。早稲田大学第一文学部卒業後、社会人を経て、早稲田大学大学院文学研究科修士課程、後期博士課程に進み舞踊史、舞踊理論を研究する。博士(文学)。現在、桜美林大学芸術文化学群演劇・ダンス専修准教授。バレエ、コンテンポラリーダンス、舞踏、コミュニティダンス、アートマネジメントなど理論と実践、芸術文化と社会を結ぶ研究、評論、教育に携わっている。