裏話満載でマジ必聴!今年初のインスタライヴは『Near Far Here』アフタートーク♪(2022/01/30)

前週末に開催告知があり、2022年1月30日(日)の夜20時(当初予定の21時を変更)から、今年初の金森さん+井関さんによるインスタライヴがありました。『境界』公演に関するアフタートークとされた内容は、より正確には『Near Far Here』のアフタートークであり、約1時間にわたり、たっぷりと裏話などを話してくださいました。今回もおふたりのインスタアカウントにアーカイヴが残されていますから、是非ともそちらでお楽しみ頂きたいと思うものですが、こちらでもごくごくかいつまんだご紹介をさせていただこうと思います。

*ペアルックのおふたり、着ているのはゴールドウィンのNEUTRALWORKS「リポーズ」というスウェットの上下。高知公演の折の頂きもので、疲労回復を促すなどのすぐれものとのこと。

*Noism0『Near Far Here』クリエイション: 「何も知りたくないままのスタジオ入り」(井関さん)で、1曲ずつ作りながら進んでいった。

*冒頭の井関さんの「瞬間移動」: 着物の動きも止めて見せるにはギリギリの移動だった。舞台のど真ん中に、見る対象なしで立っている(止まっている)のはキツかったと井関さん。当初のアイディアでは金森さんと勇気さんの予定だったものを白い女性の姿にすることで「シンボライズ」できるからと変更したとのこと。

*フレームが下りてくる場面: 人力で下ろしている。東京公演の初日、勇気さんを見詰めながら繋がりながら動いていた金森さん。顔ギリギリのところにフレームが下りてきて、表情は変えられないが、内心「うううっ」となった。

*白いスクリーンが下りてくる場面: テレビ放送のための収録が行われた日、機械トラブルのため、タイミング通りにスクリーンが下りてこなかった。歩いてくるとき、背後になるため、それに気付かない井関さん。その先に本来いない筈の金森さんの姿を認めて…。最終的に「『おおっ、これは即興(で踊る)か』と思ったけど、下りてきたから…。」(金森さん)で収まるまでのドキドキヒリヒリのトラブル対応を巡るやりとり、この生々しさは、同時に抱腹絶倒でもあり、必聴です。何しろ、「下りてこなかったら、何してたかわかんない」(金森さん)そうですから。

*バッハの流れる「影」の場面: テーブルが出てくる影絵は収録した映像で、同じ速度で動いていると面白みがないということで、倍速で撮って、ゆっくり2分の1倍で再生し、カウントに落とし込んでいる。で、ひとつの動きに10カウントかけることにしたところ、井関さんは「…9、10」を数えるのに難儀し、「12345678せ~の」と数えていた。そこに楽しそうに突っ込む金森さん。

*アクリル板の場面: 体温が伝わらず、ホントに難しかった。体感がない。あれだけくっついていても一緒になれない。たった1枚でも時間差が凄かった。滑り落ちる危険もあり、「毎回、『気を抜くな』と自分に言い聞かせていた。あのシーンに関しては、気持ちよかったことは一日もなかった」(井関さん)

*動く床の上での金森さんのソロ: 人力で引っ張っている。金森さんの重心の移動と負荷のかかり方を理解して引っ張る必要があり、一方、金森さんも上半身でアクセントを入れながらも、下半身はあとからにするなど、両者に繊細さが求められた。

*真っ暗な中、浮き上がった井関さんの映像の場面: 映像収録時、「パフォーマンス」をした瞬間にOKが出たため、そこに音の小さなズレが生じることになり、それに合わせて踊ることはやめたと語った井関さん。それに対して、金森さんは「初めてその映像に向き合って踊る『一期一会』のライヴ感」が重要と。「最終的にはそこに落ち着いたでしょ」(金森さん)「落ち着いた」(井関さん)
「過去の自分とか、自分の起こしたアクションに対して責任をとるのが今の自分。実人生でも、自分が言ったこと、やったこととどう向き合うか。今をどう生きていくかということ」(金森さん)
この場面が本作のなかで一番最初の構想にあった場面だったとのこと。

*フィナーレのカーテンコールについて: 『オンブラ・マイ・フ』で浮かんだイメージ。「ゼッタイやりたい!」その瞬間、やり方、手順も見えた、と金森さん。
「最後の曲はお辞儀だけだから」と言われた井関さんと勇気さんは「?」となったという。
で、その真っ赤なバラの花びらの大地を用意するのに「30秒以内で」とする金森さん。「その時間じゃ無理」と言う舞台監督に、「ゼッタイいける」と金森さん。上手(かみて)側から段ボールに入った花びらを縦一列の6人がかりで撒きながら舞台を一回で通過することで実現。
更に客席にも降る花びらやら照明やらの詳細を含めて、このあたりの演出上のこだわりに関してはこの日のハイライトと言えます。必聴です、ここ!

*質問1: 『Near Far Here』の着想はどこからきたのか?
-金森さん「根底に、コロナ禍で人と人が同じ空間を共有できない痛みがあり、それとは別に、西洋と東洋の文化への興味があった。日本では、江戸時代に禁教令、隠れキリシタン、信仰心や異文化との出会いがあった一方、同じような時代に、西洋では、信仰と密接に繋がった宗教音楽としてのバロックが隆盛していた。遠いけれど同じ時期に別な形をとった信仰。そんな時期にバロック音楽を聴いて感動。好きな音楽、興味があること、全部を頭に入れて『ガラガラポン』、最初からそれがやりたかった」
-井関さん「Noism0だから、お互い挑戦できることが楽しい」
-金森さん「実験ができるから。自分もどういうものができるかわからないドキドキを味わいたい。新しいことに挑戦したいから」

*質問2: 雷音に託した思いは?
-金森さん「演出的に一番初っぱなに印象づけたかったことと、3回くるのは、アレ、『Near Far Here』。ヴァリエイションを調整した(距離を示す)言葉のメタファーとしての雷音」

*質問3: 3人の衣裳が象徴するものは?
-金森さん「(金森さんと勇気さんのは)ひとりの男の人の衣裳を分割。西洋の神父・聖職者・僧侶と日本の侍の袴をガチャッとデザインとして集めてデフォルメした感じ。(井関さんの方は)ひとりの西洋の女性のドレスとその上に羽織、洋の東西の服飾のエッセンスを入れたかった。黒と白はシンプルに陰と陽みたいに分けたかった」

*質問4: 花びらを客席に降らせるアイディアはどこから?
-金森さん「『オンブラ・マイ・フ』、曲自体が語りかけてくるように、今ここにいることの尊さ、かけがえのなさ、共にいることの素晴らしさを表現・共有したかった。舞台は観客がいなくては成立しないもの。客席を巻き込んで初めて『舞台』というかけがえのない場所が出来る。それを全部、愛で包みたい、そういうイメージだった」

*いつか再演したいと金森さん。また、3月6日のテレビ放送に関しては、「映像は切り取っちゃうので、映像としての作品になる。そういうものとして見る楽しみがある」と金森さんが言えば、井関さんは「『寄り』とか超イヤ!」と。

最後、週末に迫ったメンバー振付公演についても「観に来てください」としたところで、この日のインスタライヴは終了しました。

いつも完成度が高いNoism Company Niigata。それもNoism0となると、もう「どーん」とした圧倒的な風格があるので、この日の裏話に聞かれたみたいな内心のドキドキなどまったく想像もしない世界でした。
ですから、はじめは意外な感じもしましたが、それをおふたりが丁寧かつ具体的に話してくださったので、惹き込まれて聞く裡にマジマジとした「体感」を伴いながら、演者の「リアル」を共有することが出来たように思います。圧巻のアフタートークでした。繰り返して楽しみたいと思います。

以上、粗末なまとめで、失礼しました。(汗)

(shin)

「ランチのNoism」#15:庄島さくらさんの巻

メール取材日:2022/1/19(Wed.)

新しい年「寅年」も、はや1月下旬。昨年夏以来の「ご無沙汰」ではありますが、ここに「ランチのNoism」第15回をお送りする運びとなりました。本当にお待たせしました。今回ご登場くださいますのは『境界』ダブルビル公演の『Endless Opening』で華々しくNoismデビューを飾った庄島シスターズの妹さん、庄島さくらさんです。海外はスロバキアのバレエ団で長く活躍されてきたさくらさん。その彼女のお昼ごはんとか、もう興味しかない訳です。ウズウズウズウズ、ってな具合で一刻も早く覗いてみるしかありませんよね。では、いってみましょう!

♫ふぁいてぃん・ぴーす・あん・ろけんろぉぉぉ…♪

稽古に励む舞踊家は腹が減る。りゅーとぴあに昼がきた♪「ランチのNoism」!

*まずはランチのお写真から

おおぉっとぉ、瑞々しさはそのまま美味しさ♪って画像、きましたぁ!

1 今日のランチを簡単に説明してください。

 さくらさん「りゅーとぴあ6階展望ラウンジにある旬菜柳葉亭のサラダです。ランチを持ってこなかった日は、ここで食べる時があります。いろんなお野菜やタンパク質がとれるのでオススメです」

 *なるほど、なるほど。野菜とタンパク質重視のランチなのですね。この日は「柔らかくて美味しいです!」(さくらさん)というサラダチキンとお豆がタンパク質担当、そこに野菜がブロッコリーにカリフラワー、パプリカ、ミニトマト、人参スライス、そして水菜でしょうか。彩りも鮮やかでホントに美味しそう♪
 そして同じセットが画像奥にもありますから、そちらは(庄島)すみれさんのランチとお見受けしました。ですよね、間違いなく。

2 他にはどんなランチになることが多いのですか。

 さくらさん「普段はスーパーで、すぐに食べられる物を買ったり、休みの日にまとめてゆで卵を作って持って行きます」

 *「ランチのNoism」をやってますと、「スーパー」というワードが出てくるときにはかなりの確率で「あそこ」ではないかというお店が浮かんでくるようになりました。皆さんもそうですよね。で、訊いちゃいました。するとやはりそうでした。メンバー代々御用達のイトーヨーカドーさん!受け継がれていってるんですね、生活スタイル。既に「Noism的」と呼んでもよいほどに。(笑)

はいはい、タンパク質重視型ランチって訳ですね。

 *こちらは別の日のランチなのだそうですが、タンパク質は「ランチのNoism」定番のゆで卵と魚肉ソーセージですね。そこに蜜柑と。やはり「タンパク質シフト」のランチですね。
 魚肉ソーセージからちょっと話は逸れますが、このところ、「練り物」系に共通する高タンパク質という要素、とみに注目が増している感じですよね。NHKの個性的でニッチな人気番組『みんなで筋肉体操』の「筋肉指導」で有名になった近畿大学の谷本道哉准教授、彼のイチオシがカニカマだったりします。高タンパクで低脂質、筋肉作りの「最強食材」なんだとか。で、彼、谷本さんは余計な塩分を落とすために水洗いして食べているっていう徹底振りみたいですけれど…。そんなふうに「筋肉」界隈では「練り物」系、侮れないってのがもう常識みたいです。
 あっ、話を魚肉ソーセージに戻しますと、最近、魚肉ソーセージのフィルム、剥きやすい商品が多くなったの知ってます?画像にも「1秒オープン!」ってありますよね。ソーセージがフィルムに一部削られたりしたのなんてもう過去の話。ホントにスルスル気持ちよく剥けるんですよ。先ず、一発、「歯でガブッ!」なんて必要はなくなりました。技術革新の波を感じます。(笑)おっと、ニッチ過ぎる蛇足でしたね、スミマセン。(汗)

3 ランチでいつも重視しているのはどんなことですか。

 さくらさん「重くなりすぎないものを食べます。休みの日は作ってみたかった料理を作ったり、ケーキを焼いたりします」

 *おおおおおっ!これはもう「パティスリーSHOJIMA」的な!ゼッタイ美味しいヤツですね。わかります、わかります。一目見るだけでもうわかっちゃうヤツです。こうなるともう訊くしかないじゃないですか、ケーキ作りのことなんかも。

 -得意なケーキはどんなケーキですか。
 さくらさん「バナナブレットをよく作ります。アレンジもしやすいので、オートミールを使ったりナッツやチョコレートをトッピングしたりします」

 -すみれさんと一緒に作るのですか。役割分担とかあるんですか。
 さくらさん「ひとりで作る時もありますが、すみれと一緒に作る時が多いです。特に役割分担を決めたりはしませんが、1人が分量を計っていたら、もう1人が材料を混ぜたりと自然と役割が決まります」

 *呼吸もぴったりにケーキ作りを進めていく休日のおふたりの絵が浮かんできます、浮かんできます。
 ここでまた、ランチの質問に戻りますね。

4 「これだけは外せない」というこだわりの品はありますか。

 さくらさん「こだわりではないのですが、フルーツをよく持っていきます。元気がでるので」

 *「青いリンゴ」(と言っても、野口五郎さんではありません。古っ!)、王林(と言っても、「ちゃん」付けで呼ばれるアイドルさんではありません。)でしょうかね。私も好きなんですよ、王林。ジューシーで。って私の話はいいか。そう、フルーツ、蜜柑だったり、林檎だったりって訳です。バナナの日もあることでしょうね、Noismメンバーなだけに。おっと、脱線し過ぎですね。スミマセン。
 にしましても、このお写真、さくらさんの力の抜け具合がとてもいい感じです♪きっとすみれさん撮影なんでしょうね。今回のさくらさんの「ランチのNoism」において、随所にその存在感を感じさせるすみれさん。これもNoismなだけに、操り操られの「黒衣」的存在だったりしてとか、戯れにでも考えちゃったりして…。(笑)

5 毎日、食べるものは大体決まっている方ですか。それとも毎日変えようと考える方ですか。

 さくらさん「大体決まっています。休みの日に買い物や調理をするので、一週間同じメニューだったりします」

 *意味合いとしては、舞踊のため、身体に必要なものを摂取するっていうランチなのですね。これまでもそういうメンバー多かったので、私たちの認識も変わりました。理解できます、今は。食事を楽しむって要素は舞踊家のランチに希薄なのだと。

6 公演がある時とない時ではランチの内容を変えますか。どう変えますか。

 さくらさん「あまり変わらないです。その日のコンディションで量などは調節します」

 *こちらに関しましても、舞台に立つときには「変えない」ことが重要なのだという理解に立っています、今は。

7 いつもどなたと一緒にランチタイムを過ごしていますか。

 さくらさん「ランチを一緒にして持ち歩いているので、すみれ(=庄島すみれさん)と一緒に食べています。そこへ、よく星那ちゃん(=井本星那さん)があそびにきてくれたり、通りかかった人とそのまま話しこんだりしています」

 *そういえば、以前に、上に出て来たりゅーとぴあ6F・旬彩柳葉亭で3人一緒で寛いで食事されているところをお見かけしたのを思い出しました。仲の良さが伝わってくる光景だったと記憶しております。
 あと、さくらさんとすみれさんの食の好みなんかはどうなのかなぁと思ってお訊ねしたところ、「食の好みは似ていると思います。ちなみに、ふたりとも嫌いな食べ物はありません」(さくらさん)とのお答えでした。おふたりならそうですよね。なるほど、なるほど。

8 主にどんなことを話していますか。

 さくらさん「他愛もないおしゃべりをしています。新潟のオススメスポットや食べ物の話しをしたり」

 *今度、メンバー皆さんの、皆さんによる「新潟のオススメスポットや食べ物」、教えてください。m(_ _)m
海外や故郷との違いなんかも交えてお願いしたいと思いますね、是非。

9 おかずの交換などしたりすることはありますか。誰とどんなものを交換しますか。

 さくらさん「交換ではないのですが、メンバーが地元のお土産を持ってきてくれたり、ナッツや飴をめぐんでくれます」

 *メンバーの「地元のお土産」ってどんなものなんでしょうかねぇ。で、いくつか教えて貰っちゃいました。

 さくらさん「愛媛出身の侑加ちゃん(=浅海侑加さん)や洸太(=中尾洸太さん)からはダンボールいっぱいの美味しいみかん。星那ちゃんは、私が一度食べて気に入ってしまったフィナンシェを買って帰ってきてくれます。私達は地元福岡のお菓子『博多通りもん』を皆に買って帰りました」

 こちらですね、「博多通りもん」。前に食べたことがありますが、美味しかった記憶が蘇ってきました♪

10 いつも美味しそうなお弁当を作ってくるのは誰ですか。料理上手だと思うメンバーは誰ですか。

 さくらさん「皆それぞれ美味しそうなものを食べています。ランチタイムになると良い香りがしてきます」

 *「ランチブレイク」、やっぱり気持ち的には重要ですものね。でも、それを挟んでも身体的には連続性が求められるのが舞踊家の皆さんなんですよね。そんな感じで、一区切りを入れながらも、キッチリ繋がりを保とうとしている意識が窺えるさくらさんのランチ、どうもご馳走様でした。

さくらさんからもメッセージを頂きましたので、どうぞ。

サポーターズの皆さまへのメッセージ

「いつも温かい応援や、劇場に足を運んでいただきありがとうございます。
私達が日々のトレーニングやリハーサルに専念でき、それを披露できる場があるのは皆様の応援があるからこそだと思っています。
心に残る舞台をお届けできるよう日々精進してまいります」

さくらさん、色々と丁寧にお答え頂き、どうも有難うございました。この先、すみれさんの登場回には、役どころを入れ替えて、「黒衣」としての存在感も楽しみにしております。それでは今回の「ランチのNoism」はこのへんで。お相手は shin でした。ではまた次回をお楽しみに。

(shin)

ほくそ笑む金森さんを想像して膝を打つ、新潟と池袋の『境界』公演(サポーター 公演感想)

☆Noism0 / Noism1『境界』新潟公演・東京公演

 新たなレジデンシャル制度への移行に際して、「芸術監督」の任期が取り沙汰されるなか、先にNoismの活動継続の折に求められていた「Noism以外の舞踊鑑賞」機会の提供と、金森さん自身がかねてから唱えている「劇場文化100年構想」の今後の展開とをリンクさせるかたちで結実したこの度の『境界』公演。それは、私たちの、言ってみれば「平穏」やら「安定」やらを志向しがちなやわな気持ちを大きく揺さ振る、「越境」の意志に満ちた大胆な公演だったと振り返って思う、今。

 先ずは、山田うんさんが招聘されて演出振付を行ったNoism1『Endless Opening』。ボロディンの弦楽四重奏曲第二番、その旋律が伝えてくる軽やかな華やぎと、時折、そこに差し込むある種の切なさが、9人の舞踊家の「個」を魅力的に見せつつも、より大きな調和へと回収するかたちで踊られていくことで、端正なイメージを残す爽やかな作品。主に「生」と「死」を巡る「境界」が主題化されているとみたが、「死」が組み込まれて流れる「生」の時間の在り方を首肯せざるを得ないものとしつつ、それでも踊らずにはいられない、或いは、それ故にこそ抗して踊らんとする舞踊家の意志、または宿痾とも呼ぶべきものが清冽に発散される愛すべき演目だったと言える。

 身体のメカニクス的に「踊れる」舞踊家9人を前にして、楽しくて仕方なくて、「もっともっと」と要求していったのだろう山田さんと、作品が求める笑顔のままに、それに応じ続けた舞踊家9人との創作過程を想像してしまうのも宜なるかなといったところか。踊り終えて、下りた緞帳のその向こう、舞踊家9人の荒々しい息遣いが客席まで届いてきたその演目、それをNoism的なるものと非Noism的なるものの化学反応が結実した果実とみるなら、それはまさしく、当初、両者の間に存した「境界」の双方からの「越境」そのものなのであり、同時に、それは冒頭に挙げた「Noism以外の舞踊鑑賞」機会が提供されたことをも意味しよう点で、金森さんが期待し、思い描いたところが十全に成し遂げられたということにもなろう。その後の20分間の休憩時間を、まるで夢見心地の、ふわふわした気分で過ごしたことが思い返される。

 しかし、休憩という「境界」を挟んで、まったく異質の時空に身を置くが如き体験が待っていようとは、いかに予想していようと、していないも等しいほどであった。

 金森さん演出振付のNoism0『Near Far Here』、先刻までの夢見心地も何処へやら、冒頭、雷鳴に続いて、井関さんの姿が闇に浮かび上がる場面から、力ずくで「越境」してくる途方もない凄みには観る度に圧倒され、捻じ伏せられるより他になかった。

 「バロック」が意味する「歪な真珠」然として、敢えて統一感を放棄したかのような幾つもの部分からなる作品構成には、ただ繰り出されるものを整理する間もなく受け取ることしか許され得ず、いったい今がいつで、ここ(Here)はどこなのかを不分明にしてしまう効果が絶大で、私たちは手もなく、これに続く「越境」の渦中に自らを見出すのみである。

 そうした敢えての不統一のなかにあって、下りてくる「枠(フレーム)」を巡る金森さんと山田勇気さん、或いは、「影(シルエット)」の前景で踊る3人、そして大写しにされた自身の「映像」の前で踊る井関さん、そのいずれもが「二重性」という共通項をもって、見詰める目に迫ってきたことは印象深い。彼は、彼女は誰なのか、その「境界」はどう画されるのかという訳であり、ここで想起したのは、フランスの哲学者ジャック・デリダの「差延(さえん)」という概念であった。「自己同一性」はアプリオリ(先天的・先験的)に自明な「境界」を有してはおらず、他との「差異」に遅れて現われてくる(現前する)ものに過ぎないとするものである。しかし、そうした概念と共に見詰めてしまうのは、「観ることの純粋な驚き」を減じかねない危険性を孕むことでもあり、決して望ましい態度ではないのかもしれないが、よぎってしまった以上、もう仕様がない。それでも充分に刺激的な視覚体験であったうえに、同時に、一種、哲学的な(自分という存在の「境界」を巡る)問題系に放り込まれたことで、嗜虐的な快楽を愉しんだことは記しておきたい。

 そして圧巻はラストの場面。目の前に広がったえも言われぬ光景には、呆然とし、息を呑んだ。もしかしたら、あらゆる人の裡に共通して存在するイメージが可視化されたのではないかと思われるような光景。また、それは「人」という存在にプリインストールされた内なる「宗教心」(それは実際のあれやこれやの宗教に向けてのものではない)のようなものに触れる場面だったという言い方も出来るかもしれない。その怖いような美しさを前にして味わった感覚は、勿論、快感でありながらも、「戦慄した」という表現の方が似つかわしいものという思いは今も拭えない。

 更に、その後も「越境」が追い打ちをかけてくる。舞台のみならず、客席にも紅い花片を降らせることで、両者の「境界」を「越境」したかと思えば、カーテンコールを行わないことで、(正確には、新潟公演の初日に、鳴り止まない大きな拍手に、仕方なく、やや渋面をつくって3人が姿を現した例外があるし、高知公演がどうだったかはこの目で観ていないので語り得ないが、)公演がもつ時間的な「境界」を「越境」してみせた。その鮮やかな手捌きには今回も唸らざるを得なかった。「お見事!」(と、黒沢清『スパイの妻』(2020)で、夫(高橋一生)の計略に嵌まったことに気付いた妻(蒼井優)が叫ぶ場面が脳裏をかすめる。)

 カーテンコールにて自らの感動を熱く演者に伝えることからは、なにがしかの心地よさが得られるものと心得ているが、そうはさせてくれないのが今回の金森さんである。いくら手を叩いても「それ」は行われない。やがて、無機質な「本日の公演はすべて終了しました」のアナウンスが放送装置から耳に達するだろう。それでも「それ」を求めて拍手を止めない観客たち。「非日常」に浸食されたまま放置される「日常」、そんな客席をよそに、舞台袖、或いは、楽屋で、にこやかに「はい、お疲れさん」などと言いながら、その実、ほくそ笑む金森さんを想像してみるのは、思わず膝を打ってしまうくらいにご機嫌なことであった。実際にほくそ笑んでいたかどうかは知り得ようもないが、意図してラストの「越境」を仕掛けた以上、そうであって欲しい、否、そうであるべきだと思っている、今。

(shin)

Noism『境界』大千穐楽、土佐の地層に井関佐和子の光源を見た(サポーター 公演感想)

☆『境界』高知公演+同時上演『夏の名残のバラ』(井関佐和子芸術選奨文部科学大臣賞受賞記念)(@高知市文化プラザかるぽーと)

 2022年1月10日(月・祝)高知市文化プラザかるぽーとでのNoism0/Noism1『境界』大千穐楽、そして井関佐和子さんが故郷に錦を飾る『夏の名残のバラ』同時上演に駆け付けた。高知公演を知った時から「駆けつけねば」と思っていたが、「井関佐和子を応援する会 さわさわ会」代表・齋藤正行(新潟・市民映画館シネ・ウインド代表 安吾の会世話人代表)、詩人・鈴木良一さん(安吾の会 世話人副代表、さわさわ会)、Noismサポーターズ・越野泉さんという、過去もNoismを追ってロシア、ルーマニアや日本各地を訪ねた仲間との久方ぶりの旅となった。
 1月8日(土)に高知入りし、様々に珍道中を繰り広げたが、9日(日)の道程は特筆したい。井関佐和子さんのお母様の故郷であり、お兄様が代表を務める漬物店「越知物産」に向かい、おふたりに挨拶。絶品のしば漬などを購入(お土産に芋けんぴをいただき恐縮)。そして、龍河洞へと向かう。坂口安吾が『安吾新日本風土記』三回目の取材で高知を訪れ、「次は綱男(ご子息)を連れてきたい」と語ったという龍河洞(安吾は桐生に帰宅した翌朝に急逝)。そのこの世とは思えぬ絶景の中に、まるで『Near Far Here』の舞台上での井関さんの姿を留めたような鍾乳石を見つけ、絶句する。暗闇の中で「光」を求めるようなあの作品との、奇跡的なシンクロに、息を呑んだ。

越知物産さんにて

龍河洞でシンクロニシティ

 1月10日(月・祝)。完売となった高知公演へ。15時前にかるぽーとへ到着したが、既に長蛇の列(コロナ対策の為、定員の半分の座席とはいえ)。15時半の開場後、二階前列右寄の座席を確保し、開演を待つ(バレエを学んでいると思しき若い方含め、場内は公演への期待が匂い立つようだった)
 16時、『夏の名残のバラ』から開演。井関佐和子という舞踊家の「矜持」を昇華する舞台の一瞬一瞬に吐息を漏らし、山田勇気さん・カメラ・配線・落ち葉との「共演」に唸り。幾度観ても新鮮に涙する作品だが、井関さんの身体の動き、手を打つ音、解放感が炸裂する終盤、いずれも瑞々しく、軽やか。カーテンコールに立った井関さんに、惜しみ無く拍手を送った。

 続くNoism1『Endless Opening』(山田うん演出振付)は、新潟・東京公演を経て、9人のメンバーの動き・音楽・演出が噛み合い、思わず身体がノるほどに仕上がっていた。全メンバーの名前を挙げたいほど、各々の個性・色彩が滲み、9台の台車と共に舞うシークエンスもパシリと決まる。調和された動きではなく、そこから溢れるものを謳う山田演出に応えつつ、やはりその「地力」が、跳躍や腕や爪先の動きに滲み出るNoismメンバー。客席の空気も、舞台とシンクロするように高まってゆく。

 そしてNoism0『Near Far Here』。バロックの名曲に乗って、舞踊・照明・映像・更に演出のケレン味とが、一瞬の隙なく連続する本作。暗闇の中、照明のマジックも相まって、非現実のように舞台に現れる井関さんの一挙手一投足に涙が溢れる。やがて訪れる現世の色彩(客席にも降り注ぐある色彩)、鳴り止まない拍手を経ても訪れないカーテンコール。冴え渡る金森穣演出の揺るぎなさを再確認。

 鈴木良一さんは少年が「すっごく面白かった!」と興奮気味に語る様子を見たという。筆者も、「さわさわ会」会報配付ブースに立ち、バレエを習っていると思しき少女たちに会報を配りつつ「おじさんは新潟から観に来たんだよ」と冗談めかしたが、Noismの自由さ・基礎や先人たちへの敬意に裏打ちされた「型破り」が、若い魂に響く瞬間を見るようで、胸が熱くなった。

 公演後、齋藤代表・鈴木さんと、かるぽーと傍の居酒屋で一献しつつ、Noism高知公演パンフを眺めていたら、金森さん・井関さんの文章が胸に染みて、二人に朗読して聞かせてしまった(内容は下の画像でご覧ください)。走り書きになってしまったが、井関さんを育んだ土佐の地、彼女とNoismを支える新潟。ふたつの土地への万感が込み上げてくる、忘れ難い鑑賞体験となった。

高知公演パンフレットより


久志田渉(さわさわ会役員 安吾の会事務局長 月刊ウインド編集部)